説明

コンクリート構造体

【課題】ポーラスコンクリートを用いた鉄筋コンクリートの鉄筋付着強度を向上させること。
【解決手段】本発明のコンクリート構造体は、粗骨材、石灰石砕砂、セメント及び水が含有され、内部に鉄筋が埋設された構成を有している。骨材として粗骨材と石灰石砕砂を用いたことで、骨材として粗骨材単体を用いた従来のポーラスコンクリートと同等の斫りやすさを確保しつつ、普通コンクリートと同等の鉄筋付着強度が付与されるため、建築構造用途として用いることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポーラスコンクリートを用いた鉄筋コンクリートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
粗骨材とセメントペーストを主成分として製造される多孔質のコンクリート(以下、これを「ポーラスコンクリート」という)が知られている(例えば特許文献1を参照)。このポーラスコンクリートは、道路舗装、緑化基盤、漁礁、河川の護岸などの非構造用途に利用されるのが一般的である。さらに、近年、密実な普通コンクリートと比べて斫りやすく、コンクリートがらを再利用しやすいという点に注目して、ポーラスコンクリートを構造用途として利用する検討がなされている(非特許文献1を参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−289772号公報
【非特許文献1】橋田浩ほか:資源循環指向型コンクリートの仕様と諸性状に関する基礎検討,日本建築学会学術講演梗概集,A-1,pp.135-136,2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ポーラスコンクリートを用いて鉄筋コンクリートを製造し、これを建築構造用途として用いた場合、上述したように構造物を解体する際の斫り作業が容易である反面、内部に多数の空隙を有する構造であるため鉄筋とポーラスコンクリートとの間の付着強度が弱いという問題がある。このため、普通コンクリートを用いた鉄筋コンクリートと同程度の性能が得られず、鉄筋コンクリートとしてはほとんど利用されていないというのが現状である。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、ポーラスコンクリートを用いた鉄筋コンクリートの鉄筋付着強度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係るコンクリート構造体は、粗骨材、セメント及び水を主成分とする多孔質のコンクリート構造体であって、コンクリート製造時に石灰石砕砂を添加し、内部に鉄筋を埋設したことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2に係るコンクリート構造体は、上記請求項1において、前記粗骨材と前記石灰石砕砂の合計重量に対する前記石灰石砕砂の重量比を25%としたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3に係るコンクリート構造体は、上記請求項1又は2において、空隙率を10%としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンクリート構造体によれば、骨材として粗骨材と石灰石砕砂を用いたことで、骨材として粗骨材単体を用いた従来のポーラスコンクリートと同等の斫りやすさを確保しつつ、普通コンクリートと同等の鉄筋付着強度が付与されるため、建築構造用途として用いることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係るコンクリート構造体の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0011】
ポーラスコンクリートとは、一般的に、粒径がほぼ均一な粗骨材とセメントペーストを主成分として成形されたものであり、コンクリート表面から内部にまで連続的に形成された多数の空隙を有する多孔質コンクリートである。ポーラスコンクリートを道路舗装や河川の護岸等の非構造用途に利用する場合に要求される性能は、水セメント比30〜35%程度、空隙率18〜36%程度、圧縮強度20N/mm2程度である。ここで、水セメント比とは、セメント量Cに対する水量Wの割合(W/C)である。
【0012】
一方、ポーラスコンクリートを建築構造用途として利用する場合に要求される性能は、水セメント比25%〜50%程度、空隙率10%〜15%程度、圧縮強度30N/mm2程度である。この圧縮強度は、建築構造用途として一般的に使用される水セメント比50%の普通コンクリートの圧縮強度と同程度である。
【0013】
ポーラスコンクリートに鉄筋を埋設して鉄筋コンクリートとした場合、鉄筋とポーラスコンクリートとの間の付着強度を、普通コンクリートを用いた鉄筋コンクリートの鉄筋付着強度と同等程度の性能を確保する必要がある。本実施の形態であるコンクリート構造体は、以下に説明するように、従来のポーラスコンクリートの主成分である粗骨材の一部を石灰石砕砂で置換したことで、ポーラスコンクリート中の空隙を低減させている。これにより、普通コンクリートを用いた鉄筋コンクリートと同等の鉄筋付着強度が得られる。
【0014】
本実施の形態であるコンクリート構造体は、セメント、粗骨材、石灰石砕砂、水及び減水剤を混練してポーラスコンクリート材料を作成し、鉄筋が配置された型枠内にポーラスコンクリート材料を打設し、硬化させることにより得られる。
【0015】
セメントとしては、ポルトランドセメント(JIS R 5210)、高炉セメント(JIS R 5211)、シリカセメント(JIS R 5212)、フライアッシュセメント(JIS R 5213)等を使用することができる。水は上水道水等を使用することができる。水セメント比は、25%〜50%とするのが好ましい。
【0016】
粗骨材は、5mmふるいに質量で85%以上とどまる粒径の骨材である。粗骨材としては、6号砕石(粒度分布13mm〜5mm)、5号砕石(粒度分布20mm〜13mm)、川砂利、再生骨材及びこれらの混合物等を使用することができる。粗骨材の粒径は、20mm〜5mm程度が好ましい。また、ポーラスコンクリート中に所定の大きさの空隙を確保するために、粗骨材は単一の粒子径のものを使用することが好ましい。
【0017】
石灰石砕砂は、石灰石を砕石機などにより破砕してできた砂であり、粒度分布は5mm〜0mmである。石灰石砕砂を用いる理由は、粒度が小さいことにより、鉄筋との接着面積が増加し、かつ、石灰石骨材表面にカルシウムアルミネートモノカーボネートやカルシウムアルミネートヘミカーボネートが生成され、骨材−ペースト界面の付着が強固になり(参考文献:コンクリート工学協会石灰石微粉末研究委員会:石灰石微粉末の特性とコンクリートへの利用に関するシンポジウム,pp.8-9,1998)、モルタル(石灰石砕砂+セメントペースト)の強度が増加するからである。上記の粗骨材と石灰石砕砂の合計重量に対する石灰石砕砂の重量比は25%〜40%の範囲とするのが好ましく、特に25%とするのが好ましい。粗骨材と石灰石砕砂の合計重量に対する石灰石砕砂の重量比が25%未満の場合、石灰石砕砂の効果が小さく、所望の鉄筋付着強度を確保することができない。また、粗骨材と石灰石砕砂の合計重量に対する石灰石砕砂の重量比が40%を超えると、コンクリートの斫りやすさを確保することができなくなる。
【0018】
減水剤は、コンクリートの単位水量を減らすことを目的とした混和剤(JIS A 6204)である。減水剤を用いることにより、セメントの粒子が分散されるので、コンクリートのワーカビリティが改善され、強度を増大させることができる。減水剤よりも減水率を高めた高性能減水剤や、コンクリート中への微細空気泡の連行作用を有するAE減水剤等を用いてもよい。
【0019】
上記の材料を混練し、硬化させて得られるポーラスコンクリートの空隙率は、粗骨材と石灰石砕砂の粒径及び添加量を上述した範囲で適宜調整することにより、10%とするのが特に好ましい。空隙率の増大と共に、コンクリートの圧縮強度は低下する。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により本発明のコンクリート構造体について具体的に説明する。
【0021】
[試験体の作成]
表1に示す割合で原料を調合して2種類のポーラスコンクリート材料(実施例1、比較例1)と1種類の普通コンクリート材料(比較例2)を作成し、これらを用いて以下に説明する3種類の鉄筋コンクリートを作成した。
【表1】

【0022】
(実施例1)
実施例1では、セメントとして普通ポルトランドセメント、骨材として6号砕石(粒度分布13mm〜5mm)及び石灰石砕砂(粒度分布:5−0mm)、水として上水道水、混和剤として高性能減水剤を用いた。粗骨材(6号砕石)と石灰石砕砂の合計重量に対する石灰石砕砂の重量比は約25%とした。また、水セメント比は約25%とした。上記の材料を混練してポーラスコンクリート材料を作成した。
【0023】
1本の異形鉄筋(SD345 D32:降伏強度389N/mm2、引張強度559N/mm2)を型枠内の中央に配置した。また、割裂破壊を防ぐために、異形鉄筋の周囲に直径6mmのスパイラル鉄筋(降伏強度579N/mm2、引張強度618N/mm2)を配置した。異形鉄筋及びスパイラル鉄筋を型枠内に配置した後、上記のポーラスコンクリート材料を型枠内に打設した。これを常温で28日間養生させて、直径250mmの円形で高さ300mmの円柱状の鉄筋コンクリート(ポーラスコンクリート)を得た(図1を参照)。ポーラスコンクリートの空隙率は10%であった。
【0024】
(比較例1)
比較例1では、セメントとして普通ポルトランドセメント、骨材として6号砕石(粒度分布13mm〜5mm)及び7号砕石(粒度分布:5mm〜2.5mm)、水として上水道水、混和剤として高性能減水剤を用いた。水セメント比は約25%とした。表1に示す割合で上記の材料を調合し、混練してポーラスコンクリート材料を作成した。実施例1と同じ異形鉄筋とスパイラル鉄筋を型枠内に配置した後、上記のポーラスコンクリート材料を型枠内に打設した。これを常温で28日間養生させて、実施例1と同じ大きさの鉄筋コンクリート(ポーラスコンクリート)を得た。ポーラスコンクリートの空隙率は10%であった。
【0025】
(比較例2)
比較例2では、セメントとして普通ポルトランドセメント、骨材として硬質砂岩砕石(粒度分布20mm〜5mm)及び山砂(粒度分布:5mm〜0mm)、水として上水道水、混和剤として高性能減水剤を用いた。水セメント比は50%とした。表1に示す割合で上記の材料を調合し、混練してコンクリート材料を作成した。実施例1と同じ異形鉄筋とスパイラル鉄筋を型枠内に配置した後、上記のコンクリート材料を型枠内に打設した。これを常温で28日間養生させて、実施例1と同じ大きさの鉄筋コンクリート(普通コンクリート)を得た。
【0026】
[鉄筋付着強度試験]
上記の3つの試験体を用いて、鉄筋付着強度試験を行った。図1は鉄筋付着強度試験の概略断面図である。引き抜き鉄筋は、上述したSD345 D32の異形鉄筋であり、異形鉄筋が降伏する前に異形鉄筋を引き抜けるようにするために、ポーラスコンクリートとの付着長を96mm(異形鉄筋の公称直径の3倍)とし、それ以外の区間を非付着区間(アンボンド区間)とした。図1における矢印方向の引張荷重と、それに伴う自由端におけるすべり(変位)との関係を測定した。測定は2回(A,B)行った。この測定から最大付着強度を求めた。引張荷重と自由端すべりとの関係を図2−1〜図2−3に示す。また、最大付着強度を図3に示す。
【0027】
[圧縮強度試験]
上記の3つの試験体を用いて、JIS A 1108(コンクリート圧縮試験方法)による圧縮強度試験を行った。試験結果を図4に示す。
【0028】
図3より、粗骨材と石灰石砕砂の合計重量に対する石灰石砕砂の重量比を約25%とした実施例1のポーラスコンクリートは、石灰石砕砂を用いていない比較例1のポーラスコンクリートと比較して、最大付着強度が2倍程度向上することが分かる。また、比較例2の普通コンクリートと比較すると、実施例1の最大付着強度は0.9倍程度であり、ほぼ同程度の最大付着強度を有することが分かる。また、図4に示すように、圧縮強度については、実施例1は、比較例1及び比較例2とほぼ同等の性能を有していることが分かる。以上の試験結果から明らかなように、実施例1の鉄筋コンクリートは、建築構造用途としての実用に十分に耐え得るものであるといえる。
【0029】
以上説明したように、本実施の形態であるコンクリート構造体によれば、骨材として粗骨材と石灰石砕砂を用いたことで、骨材として粗骨材単体を用いた従来のポーラスコンクリートと同等の斫りやすさを確保しつつ、普通コンクリートと同等の鉄筋付着強度が付与されるため、建築構造用途として用いることが可能となる。
【0030】
また、本実施の形態であるコンクリート構造体によれば、粗骨材と石灰石砕砂の合計重量に対する石灰石砕砂の重量比を25%としたことで、鉄筋付着強度をさらに向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】鉄筋付着強度試験の概要を示す図である。
【図2−1】鉄筋付着強度試験における荷重と自由端すべりの関係を示すグラフである(実施例1)。
【図2−2】鉄筋付着強度試験における荷重と自由端すべりの関係を示すグラフである(比較例1)。
【図2−3】鉄筋付着強度試験における荷重と自由端すべりの関係を示すグラフである(比較例2)。
【図3】実施例1、比較例1、比較例2の最大付着強度を示すグラフである。
【図4】実施例1、比較例1、比較例2の圧縮強度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗骨材、セメント及び水を主成分とする多孔質のコンクリート構造体であって、
コンクリート製造時に石灰石砕砂を添加し、内部に鉄筋を埋設したことを特徴とするコンクリート構造体。
【請求項2】
前記粗骨材と前記石灰石砕砂の合計重量に対する前記石灰石砕砂の重量比を25%としたことを特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造体。
【請求項3】
空隙率を10%としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート構造体。

【図1】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図2−3】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−47446(P2010−47446A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−213273(P2008−213273)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2008年度大会(中国)学術講演梗概集建築デザイン発表梗概集,発行日平成20年7月20日
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】