説明

コンクリート構造物の湿潤養生方法

【課題】良好な強度発現、コンクリート表面の緻密化が図れ、耐久性の向上につながるコンクリート構造物の養生方法を提供すること。
【解決手段】型枠内へのコンクリートの打設直後に、型枠を含む打設箇所の側方全周を囲むように養生シート14を配置する。打設箇所の上部から散水して養生シート14内の雰囲気湿度を、予め設定した範囲内に維持して養生を行う。養生シート14内にて脱型作業を行う。脱型後に、コンクリートの側面全周にエアシート22を巻き付ける。前記散水を引き続き行いながら養生を継続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築工事における、特に壁状構造物のコンクリート打設工に関し、コンクリート打ち込みから硬化時における養生方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは型枠内に打ち込まれ、型枠を取り外すまでの間は湿潤状態を保つことが推奨され、コンクリート上部の露出面に散水あるいは湿潤マットを敷き詰める方法がなされている。これらの方法では人的に散水する方法が取れられるが、散水の程度や時期によっては、必ずしもコンクリート表面が湿潤の状態を保持できるとは限らない。また、ホースによる散水では一時的に過剰に散水され、水が無駄となる場合もある。このように人手によらず、また養生期間内に適度に湿潤状態を保持することが必要である。更には、自動的に散水が行われることで、人件費の削減および水の無駄を省くことも大切である。
【0003】
また、通常はコスト面、工期の問題から型枠の脱型時である打ち込み後の材齢7日前後で養生が終了するケースが多い。しかしながら、材齢7日前後ではコンクリートは水和途中の段階であり、この時点で外気にさらされるとコンクリート表面から乾燥が進みその後のセメントの水和が阻害される場合もある。特に壁状構造物では部材が薄いために断面全体の乾燥が進む。このように水和が阻害されるとかぶりコンクリートの耐久性が損なわれる。微細な空隙構造について着目すると、乾燥による水和阻害により比較的粗大な空隙が残存する結果となり、耐久性に影響する物質移動抵抗性が低下し、その結果耐久性の低いコンクリートとなる。そのようなことから、脱型後もできる限り湿潤状態を保ち、水和の進行を継続的に行うことが望ましい。
【0004】
例えば養生方法に関する特許としては特開2009−101569、特開2009−84981が挙げられるが、これらはマスコンクリート部材となる場合に生じる温度ひび割れを低減するための養生方法として提案されたものであり、主に部材の内部や外部を冷却、保温する目的で行われるものである。また、特開2009−30246、特開2004−375673、特開2010−24785では湿潤養生方法が提案されているが、シートのみによる養生方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−101569号公報
【特許文献2】特開2009−84981号公報
【特許文献3】特開2009−30246号公報
【特許文献4】特開2004−375673号公報
【特許文献5】特開2010−24785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンクリートの打ち込みには型枠が使われ、上記のような理由により型枠を取り外した後に養生が行われることもある。しかしながら、初期養生としては打ち込み直後から型枠の取り外しまでの間において湿潤・保温養生を行うことが重要である。しかしながら、型枠を設置した段階で保温・湿潤養生を行い、さらには型枠を取り外した後も継続して保温・湿潤養生することは困難であることが多い。また、散水により養生が実施されるが、湿潤の状態は部分的ではなく、コンクリート表面を均一に湿潤状態にすることも必要である。
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、良好な強度発現、コンクリート表面の緻密化が図れ、耐久性の向上につながるコンクリート構造物の養生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため本発明は、型枠内へのコンクリートの打設直後に、前記型枠を含む打設箇所の側方全周を囲むように養生シートを配置し、前記打設箇所の上部から散水して前記養生シート内の雰囲気湿度を、予め設定した範囲内に維持して養生を行い、前記養生シート内にて脱型作業を行い、脱型後に、コンクリートの側面全周にエアシートを巻き付け、前記散水を引き続き行いながら養生を継続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、まず、脱型前の初期に水和を促進させ、初期強度を確保する目的で散水による湿潤養生を実施する。散水は多量の水を必要とせず、養生シート内の雰囲気湿度を高くしておく程度の霧状のもので十分である。また、養生のシートを併用し養生雰囲気の温度、高湿度を保持する。さらに脱型時には、極度な乾燥や温度変化を防ぐ目的で養生シート内にて脱型作業を実施する。さらに、脱型後には速やかにエアシートを巻き付け、散水を引き続き行いながら養生(気中養生でなく封緘養生)を継続する。
本発明によりコンクリートの初期養生として最も大切なセメントの水和を促進させることができ型枠周辺の雰囲気の湿度を高めるとともに外気温の日変化を排除した安定した養生温度を提供可能である。すなわち。コンクリートの初期養生として最も大切なセメントの水和を促進させることができ、良好な強度発現、コンクリート表面の緻密化が図れ、耐久性の向上につながる。
本発明の対象としては、土木・建築工事におけるコンクリート工事全般に適用が可能であるが、コンクリート部材の打ち込み高さの上下差を比較的有する柱部材や壁部材において特に効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】既設橋脚の鉄筋コンクリートと外巻き耐震補強工事での適用例を示す図である。
【図2】(A)は散水シート養生の概念図、(B)はその平面図である。
【図3】(A)は測定箇所の概念図、(B)は測定位置の説明図である。
【図4】養生シートの有無によるコンクリート温度の違いを示す説明図である。
【図5】養生シート内、外の雰囲気温度の測定結果を示す図である。
【図6】養生シート内外の相対湿度を示す図である。
【図7】空隙径と積算空隙量の関係示す図である。
【図8】空隙径とLOG微分空隙量の関係示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に従って説明する。
本実施の形態では、既設橋脚10の外側に、外巻きコンクリート12を打設して既設橋脚10を補強する場合に適用している。
図1(A)乃至(E)に示すように、コンクリート構造物を補強する外巻きコンクリート12は高さが大きく、コンクリートの打設は複数回に分けて行なわれる。
すなわち、最も下方に位置する第1のコンクリート構造体12Aからその上の第2のコンクリート構造体12B、第3のコンクリート構造体12Cへと、下方に位置するコンクリート構造体の型枠を外した後にその上方のコンクリート構造体を構築するための型枠を設置してコンクリートの打設を行っていく。
【0011】
まず、第1のコンクリート構造体12Aを構築するに際して、既設橋脚10の周囲に型枠を組み立て、型枠内へコンクリートを打設する。
そして、打設直後に、型枠を含む打設箇所の側方全周を囲むようにビニール製の養生シート14を配置する。
なお、この養生シート14は、図1(D)に示すように、既設橋脚10の高さに対応した長さを有するものを丸めておき、引き出しつつ使用するものである。
また、打設箇所の上部から散水して養生シート14内の雰囲気湿度を、予め設定した範囲内に維持して養生を行う。
この場合の湿度は、例えば、80%〜100%が好ましい。
散水は、例えば、図2に示すように、多数の孔が形成されたパイプ16を打設箇所の上方に設置し、用水路の水や水道水などをポンプ18によりパイプ16に供給し、パイプ16の孔から霧状に噴出させることで行なう。
この場合、養生シート14の下部に、水の貯留を可能とした水貯め部20を設け、散水した水を水貯め部20で受け、この受けた水の水を汲み上げて散水すると、散水のための水の供給路を短縮でき、コスト低減を図る上で有利となる。
【0012】
予め定められた養生期間の経過後、養生シート14内にて脱型作業を行い、脱型後に、第1のコンクリート構造体12Aの側面全周にエアシート22を巻き付ける。
同時に、第2のコンクリート構造体12Bを構築するための型枠を、既設橋脚10の周囲に組み立て、型枠内へコンクリートを打設する。
そして、打設直後に、型枠を含む打設箇所の側方全周および第1のコンクリート構造体12Aの全周を囲むように丸められた養生シート14部分を持ち上げ、養生シート14を下方に引き出す。
また、打設箇所の上部から散水して養生シート14内の雰囲気湿度を、予め設定した範囲内に維持して養生を行う。
【0013】
さらに、予め定められた養生期間の経過後、養生シート14内にて脱型作業を行い、脱型後に、第2のコンクリート構造体12Bの側面全周にエアシート22を巻き付ける。
同時に、第3のコンクリート構造体12Cを構築するための型枠を、既設橋脚10の周囲に組み立て、型枠内へコンクリートを打設する。
そして、打設直後に、型枠を含む打設箇所の側方全周および第1、第2のコンクリート構造体12A、12Bの全周を囲むように丸められた養生シート14部分を持ち上げ、養生シート14を下方に引き出す。
また、打設箇所の上部から散水して養生シート14内の雰囲気湿度を、予め設定した範囲内に維持して養生を行う。
【0014】
このように、散水を引き続き行いながら第1、第2、第3のコンクリート構造体12A、12B、12Cの養生を少なくとも材齢28日程度まで継続することが好ましい。
【0015】
このように本実施の形態では、脱型前の初期に水和を促進させ、初期強度を確保する目的で散水による湿潤養生を実施する。ひび割れ抵抗性を向上させるため、打設後の初期養生(特にセメントの水和に必要な水分と温度)が重要であるためである。特に冬場にかけての施工では、コンクリートの硬化、強度発現を促進するような対策も必要とされるためである。
散水は多量の水を必要とせず、シート内の雰囲気湿度を高くしておく程度の霧状のもので十分である。
また、養生シート14は、養生雰囲気の温度、高湿度を保持する。
さらに、極度な乾燥や温度変化を防ぐ目的でカーテン状になった養生シート14内にて脱型作業を実施する。
脱型後には速やかにエアシート22を巻き付け、散水を引き続き行いながら養生(気中養生でなく封緘養生)を材齢28日程度まで継続することが好ましい。
【0016】
本実施の形態の養生方法を適用した場合と適用せずに標準的に養生した場合のコンクリート壁部材の温度、養生の雰囲気温度・湿度を測定した。
図3(A)、(B)に適用例の概念図と温度計測の概念を示す。
図4は、コンクリート温度の計測結果を示し、図5は、養生シート14内、外の雰囲気温度の測定結果を示す。
図4、図5から、養生シート14の設置によりコンクリート温度が高い分布を示していることが分かる。また、養生シート14内では高い温度を示していることが分かる。養生シート14の設置により雰囲気温度の変化、特に外気温の影響による温度低下を防ぐことができることが分かる。
【0017】
図6は、養生シート14内外の相対湿度の測定結果を示す。
散水により養生シート14内部において高い湿度が保たれていることが分かる。脱型時および脱型後も同様の養生を継続して実施しており、高湿度な雰囲気が長期間保持されていることが分かる。これによりコンクリート表面が乾燥することなく水和が促進され、良好な強度発現、コンクリート表面の緻密化が促進され、耐久性の向上につながる。
【0018】
図7、図8は、コンクリートを打ち込み後、材齢1日、3日、7日、28日で湿潤養生シート14による養生を停止し、気中に曝露したケースについて、打ち込み後91日にて微細な空隙構造を調べた結果を示す。
図7には空隙径と積算空隙量の関係を示し、図8には空隙径とLOG微分空隙量の関係を示す。
空隙構造については水銀圧入式ポロシメータを使用し、コンクリートから別途採取した試験体に対して実施したものである。また。コンクリートから骨材を取り除いたペースト部分での空隙構造を調べている。なお。これらの比較として材齢91日まで湿潤養生を実施したケースについても示す。
図7、図8から、気中曝露の開始材齢が早いほど、粗大な空隙径において空隙量のピークを示し、全体の空隙量も多いことが分かる。このような空隙構造の違いが耐久性に及ぼす影響については今後の課題であるが、コンクリートの耐久性は3nm〜50μm程度までの毛細管空隙の量や粗大な空隙の量に影響があることが知られており、湿潤養生をできるだけ長い期間行うことによりコンクリートの耐久性向上につながるものと考えられる。
【符号の説明】
【0019】
10……既設橋脚
12……外巻きコンクリート
12A、12B、12C……コンクリート構造体
14……養生シート
16……散水用パイプ
22……エアシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠内へのコンクリートの打設直後に、前記型枠を含む打設箇所の側方全周を囲むように養生シートを配置し、
前記打設箇所の上部から散水して前記養生シート内の雰囲気湿度を、予め設定した範囲内に維持して養生を行い、
前記養生シート内にて脱型作業を行い、
脱型後に、コンクリートの側面全周にエアシートを巻き付け、
前記散水を引き続き行いながら養生を継続する、
ことを特徴とするコンクリート構造物の養生方法。
【請求項2】
前記コンクリート構造物は高さが大きく、前記コンクリートの打設は複数回に分けて行なわれ、最も下方に位置する第1のコンクリート構造体からその上の第2のコンクリート構造体、第3のコンクリート構造体、……第Nのコンクリート構造体へと、下方に位置するコンクリート構造体の型枠を外した後にその上方のコンクリート構造体を構築するための型枠を設置してコンクリートの打設を行っていき、
前記養生シートの配置、散水、エアシートの巻き付けは、最も下方に位置する第1のコンクリート構造体から最も上方に位置する第1のコンクリート構造体まで、各コンクリート構造体の構築毎に行なわれる、
ことを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物の養生方法。
【請求項3】
前記養生シートの下部に、水の貯留を可能とした水貯め部を設け、
前記散水は、前記散水した水を前記水貯め部で受けこの受けた水の水を汲み上げることで行なわれる、
ことを特徴とする請求項1または2記載のコンクリート構造物の養生方法。
【請求項4】
前記散水を行いながらの養生は、少なくとも材齢28日程度まで継続する、
ことを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載のコンクリート構造物の養生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−207028(P2011−207028A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76702(P2010−76702)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】