説明

コンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法

【課題】簡便に無機系注入材料を迅速に調製するとともに、注入量を簡便に調節することができ、クラック内部まで簡便に効率よく注入施工が可能な、コンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物30のクラックに沿ってVカットし、Vカット部33にプライマー34を塗布した後、Vカット部33に無機系注入材料10を注入するにあたり、一端にノズル11を有するシリンダ1と、シリンダ1内において、ノズル11の先端の吐出口6に向かって移動可能なピストン壁2と、シリンダ1内に、無機系材料である水硬性組成物粉体が収容されているカートリッジに、吐出口6から液体を導入し、該カートリッジに振動を与え、該水硬性組成物粉体と該液体とを撹拌混合して該カートリッジ内で無機系注入材料10を調製し、吐出口6から無機系注入材料10を、前記クラックのVカット部33に注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法に関し、特に特定の組成を有する無機系注入材料を用いてコンクリート構造物のクラック内部まで充填することができ、注入量を調整しやすく、効率よく施工する簡便な、コンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水硬性組成物を調製する際には、水硬性組成物粉体と水とを一定の比率となるように計量して、ミキサー、練りさじやスコップ、或いは手練り等により撹拌混合して調製を行い、はけ、ヘラやコテ、或いはポンプ等で施工を行っていた。
【0003】
このような調製方法では、水とセメント等を計量する必要があるため、別途、混合容器を用意する必要があり、簡便な方法ではなかった。
また施工方法においても、クラックの細かい箇所への少量の施工は手間がかかり煩雑であり、特に上向き施工が難しく、均質に施工をすることは難しかった。
【0004】
特に、コンクリート構造物に生じたクラックの補修には、該クラックに充填材を充填した後、モルタルで埋めていたが、クラックがコンクリート構造物の横部や上部に生じた際には、注入量の調整は困難であり、タレが生じてしまっていた。
また細かいクラックへ充填材料を充填してモルタル仕上げをした際にはコンクリート外壁面の美観を大きく損ねることもあった。
さらに、早く固まる超速硬セメントは、少量施工の際にはハンドリングタイムが短いため、使用が困難であった。
【0005】
一方、簡易吐出機としては、特開平5−319462号公報に、混合吐出容器本体内には主剤が充填されていると同時に硬化剤が合成樹脂製袋中に入っているものも装填されており、更に容器本体内には中空な撹拌棒、撹拌羽根、摺動可能な底板を有し、一方合成樹脂製袋の一端には糸を固定し、糸は中空の撹拌棒内を通って、容器キャップに固定されていて、このキャップを引張り、撹拌棒、撹拌羽根を上下することによって合成樹脂製袋が破れ両成分が短時間で均一に混合でき、底部から吐出されるような簡易混合吐出容器が開示されている。
【0006】
しかし、かかる簡易吐出機は、撹拌棒を内部に備えるものであり、また混合吐出容器本体には混合されるべき複数の成分、例えば、第1成分と第2成分とが予め充填されているものである。
かかる撹拌棒を備える構造を有する吐出機は、装置の構造が煩雑であり、また混合されるべき複数の成分、例えば第1成分と第2成分とが予め充填されていると重量が重くなるとともに搬送にも手間がかかり、従って高価なものとなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−319462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、簡便に無機系注入材料を迅速に調製することができるとともに、注入量を簡便に調節することができ、クラック内部まで簡便に効率よく注入施工することができる、コンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法を提供することである。
さらに本発明の目的は、無機系注入材料用カートリッジを用いて、無機系注入材料の撹拌混合作業と充填作業を同一の容器で行い、撹拌混合作業中の粉塵の発生をほぼゼロに抑え、コンクリート構造物に生じたクラックへの注入補修を簡便に行うことのできる、コンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のコンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法は、コンクリート構造物の乾燥又は湿潤クラックに沿って該コンクリート構造物をVカットし、該Vカット部にプライマーを塗布した後、該Vカット部に無機系注入材料を注入するにあたり、一端にノズルを有するシリンダと、該シリンダ内において、該ノズルの先端の吐出口に向かって移動可能なピストン壁と、該シリンダ内に、無機系材料である水硬性組成物粉体が収容されているカートリッジに、前記該吐出口から液体を導入し、該カートリッジに振動を与え、該水硬性組成物粉体と該液体とを撹拌混合して該カートリッジ内で無機系注入材料を調製し、該調製された無機系注入材料は水/混合粉体質量比が13〜50%であり、次いで、該ピストン壁を該吐出口側に移動させて該吐出口から該無機系注入材料を、前記クラックの該Vカット部に注入することを特徴とする、コンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法である。
【0010】
本発明の他のコンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法は、コンクリート構造物の乾燥又は湿潤クラック部にプライマーを塗布した後、該クラック部に無機系注入材料を注入するにあたり、一端にノズルを有するシリンダと、該シリンダ内において、該ノズルの先端の吐出口に向かって移動可能なピストン壁と、該シリンダ内に、無機系材料である水硬性組成物粉体が収容されているカートリッジに、前記該吐出口から液体を導入し、該カートリッジに振動を与え、該水硬性組成物粉体と該液体とを撹拌混合して該カートリッジ内で無機系注入材料を調製し、該調製された無機系注入材料は水/混合粉体質量比が13〜50%であり、次いで、該ピストン壁を該吐出口側に移動させて該吐出口から該無機系注入材料を、前記クラック部に注入することを特徴とする、コンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法である。
【0011】
好適には、本発明の上記コンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法において、該シリンダ内には、無機系材料として水硬性組成物粉体に加えて、更に細骨材が収容されていることを特徴とする、コンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法である。
さらに好適には、本発明の上記コンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法において、カートリッジの該シリンダ内には、該無機系材料が該ピストン壁側に偏って充填され、該吐出口側の該シリンダの内面と、前記充填された、該無機系材料との間には空洞が形成されているカートリッジを用いることを特徴とする、コンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法である。
【0012】
また好適には、本発明の上記コンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法において、前記カートリッジの該空洞の容積が、前記充填された該無機系材料を該吐出口を経て導入すべき容量より大きいことを特徴とする、コンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法である。
また好適には、本発明の上記コンクリート構造物のクラック補修施方法において、前記カートリッジの該ピストン壁は該シリンダの内面と密着する形状であることを特徴とする、コンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法である。
【0013】
また更に好適には、本発明の上記コンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法は、Vカット部及び/又はクラック部に挿入された該吐出口から無機系注入材料を押出す際には、該カートリッジをシーリングガンに装着して行うことを特徴とする、コンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のコンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法によると、コンクリート構造物に任意の方向(上向き、下向き、横向き等)に生じたクラックが湿潤状態であっても乾燥状態であっても、内部までしっかり簡便に施工することができる。
また、本発明のコンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法は、クラック内部からの注入が可能であり、さらにクラック内部の乾燥、湿潤状態に左右されず注入施工することができるとともに注入量の調節が簡単にでき、また、ノズルの付いたコーキング容器等を用いることにより、より簡便に作業効率を向上させる施工を行うことができる。
なお、本発明のコンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法は、クラック部やコンクリート構造物のVカット部(クラックに沿ってコンクリート構造物をVカットした部分)の双方に適用することができる。
【0015】
本発明のコンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法は、さらに、無機注入材料を施工したい場合、所望する無機注入材料を簡便に調製することができるとともに、クラック奥部までの注入を、専門家でなくても手軽に施工することができる。
また、施工現場で簡便に無機系注入材料を調製することができ、無機系注入材料を調製するための特別な道具を必要とせず、水を加えてカートリッジを振ることで容易に撹拌して簡単に無機系注入材料を調製することができるとともに、簡便にクラックへの注入補修施工をそのまま手軽に実施することができる。
【0016】
また、施工の間、無機系注入材料は、密閉したカートリッジの中で混合撹拌されて施工されるため、粉塵の発生がほとんど無く、通常の混合容器のように容器の汚れで施工現場を汚すこともない。
このように、本発明のコンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法は、特に無機系注入材料用カートリッジを用いて、その付属のノズルによる注入施工により、コテやヘラでは不得意としていたクラック内部への施工を簡便に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に用いる無機系注入材料用カートリッジの一実施例の形態を示す断面図である。
【図2】図1の無機系注入材料用カートリッジのノズルをはずして、該カートリッジの吐出口のアルミシートを破断し、水硬性組成物等の無機材料粉体と反応する液体を充填した状態を模式的に示す、一実施例の図である。
【図3】本発明に適用する無機系注入材料用カートリッジを装着したシーリングガンを用いて、コンクリート構造物のクラック部に沿ってVカットしたVカット部に対して無機系注入材料を施工する形態の一実施例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るコンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法について、以下に詳細に説明する。
本発明のコンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法は、コンクリート構造物の乾燥又は湿潤クラックに沿って該コンクリート構造物をVカットし、該Vカット部にプライマーを塗布した後、該Vカット部に無機系注入材料を注入するにあたり、一端にノズルを有するシリンダと、該シリンダ内において、該ノズルの先端の吐出口に向かって移動可能なピストン壁と、該シリンダ内に、無機系材料である水硬性組成物粉体が収容されているカートリッジに、前記該吐出口から液体を導入し、該カートリッジに振動を与え、該水硬性組成物粉体と該液体とを撹拌混合して該カートリッジ内で無機系注入材料を調製し、該調製された無機系注入材料は水/混合粉体質量比が13〜50%であり、次いで、該ピストン壁を該吐出口側に移動させて該吐出口から該無機系注入材料を、前記クラックの該Vカット部に注入する工程を有する、コンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法である。
【0019】
また、本発明の他のコンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法は、コンクリート構造物の乾燥又は湿潤クラック部にプライマーを塗布した後、該クラック部に無機系注入材料を注入するにあたり、一端にノズルを有するシリンダと、該シリンダ内において、該ノズルの先端の吐出口に向かって移動可能なピストン壁と、該シリンダ内に、無機系材料である水硬性組成物粉体が収容されているカートリッジに、前記該吐出口から液体を導入し、該カートリッジに振動を与え、該水硬性組成物粉体と該液体とを撹拌混合して該カートリッジ内で無機系注入材料を調製し、該調製された無機系注入材料は水/混合粉体質量比が13〜50%であり、次いで、該ピストン壁を該吐出口側に移動させて該吐出口から該無機系注入材料を、前記クラック部に注入することを特徴とする、コンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法である。
この場合には、クラックにVカットを施すことなく、プライマを塗布後、無機系注入材量を該クラック部に充填するものである。
【0020】
本発明のコンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法に用いる、無機系注入材料用カートリッジは、一端に吐出口6を有するシリンダ1と、該シリンダ1内において、該吐出口6に向かって移動可能なピストン壁2と、該シリンダ1内には、無機系材料として水硬性組成物が収容されているものである。また、該シリンダ1内には、前記水硬性組成物粉体の他に、細骨材を含んでいてもよい。
ここで、シリンダ内に収容される無機材料には、水硬性組成物、又は、水硬性組成物に必要に応じて配合された細骨材含む混合物が例示できる。
【0021】
図1は、本発明に係るコンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法に用いる、無機系注入材料用カートリッジの一例の形態を模式的に示す断面図である。
当該カートリッジは、図1に示すように、シリンダ1、吐出口封止用アルミシート4、移動可能なピストン壁2及び、無機系注入材料用混合物3を備える。
シリンダ1の形状は円筒形等であり、ピストン壁2がシリンダ1の吐出口6に向かってシリンダ1の内壁に沿ってシリンダ1内を移動できる距離が長くなるような形状、すなわちピストン壁2が可能な限り吐出口6に近づけるような形状を採用する。
これにより、シリンダ内部で液体と混合された、Vカット部やクラック部に充填する無機系注入材料を無駄なく押出して使用することができる。
【0022】
該シリンダ1はその一端に吐出口6を備えるが、カートリッジに液体Aを導入するまでは、該吐出口6内側は密閉されている。
吐出口6を封止する手段としては、図1に示すように、吐出口6をアルミシート4のような封止シートを設けることによっても、吐出口6にキャップを備えることによっても、またアルミシート4を設けるとともにキャップで封止することによっても、いずれの手段を用いてもよい。
このように該吐出口6を封止することで、内部と外気とは遮断され、シリンダ1内部に収容されている無機系材料3が空気中に含まれる水分と接触することを回避でき、本発明のコンクリート構造物用クラック注入材料の施工方法に適用する無機系注入材料用カートリッジの寿命を長くすることが可能となる。
【0023】
シリンダ1の吐出口6の反対側には、該吐出口6に向かって移動するピストン壁2が設けられており、該ピストン壁2の形状は、該ピストン壁2の外周とシリンダ1の内壁の内周とが等しくなるような形状、該ピストン壁2がシリンダ1の内面と密着する形状である。
これにより、シリンダ1の内壁に沿ってピストン壁2がスムースに移動することが可能となるとともに、ピストン壁2とシリンダ1との内壁との間がシールされる。
例えば、シリコーンシーラントのカートリッジに用いられるピストン壁2の多くが円錐台状の形状をしており、該ピストン壁2の一部の外周がシリンダ1の内壁の内周より小さいと、ピストン壁2とシリンダ1の内壁との間に隙間が形成され、ピストン壁2がシリンダ1の吐出口6の方向に移動する際に、無機系材料中に含まれる細骨材が該間隙に入って、ピストン壁2の移動を妨げるようになり、好ましくない。
【0024】
シリンダ1の吐出口1の形状は、シリンダ1の内部に液体Aを導入できるような形状であれば、任意の形状を採用することができる。
【0025】
シリンダ1の内部には、無機系材料、例えば水硬性組成物粉体、又は水硬性組成物粉体及び細骨材が収容されている。
水硬性組成物の粉体としては、水硬性粉体のみ、水硬性粉体及び非水硬性粉体を使用することができる。
水硬性粉体とは、水と接触して硬化する粉体を意味し、好ましくはポルトランドセメント、珪酸カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムフルオロアルミネート、カルシウムサルフォアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、リン酸カルシウム、半水又は無水石膏及び自硬性を有する生石灰の粉体からなる群より選ばれた少なくとも一種類の粉体が含まれる。
前記水硬性粉体は、成形時の可使時間の点から平均粒径10〜50μm程度のものが好ましく、また、高強度を確保する点から、ブレーン比表面積が2500cm/g以上のものであることが好ましい。
従来は、少量施工の際にはハンドリングタイムが短かったため、早く固まる超速硬セメントを用いるのは難しかったが、本件発明においては、下記カートリッジを用いる施工を行うため。超速硬セメントの少量施工を簡便に行うことが可能となった。
【0026】
また、前記非水硬性粉体は、単体では水と接触しても硬化することがない粉体を意味するが、アルカリ性若しくは酸性状態、あるいは高圧蒸気雰囲気においてその成分が溶出し、他の既溶出成分と反応して生成物を形成する粉体も含む意である。
非水硬性粉体としては、水酸化カルシウム粉末、二水石膏粉末、炭酸カルシウム粉末、スラグ粉末、フライアッシュ粉末、珪石粉末、珪砂粉末、粘土粉末及びシリカフューム粉末からなる群より選ばれた少なくとも一種類の粉体が好ましい。
【0027】
また必要に応じて、該シリンダ1内に収容される細骨材としては、特に限定されるものではなく通常使用されるものを用いることができ、川砂、山砂、陸砂、砕砂、海砂、珪砂1〜7号等細骨材、または珪石粉、石灰石粉等の微粉末等を例示できる。また、使用される細骨材の粒子径は、5.0mm以下であることが、ピストンの動きをスムースにし、ノズル内での材料の閉塞を防ぐ点から好ましい。
ここで、粒子径はJIS A 1102 「骨材のふるい分け試験方法」に準じて測定した値である。
さらに、水硬性組成物の粉体には、公知の減水剤、反応促進剤の粉体を添加することができ、モルタルの練りあがり性状を施工に好ましい状態にさせることができる。
【0028】
また、シリンダ1内に導入されて前記無機材料3と反応する該液体Aの主成分は水であるが、必要に応じて、ポリマーや、短繊維、凝結遅延剤等を予め混合しておくことも可能である。
【0029】
シリンダ1内には、上記無機材料3が収容されているが、シリンダ1内全体に充填されるものではなく、一定の空洞5を設けた状態で充填されている。
上記無機材料3は、該カートリッジの容器を立てた場合、上記ピストン壁2側に偏って充填され、空洞5が、吐出口6側に出現することが望ましい。
すなわち、該空洞5は、該吐出口6側のシリンダ1の内面と、前記充填された無機材料3の端面との間に設けられることが好ましい。
【0030】
該空洞5の容積は、前記充填された無機系材料3の容量と反応する液体Aを該吐出口6より導入すべき容量と同じであるか、若干大きいものとする。
無機系材料3と反応する水等の液体Aの容量は、無機系材料3の成分や、得られる無機系注入材料の所望する粘性により変動するものであり、予め設定することができるものである。
これにより、シリンダ1内で得られる無機系材料の容量を可能な限り多くするとともに、導入した液体Aと無機系材料3とが振動によりスムースに撹拌混合することができる。
【0031】
本発明においては、水/上記混合粉体質量比が、13〜50%、好ましくは16〜40%である事が、容易に押し出すことができ、クラック及び/又はVカット部に注入量を調整しながら無機系注入材料を充填することができる。
【0032】
図2は、図1の無機系注入材料用カートリッジの使用形態の一実施例を示す模式図であり、該カートリッジの吐出口6を封止していたアルミシート4を破断させて、該カートリッジの吐出口6から無機系材料3と反応する液体Aを充填した状態を模式的に示す図である。
例えば、本発明の図1で示される無機系注入材料用カートリッジのノズルを取り除いて、吐出口6を封止していた、内部のアルミシート4を破断して、水等の液体Aを、該シリンダ1の該吐出口6よりシリンダ1内に設けられた空洞5に導入する。
予め設定された容量の液体Aを該空洞5内に導入したあと、例えばキャップ等の簡易な封止手段7によって、該吐出口6を仮密封する。
【0033】
次いで、該カートリッジに振動を与えて、該無機系材料3と該液体Aとを撹拌混合する。
振動は、人力によってカートリッジを上下、左右等に振る方法や、機械を用いて振動を与える方法であってもよく、物理的に、シリンダ1内の無機系材料3と導入された液体Aとが均質に混合される方法であれば採用することができる。
従って、無機系材料3と液体Aとを撹拌混合して、注入式の無機系注入材料10を得るのに、特別な装置等を必要とせず、簡便に混合することが可能となる。
【0034】
振動により、シリンダ1内で該無機系注入材料用混合物3と該液体Aとが均質に混合されて得られた無機系注入材料10を、上記カートリッジのピストン壁2を該吐出口6に移動させることで、押出して、コンクリート構造物30に生じたクラック及び/又はVカット部に適用する。
【0035】
一例として、該吐出口6から得られた無機系注入材料10を横向きVカット部やVカットをしていないクラック部に押出す際に、図3に示すように、該カートリッジを、一般にシーリングガンまたはコーキングガンと称される吐出機に装着して行うことができる。
シーリングガンまたはコーキングガンは、カートリッジを装着するカートリッジ用ガンとして使用することができる。
当該カートリッジは、キャップ等の封止手段7をはずした状態で、ノズル11の先端をカットし吐出口6に取り付け、カートリッジ用ガンに装着されて、施工に用いられる。かかる状態を模式的に示したのが図3である。
【0036】
前記カートリッジを、カートリッジ用ガンに装着する際には、ノズル11を装着した該カートリッジが、ピストン壁2の移動方向に移動しないように先端支持部材21で移動が規制され、さらには胴体支持部材22により該カートリッジが保持されるように装着する。先端支持部材21や胴体支持部材22、又は後述するボディ23などは必要に応じて一体的に形成することも可能である。
該胴体支持部材22は、先端支持部材21と連結されている側とは逆側で、ボディ23と連結されている。さらに、該ボディ23には把持部24が固定され、該ボディの支点29を中心に可動するレバー25を片手でも動作させ易いよう構成されている。レバー25の動きに連動する連動部26が設けられ、連動部26の移動により押圧軸27がカートリッジ方向に移動するよう構成されている。押圧軸27は、連動部26の動作によりカートリッジ方向のみに移動可能とされている。また、ピストン壁2は、その外気側、すなわち水硬性組成物10と接しているピストン壁2の面とは逆の面側で、ガン20の押圧軸27の押圧部28と接している。
【0037】
次いで、前記無機系注入材料を内部に含むカートリッジを用いて、クラックを補修する施工について一例により説明する。
本発明の施工方法を適用するクラックは、湿潤状態であっても乾燥状態であってもいずれのクラックについても適用することが可能である。また、該クラック部はVカットされてVカット部となっている場合でも、Vカットされないクラックそれ自体であっても、本発明の施工方法を適用することができる。
【0038】
一例として、コンクリート構造物30を、横向きに生じたクラックに沿ったVカットしてVカット部33を設けた。該Vカット部33は、クラックに沿って断面形状がほぼV状を呈しているものである。
次いで、該Vカット部33にプライマー34を塗布する。ここで、プライマーとしては、公知の任意のプライマーを使用することができる。
【0039】
次いで、プライマー34を塗布したVカット部33に、調製した無機系注入材料10を注入する。
具体的には、該ガンのノズル11を、コンクリート構造物30に生じたクラックのVカット部33内に、好ましくは該Vカット部33の奥に挿入して(図3(a))、該クラック内に吐出させる(図3(b))。具体的には、カートリッジを装着したカートリッジ用ガンの把持部24とレバー25とを手で握り、支点29を中心にレバー25を把持部24の方向に引き寄せることで、支点29で該レバー25に連動するように構成されている連動部26がノズル方向に移動し、これにより該連動部26と連結されている押圧軸27も移動する。そして、これにより、該押圧部27と一体となっている押圧部28をノズル方向へ移動させて、ピストン壁2を同様にノズル11方向へ移動させ、カートリッジ内の無機系注入材料10をノズル11より、Vカット部33に吐出させてクラック内に注入させる(図3(b))。
【0040】
レバー25と連動部26とは自動的に元の位置に戻るよう構成されているが、連動部26が戻る際には、押圧軸27は移動しないよう構成され、レバー25を把持部24側に引き寄せるたび毎に、押圧軸27がカードリッジ方向のみに移動し、無機系注入材料10を横向きに、Vカット部33の奥部から吐出させて、クラックの補修施工を行うことができる。
【0041】
これより、コンクリート構造物30のVカット部33に、無機系注入材料を注入施工しても、クラックから該無機系注入材料の流れ落ち、タレを防止できる。
また、Vカット部33の埋戻しの場合には、カートリッジ無機系注入材料を注入した後に、すぐにコテ仕上げすることにより作業スピードを向上させることができる。
【0042】
またコンクリート構造物に発生したクラックは、前記のように特にVカット部を設けなくても、クラックに沿って前記カートリッジ用ガンを用いて上記したと同様な方法で、該ガンのノズルの先端をクラックに沿って移動させることで、クラックに無機系注入材料10を、クラックからはみ出すことなく、流動性よく注入させることも可能である。
【0043】
このように、本発明の施工方法は、無機系注入材料を簡便に、粉塵がほぼ発生せず、手軽に施工することができるとともに、前記無機系注入材料用カートリッジを用いて、任意の向きに生じたクラックの注入施工を含め、ばらつきのない施工を簡便に実施することが可能となり、タレを生じることなく、注入量を適切にかつ容易に調節することができる。
【実施例】
【0044】
本発明の注入式無機系注入材料を以下の材料を用いて調製した。
(使用原料)
(1)Vカット部充填用材料
・セメント :商品名シスイ115、住友大阪セメント株式会社製
・細骨材 :砂 日瓢工業 3号、4号、5号砂
・プライマー:ボンドA 住友大阪セメント株式会社製
・水 :水道水
(2)クラック注入用材料
・セメント :商品名シスイ115、住友大阪セメント株式会社製
・細骨材 :砂 日瓢工業 8号砂
・プライマー:ボンドA 住友大阪セメント株式会社製
・水 :水道水
【0045】
予め図1に示すカートリッジの内部に、上記セメント及び細骨材を導入して無機系材料3を、該カートリッジの内部に空洞5が形成されるように、それぞれ充填した。該空洞5は、所望する無機系注入材料であるモルタルを得るために添加する水の容量とほぼ同容量である。
充填する無機系材料3及び空洞5(配合される水の容量とほぼ同容量)は、得られる無機系注入材料(モルタル)が、粘性約55Pa・sとなるように設計した。
該カートリッジの空洞5に、水Aを水/セメントに対して表1、表2の配合量となるように添加して、吐出口6を封止して、該カートリッジを上下することでよく撹拌して、無機系注入材料(モルタル)である、Vカット部充填用材料(実施例1〜2・比較例1〜4)とクラック注入用材料(実施例3〜4・比較例5〜7)とをそれぞれ調製した。
該各モルタルが内部で調製されたカートリッジを、図3に示す無機系注入材料用カートリッジ用ガンにそれぞれ装着した。
【0046】
(実施例1〜2、比較例1〜4)
(1)Vカット部への施工
図3に示すように、コンクリート構造物30に、横向きのクラック(幅0.5mm×長さ300mm)を設けた。該クラックは乾燥していることを確認した。
該クラックに沿ってコンクリート構造物をVカットしてVカット部33を設けた(コンクリート構造物表面側の直径10〜20mm、奥行き 10mm)。
該Vカット部33に、前記プライマー34を塗布し、該プライマーが乾燥した後、該Vカット部33に、実施例1〜2、比較例1〜4の、表1に従って調製された無機系注入材料が入っているカートリッジを備える各カートリッジガンを用いて、前記Vカット部33内にノズルを設置し(図3(a))、該ノズルから各注入材料をVカット部33の奥より充填した(図3(b))。具体的には、前記したように、該ガンのノズル11を横向きにして、レバー25を引き寄せることによりピストン壁2を移動させ、該ノズル11より上記Vカット部33に前記Vカット部33の奥より横向きに注入した。
下記表1には、カートリッジからの押出し性能とタレについて評価した結果も示す。
【0047】
【表1】

【0048】
上記表1中、カートリッジからの押出し性が問題なく可能で、タレが生じないものを評価○とし、タレて詰めることができないもの、又は粘度が高くなりすぎて、ノズルからの押出しが困難なものを評価×とし、その中間状態のものを評価△として表した。
【0049】
(実施例3〜4,比較例5〜7)
(2)クラック部への施工
クラック部への直接施工は、上記Vカット部への施工においてクラック部をVカットしない以外は、同様にして施工した。
即ち、コンクリート構造物30に、横向きのクラック((ア)幅0.5mm×深さ10mm×長さ300mm、(イ)幅0.5mm×深さ30mm×長さ300mm、(ウ)幅0.5mm×深さ40mm×長さ300mm)を3種類設けた。該クラックは乾燥していることを確認した。該クラックに前記プライマーを塗布し、該プライマーが乾燥した後、実施例3〜4及び比較例5〜7の、表2に従って調製された無機系注入材料が入っているカートリッジを備える各カートリッジガンを用いて、前記クラック部に沿ってノズルを設置し、該ノズルから各注入材料をクラック部に沿って直接充填した。具体的には、前記したように、該ガンのノズルを横向きにして、レバーを引き寄せることによりピストン壁を移動させ、該ノズルより前記クラック部に横向きで注入した。
下記表2には、カートリッジからの押出し性能とクラックへの注入性(流動性)について評価した結果も示す。
【0050】
【表2】

【0051】
上記表2中、カートリッジからの押出し性が問題なく可能で、クラック(ウ)40mmの奥まで注入が可能なものを評価◎とし、カートリッジからの押出し性が問題なく可能で、クラック(イ)30mmまでの注入が可能なものを評価○とし、カートリッジからの押出し性が問題なく可能で、クラック(ア)の10mm以下の注入が可能なものまでを評価△とし、押出し性が悪くクラックへの注入もできないものを評価×とし、その中間状態のものを評価△として表した。
【0052】
表1より、本発明の無機系注入材料の施工方法によると、コンクリート構造物のクラックに沿って形成されたVカット部に充填した無機系注入材料は、タレが生じることがなく、良好な充填性を確保することができることがわかる。一方、比較例のものは、タレが生じて充填が困難であることが明らかである。
また表2より、本発明の無機系注入材料の施工方法によると、コンクリート構造物のクラックに直接充填した無機系注入材料は、流動性が良好であるのでクラックへの注入が良好であり、十分な充填性を確保することができることがわかる。一方、比較例のものは、十分な充填が困難であることが明らかである。
また、コンクリート構造物に設けたクラックの内部が濡れている場合であっても、上記と同様の評価ができた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上のように、本発明の無機系注入材料の充填施工方法によれば、無機系注入材料をコンクリート構造物のクラック及び/又はVカット部に注入してもタレを生じることなく有効に適用することができ、建築、土木分野のコンクリート構造物において、湿潤状態又は乾燥状態のいずれの場合であっても、任意の向きで施工するのに有効に適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 シリンダ
2 ピストン壁
3 無機系注入材料用混合物
4 アルミシート
5 空洞
6 吐出口
7 封止手段
A 液体
10 無機系注入材料
11 ノズル
20 カートリッジ用ガン
21 先端支持部材
22 胴体支持部材
23 ボディ
24 把持部
25 レバー
26 連動部
27 押圧軸
28 押圧部
29 支点
30 コンクリート構造体
33 クラックに沿って形成したVカット部
34 プライマー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の乾燥又は湿潤クラックに沿って該コンクリート構造物をVカットし、該Vカット部にプライマーを塗布した後、該Vカット部に無機系注入材料を注入するにあたり、一端にノズルを有するシリンダと、該シリンダ内において、該ノズルの先端の吐出口に向かって移動可能なピストン壁と、該シリンダ内に、無機系材料である水硬性組成物粉体が収容されているカートリッジに、前記該吐出口から液体を導入し、該カートリッジに振動を与え、該水硬性組成物粉体と該液体とを撹拌混合して該カートリッジ内で無機系注入材料を調製し、該調製された無機系注入材料は水/混合粉体質量比が13〜50%であり、次いで、該ピストン壁を該吐出口側に移動させて該吐出口から該無機系注入材料を、前記クラックの該Vカット部に注入することを特徴とする、コンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法。
【請求項2】
コンクリート構造物の乾燥又は湿潤クラック部にプライマーを塗布した後、該クラック部に無機系注入材料を注入するにあたり、一端にノズルを有するシリンダと、該シリンダ内において、該ノズルの先端の吐出口に向かって移動可能なピストン壁と、該シリンダ内に、無機系材料である水硬性組成物粉体が収容されているカートリッジに、前記該吐出口から液体を導入し、該カートリッジに振動を与え、該水硬性組成物粉体と該液体とを撹拌混合して該カートリッジ内で無機系注入材料を調製し、該調製された無機系注入材料は水/混合粉体質量比が13〜50%であり、次いで、該ピストン壁を該吐出口側に移動させて該吐出口から該無機系注入材料を、前記クラック部に注入することを特徴とする、コンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のコンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法において、該シリンダ内には、無機系材料として水硬性組成物粉体に加えて、更に細骨材が収容されていることを特徴とする、コンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの項記載のコンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法において、カートリッジの該シリンダ内には、該無機系注入原料が該ピストン壁側に偏って充填され、該吐出口側の該シリンダの内面と、前記充填された、該無機系材料端面との間には空洞が形成されているカートリッジを用いることを特徴とする、コンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかの項記載のコンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法において、前記カートリッジの該空洞の容積が、前記充填された該無機系材料を該吐出口を経て導入すべき容量より大きいことを特徴とする、コンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかの項記載のコンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法は、前記カートリッジの該ピストン壁は該シリンダの内面と密着する形状であることを特徴とする、コンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかの項記載のコンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法は、クラック部及び/又はVカット部に挿入された該吐出口から無機系注入材料を押出す際には、該カートリッジをシーリングガンに装着して行うことを特徴とする、コンクリート構造物のクラック注入用材料の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−82640(P2012−82640A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231052(P2010−231052)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】