説明

コンクリート構造物の繊維シート被覆工法

【課題】 ひび割れや施工目地などからの漏水箇所があるコンクリート構造物の湿潤面にも施工することができ、且つ、止水工事や導水工事を省略又は簡素化して施工時間を短縮することができる繊維シート被覆工法を提供すること。
【解決手段】 コンクリートの剥落を防止する繊維シート被覆工法において、吸水性を有する材質からなる面状材(5)に透水性のないフィルム(7)が貼り合わされて構成された所定幅の導水部材(8)を、面状材(5)が構造物側となるように、構造物のひび割れや目地などの漏水箇所を覆うように設置する工程と、構造物表面Aに導水部材(8)の上を跨ぐように繊維シート(1)を貼り付ける工程と、貼り付けた繊維シート(1)に光を照射して硬化させる工程とを有し、コンクリート構造物から発生する漏水を導水部材(8)の面状材(5)内を通水させてその下端から排水して処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トンネル、地下鉄構内、高架橋のスラブや側壁などのコンクリート構造物の補修工法の1つである剥落防止工法に関し、詳しくは、コンクリート構造物の線状、又は面状に漏水している湿潤面に特に適した繊維シート被覆工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート構造物の剥落防止工法として、ひび割れなどがあるコンクリート構造物の補修対象となる表面に繊維シートを接着して、コンクリート構造物からコンクリートが剥落してこないように補修する繊維シート被覆工法が知られている。また、この繊維シートは、ガラス繊維マットのような補強繊維からなる基材に光硬化性樹脂を含浸させたものが知られている。そして、前記のようなひび割れからは、漏水が発生している場合が多く、接着力を確保するために、その場合には、繊維シートを接着させるコンクリート構造物の表面を、原則として、乾燥した状態にしておかなければならない。繊維シートを接着する下地となる貼付けプライマーの種類にもよるが、通常、補修対象となるコンクリート構造物の表面の含水率を8%以下にすることが求められる。
【0003】
そのため、従来の繊維シート被覆工法では、ひび割れが集中するような箇所に導水樋(例えば、特許文献1)を取り付けて漏水を導水して処理し、この導水樋の設置部分を避けて繊維シートを貼り付けることが行われていた。しかし、このような従来の繊維シート被覆工法では、以下に示すような種々の問題点があった。
(1)繊維シートを貼り付ける前までに、止水工事や導水工事を完了させていなければならず、漏水箇所が多い場合には、それだけ施工期間が長くなってしまう。
(2)導水樋を取り付けた箇所には、繊維シートを接着することが困難である。
(3)漏水箇所は、構造物からコンクリートの剥落が発生し易く、また、導水樋の内部で剥落が発生した場合には、詰まって導水機能を阻害する原因となってしまう。
(4)市販品には透明な樋がないため、樋の内部の状態を外部から視認できず、劣化調査などのために取り外すと新品と交換しなければならず不経済である。
(5)コンクリート構造物の表面に導水樋が露出しているため、美観を損ねている。
【0004】
そこで、出願人は、伸び性に富んだ光硬化型繊維強化樹脂シート5を、目地部2から少なくとも一方側に所定長さLの非接着部5cが形成されるようにしてシート5の両端部5a,5bをコンクリート構造物1に接着し、シート5に光照射して硬化させて、目地部2を跨ぐようにコンクリート構造物1に貼り付けて、目地部2と硬化させたシート5との間を導水樋とすることで、前記のような従来の導水樋の設置を省略できるコンクリート構造物の目地部周辺の補修方法を提案した(特許文献2の図2参照)。
【0005】
しかし、特許文献2に記載した補修方法は、目地部周辺にしか適用できず、目地部ではない一般部の直線状でないひび割れからの漏水箇所には、従来のような導水樋を設けるしかなかった。そして、このような直線状でないひび割れの漏水箇所に導水樋を設けるには、樋を屈曲したひび割れに合わせて幾つも細かく切断して取り付けなければならず手間や作業時間が掛かってしまうという問題点もあった。
【特許文献1】特開平9−256800号公報
【特許文献2】特開2005−273159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこでこの発明は、前記従来の問題点を解決し、ひび割れや施工目地などからの漏水箇所があるコンクリート構造物の湿潤面にも施工することができ、且つ、止水工事や導水工事を省略又は簡素化して施工時間を短縮することができる繊維シート被覆工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、コンクリート構造物の表面に下地処理を施した後、前記表面に繊維シートを覆うように接着樹脂で貼り付けることにより、コンクリートの剥落を防止する繊維シート被覆工法において、透水性のないフィルムをコンクリート構造物のひび割れや目地などの漏水箇所を覆うように設置する工程と、コンクリート構造物の表面に前記フィルムの上を跨ぐように前記繊維シートを貼り付ける工程とを有し、コンクリート構造物の漏水箇所から発生する漏水を前記フィルムと構造物表面との間を通水させてその下方から排水して処理することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、コンクリート構造物の表面に下地処理を施した後、前記表面に繊維シートを覆うように接着樹脂で貼り付けることにより、コンクリートの剥落を防止する繊維シート被覆工法において、吸水性を有する材質からなる面状材に透水性のないフィルムが貼り合わされて構成された所定幅の導水部材を、前記面状材が構造物側となるように、コンクリート構造物のひび割れや目地などの漏水箇所を覆うように設置するか、あるいは前記面状材を前記漏水箇所を覆うように貼り付けた後、その上に前記フィルムを貼り付けて導水部材として前記漏水箇所を覆うように設置する工程と、コンクリート構造物の表面に前記導水部材の上を跨ぐように前記繊維シートを貼り付ける工程とを有し、コンクリート構造物の漏水箇所から発生する漏水を前記導水部材の面状材内を通水させてその下方から排水して処理することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記繊維シートは、接着樹脂が予め含浸されたプレプリグシートであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記接着樹脂は、光硬化性樹脂であり、貼り付けた前記プリプレグシートに光を照射して硬化させる工程を有していることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の発明において、前記接着樹脂は、硬化後も光を透過する半透明な樹脂であり、且つ、前記繊維シートの繊維及び前記フィルムは、透明又は半透明であることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項2ないし5のいずれかに記載の発明において、前記面状材は、不織布であることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれかに記載の発明において、コンクリート構造物の表面の前記漏水箇所の下方部位にあって、前記フィルム又は前記導水部材を設置した後も湿潤状態となっている湿潤面に、湿潤対応の第1のプライマーを塗布する工程を有することを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載の発明において、前記フィルム又は前記導水部材設置後であって前記繊維シートを貼り付ける工程の前に、前記繊維シートを貼り付ける部分に該当するコンクリート構造物の表面及び前記フィルムの表面に、コンクリート面との付着性が良好なパテ状の第2のプライマーを塗り付ける工程を有することを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項1ないし8のいずれかに記載の発明において、前記フィルムの外縁に沿ってアンカーで前記フィルムを止め付ける工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明は前記のようであって、請求項1に記載の発明によれば、前記フィルムを設置することによりコンクリート構造物から発生する漏水を前記フィルムと構造物表面との間を通水させてその下方から排水して処理するので、長期間に亘る止水工事や導水工事をすることなく、コンクリート構造物から線状・面状に漏水しているような湿潤面にも繊維被覆工法によりコンクリート剥落防止のための補修工事を施すことができ、且つ、厚さの薄い前記フィルムを設置するだけで漏水を導水処理しながら次工程にすぐに取り掛かることができる。このため、施工時間を大幅に短縮することができ、施工コストも削減することができる。また、前記フィルムは、コンクリート構造物から従来の導水樋のように突出しない。このため、前記フィルムの上にも前記繊維シートをそのまま簡単に貼り付けて覆うことができる。よって、補修するコンクリート構造物の全面に亘ってコンクリートの剥落を防止することができるうえ、補修工事をすることによって美観を損ねることもない。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、前記導水部材を設置することによりコンクリート構造物の漏水箇所から発生する漏水を前記導水部材の面状材内を通水させてその下端から排水して処理するので、長期間に亘る止水工事や導水工事をすることなく、コンクリート構造物から線状・面状に漏水しているような湿潤面にも繊維シート被覆工法によりコンクリート剥落防止のための補修工事を施すことができ、且つ、厚さの薄い前記導水部材を設置するだけで漏水を導水処理しながら次工程にすぐに取り掛かることができる。このため、施工時間を大幅に短縮することができ、施工コストも削減することができる。また、前記導水部材は、コンクリート構造物から従来の導水樋のように突出しない。このため、前記導水部材の上にも前記繊維シートをそのまま簡単に貼り付けて覆うことができる。よって、補修するコンクリート構造物の全面に亘ってコンクリートの剥落を防止することができるうえ、補修工事をすることによって美観を損ねることもない。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、前記繊維シートは、接着樹脂が予め含浸されたプリプレグシートであるので、接着樹脂の塗布作業やその硬化待ち時間を省略することができ、そのため、作業時間を更に短縮することができる。また、樹脂が垂れたりする心配が少なく、作業性が更に向上する。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、前記接着樹脂は、光硬化性樹脂であり、貼り付けた前記プリプレグシートに光を照射して硬化させる工程を有しているので、光照射により短時間で接着樹脂を硬化させることができ、作業時間を更に短縮することができる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、前記接着樹脂は、硬化後も光を透過する半透明な樹脂であり、且つ、前記繊維シートの繊維及び前記フィルムは、透明又は半透明であるので、前記フィルムや前記導水部材の内部の漏水や剥落の状態を外部、即ち、繊維シートの上から視認でき、劣化調査などのために取り外したり、部分的に剥がしたりする必要がない。このため、調査費用などのランニングコストを削減することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、前記面状材は、不織布であるので、漏水を一旦吸水してその内部を通水させるのに適しており、より多くの漏水を処理できる。また、安価に入手して設置することができる。このため、常に面状に漏水しているような漏水量が比較的多い漏水箇所でも繊維シート被覆工法により施工することができ、施工時間を短縮し、コストダウンを図ることができる。
【0022】
請求項7に記載の発明によれば、コンクリート構造物の表面の前記漏水箇所の下方部位にあって、前記フィルム又は前記導水部材を設置した後も湿潤状態となっている湿潤面に、湿潤対応の第1のプライマーを塗布する工程を有するので、湿潤面があっても、その面をバーナーで炙って乾燥させたり、長時間の乾燥期間を置いたりすることなく、プライマーを塗布するだけですぐに次工程に進めることができる。このため、更に施工時間を短縮して、コストダウンを図ることができる。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、コンクリート面との付着性が良好なパテ状の第2のプライマーを塗り付ける工程を有しているので、この第2のプライマーでコンクリート構造物の表面と前記繊維シートとの接着性の仲立ちをすると共に、不陸調整することができるので、コンクリート構造物と前記繊維シートとの付着性を高めることができる。このため、補修箇所の耐久性が向上し、次回補修するまでの期間が長くなり、補修費用を削減することができる。
【0024】
請求項9に記載の発明によれば、前記フィルムの外縁に沿ってアンカーで前記フィルムを止め付ける工程を有しているので、常に漏水で湿潤状態となっている前記フィルム又は前記導水部材と、コンクリート構造物表面との接着力が経時的に劣化し、前記フィルムや前記導水部材や落下したりずれたりする心配がない。このため、補修箇所の耐久性が向上し、次回補修するまでの期間が長くなり、補修費用を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
この発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0026】
先ず、本実施の形態の繊維シート被覆工法に用いる繊維シートを説明する。図1は、この繊維シートの部材断面を模式的に表した構成説明図である。図1に示すように、繊維シートであるプリプレグシート1は、本体2と、その両面に配置された2枚の保護フィルム3a,3bとから構成されている。このプリプレグシート1のシート本体2は、補強繊維2aをガラス繊維とする一般的なチョップドストランドマットを基材(図示せず)とし、いわゆる光硬化性樹脂、即ち、光硬化性ラジカル重合型樹脂組成物を加熱して含浸させ、プリプレグシートとしたものである。そして、保護フィルム3a,3bは、溶剤が揮散してプリプレグシート1のシート本体2が劣化するのを保護するポリエステル樹脂からなる厚さ20〜60μm程度の透明なフィルムである。光硬化性樹脂の劣化抑制剤として働く酸素の透過性、柔軟性を保つための適度な湿度遮断性などのバランスを考慮すると、この保護フィルム3a,3bは、ポリエチレン・テレフタテレートからなるフィルムであることが好ましい。
【0027】
補強繊維2aは、ガラス繊維に限らず、所定の強度を有する繊維であればよく、例えば、炭素繊維、ポリエステル繊維、フェノール繊維、ポリビニルアルコール繊維、芳香族ポリアミド繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、金属繊維などを挙げることができる。そして、基材の形態もチョップドストランドマットに限らず、ロービングや不織布状、織布状、編み物状などの布帛状のものでもよい。しかし、光照射により硬化させる際の光透過性や補修後の外部からの視認性を考慮すると補強繊維2aは、透明な繊維が好ましく、透明でない繊維からなる場合は、基材の形態は、メッシュ状などの光の透過率が30%以上のものであることが好ましい。
【0028】
光硬化性ラジカル重合型樹脂組成物は、一般的な光硬化性の樹脂を主剤樹脂とし、その他、液状重合性単量体と、光重合開始剤などを含有する組成物である。この主剤樹脂は、紫外線、可視光線、近赤外線などによってラジカルを発生するものであればよく、例えば不飽和ポリエステル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、アリルエステル樹脂、キシレン樹脂などを挙げることができ、これらの2種以上が混合されたものであっても構わない。液状重合性単量体は、主剤樹脂成分の溶剤として用いられるもので、例えばアクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物であるスチレンを挙げることができる。光重合開始剤としては、例えばベンゾフェノン、アセトフェノン、これらの誘導体を挙げることができる。
【0029】
この他、プリプレグ状態での保管時の樹脂だれを起こさせない(チクソ性向上の)ため、樹脂を補強繊維に含浸させた後、増粘処理を行う。この増粘方法としては、一般的に加熱や光照射により、樹脂を半硬化させる方法や、酸化マグネシウムのような架橋剤を予め樹脂に混入しておき、加熱架橋させる方法、また増粘剤の粉末を予め樹脂に混合しておき、加熱膨潤させる方法などがある。増粘剤は、加熱によって膨潤して、プレポリマー状態の光硬化性ラジカル重合型樹脂組成物を、液状分のない増粘状態としてプリプレグ化させる熱可塑性樹脂粉末を有効成分とするものであればよく、例えば、アクリル系重合体微粉末などが挙げられる。運搬性や作業性などを考慮すると、このような増粘剤を主剤樹脂に混合することが望ましい。
【0030】
次に、コンクリート構造物の繊維シート被覆工法について説明する。この発明は、トンネル、地下鉄構内、高架橋のスラブや側壁などのコンクリート構造物に適用することができ、ひび割れなどから漏水し、その漏水状態が線状に分布してそこから流下又は噴出しているような漏水量が比較的多量の場合や、漏水状態が面状に分布してそこからにじみ又は滴水しているような漏水量が比較的少量の場合などに特に適している。本実施の形態では、コンクリート構造物としてトンネルを例に挙げ、その内周壁面の表面にひび割れが生じており、そこから漏水が常に滴水している状態の湿潤面を補修する場合で説明する。図2〜図10は、実施の形態に係る繊維シート被覆工法の流れに従って、各工程を示す説明図であり、全て前記のような補修箇所に正対して見た状態を表している。
【0031】
先ず、最初の工程について説明する。図2は、下地処理工程(1)を示す説明図である。この下地処理工程(1)では、打合せや事前検査などにより予め定められた補修範囲内のひび割れや施工目地などを目視等で点検し、既にコンクリートが剥落しそうな箇所がある場合には、該当箇所をハンマードリル等のハツリ機でハツリ取るなど必要な処置を施す。補修範囲の構造物表面Aに、汚れ、遊離石灰(エフロレッセンス)、錆汁、糊(粘着性の付着物)等の付着物がある場合には、それらをハンディータイプのディスクサンダーDS(グラインダー)等で削り取って除去すると共に、表面の突起・窪み・大きな段差などを平滑にする。また、粉塵・油汚れ等が付着している場合には、集塵機や高圧洗浄機、有機溶剤などを用いて除去する。
尚、必要であれば後工程で貼るプリプレグシート1の割付けに応じて墨出しをする。
【0032】
図3は、不織布貼付け工程(2)を示す説明図である。本実施の形態に係る繊維シート被覆工法では、吸水性を有する材質からなる面状材として漏水を一旦吸水してその内部を通水させるのに適している不織布5を使用する。図3に示すように、この不織布貼付け工程(2)では、ひび割れや施工目地などの漏水箇所に沿って、漏水箇所を覆うように不織布5を接着する。接着する不織布5の幅は、漏水箇所の漏水状態、特に漏水量やひび割れの形状に応じて決定され、ロール状に巻かれた不織布5からハサミやカッターなどの切断手段で所望の幅や大きさに切断して成形する。不織布5の材質としては、耐久性、外部からの視認性などの観点からある程度光を透過する半透明な(目付け量(繊維含有率)が比較的多くない)ポリビニルアルコール樹脂繊維からなることがより好ましい。しかし、不織布に限らず、薄くて吸水性を有し、流水に晒されても破れない程度の強度があり、ある程度の量の漏水の切り回し(導水)が可能な材質の面状材であればよい。また、接着剤は、湿潤対応接着剤6を使用する。この湿潤対応接着剤6は、本実施の形態では、エポキシ樹脂を主剤とし、ポリアミドアミンを硬化剤とする接着剤を使用し、主剤と硬化剤を質量比で1対1の割合で混合して攪拌し、コーキングガンCG等に詰めて塗布する。この湿潤対応接着剤6は、硬化前は適度な可撓性を有するパテ状(ペースト状)であるためコーキングガンCGで塗布でき、垂れたりせず、作業性がよい。他の湿潤対応接着剤としては、アクリル樹脂、エポキシアクリレート樹脂等が挙げられる。
【0033】
図4は、フィルム貼付け工程(3)を示す説明図である。このフィルム貼付け工程(3)では、不織布貼付け工程(2)で貼り付けた不織布5の上に、湿潤対応接着剤6を同様に塗布して、不織布5の幅や大きさに合わせて切断したフィルムを接着する。このフィルムは、透水性のないもの、つまり、漏水がこのフィルム外に漏れるのを阻止できる材質のものであればよい。しかし、外部から視認性を考慮すると透明なフィルムであることが好ましく、本実施の形態では、透明なポリエステル樹脂フィルム(ポリエチレン・テレフタレート フィルム)が用いられている。このような透明なフィルム7としては、低密度ポリエチレン樹脂フィルム、高密度ポリエチレン樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂フィルム、塩化ビニル樹脂フィルムなど様々な合成樹脂フィルムが適応可能なことは言うまでもない。また、前記の保護フィルム3a,3bを利用してもよい。
【0034】
不織布貼付け工程(2)、フィルム貼付け工程(3)は、補修工事を行う施工場所と違う、例えば、風などの影響を受け難く、台などが設置してある場所等において、透明フィルム7と不織布5を湿潤対応接着剤6で予め接着して導水部材8としておき、その後、湿潤対応接着剤6を導水部材8の不織布5側に塗布し、この導水部材8の不織布5側を構造物表面A側にして、ひび割れなどの漏水箇所を覆うように接着するようにしてもよい。そうすると、頭上作業や垂直面作業となって作業しずらいトンネル内周面への接着作業が一度で済み、作業性が向上する。このため、作業時間を短縮し、施工コストを削減することができる。以下、不織布貼付け工程(2)、フィルム貼付け工程(3)で作成したものを含めて作業手順に関係なく、裏面が不織布5であり表面が透明フィルム7となっている部材を導水部材8という。
また、漏水量があまり多くない場合等は、不織布貼付け工程(2)を省略することも可能である。
【0035】
図5は、湿潤プライマー塗布工程(4)を示す説明図である。この湿潤プライマー塗布工程(4)では、トンネル内周壁の図中の破線斜線で示す湿潤面Bに、第1のプライマーである速乾性のある湿潤対応プライマー9を、スポンジローラSRや刷毛などを用いて塗布する。湿潤対応プライマー9は、本実施の形態では、エポキシ樹脂を主剤とし、変性ポリアミドアミンを硬化剤とするものを、主剤と硬化剤を重量比で2対1の割合で混合して攪拌したものを使用する。湿潤対応プライマーの他の例としては、変性アクリル酸エステルを主成分とする2液主剤型のアクリル樹脂、光硬化型のエポキシアクリレート樹脂等が挙げられる。また、この湿潤面は、ひび割れなどの漏水箇所の下方に位置するため漏水が垂れてきて湿潤状態となったものであるが、不織布貼付け工程(2)、フィルム貼付け工程(3)によって導水部材8を接着すると、新たに湧き出てくる漏水はこの導水部材8の不織布5内を流下していくので、乾燥させるために長時間放置することができれば、湿潤面Bが乾くので、この湿潤プライマー塗布工程(4)を省略することができる。また、バーナー等で炙って乾燥させることも可能である。しかし、速乾性のある湿潤対応プライマー9を塗布した場合の方が、次工程に確実且つ早く進むことができ、その点で作業時間を短縮することができる。
【0036】
図6は、貼付けプライマー塗布工程(5)を示す説明図である。この貼付けプライマー塗布工程(5)では、構造物表面Aの補修対象範囲全面に亘って貼付けプライマー10をコテKやローラなどで塗り付ける。この貼付けプライマー10は、コンクリート面との付着性が良好なパテ状のものであればよいが、本実施の形態では、エポキシアクリレート樹脂を主剤する常温硬化型のプライマーを使用し、塗布量は、1.0〜1.3(kg/m2)を目安として塗り付ける。貼付けプライマーの他の例としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、光硬化性樹脂も使用可能である。このとき、不織布貼付け工程(2)、フィルム貼付け工程(3)で貼り付けた導水部材8の上にも塗り付け、補修対象範囲全面が平滑となるようにする。特に、導水部材8と構造物表面Aとの段差を無くすように塗り付ける。このように、貼付けプライマー10がパテ状であると容易に補修対象面を平滑にすることができ、そのため、剥落防止のために表面補強材として次工程で貼り付けるプリプレグシート1と構造物表面Aとの一体性(付着力)を増すことができる。
【0037】
図7は、プリプレグシート貼付け工程(6)を示す説明図である。このプリプレグシートの貼付け工程(6)では、先ず、プリプレグシート1の貼付け側の保護フィルム3bを剥がし、前工程の貼付けプライマー10が硬化する前に、シート本体2が構造物側となるよう貼り付ける(以下、図1も参照のこと)。この時、1枚のプリプレグシート1の中央から端に向かってゴムローラGR等で押し付け、浮き上がった部位のシワや、端部のカエリ、気泡の巻込みがないように脱泡しながら均一に密着させて貼り付ける。この間、保護フィルム3aはシート本体2の表面に存置させたままなので、このように、ゴムローラGR等で容易に脱泡作業が行えると共に、臭気の強いスチレンなどの前記液状重合性単量体が揮散して作業員の作業効率を低下させるのを防ぐことができる。
【0038】
図8は、紫外線照射工程(7)を示す説明図である。この紫外線照射工程(7)では、紫外線照射機BLを設置して、照度約2000μW/cm2以上で20分程度紫外線を照射し、プリプレグシート1を硬化させて、補強繊維であるガラス繊維と一体化することで構造物表面AにFRP層を形成する。当然、プリプレグシート1に含浸されている光硬化性樹脂の特性に合わせて光を照射すればよく、紫外線照射に限られない。そして、保護フィルム3aの端をめくり、指触等によりシート本体2の硬化が完了しているのを確認した後、保護フィルム3aを端部からゆっくりと剥がす。この時、フィルムが途中で破れて、貼り残しがないように注意する。
【0039】
また、貼付けプライマーが完全に硬化するには6時間程度要するので、必要に応じて、アンカーピン等でプリプレグシート1を仮止めしてもよい。そして、前記のように、プリプレグシート1にも光硬化性樹脂が含浸されているのであるから、光硬化性樹脂をコンクリートとの付着性がよいものを選択し、アンカーピン等で仮止めするなどして、光を照射してからプリプレグシート1が硬化するまでの間、何らかの方法で止め付けていることができれば、貼付けプライマー塗布工程(5)を省略することも可能である。
【0040】
図9は、アンカー固定の工程(8)を示す説明図であり、図11は、プラスチックアンカーを側面で示し、構造物側を断面で示すプラスチックアンカーの使用説明図である。このアンカー固定の工程(8)では、プリプレグシート1及び貼付けプライマー10が硬化した後、導水部材8の外縁に沿ってプリプレグシート1の上からドリル等で構造物に所定径(直径8mm程度)の所定深さ(60mm程度)の穴をあけ、その穴にプラスチックアンカー11をゴムハンマー等で叩き込んで挿入し、導水部材8をプリプレグシート1の上から止め付ける。プラスチックアンカー11は、図11に示すように、ポリプロピレン樹脂製からなり、アンカー本体11aの長さが50mm程度、釘の頭部分に相当する押え付け部11bの外径が60mm程度の頭部分が大きい略釘形状のものであり、アンカー本体11aの先端部分の外周面に複数の襞11cが形成され、襞11cの外径より小さい径の穴に挿入することで穴の内周面に襞11cが引っ掛かり、プラスチックアンカー11が抜けないようになっている。このようにプラスチックアンカー11でプリプレグシート1の上から導水部材8を止めると、プリプレグシート1と構造物表面Aとの接着がなされていないプリプレグシート1の導水部材8上の非接着部Cから経時的にプリプレグシート1が剥がれていき、構造物との一体性が損なわれるおそれが少なくなる。
このような固定用のアンカーは、プラスチックアンカーに限られるものではなく、機械的に導水部材8やプリプレグシート1を止め付けられるものであれば、コンポジットアンカー、アンカーピン、カールプラグ、ホールインアンカー、ケミカルアンカー等、各種のアンカーを採用することができる。
【0041】
図10は、流末処理工程(9)を示す説明図である。この流末処理工程(9)では、導水部材8の下端であって、プリプレグシート1からはみ出している部分(切除部D)をカッター等の切断手段で切断し除去する。そうすることで、プリプレグシート1がこの部分から剥がれていくことを防ぐことができる。流末処理を行う箇所としては必ずしも導水部材8の下端でなくてもよく、導水部材8の下方であればその下端より上方の任意の位置としてもよい。
【0042】
以上説明したような本実施の形態に係るコンクリート構造物の繊維シート被覆工法によれば、薄い導水部材を設置するだけで、コンクリート構造物から線状・面状に継続的に漏水しているような湿潤面にも繊維シート被覆工法によりコンクリート剥落防止のための補修工事を施すことができる。よって、補修作業を大幅に短縮することができる。また、従来の導水樋のように構造物の表面から突出せず、設置スペースの無いような場所でも施工可能であり、繊維シート(プリプレグシート)を導水樋部分には設置できないという問題も解決することができ、その上、美観を損ねることもない。
【0043】
尚、前記実施の形態において、図面等で示した部材の形状や構造等は、あくまでも好ましい一例を示すものであり、その実施に際しては特許請求の範囲に記載した範囲内で、任意に設計変更・修正ができるものである。特に、繊維シートは、プリプレグシートに限られるものではなく、繊維シート被覆工法は、コンクリート構造物の表面へ熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂などの接着樹脂を刷毛等で塗布し、貼付けに適する硬化時間を置いてから繊維シートを貼り付け、その上からまた接着樹脂を塗布して硬化させ、構造物表面にFRP層を形成するいわゆるハンドレイアップ工法等の従来の被覆工法であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の実施の形態に係る繊維シートの部材断面を模式的に表した構成説明図である。
【図2】この発明の一実施の形態に係る繊維シート被覆工法の下地処理工程を示す説明図である。
【図3】同上の不織布貼付け工程を示す説明図である。
【図4】同上のフィルム貼付け工程を示す説明図である。
【図5】同上の湿潤プライマー塗布工程を示す説明図である。
【図6】同上の貼付けプライマー塗布工程を示す説明図である。
【図7】同上のプリプレグシート貼付け工程を示す説明図である。
【図8】同上の紫外線照射工程を示す説明図である。
【図9】同上のアンカー固定工程を示す説明図である。
【図10】同上の流末処理工程を示す説明図である。
【図11】この発明の実施の形態に係るアンカーを側面で示し、構造部側を断面で示すアンカー使用説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1 プリプレグシート(繊維シート)
5 不織布(面状材)
7 透明フィルム
8 導水部材
9 湿潤対応プライマー(第1のプライマー)
10 貼付けプライマー(第2のプライマー)
A 構造物表面
B 湿潤面
C 非接着部
D 切除部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の表面に下地処理を施した後、前記表面に繊維シートを覆うように接着樹脂で貼り付けることにより、コンクリートの剥落を防止する繊維シート被覆工法において、
透水性のないフィルムをコンクリート構造物のひび割れや目地などの漏水箇所を覆うように設置する工程と、コンクリート構造物の表面に前記フィルムの上を跨ぐように前記繊維シートを貼り付ける工程とを有し、コンクリート構造物の漏水箇所から発生する漏水を前記フィルムと構造物表面との間を通水させてその下方から排水して処理することを特徴とするコンクリート構造物の繊維シート被覆工法。
【請求項2】
コンクリート構造物の表面に下地処理を施した後、前記表面に繊維シートを覆うように接着樹脂で貼り付けることにより、コンクリートの剥落を防止する繊維シート被覆工法において、
吸水性を有する材質からなる面状材に透水性のないフィルムが貼り合わされて構成された所定幅の導水部材を、前記面状材が構造物側となるように、コンクリート構造物のひび割れや目地などの漏水箇所を覆うように設置するか、あるいは前記面状材を前記漏水箇所を覆うように貼り付けた後、その上に前記フィルムを貼り付けて導水部材として前記漏水箇所を覆うように設置する工程と、コンクリート構造物の表面に前記導水部材の上を跨ぐように前記繊維シートを貼り付ける工程とを有し、コンクリート構造物の漏水箇所から発生する漏水を前記導水部材の面状材内を通水させてその下方から排水して処理することを特徴とするコンクリート構造物の繊維シート被覆工法。
【請求項3】
前記繊維シートは、接着樹脂が予め含浸されたプリプレグシートであることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート構造物の繊維シート被覆工法。
【請求項4】
前記接着樹脂は、光硬化性樹脂であり、貼り付けた前記プリプレグシートに光を照射して硬化させる工程を有していることを特徴とする請求項3に記載のコンクリート構造物の繊維シート被覆工法
【請求項5】
前記接着樹脂は、硬化後も光を透過する半透明な樹脂であり、且つ、前記繊維シートの繊維及び前記フィルムは、透明又は半透明であることを特徴とする請求項1ないし4のいすれかに記載のコンクリート構造物の繊維シート被覆工法。
【請求項6】
前記面状材は、不織布であることを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載のコンクリート構造物の繊維シート被覆工法。
【請求項7】
コンクリート構造物の表面の前記漏水箇所の下方部位にあって、前記フィルム又は前記導水部材を設置した後も湿潤状態となっている湿潤面に、湿潤対応の第1のプライマーを塗布する工程を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のコンクリート構造物の繊維シート被覆工法。
【請求項8】
前記フィルム又は前記導水部材設置後であって前記繊維シートを貼り付ける工程の前に、前記繊維シートを貼り付ける部分に該当するコンクリート構造物の表面及び前記フィルムの表面に、コンクリート面との付着性が良好なパテ状の第2のプライマーを塗り付ける工程を有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のコンクリート構造物の繊維シート被覆工法。
【請求項9】
前記フィルムの外縁に沿ってアンカーで前記フィルムを止め付ける工程を有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載のコンクリート構造物の繊維シート被覆工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate