説明

コンクリート柱の加振装置

【課題】点検者の疲労を軽減でき、さらに、より精度の高い振動データを取得することができるコンクリート柱の加振装置を提供する。
【解決手段】コンクリート柱5を打撃して加振させるためのハンマー11と、ハンマー11に付勢力を与える弓形バネ構造からなるクロスボウ部2と、引き金を引くことによってハンマー11を引き寄せて弓形バネ構造に付勢力を蓄え、引き金を引ききることよって弓形バネ構造の付勢力でハンマーを打撃させ、打撃後に引き金が元の位置に戻る銃型構造の本体部と3、板バネ構造を有し、板バネの板体面でコンクリート柱5を挟むように、かつコンクリート柱5の円周面に沿うようにして本体部3に設けられた加振方向固定部4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート柱のひび割れや鉄筋破断などの劣化状態を打撃固有振動解析によって点検診断する技術において、コンクリート柱を加振させる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にコンクリート構造物の表面を打撃し、コンクリート構造物を加振させる装置としてはインパルスハンマーが用いられている。小型のハンマーでコンクリート表面を打撃することによって得られる反発度からコンクリート強度推定値、劣化度合い、表面近傍の剥離・浮きを検知することができる。
【0003】
また、橋梁などの鉄鋼製の構造物に対しては、インパルスハンマー、加速度計、データロガー(アンプ)およびパソコン等を組み合わせたシステムにより剛性が低下している劣化箇所を調べる技術がある。
【0004】
そして、橋梁の橋脚などのコンクリート構造物に対しては、橋梁の高欄から吊り下げた重さ10〜50kgf程度の重錘(一般的には30kgf程度の硬質ゴム製)で橋脚を打撃したり、また、大型の硬質ゴム製ハンマーで打撃したりして、橋脚の振動を加速度計で測定し、パソコンに収録し、得られた固有振動数を標準値(既存の測定データから設定した固有振動数あるいは設計上の固有振動数)と対比することにより、橋脚の健全度を判定する衝撃振動測定技術も一般的に利用されている。
【0005】
一方、コンクリート柱に対しては、折損防止のため、主に目視によるひび割れ発生状況の点検を実施している。更に、点検精度の向上のため、コンクリート柱を打撃し振動を与えることによって得られる固有振動数を解析することで、コンクリート柱の健全度を診断することが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−071748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンクリート柱を加振させるためには、点検者はゴムハンマーを用いて打撃することになるが、打撃固有振動解析を実施するうえで複数回(約30回)の打撃が必要である。そのため、点検者が疲労するという課題がある。また、コンクリート柱の打撃面は曲面であることから、点検者自身によるハンマー打撃の方向や加重が不均一になりやすく、有効な振動データが収録できない場合がある。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、点検者の疲労を軽減でき、さらに、より精度の高い振動データを取得することができるコンクリート柱の加振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のコンクリート柱の加振装置は、コンクリート柱を打撃して加振させるためのハンマーと該ハンマーに付勢力を与える弓形バネ構造からなる加振部と、引き金を引くことによってハンマーを引き寄せて前記弓形バネ構造に付勢力を蓄え、引き金を引ききることよって前記弓形バネ構造の付勢力でハンマーを打撃させ、打撃後に引き金が元の位置に戻る銃型構造の本体部と、板バネ構造を有し、板バネの板体面で前記コンクリート柱を挟むように、かつ前記コンクリート柱の円周面に沿うようにして前記本体部に設けられた円弧状の加振方向固定部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
前記振方向固定部は、先端部に免震材を備えることが好ましい。また、前記加振方向固定部は、前記本体部との接続部において、前記板バネを一部二重構造とし、前記ハンマーの打撃後に、前記本体部の角において、前記本体部の側面から前面へ角を介し、曲面加工した板バネの二重構造部が移動することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンクリート柱を加振させる際に、計測者の疲労を軽減でき、また、打撃の力と方向を安定させることができるため、より精度の高い振動データを取得することができる。また、本発明によれば、弓を引く際に両手を使わなくても良いように工夫されていることから、片手操作での連続打撃が可能となる。そして、打撃の力はゴムハンマーと同等以上であるうえに、片手操作ができる程度まで装置の小型・軽量化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態を係る加振装置の平面図である。
【図2】本発明の実施の形態を係る加振装置の側面図である。
【図3】本発明の実施の形態を係る加振装置のクロスボウ部の構成を示す図である。
【図4】ハンマーの構成を示す図である。
【図5】加振装置の本体部を構成する各構成部材を説明する図である。
【図6】カムギア22と回転ギア26とカムギア27の関係を説明する図である。
【図7】ハンマーと回転ギア19とカムギア22の位置関係を説明する図である。
【図8】引き金を引ききった後に、引き金が元の位置に磁力によって戻る状態を説明する図である。
【図9】図1のA部を拡大して示す図である。
【図10】加振方向固定部の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。本発明の加振装置は、コンクリート柱の打撃固有振動解析に用いられる加振装置である。図1は、本発明の実施の形態を係る加振装置の平面図であり、図2は、加振装置の側面図である。加振装置1は、コンクリート柱5を打撃して加振させるためのハンマー11と、ハンマー11に付勢力を与える弓形バネ構造からなるクロスボウ部2(加振部)と、引き金を引くことによってハンマー11を引き寄せて弓形バネ構造に付勢力を蓄え、引き金を引ききることよって弓形バネ構造の付勢力でハンマーを打撃させ、打撃後に引き金が元の位置に戻る銃型構造の本体部3と、板バネ構造を有し、板バネの板体面でコンクリート柱5を挟むように、かつコンクリート柱5の円周面に沿うようにして本体部3に設けられた加振方向固定部4からなる。
【0014】
加振方向固定部4は、直径が異なるコンクリート柱にも対応できるように板バネ構造を採用しており、また、板バネの板体面でコンクリート柱5を挟むように、かつコンクリート柱5の円周面に沿うようにして本体部3の左右両側に設けられているため、ハンマー11が飛び出す方向を一定に保つことができる。なお、図1では、加振方向固定部4の本体部3への接続部は、簡略化して示されている。板バネで構成された加振方向固定部4の先端部分には振動を吸収するための免震材6が設けられている。この免震材6は、加振方向固定部4がコンクリート柱5の振動を抑制すると、有効な振動データを取得できなくなるので、加振時に、加振方向固定部4がコンクリート柱5の振動を抑制することのないようにするためのものである。
【0015】
図3は、本発明の実施の形態を係る加振装置のクロスボウ部(加振部)の構成を示す図である。クロスボウ部2は、コンクリート柱を加振させるためのハンマー11と、そのハンマー11をコンクリート柱に打撃させるための弓部12からなる。弓部12は、付勢力を蓄えることのできる板バネを用いて弓型に成形されている。
【0016】
図4は、ハンマーの構成を示す図である。コンクリート柱5の表面を打撃するハンマー11の先端部13は、ゴムまたは樹脂で、形状は半球状で成形され、摩耗による取り換えが可能となっている。先端部以外のハンマー本体部14は金属で成形されている。なお、ハンマー11は、ハンマー本体部14の内部に鉄球が組み込まれたショックレスハンマータイプが好ましい。ショックレスハンマーは、打撃時に受ける反発力を軽減するとともに打撃力を増大させることができる。
【0017】
図5は、本発明の実施の形態を係る加振装置の本体部を構成する各構成部材を説明する図である。なお、以下の図において、回転ギアおよびカムギアは、形状を簡略化して示している。加振装置の本体部は、ハンマー11を後方から引っ張るワイヤー17(図5(a))と、ワイヤー17を巻き取る軸18に固定され、軸18と共に回転する回転ギア19(図5(b))と、回転ギア19を回転および解除するカムギア20(図5(c))と、カムギア20を回転させる引き金21(図5(d))と、引き金21を回転させる磁石16(図5(d))を備えている。引き金21は、両先端部に引き金を引くための指掛かり部25を有している。ワイヤー17には、ピアノ線等が用いられる。
【0018】
カムギア20と引き金21は、軸22を介して連動する構造になっており、引き金21で引ける回転ストロークがカムギア20の回転で必要なストロークを生み出す複数ギアまたはギア比構造で構成されている。
【0019】
引き金21は、引く方向(一方向)のみの回転となっており、引き金21を引ききった後は、S極、N極の磁石16の磁力によって回転して、引き金21を引く前の状態(定位置)に戻る構造になっている。
【0020】
また、図6に示すように、カムギア20の軸22には、カムギア20と共に回転する回転ギア26が設けられており、回転ギア26には、カムギア27が噛み合うようになっている。
【0021】
図7は、引き金を引く前と引き金を引ききったときのハンマーと回転ギアとカムギアの位置関係を説明する図である。図7(a)は、引き金21を引く前の状態を示す図である。引き金21を引くと、引き金21を引いている間は、ワイヤー17が軸18に巻き取られ、弓部12の板バネは圧縮される。回転ギア19とカムギア20のギア比を調整することで、引き金21の限られた回転角でハンマー11の牽引ストロークの必要長を得ることができる。図7(b)は、引き金21を引ききった状態を示す図である。引き金21を引ききると、カムギア20のギアが外れ、弓部12の板バネの圧縮が解放され、ハンマー11が前方に移動する。
【0022】
図8は、引き金を引ききった後に、引き金が元の位置に磁力によって戻る状態を説明する図である。図8(a)は、引き金21を引ききった後に、磁石16の磁力により引き金21が回転を始めた状態を示しており、図8(b)は、磁石16の磁力により1/4回転して元の位置(定位置)に戻った状態を示している。磁石16は、磁力に強弱をつけて、引き金21の回転を促進する。
【0023】
図9は、加振方向固定部の本体部への接続部である図1のA部を拡大して示す図である。なお、図9は、本体部3に接続された一方側の加振方向固定部のみを示す。他方側の加振方向固定部は、一方側の加振方向固定部と対称であり、同様であるので説明は省略する。図9(a)は、引き金を引ききる直前の加振方向固定部の状態を示す図であり、図9(b)は、引き金を引ききった直後の加振方向固定部の状態を示す図である。加振方向固定部4は、カムギア20およびカムギア27と連動し、引き金21を引ききると打撃前の状態に戻る。そして、打撃(加振)の衝撃によって、加振方向固定部4は、ハンマー11の先端とコンクリート柱5の表面との離隔を保つ。
【0024】
加振方向固定部4は、本体部3との接続部において、板バネを一部二重構造とし、本体部3の角Bにおいては、本体部3の側面から前面へ角Bを介し、曲面加工した板バネの凸部(二重構造部)Cが移動することで、ハンマー11の先端とコンクリート柱5の表面との離隔が長く保たれるようになっている。このため、加振方向固定部4と本体部3との接続部は、打撃前に所定の離隔が保てるようなスライド可能な構造となっている。
【0025】
図10は、加振方向固定部の動作を説明する図である。加振方向固定部4は、カムギア27のヒンジ24にピアノ線等のワイヤー23によりに連結されている。ヒンジ24は、カムギア27の外周部に360度回転可能に設けられている。図10(a)は、引き金を引き始めるときの状態を示す図である。引き金21を引き始めると、カムギア20と共に回転ギア26が回転し、回転ギア26と噛み合うカムギア27が回転する。カムギア27が回転すると、カムギア27にワイヤー23を介して連結されている加振方向固定部4が引き寄せられ、引き金21を引ききる直前においては、本体部3の角Bにおいて、本体部3の前面から側面へ、曲面加工した板バネの二重構造部(凸部)Cが移動する。図10(b)は、引き金21を引ききる直前の状態を示している。引き金21を引ききってハンマー11を打撃させた後は、図9(b)の状態に戻り、本体部3の角Bにおいて、本体部3の側面から前面へ、凸部Cが移動し、ハンマー11がコンクリート柱5の表面を打撃できるように、所定の離隔を保てるようになる。
【0026】
上述したように、本発明の加振装置は、加振方向固定部が板バネ構造であり、また、板バネの板体面でコンクリート柱を挟むように、かつコンクリート柱の円周面に沿うようにして本体部の左右両側に設けられているため、コンクリート柱の太さによらず、打撃方向を固定することができるので、加振よる安定したデータ取得を実現することができる。
また、本発明の加振装置は、加振方向固定部が、本体部との接続部において、板バネを一部二重構造としており、さらに、ハンマーの先端とコンクリート柱の表面とが所定の離隔を保てるようにしているので、ハンマー打撃時にハンマーがコンクリート柱を二度打ちしないようにすることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 加振装置
2 クロスボウ部
3 本体部
4 加振方向固定部
5 コンクリート柱
6 免震材
11 ハンマー
12 弓部
13 先端部
14 ハンマー本体部
16 磁石
17、23 ワイヤー
18、22 軸
19、26 回転ギア
20、27 カムギア
21 引き金
24 ヒンジ
25 指掛かり部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート柱を打撃して加振させるためのハンマーと該ハンマーに付勢力を与える弓形バネ構造からなる加振部と、
引き金を引くことによってハンマーを引き寄せて前記弓形バネ構造に付勢力を蓄え、引き金を引ききることよって前記弓形バネ構造の付勢力でハンマーを打撃させ、打撃後に引き金が元の位置に戻る銃型構造の本体部と、
板バネ構造を有し、板バネの板体面で前記コンクリート柱を挟むように、かつ前記コンクリート柱の円周面に沿うようにして前記本体部に設けられた円弧状の加振方向固定部と、
を備えることを特徴とするコンクリート柱の加振装置。
【請求項2】
前記振方向固定部は、先端部に免震材を備えることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート柱の加振装置。
【請求項3】
前記加振方向固定部は、前記本体部との接続部において、前記板バネを一部二重構造とし、前記ハンマーの打撃後に、前記本体部の角において、前記本体部の側面から前面へ角を介し、曲面加工した板バネの二重構造部が移動することを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート柱の加振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−172997(P2012−172997A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32236(P2011−32236)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】