コンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法
【課題】
本発明は、予めコンクリート構造物に於けるひび割れの発生を抑制し、引き続き施工後もひび割れの発生及び劣化状況を目視により観察してコンクリート構造物の耐久性を確保しその維持管理を目的としたコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法の技術を提供する。
【解決手段】
ステッチ糸7はポリエステル材料で構成され不織布5の上面に上又は下から垂直方向にいわゆるタテ編みという方法で炭素繊維材6の第1及び第2群6a、6bの中に編込む。ここで編み機械により不織布5の片面に炭素繊維材6を縫い込む。そして補強・補修シート8が完成する。
本発明は、予めコンクリート構造物に於けるひび割れの発生を抑制し、引き続き施工後もひび割れの発生及び劣化状況を目視により観察してコンクリート構造物の耐久性を確保しその維持管理を目的としたコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法の技術を提供する。
【解決手段】
ステッチ糸7はポリエステル材料で構成され不織布5の上面に上又は下から垂直方向にいわゆるタテ編みという方法で炭素繊維材6の第1及び第2群6a、6bの中に編込む。ここで編み機械により不織布5の片面に炭素繊維材6を縫い込む。そして補強・補修シート8が完成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予めコンクリート構造物に於けるひび割れの発生を抑制し、引き続き施工後もひび割れの発生及び劣化状況を目視により観察してコンクリート構造物の耐久性を確保し、その管理を目的としたコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種、コンクリート構造物を補強する連続繊維シート及び道路床版の補強方法の例としては図16に示す特開2005−29953号公開特許公報に開示した技術がある。これについて説明すれば、道路床版1の下面に、連続補強繊維2を格子状に配置し、それに樹脂を含浸して帯状連続繊維シート3の格子構造体4を構成するとともに接着する。形状寸法の一例として幅25cmの帯状連続繊維シート3が間隔10cmにて格子状に配置されており、帯状連続繊維シート3自体を繋ぐ場合には、重ね継手ラップ長10cmで繋ぎ合わせてある。このような帯状連続繊維シート3の格子構造体4を道路床版1に接着するに際して、道路床版1の単位幅当たりの引張剛性が45〜75kN/mmとなるように構成する。
【0003】
連続補強繊維2は炭素繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、ガラス繊維を適用し、特に、炭素繊維、アラミド繊維を使用する。帯状連続繊維シート3を構成するために連続補強繊維2に含浸する樹脂は、エポキシ樹脂、メチルメタクリレート樹脂、ビニルエステル系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂を適用し、特にエポキシ樹脂を使用する場合がある。
【0004】
帯状連続繊維シート3は各々1層ずつ、道路床版1の主筋方向すなわち長手方向および配力筋方向すなわち長手方向と直交する方向に各々接着する。そして、下地である道路床版1の下面のケレンを行なう。このとき、施工範囲の割付け、墨出しや、洗浄、乾燥、さらには劣化層を除去し研磨を行なう。その下地にプライマーを塗布し、格子部の墨出しマスキングを行ない、プライマーを調製してそれを刷毛塗りで塗布し、硬化させる。また、不陸修正を行ない、凸部の削り取りやハンチ入隅の平滑化をして凹部のエポキシパテ埋めを行なう。この上に、1層目帯状連続繊維シート3を貼り付ける。具体的手順は、1層目墨出しマスキングを行い、樹脂を調製してローラー刷毛塗りすなわち下塗りを行った後、その上に1層目帯状連続繊維シート3を貼り付けてしごき含浸し脱泡を行ない、その上にさらにローラー刷毛塗りすなわち上塗りを行った後しごき含浸し脱泡を行ない、1層目マスキングを除去する。さらに、2層目帯状連続繊維シート3を貼り付ける。具体的手順は、2層目墨出しマスキングを行ない、樹脂を調製してローラー刷毛塗りすなわち下塗りを行なった後、その上に帯状連続繊維シート3を貼り付けてしごき含浸し脱泡を行ない、その上にローラー刷毛塗りすなわち上塗りを行った後、しごき含浸し脱泡を行ない、2層目マスキングを除去する。そして1層目帯状連続繊維シート3及び2層目帯状連続繊維シート3を格子状に接着した後に養生する道路床版1の補強方法に係る技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−29953号公開特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術は叙上した構成であるので次の課題が存在した。すなわち、先ずコンクリート構造物の補修のための施工期間が大幅に長期となりそれに伴う施工費用が甚大となるうえに詳細な墨出し作業が必要となった。またコンクリート構造物の表面にプライマーを塗布するとき、格子状の開口部(窓部)を避けて塗布しなければならないので処理方法が面倒であった。夏期に於けるコンクリート構造物の補修作業は一方向に帯状連続繊維シートを貼着し少なくとも1日樹脂養生してから、他方向に帯状連続繊維シートを貼着しなければならないので補修作業工程が複雑であるという問題点があった。
【0007】
次にコンクリート構造物の補修・施工に於いて品質上の問題点を有した。すなわち、帯状連続繊維シートをコンクリート構造物の表面に含浸接着する場合、ローラー等でしごき脱泡作業を繰返すことが必要であり、接着剤を均一に含浸させることは容易ではないという問題点があった。また、コンクリート構造物のひび割れ発生状態を遠方からの目視観察することが容易ではなくコンクリート構造物のひび割れを至近距離のみでしか目視することができないという問題点があった。さらに、所定区画及び所定長を有する帯状連続繊維シートの重ね継手部分がコンクリート構造物の補修施工後に該重ね継手部分の有無や部位を外部から判断することが困難であるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法は、コンクリート構造物に於けるひび割れの発生及びひび割れ部分に於けるコンクリート片の落下を抑制し、引き続き施工後もひび割れの発生及び劣化状況を目視により観察するものであってコンクリート構造物の耐久性を確保し、その管理を目的として発明したものであり次の構成から成立する。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、コンクリート構造物の表面に貼着するものであって、所定の面積を有した不織布と、該不織布の少なくとも片面に長手方向及び幅方向の2方向に所定間隔を有して配置され、ステッチ糸で編込まれた帯状の炭素繊維材とでなることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、コンクリート構造物に使用する補強・補修シートであり請求項1記載の発明に於いて前記不織布の目付量(g/m2)は10ないし50(g/m2)でなることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、コンクリート構造物に使用する補強・補修シートであり請求項1記載の発明に於いて前記炭素繊維材に於ける幅方向所定間隔(L1)及び長手方向所定間隔(L2)は25(mm)ないし100(mm)であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、コンクリート構造物に使用する補強・補修シートであり請求項1記載の発明に於いて前記補強・補修シートの長手方向には部分的に色彩糸を使用することを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明によれば、コンクリート構造物の補強・補修工法であり、
コンクリート構造物の表面を下地処理した後に所定の面積を有した不織布の少なくとも片面に長手方向及び幅方向の2方向に所定間隔を有して配置された帯状の炭素繊維材をステッチ糸で編込んだコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを透明又は半透明の接着剤でコンクリート構造物に貼着し、前記所定間隔の部位から該コンクリート構造物の劣化度合を目視観察可能としたことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明によれば、コンクリート構造物の補強・補修工法であり、請求項5記載の発明に於いて前記ステッチ糸は前記不織布及び前記炭素繊維材を一体化させるもので、部分的に色彩糸を使用し、該補強・補修シート間の重合せ部および該補強・補修シートの種類を判別可能としたことを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明によれば、コンクリート構造物の補強・補修工法であり、請求項5記載の発明に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートの表面にアクリルシリコーン系樹脂塗料、シリコーン系樹脂塗料やアクリルゴム系塗料からなる群の中から選ばれる1種の塗料を上塗りしたことを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明によれば、コンクリート構造物の補強・補修工法であり、請求項5記載の発明に於いて前記コンクリート構造物が橋梁コンクリート床版であって、その損傷度判定区分が潜伏期に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートを貼着することを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明によれば、コンクリート構造物の補強・補修工法であり、請求項5記載の発明に於いて前記コンクリート構造物が橋梁コンクリート床版であって、その損傷度判定区分が進展期に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートを貼着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法は叙上した構成、作用を有するので、次の効果がある。
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、コンクリート構造物の表面に貼着するものであって、所定の面積を有した不織布と、該不織布の少なくとも片面に長手方向及び幅方向の2方向に所定間隔を有して配置され、ステッチ糸で編込まれた帯状の炭素繊維材とでなることを特徴とするコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを提供する。
このような構成としたので特に炭素繊維材が縦方向及び横方向の2方向に配置しているので該補強・補修シートのコンクリート構造物への貼付け作業が1回で完了し及びその接着剤の含浸作業も1回で完了するのでコンクリート構造物の施工性が極めて高く補修・補強後の仕上げが美麗になる補強・補修シートを提供できると共に施工の期間の短縮による施工費用の縮減することが可能である補強・補修シートを提供できるという効果がある。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、前記不織布の目付量(g/m2)は10ないし50(g/m2)でなることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを提供する。
このような構成としたので請求項1に記載の発明の効果に加えて不織布は本発明が所期する効果を示現できる補強・補修シートを提供できるという効果がある。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、コンクリート構造物に使用する補強・補修シートであり請求項1記載の発明に於いて前記炭素繊維材に於ける幅方向所定間隔(L1)及び長手方向所定間隔(L2)は25(mm)ないし100(mm)でなることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを提供する。
このような構成としたので、請求項1に記載の発明の効果に加えて、炭素繊維材を格子状に配置し、前記幅方向所定間隔L1と前記長手方向所定間隔L2で前記不織布が表出するいわゆる略矩形窓を形成し、コンクリート構造物のひび割れ状態を目視観察することができ、接着剤を含浸した不織布がコンクリート構造物のひび割れの発生及び進展により発色(白濁)するので、該不織布の発色(白濁)現象によりコンクリート構造物の劣化進行状態を目視観察可能となるという効果がある。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、前記補強・補修シートの長手方向には部分的に色彩糸を編み込んでなることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを提供する。
このような構成としたので、補修・補強シート同士の重合せ部の長さを容易に確認できる効果がある。炭素繊維材の繊維束の種類や目付量(g/m2)に合わせて糸の色を変えることにより、補修・補強シートを使用するときに、炭素繊維材の繊維束の種類や目付量(g/m2)が判明できるという効果がある。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、コンクリート構造物の表面を下地処理した後に所定の面積を有した不織布の少なくとも片面に長手方向及び幅方向の2方向に所定間隔を有して配置された帯状の炭素繊維材をステッチ糸で編込んだコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを透明又は半透明の接着剤でコンクリート構造物に貼着し、前記所定間隔の部位から該コンクリート構造物の劣化度合を目視観察可能としたコンクリート構造物の補強・補修工法を提供する。
このような構成としたので、接着剤は例えば変性脂肪族ポリアミン系の2液混合型エポキシ樹脂又は脂環式ポリアミン+脂肪族ポリアミン系の2液混合型エポキシ樹脂で構成され半透明性又は透明性を有するので、コンクリート構造物の界面で付着切れを起こし接着剤を含浸した不織布の発色(白濁)現象が目視観察可能となるという効果がある。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、前記ステッチ糸は前記不織布及び前記炭素繊維材を一体化させるもので、部分的に色彩糸を使用し、該補強・補修シート間の重合せ部および該補強・補修シートの種類を判別可能としたことを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法を提供する。
このような構成としたので、請求項5に記載の発明の効果に加えて、補強・補修シート同士の重合せ部の長さを容易に確認できる効果がある。
【0025】
請求項7に記載の発明によれば、前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートの表面にアクリルシリコーン系樹脂塗料、シリコーン系樹脂塗料やアクリルゴム系塗料からなる群の中から選ばれる1種の塗料を上塗りしたことを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法を提供する。
このような構成としたので、請求項5に記載の発明の効果に加えて、耐候性を向上させる工法を提供するという効果がある。
【0026】
請求項8に記載の発明によれば、前記コンクリート構造物が橋梁コンクリート床版であって、その損傷度判定区分が潜伏期に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートを貼着することを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法を提供する。
このような構成としたので、請求項5に記載の発明の効果に加えて、本工法を潜伏期に適用したのでひび割れ発生の抑制によりコンクリート構造物の長寿命化を図ると共にひび割れ部分に於けるコンクリート片の落下を防止するという効果がある。
【0027】
請求項9に記載の発明によれば、前記コンクリート構造物が橋梁コンクリート床版であって、その損傷度判定区分が進展期に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートを貼着することを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法を提供する。
このような構成としたので、請求項5に記載の発明の効果に加えて、本工法を進展期に適用したので耐荷力の向上とコンクリート構造物の長寿命化を図ると共にひび割れ部分に於けるコンクリート片の落下を防止するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シートの実施の形態を示す図面であって、不織布の外観形状を示す平面図である。
【図2】本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを採用するための不織布、炭素繊維材及びステッチ糸に於ける目付量(g/m2)の選定一覧を示す図である。
【図3】本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シートの実施の形態であって、不織布に於ける目付量(g/m2)の選定評価を示す図である。
【図4】本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シートの実施の形態を示す図面であって、炭素繊維材の外観形状を示す平面図である。
【図5】本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シートの実施の形態を示す図面であって、ステッチ糸で前記不織布に前記炭素繊維素材を編み込んだコンクリート構造物に使用する補強・補修シートの外観形状を示す平面図である。
【図6】本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シートの実施の形態を示す図面であって、図5に示す補強・補修シートのA部分の拡大平面図である。
【図7】本発明に係る補強・補修シートに適用する炭素繊維材、不織布及びステッチ糸の選定一覧を示す図である。
【図8】本発明に係る補強・補修シートに適用する炭素繊維材の選定評価を示す図である。
【図9】本発明に係る補強・補修シートをコンクリート構造物としての橋梁コンクリート床版に貼着した状態を示す垂直断面図である。
【図10】本発明に係る補強・補修シートの工法に於いて当該本発明に係る補強・補修シートを重ね合せた状態を示す平面図である。
【図11】本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法に関して橋梁コンクリート床版のひび割れ特性区分を示す図である。
【図12】本発明に係る補強・補修シートをコンクリート構造物としての橋梁コンクリート床版に貼着した状態を示す垂直断面図であって、不織布が橋梁コンクリート床版の界面で付着切れを起こし接着剤を含浸した不織布が橋梁コンクリート床版のひび割れの発生及び進展により発色(白濁)する状態を示す図である。
【図13】図12の矢印C−Cから見た平面図である。
【図14】本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法に於いて橋梁コンクリート床版に適用する時期を示す図である。
【図15】予め静的載荷試験によりひび割れを導入した鉄筋コンクリート床版の供試体に、本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法を適用した場合の耐荷特性を示す図である。
【図16】従来の技術に於けるコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法の例を示す図面であって、斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及び橋梁床版の補強・補修工法に於ける実施の形態を説明する。
【0030】
図1に示す5は不織布であって、例えばポリエステル繊維材で構成され所定の面積を備えている。該不織布5はポリエステル繊維材と、ポリエチレン材料とを混合した材料やポリエチレン材料、ポリプロピレン等の材料でも構成される。使用する不織布の種類としては、スパンボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、メルトブロー不織布、サーマルボンド不織布などがあり、好ましくは、スパンボンド不織布である。該不織布5の目付量(g/m2)は実験によれば図2に示すように10〜50(g/m2)の範囲のものが適用され、図3に示す不織布に於ける目付量(g/m2)選定評価から明らかなようにシートNo1に示す第1製品ないしシートNo4に示す第4製品ともに含浸性及び透過性に優れていることが判明した。シートNo5に示す第5製品ないしシートNo6に示す第6製品もそれに次いで適用範囲とされる、しかし目付量が50(g/m2)を越えると含浸性や透過性が悪くなり、本発明の適用外となる。好ましい目付量の範囲は、ひび割れの視認性に好ましくかつ優れる目付量(g/m2)は10〜30(g/m2)である。尚、目付量(g/m2)が10(g/m2)未満の不織布5については、不織布5自体の製造が困難となる。当該不織布5はシートNo1ないしシートNo6に係るものはいずれも本発明が所期する効果が示現できた。尚、不織布5はいずれもスパンボンド不織布で構成する。
【0031】
次に本発明に適用する帯状の炭素繊維材について説明する。図4に示すように帯状の炭素繊維材6は長手方向に配置された第1群6aと幅方向に配置された第2群6bで構成され、いわゆる格子状に配置してある。そして図5に示すように該第1群6a及び第2群6bはいずれも多数本を一つの束6A、6Bにして、この各束6A、6Bが4束ないし20束に構成し各束6A、6Bに後述するステッチ糸7で前記不織布5の片面に編み込んでなる。図5に示す矢視A部位を拡大した図6で明らかとなる。ここでL1は幅方向所定間隔を、L2は長手方向所定間隔をそれぞれ意味する。このように構成したので補修・補強工事の施工性を高める。
【0032】
ここで、本発明に適用する帯状の炭素繊維材6は高強度型もしくは中弾性型炭素繊維材であって実験によれば図7に示す本発明の帯状の炭素繊維材6における間隔(L1)および幅長(L4)の選定一覧に示すように各炭素繊維材6に於ける間隔等を変化しても各炭素繊維材6の目付量(g/m2)は一方向目付量(g/m2)で118(g/m2)の一定値を確保できることが分かる。ここで間隔は前述した幅方向所定間隔(L1)に相当し、同一符号L1とする。好ましくは炭素繊維材6の間隔(L1)が50.8(mm)を中心長として25.4(mm)〜101.6(mm)、及び好ましくは炭素繊維材6の幅長(L4)が 50.8(mm)を中心長として25.4(mm)〜101.6(mm)である。そして、前記炭素繊維素材6は引張弾性率(GPa)が240〜450で、引張強度が4.0〜7.0の範囲のものを適用する。炭素繊維素材6の引張試験方法はJIS R7906に準拠するものとする。
【0033】
図5、図6に示すように炭素繊維材6を格子状に配置し、幅方向所定間隔L1と長手方向所定間隔L2で前記不織布5が表出する略矩形窓Bに於ける接着剤11の透過性やコンクリート構造物のコンクリート片の剥落防止に関する押し抜き試験に於いて、荷重作用位置を炭素繊維材6の交叉部6c、略矩形窓B、図10に示す補強・補修シート8、8同士の重合せ部8aとして各荷重と変位の関係を検証した。その結果、荷重作用位置ともにコンクリート構造物が10mm以上の変位時にその荷重が1500(N)以上となった。而してシートNo1に示す第1製品と、シートNo2に示す第2製品が略矩形窓Bでの接着剤11の透過性やコンクリート構造物のコンクリート片の剥落防止を発揮し、本発明が所期する効果を示現できることが判明した。
【0034】
ここで不織布5を構成する長繊維1本1本が接着剤11との界面で付着切れを起こすと共に接着剤11を含有し成形された不織布5がコンクリート構造物の界面で付着切れを起こし接着剤11を含浸した不織布5がコンクリート構造物のひび割れの発生及び進展により発色(白濁)する。そして本発明によれば不織布5の発色(白濁)現象によりコンクリート構造物の劣化進行状態を目視観察可能となる。
【0035】
前記ステッチ糸7は不織布5を炭素繊維材6と一体化するための編み糸であり、ポリエステル糸、ガラス糸などが使用されるが、材質に制約されるものではない。該ステッチ糸7は、例えばポリエステル材料で構成され不織布5の少なくとも片面に上又は下から垂直方向にいわゆるタテ編みという方法で図4、図5に黒色の炭素繊維材6の第1及び第2群6a、6bの中に白色で示すように編込む。ここで編み機械(図示せず)により不織布5の片面に炭素繊維材6を編み込み、不織布5の両面から編み込んでもよい。そして図4に示すように補強・補修シート8が完成する。尚、ステッチ糸7の材質としては、ポリエステル糸に限らず、ポリエチレン糸やポリプロピレン糸等も使用可能であり、また、タテ編み方法に限らず、丸編み、ヨコ編み等も可能である。
【0036】
叙上の構成からコンクリート構造物に使用する補強・補修シート8を製作することができる。そして、かかるコンクリート構造物に使用する補強・補修シート8を橋梁コンクリート床版10等の表面に接着剤11で貼着する。ここで本発明に適用するコンクリート構造物としては橋梁コンクリート床版、建築スラブ、トンネル、ボックスカルバートや水路等である。
【0037】
次に本発明に係るに係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法に於ける補強・補修シート8の追加構成について説明する。
所定面積を有する補強・補修シート8はコンクリート構造物としての橋梁コンクリート床版10の貼付面積に応じて図10に示すようにこれに1枚毎に重合せた構成とする。つまり、該補強・補修シート8の1枚目の幅長W1と2枚目の幅長W2とを重合せる。この色彩糸9、9はステッチ糸7や不織布5又は炭素繊維材6の彩色とは識別可能としてあり、部分的に異種彩色でなる。そして該色彩糸9、9により該補強・補修シート8同士を重合せたときに重合せ部の長さL3を容易に確認できるという利点を備えるものである。
色彩糸9は、ポリエステル糸、天然繊維糸などがあるが、材質に制約されるものではなく、色についても、黒、白以外であれば、赤色、黄色などが考えられるが、色に制約されるものではない。また、ステッチ糸7の一部を色彩糸9としても良いし、ステッチ糸7とは別に色彩糸9を縫い又は編込みにより設けても良い。またステッチ糸7の一部を色彩糸としてもよいしステッチ糸7とは別に色彩糸9を縫い又は編込みにより設けても良い。
【0038】
次に本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法について図9に基づきを説明する。図9はコンクリート構造物として例えば橋梁コンクリート床版10に本発明に係る補強・補修シートを貼着した状態を示す垂直断面図である。
【0039】
先ず、コンクリート構造物としての橋梁コンクリート床版10の表面10aを下地処理する。下地処理の方法としては橋梁コンクリート床版10の表面10aつまり被着面を研削機によりサンダー処理する。このことから該橋梁コンクリート床版10の表面10aとこれに付着する接着剤11の付着強度を向上させることができる。そして、該橋梁コンクリート床版10の表面10aを素地調整した後エポキシ樹脂系の含浸型プライマーを塗布する。ここで含浸型プライマーは硬化剤として無色透明液でなる脂環式ポリアミン+脂肪族ポリアミンとを主剤として無色透明液のエポキシ樹脂で構成される。次にエポキシ樹脂系の含浸型プライマーを塗布した後に前記接着剤11を塗布する。
【0040】
ここで接着剤11は例えば変性脂肪族ポリアミン系の2液混合型エポキシ樹脂又は脂環式ポリアミン+脂肪族ポリアミン系の2液混合型エポキシ樹脂で構成され半透明又は透明でなる。橋梁コンクリート床版10の表面10aへの使用量(kg/m2)は例えば0.8(kg/m2)となる。そしてステッチ糸7で不織布5に編込まれた炭素繊維材6でなる補強・補修シート8の表面に例えばシリコーン系樹脂塗料でなる上塗材を塗布する。上述した工程を経ることによりコンクリート構造物つまり橋梁コンクリート床版10の補強・補修工法が完成する。
【0041】
該本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法によれば特に炭素繊維材6が縦方向及び横方向の2方向に配置しているので該補強・補修シート8のコンクリート構造物への貼付け作業が1回で完了し及びその接着剤11の含浸作業も1回で完了するのでコンクリート構造物の施工性が極めて高く補修・補強後の仕上げが美麗になるという特徴を備える。
【0042】
次に上述した本発明に係る橋梁コンクリート床版10の補強・補修工法を使用して実際に補修・補強する場合について図11及び図12に基づきコンクリート構造物としての橋梁コンクリート床版10のひび割れ特性区分やコンクリート構造物のとしての橋梁コンクリート床版10の補強・補修工法の適用時期等について説明する。
【0043】
図11は森北出版株式会社発行の題名「道路橋床版 設計・施工と維持管理」(松井繁之編著)による橋梁コンクリート床版10のひび割れ特性区分を示す図であって、新設から長年月経過後に当該コンクリート構造物すなわち橋梁コンクリート床版10が劣化する場合を考察した図である。劣化ランクすなわち損傷度判定区分としては図14に示すように大概して新設時の健全な状態(0)から潜伏期(1)、進展期(2)、加速期(3)及び劣化期(4)の5段階に区分される。
【0044】
そして、橋梁コンクリート床版10のひび割れ状態を確定する因子としては第1に平均ひび割れ間隔(I)、第2にひび割れ密度(D)、第3にひび割れ幅(W)、第4にひび割れパターンである。つまり損傷度判定区分が新設時の健全な状態であれば、上述した因子はそれぞれI≧1.0m、D≦1m/m2、ヘアークラック、一方向ひび割れとなり、橋梁コンクリート床版の表面状態は一般に良好であると判断される。次いで、損傷度判定区分が健全な状態(0)から時間を経れば潜伏期(1)となり、上述した因子はそれぞれI=0.6〜1.0m、D=1〜3m/m2、主なひび割れがW≦0.1mm、一方向又は二方向ひび割れとなり、この時点でひび割れの視認性があり橋梁コンクリート床版10の表面状態は一般に良好であると判断される。
【0045】
ここで図12、図13に示すように不織布5を構成する長繊維5a1本1本が接着剤11との界面11aつまり接着剤11の界面で付着切れを起こすと共に接着剤11を含有し成形された不織布5が橋梁コンクリート床版の界面で付着切れを起こし接着剤11を含浸した不織布5が橋梁コンクリート床版10のひび割れ10bの発生及び進展により発色(白濁)5bする。そして本発明によれば不織布5の発色(白濁)現象によりコンクリート構造物つまり橋梁コンクリート床版10の劣化進行状態を目視観察可能となる。
【0046】
さらに、前記潜伏期(1)から時間を経れば進展期(2)に入り上述した因子はそれぞれI=0.4〜0.6m、D=3〜5m/m2、主なひび割れがW=0.1〜0.2mm、二方向のひび割れとなる。この時点でコンクリート構造物の表面は水漏れや遊離石灰滲出現象を呈する。
【0047】
次に進展期(2)から時間を経れば加速期(3)に入る。上述した因子はそれぞれI=0.2〜0.4m、D=5〜7m/m2、主なひび割れがW=0.2mm、格子状のひび割れとなり、橋梁コンクリート床版10の表面は進展期(2)に加えて亀甲状ひび割れ現象を呈する。
【0048】
最後に加速期(3)から時間を経れば劣化期(4)となり上述した因子はそれぞれI≦0.2、D≧7m/m2、主なひび割れがW≧0.2mm、格子状のひび割れは加速期(3)に加えて橋梁コンクリート床版10の舗装の陥没や欠落現象を呈し、該橋梁コンクリート床版10の寿命が終わる。
【0049】
そして本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法を適用する場合は図14に示すように橋梁コンクリート床版10に於ける損傷度判定区分が健全な状態(0)から進展期(2)まで適時に採用・施工する。そして加速期(3)及び劣化期(4)では他工法例えば鋼板接着工法や上面増厚工法又は床版打替工法を採用して該橋梁コンクリート床版10の補修・補強を行なう。かくして本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法によればこれを採用しない場合、つまり無補強のときに比較し、該橋梁コンクリート床版10の耐用期間を増大することができる。
【0050】
図15は供試体としてコンクリート構造物である鉄筋コンクリート床版についての耐荷特性を示している。
そして予め静的載荷試験を行ないひび割れを導入した鉄筋コンクリート床版の供試体に本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法を適用した場合を示している。そこでコンクリート構造物10としての鉄筋コンクリート床版の供試体(幅2800×長さ3500mm×高さ160、主桁端部:210mm)に本発明に係る補強・補修シート8を炭素繊維材6の目付量が118(g/m2)のもの(図8における製品2)を2層貼着した後に再度静的載荷試験を行なった結果、図15に示すように17%程度の耐力向上が確認できた。尚、図15に於いて載荷荷重(kN)は下側鉄筋の歪(×10−6)が許容引張応力度に達する700×10−6までとした。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法は、三面水路や水路トンネル、地下構造物、下水処理施設又は薬液貯留槽等各種の水利構造物等でなるコンクリート構造物の表面に適用する。
【符号の説明】
【0052】
5 不織布
5a 不織布の長繊維
5b 不織布の発色(白濁)
6 炭素繊維材
6a 炭素繊維材の第1群
6b 炭素繊維材の第2群
6c 炭素繊維材の交叉部
6A 炭素繊維材の束
6B 炭素繊維材の束
7 ステッチ糸
8 補強・補修シート
8a 補強・補修シートの重合せ部
9 色彩糸
10 コンクリート構造物(橋梁コンクリート床版)
10a コンクリート構造物(橋梁コンクリート床版)の表面
10b コンクリート構造物(橋梁コンクリート床版)のひび割れ
11 接着剤
11a 接着剤との界面
B 略矩形窓
L1 炭素繊維材の幅方向所定間隔(炭素繊維材の間隔)
L2 炭素繊維材の長手方向所定間隔
L3 補強・補修シートの重合せ部の長さ
L4 炭素繊維材の幅長
W1 補強・補修シートの幅長
W2 補強・補修シートの幅長
【技術分野】
【0001】
本発明は、予めコンクリート構造物に於けるひび割れの発生を抑制し、引き続き施工後もひび割れの発生及び劣化状況を目視により観察してコンクリート構造物の耐久性を確保し、その管理を目的としたコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種、コンクリート構造物を補強する連続繊維シート及び道路床版の補強方法の例としては図16に示す特開2005−29953号公開特許公報に開示した技術がある。これについて説明すれば、道路床版1の下面に、連続補強繊維2を格子状に配置し、それに樹脂を含浸して帯状連続繊維シート3の格子構造体4を構成するとともに接着する。形状寸法の一例として幅25cmの帯状連続繊維シート3が間隔10cmにて格子状に配置されており、帯状連続繊維シート3自体を繋ぐ場合には、重ね継手ラップ長10cmで繋ぎ合わせてある。このような帯状連続繊維シート3の格子構造体4を道路床版1に接着するに際して、道路床版1の単位幅当たりの引張剛性が45〜75kN/mmとなるように構成する。
【0003】
連続補強繊維2は炭素繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、ガラス繊維を適用し、特に、炭素繊維、アラミド繊維を使用する。帯状連続繊維シート3を構成するために連続補強繊維2に含浸する樹脂は、エポキシ樹脂、メチルメタクリレート樹脂、ビニルエステル系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂を適用し、特にエポキシ樹脂を使用する場合がある。
【0004】
帯状連続繊維シート3は各々1層ずつ、道路床版1の主筋方向すなわち長手方向および配力筋方向すなわち長手方向と直交する方向に各々接着する。そして、下地である道路床版1の下面のケレンを行なう。このとき、施工範囲の割付け、墨出しや、洗浄、乾燥、さらには劣化層を除去し研磨を行なう。その下地にプライマーを塗布し、格子部の墨出しマスキングを行ない、プライマーを調製してそれを刷毛塗りで塗布し、硬化させる。また、不陸修正を行ない、凸部の削り取りやハンチ入隅の平滑化をして凹部のエポキシパテ埋めを行なう。この上に、1層目帯状連続繊維シート3を貼り付ける。具体的手順は、1層目墨出しマスキングを行い、樹脂を調製してローラー刷毛塗りすなわち下塗りを行った後、その上に1層目帯状連続繊維シート3を貼り付けてしごき含浸し脱泡を行ない、その上にさらにローラー刷毛塗りすなわち上塗りを行った後しごき含浸し脱泡を行ない、1層目マスキングを除去する。さらに、2層目帯状連続繊維シート3を貼り付ける。具体的手順は、2層目墨出しマスキングを行ない、樹脂を調製してローラー刷毛塗りすなわち下塗りを行なった後、その上に帯状連続繊維シート3を貼り付けてしごき含浸し脱泡を行ない、その上にローラー刷毛塗りすなわち上塗りを行った後、しごき含浸し脱泡を行ない、2層目マスキングを除去する。そして1層目帯状連続繊維シート3及び2層目帯状連続繊維シート3を格子状に接着した後に養生する道路床版1の補強方法に係る技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−29953号公開特許公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術は叙上した構成であるので次の課題が存在した。すなわち、先ずコンクリート構造物の補修のための施工期間が大幅に長期となりそれに伴う施工費用が甚大となるうえに詳細な墨出し作業が必要となった。またコンクリート構造物の表面にプライマーを塗布するとき、格子状の開口部(窓部)を避けて塗布しなければならないので処理方法が面倒であった。夏期に於けるコンクリート構造物の補修作業は一方向に帯状連続繊維シートを貼着し少なくとも1日樹脂養生してから、他方向に帯状連続繊維シートを貼着しなければならないので補修作業工程が複雑であるという問題点があった。
【0007】
次にコンクリート構造物の補修・施工に於いて品質上の問題点を有した。すなわち、帯状連続繊維シートをコンクリート構造物の表面に含浸接着する場合、ローラー等でしごき脱泡作業を繰返すことが必要であり、接着剤を均一に含浸させることは容易ではないという問題点があった。また、コンクリート構造物のひび割れ発生状態を遠方からの目視観察することが容易ではなくコンクリート構造物のひび割れを至近距離のみでしか目視することができないという問題点があった。さらに、所定区画及び所定長を有する帯状連続繊維シートの重ね継手部分がコンクリート構造物の補修施工後に該重ね継手部分の有無や部位を外部から判断することが困難であるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法は、コンクリート構造物に於けるひび割れの発生及びひび割れ部分に於けるコンクリート片の落下を抑制し、引き続き施工後もひび割れの発生及び劣化状況を目視により観察するものであってコンクリート構造物の耐久性を確保し、その管理を目的として発明したものであり次の構成から成立する。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、コンクリート構造物の表面に貼着するものであって、所定の面積を有した不織布と、該不織布の少なくとも片面に長手方向及び幅方向の2方向に所定間隔を有して配置され、ステッチ糸で編込まれた帯状の炭素繊維材とでなることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、コンクリート構造物に使用する補強・補修シートであり請求項1記載の発明に於いて前記不織布の目付量(g/m2)は10ないし50(g/m2)でなることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、コンクリート構造物に使用する補強・補修シートであり請求項1記載の発明に於いて前記炭素繊維材に於ける幅方向所定間隔(L1)及び長手方向所定間隔(L2)は25(mm)ないし100(mm)であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、コンクリート構造物に使用する補強・補修シートであり請求項1記載の発明に於いて前記補強・補修シートの長手方向には部分的に色彩糸を使用することを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明によれば、コンクリート構造物の補強・補修工法であり、
コンクリート構造物の表面を下地処理した後に所定の面積を有した不織布の少なくとも片面に長手方向及び幅方向の2方向に所定間隔を有して配置された帯状の炭素繊維材をステッチ糸で編込んだコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを透明又は半透明の接着剤でコンクリート構造物に貼着し、前記所定間隔の部位から該コンクリート構造物の劣化度合を目視観察可能としたことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明によれば、コンクリート構造物の補強・補修工法であり、請求項5記載の発明に於いて前記ステッチ糸は前記不織布及び前記炭素繊維材を一体化させるもので、部分的に色彩糸を使用し、該補強・補修シート間の重合せ部および該補強・補修シートの種類を判別可能としたことを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明によれば、コンクリート構造物の補強・補修工法であり、請求項5記載の発明に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートの表面にアクリルシリコーン系樹脂塗料、シリコーン系樹脂塗料やアクリルゴム系塗料からなる群の中から選ばれる1種の塗料を上塗りしたことを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明によれば、コンクリート構造物の補強・補修工法であり、請求項5記載の発明に於いて前記コンクリート構造物が橋梁コンクリート床版であって、その損傷度判定区分が潜伏期に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートを貼着することを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の発明によれば、コンクリート構造物の補強・補修工法であり、請求項5記載の発明に於いて前記コンクリート構造物が橋梁コンクリート床版であって、その損傷度判定区分が進展期に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートを貼着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法は叙上した構成、作用を有するので、次の効果がある。
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、コンクリート構造物の表面に貼着するものであって、所定の面積を有した不織布と、該不織布の少なくとも片面に長手方向及び幅方向の2方向に所定間隔を有して配置され、ステッチ糸で編込まれた帯状の炭素繊維材とでなることを特徴とするコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを提供する。
このような構成としたので特に炭素繊維材が縦方向及び横方向の2方向に配置しているので該補強・補修シートのコンクリート構造物への貼付け作業が1回で完了し及びその接着剤の含浸作業も1回で完了するのでコンクリート構造物の施工性が極めて高く補修・補強後の仕上げが美麗になる補強・補修シートを提供できると共に施工の期間の短縮による施工費用の縮減することが可能である補強・補修シートを提供できるという効果がある。
【0020】
請求項2に記載の発明によれば、前記不織布の目付量(g/m2)は10ないし50(g/m2)でなることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを提供する。
このような構成としたので請求項1に記載の発明の効果に加えて不織布は本発明が所期する効果を示現できる補強・補修シートを提供できるという効果がある。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、コンクリート構造物に使用する補強・補修シートであり請求項1記載の発明に於いて前記炭素繊維材に於ける幅方向所定間隔(L1)及び長手方向所定間隔(L2)は25(mm)ないし100(mm)でなることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを提供する。
このような構成としたので、請求項1に記載の発明の効果に加えて、炭素繊維材を格子状に配置し、前記幅方向所定間隔L1と前記長手方向所定間隔L2で前記不織布が表出するいわゆる略矩形窓を形成し、コンクリート構造物のひび割れ状態を目視観察することができ、接着剤を含浸した不織布がコンクリート構造物のひび割れの発生及び進展により発色(白濁)するので、該不織布の発色(白濁)現象によりコンクリート構造物の劣化進行状態を目視観察可能となるという効果がある。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、前記補強・補修シートの長手方向には部分的に色彩糸を編み込んでなることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを提供する。
このような構成としたので、補修・補強シート同士の重合せ部の長さを容易に確認できる効果がある。炭素繊維材の繊維束の種類や目付量(g/m2)に合わせて糸の色を変えることにより、補修・補強シートを使用するときに、炭素繊維材の繊維束の種類や目付量(g/m2)が判明できるという効果がある。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、コンクリート構造物の表面を下地処理した後に所定の面積を有した不織布の少なくとも片面に長手方向及び幅方向の2方向に所定間隔を有して配置された帯状の炭素繊維材をステッチ糸で編込んだコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを透明又は半透明の接着剤でコンクリート構造物に貼着し、前記所定間隔の部位から該コンクリート構造物の劣化度合を目視観察可能としたコンクリート構造物の補強・補修工法を提供する。
このような構成としたので、接着剤は例えば変性脂肪族ポリアミン系の2液混合型エポキシ樹脂又は脂環式ポリアミン+脂肪族ポリアミン系の2液混合型エポキシ樹脂で構成され半透明性又は透明性を有するので、コンクリート構造物の界面で付着切れを起こし接着剤を含浸した不織布の発色(白濁)現象が目視観察可能となるという効果がある。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、前記ステッチ糸は前記不織布及び前記炭素繊維材を一体化させるもので、部分的に色彩糸を使用し、該補強・補修シート間の重合せ部および該補強・補修シートの種類を判別可能としたことを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法を提供する。
このような構成としたので、請求項5に記載の発明の効果に加えて、補強・補修シート同士の重合せ部の長さを容易に確認できる効果がある。
【0025】
請求項7に記載の発明によれば、前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートの表面にアクリルシリコーン系樹脂塗料、シリコーン系樹脂塗料やアクリルゴム系塗料からなる群の中から選ばれる1種の塗料を上塗りしたことを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法を提供する。
このような構成としたので、請求項5に記載の発明の効果に加えて、耐候性を向上させる工法を提供するという効果がある。
【0026】
請求項8に記載の発明によれば、前記コンクリート構造物が橋梁コンクリート床版であって、その損傷度判定区分が潜伏期に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートを貼着することを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法を提供する。
このような構成としたので、請求項5に記載の発明の効果に加えて、本工法を潜伏期に適用したのでひび割れ発生の抑制によりコンクリート構造物の長寿命化を図ると共にひび割れ部分に於けるコンクリート片の落下を防止するという効果がある。
【0027】
請求項9に記載の発明によれば、前記コンクリート構造物が橋梁コンクリート床版であって、その損傷度判定区分が進展期に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートを貼着することを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法を提供する。
このような構成としたので、請求項5に記載の発明の効果に加えて、本工法を進展期に適用したので耐荷力の向上とコンクリート構造物の長寿命化を図ると共にひび割れ部分に於けるコンクリート片の落下を防止するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シートの実施の形態を示す図面であって、不織布の外観形状を示す平面図である。
【図2】本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを採用するための不織布、炭素繊維材及びステッチ糸に於ける目付量(g/m2)の選定一覧を示す図である。
【図3】本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シートの実施の形態であって、不織布に於ける目付量(g/m2)の選定評価を示す図である。
【図4】本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シートの実施の形態を示す図面であって、炭素繊維材の外観形状を示す平面図である。
【図5】本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シートの実施の形態を示す図面であって、ステッチ糸で前記不織布に前記炭素繊維素材を編み込んだコンクリート構造物に使用する補強・補修シートの外観形状を示す平面図である。
【図6】本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シートの実施の形態を示す図面であって、図5に示す補強・補修シートのA部分の拡大平面図である。
【図7】本発明に係る補強・補修シートに適用する炭素繊維材、不織布及びステッチ糸の選定一覧を示す図である。
【図8】本発明に係る補強・補修シートに適用する炭素繊維材の選定評価を示す図である。
【図9】本発明に係る補強・補修シートをコンクリート構造物としての橋梁コンクリート床版に貼着した状態を示す垂直断面図である。
【図10】本発明に係る補強・補修シートの工法に於いて当該本発明に係る補強・補修シートを重ね合せた状態を示す平面図である。
【図11】本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法に関して橋梁コンクリート床版のひび割れ特性区分を示す図である。
【図12】本発明に係る補強・補修シートをコンクリート構造物としての橋梁コンクリート床版に貼着した状態を示す垂直断面図であって、不織布が橋梁コンクリート床版の界面で付着切れを起こし接着剤を含浸した不織布が橋梁コンクリート床版のひび割れの発生及び進展により発色(白濁)する状態を示す図である。
【図13】図12の矢印C−Cから見た平面図である。
【図14】本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法に於いて橋梁コンクリート床版に適用する時期を示す図である。
【図15】予め静的載荷試験によりひび割れを導入した鉄筋コンクリート床版の供試体に、本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法を適用した場合の耐荷特性を示す図である。
【図16】従来の技術に於けるコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法の例を示す図面であって、斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及び橋梁床版の補強・補修工法に於ける実施の形態を説明する。
【0030】
図1に示す5は不織布であって、例えばポリエステル繊維材で構成され所定の面積を備えている。該不織布5はポリエステル繊維材と、ポリエチレン材料とを混合した材料やポリエチレン材料、ポリプロピレン等の材料でも構成される。使用する不織布の種類としては、スパンボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布、メルトブロー不織布、サーマルボンド不織布などがあり、好ましくは、スパンボンド不織布である。該不織布5の目付量(g/m2)は実験によれば図2に示すように10〜50(g/m2)の範囲のものが適用され、図3に示す不織布に於ける目付量(g/m2)選定評価から明らかなようにシートNo1に示す第1製品ないしシートNo4に示す第4製品ともに含浸性及び透過性に優れていることが判明した。シートNo5に示す第5製品ないしシートNo6に示す第6製品もそれに次いで適用範囲とされる、しかし目付量が50(g/m2)を越えると含浸性や透過性が悪くなり、本発明の適用外となる。好ましい目付量の範囲は、ひび割れの視認性に好ましくかつ優れる目付量(g/m2)は10〜30(g/m2)である。尚、目付量(g/m2)が10(g/m2)未満の不織布5については、不織布5自体の製造が困難となる。当該不織布5はシートNo1ないしシートNo6に係るものはいずれも本発明が所期する効果が示現できた。尚、不織布5はいずれもスパンボンド不織布で構成する。
【0031】
次に本発明に適用する帯状の炭素繊維材について説明する。図4に示すように帯状の炭素繊維材6は長手方向に配置された第1群6aと幅方向に配置された第2群6bで構成され、いわゆる格子状に配置してある。そして図5に示すように該第1群6a及び第2群6bはいずれも多数本を一つの束6A、6Bにして、この各束6A、6Bが4束ないし20束に構成し各束6A、6Bに後述するステッチ糸7で前記不織布5の片面に編み込んでなる。図5に示す矢視A部位を拡大した図6で明らかとなる。ここでL1は幅方向所定間隔を、L2は長手方向所定間隔をそれぞれ意味する。このように構成したので補修・補強工事の施工性を高める。
【0032】
ここで、本発明に適用する帯状の炭素繊維材6は高強度型もしくは中弾性型炭素繊維材であって実験によれば図7に示す本発明の帯状の炭素繊維材6における間隔(L1)および幅長(L4)の選定一覧に示すように各炭素繊維材6に於ける間隔等を変化しても各炭素繊維材6の目付量(g/m2)は一方向目付量(g/m2)で118(g/m2)の一定値を確保できることが分かる。ここで間隔は前述した幅方向所定間隔(L1)に相当し、同一符号L1とする。好ましくは炭素繊維材6の間隔(L1)が50.8(mm)を中心長として25.4(mm)〜101.6(mm)、及び好ましくは炭素繊維材6の幅長(L4)が 50.8(mm)を中心長として25.4(mm)〜101.6(mm)である。そして、前記炭素繊維素材6は引張弾性率(GPa)が240〜450で、引張強度が4.0〜7.0の範囲のものを適用する。炭素繊維素材6の引張試験方法はJIS R7906に準拠するものとする。
【0033】
図5、図6に示すように炭素繊維材6を格子状に配置し、幅方向所定間隔L1と長手方向所定間隔L2で前記不織布5が表出する略矩形窓Bに於ける接着剤11の透過性やコンクリート構造物のコンクリート片の剥落防止に関する押し抜き試験に於いて、荷重作用位置を炭素繊維材6の交叉部6c、略矩形窓B、図10に示す補強・補修シート8、8同士の重合せ部8aとして各荷重と変位の関係を検証した。その結果、荷重作用位置ともにコンクリート構造物が10mm以上の変位時にその荷重が1500(N)以上となった。而してシートNo1に示す第1製品と、シートNo2に示す第2製品が略矩形窓Bでの接着剤11の透過性やコンクリート構造物のコンクリート片の剥落防止を発揮し、本発明が所期する効果を示現できることが判明した。
【0034】
ここで不織布5を構成する長繊維1本1本が接着剤11との界面で付着切れを起こすと共に接着剤11を含有し成形された不織布5がコンクリート構造物の界面で付着切れを起こし接着剤11を含浸した不織布5がコンクリート構造物のひび割れの発生及び進展により発色(白濁)する。そして本発明によれば不織布5の発色(白濁)現象によりコンクリート構造物の劣化進行状態を目視観察可能となる。
【0035】
前記ステッチ糸7は不織布5を炭素繊維材6と一体化するための編み糸であり、ポリエステル糸、ガラス糸などが使用されるが、材質に制約されるものではない。該ステッチ糸7は、例えばポリエステル材料で構成され不織布5の少なくとも片面に上又は下から垂直方向にいわゆるタテ編みという方法で図4、図5に黒色の炭素繊維材6の第1及び第2群6a、6bの中に白色で示すように編込む。ここで編み機械(図示せず)により不織布5の片面に炭素繊維材6を編み込み、不織布5の両面から編み込んでもよい。そして図4に示すように補強・補修シート8が完成する。尚、ステッチ糸7の材質としては、ポリエステル糸に限らず、ポリエチレン糸やポリプロピレン糸等も使用可能であり、また、タテ編み方法に限らず、丸編み、ヨコ編み等も可能である。
【0036】
叙上の構成からコンクリート構造物に使用する補強・補修シート8を製作することができる。そして、かかるコンクリート構造物に使用する補強・補修シート8を橋梁コンクリート床版10等の表面に接着剤11で貼着する。ここで本発明に適用するコンクリート構造物としては橋梁コンクリート床版、建築スラブ、トンネル、ボックスカルバートや水路等である。
【0037】
次に本発明に係るに係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法に於ける補強・補修シート8の追加構成について説明する。
所定面積を有する補強・補修シート8はコンクリート構造物としての橋梁コンクリート床版10の貼付面積に応じて図10に示すようにこれに1枚毎に重合せた構成とする。つまり、該補強・補修シート8の1枚目の幅長W1と2枚目の幅長W2とを重合せる。この色彩糸9、9はステッチ糸7や不織布5又は炭素繊維材6の彩色とは識別可能としてあり、部分的に異種彩色でなる。そして該色彩糸9、9により該補強・補修シート8同士を重合せたときに重合せ部の長さL3を容易に確認できるという利点を備えるものである。
色彩糸9は、ポリエステル糸、天然繊維糸などがあるが、材質に制約されるものではなく、色についても、黒、白以外であれば、赤色、黄色などが考えられるが、色に制約されるものではない。また、ステッチ糸7の一部を色彩糸9としても良いし、ステッチ糸7とは別に色彩糸9を縫い又は編込みにより設けても良い。またステッチ糸7の一部を色彩糸としてもよいしステッチ糸7とは別に色彩糸9を縫い又は編込みにより設けても良い。
【0038】
次に本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法について図9に基づきを説明する。図9はコンクリート構造物として例えば橋梁コンクリート床版10に本発明に係る補強・補修シートを貼着した状態を示す垂直断面図である。
【0039】
先ず、コンクリート構造物としての橋梁コンクリート床版10の表面10aを下地処理する。下地処理の方法としては橋梁コンクリート床版10の表面10aつまり被着面を研削機によりサンダー処理する。このことから該橋梁コンクリート床版10の表面10aとこれに付着する接着剤11の付着強度を向上させることができる。そして、該橋梁コンクリート床版10の表面10aを素地調整した後エポキシ樹脂系の含浸型プライマーを塗布する。ここで含浸型プライマーは硬化剤として無色透明液でなる脂環式ポリアミン+脂肪族ポリアミンとを主剤として無色透明液のエポキシ樹脂で構成される。次にエポキシ樹脂系の含浸型プライマーを塗布した後に前記接着剤11を塗布する。
【0040】
ここで接着剤11は例えば変性脂肪族ポリアミン系の2液混合型エポキシ樹脂又は脂環式ポリアミン+脂肪族ポリアミン系の2液混合型エポキシ樹脂で構成され半透明又は透明でなる。橋梁コンクリート床版10の表面10aへの使用量(kg/m2)は例えば0.8(kg/m2)となる。そしてステッチ糸7で不織布5に編込まれた炭素繊維材6でなる補強・補修シート8の表面に例えばシリコーン系樹脂塗料でなる上塗材を塗布する。上述した工程を経ることによりコンクリート構造物つまり橋梁コンクリート床版10の補強・補修工法が完成する。
【0041】
該本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法によれば特に炭素繊維材6が縦方向及び横方向の2方向に配置しているので該補強・補修シート8のコンクリート構造物への貼付け作業が1回で完了し及びその接着剤11の含浸作業も1回で完了するのでコンクリート構造物の施工性が極めて高く補修・補強後の仕上げが美麗になるという特徴を備える。
【0042】
次に上述した本発明に係る橋梁コンクリート床版10の補強・補修工法を使用して実際に補修・補強する場合について図11及び図12に基づきコンクリート構造物としての橋梁コンクリート床版10のひび割れ特性区分やコンクリート構造物のとしての橋梁コンクリート床版10の補強・補修工法の適用時期等について説明する。
【0043】
図11は森北出版株式会社発行の題名「道路橋床版 設計・施工と維持管理」(松井繁之編著)による橋梁コンクリート床版10のひび割れ特性区分を示す図であって、新設から長年月経過後に当該コンクリート構造物すなわち橋梁コンクリート床版10が劣化する場合を考察した図である。劣化ランクすなわち損傷度判定区分としては図14に示すように大概して新設時の健全な状態(0)から潜伏期(1)、進展期(2)、加速期(3)及び劣化期(4)の5段階に区分される。
【0044】
そして、橋梁コンクリート床版10のひび割れ状態を確定する因子としては第1に平均ひび割れ間隔(I)、第2にひび割れ密度(D)、第3にひび割れ幅(W)、第4にひび割れパターンである。つまり損傷度判定区分が新設時の健全な状態であれば、上述した因子はそれぞれI≧1.0m、D≦1m/m2、ヘアークラック、一方向ひび割れとなり、橋梁コンクリート床版の表面状態は一般に良好であると判断される。次いで、損傷度判定区分が健全な状態(0)から時間を経れば潜伏期(1)となり、上述した因子はそれぞれI=0.6〜1.0m、D=1〜3m/m2、主なひび割れがW≦0.1mm、一方向又は二方向ひび割れとなり、この時点でひび割れの視認性があり橋梁コンクリート床版10の表面状態は一般に良好であると判断される。
【0045】
ここで図12、図13に示すように不織布5を構成する長繊維5a1本1本が接着剤11との界面11aつまり接着剤11の界面で付着切れを起こすと共に接着剤11を含有し成形された不織布5が橋梁コンクリート床版の界面で付着切れを起こし接着剤11を含浸した不織布5が橋梁コンクリート床版10のひび割れ10bの発生及び進展により発色(白濁)5bする。そして本発明によれば不織布5の発色(白濁)現象によりコンクリート構造物つまり橋梁コンクリート床版10の劣化進行状態を目視観察可能となる。
【0046】
さらに、前記潜伏期(1)から時間を経れば進展期(2)に入り上述した因子はそれぞれI=0.4〜0.6m、D=3〜5m/m2、主なひび割れがW=0.1〜0.2mm、二方向のひび割れとなる。この時点でコンクリート構造物の表面は水漏れや遊離石灰滲出現象を呈する。
【0047】
次に進展期(2)から時間を経れば加速期(3)に入る。上述した因子はそれぞれI=0.2〜0.4m、D=5〜7m/m2、主なひび割れがW=0.2mm、格子状のひび割れとなり、橋梁コンクリート床版10の表面は進展期(2)に加えて亀甲状ひび割れ現象を呈する。
【0048】
最後に加速期(3)から時間を経れば劣化期(4)となり上述した因子はそれぞれI≦0.2、D≧7m/m2、主なひび割れがW≧0.2mm、格子状のひび割れは加速期(3)に加えて橋梁コンクリート床版10の舗装の陥没や欠落現象を呈し、該橋梁コンクリート床版10の寿命が終わる。
【0049】
そして本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法を適用する場合は図14に示すように橋梁コンクリート床版10に於ける損傷度判定区分が健全な状態(0)から進展期(2)まで適時に採用・施工する。そして加速期(3)及び劣化期(4)では他工法例えば鋼板接着工法や上面増厚工法又は床版打替工法を採用して該橋梁コンクリート床版10の補修・補強を行なう。かくして本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法によればこれを採用しない場合、つまり無補強のときに比較し、該橋梁コンクリート床版10の耐用期間を増大することができる。
【0050】
図15は供試体としてコンクリート構造物である鉄筋コンクリート床版についての耐荷特性を示している。
そして予め静的載荷試験を行ないひび割れを導入した鉄筋コンクリート床版の供試体に本発明に係るコンクリート構造物の補強・補修工法を適用した場合を示している。そこでコンクリート構造物10としての鉄筋コンクリート床版の供試体(幅2800×長さ3500mm×高さ160、主桁端部:210mm)に本発明に係る補強・補修シート8を炭素繊維材6の目付量が118(g/m2)のもの(図8における製品2)を2層貼着した後に再度静的載荷試験を行なった結果、図15に示すように17%程度の耐力向上が確認できた。尚、図15に於いて載荷荷重(kN)は下側鉄筋の歪(×10−6)が許容引張応力度に達する700×10−6までとした。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係るコンクリート構造物に使用する補強・補修シート及びコンクリート構造物の補強・補修工法は、三面水路や水路トンネル、地下構造物、下水処理施設又は薬液貯留槽等各種の水利構造物等でなるコンクリート構造物の表面に適用する。
【符号の説明】
【0052】
5 不織布
5a 不織布の長繊維
5b 不織布の発色(白濁)
6 炭素繊維材
6a 炭素繊維材の第1群
6b 炭素繊維材の第2群
6c 炭素繊維材の交叉部
6A 炭素繊維材の束
6B 炭素繊維材の束
7 ステッチ糸
8 補強・補修シート
8a 補強・補修シートの重合せ部
9 色彩糸
10 コンクリート構造物(橋梁コンクリート床版)
10a コンクリート構造物(橋梁コンクリート床版)の表面
10b コンクリート構造物(橋梁コンクリート床版)のひび割れ
11 接着剤
11a 接着剤との界面
B 略矩形窓
L1 炭素繊維材の幅方向所定間隔(炭素繊維材の間隔)
L2 炭素繊維材の長手方向所定間隔
L3 補強・補修シートの重合せ部の長さ
L4 炭素繊維材の幅長
W1 補強・補修シートの幅長
W2 補強・補修シートの幅長
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面に貼着するものであって、所定の面積を有した不織布と、該不織布の少なくとも片面に長手方向及び幅方向の2方向に所定間隔を有して配置され、ステッチ糸で編込まれた帯状の炭素繊維材とでなることを特徴とするコンクリート構造物に使用する補強・補修シート。
【請求項2】
前記不織布の目付量(g/m2)は10ないし50(g/m2)でなることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物に使用する補強・補修シート。
【請求項3】
前記炭素繊維材に於ける幅方向所定間隔(L1)及び長手方向所定間隔(L2)は25(mm)ないし100(mm)であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物に使用する補強・補修シート。
【請求項4】
前記補強・補修シートの長手方向には部分的に色彩糸を使用することを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物に使用する補強・補修シート。
【請求項5】
コンクリート構造物の表面を下地処理した後に所定の面積を有した不織布の少なくとも片面に長手方向及び幅方向の2方向に所定間隔を有して配置された帯状の炭素繊維材をステッチ糸で編込んだコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを透明又は半透明の接着剤でコンクリート構造物に貼着し、前記所定間隔の部位から該コンクリート構造物の劣化度合を目視観察可能としたことを特徴とするコンクリート構造物の補強・補修工法。
【請求項6】
前記ステッチ糸は前記不織布及び前記炭素繊維材を一体化させるもので、部分的に色彩糸を使用し、該補強・補修シート間の重合せ部および該補強・補修シートの種類を判別可能としたことを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法。
【請求項7】
前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートの表面にアクリルシリコーン系樹脂塗料、シリコーン系樹脂塗料やアクリルゴム系塗料からなる群の中から選ばれる1種の塗料を上塗りしたことを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法。
【請求項8】
前記コンクリート構造物が橋梁コンクリート床版であって、その損傷度判定区分が潜伏期に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートを貼着することを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法。
【請求項9】
前記コンクリート構造物が橋梁コンクリート床版であって、その損傷度判定区分が進展期に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートを貼着することを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法。
【請求項1】
コンクリート構造物の表面に貼着するものであって、所定の面積を有した不織布と、該不織布の少なくとも片面に長手方向及び幅方向の2方向に所定間隔を有して配置され、ステッチ糸で編込まれた帯状の炭素繊維材とでなることを特徴とするコンクリート構造物に使用する補強・補修シート。
【請求項2】
前記不織布の目付量(g/m2)は10ないし50(g/m2)でなることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物に使用する補強・補修シート。
【請求項3】
前記炭素繊維材に於ける幅方向所定間隔(L1)及び長手方向所定間隔(L2)は25(mm)ないし100(mm)であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物に使用する補強・補修シート。
【請求項4】
前記補強・補修シートの長手方向には部分的に色彩糸を使用することを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物に使用する補強・補修シート。
【請求項5】
コンクリート構造物の表面を下地処理した後に所定の面積を有した不織布の少なくとも片面に長手方向及び幅方向の2方向に所定間隔を有して配置された帯状の炭素繊維材をステッチ糸で編込んだコンクリート構造物に使用する補強・補修シートを透明又は半透明の接着剤でコンクリート構造物に貼着し、前記所定間隔の部位から該コンクリート構造物の劣化度合を目視観察可能としたことを特徴とするコンクリート構造物の補強・補修工法。
【請求項6】
前記ステッチ糸は前記不織布及び前記炭素繊維材を一体化させるもので、部分的に色彩糸を使用し、該補強・補修シート間の重合せ部および該補強・補修シートの種類を判別可能としたことを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法。
【請求項7】
前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートの表面にアクリルシリコーン系樹脂塗料、シリコーン系樹脂塗料やアクリルゴム系塗料からなる群の中から選ばれる1種の塗料を上塗りしたことを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法。
【請求項8】
前記コンクリート構造物が橋梁コンクリート床版であって、その損傷度判定区分が潜伏期に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートを貼着することを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法。
【請求項9】
前記コンクリート構造物が橋梁コンクリート床版であって、その損傷度判定区分が進展期に於いて前記コンクリート構造物に使用する補強・補修シートを貼着することを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物の補強・補修工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−26238(P2012−26238A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168768(P2010−168768)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000107044)ショーボンド建設株式会社 (71)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000107044)ショーボンド建設株式会社 (71)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【Fターム(参考)】
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