説明

コンクリート打継ぎ部用グラウト組成物

【課題】超低粘性の高流動性を有し、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの打継面に生じる隙間に注入ホースを通して注入する際に、容易に注入可能であり、ブリーディングが発生することが無く材料分離抵抗性に優れており、自己収縮ひずみが小さく適度な膨張性によってコンクリート部材との一体化を図り、安定した高い強度発現性を有するプレミックス型のコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物を提供する。
【解決手段】セメントを主体とし、かつ早強セメントを15質量%以上含有し、さらに膨張材1.0〜5.0質量%、増粘剤0.01〜0.1質量%、セメント分散剤0.2〜2.0質量%、および発泡剤0.0005〜0.005質量%を含有することを特徴とするプレミックスタイプのコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物、およびそのグラウト材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの打継面に生じる隙間に充填するコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物に関する。詳しくは、先打ちコンクリートの打継ぎ部に予め注入ホースを取り付けておき、後打ちコンクリートが硬化した後にホースを通して打継ぎ部分に注入材を充填し、間隙を隅々まで埋める工法に用いるグラウト材であり、材料分離抵抗性が大きく、材齢28日における圧縮強度が80N/mm2を超えるコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの打継面、殊に、先打ちコンクリートの下に後打ちコンクリートを打継ぎする場合の打継面には往々にして隙間が生ずる。この隙間は、打設における時間差があり、また打ち継ぎ部にはコンクリートの連行空気や施工の不良、誤差により発生するジャンカ等により、その密着化を図ることが困難な場合がある。隙間があると湧水の浸入の原因となるため、先打ちと後打ちの双方のコンクリート層の合端は止水処理を施す必要が生じている。また、隙間は漏水の原因になるだけでなく、構造耐力の低下の原因にもなるため、一般には、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セメント系スラリー等の止水用注入材を注入して埋められる。
【0003】
この種のグラウト材(注入材)は、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートの打ち継ぎ部の密着性を高めるとともに、打ち継ぎ部の水平方向または上下方向のコーナー部に対しても止水材注入用ホースを安定した状態で配設することができるようにしたコンクリート打ち継ぎ部の各種止水工法とともに用いられている。具体的には、先打ちコンクリートの打継ぎ部に予め注入ホースを取り付けておき、後打ちコンクリートが硬化した後にホースを通して打継ぎ部分に注入材を充填し、間隙を隅々まで埋める工法である。これら工法の一例として、例えば逆打ち工法によるコンクリートの打継方法(特許第4212530号)が挙げられる。
【0004】
先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの打継面に生じる隙間に注入ホースを通して打継ぎ部分に注入材を充填するには、注入材の特性として、練り混ぜが容易なこと、低粘性で流動性が良好でありポンプ圧送性や充填性に優れていること、加圧注入による材料分離が生じないこと、可使時間が長いこと、ブリーディングが無いこと、適度の膨張性があること、高強度であること等が要求される。
【0005】
一般的に、低粘性で材料分離抵抗性に強く、高強度を発現させるには、シリカフューム等の活性シリカをセメントに添加することが知られている。しかしながら、シリカフューム等の粉末は微細粒であるため、凝集粒が発生し易い。そのため、練り上げたグラウトやスラリーにシリカフューム等の凝集粒が分散化せずに残存している場合が多い。このため、コンクリート打継ぎ部分の注入に用いられる小間隙注入ホースを通してコンクリート打継ぎ部分に注入材を充填すると、しばしば注入弁や注入ホースを詰まれせる不具合が生じていた。
【0006】
一方で、コンクリート部材としての構造的一体性を阻害することなく、止水性を確保し膨張性を有する水硬性セメント組成物を提供することを目的として、(A)水硬性セメント100重量部に対し、(B)親水性有機溶剤5〜20重量部、(C)非イオン性界面活性剤5〜25重量部、(D)微粒子無機充填材5〜30重量部及び(E)セメント系膨張材1〜15重量部及び/又は無機系膨潤材2〜30重量部を配合してなる膨張性を有する水硬性セメント組成物が知られている(例えば、特許文献1)。しかし、この組成物は圧縮強度が小さく、流動性に劣るため、ホースを通してコンクリート打継ぎ部分に充填することが難しく、コンクリート打継ぎ部用注入材には適さない。
【0007】
また、シリカフュームを用いない水、ポルトランドセメント、珪砂、膨張材、減水剤、発泡剤及び混和材で構成される高強度無収縮グラウト材に用いられる混和材であって、平均粒径が2μm以下であると共に、円形度が0.90以上の球状石灰石微粉末からなる土木一般分野で使用される高強度無収縮グラウト材が知られている(例えば、特許文献2)。これらは、80N/mm2を超える高強度を発現するものの、ホースを通してコンクリート打継ぎ部分に注入材を圧入充填すると、目詰まりを起こして充填不良を生じ、流動性に劣り、施工性を考慮すると好ましくなかった。
【0008】
また、グラウト用混和材として、減水剤にポリカルボン酸塩系減水剤とリグニンスルホン酸塩系減水剤とを特定の割合で併用し、膨張材、無機微粉末、増粘剤及び発泡材を配合したグラウト用混和材或いは当該混和材に、更にセメントと細骨材とを配合したグラウトのセメント組成物が知られている(例えば、特許文献3)。これらは、60N/mm2程度の圧縮強度であり、近年の超高強度化に対応するには強度発現性に乏しい。また、ホースを通してコンクリート打継ぎ部分に加圧注入した場合、ブリーディングが発生し、材料分離抵抗性に劣り、コンクリート部材との一体化を図ることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−48627号公報
【特許文献2】特開2008−239356号公報
【特許文献3】特開2008−189526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来の上記課題を解決したものであり、水と混練したときに超低粘性の高流動性を発現し、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの打継面に生じる隙間に注入ホースを通して打継ぎ部分に注入するときに容易に注入可能であり、ブリーディングが発生することが無く、材料分離抵抗性に優れており、しかも自己収縮ひずみが小さく適度な膨張性によってコンクリート部材との一体化を図り、安定した高い強度発現性を有するプレミックス型のコンクリート打継ぎ部用として好適なグラウト組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、プレミックス型のコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物の特性と各成分の種類および配合量との関係について種々検討したところ、早強セメントおよび膨張材を一定量含有させ、これに一定量の増粘剤とセメント分散剤、発泡剤を組み合せて配合することによって、上記課題を解決したプレミックスタイプのコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物が得られることを見い出した。本発明はこの知見に基づく。
【0012】
本発明は、以下の構成からなるコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物、およびそのグラウト材に関する。
〔1〕セメントを主体とし、かつ早強セメントを15質量%以上含有し、さらに膨張材1.0〜5.0質量%、増粘剤0.01〜0.1質量%、セメント分散剤0.2〜2.0質量%、および発泡剤0.0005〜0.005質量%を含有することを特徴とするプレミックスタイプのコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物。
〔2〕早強セメント20質量%以上、膨張材2.0〜4.5質量%、増粘剤0.02〜0.06質量%、セメント分散剤0.5〜1.5質量%、および発泡剤0.0007〜0.003質量%を含有する請求項1に記載するコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物。
〔3〕上記[1]または上記[2]のグラウト組成物において、さらに消泡剤0.001〜0.08質量%を含有するコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物。
〔4〕上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するグラウト組成物を、水/結合材比30〜45%で練り混ぜたコンクリート打継ぎ部用無収縮グラウト材。
〔5〕JPロート流下時間が6秒以下であって、材齢28日圧縮強度が95N/mm2以上である上記[4]に記載するグラウト材。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプレミックスタイプのコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物を用いれば、特定の水結合比で使用することにより、超低粘性の流動性を発現し、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの打継面に生じる隙間に注入する際に、材料分離やブリーディングが発生することが無く容易に充填できる。また、本発明のグラウト組成物は自己収縮ひずみが小さく適度な膨張発現によって硬化収縮ひび割れを抑制し、安定した高い強度発現性を有しており、またプレミックス型の無収縮グラウト材であるため、常に安定した品質性能を保持し、充填した部材コンクリートの間の一体化を図った構造物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、%は特に示す場合及び単位固有の場合を除き質量%である。
【0015】
本発明のグラウト組成物は、セメントを主体とし、かつ早強セメントを15質量%以上含有し、さらに膨張材1.0〜5.0質量%、増粘剤0.01〜0.1質量%、セメント分散剤0.2〜2.0質量%、および発泡剤0.0005〜0.005質量%を含有することを特徴とするプレミックスタイプのコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物である。
【0016】
本発明のグラウト組成物はセメントを主体とする。好ましくは、セメントを90質量%〜98質量%含有する。セメントのうち早強セメントを15質量%以上含有する。早強セメントの種類は限定されない。一般的には早強ポルトランドセメントが挙げられる。
【0017】
本発明のグラウト組成物における早強セメントの含有量は15%以上である。早強セメントの含有量が15%未満では、特に高温度下においてコンクリート打継ぎ部にグラウトを注入施工したときにブリーディングが発生し、初期強度発現性も低下するので好ましくない。ブリーディングの発生を抑え、超高流動で可使時間を長く確保するには早強セメントの含有量は20〜80%が好ましく、40〜80%がより好ましい。
【0018】
早強セメント以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、モルタルやコンクリートに使用されるセメントや混和材料を添加することができる。このセメントや混和材料としては、例えば、普通、低熱、中庸熱、白色等の各種ポルトランドセメント、エコセメント、並びにこれらポルトランドセメント又はエコセメントにフライアッシュ、高炉スラグ、シリカヒューム等を混合した各種混合セメント、石膏、石粉、粘土鉱物粉末、スラグ粉末、フライアッシュ、シリカフューム、無機質フィラー等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を本発明による効果を阻害しない範囲で使用することができる。
【0019】
本発明のグラウト組成物は膨張材を含有する。膨張材の種類は限定されず、一般的には遊離生石灰を有効成分とする生石灰系膨張材、カルシウムサルホアルミネート等のエトリンガイト生成物質を有効成分とするエトリンガイト系膨張材、遊離生石灰とエトリンガイト生成物質の複合系膨張材が代表的なものとして挙げられる。このうち、生石灰系膨張材は一般に水和反応活性が高く、特にコンクリートの大規模な初期収縮を抑制する効果に優れることが知られている。
【0020】
本発明のグラウト組成物において、膨張材の含有量は1.0〜5.0%であり、2.0〜4.5%が好ましい。膨張材の含有量が1.0%未満では、自己収縮が大きくなり、硬化体に収縮ひび割れ等が発生し耐久性を損ねるので好ましくない。膨張材の含有量が5.0%を超えると、流動性不良、膨張過多による異常膨張や水和熱の上昇による温度ひび割れ等の恐れがあるため好ましくない。
【0021】
本発明のグラウト組成物は増粘剤を含有する。増粘剤の種類は限定されず、セルロース系増粘剤、アクリル系増粘剤、グアーガム系増粘剤などが挙げられる。このうち、セルロース系増粘剤が好ましく、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい例として挙げられる。
【0022】
本発明のグラウト組成物において、増粘剤の含有量は0.01〜0.1%であり、0.02〜0.06%が好ましい。増粘剤の含有量が0.01%未満では、増粘効果に乏しく、材料分離やブリーディングが発生するので好ましくない。増粘剤の含有量が0.1%を超えるとワーカビリティが著しく低下し、良好なフレッシュ性状を維持することが困難であるため好ましくない。
【0023】
本発明のグラウト組成物はセメント分散剤を含有する。セメント分散剤の種類は限定されず、例えば、ポリカルボン酸塩系減水剤、ナフタレンスルホン酸塩系減水剤、メラミンスルホン酸塩系減水剤及びリグニンスルホン酸塩系減水剤が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。減水剤として高性能減水剤又は高性能AE減水剤を用いると、グラウトを超高強度とし易いことから好ましい。また、メラミンスルホン酸塩系減水剤が、セメントの水溶性アルカリの影響を受けにくく、セメントのばらつきに対して一定の流動性を保持し易いことから、品質の安定したプレミックス製品を製造する観点から好ましい。
【0024】
本発明のグラウト組成物において、セメント分散剤の含有量は0.2〜2.0%であり、0.5〜1.5%が好ましい。分散剤の含有量が0.2%未満では、分散剤の効果が乏しく、ワーカビリティが著しく低下するので好ましくない。分散剤の含有量が2.0%を超えると凝結時間が遅延し、かつブリーディングが発生するため好ましくない。
【0025】
本発明のグラウト組成物は発泡剤を含有する。発泡剤の種類は限定されず、具体的には水と混練後に気体を発生する物質であればよい。発泡剤を用いることによって自己収縮を抑制し易くなるとともに、グラウトを無収縮、即ちグラウトの初期膨張率を0%よりも大きくすることができる。この膨張作用によりグラウトの沈下現象を防止し、構造物との一体化を図る。その具体例として、例えば、アルミニウムや亜鉛等の両性金属の粉末や過酸化物質等が挙げられる。なかでも、アルミニウム粉末は効果的に発泡し、膨張作用を発揮することができるので好ましい。
【0026】
本発明のグラウト組成物において、発泡剤の含有量は0.0005〜0.005%であり、0.0007〜0.003%が好ましい。発泡剤の含有量が0.0005%未満では発泡剤の膨張作用が発揮されず、0.005%を超えると、グラウトの初期膨張率が2%を超え、過大膨張となり、寸法安定性の不具合により、構造物との一体化が図れず、かつ強度低下も招くので好ましくない。
【0027】
本発明のグラウト組成物には、消泡剤を微量混和することができる。この消泡剤の混和によって、僅かなグラウト中の気泡を消し、硬化体をより緻密化させることができる。本発明のグラウト組成物において、消泡剤の含有量は0.001〜0.08%が好ましく、さらに0.003〜0.03%がより好ましい。0.001%未満では、消泡剤の効果が発揮されず、0.08%を超えると、表面に気泡が押し上げられ、肌分れ等脆弱部位が発生するため好ましくない。
【0028】
本発明のプレミックスタイプのコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物には、本発明の効果を実質的に失わない範囲でモルタルやコンクリートに使用できる骨材を粉末化した石粉を使用できる。例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、人口骨材などを用いることができる。
【0029】
本発明のコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物は、プレミックス材として使用する。従って、所定量の水を計量し混練するだけですぐに使用できるように、本発明のコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物の配合成分のすべてが予め混合され、粉末状であるプレミックス製品とする。
【0030】
本発明のコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物の配合成分をプレミックス化させる方法は限定されず、V型混合機や可傾式コンクリートミキサ等の重力式ミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー、パドルミキサー等で混合される。また、袋やポリエチレン製容器等の容器に直接、各材料を計り取り投入する方法により、本発明のコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物をプレミックス化することもできる。
【0031】
本発明のプレミックスタイプのコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物を用いて無収縮グラウトを製造するには、水/結合材比30〜45%で練り混ぜるのが好ましい。30%未満の場合、超流動性と可使時間のバランスが取れず、良好なワーカビリティを維持することができず好ましくない。また、45%を超えると、ブリーディングの発生や強度発現性が低下するので好ましくない。
【0032】
本発明における水/結合材比とは、結合材となるセメント、および膨張材または水硬性を有するセメント用混和材(シリカフューム、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末など)の合計質量に対する水の質量である。また、該水の質量は使用するセメント混和剤等に含まれる水をも合わせた質量である。
【0033】
本発明のコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物は、上記水/結合材比で混練した場合JPロート流下時間が6秒以下であり、超低粘性となる。本発明の無収縮グラウトを用いて施工すれば、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの打継面に生じる隙間に注入ホースを通して打継ぎ部分に注入材を施工してもブリーディングが発生することが無く、かつ自己収縮ひずみが小さく、硬化収縮ひび割れを抑制し、安定した高い強度発現性を有する。また、常に安定した品質性能を保持し、部材コンクリートの間の一体化を図った構造物を提供できる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、本発明の範囲は以下の実施例に限定されない。
【0035】
〔実施例1・比較例1〕
使用材料を表1に示す。表1の材料を用い、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、本発明のプレミックスタイプのコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物(本発明品1〜8)を作製した。また、比較参考品として参考品(1〜10)も同時に作製した。作成した各グラウト組成物の配合割合を表2に示す。各グラウト組成物は、グラウトハンドミキサーを用いて90秒間、水と練り混ぜ、グラウト材料を作製した。圧縮強度試験以外の品質試験は何れも20±3℃、湿度80%以上の恒温室内で行った。なお、表2中の配合(%)は微量混和剤である消泡剤と発泡剤を外割り配合とし、合計100%に調整している。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表2の本発明品(1〜8)と参考品(2、5、7、8)のグラウト材料について、流動性およびワーカビリティ(可使時間の確保)を測定し評価した。各評価試験方法を以下に示す。
〔流動性〕土木学会コンクリート標準示方書JSCE F531「PCグラウトの流動性試験方法」によるJP漏斗流下時間の測定値。超高流動(超低粘性)の指標として、練り上がり直後のJP流下時間が6秒以下とした。
〔ワーカビリティ(可使時間の確保)〕作業性は60分後においても流動性を保持し、可使時間を確保する指標として、練り上がりから60分後のJP漏斗流下時間の測定値が8秒未満を○(良好)、8秒以上のものを×(不可)とした。
【0039】
流動性および作業性の試験結果を表3に示す。本発明の実施例は、何れも練り上り直後のJP漏斗流下時間が6秒以下で流動性に優れており、かつ練り上りから60分後のJP漏斗流下時間も8秒以下であって、何れも流動性に優れており、十分な可使時間が確保され、作業性が良好であることが確認された。
【0040】
一方、膨張材を9.0%混和した比較例1-1は、練り上り直後のJP漏斗流下時間が7.7秒であって流動性に劣り、練り上りから60分後までに締まりが認められた。セメント分散剤を0.1%混和した比較例1-2や水結合材比を25%にした比較例1-3、増粘剤を0.15%混和した比較例1-4は、練り上り直後のJP漏斗流下時間が10秒以上であって流動性に劣り、グラウト練り上がり後から60分経過後では、著しく締まりが強く、作業性(可使時間)を確保できないことが確認された。
【0041】
【表3】

【0042】
〔実施例2・比較例2〕
表2の本発明品(1〜8)と参考品(1、4、6、9)のグラウト材料について、材料分離抵抗性試験を実施した。評価試験方法を以下に示す。
〔材料分離抵抗性試験〕本発明のコンクリート内継ぎ部用グラウト組成物は、加圧注入することによりコンクリート内継ぎ部の間隙に注入されるため、材料分離抵抗性試験は低圧注入器シリンダーを用いた簡易型加圧ブリーディング試験により実施した。簡易型加圧ブリーディング試験は、コニシ社製「ボンドシリンダー工法低圧充填器」内に、予め濾紙をセットしておき、充填器内部にグラウト材を充填し、ゴム弾性を利用した加圧により強制的に排出されるグラウト材の加圧ブリーディング水量により、材料の分離抵抗性を検証する試験である。試験サンプル量30mlに対し、グラウト作製後から1時間経過後までに生じた加圧脱水量3g未満を○(良好)、3gを超えるものを×(不可)とした。本試験における加圧値は、0.06MPaとした。
【0043】
材料分離抵抗性試験の結果を表4に示す。本発明の実施例は、何れも加圧脱水量が3g未満と少なく、材料分離抵抗性が高いことが確認された。膨張材を0.8%混和とした比較例2-1は、初期水和がやや劣り、加圧脱水量がやや多い3.2gの発生が認められた。セメント分散剤を2.1%混和した比較例2-2についても、加圧脱水量がやや多い3.8gの発生が認められた。また、水結合比48%にした比較例2-3、および増粘剤を0.01%混和した比較例2-4は、加圧脱水量が4gを超え、材料分離抵抗性が劣ることが認められた。
【0044】
【表4】

【0045】
〔実施例3・比較例3〕
表2の本発明品(1〜8)と参考品(2、3、9)のグラウト材料について、圧縮強度試験を実施した。評価試験方法を以下に示す。
〔圧縮強度〕土木学会基準JSCE−G 531「PCグラウトの圧縮強度試験方法」に準じ、材齢3、7、28日の圧縮強度を測定した
【0046】
圧縮強度試験の結果を表5に示す。本発明の実施例は、材齢3日で50N/mm2以上の強度発現性を示し、材齢28日では、95N/mm2以上の超高強度が確認された。膨張材を9.0%混和した比較例3-1は、過膨張により材齢28日強度は51N/mm2と低い性状が確認された。早強セメント10%混和し、低熱セメントを混和材料とした比較例3-2や発泡剤を0.007%混和した比較例3-3においては、初期強度発現性が低く、材齢28日強度も50N/mm2以下の低い性状が確認された。
【0047】
【表5】

【0048】
〔実施例4・比較例4〕
本発明のコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物について、より好ましいと思われるグラウト組成物(表2の本発明品4、5、6)と、表2の比較参考品(4、10)について、初期膨張率および自己収縮試験を実施した。評価試験方法を以下に示す。
〔初期膨張率試験〕JSCE−F−533「PCグラウトのブリーディング率および膨張率試験方法」に準じて、初期膨張率を測定した。
〔自己収縮試験〕JCI基準JCI−SAS3「コンクリートの自己収縮応力試験方法(案)」に準じて、自己収縮ひずみを測定した。このとき、自己収縮ひずみの起点は始発時間とした。
【0049】
初期膨張率試験および自己収縮試験の結果を表6に示す。本発明の実施例は、初期膨張率が0.4〜0.6%の膨張を示し、自己収縮においても材齢1日で5〜約100μmの膨張を示した。一方、発泡剤0.007%を混和した比較例4-1は、初期膨張率が2.8%と過大膨張を示した。膨張材および発泡剤を混和していない比較例4−2は、初期膨張率は0.3%の収縮を示し、また自己収縮についても材齢1日で659μの大きな収縮が確認された。
【0050】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、超低粘性の高流動で且つ作業時間が十分確保でき、材料分離抵抗性が大きく、圧縮強度80N/mm2を超え且つ硬化時の自己収縮が起こり難くい無収縮グラウト組成物が得られるので、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの打継面に生じる隙間に注入ホースを通して打継ぎ部分に注入材を施工しても容易に注入可能であり、ブリーディングが発生することが無く、かつ自己収縮ひずみが小さく適度な膨張性によって、コンクリート部材との一体化を図り、安定した高い強度発現性を有するプレミックス型のコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを主体とし、かつ早強セメントを15質量%以上含有し、さらに膨張材1.0〜5.0質量%、増粘剤0.01〜0.1質量%、セメント分散剤0.2〜2.0質量%、および発泡剤0.0005〜0.005質量%を含有することを特徴とするプレミックスタイプのコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物。
【請求項2】
早強セメント20質量%以上、膨張材2.0〜4.5質量%、増粘剤0.02〜0.06質量%、セメント分散剤0.5〜1.5質量%、および発泡剤0.0007〜0.003質量%を含有する請求項1に記載するコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載するグラウト組成物において、さらに消泡剤0.001〜0.08質量%を含有するコンクリート打継ぎ部用グラウト組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載するグラウト組成物を、水/結合材比30〜45%で練り混ぜたコンクリート打継ぎ部用無収縮グラウト材。
【請求項5】
JPロート流下時間が6秒以下であって、材齢28日圧縮強度が95N/mm2以上である請求項4に記載するグラウト材。

【公開番号】特開2012−136403(P2012−136403A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290675(P2010−290675)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】