説明

コンクリート構造物内部の検査装置

【課題】 検査精度と作業効率のよいコンクリート構造物内部の検査装置を提供する。
【解決手段】 検査装置1は、広角に撮像できるフィッシュアイレンズ3を備えたCCDカメラ2と、CCDカメラを略一定速度で前後進させる平歯車付きのモータ4と、孔口を起点に目盛り板が伸延する巻尺5と、ノブ7で孔の半径方向に拡がって検査装置を構造物に固定できる固定爪6と、構造物の情報を表示しかつCCDカメラによって撮像される位置に配置された情報表示器8と、撮像画像の表示と記録を行なう画像表示記録装置10と、動力源のニッケル水素電池11と、構造物の外表面に当接して検査装置を安定させる基準板12と、孔底に接触するとCCDカメラの前進を停止させるストップスイッチ13と、検査装置を手で動かし易くする把持部14と、孔内を照らすLEDライト17と、手動操作時に使用するハンドル18から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート構造物内部の検査装置に関する。詳しくは、広角に撮像できる撮像手段を動かす駆動手段によって、検査精度を向上させようとしたコンクリート構造物内部の検査装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁、トンネル、ビル等の様々なコンクリート構造物が現代社会には存在するが、近年、コンクリート構造物内部において、鉄筋腐食によるコンクリートの浮きやひび割れ、施工不良によるひび割れや空洞の形成等が原因で、コンクリート構造物の一部が崩落する等の事故が起きている。
【0003】
そこで、このような事故を未然に防ぐために、外観からは判断し難いコンクリート構造物内部のひび割れ等の劣化状態を検査できる様々なコンクリート構造物内部の検査方法が提案されている。このような検査方法として、例えば、超音波や電磁波によりコンクリート構造物内部を間接的に検査する非破壊検査方法や、コンクリート構造物に所定の径を有する調査用孔を穿孔し、その調査用孔に光ファイバー束からなるマイクロスコープや、CCDカメラを搭載したボアホールカメラ等の撮像装置を挿入して孔壁を撮像する検査方法(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照。)が挙げられる。
【0004】
しかし、上記の非破壊検査方法では、検査精度が低く、深さ方向における劣化状態の把握が困難であり、また、ボアホールカメラを用いた検査方法では、CCDカメラとミラーを収容した撮像プローブの直径が大きく、調査用孔として比較的径の大きいボーリング孔を穿孔する必要があり、わざわざボーリング孔の穿孔設備を用意しなければならず検査作業の効率が悪かった。
【0005】
図1は、マイクロスコープを用いる従来のコンクリート構造物内部の検査の実施形態を示すブロック図である。図1に示すように従来のコンクリート構造物内部の検査方法は、光ファイバーを有するマイクロスコープ101、マイクロスコープ101の先端から孔を照明するための光を出射させるための光源102、マイクロスコープ101の基端に設けられたアイピース103、CCDカメラ104、カメラアンプ105、ビデオレコーダ106、モニタTV107、プリンタ108、画像処理装置109、モデム110、リモート診断システム111、及び診断サポート機能格納したメモリ112を用いて行なわれる。
【0006】
このようなマイクロスコープを用いる従来のコンクリート構造物内部の検査方法は、これまではサンプルでしか判断できなかった空隙、亀裂の開口、方向を直視でき、より正確な判断ができる。
【0007】
ところで、コンクリート構造物内部のひび割れ等が検査によって確認されると、ひび割れ等が生じた箇所の補強工事が行なわれるが、近年、大規模な地震(例えば、我が国では阪神淡路大震災等)を契機にコンクリート構造物の耐震設計基準が見直され、既設のコンクリート構造物に耐震補強工事が実施されるケースが増えている。耐震補強工事では、コンクリート構造物に穿孔し、形成された孔内にアンカーボルトを配置する方法が多く取られるが、この場合、穿孔時にコンクリート構造物の鉄筋を切断する場合があり、問題となっている。また、穿孔する孔の長さは1m以上となる場合もあり、コンクリート構造物の奥深くにある鉄筋の切断の有無を確認するために、精度のよい検査装置が要望されている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−41903号公報
【非特許文献1】福井次郎他4名,"橋梁基礎構造の調査に関する研究"「第2回構造物の診断に関するシンポジウム論文集」,土木学会,1999年8月,第137−142頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の非破壊検査方法では、深さ方向における劣化状態の把握が困難であるため、コンクリート構造物の奥深くにある鉄筋の切断の有無を確認するのが困難であり、また、従来のマイクロスコープを用いた検査方法では、先端の撮像プローブの撮影視野角が限られるため、撮像プローブが向いている孔壁部分の状況は把握できるが、撮像プローブが位置する所定深度前後における孔壁面の展開図情報等を得るために、多数の撮像情報を編集しなければならず検査作業が煩雑であり、検査精度や検査作業の効率の改善が求められていた。
【0010】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、検査精度と作業効率のよいコンクリート構造物内部の検査装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明のコンクリート構造物内部の検査装置は、コンクリート構造物内部を検査する構造物内部の検査装置であって、コンクリート構造物内部を広角に撮像できる撮像手段と、該撮像手段を略一定速度で動かす駆動手段を備える。
【0012】
ここで、コンクリート構造物内部を広角に撮像できる撮像手段によって、コンクリート構造物に形成された孔内の全周を一度に高倍率で撮像できる。また、撮像手段を略一定速度で動かす駆動手段によって、撮像手段を略一定速度で動かすことができるとともに、撮像のぶれを抑制できて、安定した撮像を行なうことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るコンクリート構造物内部の検査装置は、精度よく検査できるとともに効率よく検査作業ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
【0015】
図2は、本発明を適用した検査装置の実施態様の一例を示す概略平面図である。図2において検査装置1は、広角に撮像できるフィッシュアイレンズ3を備えたCCDカメラ2と、CCDカメラ2の本体に装着されたラック付棒部材9のラックと噛み合ってCCDカメラを略一定速度で自動的に前後進させる、速度可変ギア(不図示)を備えた平歯車付きのモータ4と、コンクリート構造物15に形成された孔16の孔口を起点として目盛り板(不図示)が伸延する巻尺5と、ノブ7によって孔の半径方向に拡がることで検査装置をコンクリート構造物に固定できる固定爪6と、検査対象となっているコンクリート構造物に関する情報例えば検査する孔の番号や工事件名等を表示するとともにCCDカメラによって撮像される位置に配置されている情報表示器8と、撮像した画像を表示するとともに画像を記録する画像表示記録装置10と、モータ等の動力源となるニッケル水素電池11と、コンクリート構造物の外表面に当接して検査装置を安定させる基準板12と、孔底に接触するとCCDカメラの前進を停止させるストップスイッチ13と、検査装置を手で動かしやすくする把持部14と、孔内を照らすLEDライト17と、手動操作時に使用するハンドル18から構成されている。
【0016】
ここで、広角に撮像できるのであれば、レンズはフィッシュアイレンズでなくてもよい。また、撮像できるのであればCCDカメラでなくてもよく、例えばC−MOSカメラを用いてもよい。フィッシュアイレンズを使用することで、レンズ近くは大きく(高倍率)映るとともに孔内の全周を一度に観察できるので、検査精度が高くなるとともに検査作業の効率が上がる。
【0017】
また、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、ラック付棒部材のラックに平歯車付きのモータの歯を噛み合わせてカメラを動かさなくてもよい。また、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、モータに速度可変ギアを取り付けなくてもよい。また、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、ラック付棒部材とCCDカメラを合わせた長さはどのような長さでもよく、例えばコンクリート構造物に形成された孔の長さに応じて、数m、具体的には1〜2mであってもよい。
【0018】
更に、コンクリート構造物内部の撮像位置を表示できるのであれば、巻尺でなくてもよく、例えばCCDカメラの移動距離を画像表示記録装置の画面上に表示するようにしてもよい。また、広角に撮像できて、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、巻尺は取り付けなくてもよい。
【0019】
また、広角に撮像できて、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、ストップスイッチは取り付けなくてもよい。また、ストップスイッチの代わりに例えば赤外線物体感知センサを取り付けて、孔底に接近して孔底を感知するとCCDカメラの前進を停止させるようにしてもよい。
【0020】
また、広角に撮像できて、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、固定爪は取り付けなくてもよい。また、検査装置をコンクリート構造物に固定できるのであれば、固定爪の表面に凹凸部を形成することによって、凹凸部が孔の壁面と係合して固定を更に強固なものにすることができて好ましい。更に、検査装置をコンクリート構造物に固定できるのであれば、バネ等の弾性体の、孔の半径方向に拡がろうとする力を利用して検査装置を固定してもよい。
【0021】
また、広角に撮像できて、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、画像表示記録装置は取り付けなくてもよい。また、広角に撮像できて、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、画像表示記録装置を取り付ける代わりに、コンピュータに接続して、CCDカメラで撮像した画像をコンピュータの画面上で確認してもよい。
【0022】
また、動力源としてニッケル水素電池を使用しているが、広角に撮像できて、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、リチュウムイオン電池、マンガン乾電池、アルカリ乾電池、太陽電池、交流電源、直流電源等を用いてもよい。
【0023】
また、広角に撮像できて、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、基準板は取り付けなくてもよい。また、コンクリート構造物表面の形状に合わせて基準板の形状を変えることができ、例えば湾曲したコンクリート構造物表面に対しては、コンクリート構造物表面の曲率と略同一の曲率を有する湾曲した形状の基準板を用いることができる。
【0024】
また、広角に撮像できて、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、把持部は取り付けなくてもよい。
【0025】
また、広角に撮像できて、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、LEDライトは取り付けなくてもよい。また、孔内を照らすことができればLEDライトでなくてもよく、例えばハロゲンスポットライト等でもよい。
【0026】
また、広角に撮像できて、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、ハンドルは取り付けなくてもよい。ここで、モータと平歯車の部分に取り付けられたクラッチ(不図示)を外すと、モータ駆動から、手動によりCCDカメラを前後進させる操作へと切り替わり、この手動の操作はハンドルを回転させることで行なう。
【0027】
また、広角に撮像できて、カメラを略一定速度で動かせるのであれば、情報表示器は取り付けなくてもよい。また、検査対象となっているコンクリート構造物に関する情報が把握できるのであれば、例えば情報表示器を取り付ける代わりに、コンピュータに接続して、CCDカメラで撮像した画像をコンピュータに取り込み、例えば検査する孔の番号やコンクリート構造物の名称等を画像ファイルの名称として記録しておいてもよい。
【0028】
図3は、情報表示器の一例を示す概略説明図である。図3において情報表示器8は、検査する孔の番号を表示する孔番号表示部19と、孔番号を回転させて変更できるボタン20と、工事件名等を表示する工事件名表示部21から構成されている。ここで工事件名表示部は、例えばプラスチックケースに収容された、工事件名等が印字された紙等で構成されており、工事件名等が印字された紙等を取り替えることで、様々な工事件名等を表示できる。また、検査する孔の番号や工事件名等を表示できれば、孔番号表示部や工事件名表示部はデジタル表示であってもよい。
【0029】
ラック付棒部材をCCDカメラの本体に装着し、このラックと噛み合う歯を有する平歯車付きのモータによってCCDカメラを略一定速度で動かすことによって、手動の操作で生ずる画像のブレを低減し、安定した撮像を行なうことができるとともに、略一定速度で記録した動画は、例えばコンピュータの画像編集ソフトによって一定間隔で静止画を切り出すことができ、切り出された静止画を確認することで検査精度が高くなり、また検査結果の整理が容易になる。
【0030】
また、孔口を起点として目盛り板(不図示)が伸延する巻尺を、CCDカメラによって撮像することにより、孔内での鉄筋切断の有無やその位置並びに劣化箇所の特定が容易にできる。
【0031】
更に、ノブ7によって孔の半径方向に固定爪を拡げて、固定爪を孔の内壁面に押し当てることによる固定は、アンカーボルトによる固定や孔口周辺の構造物表面を真空吸引することによる固定に比べて、作業時間が短く、また操作が極めて簡易であるため、検査作業の効率が高い。
【0032】
また、画像表示記録装置を検査装置に取り付けることで、可搬性(持ち運び性)や操作性が良く、孔内での鉄筋切断の有無やその位置並びに劣化箇所を現場で円滑に確認できる。
【0033】
また、ハンドルを用いた手動操作によって、孔内で詳細に検査したい箇所にCCDカメラを正確に止めて静止観察でき、また、モータや電気系統にトラブルがあったときでも検査作業を行なうことができる。
【0034】
また、情報表示器は、CCDカメラによって撮像される位置に配置されているので、CCDカメラを前進させて孔内へ挿入する前にCCDカメラによって撮像され、これによって検査孔に関する画像の最初に、検査する孔の番号や工事件名等を記録するので、コンピュータ上のサムネイル表示で孔の番号や工事件名等が直接表示され、複数の画像の整理や識別を容易に行なうことができる。
【0035】
このように、本発明を適用したコンクリート構造物内部の検査装置によって、橋梁、トンネル、ビル等といったコンクリート構造物内の鉄筋切断の有無やその位置並びに劣化箇所を、精度よく検査することができ、また、検査作業の効率も向上するとともに、検査で得られた画像等を整理及び識別することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】マイクロスコープを用いる従来のコンクリート構造物内部の検査の実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明を適用した検査装置の実施態様の一例を示す概略平面図である。
【図3】情報表示器の一例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1 検査装置
2 CCDカメラ
3 フィッシュアイレンズ
4 モータ
5 巻尺
6 固定爪
7 ノブ
8 情報表示器
9 ラック付棒部材
10 画像表示記録装置
11 ニッケル水素電池
12 基準板
13 ストップスイッチ
14 把持部
15 コンクリート構造物
16 孔
17 LEDライト
18 ハンドル
19 孔番号表示部
20 ボタン
21 工事件名表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物内部を検査する構造物内部の検査装置であって、
コンクリート構造物内部を広角に撮像できる撮像手段と、
該撮像手段を略一定速度で動かす駆動手段を備える
コンクリート構造物内部の検査装置。
【請求項2】
コンクリート構造物内部の撮像位置を表示する撮像位置表示手段を備える
請求項1に記載のコンクリート構造物内部の検査装置。
【請求項3】
前記検査装置をコンクリート構造物に固定する固定手段を備える
請求項1または請求項2に記載のコンクリート構造物内部の検査装置。
【請求項4】
前記固定手段は、コンクリート構造物に形成された孔内において拡径方向に拡がることによって前記検査装置をコンクリート構造物に固定するものである
請求項3に記載のコンクリート構造物内部の検査装置。
【請求項5】
撮像されるコンクリート構造物に関する情報を表示する情報表示手段を備えるとともに、
該情報表示手段は前記撮像手段によって撮像される位置に配置されている
請求項1または請求項2に記載のコンクリート構造物内部の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−162439(P2006−162439A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−354345(P2004−354345)
【出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【出願人】(503208378)ビルドメンテック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】