説明

コンクリート構造物の連結方法

【課題】施工スペースに制限がある場合でもコンクリート構造物の連結を行えるようにする。
【解決手段】相対するコンクリートブロック1,2の接合面に内挿鉄筋14を収納可能なスリーブ11,21を同軸に埋設し、スリーブ11内に内挿鉄筋14を収納させたコンクリートブロック1をコンクリートブロック2と組み合わせた後に、内挿鉄筋14をその一部がコンクリートブロック2のスリーブ21内に挿入するまで移動させてからスリーブ11,21内にグラウトを充填する。コンクリートブロック1,2を上下方向から組み合わせる場合、内挿鉄筋14は予めスリーブ11のグラウトの注排出口13を介して導入された保持部材15によって保持し、コンクリートブロック1,2を組み合わせた後に、保持部材15を切断し、内挿鉄筋14を自重によってコンクリートブロック1のスリーブ11からコンクリートブロック2のスリーブ21側に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は予め分割して製造されたコンクリート構造物を一体的に連結するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
施工現場においてコンクリート構造物の外側面において連結作業スペースがある場合のコンクリート構造物の連結工法としてはボルトによる連結工法が採用されている(例えば特許文献1)。この工法は分割形成された各コンクリートブロックの対向する連結面に形成された開口部の内部に、前記各コンクリートブロックにそれぞれ同軸に埋設された定着用棒鋼の先端部を対向して露出させ、この両先端部に連結金具をそれぞれ係止させている。これにより前記各コンクリート構造物が連結される。
【0003】
また、コンクリート構造物の上部において接合作業スペースがある場合、PC鋼棒による連結工法が適用されている(例えば特許文献2)。この工法は、複数のコンクリート構造物が上下に組み上げられて連通した前記コンクリート構造物のPC鋼棒孔にPC鋼棒を挿通させ、このPC鋼棒の上下端部に連結金具を締結させることで、各コンクリート構造物を連結させている。
【0004】
他の連結工法としては、一方(下側)のコンクリート構造物の接合面から露出させた定着用棒鋼を、他方(上側)のコンクリート構造物内の定着用棒鋼の下端部を収納させたスリーブに挿通させ、このスリーブ内にモルタル等の充填材を充填する継ぎ手工法がある(非特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−64777号公報
【特許文献2】特開2008−111281号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】株式会社ヤマックス,製品とサービス,研究開発事業,YPJ工法、[online]、[平成21年1月19日検索]、インターネット<URL:http://www.yamax.co.jp/products/r−and−d/ypj.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コンクリート構造物の上部及び外側においてスペースが確保できない場合、前記構造物の内側で連結作業をする必要がある。
【0008】
ボルトによる連結工法は、連結場所における曲げモーメントの発生側が外側にある場合、外側で曲げモーメント対策を考慮した連結をしなければならない。外側スペースを確保できないため、連結金具の連結作業をコンクリート構造物の内面側で行う場合は、連結金具の締結のための空間を前記内側に確保するため、前記内側の一部を欠損させなければならない。このような鉄筋コンクリートのコンクリート領域(コンクリートが必要な部分)の欠損のため、鉄筋コンクリート構造物としてみなせなくなるので、ボルトによる連結工法は採用できない。
【0009】
PC鋼棒による連結工法は、連結用PC鋼棒を上部から挿入しなければならないので、コンクリート構造物の上部においてスペースが確保できない場合は連結作業ができない。
【0010】
モルタル充填式継ぎ手工法は、コンクリート構造物の内側での作業が可能であるが、少なくとも一方のコンクリート構造物の接合面から定着用棒鋼を露出(いわゆる鉄筋出し)させなければならないので、上部施工スペースを必要とするため、採用できない。
【0011】
よって、従来の連結工法では、コンクリート構造物の上部及び外側に施工スペースを確保できない場合、コンクリート構造物の連結ができない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明に係るコンクリート構造物の連結方法は、相対するコンクリート構造物の接合面に継ぎ手用鋼材を収納可能なスリーブを同軸に埋設し、前記スリーブ内に前記継ぎ手用鋼材を収納させた一方のコンクリート構造物を他方のコンクリート構造物と組み合わせた後に、前記継ぎ手用鋼材をその一部が他方のコンクリート構造物のスリーブ内に挿入するまで移動させてから前記両方のスリーブ内に充填材を充填している。
【0013】
前記コンクリート構造物を上下方向から組み合わせる場合、前記継ぎ手用鋼材は、予め前記スリーブの充填材の注入口または排出口を介して導入された保持部材によって当該スリーブ内に保持し、前記両者のコンクリート構造物を組み合わせた後に、前記保持部材を切断し、前記継ぎ手用鋼材を自重によって上方のコンクリート構造物のスリーブから下方のコンクリート構造物のスリーブ側に移動させるとよい。
【0014】
前記コンクリート構造物を上下方向から組み合わせる場合、前記継ぎ手用鋼材は、予め上側のコンクリート構造物の接合面において前記スリーブの継ぎ手用鋼材の出口側に形成された溝に差し込まれた仕切り部材よって支持し、前記両者のコンクリート構造物を組み合わせた後に、前記仕切りを前記溝から抜き取り、前記継ぎ手用鋼材を自重によって前記一方のコンクリート構造物のスリーブから前記他方のコンクリート構造物のスリーブ側に移動させるとよい。
【0015】
前記コンクリート構造物を左右方向から組み合わせる場合、前記継ぎ手用鋼材は予め一方のコンクリート構造物のスリーブの充填材の注入口または排出口を介して導入された保持部材によって保持し、他方のコンクリート構造物においてはスリーブ内で埋設された鋼棒の端部に磁石を設け、前記両者のコンクリート構造物を組み合わせた後に、前記保持部材を切断し、前記継ぎ手用鋼材を前記磁石の磁力によって前記一方のコンクリート構造物のスリーブから前記他方のコンクリート構造物のスリーブ側に移動させるとよい。
【発明の効果】
【0016】
以上の発明によれば施工スペースに制限がある場合であってもコンクリート構造物の連結が行える。したがって、コンクリート構造物の強度が維持されると共に施工現場での作業効率が向上し施工コストも大幅に低減する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)発明の第一の実施形態に係るコンクリート構造物の連結方法における前記コンクリート構造物の接合の説明図、(b)継ぎ手用鋼材移動の説明図、(c)充填材注入の説明図。
【図2】(a)発明の第二の実施形態に係るコンクリート構造物の連結方法における前記コンクリート構造物の接合の説明図、(b)継ぎ手用鋼材移動の説明図、(c)充填材注入の説明図。
【図3】予め上側のコンクリート構造物の接合面において前記スリーブの継ぎ手用鋼材の出口側に形成された溝に仕切り部材が差し込まれた状態の説明図。
【図4】(a)発明の第三の実施形態に係るコンクリート構造物の連結方法における前記コンクリート構造物の接合の説明図、(b)継ぎ手用鋼材移動の説明図、(c)充填材注入の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示された第一の実施形態に係るコンクリート構造物の連結工法は例えば函渠や擁壁の施工にあたりプレキャストコンクリートブロック(コンクリートブロック1,2)を上下方向から連結する場合に適用される。
【0019】
コンクリートブロック1,2が対向する接合面10,20にはそれぞれ予めスリーブ11,21が同軸に埋設されている。スリーブ11,21はそれぞれコンクリートブロック1,2内部の鋼棒12,22と螺合した状態で埋設されている。スリーブ11,20にはグラウト(充填材)を注入または排出するための注排出口13,23が複数形成されている。上方に配置されるコンクリートブロック1のスリーブ11は下方に配置されるコンクリートブロック2のスリーブ21の容積全長よりも長く設定されている。
【0020】
スリーブ11には予め継ぎ手用鋼材として内挿鉄筋14が収納されている。内挿鉄筋14の全長は少なくともスリーブ21の容積全長よりも長く設定されることで、コンクリートブロック1,2の連結時に両者間に内挿鉄筋14の渡りが確保される。内挿鉄筋14は組み立て前のコンクリートブロック1のスリーブ11内に収納された状態で保持部材15によって保持されている。保持部材15は鋼棒12付近のスリーブ11の注排出口13から導入されている。保持部材15の一端はコンクリートブロック1の外部の所定箇所例えば作業員が作業しやすい場所に固定されている。保持部材15は内挿鉄筋14を保持できる吊り紐、吊り糸、金属線等が例示される。
【0021】
図1を参照しながらコンクリートブロック1,2の連結手順について説明する。先ず、図1(a)に示されたように、下方に配置されたコンクリートブロック2に対して、スリーブ11内に内挿鉄筋14を収納させたコンクリートブロック1を位置決めしながら載置すると、スリーブ11,21がほぼ同軸に配置される。次いで、内挿鉄筋14に繋がれた保持部材15をコンクリートブロック1の外側で切断すると、内挿鉄筋14は自重によって落下し、コンクリートブロック2のスリーブ21内に挿入する。スリーブ21の容積全長は内挿鉄筋14よりも短いので内挿鉄筋14の下端がコンクリートブロック2内の鋼棒22に達しても、図1(b)に示されたように少なくとも内挿鉄筋14の上端はスリーブ11内に位置する。その後、図1(c)に示されたように、グラウトが注排出口23を介して注入されスリーブ11,21内に充填されることにより、コンクリートブロック1,2の連結が完了する。
【0022】
図2に示された第二の実施形態に係るコンクリート構造物の連結工法も例えば函渠や擁壁の施工にあたりプレキャストコンクリートブロック(コンクリートブロック1,2)を上下方向から連結する場合に適用される。
【0023】
本実施形態ではコンクリートブロック1のスリーブ11内に内挿鉄筋14を保持するための部材として第一実施形態に係る保持部材15の代わりに仕切り部材31を用いている。仕切り部材31としては板状のものやシールタイプのものが例示される。仕切り部材31は、板状のものが採用された場合、図3に示されたようにコンクリートブロック1の接合面におけるスリーブ11の下端、すなわち内挿鉄筋14の出口に形成された溝32に差し込まれる。仕切り部材31にシールタイプのものが採用された場合、仕切り部材31は溝32の面に貼付される。
【0024】
図2を参照しながら第二の実施形態に係るコンクリートブロック1,2の連結手順について説明する。先ず、図2(a)に示されたように、下方に配置されたコンクリートブロック2に対して、スリーブ11内に収納された内挿鉄筋14を仕切り部材31によって支持したコンクリートブロック1を位置決めしながら載置すると、スリーブ11,21がほぼ同軸に配置される。次いで、仕切り部材31を溝32から抜き取ると、内挿鉄筋14は自重によって落下し、コンクリートブロック2のスリーブ21内に挿入する。スリーブ21の容積全長は内挿鉄筋14よりも短いので内挿鉄筋14の下端がコンクリートブロック2内の鋼棒22に達しても、図2(b)に示されたように少なくとも内挿鉄筋14はその上端がスリーブ11内に位置する。その後、図2(c)に示されたように、グラウトが注排出口23を介して注入されスリーブ11,21内に充填される。溝32もグラウトによって閉塞する。以上のようにコンクリートブロック1,2の連結が完了する。
【0025】
図4に示された第三の実施形態に係るコンクリート構造物の連結工法は例えば函渠の施工にあたりプレキャストコンクリートブロック(コンクリートブロック1,2)を左右方向から連結する場合に適用される。
【0026】
コンクリートブロック1のスリーブ11には予め継ぎ手用鋼材として内挿鉄筋14が収納されている。内挿鉄筋14の全長はスリーブ11の容積全長とほぼ同等に設定されている。内挿鉄筋14は組み立て前のコンクリートブロック1のスリーブ11内に収納された状態で保持部材15によって保持されている。保持部材15は鋼棒12付近のスリーブ11の注排出口13から導入されている。保持部材15の一端はコンクリートブロック1の外部の所定箇所例えば作業員が作業しやすい場所に結び付けられている。一方、コンクリートブロック2のスリーブ21内においては鋼棒22の端部には磁力によって内挿鉄筋14を引き込む磁石41が設けられている。尚、磁石41と対向する内挿鉄筋14の端部には、磁石41の端面と相対する面の磁極が当該端面の磁極と異なる磁石(図示省略)を設けると、より一層効率的に内挿鉄筋14を引き込むことができる。
【0027】
図4を参照しながら第三の実施形態に係るコンクリートブロック1,2の連結手順について説明する。先ず、図4(a)に示されたように、左側に配置されたコンクリートブロック2に対して、スリーブ11内に内挿鉄筋14が収納されたコンクリートブロック1を右側から位置決めしながら組み合わせると、スリーブ11,21がほぼ同軸に配置される。次いで、内挿鉄筋14に繋がれた保持部材15をコンクリートブロック1の外側で切断すると、内挿鉄筋14は磁石41の磁力によって引き寄せられてコンクリートブロック2のスリーブ21内に挿入する。スリーブ21の容積全長は内挿鉄筋14よりも短いので内挿鉄筋14の左端がコンクリートブロック2内の磁石41に接触しても、図4(b)に示されたように少なくとも内挿鉄筋14はその右端がスリーブ11内に位置している。その後、図4(c)に示されたように、グラウトが注排出口23を介して注入されスリーブ10,20内に充填されることにより、コンクリートブロック1,2の連結が完了する。
【0028】
以上の説明から明らかなように発明の実施形態に係るコンクリートブロック1,2の連結方法によれば連結作業スペースに制限がある施工現場においてもコンクリートブロック1,2を連結できる。また、連結にあたりコンクリートブロック1,2の接合部分の鉄筋出しやはつり作業が必要でなくなるので、コンクリートブロック1,2の強度が維持されると共に施工コストが大幅に低減する。
【符号の説明】
【0029】
1,2…プレキャストコンクリートブロック(コンクリート構造物)
10,20…接合面
11,21…スリーブ
11,12…鋼棒
13,23…注排出口
14…内挿鉄筋(継ぎ手用鋼材)
15…保持部材
31…仕切り部材
32…溝
41…磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対するコンクリート構造物の接合面に継ぎ手用鋼材を収納可能なスリーブを同軸に埋設し、前記スリーブ内に前記継ぎ手用鋼材を収納させた一方のコンクリート構造物を他方のコンクリート構造物と組み合わせた後に、前記継ぎ手用鋼材をその一部が他方のコンクリート構造物のスリーブ内に挿入するまで移動させてから前記両方のスリーブ内に充填材を充填すること
を特徴とするコンクリート構造物の連結方法。
【請求項2】
前記コンクリート構造物を上下方向から組み合わせる場合、前記継ぎ手用鋼材を、予め前記スリーブの充填材の注入口または排出口を介して導入された保持部材によって保持し、前記両者のコンクリート構造物を組み合わせた後に、前記保持部材を切断し、前記継ぎ手用鋼材を自重によって前記一方のコンクリート構造物のスリーブから前記他方のコンクリート構造物のスリーブ側に移動させること
を特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の連結方法。
【請求項3】
前記コンクリート構造物を上下方向から組み合わせる場合、前記継ぎ手用鋼材は、予め上側のコンクリート構造物の接合面において前記スリーブの継ぎ手用鋼材の出口側に形成された溝に差し込まれた仕切り部材よって支持し、前記両者のコンクリート構造物を組み合わせた後に、前記仕切り部材を前記溝から抜き取り、前記継ぎ手用鋼材を自重によって前記一方のコンクリート構造物のスリーブから前記他方のコンクリート構造物のスリーブ側に移動させること
を特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の連結方法。
【請求項4】
前記コンクリート構造物を左右方向から組み合わせる場合、前記継ぎ手用鋼材は予め一方のコンクリート構造物のスリーブの充填材の注入口または排出口を介して導入された保持部材によって保持し、他方のコンクリート構造物においてはスリーブ内で埋設された鋼棒の端部に磁石を設け、前記両者のコンクリート構造物を組み合わせた後に、前記保持部材を切断し、前記継ぎ手用鋼材を前記磁石の磁力によって前記一方のコンクリート構造物のスリーブから前記他方のコンクリート構造物のスリーブ側に移動させること
を特徴とする請求項1に記載のコンクリート構造物の連結方法。
【請求項5】
前記継ぎ手用鋼材の全長は少なくとも前記他方のコンクリート構造物のスリーブの容積全長よりも長く設定されたこと
を特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の連結方法。
【請求項6】
前記継ぎ手用鋼材の端部には、前記磁石の端面と相対する面の磁極が当該端面の磁極と異なる磁石が設けられたこと
を特徴とする請求項4に記載のコンクリート構造物の連結方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−80316(P2011−80316A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235206(P2009−235206)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(591067897)千葉窯業株式会社 (8)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】