説明

コンクリート柱の打撃装置

【課題】打撃者の疲労を軽減でき、精度の高い振動データを取得することができるコンクリート柱の打撃装置を提供する。
【解決手段】探触子5の先端をコンクリート柱14の表面に接触させた状態で、装置本体1をコンクリート柱に押し当てる。探触子5が筺体内へ移動すると、ギア11は、探触子5に設けられたラックギアと噛み合って、探触子5が筺体内へ移動する長さを回転数に変換する。カム型ギア12は、そのギア11に連動して回転し、伸縮ガイド9に設けられたラックギアと噛み合って、伸縮ガイド9を、バネ7を縮ませる方向の長さに変換する。カム型ギア12の形状がカム型となっていることから、カム型ギア12が所定の位置まで回転すると、バネ7の圧縮が解放されて、ハンマー6が、コンクリート柱14の表面を打撃する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート柱のひび割れや鉄筋破断などの劣化状態を打撃固有振動解析によって点検診断する技術において、コンクリート柱を加振させる打撃装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的にコンクリート構造物の表面を打撃し、コンクリート構造物を加振させる装置としてはインパルスハンマーが用いられている。小型のハンマーでコンクリート表面を打撃することによって得られる反発度からコンクリート強度推定値、劣化度合い、表面近傍の剥離・浮きを検知することができる。
【0003】
また、橋梁などの鉄鋼製の構造物に対しては、インパルスハンマー、加速度計、データロガー(アンプ)およびパソコン等を組み合わせたシステムにより剛性が低下している劣化箇所を調べる技術がある。
【0004】
そして、橋梁の橋脚などのコンクリート構造物に対しては、橋梁の高欄から吊り下げた重さ10〜50kgf程度の重錘(一般的には30kgf程度の硬質ゴム製)で橋脚を打撃したり、また、大型の硬質ゴム製ハンマーで打撃したりして、橋脚の振動を加速度計で測定し、パソコンに収録し、得られた固有振動数を標準値(既存の測定データから設定した固有振動数あるいは設計上の固有振動数)と対比することにより、橋脚の健全度を判定する衝撃振動測定技術も一般的に利用されている。
【0005】
一方、コンクリート柱に対しては、折損防止のため、主に目視によるひび割れ発生状況の点検を実施している。更に、点検精度の向上のため、コンクリート柱を打撃し振動を与えることによって得られる固有振動数を解析することで、コンクリート柱の健全度を診断することが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−071748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンクリート柱を加振させるためには、打撃者はゴムハンマーを用いて打撃することになるが、打撃固有振動解析を実施するうえで複数回(数十回)の打撃が必要である。そのため、打撃者が疲労するという課題がある。また、コンクリート柱の打撃面は曲面であることから、打撃者自身によるハンマー打撃の方向や加重が不均一になりやすく、有効な振動データが収録できない場合がある。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、打撃者の疲労を軽減でき、さらに、より精度の高い振動データを取得することができるコンクリート柱の打撃装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のコンクリート柱の打撃装置は、コンクリート柱を打撃するハンマーと、前記ハンマーに付勢力を与えるバネと、を有する打撃装置であって、装置本体から突出した探触子を有し、前記装置本体がコンクリート柱に押し当てられた際に、前記探触子が前記装置本体内部へ移動して前記バネに付勢力を蓄え、前記探触子が所定長移動したときに前記ハンマーが前記バネの付勢力によりコンクリート柱の表面を打撃する、ことを特徴とする。
【0010】
本発明のコンクリート柱の打撃装置は、前記装置本体を地面に対し支持すると共に、伸縮可能な補助ポールを備えることが好ましい。
【0011】
また、本発明のコンクリート柱の打撃装置は、前記装置本体を支持すると共に、打撃者の手の握り方向を変えることのできる補助ハンドルを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、装置本体をコンクリート柱に押し当てるだけでコンクリート柱を打撃することができるため、打撃者の疲労を軽減でき、また、打撃の力と方向を安定させることができるため、より精度の高い振動データを取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の打撃装置の実施の形態を示す全体図である。
【図2】本発明の打撃装置の装置本体の概略機構図である。
【図3】本発明の打撃装置の動作を説明する図である。
【図4】カム型ギアと伸縮ガイドとの連結を説明する図である。
【図5】本発明の打撃装置の動作を説明する図である。
【図6】本発明の打撃装置による打撃操作を説明する図である。
【図7】本発明の打撃装置による打撃操作を説明する図である。
【図8】本発明の打撃装置による打撃操作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の打撃装置の実施の形態を示す全体図である。図1(a)は、打撃装置を斜め前方から見たときの図であり、図1(b)は、打撃装置を斜め後方から見たときの図である。
【0015】
本発明の打撃装置は、装置本体1と、装置本体1を地面に対し支持する補助ポール2からなる。装置本体1の打撃側には、装置本体1とコンクリート柱の表面までの距離を一定に保つ探触子5が設けられており、装置本体1の下面側にはハンドル部3が設けられている。補助ポール2は、打撃するポイントや打撃者の身長にあわせて伸縮可能であり、また、ハンドル部3から脱着可能となっている。また、装置本体1は、打撃側とは反対側に押し当て部4を有する。ハンドル部3と押し当て部4は、打撃時に、一方の手でハンドル部3を握り、他方の手を押し当て部4に添えて、装置本体1をコンクリート柱に押し当てるためのものである。ハンドル部3と押し当て部4は、打撃時の衝撃緩和と、滑り止めのためにゴム製となっている。
【0016】
図2は、本発明の打撃装置の装置本体の概略機構図である。図2(a)は、装置本体を打撃側(ハンマー側)から見たときの概略機構図であり、図2(b)は、装置本体を上面側から見たときの概略機構図である。装置本体1は、コンクリート柱の表面を打撃するハンマー6と、ハンマー6の先端部に結束され、ハンマー6に付勢力を与えるバネ7と、ハンマー6を収容し、ハンマー6の先端部と結束されていない側のバネ7の端部と結束されている筺体8と、筺体8とコンクリート柱の表面の距離を測る探触子5と、ハンマー6の先端部と結束され、同様にハンマー6の先端部に結束されているバネ7の伸縮を図る伸縮ガイド9と、探触子5と伸縮ガイド9を連動させるギア部10で形成されている。なお、ギア部10は、理解を容易にするために、図の横方向から見たときの状態を示しており、また、簡略化して示している。
【0017】
コンクリート柱の表面を打撃するハンマー6の先端部は、形状が半球状であってゴムまたは樹脂で成形され、摩耗による取り換えが可能となっている。先端部以外は金属で成形されている。なお、内部は、ショックレスハンマーと同様、鉄球が組み込まれており、打撃時に打撃者が受ける反発力の軽減と打撃力が増大する構造になっていることが好ましい。
【0018】
探触子5は、図2に示すように一部が筺体8の外に突出しており、その突出している長さ(ストローク長)は、点検対象のコンクリート柱径(柱径は、コンクリート柱の種別により異なる)により微調整ができるように、また、その長さを常に一定に保つことができるように、一方の端部(筐体外に突出していない側の端部)がバネ付のくさび構造になっている。また、その一方の端部には、打撃後に、探触子5を元の位置に戻すためのバネ13が設けられている。
【0019】
ギア部10は、両方向に回転するギア11と、一方向のみにしか回転しない構造(トルクレンチと同様の構造)のカム型ギア12で形成されている。図3(a)に示すように、探触子5の先端をコンクリート柱14に接触させた状態で、装置本体1をコンクリート柱14に押し当てることによって、装置本体1がコンクリート柱14の表面に近づくと、ギア11は、探触子5に設けられたラックギア(直線状ギア)(図示せず)と噛み合って、探触子5が装置筺体内へ移動する長さを回転数に変換する。カム型ギア12は、そのギア11に連動して回転し、伸縮ガイド9に設けられたラックギア(直線状ギア)(図示せず)と噛み合って、図3(b)に示すように、伸縮ガイド9を、バネ7を縮ませる方向(バネ7に付勢力を蓄える方向)の長さに変換する。なお、図3および以下の図5では、図面の煩雑化を避けるために、ハンマー6およびバネ7と、装置本体1の片側のみを示す。
【0020】
カム型ギア12は、図4に示すように、形状がカム型となっていることから所定の回転位置まで約一回転すると、伸縮ガイド9に設けられたラックギア(直線状ギア)との連結が解放される構造になっている。なお、それぞれのギアは、共にそれぞれが連動する上で、ギア比を変換できるように複数のギアを付属することができる構造になっており、ギア比の調整においては、探触子5が移動する長さと伸縮ガイド9の移動する長さ、つまり、バネ7が縮む長さとの調整によって、筺体8がコンクリート柱14の表面に接触する前までにハンマー打撃を実施する筺体8とコンクリート柱14の表面との間隔と、ハンマー打撃の衝撃力、つまり、バネ7の付勢力(反力)の大きさを調整することができる構造になっている。
【0021】
図5(a)は、カム型ギア12と伸縮ガイド9に設けられたラックギア(直線状ギア)との連結が外れて、バネ圧縮が解放された直後の状態を示しており、図5(b)は、バネ7の圧縮が解放されて、ハンマー6が、コンクリート柱14の表面を打撃したときの状態を示している。打撃後に、探触子5は、バネ13の力で元の位置に戻る。
【0022】
図6は、本発明の打撃装置による打撃操作を説明する図である。打撃者は、一方の手でハンドル部3を握り、他方の手を押し当て部4に添えて、探触子5の先端をコンクリート柱14の表面に接触させた状態から、装置本体1をコンクリート柱に押し当てる。探触子5が装置筺体内へ移動すると、ギア11と連動してカム型ギア12が回転し、カム型ギア12が所定の位置まで回転すると、バネ7の圧縮が解放されて、ハンマー6が、コンクリート柱14の表面を打撃することになる。図6(a)は、装置本体1をコンクリート柱14に押し当てているときの状態を示しており、図6(b)は、打撃後の状態を示している。
【0023】
ハンマーの打撃力を強くする場合は、バネ力を強く設定する以外に、ハンマーの大きさを大きくし、ハンマーの重量を重くする。ハンマーの大きさを大きくし、重量を重くする場合には、装置本体の体積、重量が大きくなる。この場合、図7に示すように、ハンドル部3に補助ポール2を付けて、補助ポール2と地面との接点で重力を持たせ、コンクリート柱14の表面の打撃点がずれないように、打撃者の足で補助ポール2を固定することで、打撃者の疲労軽減および加振精度の劣化を防止することができる。
【0024】
更に、打撃点が打撃者の頭部より高い位置にある場合は、筐体8を支持するための補助ハンドル16を、結束ベルト15でハンドル部3に取り付けて、打撃者の手の握り方向を、図8に示すように変えることで、打撃者の体勢を、打撃装置を操作しやすい体勢にすることができる。
【0025】
上述したように、本発明の加振装置は、装置本体をコンクリート柱に押し当てるだけでコンクリート柱を打撃することができるため、打撃者の疲労を軽減でき、また、打撃の力と方向を安定させることができるため、より精度の高い振動データを取得することができる。また、本発明によれば、打撃力の調整をバネ力やハンマーの重量などで実施でき、片手操作ができる程度まで装置の小型・軽量化が可能となる。
【符号の説明】
【0026】
1 装置本体
2 補助ポール
3 ハンドル部
4 押し当て部
5 探触子
6 ハンマー
7、13 バネ
8 筺体
9 伸縮ガイド
10 ギア部
11 ギア
12 カム型ギア
14 コンクリート柱
15 結束ベルト
16 補助ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート柱を打撃するハンマーと、前記ハンマーに付勢力を与えるバネと、を有する打撃装置であって、
装置本体から突出した探触子を有し、
前記装置本体がコンクリート柱に押し当てられた際に、前記探触子が前記装置本体内部へ移動して前記バネに付勢力を蓄え、前記探触子が所定長移動したときに前記ハンマーが前記バネの付勢力によりコンクリート柱の表面を打撃する、ことを特徴とするコンクリート柱の打撃装置。
【請求項2】
前記装置本体を地面に対し支持すると共に、伸縮可能な補助ポールを備えることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート柱の打撃装置。
【請求項3】
前記装置本体を支持すると共に、打撃者の手の握り方向を変えることのできる補助ハンドルを備えることを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート柱の打撃装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate