説明

コンクリート構造体のヘルスモニタリング方法及び装置

【課題】コンクリート構造体のヘルスモニタリングを、簡単かつ高精度に行う。
【解決手段】コンクリート構造体12の内部に封止した圧電センサ素子14に伝わるひずみ変化に応じて発生する電圧値の変化から、コンクリート構造物12に作用する応力を直接的に測定することが可能となる。又、打撃音等の固体伝搬音を振動として検出でき、コンクリート構造体12内部の圧電センサ素子14が封止された箇所における動的変位も検出可能であり、これを解析手段20で演算処理することで、内部応力に変換して評価することが可能となる。このため、所定時間経過前後(例えば、法定の定期検査時)の電圧値、又は、所定事象発生前後(例えば地震)に測定された電圧値から得られた内部応力を比較することにより、コンクリート構造体12の損傷の程度を、簡単かつ正確に把握することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造体のヘルスモニタリング方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、土木建築構造物や機械構造物、設備などの構造体の損傷検知や健全性評価を行うヘルスモニタリングの手法として、超音波やX線を用いた非破壊検査が実施されている。しかしながら、非破壊検査は、構造体の使用を停止する必要があり、検査に莫大な時間と工数を要するものである。そこで、鉄骨構造物の表面に圧電素子を貼り付け、圧電素子が生成する電気信号及び圧電素子の電気インピーダンスを測定し解析することによって、構造物の全体的な損傷から局所的な損傷までを検知する手法が発案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−99760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術は、解析手法や評価方法が複雑で、適用範囲が限られるものである。又、構造物の表面に圧電素子を貼り付けることから、コンクリート構造体への適用に際しては、断面内の直接応力を測定することが出来ず、ヘルスモニタリングを高精度に行うことは困難である。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、コンクリート構造体のヘルスモニタリングを、簡単かつ高精度に行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)コンクリート構造体の打設時に、圧電センサ素子を型枠内に配置し、かつ、前記圧電センサ素子の信号ケーブルを前記型枠外へと引き出した状態で、コンクリートを打設し、コンクリート構造体内に前記圧電センサ素子を封止し、前記コンクリート構造体の安定化の後、前記信号ケーブルを介し、所定時間経過前後の電圧値又は所定事象発生前後の電圧値を検出し、当該電圧値の差から、コンクリート構造体に作用する応力又はコンクリート構造体の損傷評価を行うコンクリート構造体のヘルスモニタリング方法(請求項1)。
【0007】
本項に記載のコンクリート構造体のヘルスモニタリング方法は、コンクリート構造体の内部に封止した圧電センサ素子に伝わるひずみ変化に応じて発生する電圧値の変化から、コンクリート構造物に作用する応力を直接的に測定するものである。又、打撃音等の固体伝搬音を振動として検出でき、コンクリート構造体内部の圧電センサ素子が封止された箇所における動的変位も検出可能であり、これを演算処理することで内部応力に変換して評価するものである。そして、所定時間経過前後(例えば、法定の定期検査時)に測定された電圧値、又は、所定事象発生前後(例えば地震)に測定された電圧値から得られた内部応力を比較することにより、コンクリート構造体の損傷の程度を把握するものである。
【0008】
(2)上記(1)項において、前記コンクリート構造体の打設時に、キャリブレーション用に供試体を採取し、該供試体を加圧し、応力変換関数を求めるコンクリート構造体のヘルスモニタリング方法(請求項2)。
本項に記載のコンクリート構造体のヘルスモニタリング方法は、コンクリート構造体の打設時に、キャリブレーション用に供試体を採取し、該供試体を加圧し、応力変換関数を求め、この応力変換関数に基づき、圧電センサ素子に伝わるひずみ変化に応じて発生する電圧値の変化から、コンクリート構造物に作用する応力を求めるものである。
【0009】
(3)コンクリート構造体の打設時に、コンクリート構造体内に封止される圧電センサ素子と、該圧電センサ素子からコンクリート構造体外に引き出される信号ケーブルと、該信号ケーブルから得られる電圧値の記録手段と、前記コンクリート構造体の安定化の後、前記記録手段に記録された電圧値から、所定時間経過前後の電圧値又は所定事象発生前後の、コンクリート構造体に作用する応力又はコンクリート構造体の損傷評価を行う解析手段と、を含むコンクリート構造体のヘルスモニタリング装置(請求項3)。
【0010】
本項に記載のコンクリート構造体のヘルスモニタリング装置は、コンクリート構造体の内部に封止した圧電センサ素子に伝わるひずみ変化に応じて発生する電圧値の変化から、コンクリート構造物に作用する応力を直接的に測定するものである。又、打撃音等の固体伝搬音を振動として検出でき、コンクリート構造体内部の圧電センサ素子が封止された箇所における動的変位も検出可能であり、これを演算処理することで内部応力に変換して評価するものである。そして、所定時間経過前後に測定された電圧値、又は、所定事象発生前後に測定された電圧値を、記録手段に記録し、解析手段によって、電圧値から得られた内部応力を比較することにより、コンクリート構造体の損傷の程度を把握するものである。
【0011】
(4)上記(3)項において、前記解析手段には、前記コンクリート構造体の打設時に、キャリブレーション用に供試体を採取し、該供試体を加圧して得られる応力変換関数に基く、応力変換ロジックが含まれるコンクリート構造体のヘルスモニタリング装置(請求項4)。
本項に記載のコンクリート構造体のヘルスモニタリング装置は、コンクリート構造体の打設時に、キャリブレーション用に供試体を採取し、該供試体を加圧し、応力変換関数を求め、この応力変換関数に基づき、解析手段において、圧電センサ素子に伝わるひずみ変化に応じて発生する電圧値の変化から、コンクリート構造物に作用する応力を求めるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明はこのように構成したので、コンクリート構造体のヘルスモニタリングを、簡単かつ高精度に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る、コンクリート構造体のヘルスモニタリング装置の模式図である。
【図2】図1に示される、コンクリート構造体のヘルスモニタリング装置に用いることが可能な圧電センサ素子の断面図である。
【図3】コンクリート構造体の打設時に、キャリブレーション用に採取した供試体を加圧して、応力変換関数を求める手法を示す模式図である。
【図4】(a)は、コンクリート構造体の内部に封止した圧電センサ素子に伝わるひずみ変化に応じて発生する電圧値の変化を示すグラフであり、(b)は、(a)の電圧値を数1式によって一回積分して得られる積分値を示すグラフである。
【図5】(a)は、図4(b)の積分値を数2式で演算して得られる応力変化を示すグラフであり、(b)は、供試体に荷重を付与する加圧試験機の荷重計から得られる応力値と、(a)の応力値との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、本発明の実施の形態に係るコンクリート構造体のヘルスモニタリング装置10は、コンクリート構造体12の打設時に、コンクリート構造体12内に封止される圧電センサ素子14と、圧電センサ素子14からコンクリート構造体12外に引き出される信号ケーブル16と、信号ケーブルから得られる電圧値の記録手段18と、記録手段18に記録された電圧値から、コンクリート構造体12に作用する応力又はコンクリート構造体の損傷評価を行う解析手段20とを含むものである。
【0015】
圧電センサ素子14は、例えば、特開2009−25022号公報に開示されたセンサ素子を用いることができる。このセンサ素子14は、図2に示されるように、圧電セラミックス101と、圧電セラミックス101を固定する金属板102と、圧電セラミックス101を金属板102と共に収容するケース103と、ケース103を固定する台座104と、台座104とケース103に収容された金属板102との間に介挿され、ケース103へのコンクリートの侵入を防止するシール材105と、台座104上に固定されたサーミスタ、熱電対、温度ゲージ等の温度センサ素子106と、圧電セラミックス101及び温度センサ素子106に配線を行うケーブル107(16)とを備えるものである。
【0016】
ケース103は、圧電セラミックス101の周囲に空間を確保することが可能な大きさに形成されている。圧電セラミックス101は、電気信号の機械信号への変換及びその逆の作用が可能であり、発振素子だけでなく受振素子としても使用することができるものである。この電圧センサ素子14は、シール材105により防水性が確保されており、コンクリート構造体12内に埋設されても、その機能を保持するものである。なおかつ、平面視で20mm角程度の大きさであることから、コンクリート構造体12の強度を損なうこともない。そしてコンクリート構造体12の打設時に、圧電センサ素子14を型枠内の、コンクリート構造体に最も損傷が生じ易く、電圧センサ素子14の設置に有効な、複数の適切な箇所(例えば、梁端部や柱脚)に配置する。このとき、圧電センサ素子14を、適宜、型枠の表面に直接固定しても良く、内部に設置される鉄筋に固定しても良い。そして、型枠の外へと信号ケーブル16を引き出して、コンクリートを打設するものである。
【0017】
記録手段18には、既存のデータロガーが適宜用いられる。又、解析手段20は、パーソナルコンピュータ等の電子演算器が用いられる。これらの記録手段18及び解析手段20は、コンクリート構造体12が建屋である場合には、建屋内に常設しても良く、ヘルスモニタリングの実施の時期に合わせて、一時的に設置することとしても良い。
【0018】
又、好ましくは、コンクリート構造体12の打設時に、キャリブレーション用に採取した供試体12Aを加圧して、厳密な応力変換関数を求めることとする。一方、供試体12Aを採取できないような場合には、建築学会式による弾性係数から、簡易式を用いて応力関数を求めることとする。
【0019】
図4(a)には、図3の供試体12Aに対して加圧実験を行うことで、電圧センサ素子14から得られた電圧値Vを時間経過と共に示している。解析手段20では、この電圧値Vを、数1式で重み付台形積分することで、図4(b)に示される積分値Sν(t)が得られる。
【数1】

【0020】
そして、図4(b)に示される積分値Sν(t)を、更に、数2式で演算することで、図5(a)に示される内部応力変化σν(t)が得られる。図5(b)は、供試体に荷重を付与する加圧試験機の荷重計から得られる応力値(横軸)と、図5(a)の応力値(縦軸)との相関図であるが、相関係数は0.99となることから、コンクリート構造体12の内部応力を正確に把握することが可能である。
【数2】

【0021】
従って、本発明の実施の形態に係るコンクリート構造体のヘルスモニタリング装置10を用いることにより、コンクリート構造体12の内部に封止した圧電センサ素子14に伝わるひずみ変化に応じて発生する電圧値Vの変化から、コンクリート構造物12に作用する応力σνを直接的に測定することが可能となる。又、打撃音等の固体伝搬音を振動として検出でき、コンクリート構造体12内部の圧電センサ素子14が封止された箇所における動的変位も検出可能であり、これを解析手段20で演算処理することで、内部応力σνに変換して評価することが可能となる。
このため、所定時間経過前後(例えば、法定の定期検査時)の電圧値σν、又は、所定事象発生前後(例えば地震)に測定された電圧値σνから得られた内部応力を比較することにより、コンクリート構造体12の損傷の程度を、簡単かつ正確に把握することが可能となる。
【符号の説明】
【0022】
10:コンクリート構造体のヘルスモニタリング装置、12:コンクリート構造体、12A:供試体、14:圧電センサ素子、16:信号ケーブル、18:記録手段、20:解析手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造体の打設時に、圧電センサ素子を型枠内に配置し、かつ、前記圧電センサ素子の信号ケーブルを前記型枠外へと引き出した状態で、コンクリートを打設し、コンクリート構造体内に前記圧電センサ素子を封止し、前記コンクリート構造体の安定化の後、前記信号ケーブルを介し、所定時間経過前後の電圧値又は所定事象発生前後の電圧値を検出し、当該電圧値の差から、コンクリート構造体に作用する応力又はコンクリート構造体の損傷評価を行うことを特徴とするコンクリート構造体のヘルスモニタリング方法。
【請求項2】
前記コンクリート構造体の打設時に、キャリブレーション用に供試体を採取し、該供試体を加圧し、応力変換関数を求めることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造体のヘルスモニタリング方法。
【請求項3】
コンクリート構造体の打設時に、コンクリート構造体内に封止される圧電センサ素子と、該圧電センサ素子からコンクリート構造体外に引き出される信号ケーブルと、該信号ケーブルから得られる電圧値の記録手段と、前記コンクリート構造体の安定化の後、前記記録手段に記録された電圧値から、所定時間経過前後の電圧値又は所定事象発生前後の、コンクリート構造体に作用する応力又はコンクリート構造体の損傷評価を行う解析手段と、を含むことを特徴とするコンクリート構造体のヘルスモニタリング装置。
【請求項4】
前記解析手段には、前記コンクリート構造体の打設時に、キャリブレーション用に供試体を採取し、該供試体を加圧して得られる応力変換関数に基く、応力変換ロジックが含まれることを特徴とする請求項3記載のコンクリート構造体のヘルスモニタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−229982(P2012−229982A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98187(P2011−98187)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】