説明

コンクリート構造物への防錆剤施工方法及び浸透性防錆剤組成物

【課題】
既設コンクリート構造物の表面に防錆剤を塗布してコンクリートの劣化を防止する工法において、浸透性防錆剤の必要量を内部の鋼材部分にまで十分に浸透させることが可能であり、コンクリート構造物の内部の鉄筋等の防錆を長期的に維持できるコンクリート構造物への防錆剤施工方法を提供すること、及び前記施工方法に用いられる浸透防錆剤組成物を提供する。
【解決手段】
鉄筋等が埋め込まれたコンクリート構造物の表面に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はジアルキルスルホコハク酸塩を0.005〜2.0質量%配合した水溶液からなる湿潤化用配合水を塗布して水分を含浸させた後、(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又は(B)ジアルキルスルホコハク酸塩が配合され、前記(A)及び/又は(B)成分の含有量が0.1〜2.0質量%であり、かつpHが9以上である亜硝酸塩水溶液からなる浸透性防錆剤組成物を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設コンクリート構造物のコンクリート壁面に塗布した防錆剤をコンクリート内部の鉄筋等の鋼材の位置まで十分に浸透させ、コンクリート構造物中に配置されている鉄筋等の鋼材の経年劣化を防止して、リニューアルし、コンクリート構造物の耐久性を向上させ、その資産の保全に寄与するための防錆剤の施工方法及び該施工方法に用いられる浸透性防錆剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内部に鋼材が埋めこまれている鉄筋コンクリート等のコンクリート構造物は、年月と共に劣化して全体の強度が低下する。具体的には、コンクリートの中性化、鉄筋等の被り厚さの不足、あるいはひび割れ等からの水分、塩分等の浸入によって、内部の鉄筋、鉄骨等の鋼材に錆が発生する。錆が発生し腐食した鋼材は、体積膨張が起り、鋼材周辺のコンクリートに膨張圧が加わり、ひび割れを増大させる。更に劣化が進行して、全体の強度が低下すると、コンクリート構造物自体の破壊に至る。
【0003】
従来、既設コンクリート構造物の補修及び防錆処理方法として、コンクリート構造物の表面に亜硝酸塩溶液や珪酸塩溶液を塗布し、これらの成分を内部に浸透させる方法が公知である。具体的には、コンクリート硬化物の表面をケイ酸アルカリと亜硝酸塩を含有する水溶液で含浸処理し、含浸処理物を乾燥する方法(例えば、特許文献1参照。)、鉄筋コンクリート等の構造物の表面に、鋼材に対して防錆効果を有する無機塩類の水溶液を塗布含浸させる工程及び水溶性ケイ酸塩化合物の水溶液を塗布含浸させる工程を任意の順序で行い、セメント系組成物を上塗りする方法(例えば、特許文献2参照。)、鉄筋コンクリート構造物の表面にケイ酸塩の水溶液を塗布含浸させた後、亜硝酸カルシウムの水溶液を塗布含浸させる方法(例えば、特許文献3参照。)等がある。既設の鉄筋コンクリート構造物の塩害等による劣化過程でコンクリート中に亜硝酸イオンを拡散浸透させ、コンクリート内部の鉄筋等に不動態皮膜を再形成させ、鋼材の防錆雰囲気を創出する方法は、修復及びリニューアル化に効果の高い工法である。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−108385号公報
【特許文献2】特開昭60−231478号公報
【特許文献3】特開平1−298185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の塗布浸透型の防錆剤は亜硝酸塩(亜硝酸カルシウム、亜硝酸リチウム等)を含むものであり、コンクリート中に浸透拡散した亜硝酸イオンが鉄筋を再不動態化することにより、その後の鉄筋の腐食を抑制するものである。通常のコンクリート中の鉄筋被りは、表面から30mm前後の位置にある。これに対し防錆剤中の亜硝酸イオンの所定量の浸透拡散は、コンクリートの性状によってはバラツキが大きく、表面から10〜15mm程度に留まり、表面から30mm前後に位置する鉄筋部まで到達しないことが多々ある。
【0006】
上記の、鉄筋コンクリートの表面に防錆剤水溶液を塗布し内部に浸透させる方法は、良好な劣化防止効果を得る為には、鉄筋等の埋設されている深さまで所定量の防錆剤が到達する必要がある。しかし上記防錆剤水溶液を塗布しただけでは、コンクリート内部への防錆剤の浸透量、浸透深さ共に不十分であった。また上記防錆剤水溶液の塗布回数を重ねても亜硝酸イオンの浸透は不十分であり、良好な鉄筋の防錆効果が得られ難いという問題点があった。
【0007】
すなわち既設コンクリート構造物の表面に防錆剤水溶液を塗布して劣化を防止する施工工法において、コンクリートの性状にかかわらず、安定した亜硝酸イオンのコンクリート内部への浸透拡散を十分に実現可能な施工方法及び浸透防錆剤が要求されている。
【0008】
従来の施工方法において、浸透性防錆剤を塗布した後に亜硝酸イオンがコンクリート内部へ浸透拡散する際、コンクリートの性状の違いにより浸透拡散が不十分であり、その浸透量に大きなバラツキを生じる原因を検討した。
【0009】
竣工後20〜30年経過したコンクリート構造物は、新設まもないコンクリート構造物とは異なり、その経時劣化によりコンクリート中の細孔空隙量が増加した状態である。そのため従来は、コンクリートの表面に塗布した浸透性防錆剤(亜硝酸イオン)がコンクリート中に比較的容易に浸入・浸透すると考えられていた。しかし実際の施工では、亜硝酸イオンがコンクリート構造物の表面から深さ10mm前後までしか浸透していない事が多かった。
【0010】
一般に、コンクリート表面に塗布された浸透性防錆剤の亜硝酸イオンが、コンクリート中に浸入・浸透する場合のメカニズムは次の様な機構であると考えられる。
1)吸収:コンクリート中の水分量の勾配(含水率)が駆動力である。コンクリート中の細孔空隙(直径5〜0.004μmの毛細管空隙)中への毛細管吸収。
2)拡散:亜硝酸イオンの濃度勾配が駆動力である。コンクリート中の細孔溶液中を、亜硝酸イオンの濃度が高い方から低い方へ拡散して行く。この拡散は数ヶ月から数年かけて行われる。
【0011】
通常の浸透性防錆剤の塗布施工では、上記の2つが支配的である。まず、コンクリート中へ水と一緒に吸収浸透される。その後は、細孔溶液中の拡散が支配的になる。コンクリート中でのイオンの移動は、細孔溶液を通じての溶液拡散であり、湿潤状態でなく含水率が非常に低いと、コンクリート内部での浸透拡散速度は極端に落ちるといえる。そこで、施工現場における実施工時の亜硝酸イオンの浸透深度及び浸透濃度が不足しバラツキが生じる原因を検討した。
【0012】
劣化が進行したコンクリートは低湿化するケースが多い。地下構造物はともかく、地上構造物の場合は、低湿化の傾向が大きく、乾燥した状態のコンクリートは、亜硝酸イオンが浸透拡散しにくい状態にある。壁面近傍の劣化コンクリートの含水率が2〜3質量%の場合には、防錆剤の通常の塗布量400cc/m2程度の場合、はじめの毛細管吸収浸透さは約5〜10mmまでで留まってしまい、その後の拡散浸透はほとんど進行しない。すなわち、亜硝酸イオンの拡散浸透させる媒体となる水分が不足していると、亜硝酸イオンは、鉄筋の存在する深部(通常30mm前後の被り)まで効率よく拡散浸透しない事が判明した。
【0013】
実施工の場合、コンクリート壁面等のごみや汚れ等を除去するために、壁面等を高圧水洗浄等が行われることが多い。その場合は、壁面の表面はある程度まで水含浸・湿潤化される。しかしこの場合でも、ほとんどの水はコンクリート壁面から流れ落ちてしまう。更に、洗浄後は水分蒸発による乾燥水量も多い。その為、コンクリート壁面は、亜硝酸イオンの吸収浸透が効率よく行えるに十分な水含浸・湿潤状態になっていないことが多い。
【0014】
本発明は、上記の従来技術の欠点を解消するためになされたものであり、既設コンクリート構造物の表面に防錆剤を塗布してコンクリートの劣化を防止する工法において、浸透性防錆剤の必要量を内部の鋼材部分にまで十分に浸透させることが可能であり、コンクリート構造物の内部の鉄筋等の防錆を長期的に維持できるコンクリート構造物への防錆剤施工方法を提供すること、及び前記施工方法に用いられる浸透防錆剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、
(1)金属材料が埋め込まれたコンクリート構造物の表面に、湿潤化用配合水を塗布して水分を含浸させた後、亜硝酸塩水溶液からなる浸透性防錆剤組成物を塗布することを特徴とするコンクリート構造物への防錆剤施工方法、
(2)湿潤化用配合水が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はジアルキルスルホコハク酸塩を0.005〜2.0質量%配合した水溶液である上記(1)記載のコンクリート構造物への防錆剤施工方法、
(3)浸透防錆剤組成物が、亜硝酸塩水溶液に(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又は(B)ジアルキルスルホコハク酸塩が配合され、前記(A)及び/又は(B)成分の含有量が0.1〜2.0質量%であり、かつpHが9以上である上記(1)又は(2)記載のコンクリート構造物への防錆剤施工方法、
(4)金属材料が埋め込まれたコンクリート構造物の表面に、亜硝酸塩水溶液に(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又は(B)ジアルキルスルホコハク酸塩が配合され、前記(A)及び/又は(B)成分の含有量が0.1〜2.0質量%であり、かつpHが9以上である浸透性防錆剤組成物を塗布することを特徴とするコンクリート構造物への防錆剤施工方法、
(5)亜硝酸塩水溶液に(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又は(B)ジアルキルスルホコハク酸塩が配合された組成物であって、前記(A)及び/又は(B)成分の含有量が0.1〜2.0質量%であり、かつpHが9以上であることを特徴とする浸透性防錆剤組成物、
を要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明施工方法は、金属材料が埋め込まれたコンクリート構造物の表面に、湿潤化用配合水を塗布して水分を含浸させる前工程を採用したことにより、後工程で塗布する浸透性防錆剤のコンクリート構造物に対する浸透拡散を著しく向上し、コンクリート構造物中に浸透性防錆剤中の亜硝酸イオンをバラツキなく均一に浸透させて、その浸透深度及び浸透量を十分に確保することができる。
【0017】
本発明施工方法は、既設コンクリート構造物の表面に浸透防錆剤組成物を塗布するだけの簡単な施工で、浸透防錆剤の必要量をコンクリートの内部に位置する鋼材部分にまで十分浸透させることができるから、コンクリート構造物の防錆を長期に渡り維持し、コンクリート構造物の耐久性を有効かつ適切に改善・リニューアルし、コンクリート構造物資産の保全に大きく寄与する。
【0018】
本発明施工方法において、湿潤化用配合水が湿潤化剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はジアルキルスルホコハク酸塩を0.005〜2.0質量%配合した水溶液である場合、該配合水の表面張力が大きく低下し湿潤性が優れており、コンクリートの内部に浸透性防錆剤を確実に深く浸透させることが可能であると共に、コンクリート中のアルカリ、塩類、他イオンの影響を受け難く、浸透防錆剤中の亜硝酸イオンをコンクリート内部にバラツキなく浸透可能である、更にこれらの湿潤化剤は低起泡性であるから、作業環境及び排水管理上も有利である。
【0019】
浸透防錆剤組成物が、亜硝酸塩水溶液に(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又は(B)ジアルキルスルホコハク酸塩が配合され、前記(A)及び/又は(B)成分の含有量が0.1〜2.0質量%であり、かつpHが9以上である場合には、亜硝酸イオンのコンクリート中への浸透拡散を更にバラツキ無く確実に行うことができ、浸透深度も大幅に向上させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のコンクリート構造物への防錆剤施工方法は、前工程として、あらかじめコンクリート構造物の表面に、水の表面張力を低減させる界面活性剤等を添加した水からなる湿潤化用配合水を塗布してコンクリートの水含浸・湿潤化を実施した後に、金属材料の防錆作用を有する亜硝酸塩水溶液からなる浸透性防錆剤を塗布する後工程を行うものである。
【0021】
また、後工程を実施後、通常行われているように、コンクリート構造物の表面に、珪酸塩水溶液を塗布してアルカリを付与する工程、シリコーン系等の撥水剤を塗布する工程、通常の塗装を行う工程等のコンクリートの表面仕上げを行うことも出来る。
【0022】
本発明の施工方法が適用される金属材料が埋め込まれたコンクリート構造物とは、鉄筋、鉄骨の腐食性の金属材料が補強材として埋め込まれたセメント、モルタル、或いはコンクリートの硬化物のことである。特に既に打設された鉄筋コンクリート等の構造物の補修に最適に用いられる。
【0023】
湿潤化用配合水は、水の表面張力を低減させる界面活性剤を湿潤化剤として配合した水が用いられる。湿潤化用配合水に配合される水は通常の水道水でよい。湿潤化用配合水をコンクリート構造物の表面に塗布する方法は、刷毛ぬり、噴霧、噴射等いずれの方法でも良い。更に、高圧洗浄水に混合して、壁面洗浄をかねて噴射させても良い。
【0024】
湿潤化用配合水は、コンクリート内部への水の含浸・湿潤化を向上させる点、及び防錆剤(亜硝酸イオン)の浸透性を向上させる点から、水溶液の表面張力を低減させる湿潤化剤を用いることが重要である。又、作業性上及び排水管理上からみて、湿潤化剤は泡の立ち難いものを選定する必要がある。各種界面活性剤の表面張力及び起泡性を測定した。測定結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1において、表面張力の測定は、測定濃度0.1質量%水溶液を測定温度25℃にて行った。また起泡性の測定は、測定濃度0.1質量%水溶液を撹拌起泡させ、1分後の泡立ち状況を観察して評価した。
【0027】
表1の測定結果から、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは表面張力が低いことが判る。ただし、起泡性は中くらいである。更にポリオキシエチレンアルキルエーテルは、ノニオン系であるから、コンクリート中のアルカリ、塩類、他イオンの影響を受け難い。また、アニオン系のジアルキルスルホコハク酸塩は、表面張力低下能が大で、低起泡性であることが判る。また、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩やポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩等は、表面張力の低減はそれほど大でなく、かつ泡立ちが多いことが判る。
【0028】
湿潤化用配合水に使用する湿潤化剤としては、カチオン系界面活性剤及び両性界面活性剤は不適当であり、ノニオン系界面活性剤又はアニオン系界面活性剤が好ましい。更に、これらの界面活性剤のうち、通常の洗剤に使用されているアルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)系やアルキルエーテル硫酸エステル塩(AES)系等のものは、気泡性が高く作業性上あるいは排水管理上好ましくないし、水又は亜硝酸塩水溶液のコンクリートに対する浸透性も低い。好ましい湿潤化剤は、(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテル又は(B)ジアルキルスルホコハク酸塩である。
【0029】
本発明で用いられる(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、市販のポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン系界面活性剤のいずれも使用可能である。これの化学構造式はRO−(CH2CH2O)n−Hであり、アルキル基(R)の炭素原子数が11〜15のものが適している。なお、このエーテル型ノニオン系界面活性剤は、C11:ウンデシル系、C12〜14:ラウリル系、C16:セチル系、C18:オレイル系(不飽和)等原料の高級アルコールの違いにより各種ある。このうち、C16以上のものは固形状、又はワックス状のものが多く、配合に難点がある。又、C10以下のものは、含水・浸透効果が低減してくるゆえ好ましくない。なお、湿潤浸透性の効果が高いものは親水性液体状のものである。それ故、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン系界面活性剤としては、アルキル基(R)の炭素原子数が12〜14で、酸化エチレンの付加モル数(n)として、n=7〜12のものが最も好ましい。
【0030】
(B)ジアルキルスルホコハク酸塩は、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等、この種の市販のアニオン系界面活性剤のいずれも使用可能であるが、このうち、アルキル基の炭素原子数が8(C8)のオクチル系(2エチルヘキシル系)及びC13のトリデシル系が、表面張力低下効果及び湿潤浸透効果が高く、配合上最も適している。
【0031】
湿潤化用配合水に添加する(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテル又は(B)ジアルキルスルホコハク酸塩は、それぞれ単独で使用しても良いが、両者を併用することが好ましい。両者の併用で、低起泡性、湿潤性、浸透性等をバランスよく構成することができる。その場合(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテルと(B)ジアルキルスルホコハク酸塩の配合比(質量比)は任意であるが、(A):(B)=5:5が適当である。
【0032】
上記(A)及び(B)の合計の配合割合は、水に対して0.005〜2.0質量%であり、好ましくは0.1〜1.0質量%である。配合割合が0.005質量%未満の場合、急に表面張力が高くなり、水と大差なくなり、浸透効果も急激に低下する。又、配合割合が2.0質量%を超えた場合、表面張力の低下が横ばいになり殆ど変わらなくなる。これ以上配合しても不経済であるばかりでなく、排水管理上も好ましくない。
【0033】
表2は、湿潤化用配合水において湿潤化剤の配合量を変えた場合の表面張力を測定した結果を示すものである。湿潤化剤は(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテルと(B)ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムを(A):(B)=5:5の配合割合(質量比)とした。なお、(A):(B)の配合割合を種々変更しても、表2の表面張力の値はほとんど変わらないため、上記の配合割合のときの測定値を代表値として示した。表2より、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はジアルキルスルホコハク酸塩の配合割合は、0.005〜2.0重量%が好ましく、この範囲であれば湿潤化用配合水の表面張力を確実に低下させることができる。
【0034】
【表2】

【0035】
湿潤化用配合水には、更に湿潤効果を出すために、前記の(A)及び/又は(B)の他に、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3ブタンジオール、グリセリン等の(C)多価アルコールを適量配合することも出来る。
【0036】
湿潤化用配合水及び水のみのコンクリート平板に対する吸水・浸透速度を測定した。その結果を表3に示す。吸水・浸透速度は、床面に平らにおいたコンクリート平板(300mm×450mm×50mm)の表面に湿潤化配合水又は水を刷毛で塗布し、コンクリート平板表面の湿潤化配合水又は水が吸収されて浮水がなくなるまでの時間を測定して評価した。このときコンクリート含水率(前)は、コンクリート平板を予め乾燥して所定の水分量になるように調整した。コンクリートの含水率は、測定箇所によりバラツキがあるが、表中の数値は平均値を記載した。またコンクリート中の含水率の測定は、Kettコンクリート・モルタル水分計を用いて測定した。表4に示すように、湿潤化用配合水を使用すると、コンクリート面への濡れ性の向上と共に、コンクリート内部への水の吸水浸透速度も大幅に向上することが判る。
【0037】
【表3】

【0038】
コンクリート面に湿潤化用配合水を塗布する場合、実際の施工時にはコンクリート壁面(縦面)や天井面が多いことを想定して吸水性の試験を行った。試験は、コンクリート板(900×300×50mm)の試験体を予め乾燥して含水率を3質量%程度に調整し、コンクリート板を垂直に設置し縦面が900mmとなる様にして、該コンクリート板の表面の垂直面に刷毛を用いて表3のNo.3の湿潤化用配合水(湿潤剤使用)、又は表3のNo.4の水道水(水のみ)を塗布し、吸水浸透率、及び塗布前後のコンクリート中の含水率を測定した。なお湿潤化用配合水の塗布量は、1000cc/m2とした。測定結果の代表例を表4に示す。なお吸水浸透率は、下記式より求めた。またコンクリート含水率の測定は前記した方法と同様に行った。
吸水浸透率(%)=(塗布配合水全量−流れ落ちた配合水量)/塗布配合水全量×100
【0039】
【表4】

【0040】
表4に示す結果から、コンクリート壁垂直面に前工程で湿潤化用配合水を用いて処理を行った場合、水道水のみによる前処理と比較して、コンクリート壁面への吸水浸透が速く、流れ落ちる水量も少なく、コンクリート壁面への含水率も向上することが判る。
【0041】
後工程の処理に使用する浸透性防錆剤組成物は、亜硝酸塩水溶液が用いられる。この亜硝酸塩としては亜硝酸ナトリウム、亜硝酸リチウム、亜硝酸カルシウムのいずれの亜硝酸塩も使用できるが、このうち、亜硝酸カルシウムが好ましい。この亜硝酸塩水溶液の亜硝酸塩濃度は、5〜40質量%が好ましく、更に好ましくは10〜25質量%である。
【0042】
浸透性防錆剤組成物は亜硝酸塩水溶液のみから構成してもよいが、(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテル、又は(B)ジアルキルスルホコハク酸塩等の湿潤化剤を添加するのが好ましい。湿潤化剤は組成物全体質量中の0.1〜2.0質量%添加するのが好ましく、更に好ましくは0.5〜1.5質量%になるように配合する。また湿潤化剤は、(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び(B)ジアルキルスルホコハク酸塩を混合して用いてもよい。その場合、上記配合量は、湿潤化剤の総量である。また浸透性防錆剤組成物は、pHが9以上になるように調製する。コンクリート構造物へのアルカリ性付与効果を高めるという点からは、浸透性防錆剤組成物にアルカリ成分を添加して、pHを11以上に調製することが好ましい。
【0043】
上記湿潤化剤を添加した場合の浸透性防錆剤組成物の表面張力を測定した。その結果を表5に示す。表5に示すように、湿潤化剤を添加した組成物(B−1、B−2)は、亜硝酸塩水溶液のみからなる組成物(C−1、C−2)と比較して、表面張力が大きく低下していることが判る。
【0044】
【表5】

【0045】
浸透性防錆剤組成物に配合する(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、湿潤化用配合水の説明に記載したものと同等のものが使用できる。又、(B)ジアルキルスルホコハク酸塩は湿潤化用配合水の説明に記載したものと同等のものが使用できる。なお、浸透性防錆剤組成物は、上記(A)、(B)を単独で用いても良いし、両者を適当な割合で配合して調製しても良い。
【0046】
浸透性防錆剤中の湿潤化剤の配合量が0.1質量%未満では、亜硝酸塩水溶液の浸透性向上効果があまり得られない。また、湿潤化剤の配合量が2.0質量%を超える場合、浸透効果はほとんど向上せず、浸透性防錆剤のコストが上昇するだけなので経済的に好ましくない。
【0047】
浸透性防錆剤組成物には、更に湿潤効果を出すために、(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテル又は(B)ジアルキルスルホコハク酸塩の他に、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3ブタンジオール、グリセリン等の(C)多価アルコールを適量配合する事もできる。
【0048】
本発明は、前述した湿潤化剤を配合した浸透性防錆剤を用いて防錆剤施工を行う場合には、コンクリート表面に湿潤化用配合水を塗布して水分を含浸させる前工程を省略してもよい。またこの場合、前記湿潤化用配合水を塗布する前工程の代わりに、コンクリート表面に、高圧水等により水のみを塗布して浸透させておく前工程を行ってから、湿潤化剤を配合した浸透性防錆剤を用いて防錆剤施工を行う工程を行ってもよい。また、水平面のコンクリートに対して施工を行う場合等も、前工程を省略することができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を具体的な実施例について更に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではないことは当然である。
実施例1
ポリオキシエチレンラウリルエーテル/ジオキシスルホコハク酸ナトリウム=5/5(質量比)の混合割合のものを水に0.5質量%配合した水溶液を湿潤化用配合水(ISH−1)とし、コンクリート試験体の片面に塗布し(塗布量:500cc/m2)、水の含浸・湿潤化の前工程を実施した。次いで、コンクリート試験体の表面が乾いた後、亜硝酸カルシウム水溶液(15質量%)からなる浸透性防錆剤(表5に示すC−1)を塗布した後、室温20℃、相対湿度80%に保った室内に放置し、3ヶ月後に亜硝酸イオンの浸透深さを測定して浸透拡散性を評価した。なお浸透性防錆剤の塗布は、200cc/m2×2回、合計400cc/m2を塗布した。また試験に使用したコンクリートの配合組成は下記の通りである。単位セメント量:300kg/m3、細骨材+粗骨材:1800kg/m3、水セメント比(W/C):60%、スランプ:18cm、空気量:5%である。コンクリートは、上記配合物を型枠へ打設、脱型後、80℃、3時間蒸気養生を行った。更に、室温20℃、湿度80%中で14日間養生した。養生終了後は、経年劣化したコンクリートの状態に出来るだけ近づけるために、乾燥炉内で24時間加温し強制乾燥させて試験体とした。試験体の寸法は、40cm×40cm×厚さ8cmとし、試験前に乾燥又は加湿させ、コンクリート中の含水率を2〜3質量%に調整した。また試験体の側面はエポキシ樹脂を塗布した。
【0050】
実施例2
湿潤化用配合水(ISH−2)としてポリオキシエチレンラウリルエーテル/ジオキシスルホコハク酸ナトリウム=5/5(質量比)の混合割合のものを、水に1.0質量%配合した水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして試験を行った。
【0051】
比較例1
湿潤化用配合水による吸水湿潤化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして試験を行った。
【0052】
比較例2
コンクリート中の含水率を実施例と同等とするために、湿潤化用配合水による吸水湿潤化処理の代わりに水道水を500cc/m2塗布して吸水処理を施した以外は、実施例1と同様にして試験を行った。
【0053】
実施例1〜2、比較例1〜2の試験体について、コンクリートに対する亜硝酸イオンの浸透拡散性を試験した。浸透拡散性は、浸透防錆剤を塗布して一定時間経過した後のコンクリート試験体の所定深さ範囲のコンクリート中に含まれる水分中(以下、コンクリート水中という)の亜硝酸イオン濃度を下記の分析方法により測定しその数値により評価した。浸透拡散性の試験結果を表6に示す。
【0054】
[亜硝酸イオン濃度の分析方法]
コンクリート試験体に浸透性防錆剤を塗布後、室温20℃、湿度80%で3ヶ月養生後に、試験体壁からφ50mm×80mmのコアをくり抜き、塗布面から深さが0〜10mm、10〜20mm、20〜30mm、30〜40mm、40〜50mm毎に各深さごとにコア試験片を切断した。切断した各深さごとのコア試験片について、亜硝酸イオン濃度を測定した。亜硝酸イオン濃度の測定は、各試験片を粉砕した試料(同時に、粉砕化試料中の含水率も測定)に純水を加え、全亜硝酸イオンを溶解抽出した後、不溶解物をろ過洗浄後のろ液を分取し、イオンクロマトグラフ法により、コンクリート水中の亜硝酸イオン含有量(ppm)を測定した。
【0055】
【表6】

【0056】
上記表6の測定結果より、次のことが判る。コンクリートが乾燥した状態にあり、コンクリート中の含水率(特に表面近く)が2〜3質量%以下の場合、比較例1に示すように前工程処理をせず、亜硝酸塩水溶液のみからなる防錆剤を塗布しても、亜硝酸イオンは初期の毛細管空隙への吸水浸透の深さ(5〜10mm位)までしか浸透せず、その後は亜硝酸イオンが十分に浸透拡散しない。
【0057】
これに対し実施例1〜2の様に、予めコンクリートに湿潤化用配合水を塗布してコンクリートの内部を吸水湿潤化させ、コンクリート中の含水率を4〜6質量%とすることで、毛細管空隙に初期の段階で浸透した亜硝酸イオンは濃度勾配の駆動力によって、それ以降も浸透拡散が十分に進行する。その結果、コンクリート表面からの深さが20〜30mm付近のコンクリート内部の鉄筋の位置まで亜硝酸イオンが十分に浸透していく。
【0058】
なお、日本建築学会のJASS5では、鋼材の腐食対策として、コンクリート1m3中の塩素量(塩化物イオン質量)は0.3kg以下に制限されており、これを無害化する亜硝酸イオン濃度は、安全率をみて約500ppm必要であると言われている。
【0059】
また比較例2に示すように、湿潤化用配合水の代わりに単なる水(水道水等)を用いて吸水湿潤化して前処理を行った場合は、全く前工程処理を行わない比較例1と比較して、ある程度の亜硝酸イオンの浸透効果が得られる。しかし実施例1及び実施例2に示すように、湿潤化配合水塗布による吸水湿潤化の前工程処理を実施した方が、その後の亜硝酸イオンの濃度勾配の駆動力によるコンクリート内部への浸透拡散が、より効率的に進行する。これは、予め表面張力を低下させた水による吸水湿潤化を行った場合、亜硝酸塩を含む防錆剤のコンクリート内部への浸透がより効率的に行われ、その後の亜硝酸イオンの浸透拡散も十分に進行するものと考えられる。
【0060】
実施例3〜7、比較例3
下記の表7に示す浸透性防錆剤組成物を調製し、表8に示す湿潤化用配合水組成、及び浸透性防錆剤組成物を用いて、コンクリート試験体に浸透性防錆剤を塗布後、室温20℃、湿度80%で3ヶ月養生後に、試験体壁からφ50mm×80mmのコアをくり抜き、表8に示す浸透深さの各コア切断片について、コンクリート水中の亜硝酸イオン濃度を測定し、浸透拡散性を試験した。亜硝酸イオン濃度の測定方法は、表6の説明に記載した方法と同様の方法で行った。
【0061】
【表7】

【0062】
【表8】

【0063】
実施例8
竣工後25年経過したRC造構築物のコンクリート打ち放し仕上げ外壁面で実施工を行った。施工方法・条件は次の通りである。
(1)湿潤化用配合水として前記した「ISH−1」配合を用い、施工壁面を高圧水洗浄処理(約10リットル/m2、150kgf/m2)を行った。
(2)壁面が乾燥後、浸透性防錆剤組成物として表7の「IS−1」を1回あたりの塗布量が200cc/m2となるように、2回塗布し、合計400cc/m2を塗布した。
【0064】
施工10ヵ月後、コンクリート壁面よりコア(φ50mm×80mm)を抜き取り、コンクリート中の亜硝酸イオン濃度を測定しての浸透拡散性を調べた。その結果を次の表9に示す。コンクリート中の含水率は、高圧水洗浄前が2.5〜3.1質量%であり、洗浄後が4.1〜4.8質量%であった。亜硝酸イオン濃度の測定方法は、表6の説明に記載した方法と同様の方法で行った。
【0065】
【表9】

【0066】
表9に示すように、現場施工の試験でも、コンクリート壁表面から浸透した亜硝酸イオンがコンクリート内部の鉄筋部(被り厚さ20〜30mm)まで十分に到達していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料が埋め込まれたコンクリート構造物の表面に、湿潤化用配合水を塗布して水分を含浸させた後、亜硝酸塩水溶液からなる浸透性防錆剤組成物を塗布することを特徴とするコンクリート構造物への防錆剤施工方法。
【請求項2】
湿潤化用配合水が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又はジアルキルスルホコハク酸塩を0.005〜2.0質量%配合した水溶液である請求項1記載のコンクリート構造物への防錆剤施工方法。
【請求項3】
浸透防錆剤組成物が、亜硝酸塩水溶液に(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又は(B)ジアルキルスルホコハク酸塩が配合され、前記(A)及び/又は(B)成分の含有量が0.1〜2.0質量%であり、かつpHが9以上である請求項1又は2記載のコンクリート構造物への防錆剤施工方法。
【請求項4】
金属材料が埋め込まれたコンクリート構造物の表面に、亜硝酸塩水溶液に(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又は(B)ジアルキルスルホコハク酸塩が配合され、前記(A)及び/又は(B)成分の含有量が0.1〜2.0質量%であり、かつpHが9以上である浸透性防錆剤組成物を塗布することを特徴とするコンクリート構造物への防錆剤施工方法。
【請求項5】
亜硝酸塩水溶液に(A)ポリオキシエチレンアルキルエーテル及び/又は(B)ジアルキルスルホコハク酸塩が配合された組成物であって、前記(A)及び/又は(B)成分の含有量が0.1〜2.0質量%であり、かつpHが9以上であることを特徴とする浸透性防錆剤組成物。

【公開番号】特開2006−144313(P2006−144313A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333781(P2004−333781)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(593113271)アイエス興産株式会社 (2)
【Fターム(参考)】