説明

コンクリート構造物の止水目地の補修方法

【課題】高い水圧が作用しているコンクリート構造物の止水目地を補修する際において、補修対象である既存の止水目地の止水性能をさらに劣化させることなく、確実・容易かつ低コストでの作業を行うことを可能にする止水目地の補修方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物に設けられた止水目地20の補修方法であって、止水目地20を含むコンクリート表面30の所要範囲の水分を除去する工程と、止水目地20の幅寸法よりも幅広寸法に形成された補修用シート40を止水目地20に重複させた状態でコンクリート表面30の所要範囲に貼着する工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート構造物の止水目地の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物には、コンクリート打ち継ぎ目部分や所要間隔をあけて配設した伸縮目地に目地材が施されることがほとんどである。特に、ダムや貯水池、排水路等におけるコンクリート構造物においては、止水性のある目地材を用いることにより打ち継ぎ目部分や伸縮目地部分からの漏水を防ぐ止水目地に形成されている。このような止水目地は風雨や紫外線等により劣化するため、定期的な補修が必要とされている。
このようなコンクリート構造物の止水目地の補修方法としては例えば特許文献1に開示されているような方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】公開特許公報 特開平07−71122号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において開示されている目地材補修方法は、劣化した目地材部分のキャップを外し、キャップの下の合成樹脂発泡体からなる目地材本体の上部を切削し、隙間を形成し、ゴム部材を配設した脚部材を隙間に差し込むものである。このような補修方法によれば、すでに劣化している止水目地からキャップを取り外したり、目地材本体を切削加工する処理が必要になり、止水目地の止水性を一時的とはいえさらに低下させた状態にしなければならない。このため、ダム等の水圧が高いコンクリート構造物においては、補修工事中における止水目地からの漏水量が激増し、補修作業がままならなくなってしまうという致命的な課題がある。また、このように止水目地からの漏水量が多い状況下で補修工事を行うためには水の除去作業に手間がかかり施工コストが高騰してしまうという課題もある。
そこで本願発明は、ダム等の高い水圧が作用しているコンクリート構造物の止水目地を補修する際において、補修対象である既存の止水目地の止水性能を劣化させるような加工を施すことなく、確実・容易かつ低コストでの作業を行うことを可能にする止水目地の補修方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意研究を行った結果、以下の構成に想到した。
すなわち、コンクリート構造物に設けられた止水目地の補修方法であって、前記止水目地を含むコンクリート表面の所要範囲の水分を除去する工程と、前記止水目地の幅寸法よりも幅広寸法に形成された補修用シートを前記止水目地に重複させた状態で前記コンクリート表面の所要範囲に貼着する工程と、を有することを特徴とするコンクリート構造物の止水目地の補修方法である。
【0006】
また、前記止水目地は、コンクリート目地部分に充てんされる充てん剤と、該充てん剤の表面を被覆する保護材とにより形成されていて、前記補修用シートを貼着する工程は、前記保護材の表面を前記補修用シートにより被覆する工程であることが好ましい。
また、前記補修用シートはシリコーンゴム製であり、前記補修用シートに接着剤を塗布した後に前記コンクリート表面に貼着させることが好ましい。
また、前記接着剤を前記補修用シートの貼着面に塗布する際は、前記補修用シートの貼着面の全面に塗布することがさらに好ましい。
これらにより補修用シートの止水性能が向上し、より確実な止水処理が可能になる。
【0007】
また、前記接着剤を前記補修用シートの貼着面に塗布する際は、前記補修用シートの貼着面のうち、少なくとも前記止水目地との重複部分を除いた範囲に塗布することが好ましい。これにより、既存の止水目地と接着剤との弾性係数や熱膨張係数が大幅に異なる場合に、既存の止水目地と補修用シートとの重複部分を互いに独立させた状態で変形させることができ、長期にわたり高い止水性を維持することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかるコンクリート構造物の止水目地の補修方法によれば、既存の止水目地を除去せずに、止水目地の改修工事を行うことができるため、既存の止水目地の除去に伴う漏水を無くすことができ、迅速かつ的確に止水目地の改修工事を行うことができる。これに伴い止水目地の補修工事における施工コストを低減させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】コンクリート構造物における止水目地の概略構成を示す断面図である。
【図2】第1実施形態における止水目地の改修方法の施工手順を示す断面図である。
【図3】第2実施形態における止水目地の改修処理後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願発明にかかるコンクリート構造物の止水目地の補修方法の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0011】
(第1実施形態)
まず、コンクリート構造物における止水目地の構成について図1に基づいて説明をする。ここではコンクリート構造物としてダムを想定しているが、本願発明が対象にしているコンクリート構造物はダムに限定されるものではなく、貯水池や排水路等の止水目地が施されるコンクリート構造物であればよい。
【0012】
ダムのように大規模なコンクリート構造物100は、コンクリートの打設を複数回に分けて行わなければならず、図1に示すようなコンクリート打ち継ぎ目部分10が形成される。このような打ち継ぎ目部分10には止水性を向上させるための止水目地20が形成される。このような止水目地20としては、コンクリート打ち継ぎ目部分10に配設される合成樹脂材や瀝青材からなる伸縮目地材22と、伸縮目地材22の上面を被覆するポリエチレン等の合成発泡樹脂からなる充てん剤24と、充てん剤24の表面を覆うシリコーンゴム製の保護材26とを有していることが多い。本実施形態においては、伸縮目地材22と充てん剤24をまとめて特許請求の範囲における充てん剤であるとして説明を行うことにする。
【0013】
このような止水目地20の劣化は、外部空間に露出する保護材26の一部が図2(A)に示すようにコンクリート表面30から剥離することから始まる。止水目地20の止水性は、主として保護材26が貼着されていることによるものであるからコンクリート構造物の止水目地20の補修工事は、コンクリート表面30からの保護材26の剥離がわずかである状態までに行われることが好ましい。
【0014】
以下に具体的な止水目地20の補修方法について説明する。
まず、止水目地20を中心として、止水目地20の延長方向と直交する方向の所要範囲Wにおけるコンクリート表面30の水分を除去する工程を行う。具体的には図2(A)に示すように、止水目地20の配設位置を中心としてコンクリート表面30の所要範囲W内における表面水60を合成樹脂製のスポンジ材50等を用いて吸水させる。図2(A)においては止水目地20の右側のみにスポンジ材50が示されているが、止水目地20の左側も止水目地20の右側と同様にして表面水60の吸水処理が行われる。
【0015】
スポンジ材50によるコンクリート表面30の表面水60の吸水処理を終えた後、必要であれば、ガスバーナー等に代表される乾燥装置を用いて止水目地20およびコンクリート表面30を乾燥処理する。本実施形態においては、まだ止水性能を有している止水目地20の保護材26に対して切削処理等を施さないため、止水目地20部分からの漏水量が極めて少ない状態での作業を行うことが可能であるから、吸水処理は短時間で確実に行うことができる。
【0016】
止水目地20および所要範囲のコンクリート表面30の吸水処理を終えた後は、図2(B)に示すように、保護材26よりも幅広寸法であり、吸水処理を施したコンクリート表面30の所要範囲Wよりも幅狭寸法に形成された補修用シート40を保護材26に重複させた状態で貼着させる。本実施形態においては補修用シート40として接着剤42が塗布されたシリコーンゴム製のシート(保護材26と同じ材料)を用いた。補修用シート40を保護材26に貼着させる際に用いる接着剤42としては、例えば、セメダイン株式会社製の工業用セメダイン「スーパーXシリーズ」等を用いることができる。また、図2(B)に示すように、接着剤42は補修用シート40の貼着面の全面に塗布されている。接着剤42を塗布した補修用シート40を既設の止水目地20の配設位置を中心としてコンクリート表面30に貼着させた後は、必要に応じて加圧処理や加熱処理を施すことで補修用シート40のコンクリート表面30への貼着処理を仕上げることができる。
【0017】
ここでは、図2(B)に示すように、保護材26と補修用シート40との間に生じる隙間部分に接着剤42が充てんされるように、補修用シート40を貼着する前に保護材26の側面とコンクリート表面30の所要範囲にわたって接着剤42を予め塗布している。
また、本実施形態にかかる補修用シート40は長尺体に形成されたものを用いることもできるが、所要寸法に形成されたシート体に形成された補修用シート40を用いることもできる。シート体に形成された補修用シート40を用いる場合には、止水目地20の延長方向に沿って補修用シート40を連続させる際には、隣接する補修用シート40の端縁どうしを所要長さ重複させた状態で貼着させるようにすればよい。
【0018】
このように補修用シート40の貼着面の全面に接着剤42を塗布する場合には、保護材26と補修用シート40と接着剤42のそれぞれの線熱膨張係数や弾性係数が近似していることが重要である。このような保護材26、補修用シート40、接着剤42を採用することで補修処理後における止水目地20と補修用シート40および接着剤42が一体化し、コンクリート打ち継ぎ目部分10における温度や外力による変形に補修用シート40および止水目地20を適切に追従させることができ、補修処理後の止水目地20の止水性を良好なものにすることができる。
【0019】
(第2実施形態)
本実施形態は、補修用シート40の貼着面に塗布する接着剤42の線熱膨張係数および弾性係数が補修用シート40の素材であるシリコーンゴムの線熱膨張係数および弾性係数と異なる場合の実施形態である。止水目地20およびコンクリート表面30の吸水処理は第1実施形態と同様にして行うことができるが、補修用シート40を保護材26に貼着する際の工程が異なっている。
【0020】
具体的には、補修用シート40の貼着面に接着剤42を塗布する際において、少なくとも補修用シート40には保護材26と重複する部分に接着剤42が塗布されていない接着剤未塗布部44を設けている。このような接着剤未塗布部44の配設方法は、補修用シート40の貼着面に保護材26の幅寸法と同幅寸法以上の幅寸法を有するマスキングテープを取り付け、貼着面に接着剤42を塗布し、接着剤42の塗布が完了した後にマスキングテープを除去すればよい。このように補修用シート40の貼着面に接着剤未塗布部44を設けた後、接着剤未塗布部44の部位が保護材26に重複するようにして補修用シート40をコンクリート表面30の所要範囲に貼着させる。
【0021】
図3において補修用シート40の貼着面に接着剤が塗布されている部分を符号Hで示す。ここでは、補修用シート40と止水目地20との一体化を防ぐ構成を採用しているので、保護材26および保護材26の側端縁部の近傍位置におけるコンクリート表面30には接着剤42を塗布していない。
また、止水目地20の延長方向に沿ってシート体に形成された補修用シート40を用いる際には、互いに隣接する補修用シート40の端縁部分を所要長さ重複させた状態で連続させればよい。このとき、補修用シート40の重複部分に接着剤42を塗布しておけば、止水目地20の延長方向に隣接する補修用シート40どうしを水密に配設することができる。もちろん、長尺体に形成された補修用シート40を巻き出しながら使用する形態を採用することもできる。
【0022】
このような補修用シート40への接着剤塗布工程を採用することで、補修処理後における止水目地20部分は、既設の止水目地20の部分と補修用シート40の部分とで温度変化や外力により生じる変形をそれぞれ独立させることができる。すなわち、既設の止水目地20(保護材26)と補修用シート40との間における内部応力の発生を防ぎ、長期にわたって高いシール性を維持させることができる点で好都合である。
【0023】
以上に本願発明にかかる止水目地の補修方法について実施形態に基づいて詳細に説明をしたが、本願発明は以上に示した実施形態に限定されるものではない。例えば、以上の実施形態においては、止水目地20はコンクリート打ち継ぎ目部分10に設けられているが、いわゆる盲目地の配設箇所に止水目地20を設けた形態であってもよい。
また、以上の実施形態においては、既設の止水目地20が、伸縮目地材22と充てん剤24と保護材26を有する形態について説明しているが、この形態に限定されるものではなく、伸縮目地材22と充てん剤24のみからなる止水目地20であっても本願発明を適用させることができるのはもちろんである。この場合、第2実施形態における接着剤未塗布部44は、充てん剤24との重複部分に対応する部位に設ければよい。
【符号の説明】
【0024】
10 コンクリート打ち継ぎ目部分
20 止水目地
22 伸縮目地材
24 充てん剤
26 保護材
30 コンクリート表面
40 補修用シート
42 接着剤
44 接着剤未塗布部
50 吸水スポンジ
60 表面水
100 コンクリート構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に設けられた止水目地の補修方法であって、
前記止水目地を含むコンクリート表面の所要範囲の水分を除去する工程と、
前記止水目地の幅寸法よりも幅広寸法に形成された補修用シートを前記止水目地に重複させた状態で前記コンクリート表面の所要範囲に貼着する工程と、
を有することを特徴とするコンクリート構造物の止水目地の補修方法。
【請求項2】
前記止水目地は、コンクリート目地部分に充てんされる充てん剤と、該充てん剤の表面を被覆する保護材とにより形成されていて、
前記補修用シートを貼着する工程は、前記保護材の表面を前記補修用シートにより被覆する工程であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物の止水目地の補修方法。
【請求項3】
前記補修用シートはシリコーンゴム製であり、前記補修用シートに接着剤を塗布した後に前記コンクリート表面に貼着させていることを特徴とする請求項1または2記載のコンクリート構造物の止水目地の補修方法。
【請求項4】
前記接着剤を前記補修用シートの貼着面に塗布する際は、
前記補修用シートの貼着面の全面に塗布することを特徴とする請求項3記載のコンクリート構造物の止水目地の補修方法。
【請求項5】
前記接着剤を前記補修用シートの貼着面に塗布する際は、
前記補修用シートの貼着面のうち、少なくとも前記保護材との重複部分を除いた範囲に塗布することを特徴とする請求項3記載のコンクリート構造物の止水目地の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−44199(P2013−44199A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183980(P2011−183980)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(309016555)ハタ防水建設株式会社 (4)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)