説明

コンクリート構造物のアルカリ骨材反応対策工法

【課題】 アルカリ骨材反応抑制効果の大きいリチウムイオン含有ゼオライトからなるひび割れ注入材と水蒸気透過性の高い水性のシラン系含浸材を組み合わせるアルカリ骨材反応対策工法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物のアルカリ骨材反応対策工法において、リチウムイオン含有ゼオライトを主成分としたひび割れ注入材12と、水蒸気透過性の高い水性のシラン系含浸材13を組み合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ吸着材を添加したセメント系のひび割れ注入材(補修材)と水蒸気透過性の高い水性のシラン系含浸材を組み合わせたアルカリ骨材反応対策工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリ骨材反応による損傷を受けた構造物の補修方法としては、従来では止水材などによる表面被覆、ひび割れ注入、および断面修復などが行われているが、いずれの工法も継続的な効果が期待できるとは言いがたい状況である。そこで、よりアルカリ骨材反応抑制効果の大きい材料が求められている。
【0003】
以下、既開発品について概観する。
【0004】
図8は従来のアルカリ吸着剤の模式図である。
【0005】
図8に示すように、Ca型ゼオライトはアルカリ(Na+ やK+ )を吸着し、Ca2+を放出するため、アルカリ骨材反応を抑制する効果を持つ。そこで、これを含有した補修材、ひび割れ注入材が開発され、一定の効果が得られているが、数年から10年程度で再劣化することも多く、より効果の大きい材料が求められている(下記特許文献1,2,3参照)。
【特許文献1】特公平07−005339号公報
【特許文献2】特開平10−167781号公報
【特許文献3】特開2000−143317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記したように、既存の補修では、数年から10年程度で再劣化することも多く、更なるアルカリ骨材反応抑制効果の大きい材料が望まれている。
【0007】
そして、リチウムイオン含有ゼオライト(「リチウム型ゼオライト」という)をアルカリ骨材反応(ASR)抑制に用いた例はない。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みて、アルカリ骨材反応抑制効果の大きいリチウムイオン含有ゼオライトからなるひび割れ注入材と水蒸気透過性の高い水性のシラン系含浸材を組み合わせるアルカリ骨材反応対策工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
Liイオンはアルカリ骨材反応を抑制することができるため、A型ゼオライトの交換性陽イオンをLiに置換し、Li型ゼオライトを作製し、アルカリ骨材反応(ASR)抑制効果を検証した結果、その効果が大きいことがわかった(表1参照)。
【0010】
【表1】

また、モルタルに孔を開けた注入試験によっても、Li型ゼオライトの効果が大きいことがわかった(表2参照)。
【0011】
【表2】

更に、Li型ゼオライトを含有するひび割れ補修材を試作した結果、注入性能、強度等は、現行のCa型ゼオライトと変わるところはなく、実用的に使えるものであることが分かった(表3参照)。
【0012】
【表3】

本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕コンクリート構造物のアルカリ骨材反応対策工法において、リチウムイオン含有ゼオライトを主成分としたひび割れ注入材と水蒸気透過性の高い水性のシラン系含浸材を組み合わせることを特徴とする。
【0013】
〔2〕上記〔1〕記載のコンクリート構造物のアルカリ骨材反応対策工法において、前記リチウムイオン含有ゼオライトはNa2 O及びK2 Oの含有量が無水物換算でNa2 O当量として3.0wt%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0015】
アルカリ骨材反応抑制効果の大きいリチウムイオン含有ゼオライトを主成分としたひび割れ注入材と水蒸気透過性の高い水性のシラン系含浸材を組み合わせるアルカリ骨材反応対策工法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のコンクリート構造物のアルカリ骨材反応対策工法は、リチウムイオン含有ゼオライトを主成分としたひび割れ注入材と、水蒸気透過性の高い水性のシラン系含浸材を組み合わせる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明は、新しい補修材料について研究を重ねた。
【0019】
まず、Li型ゼオライトのアルカリ骨材反応抑制効果について説明する。
【0020】
(1)モルタル供試体による検討
アルカリ骨材反応(ASR)性の大きな骨材を用いたLi型ゼオライト添加モルタルを作製し、アルカリ骨材反応に対するLi型ゼオライトの膨張抑制効果を検討した。モルタル配合条件は表4の通りである。なお、骨材は微小な石英が反応鉱物である岩国産粘板岩、あるいはクリストバライトが主な反応鉱物である佐賀産安山岩と無反応性骨材としてJIS強度用標準骨材を6:4の比で混合して用いた。また、アルカリ量は水酸化ナトリウム(JIS K8576)で調製し、比較検討用として、既にASR用ひび割れ補修材の主要成分として市販されている、Ca型ゼオライト〔日本化学(株)製〕を用いた。
【0021】
【表4】

図1は反応性骨材として岩国産粘板岩を使用したモルタル供試体の膨張試験の結果を示す図である。
【0022】
一般的に反応性骨材として微晶質の石英がその反応の起源の場合、長期間徐々に膨張する傾向を示す。本試験でもゼオライト無添加試料では約6ヵ月の試験期間中、その傾向が認められた。一方、Ca型ゼオライト及びLi型ゼオライトを添加したものは、ほとんど膨張を示さず、特にLi型ゼオライトを添加したものは、全く膨張傾向を示さなかった。
【0023】
図2は、反応性骨材として佐賀産安山岩を用いたモルタル供試体の試験結果である。本骨材のようにクリストバライトが反応起源となる場合、比較的早い時期に大きな膨張を示すことが特徴である。本試験でも、無添加試料では40日までに0.4%以上と大きな膨張率を示したが、ゼオライトを添加した試料の膨張率は小さかった。特にLi型ゼオライトは、Ca型ゼオライトの結果(20%添加で0.28%の膨張率)と比較して、10%以上の添加量で全く膨張を示さず、そのASR抑制効果が大きいことが分かった。
【0024】
(2)Li型ゼオライト注入モルタルのASR抑制効果
より大きなASR抑制効果が期待されるLi型ゼオライトの場合、ASRが生じたひび割れに補修材を充填し、そこから浸透するLi成分によりASRを抑制することが必要である。そこで、まず、反応性骨材を使用しアルカリ量を調整したモルタル供試体にドリルで孔を開け、そこにLi型ゼオライトなどを添加したセメントペーストを注入し、ASR抑制効果を検討した。なお、図3は作製した注入試験用モルタルの模式図であり、この注入試験用モルタル1の孔2にゼオライト含有ペーストが充填される。そのモルタル供試体及び注入セメントペーストの配合を表5に示す。
【0025】
【表5】

図4はアルカリ量を1.0%に調整したモルタル供試体に、各セメントペーストを注入した試験の膨張率を示したものである。孔を開けずに無注入のものと、孔に高炉スラグ(BB)セメントペーストのみを注入したものは膨張率に大きな違いはなかった。一方、Ca型ゼオライト及びLi型ゼオライトを添加した高炉スラグセメントペーストは、6ヵ月経過時の膨張率が、0.08%及び0.04%と高炉スラグセメントペーストのみを注入したもの(0.27%)と比較して小さく、特にLi型ゼオライトを添加したものの膨張率は小さかった。
【0026】
図5はアルカリ量を1.6%に調整したモルタル供試体に、ゼオライト等を添加したセメントペーストを注入した試験体の膨張率を示したものである。6ヵ月経過時で、無注入試料及び高炉スラグ(BB)セメントを注入したものは、0.43%及び0.40%と大きく膨張した。一方、Ca型ゼオライト、Li型ゼオライトを添加した高炉スラグセメントペーストを注入したものは、0.16%及び0.10%と膨張率は小さく、特にLi型ゼオライトを添加した高炉スラグセメントペーストの膨張抑制効果は大きかった。したがって、Li型ゼオライトは、アルカリイオン吸着効果に加えて、Liイオン放出による相乗効果で、膨張抑制効果が大きくなるものと推察される。一方、セメント種として普通(NP)セメントを使用したものは、Ca型ゼオライト添加ペースト及びLi型ゼオライト添加ペースト共に、高炉スラグペーストを使用したものと比較して、それぞれ0.16%→0.19%、0.10%→0.15%と膨張率が大きくなった。セメントに普通セメントを使用すると、生じる水酸化カルシウムが多くなり、その水酸化カルシウムとゼオライトが反応し、ゼオライトの残存量が少なくなる。それにより、アルカリ吸着効果が低減するため膨張抑制効果が少なくなるものと推察される。
【0027】
(3)Li型ゼオライトを含有する補修材の注入確認試験及び物性確認試験
Li型ゼオライトは、Ca型ゼオライトと比較して、ASR抑制効果が大きいことが分かった。そこで、既存のアルカリ骨材反応抑制用無機系ひび割れ注入剤「アーマ#610:三菱マテリアル製」の主要材料であるCa型ゼオライト(アルカットN:日本化学工業製)をLi型ゼオライトと置き換えて、ASRによるひび割れが生じている大型コンクリート供試体に対する低圧注入法による注入確認試験及びその物性試験を行った。その結果、表3に示されるように流動性、ブリーディング率、強度において既存のCa型ゼオライト使用ひび割れ注入材と同程度の物性性能が得られることがわかった。また、ひび割れ注入材を注入後、コンクリートコアを抜き出し、その断面を観察した結果、図6に示されるように、ひび割れ幅0.1mmまで注入が確認され、試作注入材が十分な注入性を有していることが確認された。
【0028】
かかるLi型ゼオライトを含有する補修材は、アルカリを吸着すると同時に、反応抑制に有効なLiイオンを放出することができる。
【0029】
また、上記したLi型ゼオライトを含有する補修材とともに、水蒸気透過性の高い水性のシラン系含浸材を用いることにより、安価に施工ができ、再補修性にも優れたコンクリート構造物のアルカリ骨材反応対策工法を提供することができる。
【0030】
その水性のシラン系含浸材は、塗布しない場合や、エポキシ系樹脂を用いた場合や、油性のシラン系含浸材に比べて、コンクリート構造物のアルカリ骨材反応の度合い、つまり膨張率をより抑えることができる。
【0031】
上記したように、本発明によれば、
(1)アルカリ成分を吸着すると同時に、Liを放出する物質として、Li型ゼオライトを作製し、これを練り混ぜた時に添加したモルタルバーの膨張特性を調べた。その結果、Li型ゼオライトは、既開発ASR抑制材のCa型ゼオライトと比較して、大きな膨張抑制効果を示すことが確認された。
【0032】
(2)Li型ゼオライト添加充填材を施工した場合の高アルカリ濃度モルタル供試体の膨張量は、高炉スラグセメント系ひび割れ注入材を施工した場合の1/7〜1/4であった。また、過去に本発明の出願人が開発・実用化したカルシウムイオンを内包するゼオライト(改質ゼオライト)を添加したひび割れ注入材を施工した場合と比較しても、その膨張量は1/2〜2/3であり、Li型ゼオライト添加充填材のASR膨張抑制効果が大きいことが分かった。
【0033】
(3)Li型ゼオライトを含有する無機系ひび割れ注入材を試作し、その物性確認及び低圧注入による注入試験を行った。その結果、流動性、ブリーディング率、強度において既存のCa型ゼオライト使用ひび割れ注入材と同程度の物性性能が得られること、注入試験によりひび割れ幅0.1mmまで注入が確認され、試作注入材が十分な注入性を有していることが確認された。
【0034】
したがって、本発明は、アルカリ骨材反応を抑制する新しい補修材料として、リチウムイオン含有ゼオライトを主成分としたひび割れ注入材を開発し、それがアルカリ骨材反応による膨張を抑制する効果が大きいことを確認した。
【0035】
図7は本発明のアルカリ骨材反応対策工法の施工概念図である。
【0036】
この図において、11は構造物、12はそのひび割れに充填されるリチウムイオン含有ゼオライト添加ひび割れ注入材、13は水蒸気透過性の高い水性のシラン系含浸材である。
【0037】
このように、構造物のひび割れ補修材としてのリチウムイオン含有ゼオライト12と水蒸気透過性の高い水性のシラン系含浸材13とを組み合わせることにより、アルカリ骨材反応対策工法を施すことができる。
【0038】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、アルカリ骨材反応によりひび割れが生じた構造物のひび割れ補修材として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】反応性骨材として岩国産粘板岩を使用したモルタル供試体の膨張試験の結果を示す図である。
【図2】反応性骨材として佐賀産安山岩を用いたモルタル供試体の試験結果である。
【図3】作製した注入試験用モルタルの模式図である。
【図4】アルカリ量を1.0%に調整したモルタル供試体に、各セメントペーストを注入した試験の膨張率を示した図である。
【図5】アルカリ量を1.6%に調整したモルタル供試体に、ゼオライト等を添加したセメントペーストを注入した試験体の膨張率を示した図である。
【図6】Li型ゼオライト使用ひび割れ注入材の充填状態を示す図面代用の写真である。
【図7】本発明のアルカリ骨材反応対策工法の施工概念図である。
【図8】従来のアルカリ吸着剤の模式図である。
【符号の説明】
【0041】
1 注入試験用モルタル
2 注入試験用モルタルの孔
11 構造物
12 リチウムイオン含有ゼオライト添加ひび割れ注入材
13 水蒸気透過性の高い水性のシラン系含浸材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン含有ゼオライトを主成分としたひび割れ注入材と水蒸気透過性の高い水性のシラン系含浸材を組み合わせることを特徴とするコンクリート構造物のアルカリ骨材反応対策工法。
【請求項2】
請求項1記載のコンクリート構造物のアルカリ骨材反応対策工法において、前記リチウムイオン含有ゼオライトはNa2 O及びK2 Oの含有量が無水物換算でNa2 O当量として3.0wt%以下であることを特徴とするコンクリート構造物のアルカリ骨材反応対策工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−156144(P2008−156144A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345107(P2006−345107)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年9月7〜9日 日本粘土学会主催の「第50回粘土科学討論会」において文書にて発表
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】