説明

コンクリート構築物の補強補修材

【課題】本発明は繊維強化ポリマーセメントモルタルで修復された補修材層全体を高耐水層構造にし、雨水や用水浸透による劣化を有効に防止して同補修材層の優れた機械的強度を健全に維持できるコンクリート構築物の補強補修材を提供する。
【解決手段】ポリマーセメントモルタル中に、補強繊維と、変性シリコーンオイルを配合した加水混練材から成り、該変性シリコーンオイルの配合比を上記ポリマーセメントモルタルの成分であるセメントに対し3〜15重量%とし、上記変性シリコーンオイルとしてアルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールを用いたコンクリート構築物の補強補修材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は橋梁におけるコンクリート床版、コンクリート製用水路に代表される、コンクリート構築物の補強補修材に係わり、殊に繊維強化ポリマーセメントモルタルから成る補強補修材に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁(河川橋と陸橋)におけるコンクリート床版は橋脚上に支持された床版端の下面の劣化が著しく、又コンクリート製用水路においては用水と常時接する水路内面の劣化が著しく、その多くは劣化部分を除去してポリウレタン樹脂塗料又はエポキシ樹脂塗料を塗布し修復する方法が採られている。
【0003】
他方、特許文献1、2は上記コンクリート床版端部下面及び上記コンクリート製用水路内面の経年劣化した表層コンクリートをウォータージェットで除去し、該除去面域に繊維強化ポリマーセメントモルタルを吹き付けし補修材層を形成する方法を示している。
【0004】
上記繊維強化ポリマーセメントモルタルはセメントと砂とポリマー樹脂から成るポリマーセメントモルタルにポリエチレン繊維又はビニロン繊維を配合し加水混練したものである。
【0005】
【特許文献1】特開2007−100423号公報
【特許文献2】特開2007−120087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記繊維強化ポリマーセメントモルタルを補修材として用いる補修方法は、従来の補修方法に比べ、引張応力試験、曲げ荷重試験の何れにおいても著しい強度向上、高い靱性付与が得られ、特に0.1mm以下の微細なひび割れが無数に発生した場合でも強度低下を来さない補修を実現でき、補修材として極めて有効である。
【0007】
然るにコンクリート床版においては橋脚上において対向するコンクリート床版端の遊間から上記補修材層下面に回り込んだ雨水が補修材層内に浸透し劣化を来し上記機械的強度及び耐久性を低下する問題、又コンクリート製用水路においては、用水と常時接する補修材層内に水分が浸透し劣化を来し前記機械的強度及び耐久性を低下せしめる問題を有している。
【0008】
本発明は繊維強化ポリマーセメントモルタルによる補修材層全体に高い防水性能を付与し、雨水や用水浸透による劣化を有効に防止して上記機械的強度及び耐久性を健全に維持できるコンクリート構築物の補修材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記特許文献1,2で示された、セメントと砂とポリマー樹脂から組成されるポリマーセメントモルタル中に、ビニロン繊維、又はポリエチレン繊維、又はビニロン繊維とポリエチレン繊維の混合繊維に代表される補強繊維を配合し加水混練して成る繊維強化ポリマーセメントモルタルを補修材として用いつつ、該繊維強化ポリマーセメントモルタル中に変性シリコーンオイルを配合して加水混練することにより変性シリコーンオイルとセメントとの反応を促し、これによって成層される補修材層全体に良好な防水性能を付与して上記機械的強度を健全に維持できるコンクリート構築物の補強補修材を提供するものである。
【0010】
上記変性シリコーンオイルの配合比は上記ポリマーセメントモルタルの成分であるセメントに対し0.5〜10重量%、好ましくは1〜5重量%とする。
【0011】
上記変性シリコーンオイルはアルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールが適性材である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、繊維強化ポリマーセメントモルタルで修復された補修材層全体を高耐水層構造にし、雨水や農業用水浸透による劣化を有効に防止して同補修材層の優れた機械的強度と耐久性を健全に維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明を実施するための最良の形態を図1乃至図4に基づき説明する。
【0014】
本発明に係る補修材はコンクリート床版1及びコンクリート製用水路5に代表されるコンクリート構築物の補修に適用される。
【0015】
図1に示す橋梁におけるコンクリート床版(PCコンクリート床版、場所打ちコンクリート床版)1においては、橋脚2(橋台含む)上に支持された同床版端3の遊間4からの雨水の漏入、湿気等に起因する劣化、殊に床版端3下面の経年劣化を来たし易い。図中13は劣化表層を示す。
【0016】
他方図2に示す水田の灌漑施設として用いられているコンクリート製用水路5は、コンクリート製底壁6と該底壁6の左右側縁から立ち上げられたコンクリート製立ち上げ壁7にてU字形の用水路を画成した構造を有している。開放形用水路の場合には上面を開放状態に施工し、閉鎖型用水路の場合には開放面をコンクリート製蓋で覆うか、又はU字形の用水路本体に蓋を一体に設けたロ字形のコンクリート製用水路とする。
【0017】
上記コンクリート製用水路5においては、灌漑用水と接するコンクリート製用水路5の内面の損傷、劣化が著しく、老朽化程度が比較的軽度なコンクリート製用水路5においては、コスト削減、環境負担軽減の見地から、全面改修せずに既設のコンクリート製用水路5に内面補修を施し延命する方法が採られている。図中13は劣化表層を示す。
【0018】
以下上記劣化表層13の補修方法について説明する。
【0019】
図3Aに示すように、上記橋梁におけるコンクリート床版1の劣化表層13のコンクリートをウォータージェットの適用により除去して健全なコンクリート面を露出せしめ表層コンクリート除去面域8を形成する。
【0020】
他方図4Aに示すように、上記コンクリート製用水路5を画成する底壁6及び左右立ち上げ壁7の各内面の劣化表層13のコンクリートをウォータージェットの適用により連続して除去すると共に、上記底壁6及び左右立ち上げ壁7の各内面の表層コンクリートに連続する左右立ち上げ壁7上端面の表層コンクリートをウォータージェットの適用により除去し、底壁6内面と左右立ち上げ壁7内面と左右立ち上げ壁7上端面に連続する表層コンクリート除去面域8を形成する。
【0021】
ウォータージェットにより超高圧水を噴射し劣化表層13のコンクリートを埋設鉄筋に達しない深さ、又は埋設鉄筋に達する深さにハツリ除去する。このウォータージェットの他、サンドブラスト、スチールブラスト、サンダー等の適用が可能である。
【0022】
次に図3B,図4Bに示すように、上記コンクリート除去面域8の内面(健全なコンクリート表面)にエポキシ樹脂を塗布し含浸せしめる。即ちプライマー処理しプライマー層9を形成する。このプライマー処理は現場の状況に応じ選択的に実施する。
【0023】
次に上記表層コンクリート除去面域8を下記の繊維強化ポリマーセメントモルタル10′で修復し補修材層10を形成する。
【0024】
上記繊維強化ポリマーセメントモルタル10′はセメントと砂とポリマー樹脂から成るポリマーセメントモルタルにポリエチレン繊維又はビニロン繊維等の合成樹脂繊維又は有機繊維から成る補強繊維11を配合し、更に変性シリコーンオイルを加えた加水混練材である。
【0025】
上記変性シリコーンオイルは相溶性、反応性を有し、水との溶解性、潤滑性を有する。
【0026】
上記変性シリコーンオイルとしては、アルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールが適性材である。即ち該アルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールを主材とする混和材を適用する。該アルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールの希釈剤としてはアルコール希釈剤又はセルロース希釈剤を適用する。
【0027】
具体例として、下記の配合比から成る繊維強化ポリマーセメントモルタル10′を用意し、該繊維強化ポリマーセメントモルタル10′を上記プライマー層9の表面、又はプライマー層9を形成していないコンクリート除去面域8のコンクリート表面に直接塗布し補修材層10を形成する。
【0028】
〈補修材1立方メートル当たりの配合比〉
セメント(ポルトランドセメント):300〜900kg
砂 :400〜1200kg
ポリマー樹脂 :10〜120kg
補強繊維
(合成樹脂繊維又は有機繊維) :10〜60kg
アルキルアルコキシシラン
又はアルキルシラノール :上記セメントに対し0.5〜10重量%
【0029】
更に上記繊維強化ポリマーセメントモルタル10′には減水剤を0.05〜0.4kgの範囲で配合することができる。
【0030】
上記配合材を主成分とし且つ上記配合比で加水混練して成る繊維強化ポリマーセメントモルタル10′を用意し、これを上記コンクリート床版1又は上記コンクリート製用水路5の上記表層コンクリート除去面域8に吹付け塗布、ローラー塗布等により塗布し上記補修材層10を形成する。
【0031】
上記アルキルアルコキシシランとアルキルシラノールはモルタル中の水分(モルタルの成分であるSi0)と反応してシラノール化合物((HO)Si−R、Rはアルキル基)を生成し、該シラノール化合物が補修材層(繊維強化ポリマーセメントモルタル層)10全体を強固な防水材層とする。この反応は上記補修材層10の形成後にも進行される。
【0032】
上記アルキルアルコキシシランとアルキルシラノールは補修材層10を組成する全ての補強繊維11及び砂(珪砂)の全ての粒子に防水被覆を形成し、補修材層10全体を防水材層に形成する。
【0033】
上記補強繊維11としては、繊維長5〜20mm、太さ10〜200μmのビニロン繊維、又は同ポリエチレン繊維、又は同ビニロン繊維と同ポリエチレン繊維の混合繊維が有効である。
【0034】
上記補強繊維11としてポリエチレン繊維とビニロン繊維の混合繊維を用いる場合には、ポリエチレン繊維1〜20kg、ビニロン繊維9〜40kgで選択し、全体として上記10〜60kgになるように配合する。配合例としてポリエチレン繊維9kg、ビニロン繊維15kgの混合繊維を用いる。
【0035】
上記ポリマー樹脂としては、スチレンブタジエン樹脂系、ポリアクリル酸エステル樹脂系(アクリル樹脂系)、エチレン酢ビ樹脂系、酢ビ・ベオバ樹脂系等を用いる。
【0036】
本発明に用いる砂として、珪石から製造した珪砂、人工軽量砂(例えばセラミック砂)、川砂、山砂、鉱滓、フライアッシュ等の単体、又は混合物を用いる。
【0037】
上記繊維強化ポリマーセメントモルタル10′から成る補修材層10中に上記表層コンクリート除去面域8に亘る合成樹脂製メッシュ12を埋設する補修構造とする場合には、上記アルキルアルコキシシランとアルキルシラノールに代表される変性シリコーンオイルを加えた繊維強化ポリマーセメントモルタル10′による下塗り10aを施す。
【0038】
次に上記繊維強化ポリマーセメントモルタル10′の下塗り10aの未硬化状態において、該下塗り10aの表面(膨出面)にポリエチレンメッシュシート又はアラミドメッシュシート等から成る編成構造の合成樹脂製メッシュ12を加圧貼付する。
【0039】
上記合成樹脂製メッシュ12の加圧貼付により、下塗り10aの繊維強化ポリマーセメントモルタル10′がメッシュ12の網目内へ侵入し、同時に補強繊維11が網目に進入し、後記する上塗り10bの塗布にてメッシュ12の形成線材と補強繊維11とが絡み合い結合した状態を形成する。
【0040】
次に上記下塗り10aの未硬化状態、即ち湿潤状態において同下塗り10aの表面、即ちメッシュ12の表面に上記アルキルアルコキシシランとアルキルシラノールに代表される変性シリコーンオイルを加えた繊維強化ポリマーセメントモルタル10′を重ね塗りして上塗り10bを施し、上記メッシュ12を繊維強化ポリマーセメントモルタル10′による下塗り10aと上塗り10bから成る補修材層10内に埋設する。
【0041】
上記下塗り10aと上塗り10bの各塗布厚は予定する厚みの補修材層10の略二分の一程度にする。
【0042】
上記補修材層10の形成により繊維強化ポリマーセメントモルタル10′で修復された補修材層10全体を高耐水層構造にし、雨水や農業用水浸透による劣化を有効に防止して同補修材層10の優れた機械的強度と耐久性を健全に維持できる。
【0043】
加えて上記コンクリート床版1及びコンクリート製用水路5におけるコンクリートの凍結融解を有効に防止できる。
【0044】
本発明は上記コンクリート床版1及びコンクリート製用水路5の他、橋脚(橋台)、擁壁、堰、コンクリート路盤、建物等の建造物に適用できる。又コンクリート床版1の床版端3に限らず、同床版1の劣化を生じているその他の下面に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】橋脚上に支持されたコンクリート床版の経年劣化状態を示す断面図。
【図2】コンクリート製用水路の経年劣化状態を示す断面図。
【図3】Aは図1におけるコンクリート床版の劣化表層を除去した状態を示す断面図、Bは該除去面域に本発明に係る補修材を用いて補修材層を形成した状態を示す断面図。
【図4】Aは図2におけるコンクリート製用水路の劣化表層を除去した状態を示す断面図、Bは該除去面域に本発明に係る補修材を用いて補修材層を形成した状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0046】
1…コンクリート床版、2…橋脚、3…コンクリート床版端、4…遊間、5…コンクリート製用水路、6…同用水路のコンクリート製底壁、7…同用水路のコンクリート製立ち上げ壁、8…表層コンクリート除去面域、9…プライマー層、10′…変性シリコーンオイルで防水性を付与した繊維強化ポリマーセメントモルタル、10…補修材層、10a…下塗り、10b…上塗り、11…補強繊維、12…合成樹脂製メッシュ、13…劣化表層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーセメントモルタル中に、補強繊維と、変性シリコーンオイルを配合した加水混練材から成ることを特徴とするコンクリート構築物の補強補修材。
【請求項2】
上記変性シリコーンオイルの配合比を上記ポリマーセメントモルタルの成分であるセメントに対し0.5〜10重量%としたことを特徴とする請求項1記載のコンクリート構築物の補強補修材。
【請求項3】
上記変性シリコーンオイルがアルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールであることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構築物の補強補修材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−126751(P2009−126751A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304295(P2007−304295)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(305035093)株式会社ビルドランド (22)
【Fターム(参考)】