説明

コンクリート構造物の非破壊検査方法および装置ならびにアンカーボルト

【課題】金物が埋設されたコンクリート構造物の損傷具合を定量的に把握することができるコンクリート構造物の非破壊検査方法および装置ならびにアンカーボルトを提供する。
【解決手段】一部がコンクリート表面2aから露出した状態で埋設された金物4を有するコンクリート構造物の健全性を検査する非破壊検査方法であって、金物4の露出部4aから金物4の内部に向けて弾性波を発振し、この弾性波の反射波を受振して、この反射波の強さと時間遅れとに基づいて金物4の健全性および金物4の周囲のコンクリート2の健全性の少なくとも一方を検査するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の非破壊検査方法および装置ならびにアンカーボルトに関し、特に、振動を受ける装置機器を固定する目的で、コンクリート製の基礎または床板に埋め込み設置された埋め込みアンカーボルトあるいは埋め込み金物の健全性およびその直近部のコンクリートの健全性を調べるのに適したコンクリート構造物の非破壊検査方法および装置ならびにアンカーボルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、原子力発電所に据え付けられる装置機器や、製造工場等に配置される電子精密機器を製造する製造加工機械などの装置機器は、地震あるいは他の機器から伝達する振動によって、損傷する懸念があるため、堅牢なコンクリート製の基礎あるいは床板などのコンクリート構造物の上に据付固定することが一般的である。
【0003】
装置機器8をコンクリート構造物に固定する方法としては、図13に示すように、コンクリート2の打設時に埋め込み設置したアンカーボルト4を用いたり、図14に示すように、コンクリート2に埋め込んだ金物40に対して溶接部6aで溶接またはボルト固定することにより行うのが通常である。
【0004】
コンクリート2に埋め込み設置されたアンカーボルト4または金物40の健全性を確認する場合、固定用ナットを増し締めする際の緩み具合やひび割れ等を目視観察することが知られている。
【0005】
一方、杭などのコンクリート構造物のひび割れ深さ、浮き、剥離、内部空洞などの欠陥や劣化状況を構造物を破壊せずに調べる非破壊検査方法ないし装置が知られている(例えば、特許文献1〜8ならびに非特許文献1および2参照)。このような非破壊検査方法として、叩き点検法、超音波法、衝撃弾性波法、電磁波レーダ法、赤外線法などの調査手法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。また、アンカーボルト等の金物の健全性等を調べる非破壊検査方法ないし装置が知られている(例えば、特許文献9および10参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−298658号公報
【特許文献2】特開2006−322734号公報
【特許文献3】特開2000−240218号公報
【特許文献4】特開平10−288608号公報
【特許文献5】特開平10−90088号公報
【特許文献6】特開平10−60935号公報
【特許文献7】特開平10−30244号公報
【特許文献8】特開平9−291533号公報
【特許文献9】特開2004−77234号公報
【特許文献10】特開平9−145659号公報
【非特許文献1】性能設計時代における基礎構造の維持管理と診断技術、堀越研一、土と基礎、52−5号(556号)、地盤工学会、2004年5月
【非特許文献2】株式会社構造診断研究所、“技術紹介 コンクリート構造物の維持管理”、[online]、[平成21年2月10日検索]、インターネット<URL:http://www.k-s-k.co.jp/03.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の従来の特許文献1等に示される非破壊検査方法ないし装置は、大規模な地震が発生した後において、コンクリートに埋め込まれていて目視観測できない埋め込みアンカーボルトあるいは埋め込み金物の健全性およびその直近部のコンクリートに接している界面付近の損傷程度を定量的に把握するものではない。
【0008】
また、非特許文献1に示される方法ないし装置は、地中に設置した杭の長さを把握するものであって、コンクリートに埋め込んだアンカーボルトの劣化や切断等あるいはアンカーボルトの周囲に接するコンクリートの劣化や破断状況を定量的に把握するものではない。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、金物が埋設されたコンクリート構造物の損傷具合を定量的に把握することができるコンクリート構造物の非破壊検査方法および装置ならびにアンカーボルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法は、一部がコンクリート表面から露出した状態で埋設された金物を有するコンクリート構造物の健全性を検査する非破壊検査方法であって、前記金物の露出部から前記金物の内部に向けて弾性波を発振し、この弾性波の反射波を受振して、この反射波の強さと時間遅れとに基づいて前記金物の健全性および前記金物の周囲のコンクリートの健全性の少なくとも一方を検査することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法は、上述した請求項1において、前記金物の一端から弾性波を発振し、この弾性波が前記金物の前記一端から最も遠い端に存在する最遠端で反射して前記一端に到達する第二波の強さおよび到達時間と、第二波よりも早く前記一端に到達する第一波の強さおよび到達時間との比較から、前記金物の埋め込み深さの浅い位置で密着していたコンクリートと前記金物表面との間において微小な気相領域が発生している位置を検出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法は、上述した請求項1または2において、前記コンクリート表面の前記金物の周囲に弾性波を検知する受振器を複数配置し、前記金物の一端から弾性波を発振し、この弾性波が前記金物から周囲のコンクリートに伝達して、コンクリート中に存在している破壊面を通過することによる波および破壊面において反射することによる波の少なくとも一方を前記受振器で検知し、この検知した波をトモグラフィ解析することにより前記金物の周辺のコンクリートの損傷発生位置を検出することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項4に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法は、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記金物は、露出部に設けた開口に連通する孔を有する中空筒状のアンカーボルトであり、このアンカーボルトの孔内に、弾性波を発振する発振器および反射波を受振する受振器の少なくとも一方を異なる深さ位置に複数配置し、前記発振器または前記受振器の少なくとも一方を用いて、前記アンカーボルト周囲のコンクリートの弾性波の伝達速度が変化する速度変化領域を認識し、前記アンカーボルト周囲のコンクリートの損傷領域の分布を検出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項5に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法は、上述した請求項4において、二以上の前記アンカーボルトの各孔内に前記受振器を配置し、少なくとも二つの前記アンカーボルト間を伝播する弾性波の波形を測定し、測定した波形に基づいて前記アンカーボルト相互の間に存在するコンクリートの損傷領域の分布を検出することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項6に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法は、上述した請求項4または5において、前記アンカーボルトは中空貫通状であり、前記アンカーボルトの露出部の開口に注水することによって、前記孔を介して前記アンカーボルト周囲のコンクリートの損傷領域に水を浸透させた後に、弾性波の波形を測定することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項7に係るコンクリート構造物の非破壊検査装置は、一部がコンクリート表面から露出した状態で埋設された金物を有するコンクリート構造物の健全性を検査する非破壊検査装置であって、前記金物の露出部から前記金物の内部に向けて弾性波を発振する発振手段と、発振手段により発振された弾性波の反射波を受振する受振手段と、受振手段により受振された反射波の強さと時間遅れとに基づいて前記金物の健全性および前記金物の周囲のコンクリートの健全性の少なくとも一方を検査する健全性検査手段とを備えたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項8に係るアンカーボルトは、上述した請求項1〜7のいずれか一つに記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法または装置に用いられる金物としてのアンカーボルトであって、露出部に設けた開口に連通する孔を有する中空筒状のアンカーボルトである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の請求項1に係る発明によれば、地震時の過度な引き抜き力によって、アンカーボルトなどの金物の途中に損傷が生じた場合において、金物自体の健全性および金物周囲のコンクリートとの境界部の剥離状況を定量的に把握することができる。
【0019】
また、本発明の請求項2に係る発明によれば、アンカーボルトなどの金物とコンクリートとの界面の剥離面やコンクリートに発生したひび割れ面で反射した弾性波の強さや到達時間の情報により微小な気相領域の発生位置などの損傷位置を検出するので、金物周囲のコンクリートの損傷状況を把握することができる。
【0020】
また、本発明の請求項3に係る発明によれば、コンクリート表面の金物周囲に弾性波を検知する受振器を複数配置するので、3次元的な弾性波の伝播現象を測定することにより、得られた弾性波の波形をトモグラフィ解析することによって、金物周辺のコンクリートの損傷位置を3次元的に把握することができる。
【0021】
また、本発明の請求項4に係る発明によれば、コンクリートに埋め込む中空筒状のアンカーボルトの孔に発振器などの弾性波の発信源や観測用の受振器をより多く配置できるので、アンカーボルト周囲のコンクリートの損傷領域の3次元的な分布をより詳細に把握することができる。
【0022】
また、本発明の請求項5に係る発明によれば、複数のアンカーボルトの各孔から弾性波を発振させ、その伝播状況を別のアンカーボルトの孔に設けた複数の観測用の受振器で伝播状況を測定するので、アンカーボルト相互の間に存在するコンクリートの損傷領域の分布をより詳細に把握することができる。
【0023】
また、本発明の請求項6に係る発明によれば、中空貫通状のアンカーボルトの孔を介してアンカーボルト周辺のコンクリート内部に生じた大きな空隙に水を浸透させることができる。このため、コンクリートに生じたひび割れが大きな空隙である場合は、弾性波が通過できなくなるので測定情報が欠落するが、本発明によれば、水によって浸透された空隙を弾性波が通過できるようになるので、十分な測定情報を得ることができる。
【0024】
また、本発明の請求項7に係る発明によれば、発振手段と、受振手段と、健全性検査手段とを備えるので、地震時の過度な引き抜き力によって、アンカーボルトなどの金物の途中に損傷が生じた場合において、金物自体の健全性および金物周囲のコンクリートとの境界部の剥離状況を定量的に把握することができる。
【0025】
また、本発明の請求項8に係る発明によれば、中空筒状のアンカーボルトを施工当初からコンクリートに埋め込み設置することにより、将来の大地震発生時においても、ただちに非破壊検査を実施できるので、短時間でアンカーボルトやその周辺のコンクリートの健全性を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、コンクリート構造物において、地震力の作用によりクラックが発生した状況を示す側断面図である。
【図2】図2は、地震力の作用が増大してアンカーボルト周囲のコンクリートが破壊して分離した状況を示す側断面図である。
【図3−1】図3−1は、本発明に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法による弾性波の測定原理の概念図であり、(a)は側断面図、(b)は測定される弾性波の波形を示すグラフ図である。
【図3−2】図3−2は、弾性波伝播シミュレーションで模擬した数値モデルを示す側断面図であり、アンカーボルトに発生した破断部を模擬した図である。
【図3−3】図3−3は、測定された弾性波の加速度の波形を示すグラフ図である。
【図4−1】図4−1は、弾性波伝播シミュレーションで模擬した数値モデルを示す側断面図であり、コンクリートに発生した剥離部を模擬した図である。
【図4−2】図4−2は、弾性波伝播シミュレーションにより測定された弾性波の加速度の波形を示すグラフ図である。
【図5−1】図5−1は、測点の配置を示す側断面図である。
【図5−2】図5−2は、トモグラフィ解析による低速度領域の分布の推定図である。
【図6−1】図6−1は、測点の他の配置を示す側断面図である。
【図6−2】図6−2は、測点の他の配置を示す側断面図である。
【図6−3】図6−3は、トモグラフィ解析による低速度領域の分布の推定図である。
【図7−1】図7−1は、測点の他の配置を示す側断面図である。
【図7−2】図7−2は、測点の他の配置を示す側断面図である。
【図7−3】図7−3は、トモグラフィ解析による低速度領域の分布の推定図である。
【図8】図8は、中空筒状のアンカーボルトを用いた側断面図である。
【図9】図9は、中空筒状のアンカーボルトにセンサを配置した側断面図である。
【図10】図10は、弾性波の伝播経路の概念を示した側断面図である。
【図11】図11は、中空貫通状のアンカーボルトの周辺のコンクリートに大きな空隙が生じた場合を示す側断面図である。
【図12】図12は、中空貫通状のアンカーボルトの孔からひび割れに注水する状況を説明する側断面図である。
【図13】図13は、従来の埋め込みアンカーボルトによる固定方法を示す側断面図である。
【図14】図14は、従来の埋め込み金物による固定方法を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法および装置ならびにアンカーボルトの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
図1は、コンクリート構造物において、地震力の作用によりクラックが発生した状況を示す側断面図である。図2は、地震力の作用が増大してアンカーボルト周囲のコンクリートが破壊して分離した状況を示す側断面図である。
【0029】
図1に示すように、コンクリート2上に敷きモルタル6が敷設され、その上部に装置機器8の基部8aがアンカーボルト4とナット4bとにより据え付け固定されている。アンカーボルト4は、円盤状の埋設先端部4cと、露出部としての頭部4aとを有している。ナット4bは頭部4aに形成されたねじ山に螺合してある。
【0030】
アンカーボルト4とコンクリート2との界面は、地震力の作用によってコンクリート表面2aから深部に向けて次第に損傷部が拡大してゆき、密着性を喪失するようになる。その結果、当該界面部分には微小な空気層あるいはマイクロクラックのような剥離部10が発生する。さらに地震力の作用が大きくなると、図2に示すように、装置機器8が大きく変位して、埋め込みアンカーボルト4周囲のコンクリート2は破壊してひび割れ部12(亀裂)により分離した状態となる。
【0031】
図3−1は、本発明に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法による弾性波の測定原理の概念図であり、(a)は側断面図、(b)は測定される弾性波の波形を示すグラフ図である。
【0032】
図3−1に示すように、本発明に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法は、金物としてのアンカーボルト4の頭部4a(露出部)を、ハンドハンマ16などの打撃工具で軽打することによりボルト4内部に低レベルのひずみを発生させ、そのときのボルト4の応答をコンクリート表面2aに配置した受振器としての加速度計14で計測して、アンカーボルト4および/またはその周囲直近のコンクリート2の損傷程度などの健全性を定量的に把握するものである。例えば、ボルト4の埋設先端部4c(下端)からの反射波がボルト4の頭部4aまで戻ってくるまでの時間を計測することにより、ボルト4の長さを推定することができる。また、ボルト4の物性が変化する箇所からの反射波を検知することにより、破断部などの物性が変化する箇所を推定することができる。
【0033】
図3−2は、弾性波伝播シミュレーションで模擬した数値モデルを示す側断面図であり、コンクリート2に埋設されたアンカーボルト4の中間位置に発生した破断部20を模擬したものである。この数値モデルに対して、破断部20での速度が低速度となるように模擬して弾性波の伝播現象に関する数値実験を行った。この数値実験では、アンカーボルト4の頭部4aから弾性波を発信し、その波がボルト4の埋設先端部4cや物性変化点に届いて反射し、戻ってくるまでの時間を模擬するものである。
【0034】
図3−3は、この数値実験結果を示した測定された弾性波の加速度の波形を示すグラフ図である。このグラフの横軸は発振時からの経過時間であり、縦軸の振幅は弾性波の加速度である。破断部20のコンクリート表面2aからの鉛直距離を0mm(健全)、20mm、50mm、100mとした4つのケースについての波形が示してある。時刻0.03msec付近に見られる大きなピークは、ボルト4の埋設先端部4cにて反射してボルト4の頭部4aに戻ってきた波を示している。同図において点線の丸で示した初期のピークは、途中に存在している低速度点で反射して戻ってきた波を示しており、低速度点が深くなるにつれてピークを観測できる時刻が遅くなることがわかる。実際の非破壊検査では、このピークの時刻を測定することによって、ボルト4の破断部20の位置を推定することができる。
【0035】
図4−1は、弾性波伝播シミュレーションで模擬した数値モデルを示す側断面図であり、コンクリートに発生した剥離部(空気相)を模擬した図である。図4−2は、弾性波伝播シミュレーションにより測定された弾性波の加速度の波形を示すグラフ図である。この数値実験では、アンカーボルト4の頭部4aから弾性波を発信し、その波がボルト4の埋設先端部4cや物性変化点に届いて反射し、戻ってくるまでの時間を模擬している。
【0036】
図4−2は、この数値実験結果を示した測定された弾性波の加速度の波形を示すグラフ図である。このグラフの横軸は発振時からの経過時間であり、縦軸の振幅は弾性波の加速度である。破断部20のコンクリート表面2aからの鉛直距離を0mm(健全)、20mm、50mm、100m、150mmとした5つのケースについての波形が示してある。時刻0.03msec付近に見られる大きなピークはボルト4の埋設先端部4cにて反射してボルト4の頭部4aに戻ってきた波を示している。同図において複数の点線の丸で示したそれよりも遅い時刻における複数のピークは、剥離している界面がなくなった位置の深さに対応した時間遅れで観測されている。
【0037】
すなわち、コンクリート2がボルト4から剥離していない深さ位置ではボルト4の振動を拘束する条件が急変しているため、その深さで反射して戻ってきた波が卓越して発生する。このため、剥離深さが深くなるにつれてピークが出現する時刻は遅くなっている。実際の非破壊検査では、このピークの時刻を測定することによって、ボルト4とコンクリート2の剥離位置を推定することができる。
【0038】
図5−1および図5−2は、コンクリート表面のアンカーボルト周囲に受振器を複数配置した場合の弾性波伝播シミュレーションを説明する図である。図5−1は、測点(加速度計)の配置を示す側断面図である。図5−2は、トモグラフィ解析による低速度領域の分布の推定図である。この弾性波伝播シミュレーションにおいて、アンカーボルト4の頭部4aから発信した弾性波のエネルギーの一部は、ボルト4表面から周囲のコンクリート2に伝播する。この波をコンクリート表面2aのボルト4周囲に配置した複数の受振器としての加速度計18(測点)で観測する。
【0039】
この弾性波伝播シミュレーションについて説明する。まず、図5−1に示すように、コンクリート2中での亀裂12(ひび割れ部)を低速度領域であると仮定し、反射してきた波をコンクリート表面2aに配置した加速度計18により受振し、反射波の強さおよび到達時間を順解析で求めた。その結果を仮想の観測データとみなして、トモグラフィ解析により、低速度領域の分布を逆解析して推定して得た図が、図5−2である。想定したひび割れ12の位置をある程度は推定することができている。
【0040】
図6−1〜図6−3は、コンクリート表面のアンカーボルト周囲に受振器を複数配置する一方で、アンカーボルト内の孔に発信器および受振器を複数配置した場合の弾性波伝播シミュレーションを説明する図である。図8は、中空筒状のアンカーボルトを用いた側断面図である。
【0041】
アンカーボルトは、図8に示すように、頭部4aに設けた開口22に連通する孔24を有する中空筒状なので、ボルト4の内部にも発信源としての発振器および/または受振器などのセンサ18を配置できる。センサ18の配置としては、図6−1や図6−2に示すような配置が可能である。図6−2に示す配置の方が取得できる情報が多くなるので、より詳細な推定が可能である。
【0042】
この弾性波伝播シミュレーションについて説明する。まず、図6−1や図6−2に示すように、ボルト4の頭部4aから発信した弾性波を、頭部4a周囲のコンクリート表面2aに配置したセンサ(加速度計)18で観測する。想定したコンクリート2中のひび割れ部12(亀裂)を低速度領域であると仮定し、届いた波および反射してきた波について、配置した加速度計18で観測できるであろう波の強さおよび到達時間を順解析で求めた。その結果を仮想の観測データとみなして、トモグラフィ解析により、低速度領域の分布を逆解析して推定して得た図が、図6−3である。想定したひび割れの位置をより明確に推定することができている。
【0043】
図7−1〜図7−3は、コンクリート表面のアンカーボルト周囲に受振器を複数配置する一方で、2本のアンカーボルト内の孔に発信器および受振器を複数配置した場合の弾性波伝播シミュレーションを説明する図である。
【0044】
アンカーボルトは、図8に示すように、頭部4aに設けた開口22に連通する孔24を有する中空筒状なので、ボルト4の内部にも発信源としての発振器および/または受振器などのセンサ18を配置できる。センサ18の配置としては、図7−1や図7−2に示すような配置が可能である。このセンサ配置は、2本のボルトで挟まれた領域のコンクリートのひび割れを発見する場合に適したセンサ配置である。図7−2に示す配置の方が取得できる情報が多くなるので、より詳細な推定が可能である。
【0045】
この弾性波伝播シミュレーションについて説明する。まず、図7−1や図7−2に示すように、ボルト4の頭部4aから発信した弾性波を、ボルト4内の孔24に設けたセンサ18や頭部4a周囲のコンクリート表面2aに配置したセンサ18(加速度計)で観測する。想定したコンクリート2中のひび割れ部12(亀裂)を低速度領域であると仮定し、配置した加速度計で届いた波および反射してきた波について、波の強さおよび到達時間を順解析で求めた。その結果を仮想の観測データとみなして、トモグラフィ解析により、低速度領域の分布を逆解析して推定して得た図が、図7−3である。想定したひび割れの位置をより明確に推定することができている。
【0046】
図9は、中空筒状のアンカーボルトにセンサを配置した側断面図である。図10は、弾性波の伝播経路の概念を示した側断面図である。図9に示すように、アンカーボルト4内の孔24に複数のセンサ26を配置することが望ましい。各センサ26は、開口22から挿入された観測用センサ信号線28を介してコンクリート構造部の外部にセンサ信号を導くことができる。
【0047】
図11は、中空貫通状のアンカーボルトの周辺のコンクリートに大きな空隙が生じた場合を示す側断面図である。図12は、中空貫通状のアンカーボルトの孔からひび割れに注水する状況を説明する側断面図である。
【0048】
図11に示すように、コンクリート内のアンカーボルト4の埋設先端部4cからコンクリート表面2aに向けて延びるひび割れ部12(亀裂)が拡大してくると、コンクリート2内部を弾性波が通過できない状態になる。この場合には、センサで取得できる情報が少なくなり、ひび割れ等の位置を推定する精度が小さくなる。このような場合には、図12に示すように、アンカーボルト4を中空貫通状とし、この頭部4aに設けた開口22から水34を注水することにより、孔24および埋設先端部4cに形成した開口32を通してひび割れ部12に水を浸透させることができる。水は、健全なコンクリートよりは低速度であるが、空気よりははるかに伝達し易い媒体であるから、弾性波の観測による情報は少なくならないという効果を奏する。
【0049】
上記の実施の形態において、金物としてアンカーボルトを例にとり説明したが、アンカーボルトに限るものではなく、図14に示すような埋め込み金物40に適用してもよく、このようにしても本発明と同一の作用効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法および装置は、振動を受ける装置機器が埋め込みアンカーボルトや金物によってコンクリートに据え付け固定されるコンクリート構造物の非破壊検査として有用であり、特に、原子力発電所に据え付けられる装置機器や、製造工場等に配置される工作機械などの地震や他の機器から伝達する振動によって損傷するおそれがある装置機器が据え付けられる基礎コンクリート構造物の非破壊検査に適している。また、本発明に係るアンカーボルトは、本発明に係るコンクリート構造物の非破壊検査方法および装置に適している。
【符号の説明】
【0051】
2 コンクリート
2a コンクリート表面
4 アンカーボルト
4a 頭部(露出部)
4b ナット
4c 埋設先端部
6 敷きモルタル
8 装置機器
10 コンクリート剥離部
12 ひび割れ部
14 加速度計
16 ハンドハンマ
18 測点
20 アンカーボルト破断部
22 開口
24 孔
26 受振器
28 観測センサ用信号線
30 浸透水
32 開口
34 水
40 埋め込み金物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部がコンクリート表面から露出した状態で埋設された金物を有するコンクリート構造物の健全性を検査する非破壊検査方法であって、
前記金物の露出部から前記金物の内部に向けて弾性波を発振し、この弾性波の反射波を受振して、この反射波の強さと時間遅れとに基づいて前記金物の健全性および前記金物の周囲のコンクリートの健全性の少なくとも一方を検査することを特徴とするコンクリート構造物の非破壊検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法において、前記金物の一端から弾性波を発振し、この弾性波が前記金物の前記一端から最も遠い端に存在する最遠端で反射して前記一端に到達する第二波の強さおよび到達時間と、第二波よりも早く前記一端に到達する第一波の強さおよび到達時間との比較から、前記金物の埋め込み深さの浅い位置で密着していたコンクリートと前記金物表面との間において微小な気相領域が発生している位置を検出することを特徴とするコンクリート構造物の非破壊検査方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法において、前記コンクリート表面の前記金物の周囲に弾性波を検知する受振器を複数配置し、前記金物の一端から弾性波を発振し、この弾性波が前記金物から周囲のコンクリートに伝達して、コンクリート中に存在している破壊面を通過することによる波および破壊面において反射することによる波の少なくとも一方を前記受振器で検知し、この検知した波をトモグラフィ解析することにより前記金物の周辺のコンクリートの損傷発生位置を検出することを特徴とするコンクリート構造物の非破壊検査方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法において、前記金物は、露出部に設けた開口に連通する孔を有する中空筒状のアンカーボルトであり、このアンカーボルトの孔内に、弾性波を発振する発振器および反射波を受振する受振器の少なくとも一方を異なる深さ位置に複数配置し、前記発振器または前記受振器の少なくとも一方を用いて、前記アンカーボルト周囲のコンクリートの弾性波の伝達速度が変化する速度変化領域を認識し、前記アンカーボルト周囲のコンクリートの損傷領域の分布を検出することを特徴とするコンクリート構造物の非破壊検査方法。
【請求項5】
請求項4に記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法において、二以上の前記アンカーボルトの各孔内に前記受振器を配置し、少なくとも二つの前記アンカーボルト間を伝播する弾性波の波形を測定し、測定した波形に基づいて前記アンカーボルト相互の間に存在するコンクリートの損傷領域の分布を検出することを特徴とするコンクリート構造物の非破壊検査方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法において、前記アンカーボルトは中空貫通状であり、前記アンカーボルトの露出部の開口に注水することによって、前記孔を介して前記アンカーボルト周囲のコンクリートの損傷領域に水を浸透させた後に、弾性波の波形を測定することを特徴とするコンクリート構造物の非破壊検査方法。
【請求項7】
一部がコンクリート表面から露出した状態で埋設された金物を有するコンクリート構造物の健全性を検査する非破壊検査装置であって、
前記金物の露出部から前記金物の内部に向けて弾性波を発振する発振手段と、
発振手段により発振された弾性波の反射波を受振する受振手段と、
受振手段により受振された反射波の強さと時間遅れとに基づいて前記金物の健全性および前記金物の周囲のコンクリートの健全性の少なくとも一方を検査する健全性検査手段とを備えたことを特徴とするコンクリート構造物の非破壊検査装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一つに記載のコンクリート構造物の非破壊検査方法または装置に用いられる金物としてのアンカーボルトであって、露出部に設けた開口に連通する孔を有する中空筒状のアンカーボルト。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5−1】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図5−2】
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【図6−3】
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【図7−3】
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【公開番号】特開2010−203810(P2010−203810A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47266(P2009−47266)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】