説明

コンクリート構造物の目地部の吸出し防止材およびその施工方法

【課題】 季節や温度の影響を受けることなく施工でき、地震時等の変位にも対応でき、しかも吸出し力に対する抵抗力の大きいコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材およびその施工方法を提供すること。
【解決手段】 目地部に跨って形成した縦孔に施工用治具で拘束して、ゴム・合成樹脂などの弾性変形可能な材料からなり、目地部に跨って形成された縦孔の目地部の開口側に沿って配置される中央肉厚部と、この中央肉厚部の両端部に形成され縦孔内壁面と当接する両端当接部とを備えた吸出し防止材を挿着することで、簡単に吸出し防止材を縦孔に装着することができ、内側に充填部材を充填することで縦孔の内壁面に密着させて吸出し防止可能にするようにしている。
これにより、吸出し防止材の目地部開口側に配置した中央肉厚部によって大きな吸い出し力が加わっても抵抗力が高く、吸い出されることがなく、裏込め材の吸い出しを確実に防止するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート構造物の目地部の吸出し防止材およびその施工方法に関し、コンクリート構造物の目地部から土砂などの裏込め材が流出するのを防止できる吸出し防止材および吸出し防止材を効率良く施工できるようにしたもので、既設の港湾構造物などに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
海洋において埋立地等の造成のための護岸や防波堤などの港湾構造物には、コンクリート構造物が用いられることが多く、例えばコンクリート製のケーソンがあり、陸上において函体のケーソンを造り、海上の現場に運搬し、捨石基礎上に据え付けることが行われる。
【0003】
従来、ケーソンは、例えば、図9に示すように、護岸となる高さを備えたケーソン1のフーチング部2を捨石基礎上に据え付け、ケーソン1,1間の縦方向の目地部3を遮水しシールして、ケーソン1,1の上部を上部工4で覆って港湾構造物として使用される。
【0004】
このようなケーソンの目地部3の止水や陸側からの裏込め材の吸出しを防止するため、ゴム・合成樹脂等弾性体の変形を利用する中実型の目地材やゴム・繊維製等の長筒状の袋の中にアスファルト、砂等の流動体を詰めて膨ませる型の目地材を、ケーソン1,1間の目地部3に縦方向に配置してシールを行うようにしている(特許文献1、2等参照)。
【0005】
ところが、このような止水および吸出し防止の目地材で地震変動や老朽化などによりケーソン1,1間の目地部3が開口し、裏込め材の吸い出しなどが生じた場合には、その対策として構造物の海側の正面の目地部の両側にアンカーを打ち込み、アングルなどで鋼材にゴム板などの緩衝材を貼り付けたものを固定することが行われたり、構造物の海側の目地間に袋状や円筒状の吸出し防止材を挿入することが行われているが、いずれも取付面の貝類などの除去作業が必要となったり、潜水夫による作業が必要になるという問題があった。
【0006】
そこで、このような問題を解消できる止水用パッキンの施工方法として、PC壁体あるいはPC加圧矢板に適用したものを図10に示すように、止水用パッキン5として、中央湾曲部5aとその両側の板状リップ部5b,5bを備えたゴム・合成樹脂などの変形可能な材料のものを用い、PC壁体6,6間やPC加圧矢板間のグラウト用の縦孔7などに装着できるように拘束して装着し、拘束を開放して内部に充填部材8を充填することで、縦孔7のPC壁体6,6の外側に位置させた中央湾曲部5aおよび縦孔7の中心側に向けた両側の板状リップ部5b,5bを縦孔7に密着させることで止水や吸出し防止が行われている。
これにより、ゴム・合成樹脂などの変形可能な材料を用いることで、施工後の地震時等の変位にも対応して裏込め材の吸出しなどを防止できるようにしている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−242045号公報
【特許文献2】特開平11−13041号公報
【特許文献3】特開2009−209676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、このような止水用パッキンを施工した後、地震などの変位で目地部の間隔が広がったり、止水用パッキンに大きな吸い出し力が加わると、パッキン自体が目地部の間から吸い出される恐れがあり、地震や温度変化などの変位への対応性の一層の向上が望まれている。
【0009】
この発明は、かかる従来技術の問題に鑑みてなされたものであって、季節や温度などの気象の影響を受けることなく施工でき、地震時等の変位にも対応でき、しかも吸出し力に対する抵抗力の大きいコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材およびその施工方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためこの発明の請求項1記載のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材は、コンクリート構造物間の目地部に設置され土砂などの裏込め材の吸い出しを防止するコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材であって、ゴム・合成樹脂などの弾性変形可能な材料からなり、前記目地部に跨って形成された縦孔の目地部の開口側に沿って配置される中央肉厚部と、この中央肉厚部の両端部に形成され前記縦孔内壁面と当接する両端当接部とを備え、これら中央肉厚部と両端当接部とで略中空半円状に形成され内側に充填部材を充填して前記縦孔に密着されて吸出し防止可能に構成してなることを特徴とするものである。
【0011】
この発明の請求項2記載のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材は、請求項1記載の構成に加え、前記両端当接部の両端に前記縦孔への挿着前の状態で外側に突出し前記充填部材の充填により前記縦孔に沿って当接される突出部を形成して構成したことを特徴とするものである。
【0012】
この発明の請求項3記載のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材は、請求項1記載の構成に加え、前記両端当接部を連結して略中空円形状に形成して構成したことを特徴とするものである。
【0013】
この発明の請求項4記載のコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法は、コンクリート構造物間の目地部に土砂などの裏込め材の吸い出しを防止する吸出し防止材を挿着・施工するに際し、前記目地部に跨って吸出し防止材を装着する縦孔を形成した後、前記請求項1〜3のいずれかに記載の吸出し防止材を施工用治具で前記縦孔の断面形状より小さい断面形状に拘束し、当該拘束状態の吸出し防止材を施工治具ごと前記縦孔に挿着した後、吸出し防止材のみを残して前記施工治具を抜き出し、吸出し防止材と縦孔との間に充填部材を充填して縦孔内壁面に沿って密着させるようにしたことを特徴とするものである。
【0014】
この発明の請求項5記載のコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法は、請求項4記載の構成に加え、前記吸出し防止材の外面に摩擦軽減剤を塗布して挿着するようにしたことを特徴とするものである。
【0015】
この発明の請求項6記載のコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法は、請求項4または5記載の構成に加え、前記請求項3記載の吸出し防止材では、当該吸出し防止材の上下端部を蓋部材で閉塞した後、内部を真空吸引して前記縦孔より小さな断面形状に拘束して挿着するようにしたことを特徴とするものである。
【0016】
この発明の請求項7記載のコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法は、請求項4または5記載の構成に加え、前記請求項1または2記載の吸出し防止材では、当該吸出し防止材を向かい合わせて配置し、これら吸出し防止材の内側に充填部材を充填するようにしたことを特徴とするものである。
【0017】
この発明の請求項8記載のコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法は、請求項4〜7のいずれかに記載の構成に加え、前記吸出し防止材を前記縦孔に挿着しながら縦孔内に高圧水を噴射して縦孔内の堆積物を排出するようにしたことを特徴とするものである。
【0018】
なお、ここでコンクリート構造物とは、ケーソンまたはPC壁体で構成される構造物およびPC加圧矢板などコンクリートで構成される構造物をいい、コンクリート構造物に形成される縦孔とは、コンクリート構造物を新設する場合に形成される場合と既設のコンクリート構造物に削工して形成する場合のいずれをも含むものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明の請求項1記載のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材によれば、コンクリート構造物間の目地部に設置され土砂などの裏込め材の吸い出しを防止するコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材であって、ゴム・合成樹脂などの弾性変形可能な材料からなり、前記目地部に跨って形成された縦孔の目地部の開口側に沿って配置される中央肉厚部と、この中央肉厚部の両端部に形成され前記縦孔内壁面と当接する両端当接部とを備え、これら中央肉厚部と両端当接部とで略中空半円状に形成され内側に充填部材を充填して前記縦孔に密着されて吸出し防止可能に構成してなるので、吸出し防止材の目地部開口側に配置した中央肉厚部によって大きな吸い出し力が加わっても抵抗力が高く、吸い出されることがなく、裏込め材の吸い出しを確実に防止することができる。
【0020】
この発明の請求項2記載のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材によれば、前記両端当接部の両端に前記縦孔への挿着前の状態で外側に突出し前記充填部材の充填により前記縦孔に沿って当接される突出部を形成して構成したので、吸出し防止材の両端当接部の両側に形成した突出部で縦孔に一層確実に密着させることができ、裏込め材の吸い出しを防止することができる。
【0021】
この発明の請求項3記載のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材によれば、前記両端当接部を連結して略中空円形状に形成して構成したので、吸い出し防止材の両端当接部を連結した中空円形状の内部に充填部材を充填することで、確実に充填部材を保持して縦孔への密着性を向上することができ、1つの吸出し防止材でも裏込め材の吸い出しを防止することができる。
【0022】
この発明の請求項4記載のコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法によれば、コンクリート構造物間の目地部に土砂などの裏込め材の吸い出しを防止する吸出し防止材を挿着・施工するに際し、前記目地部に跨って吸出し防止材を装着する縦孔を形成した後、前記請求項1〜3のいずれかに記載の吸出し防止材を施工用治具で前記縦孔の断面形状より小さい断面形状に拘束し、当該拘束状態の吸出し防止材を施工治具ごと前記縦孔に挿着した後、吸出し防止材のみを残して前記施工治具を抜き出し、吸出し防止材と縦孔との間に充填部材を充填して縦孔内壁面に沿って密着させるようにしたので、目地部に跨って形成した縦孔に施工用治具で拘束して吸出し防止材を挿着することで、簡単に吸出し防止材を縦孔に装着することができ、内側に充填部材を充填することで縦孔の内壁面に密着させて裏込め材の吸い出しを確実に防止することができるとともに、施工を簡単に行うことができる。
【0023】
この発明の請求項5記載のコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法によれば、前記吸出し防止材の外面に摩擦軽減剤を塗布して挿着するようにしたので、摩擦軽減剤によって吸出し防止材の挿着が容易にできるとともに、特殊ウレタン樹脂を塗布することで、削工(穿孔)した縦孔のコンクリート面の保護も可能となる。
【0024】
この発明の請求項6記載のコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法によれば、前記請求項3記載の吸出し防止材では、当該吸出し防止材の上下端部を蓋部材で閉塞した後、内部を真空吸引して前記縦孔より小さな断面形状に拘束して挿着するようにしたので、略円形断面の吸出し防止材に対して上下を蓋部材で塞いで真空吸引することで、簡単に縦孔に装着することができる。
【0025】
この発明の請求項7記載のコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法によれば、前記請求項1または2記載の吸出し防止材では、当該吸出し防止材を向かい合わせて配置し、これら吸出し防止材の内側に充填部材を充填するようにしたので、中央肉厚部と両端当接部を備えた吸出し防止材であっても向かい合わせて配置することで、目地部のいずれの方向にも吸出し防止材が位置することになり、一層確実に裏込め材の吸出しを防止することができる。
【0026】
この発明の請求項8記載のコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法によれば、前記吸出し防止材を前記縦孔に挿着しながら縦孔内に高圧水を噴射して縦孔内の堆積物を排出するようにしたので、高圧水の噴射により縦孔内の堆積物を排出しながら装着することができ、縦孔の削工(穿孔)から吸出し防止材の施工までに時間の経過があっても容易に挿着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材およびその施工方法の一実施の形態にかかり、(a)および(b)は吸出し防止材を拘束した状態の施工用治具の斜視図および横断面図、(c)は縦孔へ装着して拘束を開放した状態の端面図である。
【図2】この発明のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材およびその施工方法の一実施の形態にかかる吸出し防止材の端面図である。
【図3】この発明のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材およびその施工方法の他の一実施の形態にかかる吸出し防止材の端面図である。
【図4】この発明のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材およびその施工方法のさらに他の一実施の形態にかかる吸出し防止材の端面図である。
【図5】この発明のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材およびその施工方法の一実施の形態の施工用治具にかかり、(a)は正面図、(b)は左側面図、(c)は平面図、(d)はA−A断面図である。
【図6】この発明のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材およびその施工方法の一実施の形態の施工用治具の挿入補助架台にかかり、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図7】この発明のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材およびその施工方法の一実施の形態の施工用治具にかかり、(a)は押え治具の正面図、(b)は押え治具の右側面図、(c)は固定板の正面図、(d)は固定板の右側面図である。
【図8】この発明のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材およびその施工方法の一実施の形態にかかる施工工程の説明図である。
【図9】この発明の適用対象であるコンクリート構造物のケーソンの概略斜視図である。
【図10】従来の止水用パッキンおよびその施工方法にかかり、(a)は止水用パッキンの端面図、(b)はPC壁体およびPC壁体構造物のグラウト孔への止水用パッキンの施工完了状態の端面図、(c)は部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明を実施するための形態について、図面に基づき詳細に説明する。
このコンクリート構造物の吸出し防止材10は、図1(c)および図2に示すように、例えばコンクリート構造物であるケーソン1,1の目地部3に跨るように形成した縦孔7に沿って海側の目地部を塞ぐように挿着し、充填部材8の充填により縦孔7に密着させて止水および吸出し防止を図るとともに、目地部の開閉および剪断変位を吸収するものである。
【0029】
新設の隣接するPC壁体やPC加圧矢板などの目地部間に跨るように形成される縦孔(グラウト孔)に挿着されるだけでなく、既設のコンクリート構造物の目地部間に縦孔を削工(穿孔)した後、挿着する場合のいずれにも同様に適用できるものである。
【0030】
この吸出し防止材10は、力が加わらない自然状態において、縦孔7の半径と同等の半径の略半円筒形状の断面形状の外形とされ、中央部が肉厚とされた中央肉厚部11と、この中央肉厚部11の両端に連続して形成された略肉厚が一定の両端当接部12,12と、この両端当接部の両端で外側(半径方向外側)に突き出した突出部13、13とが一体にゴムあるいは合成樹脂などの弾性変形可能な材料で成形され、横断面形状が略Ω状となっている。
【0031】
そして、中央肉厚部11は、中央が縦孔7の中心側となる内側に凸の円弧とその両側の外側に凸の円弧とを組合わせて最も肉厚の厚い部分が両端当接部12の4〜5倍程度の厚さとされ、中央から端部(外側)に徐々に厚さが変化するようにしてある。
【0032】
また、両端の突出部13,13には、先端に角部14が形成され、縦孔7に当てることでシール性を高めるとともに、傾斜面15が形成され、外側(半径方向先端側)が低く、内側(半径方向基端側)が高く形成してあり、先端ほど弾性変形し易くして先端の角部14の密着性を高め、しかも内側に充填する充填部材8による受圧面積を大きくできるようにしてある。
【0033】
また、この吸出し防止材10は、中央肉厚部11、両端の両端当接部12,12および突出部13,13を引き伸ばした長さが、図1(c)に示すように、縦孔7の内周の長さの略2/3程度となるようにしてある。
【0034】
そして、吸出し防止材10の縦孔7への挿着は、中央肉厚部11を目地部3の開口側(海側)に位置させて略半円形状の背面部が目地部3をシールするようにし、両端の両端当接部12,12が縦孔7の内壁面に沿うように配置されて挿着される。
これにより、吸出し防止材10に吸出し力が加わって目地部3から海側に吸い出されるような場合でも中央肉厚部11の厚さが厚くしてあることから抵抗力が大きく、これまでの肉厚が略一定の場合に比べ、吸い出されることを極力防止することができ、特に地震変位などで目地部3の縦孔7の隙間が変化しても吸い出されることもなく、コンクリート構造物1,1の内側の裏込め材の流出を防止することができる。
【0035】
このような吸出し防止材としては、上記の実施の形態に示したものに限らず、例えば図3に示すように、中央肉厚部11の両端に両端当接部12,12を形成し、両端当接部12,12の先端に角部14および傾斜面15を形成することで、突出部を省略した形状とした吸出し防止材10Aとすることもできる。
この吸出し防止材10Aによっても中央肉厚部11による吸出し防止の抵抗力増大効果を奏するとともに、形状が簡素化される分だけ製造が容易で安価に製造することができる。
【0036】
さらに、吸出し防止材としては、図4に示すように、中央肉厚部11の両端の両端当接部12,12同士を連結して略中空円形状の外形とするとともに、中央肉厚部11の両端から徐々に肉厚を変化させ、両端当接部12,12および連結部16は略一定の肉厚に形成した吸出し防止材10Bとすることもできる。
この吸出し防止材10Bによれば、略中空円形状に形成されて閉じられた断面形状としてあるので、吸出し防止材10Bの内部に充填する充填部材8が漏れ出すことなく、縦孔7に密着させるのに有効に作用し、一層確実に止水および吸出し防止を図ることができるとともに、中央肉厚部11だけでなく連結部16によっても吸出し力に対する抵抗力を高めることができる。
【0037】
次に、この吸出し防止材10のコンクリート構造物であるケーソン1への施工には、図1および図5〜7に示す施工用治具20が用いられ、縦孔7の断形状より小さな断面形状に拘束することが行われる。この吸出し防止材10では、縦孔7とほぼ同一半径の外形とされるとともに、縦孔7に対して両端当接部12,12の両端の突出部13,13が吸出し防止材10の外形から外側に突き出す形状であることから、吸出し防止材10を縦方向に長い(深い)縦孔7に簡単に装着することができず、拘束して小さな断面形状にする必要がある。
【0038】
この施工用治具20は、図1(a)に示すように、略コ字状の治具本体21を備えており、金属製や合成樹脂製などとされており、この治具本体21の側部の管軸方向の開口部22から吸出し防止材10が装着されて拘束されるようになっている。この施工用治具20では、治具本体21およびその開口部22の寸法は、図1(b)に示すように、吸出し防止材10の中央肉厚部11、両側の両端当接部12,12および先端の突出部13,13を治具本体21内に入れて開口部22で挟むように取り付けて拘束したときに、縦孔7に挿入可能な状態まで押し縮めて拘束できるように治具本体21の幅や深さが設定されるとともに、長さが縦孔7の深さに応じて設定してある。
なお、治具本体21の開口部22は、管軸方向に連続するものに限らず、切欠き部を形成して間隔をあけたものであっても良く、開口部22に切り欠き部を設けることで、施工用治具20を引き抜くようにする場合の引き抜き力を小さくすることが可能となる。
【0039】
また、施工用治具20の開口部の両端縁には、吸出し防止材10の縦孔7への挿着時に縦孔7内の堆積土砂などを排出するため高圧水を噴射する噴射ノズル23を備えた高圧水管24が取り付けてあり、図示しない高圧水供給装置から高圧ホースを介して高圧水が供給できるようにしてある。
【0040】
さらに、治具本体21の上端面には、当て板を介して吊りフック用の孔があけられた吊下げ用ブラケット25が取り付けてある。なお、この吊下げ用ブラケット25に代え、アイボルトなどを取り付けるようにしても良い。
【0041】
また、この施工用治具20には、縦孔7の上端部に設置される挿入補助架台26が備えられ、図6に示すように、平板状の台板27に形成された貫通孔に縦孔7に装着される保護管28が取り付けられるとともに、押え治具31を固定するねじ穴29およびコンクリート構造物1への固定用の長穴30が四隅に形成してあり、アンカーボルトなどで固定される。
【0042】
この挿入補助架台26のねじ穴29に固定される押え治具31は、施工用治具20で拘束して挿着した吸出し防止材10のみを縦孔7内に残して施工用治具20だけを抜き出すため吸出し防止材10の上端面を押えるものであり、図7に示すように、押え板32とこれを取り付ける固定板33とで構成され、固定板33をボルトを介して挿入補助架台26のねじ穴29に固定して使用する。
【0043】
次に、このように構成した吸出し防止材10の施工用治具20を用いて行うこの発明のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材の施工方法について、図8を参照して既設のコンクリート構造物であるケーソンに施工する場合を例に説明する。
まず、コンクリート構造物であるケーソン1,1に対し、上部工4に作業用穴4aを目地部3の上端面まで吸出し防止材10の外形より大きく形成する。
【0044】
そして、この作業用穴4aから吸出し防止材10を挿着するための縦孔7をケーソン1の目地部3を跨ぐとともに、頂部から底部ないし底部を越えた下まで形成する。この縦孔7の径は、吸出し防止材10の外形寸法と同等以上とする。
そして、作業用穴4aおよび縦孔7部分に挿入補助架台26を設置して長穴30を介してアンカーボルトなどで固定する。
【0045】
次に、吸出し防止材10を、施工用治具20を用い、図1(a),(b)に示すように、治具本体21の開口部22に、両側から押し縮めた吸出し防止材10を両端当接部12および突出部13の先端から治具本体21内に挿入し、開口部22の内側縁で復元することを拘束する。これにより、吸出し防止材10をケーソン1,1の目地部3の縦孔7に施工用治具20ごと挿入できる状態にすることができる。
なお、吸出し防止材10Aを用いる場合も吸出し防止材10と同様に施工用治具20を用いて拘束するようにすれば良い。
【0046】
また、吸出し防止材10Bを用いる場合には、施工用治具20を用いて拘束するようにするほか、吸出し防止材10Bの上端部と下端部を蓋部材で閉塞し、上端部の蓋部材に真空吸引管を差し込んで真空吸引することで断面形状を縦孔7の断面形状より小さく拘束した後、施工用治具20に取り付けるようにする。こうすることで、円形状の吸出し防止材10Bであっても容易に施工用治具20の開口部22に取り付けることができる。
【0047】
この施工用治具20への取り付け前に、吸出し防止材10(10A,10B)に摩擦軽減剤を塗布し、施工用治具20の開口部22との摩擦を軽減するようにしても良く、摩擦軽減剤としては、例えば、生分解グリースや特殊ウレタン樹脂(ヒューム管用のパッキン剤)などを用いることができほか、摩擦を軽減できるグリースや合成樹脂材料などを用いる。
【0048】
この後、施工用治具20の高圧水配管24に高圧水供給装置からの高圧水ホースなどを接続して高圧水を供給可能としておき、吊下げ用ブラケット25にクレーンなどのフックを掛けて吊り上げた後、ケーソン1の縦孔7に取り付けた挿入補助架台26から吸出し防止材10と施工用治具20を一体にしたまま吊り下げるようにし、高圧水を供給して噴射ノズル23から高圧水を噴射しながら吊り降ろす。そして、ケーソン1の底部を越えた下まで吸出し防止材10を挿入するなど吸出し防止に必要な範囲まで挿着する。
こうして噴射ノズル23から高圧水を噴射しながら縦孔7に吊り降ろすことで、縦孔7内に堆積した土砂などを排出することができ、容易に吸出し防止材10と施工用治具20を一体にしたまま吊り降ろすことができる。
【0049】
こうして縦孔7内に施工用治具20ごと吸出し防止材10を挿着した後、高圧水の供給を停止し、吸出し防止材10(10A,10B)の上端部を挿入補助架台26に取り付けた押え治具31で押え、施工用治具20だけをクレーンなどで吊り上げるようにして引き抜く。
【0050】
すると、吸出し防止材10(10A,10B)が縦孔7に残されるとともに、拘束が開放され、完全に施工用治具20を引き抜くことで、図1(c)に示すように、吸出し防止材10が縦孔7の所定位置に装着され、中央肉厚部11の外側が目地部3の外側を塞ぎ、内側に両端当接部12,12および突出部13,13が開口した状態となっている。
【0051】
この後、吸出し防止材10の内側に充填部材8として、例えば川砂等の細砂が充填される。この充填部材8は、予め充填量を定めて計量しておくことで、過不足なく縦孔7に充填することができ、必要に応じて、充填時に転圧するようにしたり、転圧と充填とを繰り返すようにしても良い。
また、吸出し防止材10Bの場合は、上端部の蓋部材を取り除き、空気を入れた後に充填部材8を充填することになる。
なお、充填部材8としては、砂などのほか、砂と高分子材料とを配合して用いるようにしても良く、高分子材料として水膨張性のものを充填し、水を注入することで、充填部材を膨張させ、確実に縦孔7に吸出し防止材10を密着させるようにすることもできる。
【0052】
こうして吸出し防止材10を挿着し、充填部材8を充填して膨らませた後、ケーソン1の上部工4に形成した作業用穴4aにコンクリートを入れて復旧することで、吸出し防止材10(10A,10B)の施工が完了する。
【0053】
このような吸出し防止材10では、図1に示すように、中央肉厚部11が縦孔7の目地部3側の内面に沿って密着するとともに、両端当接部12,12および突出部13,13の先端の角部14,14が充填部材8によって縦孔7の内面に押し付けられて密着する。
これにより、ケーソン1,1の目地部3が吸出し防止材10で塞がれ、内部に充填部材8が充填してあるので、裏込め材の吸い出しを防止することができるとともに、大きな吸出し力が加わっても吸出し防止材10に中央肉厚部11が設けてあるので、抵抗力が大きく、吸出し防止材10の吸出しも防止することができ、特に、吸出し防止材10Bを用いる場合には、連結部16によっても抵抗力が増大し、一層確実に吸出し防止材10B自体の吸出しを防止することができる。
【0054】
この吸出し防止材の施工方法では、ケーソンの外側からの作業が必要でなく、海側に付着している貝類の除去やアンカーの打設の必要もなく、さらに潜水夫や船などによる作業の必要もないとともに、天候や潮位の影響を受けることもない。
また、地震時などの変位(目地部の開口、閉塞、せん断)が生じても吸出し防止材10の内側には、吸出し力に抵抗するように砂、あるいは砂と高分子材料を配合した充填部材が充填してあるので、その流動効果により吸出し防止材10が容易に変形して地盤変位に追随することができる。
さらに、充填部材として水膨張性の高分子材料を充填するとともに、水を注入して充填部材を膨張させることで、吸出し防止材10が膨らんで密着性が向上し、さらに高い吸出し防止効果を発揮させることができる。
また、吸出し防止材をケーソンなどのコンクリート構造物の底面部より深い位置まで挿着することにより、確実に裏込め材の吸出しを防止することができるとともに、縦孔に高圧水を噴射しながら装着することで、縦孔の削工(穿孔)と吸出し防止材の施工との間に時間差があっても砂などの堆積物を排出し、簡単に挿着することができる。
さらに、吸出し防止材の縦孔への施工に施工用治具20と挿入補助架台26と押え治具31とを用いるようにしたので、吸出し防止材10の断面形状を縦孔7の断面形状より小さくして挿着することができるとともに、吸出し防止材10だけを残して簡単に施工用治具20を引き抜くことができる。
また、吸出し防止材10に摩擦軽減剤を塗布するようにし、摩擦軽減剤として特殊ウレタン樹脂を用いることで、水と反応、硬化する際に発泡性を有しており微細な隙間へも浸透し、縦孔7の内面のコンクリート面を保護することもでき、コンクリート面の耐久性を向上することができる。さらに、摩擦軽減剤はコンクリートと吸出し防止材との接着性が優れることから、吸出し力に対する抵抗力を増大することができるとともに、硬化した伸びのあるウレタン樹脂は不等沈下による曲げ応力にも追従できる。
また、コンクリート構造物のフーチング部2等の下部形状および背面側の裏込め材や裏込め方法に関係なく施工することができ、しかもコンクリート構造物上などの陸側で容易に作業することができる。
さらに、縦孔7には、ゴムや合成樹脂製の吸出し防止材10を挿着し、充填部材として川砂等の細砂を計量して充填することで、従来のモルタルをグラウト材とする場合のように完全固化することがなく、季節や温度の影響を受けることなく施工することができるとともに、コンクリート構造物の地震時等の変位に追従でき、止水状態や吸出し防止状態を維持することができる。
【0055】
なお、上記実施の形態では、コンクリート構造物の目地部の一箇所に縦孔を形成し、吸出し防止材を挿着するようにしたが、特に、吸出し防止材10,10Aを用いる場合には、2箇所設けて吸出し防止材を対向するように配置して挿着することで、充填部材の流失を完全に防止して一層確実に裏込め材の吸出しを防止することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 ケーソン(コンクリート構造物)
2 フーチング部
3 目地部
4 上部工
4a 作業用穴
7 縦孔
8 充填部材
10 吸出し防止材
10A 吸出し防止材
10B 吸出し防止材
11 中央肉厚部
12 両端当接部
13 突出部
14 先端角部
15 傾斜面
16 連結部
20 施工用治具
21 治具本体
22 開口部
23 噴射ノズル
24 高圧水管
25 吊下げ用ブラケット
26 挿入補助架台
27 台板
28 保護管
29 ねじ穴
30 長穴
31 押え治具
32 押え板
33 固定板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物間の目地部に設置され土砂などの裏込め材の吸い出しを防止するコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材であって、
ゴム・合成樹脂などの弾性変形可能な材料からなり、
前記目地部に跨って形成された縦孔の目地部の開口側に沿って配置される中央肉厚部と、この中央肉厚部の両端部に形成され前記縦孔内壁面と当接する両端当接部とを備え、
これら中央肉厚部と両端当接部とで略中空半円状に形成され内側に充填部材を充填して前記縦孔に密着されて吸出し防止可能に構成してなることを特徴とするコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材。
【請求項2】
前記両端当接部の両端に前記縦孔への挿着前の状態で外側に突出し前記充填部材の充填により前記縦孔に沿って当接される突出部を形成して構成したことを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材。
【請求項3】
前記両端当接部を連結して略中空円形状に形成して構成したことを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物の目地部の吸出し防止材。
【請求項4】
コンクリート構造物間の目地部に土砂などの裏込め材の吸い出しを防止する吸出し防止材を挿着・施工するに際し、
前記目地部に跨って吸出し防止材を装着する縦孔を形成した後、前記請求項1〜3のいずれかに記載の吸出し防止材を施工用治具で前記縦孔の断面形状より小さい断面形状に拘束し、当該拘束状態の吸出し防止材を施工治具ごと前記縦孔に挿着した後、吸出し防止材のみを残して前記施工治具を抜き出し、吸出し防止材と縦孔との間に充填部材を充填して縦孔内壁面に沿って密着させるようにしたことを特徴とするコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法。
【請求項5】
前記吸出し防止材の外面に摩擦軽減剤を塗布して挿着するようにしたことを特徴とする請求項4記載のコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法。
【請求項6】
前記請求項3記載の吸出し防止材では、当該吸出し防止材の上下端部を蓋部材で閉塞した後、内部を真空吸引して前記縦孔より小さな断面形状に拘束して挿着するようにしたことを特徴とする請求項4または5記載のコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法。
【請求項7】
前記請求項1または2記載の吸出し防止材では、当該吸出し防止材を向かい合わせて配置し、これら吸出し防止材の内側に充填部材を充填するようにしたことを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のコンクリート構造物の目地部への吸出し防止材の施工方法。
【請求項8】
前記吸出し防止材を前記縦孔に挿着しながら縦孔内に高圧水を噴射して縦孔内の堆積物を排出するようにしたことを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載のコンクリート構造物の目地材への吸出し防止材の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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