説明

コンクリート構造物の補修剤及び補修方法

【目的】KやNa等のアルカリ金属イオンによる骨材のアルカリ骨材反応の抑制、中性化や塩害による鉄筋の腐食防止、コンクリートの圧縮強度や弾性係数の力学的特性の回復、コンクリートの緻密化により劣化因子の侵入を抑制することにより劣化したコンクリートの修復を実現し、さらに、以後の劣化を抑制することのできる劣化したコンクリート構造物の補修剤及び補修方法を提供すること。
【構成】(a)第4級アンモニウムケイ酸塩をSiO換算で4〜15重量部、(b)リチウムケイ酸塩をSiO換算で2〜6重量部、(c)ジアンミン銀イオンを銀換算で0.1〜0.5重量部、(d)チオ硫酸ナトリウムを固形分換算で3〜10重量部及び(e)水からなる補修剤を劣化したコンクリート構造物を加圧注入又は塗布含浸する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ骨材反応や塩害や中性化等により劣化したコンクリート構造物の補修剤及び補修方法に関する。
さらに詳細には、劣化したコンクリート構造物に、補修剤を加圧注入又は塗布含浸してセメント成分との化学結合によりケイ酸カルシウム層を作り、強度を回復させ、さらに、骨材の表面を耐アルカリ性にしてKやNaのアルカリ金属イオンの影響を抑え、また、鉄筋腐食の原因となるClをAgが取り込むとともに、強い還元力により鉄筋の腐食進行を抑えることにより、コンクリート構造物の耐久性、耐荷性の回復及び向上と、その後の劣化を防止するコンクリート構造物の補修剤及び補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリート構造物におけるアルカリ骨材反応の補修方法には、抑制剤として亜硝酸リチウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、塩基性有機化合物水溶液、アルカリキャリア成分、酸化チタン等が提案され、また、これらを注入・含浸する方法、さらに、抑制方法として電流を流す方法等、数多くのもの提案されているが、いずれも劣化したコンクリート構造物の原状回復とその後の劣化を防止する材料及びその方法としては不十分であった。
【0003】
例えば、亜硝酸リチウム水溶液は反応性骨材の非反応化(ケイ酸ソーダ化)や鉄筋の腐食防止等には効果があるが、低下したコンクリートの強度及び弾性係数の原状回復には効果がなかった。
【0004】
また、アルカリキャリア成分は強度回復には効果があるが、反応性骨材の非反応化、鉄筋の腐食抑制には効果がほとんどなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術の課題を背景になされたもので、KやNa等のアルカリ金属イオンによる骨材のアルカリ骨材反応の抑制、中性化や塩害による鉄筋の腐食防止、コンクリートの圧縮強度や弾性係数の力学的特性の回復、コンクリートの緻密化により劣化因子の侵入を抑制することにより劣化したコンクリートの修復を実現し、さらに、以後の劣化を抑制することのできる劣化したコンクリート構造物の補修剤及び補修方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の劣化したコンクリート構造物の補修剤は、(a)第4級アンモニウムケイ酸塩をSiO換算で4〜15重量部、(b)リチウムケイ酸塩をSiO換算で2〜6重量部、(c)ジアンミン銀イオンを銀換算で0.1〜0.5重量部、(d)チオ硫酸ナトリウムを固形分換算で3〜10重量部及び(e)水(ただし、(a)+(b)+(c)+(d)+(e)=100重量部)を主成分とすることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の劣化したコンクリート構造物の補修方法は、劣化したコンクリート構造物の表面に、内奥部に達する注入孔を形成した後、該注入孔より上記補修剤を10〜100kg/m加圧注入することを特徴とする。
【0008】
この場合において、注入孔に前記補修剤を注入した後、該注入孔に前記補修剤を混和し
【0009】
また、本発明の劣化したコンクリート構造物の補修方法は、劣化したコンクリート構造物の表面に、前記補修剤を50〜1000g/m塗布含浸することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の補修剤を劣化しているコンクリート構造物に加圧注入又は塗布含浸すると、セメント成分と反応してケイ酸カルシウム層を作り、強度及び弾性係数を回復させ、さらに、骨材の表面を耐アルカリ性にして、KやNa等のアルカリ金属イオンによるアルカリ骨材反応を抑える。
また、Clを補修剤のAgが取り込むとともに、その強い還元力により鉄筋の腐食進行を抑える。
また、コンクリート組織を緻密化する。
これらの作用により、コンクリート構造物の原状回復と、その後の劣化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の補修剤について、以下にその成分ごとに説明する。
【0012】
(a)第4級アンモニウムケイ酸塩
本発明の補修剤に用いられる(a)成分の第4級アンモニウムケイ酸塩は、以下の一般式で表される。
(RN)O・nSiO
(ただし、Rは炭素数1以上のアルキル基であり、nは1以上の整数である。)
この第4級アンモニウムケイ酸塩は、水の存在のものでセメント成分と反応してコンクリートの強度や弾性係数を短期及び長期に亘って反応が促進することにより回復させ、さらに、骨材の表面を(b)リチウムケイ酸塩と共に被覆して耐アルカリ性にするものである。
セメント成分との反応は以下の反応式(1)〜(2)で表される。
【0013】
【化1】

【0014】
【化2】

【0015】
上記反応式(1)〜(2)において、Rは炭素数1以上のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基等のアルキル基を示し、n=1〜3である。
【0016】
第4級アンモニウムケイ酸塩としては、ジメチルジエタノールアンモニウムシリケート、モノメチルトリプロパノールアンモニウムシリケート、ジメチルジプロパノールアンモニウムシリケート、モノエチルトリプロパノールアンモニウムシリケート等の液状のシリケートが挙げられる。
これらの第4級アンモニウムケイ酸塩は、
(1)希釈した水ガラスを水素型陽イオン交換樹脂と接触させて得た活性シリカ溶液に第4級アンモニウム水酸化物を加え、所定の濃度まで濃縮する方法
(2)第4級アンモニウム水酸化物のシリカヒドロゾルとを反応させる方法
等により容易に得られる。
ここで、第4級アンモニウム水素化物は、通常、アンモニア又はアミン類にアルキレンオキサイドを付加する方法や第4級アミン塩を陰イオン交換樹脂により脱イオンする方法等により得られるが、生成物中に、第3級、第2級あるいは第1級のアミン類が少量含まれたものも使用することができ、それを用いて得られる第4級アンモニウムケイ酸塩も、本発明の補修剤に使用することができ、これを排除するものでない。
第4級アンモニウムケイ酸塩の具体例としては、(株)日板研究所製の原料名NS−25(水溶液、SiO濃度=約25重量%)があり、このpHは11.5〜12.0である。
これらの第4級アンモニウムケイ酸塩は、1種単独であるいは2種以上を併用することができる。
【0017】
この補修剤において(a)成分の第4級アンモニウムケイ酸塩の割合は、(a)〜(e)成分合計100重量部中、SiO換算で5〜15重量部、好ましくは、5〜10重量部である。
5重量部未満では強度回復及び骨材の被覆ができ難く、一方、15重量部を越えると反応が進みすぎて一部がゲル化したり、他成分が不足したりして好ましくない。
【0018】
(b)リチウムケイ酸塩
本発明の補修剤に用いられる(b)成分のリチウムケイ酸塩は、以下の一般式で表される。
LiO・nSiO
このリチウムケイ酸塩は、水酸化カルシウムと反応して耐水性及び結合力が向上し、(a)成分の第4級アンモニウムケイ酸塩が水酸化カルシウムと結合してできるケイ酸カルシウムの結合助剤として強度回復及び骨材の表面被覆に寄与するものである。
ここで、リチウムケイ酸塩には、酸化リチウム含有量が1〜1.5%のものを好適に使用することができる。
リチウムケイ酸塩は、微コロイド性で耐水性が良いが、酸化リチウム含有量が増すに従い、接着力は増すが耐水性が低下して使用できない。
【0019】
リチウムケイ酸塩の具体例としては、日産化学工業(株)製のリチウムシリケート75(水溶液SiO含有量20%、酸化リチウムLiO含有量1.3%)があり、このpHは10.7である。
【0020】
この補修剤において(b)成分のリチウムケイ酸塩の割合は、SiO換算で2〜6重量部、好ましくは、3〜5重量部である。
2重量部未満では結合助剤としての効果が低く、一方、6重量部を超えると、他成分が少なくなり好ましくない。
【0021】
(c)ジアンミン銀
本発明の補修剤に用いられる(c)成分のジアンミン銀は、以下の一般式で表される。
[Ag(NH
このジアンミン銀イオンは、コンクリート中の塩素イオンClを取り込んで鉄筋の腐食進行を抑えたり、(a)成分の第4級アンモニウムケイ酸塩及び(b)成分のリチウムケイ酸塩に含有される水や外部から侵入してくる水を活性化してセメント成分との反応を向上させたり、ラジカルを消去したりして劣化を防止するとともに、強度回復に寄与するものである。
【0022】
ジアンミン銀イオンは、以下の方法で得ることができる。
硝酸銀AgNOにアンモニア水NHを加えると、酸化銀AgOの沈殿ができる。
これを水洗して、上澄み液を除いた後、アンモニア水を加えると溶解して、ジアミン銀イオン[Ag(NHを得ることができる。
【0023】
この補修剤における(c)成分のジアンミン銀の割合は、銀換算で0.1〜0.5重量部、好ましくは、0.2〜0.4重量部である。
0.1重量部未満では効果の発現が不足し、一方、0.5重量部を越えると効果の差も小さくコスト高になり好ましくない。
【0024】
(d)チオ硫酸ナトリウム
本発明の補修剤に用いられる(d)成分のチオ硫酸ナトリウムは、以下の一般式で表される。
Na・5H
このチオ硫酸ナトリウムは、強い還元力を有し、鉄筋の防錆に寄与する。
また、Naも取り込んで骨材のアルカリ化防止にも役立つものである。
【0025】
この補修剤における(d)成分のチオ硫酸ナトリウムの割合は、固形分換算で3〜10重量部、好ましくは、5〜8重量部である。
3重量部未満では効果の発現が難しく、一方、10重量部を越えると他成分が少なくなり好ましくない。
【0026】
本発明に用いられる補修剤は、(a)〜(e)成分、さらに、必要に応じて、その他の添加剤を混合して調整される。
この際、補修剤は、混合攪拌機、その他の分散機により分散、溶解して、均一な安定性の良い水溶液にして用いることができる。
【0027】
本発明の補修剤は、劣化したコンクリート構造物の表面に、内奥部に達する直径が10〜50mmの注入孔を一定の間隔で形成した後、1m当たり10〜100kgを0.1〜1.5MPaの圧力で1〜3ヶ月間加圧注入して全面に行き渡るように施工する。
この場合、加圧注入を、静的圧力に対して30〜100%の振幅を与えながら、周波数を1〜20Hzで行うこともできる。
このようにして、注入孔に補修剤を注入した後、さらに、注入孔に同じ補修剤を混和したモルタルを充填することにより、補修剤の漏出を防止することができる。
【0028】
本発明の補修剤は、劣化したコンクリート構造物の表面に、補修剤を50〜1000g/m塗布含浸して施工することもできる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
なお、実施例中の、部及び%は、特に断らないかぎり重量基準である。
【0030】
表1に示す補修剤Aを作成した。
攪拌タンクに、表1に示す(a)〜(e)成分、さらに、必要に応じて、(f)成分を入れ、混合攪拌して作製した。
なお、表1中の記号は以下のものを表す。
(a−1):第4級アンモニウムケイ酸塩((株)日板研究所製NS−25、水性コロイド状、SiO濃度=約25%)
(b−1):リチウムケイ酸塩(日産化学工業(株)製リチウムシリケート、水溶液、SiO濃度=約20%、酸化リチウム濃度=約2.9%)
(c−1):ジアンミン銀((株)日板研究所製ジアンミン銀イオン、[Ag(NHのAg濃度=約0.3%)
(d−1):チオ硫酸ナトリウム液(固形分濃度=約40%)
(e−1):イオン交換水
(f−1):非イオン界面活性剤
【0031】
【表1】

【0032】
表2に、表1に記載した補修剤Aを用いて行った、劣化したテストピースの強度回復試験の結果を示す。
劣化したテストピースは、圧縮強度の80%程度の荷重を、疲労載荷試験機を用いて1万回以上作用させたものである。ここで、補修後のテストピースは、劣化したテストピースを補修剤に1.0MPaで1週間加圧含浸した後、4週間気中養生し、圧縮強度を測定したものである。
【0033】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の劣化したコンクリート構造物の補修剤及び補修方法は、KやNa等のアルカリ金属イオンによる骨材のアルカリ骨材反応の抑制、中性化や塩害による鉄筋の腐食防止、コンクリートの圧縮強度や弾性係数の力学的特性の回復、コンクリートの緻密化により劣化因子の侵入を抑制することにより劣化したコンクリートの修復を実現し、さらに、以後の劣化を抑制することができることから、橋梁、トンネル等のコンクリート構造物の劣化したコンクリートの修復の用途に広く好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第4級アンモニウムケイ酸塩をSiO換算で4〜15重量部、(b)リチウムケイ酸塩をSiO換算で2〜6重量部、(c)ジアンミン銀イオンを銀換算で0.1〜0.5重量部、(d)チオ硫酸ナトリウムを固形分換算で3〜10重量部及び(e)水(ただし、(a)+(b)+(c)+(d)+(e)=100重量部)を主成分とすることを特徴とする劣化したコンクリート構造物の補修剤。
【請求項2】
劣化したコンクリート構造物の表面に、内奥部に達する注入孔を形成した後、該注入孔より請求項1記載の補修剤を10〜100kg/m加圧注入することを特徴とする劣化したコンクリート構造物の補修方法。
【請求項3】
注入孔に請求項1記載の補修剤を注入した後、該注入孔に請求項1記載の補修剤を混和したモルタルを充填することを特徴とする請求項2に記載の補修方法。
【請求項4】
劣化したコンクリート構造物の表面に、請求項1記載の補修剤を50〜1000g/m塗布含浸することを特徴とする劣化したコンクリート構造物の補修方法。

【公開番号】特開2008−285363(P2008−285363A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−131809(P2007−131809)
【出願日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【出願人】(390036515)株式会社鴻池組 (41)
【出願人】(591042034)株式会社日板研究所 (10)
【出願人】(507161950)宝セラリア株式会社 (1)
【Fターム(参考)】