説明

コンクリート構造物の空洞検査方法

【課題】 空洞に対し1カ所への穿孔でその空洞の有無と程度とを検査することの可能なコンクリート構造物の空洞検査方法を提供すること。
【解決手段】 コンクリート構造物100に穿孔する。この孔130から所定圧力で所定量の気体を流入又は流出(以下、「流入等」という。)させる。測定圧力を所定圧力で除した圧力比の時間変動により孔130に連通する空洞120の容量を測定する。圧力比の時間変動による判定を急激な圧力比低下の後圧力比が緩和され始めた時間帯における圧力比により行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の空洞検査方法に関する。さらに詳しくは、PC構造物等のコンクリート構造物に穿孔し、その内部に存在する空洞の有無と程度とを検査するコンクリート構造物の空洞検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ところで、PC構造物の空洞の検査方法としては、例えば、1)放射線透過撮影によるもの、2)弾性波を使用したもの、3)複数箇所に孔を穿孔してその間の連通を調べるものが存在していた。第二の方法に属するものとしては、特許文献1のものが知られている。
【0003】
しかし、第一の方法は、構造物の厚さが透過限界を超えると適用することができない。また、第二の方法は構造物の表層では有効なものの、弾性波が届かない厚みでは適用することが困難である。さらに、第三の方法は複数箇所への穿孔と2カ所間の通気を何度も繰り返さなければならず、煩雑である。
【特許文献1】特開平10−54140号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、空洞に対し1カ所への穿孔でその空洞の有無と程度とを検査することの可能なコンクリート構造物の空洞検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係るコンクリート構造物の空洞検査方法の特徴は、コンクリート構造物に穿孔し、この孔から所定圧力で所定量の気体を流入又は流出(以下、「流入等」という。)させ、測定圧力を前記所定圧力で除した圧力比の時間変動により前記孔に連通する空洞の容量を測定することにある。ここで、前記圧力比の時間変動による判定を急激な圧力比低下の後圧力比が緩和され始めた時間帯における圧力比により行うことが望ましい。また、前記圧力比の時間経過による零への漸近の程度により前記空洞に対する漏洩孔の有無を判定することも可能である。
【0006】
一方、本発明の他の特徴は、コンクリート構造物に穿孔し、この孔から気体を所定圧力で流入等させ、流入開始後測定圧力が増大し始める低い圧力範囲での測定圧力の時間変動により前記孔に連通する空洞の容量を測定することにある。
【0007】
本発明のさらに他の特徴は、コンクリート構造物に穿孔し、この孔から気体を所定圧力で流入等させ、前記孔に連通する部分の測定圧力が一定値に到達した時点での圧力値より前記孔に連通する空洞に連通する漏洩孔の大きさを推定することにある。
【0008】
また、コンクリート構造物に穿孔し、この孔から気体を所定圧力で流入等させ、測定圧力を測定圧力が到達した一定値で除した圧力比の時間変動により前記孔に連通する空洞の容量を測定することができる。
【0009】
なお、上記各特徴は、前記空洞がPC構造物におけるシース管内のグラウト未充填部について実施することができる。なお、上記気体としては空気が用いられる。
【発明の効果】
【0010】
上記本発明に係るコンクリート構造物の空洞検査方法の特徴によれば、空洞に対し1カ所への穿孔でその空洞の有無と程度とを検査することが可能となった。
【0011】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、適宜添付図面を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。本実施形態では、コンクリート構造物として、PC橋梁等に用いられるPC構造物100を例にとって説明する。
【0013】
第一の測定方法(検査方法)に用いられる検査装置1は、図1に示すように、順次接続されるコンプレッサー2、レギュレーター3、開閉バルブ4、タンク5、圧力センサ6、第二開閉バルブ8を備え、圧力センサ6の圧力がデジタルオシロスコープ等の記録計7に時間と共に記録される。また、第二開閉バルブ8に連続する連通管20は、穿孔された調査孔130にシール30を介して密閉状態で装着される。
【0014】
コンクリート構造物としてのPC(プレストレスコンクリート)構造物100は、コンクリート製の基材110に貫通されたシース管101内にさらにPC鋼材102を貫通させ、このPC鋼材102にテンションを加えた状態で拡大部103を両端に取り付け、基材110にプレストレスを付与している。そして、シース管101内にグラウト111を注入させ、テンションの分散とPC鋼材102の腐食を防止している。このグラウト111の未充填部が空洞120となり、問題となるため、その空洞120の存在と容積を調べることが本発明の目的である。そのため、先の調査孔130を適宜穿孔し、連通管20を装着する。調査孔130は、基材110及びシース管101に適宜穿孔される。また、漏洩孔131はその存在が不明である。
【0015】
検査開始に際しては、まず、第二開閉バルブ8を閉じ、開閉バルブ4を開けた状態でコンプレッサー2からレギュレーター3に制御された所定圧力の空気が気体の一例としてタンク5に蓄積される。タンク5は所定の一定容積を有し、所定の一定圧力まで空気が充填される。この状態で開閉バルブ4を閉じることにより、所定圧力・所定容積の圧縮空気が準備される。所定容量を変更したい場合は、適宜タンク5の容量が異なる物を選択するとよい。
【0016】
かかる状態で第二開閉バルブ8を開にすると、タンク5内の圧縮空気は一気に調査孔130を通って空洞120に充填される。このときの圧力変動は圧力センサ6により検出され、時間情報と共に記録計7に記録される。
【0017】
図2は、漏洩孔131が存在しない状態において、空洞120の容積を0.15リットル、0.33リットル、0.49リットル、1.28リットル、1.57リットル、3.27リットルと変更し、又は連通管20を大気に解放させた状態での記録計7の記録結果である。なお、本実施形態では、圧力をゲージ圧力として測定している。測定圧力を前記圧縮空気の前記所定圧力で除した圧力比の時間変動として表示している。この結果より、空洞120の容量計測は、前記圧力比の時間変動による判定を急激な圧力比低下の後圧力比が緩和され始めた時間帯における圧力比と空洞の容積との相関値として求められる。
【0018】
一方、図3は図1における漏洩孔131を有する場合であり、A〜Cと表記する3つの異なる容量の空洞120及び連通管20を接続しない大気解放の状態を含め実験を行った結果を示す。急激な圧力比低下の後圧力比が緩和され始めた時間帯である曲線L1上での圧力比と時間とで定まる点P1〜P3を読み取ることで、漏洩による誤差を概ね除去することが可能であることが伺える。A〜Cの条件は時間の経過と共に圧力比零に漸近し、これにより漏洩孔131の存在が確認される。この第一の方法は非常に短い時間で空洞部の容積を計測できることが利点である。
【0019】
図2,3の場合はいずれもあらかじめ求めた検量線と測定結果とを比較することで空洞部120の容積及び漏洩孔131の存在を確認することができる。ところで、図4は測定圧力比と実際の空洞部の容積(体積)との相関を示すグラフである。このような曲線を呈するため、容積が小さな符号V1の場合は測定圧力比の値に読み取り誤差が含まれても推定する容積の値は大きく異ならない。しかし、符号V2,V3の場合は、測定圧力比の値に比較的小さな読み取り誤差を生じても、これが容積の測定誤差に大きく影響する場合も生じる。このような測定誤差を生じにくい測定方法として、第二の測定方法を以下説明する。なお、以下において上記と同様の部材には同一の符号を附してある。
【0020】
第二の測定方法には圧力・流量を一定に調整した気体(空気)が用いられる。そして、この測定方法には、図5に示す検査装置1が用いられる。コンプレッサー2及びレギュレーター3と開閉バルブ4との間に流量調整バルブ11が設けられている。また、圧力センサ6には記録計7が接続される。
【0021】
テスト条件は次の表1の通りであり、漏洩孔131については、なし、直径1.1mm1ヶ、直径1.1mm2ヶの場合、空洞部容積については、1.52リットル、2.43リットル、5.46リットル及び9.16リットルの4つの場合を設定し、合計8個の組み合わせで実験を行った。
【表1】

【0022】
実験に際しては、図1の調査孔130にシール30を介して連通管20を接続し、コンプレッサー2を駆動させ、レギュレーター3で圧力を調整し、流量調整バルブ11で流量を調整し、一定圧力・一定流量の空気を空洞部に送り込んだ。その際の時間に対する圧力の変動を示したのが図6のグラフであり、実験開始当初のZ部の拡大図が図7のグラフである。
【0023】
図7のグラフによれば、流入開始後測定圧力が増大し始める低い圧力範囲において、所定の一定圧力(基準圧力Pa、この例では0.03MPa)に達するまでの時間により、空洞部容積がグルーピングされた。したがって、このような低い圧力範囲、例えば、30数秒後以降に最終的に到達する所定圧力の1/3程度の圧力範囲、時間として表現するなら、圧力が増大し始めた直後における測定圧力の時間変動により前記孔に連通する空洞の容量を測定することが可能である旨が判明した。
【0024】
一方、図6のグラフの方法では、測定圧力がほぼ一定に集束した30数秒後のときの圧力の値から、漏洩孔の大きさ(積算面積)を推定できる旨が判明した。なお、図7にいう「低い圧力範囲」は、漏洩孔による圧力変動の影響が小さな圧力範囲を意味し、この集束した高い圧力範囲とは対極の範囲である。
【0025】
ところで、第二の方法における上記手順では、漏洩孔の有無と程度とにより、空洞部の推定容積に誤差が生じる。漏洩孔がある場合は所定の圧力に達しないデータが得られる。そこで、図6の一定となった測定圧力で各測定値を除し、図8のような結果を得る。このように、測定データを所定の圧力になるよう一定となった測定圧力で除する補正を行うことで、空洞部の推定容積の誤差を低減することができる。
【0026】
最後に、本発明のさらに他の実施形態の可能性を列挙する。
上記実施形態では、気体として空気を用いた。しかし、空気以外の気体を用いても構わない。
【0027】
上記実施形態では、気体を連通管より流入させる場合についてのみ説明した。しかし、コンプレッサーの替わりに減圧機を用いて調査孔から気体を吸引しても構わない。このことを確認するために、図9の検査装置1を用いてタンクよりなる空洞部121の容量と圧力との関係を測定した結果を図10に示す。検査装置1は、連通管20に圧力センサを接続し、開閉バルブ4を介して減圧機である減圧タンク15が接続される。空洞部の容積を300,250,222ccとし、減圧タンクをバルブ4の解放により空洞部121に接続して急激に吸引を行うと、図10の如く、それぞれ各容積に対応する圧力は−36.7kPa,−38.4kPa,−41.3kPaとなった。これにより、減圧(吸引)時においても上記第一,第二の測定方法が機能することが推察される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、PC構造物の空洞部の検査の他、他のコンクリート構造物の空洞部の検査、例えば、ダムや河川のコンクリート構造物における空洞部の検査に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】コンクリート構造物の空洞検査方法に用いる検査装置のブロック図及びコンクリート構造物の一例であるPCコンクリート構造物の概略図である。
【図2】第一の測定方法(検査方法)における貫通孔を有しない場合の時間と圧力比との関係を示すグラフである。
【図3】第一の測定方法における貫通孔を有する場合の時間と圧力比との関係を示すグラフである。
【図4】測定圧力比と空洞部の容積との関係を示すグラフである。
【図5】第二の測定方法に用いる検査装置のブロック図である。
【図6】第二の測定方法における時間と圧力との関係を示すグラフである。
【図7】図6の試験当初部分の拡大図である。
【図8】第二の測定方法における時間と圧力比との関係を示すグラフである。
【図9】流出(減圧吸引)時に用いる検査装置のブロック図である。
【図10】図9の装置を用いた場合における容積(容量)と圧力との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1:検査装置、2:コンプレッサー、3:レギュレーター、4:開閉バルブ、5:タンク、6:圧力センサ、7:記録計、8:第二開閉バルブ、11:流量調整バルブ、15:減圧タンク、20:連通管、30:シール、100:コンクリート構造物、101:シース管、102:PC鋼材、103:拡大部、110:基材、111:グラウト、120,121:空洞(部)、130:調査孔、131:漏洩孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に穿孔し、この孔から所定圧力で所定量の気体を流入又は流出(以下、「流入等」という。)させ、測定圧力を前記所定圧力で除した圧力比の時間変動により前記孔に連通する空洞の容量を測定するコンクリート構造物の空洞検査方法。
【請求項2】
前記圧力比の時間変動による判定を急激な圧力比低下の後圧力比が緩和され始めた時間帯における圧力比により行う請求項1記載のコンクリート構造物の空洞検査方法。
【請求項3】
前記圧力比の時間経過による零への漸近の程度により前記空洞に対する漏洩孔の有無を判定する請求項1又は2記載のコンクリート構造物の空洞検査方法。
【請求項4】
コンクリート構造物に穿孔し、この孔から気体を所定圧力で流入等させ、流入開始後測定圧力が増大し始める低い圧力範囲での測定圧力の時間変動により前記孔に連通する空洞の容量を測定するコンクリート構造物の空洞検査方法。
【請求項5】
コンクリート構造物に穿孔し、この孔から気体を所定圧力で流入等させ、前記孔に連通する部分の測定圧力が一定値に到達した時点での圧力値より前記孔に連通する空洞に連通する漏洩孔の大きさを推定するコンクリート構造物の空洞検査方法。
【請求項6】
コンクリート構造物に穿孔し、この孔から気体を所定圧力で流入等させ、測定圧力を測定圧力が到達した一定値で除した圧力比の時間変動により前記孔に連通する空洞の容量を測定するコンクリート構造物の空洞検査方法。
【請求項7】
前記空洞がPC構造物におけるシース管内のグラウト未充填部である請求項1〜6のいずれかに記載のコンクリート構造物の空洞検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−150734(P2009−150734A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328099(P2007−328099)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(500442881)株式会社国際建設技術研究所 (5)
【出願人】(000235532)非破壊検査株式会社 (49)
【Fターム(参考)】