説明

コンクリート構造物の保護被覆材、及びコンクリート構造物の保護方法

【課題】被覆後に構造物表面の状態を目視確認でき、かつ、高い接着性を有し、プライマーを必要としないコンクリート構造物の保護被覆材、及び前記被覆材によるコンクリート構造物の保護方法を提供する
【解決手段】本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とからなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを主成分とするA液とポリアミンを主成分とするB液とを組み合わせてなり、23℃での前記A液および前記B液のそれぞれの粘度が、10000mPa・s以下であり、前記A液と前記B液の混合後の硬化時間が1分〜10分であり、前記A液と前記B液のうち少なくとも一方に1種類以上のシランカップリング剤を1重量%以上含有するコンクリート構造物の保護被覆材であって、隠蔽率が30%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の保護被覆材、及びコンクリート構造物の保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、塩害、中性化及び凍害等により経年劣化が進行することが一般的に知られている。コンクリート構造物の延命化を目的とした改修工事として、従来は補強材を用いた工法が行われていた。
【0003】
しかし、従来工法は工期やコスト面で問題があり、現在ではその改善策としてコンクリート構造物表面に防食被覆材を塗工する工法が一般的に行われている。
防食被覆材としてはアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、樹脂モルタル、ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリウレア系樹脂などが使用されている。
【0004】
このような塗材において、ウレア樹脂は弾性、防食性、耐水性に優れている為、コンクリート構造物の保護被覆材として適している(例えば、特許文献1参照)。ウレア樹脂で被覆されたコンクリートは、雨風、日光、水の影響、酸性雨、直射日光の影響による熱など、外部からの劣化因子に耐えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−1812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で行われている防食工法は、透明性を有さない防食塗材をコンクリート表面に被覆する工法である為、コンクリート構造物自体に変状が生じても表面に被覆されている防食塗材に膨れ、剥がれ、割れ等の変状が生じない限りは認識することは困難である。よって、透明性を有さない防食塗材を用いた場合、コンクリート構造物の変状を早期に発見することは不可能である。
【0007】
また、従来のウレア樹脂では、硬化時間が短いために施工時に巻き込む微細な泡が内在し透明性を得ることができない。一方、構成成分の配合を変え、硬化時間を遅くすると、立面、天井面に塗布した場合、ダレが生じてしまう。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、被覆後に構造物表面の状態を目視確認でき、かつ、高い接着性を有し、プライマーを必要としないコンクリート構造物の保護被覆材、及び前記被覆材によるコンクリート構造物の保護方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とからなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを主成分とするA液とポリアミンを主成分とするB液とを組み合わせてなり、23℃での前記A液及び前記B液のそれぞれの粘度が、10000mPa・s以下であり、前記A液及び前記B液の混合後の硬化時間が1分〜10分であり、前記A液及び前記B液のうち少なくとも一方に1種類以上のシランカップリング剤を1重量%以上含有するコンクリート構造物の保護被覆材であって、隠蔽率が30%以下であることを特徴とする。
(2)本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、前記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と前記ポリオール化合物のヒドロキシル基とのモル比(イソシアネート基/ヒドロキシル基)が、2.0〜10.0であることが好ましい。
(3)本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、前記A液のイソシアネート基と前記B液のアミノ基とのモル比(イソシアネート基/アミノ基)が、1.0〜1.5であることが好ましい。
(4)本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、前記A液の前記ポリオール化合物がひまし油変性ポリオールであることが好ましい。
(5)本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、前記B液の50重量%以上が、ポリテトラメチレンエーテルグリコール骨格を有するポリアミンであることが好ましい。
(6)本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、前記A液のシランカップリング剤が、エポキシ基を有することが好ましい。
(7)本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、前記B液のシランカップリング剤が、アミノ基を有することが好ましい。
(8)本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、吸水率が2%以下であることが好ましい。
(9)本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、引張強度が5N/mm以上、伸び率が200%以上であることが好ましい。
(10)本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、中性化深さが0.5mm以下であることが好ましい。
(11)本発明のコンクリート構造物の保護方法は、前記本発明のコンクリート構造物の保護被覆材を吹付施工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリート構造物の保護被覆材によれば、透明であるために被覆後に構造物表面の状態を目視確認でき、コンクリート構造物の変状を早期に発見することが可能となる。また、高い接着性を有するため、プライマーを必要とせずに吹付施工することができ、施工工程の低減が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とからなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを主成分とするA液とポリアミンを主成分とするB液とを組み合わせてなるものである。
【0012】
A液の主成分であるウレタンプレポリマーとは、イソシアネート基を1分子中に2個以上有するポリイソシアネート化合物と、イソシアネート基と反応する活性水素を1分子中に2個以上有する化合物とが予め反応させられたことにより、イソシアネート基を少なくとも分子末端に有する化合物(プレポリマー)である。
【0013】
本発明では、このようなウレタンプレポリマーとして、ポリイソシアネート化合物とアルコール性ヒドロキシル基を1分子中に2個以上有するポリオール化合物とが反応させられてなるプレポリマーが用いられる。
すなわち、本発明において好ましいウレタンプレポリマーは、ポリオール化合物と、過剰量のポリイソシアネート化合物とを反応させることで得られ、分子末端に少なくとも2個のイソシアネート基を有するものである。
【0014】
A液で用いられるポリイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート類、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)等の脂環式ポリイソシアネート類、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート類、上記各ポリイソシアネートをカルボジイミド変性またはイソシアヌレート変性したもの等が挙げられ、これらは単独または二種以上混合して用いられ得る。好ましくは、取り扱い易さの点からTDI、MDI等の芳香族ポリイソシアネート類が用いられる。
【0015】
A液で用いられるポリオール化合物としては、一般にウレタン化合物の製造に用いられる種々のポリオールが用いられ、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、およびその他のポリオール等が使用可能である。
【0016】
ポリエーテルポリオールとして、具体的には、プロピレングリコール、エチレングリコール、テトラメチレングリコールの単独重合体またはこれらの共重合体、活性水素を二個以上有する低分子量活性水素化合物の一種または二種以上の存在下でプロピレンオキサイドおよびエチレンオキサイドを開環重合させて得られるランダム共重合体またはブロック共重合体、テトラヒドロフランの開環重合によって得られるポリオキシテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0017】
前記の低分子量活性水素化合物としては、ビスフェノールA、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール等のジオール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール等のトリオール類、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等のアミン類等が挙げられる。
【0018】
ポリエステルポリオールとして、具体的には、多塩基酸と多価アルコールとを脱水縮合させて得られる重合体、ヒドロキシカルボン酸と多価アルコールとの縮合体、ラクトンの開環重合体等が挙げられる。
【0019】
前記多塩基酸としては、例えばアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、二量化リノレイン酸、マレイン酸、およびこれらのジ低級アルキルエステル等が挙げられ、その一種以上が用いられる。
【0020】
前記多価アルコールとしては、例えばビスフェノールA、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のジオール類、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のトリオール類が挙げられる。
【0021】
その他のポリオールとして、具体的には、アクリルポリオール、水素添加されたポリブタジエンポリオール、ひまし油変性ポリオール、トール油の誘導体、ポリマーポリオール、ポリカーボネートポリオール等の他、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等の低分子ポリオール等が挙げられるが、ひまし油変性ポリオールが特に好ましい。ウレア樹脂は耐水性、耐温水性に優れているが、ひまし油変性ポリオールを用いることで樹脂の吸水率を低下させ、さらに耐水性を高める。このような耐水性に優れた本発明のコンクリート構造物の保護被覆材を没水部への施工に用いることができる。
【0022】
本明細書において、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基とポリオール化合物のヒドロキシル基とのモル比(イソシアネート基/ヒドロキシル基)を、以下、化学当量比という。
ウレタンプレポリマーは、ポリオール化合物中に含まれるヒドロキシル基1モルに対して、ポリイソシアネート化合物中に含まれるイソシアネート基が1モルを越える割合で、すなわち、化学当量比が1を越える配合として、ポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させることで得られる。このようなウレタンプレポリマーは、通常、その分子両末端にイソシアネート基を有するものとなる。化学当量比としては、物性及びA液の粘度の観点から、2.0〜10.0が好ましく、3.0〜7.0がより好ましく、4.0〜6.0が特に好ましい。
【0023】
本発明において、B液で用いられるポリアミンとしては、例えばジエチルトルエンジアミン(DETDA)、ジメチルトルエンジアミン(DMTDA)、N,N′−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン(例えばUOP社製ユニリンク4100)、4,4′−ビス(sec−ブチルアミノ)ジフェニルメタン(例えばUOP社製ユニリンク4200)、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリ(テトラメチレン/3−メチルテトラメチレンエーテル)グリコールビス(4−アミノベンゾエート)等が挙げられ、ポリテトラメチレンエーテルグリコール骨格を有するポリアミンが好ましく、ポリ(テトラメチレン/3−メチルテトラメチレンエーテル)グリコールビス(4−アミノベンゾエート)がより好ましい。
B液が、前記ポリテトラメチレンエーテルグリコール骨格を有するポリアミンを50重量%以上含むことが、耐水性の観点から好ましく、70重量%以上含むことがより好ましい。
【0024】
本発明において、A液及びB液それぞれの粘度は、ブルックフィールド型回転粘度計により23℃の条件下で10000mPa・s以下であることが必須である。スプレー塗布の場合には、4000mPa・s以下であることが好ましく、3000mPa・s以下であることがより好ましい。
【0025】
本発明において、A液及びB液の混合後の硬化時間は1分〜10分であることが必須である。ここで、硬化時間とは、塗面を指先で触れ、指先に樹脂がつかない状態に達した時間をいう。前記硬化時間は、1分〜5分であることが好ましく、2分〜5分であることがより好ましい。1分以上の場合、被覆材とコンクリートとの密着性が良くなり、10分以下の場合、被覆材は充分な透明性及びダレ性を有する。
本発明のコンクリート構造物の保護被覆材によれば、A液及びB液混合後の硬化時間をコントロールすることで、透明性及びダレ性を向上させることができる。透明性を得るためには気泡が充分抜けることが重要であり、そのためにはある程度長い硬化時間が必要である。その一方、立面、天井面に塗布してもダレが生じない程度に短い硬化時間が必要である。
【0026】
本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、A液及びB液のうち少なくとも一方にシランカップリング剤を含有する。これにより樹脂とコンクリートとの密着性を向上させることができる。プライマーが不要となるために、本発明のコンクリート構造物の保護被覆材の透明性が維持される。
【0027】
前記シランカップリング剤としては、イソシアネート基含有シラン類、アミノ基含有シラン類、メルカプト基含有シラン類、エポキシ基含有シラン類、ビニル型不飽和基含有シラン類等が挙げられるが、エポキシ基含有シラン類、またはアミノ基含有シラン類が好ましい。エポキシ基含有シラン類を使用する場合にはA液に、アミノ基含有シラン類を使用する場合にはB液に単独でもしくは2種以上併せて用いられることがより好ましい。
【0028】
エポキシ基含有シラン類としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
アミノ基含有シラン類としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビニルベンジル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0029】
本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、前記カップリング剤を1重量%以上含有することが必須である。前記カップリング剤の含有量としては、物性面から、6重量%以下が好ましく、4重量%以下がより好ましく、3重量%以下が特に好ましい。本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、含有量が1重量%以上の場合、充分な接着性を有する。
【0030】
本発明のコンクリート構造物の保護被覆材としては、B液中に含まれるアミノ基1モルに対して、A液中に含まれるイソシアネート基を1.0〜1.5モルの割合として、A液とB液とを反応させたものが、好ましい。
尚、本明細書において、前記A液のイソシアネート基と前記B液のアミノ基とのモル比(イソシアネート基/アミノ基)を「設計INDEX」という。
前記設計INDEXは、1.0〜1.3であることがより好ましく、1.0〜1.2であることが特に好ましい。
前記設計INDEXが1.5以下の場合、本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、好ましい物性、透明性及びダレ性を有する。
【0031】
本発明のコンクリート構造物の保護被覆材には、必要に応じてその他の各種添加剤、例えば溶剤、界面活性剤、顔料、染料、充填剤、硬化促進触媒、老化防止剤、消泡剤などが、本発明の優位性を損なわない範囲で添加される。
【0032】
老化防止剤は、硬化物を光、酸素、熱等から保護するために用いられるもので、一般的には光安定剤や酸化防止剤等が用いられる。光安定剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、シアノアクリレート系、ヒンダードアミン系、ニッケル系等が挙げられる。また、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系、アミン系、硫黄系、リン系等が挙げられる。
【0033】
本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、吸水率が2%以下であることが好ましく、
1.8%以下であることがより好ましく、1.5%以下であることが特に好ましい。
吸水率が2%以下の場合、被覆材の耐温水性を高めるため、本発明のコンクリート構造物の保護被覆材を没水部への施工に用いることが可能となる。
【0034】
本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、引張強度が5N/mm以上、伸び率が200%以上であることが好ましい。前記引張強度としては、8N/mm以上であることがより好ましく、10N/mm以上であることが特に好ましい。また、前記伸び率としては、250%以上であることがより好ましく、300%以上であることが特に好ましい。
引張強度が5N/mm以上、伸び率が200%以上の場合、本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、コンクリートのひび割れに追従可能となる。
【0035】
本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、防食機能の観点から、中性化深さが0.5mm以下であるであることが好ましく、0.3mm以下であることがより好ましい。
【0036】
本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、隠蔽率が30%以下であることが必須であり、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。尚、本明細書において、隠蔽率とはJIS K5600 4−1 B法に準拠した隠蔽率試験紙に樹脂を1mm厚で塗工し、塗布済みフィルムの三刺激値Yを白色部(YW)と黒色部(YB)各々において測定し、隠蔽率YB/YWを百分率で算出したものである。
隠蔽率が30%以下の場合、本発明の前記保護被覆材を被覆した後にコンクリート構造物の表面状態を目視確認できる。
【0037】
本発明のコンクリート構造物の保護方法は、前記本発明のコンクリート構造物の保護被覆材を吹付施工することを特徴とする。本発明では、A液及びB液を、スプレー装置により混合して反応させることによって、好ましくは、対象物の表面にスプレーガンにより混合・吐出させることにより保護被覆材を形成するのがよい。
スプレー装置としては、調圧調温計量装置と混合装置を備えたスプレーガン及び加温のできるホットホースからなり、スプレーガンとしては2液を衝突混合させる方式のものやスタティックミキサー混合方式のものが好ましく、衝突混合方式のものが、施工性の観点からより好ましい。
【0038】
本発明のコンクリート構造物の保護方法によれば、前記本発明のコンクリート構造物の保護被覆材の塗工を吹付けとすることで、施工工程を低減できる。また、吹付け塗工により、保護被覆材は優れた透明性及びダレ性の両方を確保する。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
主剤としてひまし油変性ポリオール(URIC H1824、伊藤製油株式会社製)500部をセパラブルフラスコに仕込み、50℃で保持した。次いでピュアMDI(コスモネートPH、三井化学ポリウレタン株式会社製)200部を窒素気流下で攪拌し、70℃〜80℃で2時間反応させて、カップリング剤(KBM403、信越化学工業株式会社製)50部とカルボジイミド変性MDI(コスモネートLK、三井化学ポリウレタン株式会社製)150部を混合して主剤を調製した。
硬化剤として主剤と硬化剤の設計INDEXが1.1になるように、ポリ(テトラメチレン/3−メチルテトラメチレンエーテル)グリコールビス(4−アミノベンゾエート)(ポレアSL100A、イハラケミカル工業株式会社製)820部、ジエチルトルエンジアミン(エタキュア#100、アルベマール日本株式会社製)80部、ターペン50部、消泡剤(ディスパロン1930N、楠本化成株式会社製)30部、老化防止剤(チヌビンB−75、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)20部を混合し硬化剤を調製した。
2液衝突混合型スプレーを用いて吹付け、厚さ2mmの塗膜を形成した。
【0041】
(比較例1)
アクリルエマルション(スチレン/メタクリル酸メチル/アクリル酸2-エチルヘキシル共重合体)900部に、造膜助剤(テキサノール)40部、増粘剤(SNシックナー、サンノプコ株式会社製)5部、消泡剤(SNディフォーマー、サンノプコ株式会社製)2部、水57部が配合された主材塗料を、コテ及びローラーを用いて厚さ2mmの塗膜を形成した。
【0042】
(比較例2)
主剤としてポリオキシプロピレンジオール(アクトコールDiol2000、三井化学ポリウレタン株式会社製)600部をセパラブルフラスコに仕込み、50℃で保持した。次いでピュアMDI (コスモネートPH、三井化学ポリウレタン株式会社製)150部、カルボジイミド変性MDI(コスモネートLK、三井化学ポリウレタン株式会社製)250部を窒素気流下で攪拌し70〜80℃で2時間反応させて主剤を調製した。
硬化剤として主剤と硬化剤の設計INDEXが1.1になるように、ポリオキシプロピレンジオール(アクトコールDiol2000、三井化学ポリウレタン株式会社製)750部、ジエチルトルエンジアミン(エタキュア#100、アルべマール日本株式会社製)150部、可塑剤(アジピン酸ジイソノニル)50部、消泡剤(ディスパロン1930N、楠本化成株式会社製)20部、老化防止剤(チヌビンB−75、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)20部、触媒(ナフテン酸鉛24%)10部を混合し硬化剤を調製した。
2液衝突混合型スプレーを用いて吹付け、厚さ2mmの塗膜を形成した。
【0043】
(比較例3)
比較例2で調製した主剤と、硬化剤として主剤と硬化剤の設計INDEXが1.1になるように、ジエチルトルエンジアミン(エタキュア#100、アルべマール日本株式会社製)150部、ポリオキシプロピレンジアミン(ジェファーミンD2000、三井化学ファイン株式会社製)750部、可塑剤(アジピン酸ジイソノニル)50部、消泡剤(ディスパロン1930N、楠本化成株式会社製)20部、老化防止剤(チヌビンB−75、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)20部、触媒(ナフテン酸鉛24%)10部を混合し硬化剤を調製した。
2液衝突混合型スプレーを用いて吹付け、厚さ2mmの塗膜を形成した。
【0044】
実施例1及び比較例1〜3の塗膜の性状を、以下の試験方法で測定し、結果を表1に示した。
(1) 硬化時間
主剤を50容量部、硬化剤を50容量部、同一容器に量り取り、直ちに攪拌棒にて攪拌し、攪拌が不可能となるまで攪拌する。攪拌開始から攪拌不可能となるまでの時間を、ストップウォッチで計測した。
【0045】
(2) ダレ性
縦置きしたスレート板の下から10cmを養生テープで養生し、樹脂を1mm厚で塗工直後に養生テープを剥がし、ダレが生じるかを確認した。ダレが生じなかった場合は○、生じた場合は×と判定した。
【0046】
(3) 透明性
隠蔽度を用いて評価した。JIS K5600 4−1 B法に準拠した隠蔽率試験紙に樹脂を1mm厚で塗工し、塗布済みフィルムの三刺激値Yを白色部(YW)と黒色部(YB)において各々測定し、隠蔽率YB/YWを百分率で算出した。
【0047】
(4)耐酸性
23℃で7日間養生後、10%の硫酸水溶液に塗膜を60日間浸漬する。その後、JIS A6021に準拠し物性測定を行った。
【0048】
(5)耐アルカリ性
23℃で7日間養生後、水酸化カルシウム飽和水溶液に塗膜を60日間浸漬する。その後、JIS A6021に準拠し物性測定を行った。
【0049】
(6)中性化阻止性
JHS417に準拠し、中性化深さの測定を行った。
【0050】
(7) 弾性
23℃で7日間養生後、JIS A6021に準拠し物性測定を行った。
【0051】
(8) 耐温水物性
23℃で7日間養生後、50℃のイオン交換水中に7日間浸漬する。その後、JIS A6021に準拠し物性測定を行った。
【0052】
(9)吸水率
JIS K7209(A法)に準拠し、樹脂の吸水率を測定した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すとおり、ウレア樹脂は、防食性、弾性、耐水性において、アクリル樹脂やウレタン樹脂より優れていた。さらに、実施例1で得られた本発明のウレア樹脂は、比較例3と比較して、透明性及び、より優れた耐水性を有していた。
【0055】
(実施例2)
実施例1で使用した主剤と硬化剤とをスタティックミキサー2液混合型スプレーを用いて吹付け、厚さ2mmの塗膜を形成した。
【0056】
(比較例4)
主剤としてひまし油変性ポリオール(URIC H1824、伊藤製油株式会社製)600部をセパラブルフラスコに仕込み、50℃で保持した。次いでピュアMDI(コスモネートPH、三井化学ポリウレタン株式会社製)300部を窒素気流下で攪拌し、70℃〜80℃で2時間反応させて、カップリング剤(KBM403、信越化学工業株式会社製)60部とカルボジイミド変性MDI(コスモネートLK、三井化学ポリウレタン株式会社製)40部を混合して主剤を調製した。
硬化剤として主剤と硬化剤の設計INDEXが1.3になるように、ポリ(テトラメチレン/3−メチルテトラメチレンエーテル)グリコールビス(4−アミノベンゾエート)(ポレアSL100A、イハラケミカル工業株式会社製)980部、消泡剤(ディスパロン1930N、楠本化成株式会社製)10部、老化防止剤(チヌビンB−75、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)10部を混合し硬化剤を調製した。
主剤と硬化剤を攪拌機で均一に混合した後、手塗りにより塗工し、厚さ2mmの塗膜を形成した。
【0057】
(比較例5)
比較例4で調製した主剤と、硬化剤として主剤と硬化剤の設計INDEXが1.3になるように、ポリ(テトラメチレン/3−メチルテトラメチレンエーテル)グリコールビス(4−アミノベンゾエート)(ポレアSL100A、イハラケミカル工業株式会社製)900部、ジエチルトルエンジアミン(エタキュア#100、アルベマール日本株式会社製)10部、ダレ防止剤(アエロジルR202、日本アエロジル株式会社製)70部、消泡剤(ディスパロン1930N、楠本化成株式会社製)10部、老化防止剤(チヌビンB−75、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)10部を混合し硬化剤を調製した。
主剤と硬化剤を攪拌機で均一に混合した後、手塗りにより塗工し、厚さ2mmの塗膜を形成した。
【0058】
実施例1、2及び比較例4、5の塗膜の性状を、以下の試験方法で測定し、結果を表2に示した。尚、表1に示される試験項目の試験方法は前記記載と同様であるため、省略する。
(1) 粘度
23℃温度下において、ブルックフィールド型回転粘度計を使用し粘度測定を行った。
【0059】
(2) 接着性
JIS K6854−2に準拠し、剥離接着強度を測定した。
【0060】
【表2】

【0061】
表2に示すとおり、手塗り工法に適した組成の比較例4や5では、透明性及びダレ性の両方を確保することは難しいが、本発明のコンクリート構造物の保護被覆材を吹付施工することにより、保護被覆材は優れた透明性及びダレ性の両方を確保することができた。スプレーガンを用いた吹付け工法であれば、2液衝突混合型、スタティックミキサー混合型のどちらでもよく、同程度の効果を示した。
【0062】
(比較例6)
実施例1で使用した主剤と、硬化剤として主剤と硬化剤の設計INDEXが1.3になるように、ポリ(テトラメチレン/3−メチルテトラメチレンエーテル)グリコールビス(4−アミノベンゾエート)(ポレアSL100A、イハラケミカル工業株式会社製)830部、ジエチルトルエンジアミン(エタキュア#100、アルベマール日本株式会社製)20部、ポリオキシプロピレンジアミン(ジェファーミンD230、三井化学ファイン株式会社製)10部、ターペン100部、消泡剤(ディスパロン1930N、楠本化成株式会社製)30部、老化防止剤(チヌビンB−75、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)10部を混合し硬化剤を調製した。
2液衝突混合型スプレーを用いて吹付け、厚さ2mmの塗膜を形成した。
【0063】
(実施例3)
実施例1で使用した主剤と、硬化剤として主剤と硬化剤の設計INDEXが1.2になるように、ポリ(テトラメチレン/3−メチルテトラメチレンエーテル)グリコールビス(4−アミノベンゾエート)(ポレアSL100A、イハラケミカル工業株式会社製)840部、ジエチルトルエンジアミン(エタキュア#100、アルベマール日本株式会社製)30部、ポリオキシプロピレンジアミン(ジェファーミンD230、三井化学ファイン株式会社製)40部、ターペン40部、消泡剤(ディスパロン1930N、楠本化成株式会社製)30部、老化防止剤(チヌビンB−75、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)20部を混合し硬化剤を調製した。
2液衝突混合型スプレーを用いて吹付け、厚さ2mmの塗膜を形成した。
【0064】
(実施例4)
実施例1で使用した主剤と、硬化剤として主剤と硬化剤の設計INDEXが1.1になるように、ポリ(テトラメチレン/3−メチルテトラメチレンエーテル)グリコールビス(4−アミノベンゾエート)(ポレアSL100A、イハラケミカル工業株式会社製)840部、ジエチルトルエンジアミン(エタキュア#100、アルベマール日本株式会社製)40部、ポリオキシプロピレンジアミン(ジェファーミンD230、三井化学ファイン株式会社製)30部、ターペン40部、消泡剤(ディスパロン1930N、楠本化成株式会社製)30部、老化防止剤(チヌビンB−75、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)20部を混合し硬化剤を調製した。
2液衝突混合型スプレーを用いて吹付け、厚さ2mmの塗膜を形成した。
【0065】
(実施例5)
実施例1で使用した主剤と硬化剤を、2液衝突混合型スプレーを用いて吹付け、厚さ2mmの塗膜を形成した。
【0066】
(実施例6)
実施例1で使用した主剤と、硬化剤として主剤と硬化剤の設計INDEXが1.0になるように、ポリ(テトラメチレン/3−メチルテトラメチレンエーテル)グリコールビス(4−アミノベンゾエート)(ポレアSL100A、イハラケミカル工業株式会社製)800部、ジエチルトルエンジアミン(エタキュア#100、アルベマール日本株式会社製)100部、ターペン50部、消泡剤(ディスパロン1930N、楠本化成株式会社製)30部、老化防止剤(チヌビンB−75、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)20部を混合し硬化剤を調製した。
2液衝突混合型スプレーを用いて吹付け、厚さ2mmの塗膜を形成した。
【0067】
実施例3〜6及び比較例6の塗膜の性状を、表2に示される試験項目について測定し、結果を表3に示した。尚、表2に示される試験項目の試験方法は前記記載と同様であるため、省略する。
【0068】
【表3】

【0069】
表3に示すとおり、本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、ダレ性、弾性、防食性において優れた性状を示した。特に硬化時間が20分の比較例6では、ダレが生じていたのに対し、実施例で得られた本発明のコンクリート構造物の保護被覆材では、ダレが全く生じなかった。また、本発明のコンクリート構造物の保護被覆材は、シランカップリング剤を含有するため、接着性に優れた性状を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とからなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを主成分とするA液とポリアミンを主成分とするB液とを組み合わせてなり、23℃での前記A液及び前記B液のそれぞれの粘度が、10000mPa・s以下であり、前記A液及び前記B液の混合後の硬化時間が1分〜10分であり、前記A液及び前記B液のうち少なくとも一方に1種類以上のシランカップリング剤を1重量%以上含有するコンクリート構造物の保護被覆材であって、隠蔽率が30%以下であることを特徴とするコンクリート構造物の保護被覆材。
【請求項2】
前記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基と前記ポリオール化合物のヒドロキシル基とのモル比(イソシアネート基/ヒドロキシル基)が、2.0〜10.0である請求項1に記載のコンクリート構造物の保護被覆材。
【請求項3】
前記A液のイソシアネート基と前記B液のアミノ基とのモル比(イソシアネート基/アミノ基)が、1.0〜1.5である請求項1又は2のいずれかに記載のコンクリート構造物の保護被覆材。
【請求項4】
前記A液の前記ポリオール化合物がひまし油変性ポリオールである請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート構造物の保護被覆材。
【請求項5】
前記B液の50重量%以上が、ポリテトラメチレンエーテルグリコール骨格を有するポリアミンである請求項1〜4のいずれかに記載のコンクリート構造物の保護被覆材。
【請求項6】
前記A液のシランカップリング剤が、エポキシ基を有する請求項1〜5のいずれかに記載のコンクリート構造物の保護被覆材。
【請求項7】
前記B液のシランカップリング剤が、アミノ基を有する請求項1〜6のいずれかに記載のコンクリート構造物の保護被覆材。
【請求項8】
吸水率が2%以下である請求項1〜7のいずれかに記載のコンクリート構造物の保護被覆材。
【請求項9】
引張強度が5N/mm以上、伸び率が200%以上である請求項1〜8のいずれかに記載のコンクリート構造物の保護被覆材。
【請求項10】
中性化深さが0.5mm以下である請求項1〜9のいずれかに記載のコンクリート構造物の保護被覆材。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の被覆材を吹付施工することを特徴とするコンクリート構造物の保護方法。



【公開番号】特開2011−132052(P2011−132052A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291210(P2009−291210)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000133342)株式会社ダイフレックス (24)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】