説明

コンクリート構造物中の任意深さの劣化成分検出装置及び検出方法

【課題】コンクリート構造物中の任意深さの劣化成分を微破壊的に簡便に且つ短時間で解析して、当該構造物中の劣化状態を評価することが可能な装置及び方法の提供。
【解決手段】コンクリート構造物中の劣化成分解析装置は、近赤外線を照射してその反射光を分光する装置と、これらを記録・解析する装置で構成される。コンクリート中のセメント水和物が劣化により化学変化する事に着目し、化学分析されたコンクリートの近赤外スペクトルから種々の劣化の化学分析値と相関の高い近赤外スペクトルの波長群を求めて多変量解析して、近赤外スペクトルデータから種々の劣化成分の値を算出する検量線を作成し、劣化成分の値が未知であるコンクリートの近赤外スペクトルを上記検量線に対応させて、コンクリート中の劣化成分の値を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線の少なくとも所定波長における吸光度の測定値を用いて、コンクリート構造物の表面から内部方向の任意深さの劣化成分を検出する方法、及びかかる方法に使用される装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリート構造物の劣化状態を検査する方法として、コンクリート構造物にダメージを与えないことを目的としてサンプルの採取を行わず、近赤外分光法を用いてコンクリート構造物の劣化状態を検出するものが提案されている。(例えば特許文献1参照)

【特許文献1】特開2005−291881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近赤外分光法を用いた手法により、大気中のコンクリート構造物にダメージを与えないことを目的としてサンプルの採取を行わない場合の検査方法が開発されている。その場合の検査方法は、大気に晒されているコンクリート構造物表面の化学的情報を検出する方法となる。塩化物を含むコンクリート(劣化したコンクリート)は、約2264[nm]の波長の近赤外線がセメント硬化体に吸収されることにより、その吸光度の変化により塩化物による劣化度合いが検出できるとされている。
【0004】
しかしながら、コンクリート構造物が大気中に数年間晒された場合は、塩化物を含むコンクリート構造物であっても表面における約2264[nm]の波長の吸光度はほとんど変化しない。これは、コンクリート構造物に塩化物が侵入すると、コンクリートを構成するセメント硬化体中の一部の水和物が反応して別の水和物に変化(代表的なものとして、モノサルフェート水和物がフリーデル氏塩に変化)する。この変化する前後の水和物の吸光度の差により劣化度合いが検出できるが、この変化した水和物(代表的なものとして、フリーデル氏塩)は大気中の炭酸ガスと反応して分解する。そのため、コンクリート構造物の表面を対象とした実構造物の塩化物の検出は困難である。
【0005】
さらに、構築後の歳月によりコンクリート構造物の表面は雨水に伴う汚れや苔等が付着している場合が多く、検査前の清掃作業に時間と労力が必要となる。
【0006】
また、コンクリート構造物は各種のセメントが使用されており、同じ塩化物を混入する、又は同じ中性化が生じたコンクリート構造物であってもセメント種類に応じて吸光度の変化量は異なる。そのため、セメント成分の組成別に、複数の劣化前の所定波長における吸光度をあらかじめ記録し、成分に応じて基本情報を選択する手段を必要とするとされている。しかしながら、対象とするコンクリート構造物に使用されたセメントの種類や成分が記録されている場合は希である。そのため、記録されていない場合はセメント成分を分析する必要がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、コンクリート構造物の表面から任意の深さの劣化状態をセメント成分に関わらず微破壊的で短時間に簡易に現位置で測定及び解析するための検出方法及び検出装置を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0008】
コンクリート構造物の表面から、小径のドリルで穿孔した孔内に、近赤外線を照射して受光する計器を挿入して、穿孔先端面または穿孔先端面のモルタル部の所定の吸光度を測定し、予め劣化度が既知のコンクリートに対して前記手法で測定した吸光度を用いて検量線を作成し、前記検量線からコンクリート構造物中の任意深さの劣化度を定量化することを特徴としている。
【0009】
請求項1に係る発明は、図2に示すコンクリート構造物(20)を、小径で穿孔(1)するためのドリルと、近赤外線光線を照射するための近赤外線光源(10)と、前記穿孔先端面(2)のモルタル部(3)に近赤外線光線を照射する機能と同穿孔先端面(2)のモルタル部(3)から反射した近赤外線を受光する機能とを備えた受光器(11)と、前記受光器の近赤外線を所望の波長域に分光自在な分光装置(12)と、前記分光した近赤外線の、少なくとも所定波長における吸光度を記録する吸光度記録手段(31)と、前記所定波長における吸光度から劣化度を演算する劣化度演算手段(32)と、を備えた、ことを特徴として構成される。
【0010】
請求項2に係る発明は、図2に示す小径ドリルでコンクリート構造物(20)を穿孔(1)し、前記穿孔先端面(2)のモルタル部(3)に近赤外線光源(10)からの近赤外線(A)を照射して反射した近赤外線を受光器(11)により受光し、受光した近赤外線(B)を近赤外分光装置(12)により分光し、図1に示す吸光度記録手段(31)により、前記分光装置(12)により分光した近赤外線の、少なくとも所定波長における吸光度を記録し、劣化度演算手段(32)により、前記記録した吸光度に基づき劣化度を演算する、ことを特徴として構成される。
【0011】
請求項3に係る発明は、劣化検出の対象とするコンクリート構造物に適用可能な検量線が記録されていない場合に適用できる方法で、当該コンクリート構造物の所定位置を予め請求項2記載の方法を用いて少なくとも2以上の吸光度を記録し、前記所定位置から既知の劣化度を目的変数として多変量解析し、前記吸光度から前記劣化度を算出する検量線を作成し、当該検量線を記録する手段と、当該コンクリート構造物の任意の場所、及び任意の深さから請求項2の方法で前記検量線により劣化度を演算する、ことを特徴として構成される。
【0012】
請求項4に係る発明は、材料成分が異なる任意のコンクリート構造物に適用できる方法で、コンクリート成分が異なる多数のコンクリート構造物の劣化度が既知の位置から、請求項2記載の方法を用いて少なくとも2以上の吸光度を記録し、この吸光度から当該劣化度と相関の高い吸光度の波長群を説明変数とし、既知の劣化度を目的変数として多変量解析し、前記吸光度から前記劣化度を算出する検量線を作成し、当該検量線を記録する手段と、材料成分が未知の任意のコンクリート構造物の任意の場所、及び任意の深さから請求項2記載の方法で劣化度を演算する、ことを特徴として構成される。
【0013】
請求項5に係る発明は、前記所定波長の2140[nm]〜2310[nm]の範囲から少なくとも3以上を選択した波長であり、前記劣化度演算手段(32)は、前記コンクリート構造物の塩化物イオン量による劣化度を演算する、ことを特徴として構成される。
【0014】
請求項6に係る発明は、前記所定波長の1350[nm]〜1450[nm]の範囲から少なくとも2以上を選択した波長であり、前記劣化度演算手段(32)は、前記コンクリート構造物の中性化による劣化度を演算する、ことを特徴として構成される。
【0015】
請求項7に係る発明は、前記所定波長の2140[nm]〜2310[nm]の範囲から少なくとも3以上を選択し、1350[nm]〜1450[nm]の範囲から少なくとも2以上を選択した波長であり、前記劣化度演算手段(32)は、前記コンクリート構造物の中性化と塩化物イオンによる複合劣化度を演算する、ことを特徴として構成される。
【0016】
請求項8に係る発明は、前記所定波長の1350[nm]〜1450[nm]の範囲から少なくとも2以上を選択した波長であり、前記劣化度演算手段(32)は、前記コンクリート構造物のアルカリ骨材反応による劣化度を演算する、ことを特徴として構成される。
【0017】
請求項9に係る発明は、コンクリート構造物(20)を集塵機能付きの小径のドリルで穿孔し、前記穿孔時に集塵した粉体に近赤外線光源(10)からの近赤外線(A)を照射して反射した近赤外線を受光器(11)により受光し、受光した近赤外線(B)を近赤外分光装置(12)により分光し、吸光度記録手段(31)により、前記分光装置(12)により分光した近赤外線の、少なくとも所定波長における吸光度を記録し、劣化度演算手段(32)により、前記記録した吸光度に基づき劣化度を演算する、ことを特徴とするコンクリート構造物の劣化検出方法。

【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る発明によると、劣化度の検出が困難であるコンクリート構造物(20)の表面でなく、表面から任意の深さにおいて、現位置で容易に測定が可能となる。また、小径のドリルを使用することによりコンクリート構造物のダメージを最小限に抑えることが可能となる。
【0019】
請求項2に係る発明によると、所定波長の吸光度により劣化度を演算することができる。
【0020】
請求項3に係る発明によると、使用材料が不明な特定のコンクリート構造物(20)の場合に、検量線の作成と劣化度が演算可能とすることができる。
【0021】
請求項4に係る発明によると、使用材料が不明な任意のコンクリート構造物(20)の場合に、検量線の作成と劣化度が演算可能とすることができる。
【0022】
請求項5に係る発明によると、コンクリート構造物中の任意の深さにおける塩化物イオン量による劣化度を演算することができる。
【0023】
請求項6に係る発明によると、コンクリート構造物中の任意の深さにおける中性化による劣化度を演算することができる。
【0024】
請求項7に係る発明によると、コンクリート構造物中の任意の深さにおいて、中性化を伴う塩化物イオン量による劣化度を演算することができる。
【0025】
請求項8に係る発明によると、コンクリート構造物中の任意の深さにおけるアルカリ骨材反応による劣化度を演算することができる。
【0026】
請求項9に係る発明によると、汎用の近赤外分光装置により、コンクリート構造物中の任意の深さにおける、塩化物イオン量、中性化、中性化を伴う塩化物イオン量、およびアルカリ骨材反応による劣化度を演算することができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、本発明方法を実施する形態を表すブロック図である。本発明に係るコンクリート構造物の劣化検出装置は、小径のドリルで穿孔(1)し、穿孔時の粉体を集塵する機能を備えたドリルと、近赤外線を照射および受光する機能を備えた細径のファイバーセンサ型の近赤外線照射・受光器(11)と、近赤外光源(10)と、近赤外分光装置(12)と、当該近赤外分光装置と接続するコンピュータ(13)を備えて構成される。
【0028】
図2は、本発明に係るコンクリート構造物の劣化検出装置の全体図を示したものである。
上記穿孔(1)する直径は、コンクリート中の粗骨材の最大寸法程度以上、例えば粗骨材の最大寸法25[mm]〜40[mm]に対して、少なくともモルタル部分が確認できる大きさとして20[mm]から50[mm]の範囲とする。
【0029】
上記細径のファイバーセンサ型プローブ(11)の外径は、上記穿孔(1)より小さい直径とし、ファイバーセンサ型プローブ(11)の照射部の直径は少なくともモルタル部分だけに近赤外線を照射できるために1[mm]から10[mm]の範囲とする。
【0030】
当該コンピュータは、図1に示すように、吸光度の記録手段(31)と劣化度演算手段(32)とが備えられており、劣化度演算手段(32)は、検量線を作成して記録する手段(33)と、劣化度を演算して表示する手段(34)が備えられている。
【0031】
ここで、コンクリートの劣化要因である塩害化はコンクリート中に塩化物イオンが浸透することによって生じ、この塩化物イオンについて説明する。コンクリート中に浸透した塩化物イオンは、細孔溶液中に存在する自由塩化物イオンと、水和生成物に固定されている固定塩化物イオンとに分かれて、ある平衡関係のもとに存在する。本発明では、固定塩化物イオンを検出してコンクリート中に浸透した全ての塩化物イオン量を推定する方法としている。
【0032】
前記の塩化物イオンを固定する水和生成物の代表はモノサルフェートで、[数式1]に示すように、塩化物イオンを固定してフリーデル氏塩とその他の化合物となる。
【0033】
[数1]
3CaO・Al・CaSO・12HO + Cl

→ 3CaO・Al・CaCl・10HO + X [数式1
【0034】
数式1]で、3CaO・Al・CaSO・12HOはモノサルフェート、Clは塩化物イオン、3CaO・Al・CaCl・10HOはフリーデル氏塩、Xはその他の化合物である。
【0035】
図3は、固定塩化物イオンであるフリーデル氏塩を純合成し、コンクリート成分の骨材と炭酸カルシウムに、前記フリーデル氏塩の混入率を変化させて配合した試料を測定した吸光度スペクトルであり、図3の( )内の数字はフリーデル氏塩の混入率を示し、フリーデル氏塩の混入率とともに波長2230[nm]付近から2300[nm]付近の吸光度が変化し、2266[nm]付近の吸光度ピークが増加する。
【0036】
図4は、前記フリーデル氏塩の混合試料を測定した吸光度から、[数式2]の差スペクトルを計算し、横軸を混入したフリーデル氏塩の量、縦軸を前記の差スペクトルとしてプロットしたものであり、両者の決定係数はR=0.99となっている。この差スペクトルは、波長aを2230[nm]、波長bを2300[nm]とし、これらの波長における吸光度を基準として、フリーデル氏塩の吸光度ピーク付近である波長2266[nm]の吸光度の変化量を,3つの説明変数で表現したものである。
【0037】
[数2]


数式2
【0038】
数式2]において、
△A2,266は差スペクトル、A2,266は波長2266[nm]の吸光度、Aaは波長aにおける吸光度、Abは波長bにおける吸光度、
λaは波長a[nm]、
λbは波長b[nm]、
λ2,266は波長2266[nm]である。
【0039】
図5は、普通ポルトランドセメントを用いて、塩化物イオン量を20kg/m混入したモルタル試料と塩化物イオン量未混入のモルタル試料の吸光度スペクトルを示したもので、図5には参考として、純合成したモノサルフェート単味とフリーデル氏塩単味の吸光度スペクトルも示す。波長2266[nm]付近において、前記塩化物混入試料に吸光度のピークが生じており、これはフリーデル氏塩の吸光度のピークと一致する。
【0040】
図5において、mo(0)は塩化物量を未混入のモルタル試料、mo(20)は塩化物量を20kg/m混入した試料、AFmは純合成して作成したモノサルフェート単味、FClは純合成して作成したフリーデル氏塩単味である。
【0041】
図6は、早強ポルトランドセメントを用いて作製したモルタルに、塩化物イオンの混入量を変化させた試料の吸光度を示したもので、縦軸は吸光度、横軸は波長を示し、塩化物イオンの混入量が多くなるほど波長2266[nm]付近の吸光度が大きくなる。
【0042】
図7は、高炉セメントB種を用いて作製したモルタルに、塩化物イオンの混入量を変化させた試料の吸光度を示したもので、縦軸は吸光度、横軸は波長を示し、塩化物イオンの混入量が多くなるほど波長2266[nm]付近の吸光度が大きくなるが、塩化物イオンの混入量が少ない場合には波長2252[nm]付近にノサルフェートの吸光度のピークが現れている。
【0043】
図8は、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、および高炉セメントB種を用いて、練混ぜ時に混入する塩化物イオン量を変化させて作製したモルタル試料の吸光度を測定して[数式2]で演算した差スペクトルと、JIS A 1154(電位差滴定法)で測定した全塩化物イオン量との関係をプロットしたもので、縦軸は差スペクトル、横軸は全塩化物イオン量を示し、全塩化物イオン量の増加とともに差スペクトルが増加するが、セメント種類が異なると同じ全塩化物イオン量に対して差スペクトルの値が異なっている。
【0044】
図8において、高炉セメントB種を用いた場合、他のセメントを用いた場合に比べて差スペクトルが大きい値となっているのは、セメント硬化体成分に占めるモノサルフェートの割合が多く、より多くのフリーデル氏塩を生成するためであり、セメント種類により成分が異なるため、セメント成分が既知である場合のみ[数式2]が適用可能である。
【0045】
図9は、各種セメント材料を用いて塩化物イオンの混入量を変化させて作製した試料の吸光度と、同試料をJIS A 1154(電位差滴定法)で測定した全塩化物イオン量を用いて、第1波長をフリーデル氏塩のピーク波長付近の代表波長である2266[nm]、第2波長をモノサルフェートのピーク波長付近の代表である2252[nm]、第3波長を2230[nm]、第4波長を2300[nm]とし、[数式3]で演算できるように多変量解析した結果であり、決定係数はR=0.96と高い相関を示した。
【0046】
[数3]
C=k0+k1・A1+k2・A2+k3・A3+k4・A4 [数式3
【0047】
数式3]において、Cは全塩化物イオン量(kg/m)、A1は第1波長の吸光度、A2は第2波長の吸光度、A3は第3波長の吸光度、A4は第4波長の吸光度、k0,k1,k2,k3,k4は十分に多い母集団において測定された吸光度及び塩化物イオン量を用いて多変量解析で決定された係数である。
【0048】
次に、塩化物イオン量を混入したセメント硬化体に対して、中性化が進行した試料について説明する。図10のP0(15)は塩化物イオン量を15kg/m混入させて硬化したセメントペーストの吸光度であり、P1(15)は前記のセメントペーストを1ヶ月間大気中に放置した後に測定した吸光度であり、[数式4]に示すように、大気中の炭酸ガスによる中性化の進行に伴って、セメントペースト内の水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに変化し、これに伴っての水酸化カルシウムのピーク波長である波長1412[nm]付近の吸光度ピークがc0からc1に変化する。この波長1412[nm]付近の吸光度の変化に着目して中性化の検出が可能である。
【0049】
[数4]






数式4
【0050】
数式4]において、Ca(OH)は水酸化カルシウム、COは二酸化炭素、CaCOは炭酸カルシウム、HOは水、であり、セメント硬化体中の水酸化カルシウムが空気中の炭酸ガス(二酸化炭素)により炭酸カルシウムに変化する現象、すなわち中性化を化学式で示したものである。
【0051】
また、図10において、塩化物イオン量の指標となる波長2266[nm]付近のフリーデル氏塩の吸光度は、[数式5]に示すように、大気中の炭酸ガスと反応して塩化物イオンを遊離するため、波長2266[nm]付近の吸光度がs0からs1に変化する。
【0052】
[数5]

3CaO・Al・CaCl・10HO + CO
→ 3CaCO+2Al(OH)+CaCl+7H



数式5
【0053】
数式5]において、3CaO・Al・CaCl・10HOはフリーデル氏塩、
COは二酸化炭素、3CaCOは炭酸カルシウム、2Al(OH)は水酸化アルミニウム、CaClは塩化カルシウム、7HOは水、である。
【0054】
図11は、図10の吸光度の部分的な図であり、中性化前のP0(15)試料における、波長1412[nm]の吸光度をc0、波長1440[nm]の吸光度をd0、中性化後のP1(15)試料における波長1412[nm]の吸光度をc1、波長1440[nm]の吸光度をd1とすると、波長1412[nm]の吸光度と波長1440[nm]の吸光度差は、中性化前はc0−c1、中性化後はd0−d1となり、この吸光度差により中性化の程度が演算できる。
【0055】
中性化を伴った場合の全塩化物イオン量の演算は、[数式3]に前記中性化の進展に伴う波長範囲の吸光度の変化を追加し、第1波長を2266[nm]、第2波長を2252[nm]、第3波長を2230[nm]、第4波長を2300[nm]、第5波長を1412[nm]、第6波長を1440[nm]として、[数式6]を用いることにより、中性化を伴った場合の全塩化物イオン量の演算を行う。
【0056】
[数6]
C=k0+k1・A1+k2・A2+k3・A3+k4・A4
+k5・A5+k6・A6 [数式6
【0057】
数式6]において、Cは全塩化物イオン量[kg/m]、A1は第1波長の吸光度、A2は第2波長の吸光度、A3は第3波長の吸光度、A4は第4波長の吸光度、A5は第5波長の吸光度、A6は第6波長の吸光度、k0,k1,k2,k3,k4,k5,k6は十分に多い母集団において測定された吸光度及び塩化物イオン量を用いて多変量解析で決定された係数である。
【0058】
次に、アルカリ骨材反応による劣化が生じた場合と、生じていない場合の違いについて説明する。図12において、C0はアルカリ骨材反応が生じていないコンクリートの吸光度で、CAlは反応性骨材を使用してアルカリ骨材反応が生じたコンクリートの吸光度である。アルカリ骨材反応が生じると、[数式7]に示すように水酸化ナトリウムが分解されて、OHイオン濃度が低下し、OH基の吸光度ピークである波長1410[nm]付近の吸光度がa0からa1に変化する。中性化が生じていないコンクリート内部において、波長1410[nm]付近の吸光度の変化に着目してアルカリ骨材反応の検出が可能である。
【0059】
[数7]
2xSiO2+x+2xNaOH → Na2xSiO2+x+2xHO [数式7
【0060】
数式7]において、Hは水素、SiO2+xはシリカ、2xはシラノールグループ中のシリコンの割合、NaOHは水酸化ナトリウム、HOは水、である。
【0061】
図12において、アルカリ骨材反応が生じていないコンクリートのC0試料における、波長1412[nm]の吸光度をa0、波長1440[nm]の吸光度をb0、アルカリ骨材反応が生じたコンクリートCAl試料における波長1412[nm]の吸光度をa1、波長1440[nm]の吸光度をb1とすると、波長1410[nm]の吸光度と波長1440[nm]の吸光度差は、C0試料はa0−a1、CAl試料はb0−b1となり、この吸光度差によりアルカリ骨材反応の程度が演算できる。
【0062】
前記アルカリ骨材反応の度合いを示す一例として吸光度差を示しが、中性化の度合いと同じ吸光度差である。ここで、アルカリ骨材反応と中性化は同時に生じない。そこで、測定箇所にフェノールフタレイン1%エタノール溶液を噴霧し、赤紫色に変色した場合は中性化が生じていないことから、アルカリ骨材反応による吸光度の変化と判断できる。
【0063】
本実施の形態においては、塩化物イオン量を演算するための波長域に2230[nm]及び2300[nm]を使用しているのは塩化物イオン量を含むことにより吸光度の山が大きく変化する範囲であり、図5に示すe点(波長2140[nm])からf点(波長2310[nm])の範囲であれば、理論的に吸光度の相違を検出できることはいうまでもない。
【0064】
更に、塩化物イオン量を演算するための波長域に2252[nm]及び2266[nm]を使用しているのは、塩化物イオンを固定するセメント水和物のピーク波長を使用することにより検出し易いためであるが、塩化物イオン量を含むことにより吸光度の山が大きく変化する範囲(波長2230[nm]〜2300[nm])の波長であれば理論的に吸光度の相違を検出できることはいうまでもない。
【0065】
即ち、塩化物イオン量は、波長範囲2140[nm]〜2310[nm]から、少なくとも3以上の波長における吸光度を用いた多変量解析で演算できる。
【0066】
また、中性化とアルカリ骨材反応の程度を演算するための波長域に1412[nm]と1440[nm]を使用しているのは、OH基のピーク波長を使用することにより検出し易いためであるが、吸光度の山が変化する範囲(波長1350[nm]〜1450[nm])の波長であれば理論的に吸光度の相違を検出できることはいうまでもない。
【0067】
中性化を伴う塩化物イオン量を推定するための波長域についても、前記の塩化物イオン量を演算するための波長範囲(波長2140[nm]から2310[nm])から3以上、および中性化の程度を演算するための波長範囲(波長1350[nm]〜1450[nm])から2以上の波長であれば理論的に吸光度の相違を検出できることはいうまでもない。

【実施例】
【0068】
図13は、建設後約20年経過した海洋構造物(コンクリート式の導流堤)の表面から30[mm]の範囲において、表面から15[mm]までと、さらに30[mm]までの粉体試料をドリル削孔により採取し、前記採取試料をJIS A 1154(電位差滴定法)により全塩化物イオン量を測定し、前記採取試料を[数式6]により演算した結果をプロットしたものである。前記構造物はフェノールフタレイン1%エタノール溶液を噴霧した結果、中性化深さは10[mm]から15[mm]であり、前記採取試料は未中性化試料と中性化試料との両者が存在するが、図12における決定係数はR=0.97であり高い相関が得られている。
【0069】
図14は、塩化物イオン混入量の異なるコンクリート供試体を小径で穿孔し、この穿孔先端面のモルタル部の吸光度を本装置で測定し、前記の[数式3]にしたがって演算した結果と、前記供試体の塩化物イオン量をJIS A 1154(電位差滴定法)で測定した値との関係を示したものであり、決定係数R=0.99と高い相関を示すものである。

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】各発明方法を実施する装置、または各手段を示すブロック図である。
【図2】本発明方法を実施する装置を示す全体図である。
【図3】純合成したフリーデル氏塩の混入率を変化させた試料の吸光度スペクトル図である。
【図4】図3の吸光度を用いて、フリーデル氏塩の混入率と差スペクトルとの関係を示したグラフである。
【図5】塩化物イオンを混入したモルタル試料と混入していないモルタル試料、純合成したフルーデル氏塩とモノサルフェート、の吸光度スペクトル図である。
【図6】早強ポルトランドセメントを用いて作製した、塩化物イオンの混入量の異なるモルタルの吸光度スペクトル図である。
【図7】高炉セメントB種を用いて作製した、塩化物イオンの混入量の異なるモルタルの吸光度スペクトル図である。
【図8】普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、高炉セメントB種を用い、塩化物イオンの混入量の異なる各モルタル試料を作製し、前記モルタル試料の吸光度から演算した差スペクトルと、JIS A 1154(電位差滴定法)により測定した塩化物イオン量との関係を示した図である。
【図9】図8の各モルタル試料の吸光度を用いて[数式3]により演算した推定値と、JIS A 1154(電位差滴定法)により測定した塩化物イオン量との関係を示した図である。
【図10】塩化物イオンを混入したモルタル試料の未中性化時と中性化後、炭酸カルシウムと水酸化カルシウム、の吸光度スペクトル図である。
【図11】図10の塩化物イオンを混入したモルタル試料の未中性化時と中性化後の吸光度スペクトルに一部分である。
【図12】アルカリ骨材反応により劣化したコンクリートと、アルカリ骨材反応が生じていないコンクリートの、各モルタル部の吸光度スペクトル図である。
【図13】海洋コンクリート構造物から採取した未中性化部と中性化部の試料の吸光度から[数式6]により演算した推定値と、JIS A 1154(電位差滴定法)により測定した塩化物イオン量との関係を示した図である。
【図14】塩化物イオンを混入したコンクリート供試体のドリル穿孔先端面のモルタル部の吸光度から[数式3]により演算した推定値と、JIS A 1154(電位差滴定法)により測定した塩化物イオン量との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0071】
1 コンクリート構造物の穿孔
2 穿孔先端面
3 コンクリート穿孔先端部のモルタル部

10 近赤外線光源
11 近赤外線光源を照射し受光する受光器
12 近赤外線分光装置
13 コンピュータ

20 コンクリート構造物

31 吸光度記録手段
32 劣化度演算手段
33 検量線を作成し、記録する手段
34 劣化度を演算し、表示する手段



【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物を小径で穿孔するドリルと、近赤外線光線を照射するための近赤外線光源と、前記穿孔先端面に近赤外線光線を照射して同穿孔先端面から反射した近赤外線を受光する受光器と、前記受光器の近赤外線を所望の波長域に分光自在な分光装置と、前記分光した近赤外線の少なくとも所定波長における吸光度を記録する吸光度記録手段と、前記所定波長における吸光度に基づき劣化度を演算する劣化度演算手段と、を備えたことを特徴とするコンクリート構造物の劣化検出装置。

【請求項2】
コンクリート構造物を小径で穿孔し、前記穿孔先端面に近赤外線光線を照射して同穿孔先端面から反射した近赤外線を受光し、前記受光した近赤外線を所望の波長域に分光し、前記分光した近赤外線の少なくとも所定波長における吸光度を記録し、前記所定波長における吸光度に基づき劣化度を演算する、ことを特徴とするコンクリート構造物の劣化検出方法。

【請求項3】
前記所定波長における吸光度から劣化度を演算する劣化度演算手段は、予めコンクリート構造物の少なくとも2以上の既知の劣化度に対応した所定波長における吸光度を当該装置で測定し、既知の劣化度を目的変数として多変量解析を行い、検量線を作成し、本検量線を記録する手段と、当該コンクリート構造物の任意の位置の吸光度から、本検量線に対応させて劣化度を演算して表示する、ことを特徴とするコンクリート構造物の劣化検出方法。

【請求項4】
劣化度演算手段は、劣化度が既知のコンクリート材料成分が異なる複数のコンクリート試料を当該装置で測定し、所定波長の吸光度を説明変数とするとともに、既知の劣化度を目的変数として多変量解析を行い、検量線を求めて、当該検量線を記録する手段と、任意のコンクリート構造物の任意の位置の吸光度から、前記検量線に対応させて劣化度を演算して表示する、ことを特徴とするコンクリート構造物の劣化検出方法。

【請求項5】
前記請求項3および前記請求項4に記載のいずれかの劣化度として塩化物イオン量を演算する所定波長は、2140〜2310[nm]の範囲から少なくとも3以上を選択した、ことを特徴とするコンクリート構造物の劣化検出方法。

【請求項6】
前記請求項3および前記請求項4に記載のいずれかの劣化検出方法として中性化の程度を演算する所定波長は、1350[nm]〜1450[nm]の範囲から少なくとも2以上を選択した、ことを特徴とするコンクリート構造物の劣化検出方法。

【請求項7】
前記請求項3および前記請求項4に記載のいずれかの劣化検出方法として中性化を伴う塩化物イオン量を演算する所定波長は、前記請求項5の所定波長と前記請求項6の所定波長の両者を用いる、ことを特徴とするコンクリート構造物の劣化検出方法。

【請求項8】
前記請求項3および前記請求項4に記載のいずれかの劣化検出方法としてアルカリ骨材反応の程度を確認する所定波長は、1350[nm]〜1450[nm]の範囲から少なくとも2以上を選択した、ことを特徴とするコンクリート構造物の劣化検出方法。

【請求項9】
コンクリート構造物を集塵機能付きの小径のドリルで穿孔し、穿孔時に発生した粉体を前記請求項1に記載の装置で測定し、前記請求項5、前記請求項6、前記請求項7,および前記請求項8に記載のいずれかの劣化度を、前記請求項3および前記請求項4に記載のいずれかの劣化検出方法による検量線を用いて演算する、ことを特徴とするコンクリート構造物の劣化検出方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−139098(P2009−139098A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312390(P2007−312390)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(305054991)株式会社 フジタ建設コンサルタント (2)
【Fターム(参考)】