説明

コンクリート構造物のひび割れ抑制工法

【課題】いずれの材料のコンクリートであっても、ひび割れを抑制することができる抑制工法を提供する。
【解決手段】コンクリート製の床版とコンクリート製の壁とを備えたコンクリート構造物のひび割れ抑制工法である。床版と壁とを接合するための鉄筋が露出するように、コンクリートを打設して床版を形成し、床版の硬化後、鉄筋が埋設されるようにコンクリートを打設して壁を形成する。そして、床版と壁との間の少なくとも一部に空間を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物のひび割れ抑制工法に関する。
【背景技術】
【0002】
壁状構造物での床版や、トンネルでのインバート部などの拘束体上に、壁やトンネルアーチ部などの被拘束体が直接打ち込まれると、コンクリートの水和や乾燥による収縮が拘束体に拘束されることで、被拘束体にひび割れが発生することになっていいた。
【0003】
このひび割れを抑制すべく、近年においてはコンクリート構造物の基盤に接する最下層部に凝結遅延材を混入したコンクリートを打設した後、続いて凝結遅延剤を混入しないコンクリートを打設する工法が開発されている。この工法により、凝結遅延材が混入されていないコンクリート部が冷却し収縮している期間中、最下層部は硬化していないので、前記コンクリート部が基盤に拘束されることが防止される。これにより、基盤によって前記コンクリート部に引張応力が発生することはなく、ひび割れの発生が抑制されることになる。
【特許文献1】特開昭61−32453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、コンクリートは施工場所の環境条件(温度や湿潤条件等)によって硬化具合が変動するものであるため、上記した特許文献1記載の技術であると、最下層部に用いられるコンクリートの材料によっては環境条件の影響を受けてしまい、ひび割れの抑制効果があまり得られないのが実状であった。
【0005】
本発明の課題は、いずれの材料のコンクリートであっても、ひび割れを抑制することができる抑制工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、
コンクリート製の床版とコンクリート製の壁とを備えたコンクリート構造物のひび割れ抑制工法であって、
前記床版と前記壁とを接合するための鉄筋が露出するように、コンクリートを打設して前記床版を形成し、前記床版の硬化後、前記鉄筋が埋設されるようにコンクリートを打設して前記壁を形成する際、
前記床版と前記壁との間の少なくとも一部に空間が形成されることを特徴としている。
【0007】
請求項2記載の発明は、
請求項1記載のコンクリート構造物のひび割れ抑制工法において、
前記空間内にグラウトを充填し、当該グラウト、前記床版及び前記壁を一体化することを特徴としている。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のコンクリート構造物のひび割れ抑制工法において、
前記コンクリート構造物がトンネルであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、床版と壁との間の少なくとも一部に空間が形成されることになるので、被拘束体である壁と、拘束体である床版との接触面積を小さくすることができる。これにより、壁をなすコンクリートが硬化する際に、当該コンクリート内に床版の影響による引張応力が発生することが抑制されて、ひび割れを抑制することができる。
そして、このひび割れ抑制工法は、床版と壁との間の少なくとも一部に空間を形成するという構造的な方式であるために、いずれのコンクリートの材料であっても環境条件に左右されることなく、ひび割れ抑制効果を十分に発揮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[第1の実施の形態]
以下、第1の実施の形態に係るコンクリート構造物のひび割れ抑制工法について説明する。図1〜3は、本実施形態のひび割れ抑制工法の概略手順を示す斜視図である。
図1に示すように、まず床版1(図2,4参照)をなす型枠10を設置する。その後、壁2(図4参照)の設置箇所に、中空な六角形状の空間形成部材21を前記壁2の長手方向に延在するように型枠10上に配置し、その空間形成部材21の両側方に、床版1と壁2とを接合するための鉄筋22を複数立設する。なお、空間形成部材21としては、例えば、鋼材、合板型枠、プレキャスト、エアバックなどが挙げられる。
【0011】
その後、図2に示すように型枠10内にコンクリートを打設することによって、コンクリート製の床版1を施工する。この際、鉄筋22の下端部は、床版1内に埋設されるが、それよりも上部は露出することになる。また、床版1には空間形成部材21によって、床版1の内側に向けて略台形状に凹む第一凹部11が形成されることになる。
【0012】
床版1の硬化後、図3に示すように壁2をなす型枠20を鉄筋22及び空間形成部材21を挟むように設置する。そして、型枠20内にコンクリートを打設することによって、コンクリート製の壁2を施工する。この際、鉄筋22の下端部以外は、壁2内に埋設されることになる。また、壁2には空間形成部材21によって、第一凹部11に対して連続するように、壁2の内側に向けて略台形状に凹む第二凹部23(図4参照)が形成されることになる。
【0013】
図4は、施工後における床版1及び壁2の接合部分を示す断面図である。この図4に示すように、床版1及び壁2の接合部分には、空間形成部材21によって空間3が形成されている。この空間3により床版1と壁2との接触面積が小さくされているために、壁2のコンクリートが硬化する際、当該コンクリート内に床版1の影響による引張応力が発生することが抑制されて、ひび割れを抑制することができる。そして、このひび割れ抑制工法は、床版1と壁2との間の少なくとも一部に空間3を形成するという構造的な方式であるために、いずれのコンクリートの材料であっても環境条件に左右されることなく、ひび割れ抑制効果を十分に発揮することが可能となる。
【0014】
ここで、本発明者らは、壁と床版との間に空間を設けた場合と、設けていない場合とで壁の内部に発生する引張応力の違いを3次元FEM・温度応力解析によって比較検討した。この解析では、図5に示す解析モデルを用いた。各条件は、壁幅W1=600mm、空間幅W2=300mm、壁高H1=4000mm、空間高H2=400mm、壁長L=5000mmとした。なお、空間形状は簡易的に四角形状とし、この空間が壁の長手方向全域にわたって形成されているものとした。この解析モデルに対して3次元FEM・温度応力解析を施し、内部の引張応力と、ひび割れ指数とを算出した。一般に、引張応力は、2N/mm以上であると、ひび割れが入りやすくなる。
ひび割れ指数とは、土木学会で定義されたひび割れの入りやすさを示す指標であり、指数が小さいほどひび割れが入りやすくなる。ひび割れ指数は以下の式(1)で算出される。
【0015】
ひび割れ指数=解析対象箇所の引張強度/発生する引張応力・・・(1)
【0016】
図6は、壁と床版との間に空間を設けた場合と、設けていない場合とで壁の内部に発生する引張応力の比較結果を示し、図7はひび割れ指数の比較結果を示している。図6では色が濃くなるにつれて引張応力が高まっていて、図7では色が濃くなるにつれてひび割れ指数が低くなっている。つまり、いずれの図においても、色が濃くなるにつれてひび割れが発生しやすくなることを表している。図6,図7に示す通り、空間を設けた方が、設けていない場合よりも、ひび割れが発生しにくくなっていることがわかる。
【0017】
また、ひび割れ指数の時間変動を比較する。図8は壁と床版との間に空間を設けた場合のひび割れ指数の時間変動を示し、図9は壁と床版との間に空間を設けていない場合のひび割れ指数の時間変動を示している。図8,9ともに、任意な2点でのひび割れ指数の時間変動を示している。例えば本実施形態では、図5の点Pを原点としたとき、1点目の座標(x1、y1,z1)は(75,2500,150)であり、2点目の座標(x2、y2,z2)は(225,2500,150)である。いずれの図でも、時間経過に伴ってひび割れ指数は徐々に低減していることがわかる。また、これら図8,9を比較すると、ひび割れ指数の最小値は、空間がない場合では1.10程度であるのに対し、空間がある場合では1.35程度となる。時間変動によっても、空間を設けた方が、設けていない場合よりもひび割れが発生しにくくなっていることがわかる。
【0018】
なお、このシミュレーションにおいては、解析を簡便化するために空間の形状を四角形状としているが、空間の形状は如何なる形状であってもよい。なお、上述した空間3のように、床版1側に向けて略台形状に凹む第一凹部11と、第一凹部11に対して連続するように壁2側に向けて略台形状に凹む第二凹部23とから形成されている方が、単に四角形状な空間よりも壁2内部の引張応力を低減することができ、好ましい。
【0019】
また、本実施形態では、空間3を形成するために中空な六角形上の空間形成部材21を用いたが、例えば図10に示すように、台形状の凹部24を備えた板状の空間形成部材25を2枚重ね合わせることで空間31を形成するようにしてもよい。具体的には、2枚の空間形成部材25は、それぞれ壁2の幅Wに対応する幅に形成されていて、その中央部に台形状の凹部24が形成されている。床版1側に配置される空間形成部材25は凹部24が床版1内に埋設されるように配置されて、壁2側に配置される空間形成部材25は凹部24が壁2内に埋設されるように配置されている。この2枚の空間形成部材25の間には、両空間形成部材25の接触を回避する略円柱状のスペーサー41が介在している。壁2をなすコンクリートが施工されると、壁2と床版1との間には、2枚の空間形成部材25とスペーサー41とによって空間31が形成されることになる。
ところで、この空間形成部材25は、鉄筋22がある場所に配置することはできないために、空間31を壁2の長手方向全域にわたって形成することはできない。しかしながら、長手方向における鉄筋22間に空間形成部材25を配置したとしても、床版1と壁2との接触面積を小さくすることはでき、床版1の拘束力の影響により壁2内にひびが発生することは十分防止することができる。
【0020】
壁2と床版1とはほとんど接触していないが、壁2は鉄筋22により支えられることになる。しかしながら、このままでは水平方向の剪断力に弱いために、壁2をなすコンクリートの硬化後に、空間31内に無収縮モルタル等のグラウトGを充填し、当該グラウトG、床版1及び壁2を一体化して、水平方向の剪断力に耐えうる構造にすることが好ましい(図11参照)。
【0021】
[第2の実施の形態]
以下、第2の実施の形態に係るコンクリート構造物のひび割れ抑制工法について説明する。図12〜15は、本実施形態のひび割れ抑制工法の概略手順を示す斜視図である。
図12に示すように、まず床版1a(図13,16参照)をなす型枠10aを設置する。その後、壁2a(図16参照)の設置箇所に、床版1aと壁2aとを接合するための複数の鉄筋22aを2列立設する
【0022】
その後、図13に示すように型枠10a内にコンクリートを打設することによって、コンクリート製の床版1aを施工する。この際、鉄筋22aの下端部は、床版1a内に埋設されるが、それよりも上部は露出することになる。また、2列の鉄筋22aの間は、その表面が他の部分よりも粗くなるように、周知の目粗処理を施す。以下、目粗処理が施された部分を目粗部50と称す。
【0023】
床版1の硬化後、図14に示すように、略V字状の空間形成部材26を逆V字状として目粗部50上に配置する。
その後、壁2aをなす型枠20aを鉄筋22a及び空間形成部材26を挟むように設置する。そして、型枠20a内にコンクリートを打設することによって、コンクリート製の壁2aを施工する。この際、鉄筋22aの下端部以外は、壁2a内に埋設されることになる。また、壁2aには空間形成部材26によって、底辺を床版1aの表面とし、壁2a側に向けて凹む略三角形状の空間34が形成される(図15参照)。
【0024】
図16は、施工後における床版1a及び壁2aの接合部分を示す断面図である。この図16に示すように、床版1a及び壁2aの接合部分には、空間形成部材26によって空間34が形成されている。この空間34により床版1aと壁2aとの接触面積が小さくされているために、壁2aのコンクリートが硬化する際、当該コンクリート内に床版1aの影響による引張応力が発生することが抑制されて、ひび割れを抑制することができる。
【0025】
また、本実施形態では、空間34を形成するためにV字状の空間形成部材26を用いたが、例えば図17に示すように、V字状の凹部27を備えた空間形成部材28によって空間35を形成するようにしてもよい。具体的には、空間形成部材28は、壁2aの幅Wに対応する幅に形成されていて、その中央部にV字状の凹部27が形成されている。空間形成部材28は凹部27が壁2a内に埋設されるように配置されている。空間形成部材28の両端部と床版1aとの間には、これらの接触を回避する略円柱状のスペーサー41aが介在している。壁2aをなすコンクリートが施工されると、壁2aと床版1aとの間には、空間形成部材28とスペーサー41aとによって空間35が形成されることになる。これにより、床版1aと壁2aとの接触面積を小さくすることができ、床版1aの拘束力の影響により壁2a内にひびが発生することをより防止することができる。
【0026】
なお、本発明は上記実施形態に限らず適宜変更可能であるのは勿論である。
例えば、第1及び第2の実施の形態では、空間3,34以外の領域では、床版1,1aをなすコンクリートと壁2,2aをなすコンクリートが直接接触している場合を例示して説明したが、この両者間に摩擦低減シート4を介在させてもよい(図18,19参照)。これにより、壁2,2aの硬化時に、壁2,2aと床版1,1aとの両者間の摩擦を低減でき、床版1,1aの影響による引張応力を一層抑えることが可能となる。
【0027】
また、上述のコンクリート構造物のひび割れ抑制工法を、トンネルなど無筋コンクリートに適用する場合においては、床版と壁とを接合する鉄筋を用いることが必要である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の実施の形態に係るコンクリート構造物のひび割れ抑制工法の概略手順を示す斜視図である。
【図2】第1の実施の形態に係るコンクリート構造物のひび割れ抑制工法の概略手順を示す斜視図である。
【図3】第1の実施の形態に係るコンクリート構造物のひび割れ抑制工法の概略手順を示す斜視図である。
【図4】第1の実施の形態に係るコンクリート構造物のひび割れ抑制工法の施工後における床版及び壁の接合部分を示す断面図である。
【図5】壁と床版との間に空間を設けた場合の3次元FEM・温度応力解析における解析モデル例を示す説明図である。
【図6】壁と床版との間に空間を設けた場合と、設けていない場合とで壁の内部に発生する引張応力の比較結果を示す説明図である。
【図7】壁と床版との間に空間を設けた場合と、設けていない場合とのひび割れ指数の比較結果を示す説明図である。
【図8】壁と床版との間に空間を設けた場合のひび割れ指数の時間変動を示す説明図である。
【図9】壁と床版との間に空間を設けていない場合のひび割れ指数の時間変動を示す説明図である。
【図10】図4のひび割れ抑制工法の変形例を示す断面図である。
【図11】図4のひび割れ抑制工法の変形例を示す断面図である。
【図12】第2の実施の形態に係るコンクリート構造物のひび割れ抑制工法の概略手順を示す斜視図である。
【図13】第2の実施の形態に係るコンクリート構造物のひび割れ抑制工法の概略手順を示す斜視図である。
【図14】第2の実施の形態に係るコンクリート構造物のひび割れ抑制工法の概略手順を示す斜視図である。
【図15】第2の実施の形態に係るコンクリート構造物のひび割れ抑制工法の概略手順を示す斜視図である。
【図16】第2の実施の形態に係るコンクリート構造物のひび割れ抑制工法の施工後における床版及び壁の接合部分を示す断面図である。
【図17】図16のひび割れ抑制工法の変形例を示す断面図である。
【図18】図4のひび割れ抑制工法の変形例を示す断面図である。
【図19】図16のひび割れ抑制工法の変形例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 床版
2 壁
3 空間
22 鉄筋
G グラウト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製の床版とコンクリート製の壁とを備えたコンクリート構造物のひび割れ抑制工法であって、
前記床版と前記壁とを接合するための鉄筋が露出するように、コンクリートを打設して前記床版を形成し、前記床版の硬化後、前記鉄筋が埋設されるようにコンクリートを打設して前記壁を形成する際、
前記床版と前記壁との間の少なくとも一部に空間が形成されることを特徴とするコンクリート構造物のひび割れ抑制工法。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリート構造物のひび割れ抑制工法において、
前記空間内にグラウトを充填し、当該グラウト、前記床版及び前記壁を一体化することを特徴とするコンクリート構造物のひび割れ抑制工法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のコンクリート構造物のひび割れ抑制工法において、
前記コンクリート構造物がトンネルであることを特徴とするコンクリート構造物のひび割れ抑制工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−228380(P2009−228380A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78295(P2008−78295)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】