説明

コンクリート構造物用伸縮継手の固定構造

【課題】アンカーボルトの取り付け位置にかかわらず、予め必要な部材を製作しておくことができ、簡単に施工することができるコンクリート構造物用伸縮継手を提供する。
【解決手段】コンクリート構造物21,21間の目地部22に跨って配置される可撓性の伸縮継手23と、この伸縮継手23の両端部の碇着部23cに当てられてコンクリート構造物21,21とで挟むように押える押え部材27と、コンクリート構造物21,21に取り付けたアンカーボルト24で押え部材27を押えて碇着部23cを圧接する固定部材28とを備えている。これにより、伸縮継手23の碇着部23cに押え部材27を当て、アンカーボルト24を中心に回転させて固定部材28をコンクリート構造物21,21に固定することで、アンカーボルト24の位置にかかわらず、荷重を分散して面圧を均一化して伸縮継手23を固定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート構造物用伸縮継手の固定構造に関し、コンクリートで構築される水路、水処理施設、トンネル、共同溝などのコンクリート構造物の目地部に可撓性の伸縮継手を設置して止水および相対変位を可能として構造物の破損を防止できるようにしたもので、特に補修に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートで構築されるコンクリート構造物である水路や水槽あるいは共同溝等の地中に構築される暗渠などの壁部分の目地部には、内外を止水するとともにその両側のコンクリート構造物の不等沈下や地震時変位並びに温度変化等に起因する壁部分の伸縮等を許容する必要があり、コンクリート構造物の内側にゴムや合成樹脂の止水板などの可撓性の伸縮継手を設けた可撓止水構造が採られている。
【0003】
このような可撓止水構造として、例えば特許文献1に開示された止水構造があり、図7に示すように、弾性材と一層以上の応力材を埋設した目地材1の中程にU型の溝状の余長部2を形成するとともに、両側に係止部3,3を形成して目地材1を構成する一方、コンクリート構造物4,4間の目地部5に形成した凹部6に目地材1の余長部2を納め、両側の係止部3、3をコンクリート構造物4,4に埋設固定したアンカーボルト7と押え板8を介して取り付けるようにしている。これにより、コンクリート構造物4,4の内側への目地材1の突き出しをなくし、水路とする場合の流れの抵抗を防止する。
【0004】
このような止水構造は、新たにコンクリート構造物を構築する場合だけでなく、既存のコンクリート構造物に設けることで耐震補強を行なうために施工されたり、交換・補修のために施工される。
【0005】
ところが、この止水構造を既設の暗渠などのコンクリート構造物に施工しようとすると、目地材1を固定するアンカーボルト7をコンクリート構造物4,4に穿孔して取り付ける必要があるが、コンクリート構造物4,4の鉄筋に当たる場合があり、穿孔位置をずらしてアンカーボルト7を取り付けなければならないことも多い。
このため、アンカーボルト7の取り付けが終わった段階で現場でボルトピッチなどを測定し、その結果に合わせて押え板8、目地材1などの製作及び孔加工を行なう必要があり、製作や孔加工が煩雑であり、工期も長くなるという問題がある。
【0006】
そこで、アンカーボルトの取り付け位置にかかわらず、あらかじめ必要な部材を製作しておくことができ、簡単に可撓止水部材を施工することができる可撓止水構造を提案しており(特許文献2,3)、例えば特許文献2の可撓止水構造10では、図8に示すように、コンクリート構造物11,11間の目地部12に跨って配置される可撓性の伸縮部13aを備えた伸縮継手13の両端部の碇着部13bに押え部材17を当て、アンカーボルト14で中間部18cが支持固定される固定部材18の先端部18aで押え部材17を押えるとともに、基端部18bをコンクリート構造物11に当てるようにすることで、アンカーボルト14の取付位置にかかわらず、所定の位置で押え部材17を押えて可撓止水継手13を取り付けることができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−64446号公報
【特許文献2】特開2008−280748号公報
【特許文献3】特開2010−150807号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような可撓止水構造10によれば、アンカーボルトの取り付け位置にかかわらず、予め必要な部材を製作しておくことができるものの、直接アンカーボルトで可撓止水継手を固定する場合に比べ、施工高さが高くなったり、伸縮部の大きな可撓止水継手を用いると、施工幅が大きくなるなど、改良の余地がある。
この発明は、かかる従来技術に鑑みてなされたものであって、アンカーボルトの取り付け位置にかかわらず、予め必要な部材を製作しておくことができ、簡単に施工することができるとともに、施工高さや施工幅をコンパクトにすることができるコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためこの発明の請求項1記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造は、コンクリート構造物間の目地部に跨って配置される可撓性の伸縮継手と、この伸縮継手の両端部の碇着部に当てられて前記コンクリート構造物とで挟むように押える押え部材と、前記コンクリート構造物に取り付けたアンカーボルトで中間板状部が固定されこの中間板状部の両側に形成される両側板部の基端部を当該コンクリート構造物に当てるとともに、両側板部の先端部で前記押え部材を押えて前記碇着部を圧接する固定部材とを備えてなり、前記押え部材をリップ溝型形状に構成する一方、前記固定部材の両側板部の前記先端部に、前記押え部材の溝内に突出して係止する係止突出部を形成して構成したことを特徴とするものである。
【0010】
この発明の請求項2記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造は、請求項1記載の構成に加え、コンクリート構造物間の目地部に対向する段差部による収納部を形成し前記可撓性の伸縮継手の伸縮部を収納可能に構成したことを特徴とするものである。
【0011】
この発明の請求項3記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造は、請求項1または2記載の構成に加え、前記可撓性の伸縮継手の両端部の碇着部に、前記押え部材を可撓性により挟圧し得る一対の突縁部を形成してなることを特徴とするものである。
【0012】
この発明の請求項4記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造は、請求項1〜3のいずれかに記載の構成に加え、前記押え部材に補強部材を固定して設けて補強してなることを特徴とするものである。
【0013】
この発明の請求項5記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造は、請求項1〜4のいずれかに記載の構成に加え、前記固定部材を前記コンクリート構造物に取り付けるアンカーボルトを、傾斜穴に取り付けても角度修正可能な上部突出代を確保して設けてなることを特徴とするものである。
【0014】
この発明の請求項6記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造は、請求項1〜5のいずれかに記載の構成に加え、前記伸縮継手の伸縮部を円弧部で連続させた略W字状の横断面形状とするとともに、前記円弧部を大きな曲率半径で構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明の請求項1記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造によれば、コンクリート構造物間の目地部に跨って配置される可撓性の伸縮継手と、この伸縮継手の両端部の碇着部に当てられて前記コンクリート構造物とで挟むように押える押え部材と、前記コンクリート構造物に取り付けたアンカーボルトで中間板状部が固定されこの中間板状部の両側に形成される両側板部の基端部を当該コンクリート構造物に当てるとともに、両側板部の先端部で前記押え部材を押えて前記碇着部を圧接する固定部材とを備えてなり、前記押え部材をリップ溝型形状に構成する一方、前記固定部材の両側板部の前記先端部に、前記押え部材の溝内に突出して係止する係止突出部を形成して構成したので、可撓性の伸縮継手の碇着部に押え部材を当て、アンカーボルトに中間板状部が固定される固定部材の両側板部の先端部2箇所で押え部材を押えるとともに、両側板部の基端部の2箇所をコンクリート構造物に当てるようにすることで、アンカーボルトの位置にかかわらず、所定位置の押え部材を、荷重を分散して面圧を均一化して押えて伸縮継手を固定することができるとともに、コンクリート構造物に変位が生じた場合でも固定部材の両側板部の弾性的な変形を利用して均一な固定状態を維持することができる。これにより、アンカーボルトの取り付け位置が決まる前でも可撓性の伸縮継手、押え部材、固定部材を製作でき、施工も容易で、短期間に交換・補修することができる。
また、前記押え部材をリップ溝型形状に構成したので、板状の場合に比べ、剛性を高めることができるとともに、軽量化を図ることができる。
さらに、前記固定部材の両側板部の前記先端部に、前記押え部材の溝内に突出して係止する係止突出部を形成して構成したので、係止突出部を押え部材の溝内に位置させることで、確実に押えることができ、コンクリート構造物の変位によっても外れることを防止して確実に押さえることができるとともに、固定部材の押え部材の溝からの突き出し部分を極力小さくして伸縮継手が変位した場合の干渉や損傷を防止することができる。
【0016】
この発明の請求項2記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造によれば、コンクリート構造物間の目地部に対向する段差部による収納部を形成し前記可撓性の伸縮継手の伸縮部を収納可能に構成したので、伸縮代の大きな伸縮継手を収納部に収納することで、収納高さを押えることができるとともに、収納幅を小さくすることもでき、コンパクトに構成することができる。
【0017】
この発明の請求項3記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造によれば、前記可撓性の伸縮継手の両端部の碇着部に、前記押え部材を可撓性により挟圧し得る一対の突縁部を形成したので、定着部外側に形成する突縁部と伸縮部の外側を兼用するなどの突縁部とで押え部材を挟むようにすることで、伸縮継手に加わる力や変位に対する安定性を向上することができ、一層水圧などに強い構造とすることができる。
【0018】
この発明の請求項4記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造によれば、前記押え部材に補強部材を固定して設けて補強したので、押え部材が取り付け位置によって垂直や逆さになっても固定した補強部材によって補強することができ、大きな固定力を付与して伸縮継手を固定することができるとともに、均一に固定することができる。
【0019】
この発明の請求項5記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造によれば、前記固定部材を前記コンクリート構造物に取り付けるアンカーボルトを、傾斜穴に取り付けても角度修正可能な上部突出代を確保して設けたので、コンクリート構造物の鉄筋などとの干渉を防止して傾斜した傾斜穴にアンカーボルトを取り付けても上部に突出した部分をハンマーなどで叩いて垂直に修正することができ、アンカーボルトの修正作業を効率的に行うことができるとともに、垂直なアンカーボルトで必要な締め付け力を確保することができる。
【0020】
この発明の請求項6記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造によれば、前記伸縮継手の伸縮部を円弧部で連続させた略W字状の横断面形状とするとともに、前記円弧部を大きな曲率半径で構成したので、伸縮部を水平に折り重ねるようにする場合に比べ、大きな変位が加わる場合にもスムーズに伸張させることができ、伸縮部の損傷を防止することもできる。また、円弧部の曲率を大きくすることで変位時の損傷を確実に抑えることができ、変位時に円弧部が反転する場合の曲げ歪が100%を越えないようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造の一実施の形態にかかる部分拡大斜視図である。
【図2】この発明のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造の一実施の形態にかかる全体の概略横断面図である。
【図3】この発明のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造の一実施の形態にかかる押え部材の補強状態を示す説明図である。
【図4】この発明のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造の一実施の形態にかかるアンカーボルトの角度修正状態の説明図である。
【図5】この発明のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造の一実施の形態にかかる固定部材の弾性変形状態を誇張して示す説明図である。
【図6】この発明のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造の他の一実施の形態にかかる全体の概略横断面図である。
【図7】従来の止水構造の横断面図である。
【図8】従来の可撓止水構造の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明を実施するための形態について、図面に基づき詳細に説明する。
このコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造(以下、単に固定構造とする。)20では、例えば図2(図6)に示すように、既設のコンクリート構造物21,21の目地部22に跨るように施工することで、止水するとともに、目地部22の両側のコンクリート構造体21,21の不等沈下や地震時変位並びに温度変化等に起因する壁部分の伸縮等を許容するゴムや合成樹脂などの可撓性の伸縮継手23の固定に特徴があり、新設するアンカーボルト24のボルトピッチに鉄筋などとの干渉防止のためにズレなどが生じても簡単に対応できるようにするとともに、施工高さや幅を押えてコンパクトにでき、締付け力を分散して均一に固定できるようにしたものであり、しかも,可撓性の伸縮継手23が変位した場合に固定構造20と干渉せず、損傷を防止できるようにしたものである。
【0023】
この固定構造20に用いられる可撓性の伸縮継手23は、長尺帯状の幅方向中間部に横断面形状が円弧部23aで連続させた略W字状に蛇行する伸縮部23bを備えるとともに、幅方向両端部に平板状の碇着部23cが設けられてゴムや合成樹脂などの弾性部材で構成され、必要に応じて補強層が一層ないし複数層埋設される。このような円弧部23aで連続させ、中間部を垂直方向に蛇行させた伸縮継手23とすることで、従来の水平方向に折り重ねた伸縮継手に比べ、伸縮部23bが変位などで伸張する場合に自重や摩擦などの影響を抑えてスムーズに伸張させることができ、伸縮継手23自体の損傷を防止することができる。また、伸縮継手23の円弧部23aの曲率半径をできるだけ大きくすることで変位時の損傷を確実に抑えることができ、変位時に円弧部が伸長する場合の曲げ歪が100%を越えないようにすることもできる。
【0024】
この固定構造20では、コンクリート構造物21、21の目地部22を跨ぐように伸縮継手23の碇着部23c、23cが配置されるが、コンクリート構造物21,21の目地部22には、段差部21a,21aが対向して溝状に形成され、伸縮継手23の伸縮部23bを収納する収納部25としてある。この収納部25により伸縮継手23の施工高さを抑えることができる。なお、収納部25の幅および深さは、伸縮継手23として必要な伸縮部23bの大きさによって定められる。また、伸縮継手の伸縮代によっては、コンクリート構造物21,21に形成する収納部25を省略することもでき、平坦な目地部22間に伸縮継手を設置しても良い。
【0025】
伸縮継手23は、コンクリート構造物21、21の目地部22上に必要に応じてポリエステルなどの補強布が敷かれ、その上に必要に応じてさらに止水材を介して伸縮継手23が設置され、この伸縮継手23の両側の碇着部23c、23cまでの上部全体を覆うように必要に応じて保護カバー26が設けられ、この保護カバー26にも伸縮に対応できる折り畳み部26aを設けてある。
【0026】
そして、この固定構造20では、伸縮継手23の碇着部23cに当てる押え部材27が用いられ、上方が開口した略コ字状のリップ溝型形状の横断面形状のもので構成され、例えば溝幅を50mm、溝高さを25mm、厚さを2mm、リップ幅を10mmとする。このリップ溝型形状の横断面形状により、幅50mm、厚さ16.7mmの平板状とする場合に比べ、同一の剛性を確保しながら、重量を1/3.73に軽量化することができる。
【0027】
なお、さらに剛性を上げる必要がある場合には、図3に示すように、押え部材27の溝内に例えば、溝深さと略同一の直方体状の補強部材27aや断面コ字状のC型鋼の補強部材27bなどを介在させてアンカーボルトと干渉しない位置でボルトナット27cで固定したり、溶接などで固定することで、押え部材27が垂直壁面に配置される場合や天井壁面に配置される場合にもずれることなく、安定して補強することができる。
【0028】
このような押え部材27を用いる固定構造20では、押え部材27をアンカーボルト24で直接コンクリート構造物21、21に固定することなく、伸縮継手23の外側に植設するアンカーボルト24を介して固定部材28を締め付け、この固定部材28を介して押え部材27を固定する。
【0029】
この固定部材28は、アンカーボルトにて挿通固定される中間板状部28aを備えてアンカーボルト14用の取り付け穴28bが形成され,この中間板状部28aの両側を内側に曲げ起こすように曲げ加工して両側板部28c、28cが形成してある。これら両側板部28cのそれぞれの先端部に押え部材27を押える押えアーム部28dが突き出すように形成されるとともに、両側板部28cのそれぞれの基端部に中間板状部28aと空間を隔てて同一面をなしコンクリート構造物21に当接されるように内側に突き出した弾性当接部28fを一体に形成して構成してある。そして、この固定部材28では、押えアーム部28dの突き出し長さが押え部材27の溝幅と略同一の長さとされ、押えアーム部28dの先端部は押え部材27の外側に僅かに突き出す状態してある。これにより、伸縮継手23が大きく変位しても干渉や損傷を防止できるようにしている。
なお、押えアーム部28dの先端部により伸縮継手23が大きく変位した場合の干渉や損傷を防止するため、図3(a)に示すように、先端上部を円弧状にして後退させたり、同図(b)に示すように、押えアーム部28dの先端面を押え部材27より後退させるようにすることが一層効果的である。また、先端上部を円弧状にして後退させることと先端面の後退とを組み合わせるようにしても良い。
【0030】
この固定部材28には、押えアーム部28dの下面に押え部材27の溝内に突き出して係止される係止突出部28eが形成してあり、係止突出部28eが押え部材27の溝幅と略同一大きさとされ、係止突出部28eの前後で係止できるようにしてある。
なお、係止突出部28eの突出量は伸縮継手23の変位により押え部材27が移動しないようにできれば良い。
【0031】
また、この固定部材28では、中間板状部28aの下面から両側板部28cの押えアーム部28dの下面までの距離(側板部の高さに相当)をアンカーボルト24に締め付けたときに、押え部材27を介して伸縮継手23の碇着部23cをコンクリート構造物21に圧着するのに必要な面圧を発生できるように設定してある。
【0032】
さらに、この固定構造20では、可撓性の伸縮継手23の両端部の碇着部23cに、押え部材27を載置して固定部材28で締め付ける場合のずれを防止するため、碇着部23cに一対の突縁部23d、23dが形成され、一対の突縁部23d、23dの間隔を押え部材27の幅と略同一ないし狭くすることで、伸縮継手23の可撓性により押え部材27を挟圧し得るようにしてある。この固定構造10では、一対の突縁部23d、23dのうち一方が碇着部23cの外側に形成され上方に突き出す突縁部23dとされ、もう一方が伸縮部23bの外面と兼用してある。
これにより、一対の突縁部23d、23dで押え部材27を挟むようにしたり、さらに弾性力で挟むようにすることで、伸縮継手23に加わる力や変位に対する安定性を向上することができ、一層水圧などに強い構造とすることができる。
【0033】
次に、このような固定部材28を用いて伸縮継手23を設置するこの発明の固定構造20の施工方法について説明する。
予め、伸縮継手23、押え部材27および固定部材28を工場で製作するとともに、施工現場では、伸縮継手23の碇着部23c、23cの外側となるコンクリート構造物21、21にアンカーボルト24を植設する。
【0034】
この固定構造20では、アンカーボルト24を植設する場合に、例えば図4に示すように、コンクリート構造物21の内部の鉄筋に当るため、穴深さが確保できない場合があり、この場合には、ドリルを傾けて傾斜穴29を形成し、アンカーボルト24を植設する。
そして、傾斜穴29に取り付けたアンカーボルト24にナット24aを取り付けた後、ハンマーによる打撃などでアンカーボルト24の角度修正を行うことでコンクリート構造物21の表面に対して垂直となるようにするが、この角度修正が可能な上部突出代を確保したアンカーボルト24を用意するようにしている。この上部突出代は,例えば25〜45mm程度確保するようにすれば良い。
なお、傾斜穴29以外の部分へのアンカーボルトの植設には、通常長さ、すなわち固定部材28を締め付けることができる長さのものを使用すれば良いことは言うまでもない。
また、アンカーボルト24としては、例えばケミカルアンカーが用いられ、ステンレス製のM16のボルトが使用される。
さらに、傾斜穴に取り付けたアンカーボルトの角度修正は、アンカーボルトにパイプを指して曲げるようにしたり、パイプを介してジャッキなどで外力を加えて曲げるようにすることもできる。
【0035】
この後、まず、コンクリート構造物21,21の目地部22に跨るように必要に応じて補強布を敷き、その上に必要に応じて止水材を介して伸縮継手23を配置し、その外側を必要に応じて保護カバー26で覆って伸縮部材23を設置する。
なお、コンクリート構造物21,21の目地部22に対向する段差部21a,21aが対向して溝状に形成されていない場合には、溝加工を行い伸縮継手23の伸縮部23bを収納する収納部25を形成した後、伸縮継手23の設置を行う。
【0036】
そして、伸縮継手23の碇着部23c、23c上の一対の突縁部23d、23d間、ここでは、碇着部23cの外側に形成され上方に突き出す突縁部23dと伸縮部23bの外面との間に押え部材27を配置して挟むようにし、押え部材27の両端部など仮固定に必要な位置において、アンカーボルト24を利用して固定部材28を締め付けて押え部材27を介して伸縮継手23を仮固定する。
【0037】
なお、碇着部23c上に押え部材27を配置する場合の連結部では、これまでのアンカーボルトで直接固定する場合のようなボルト穴の位置調整のため隙間(クリアランス)が必要でなく、密着させた状態で押え部材27を配置することができ、特にコーナ部分でも隙間(クリアランス)を設けることなく連結して配置することができ、これによって面圧を均一にして伸縮継手23を締め付けて取り付けることができる。
【0038】
こうして仮固定した後、固定部材28の中間板状部28aの取り付け穴28bにアンカーボルト24を挿通してナット24aで仮止めして回転できる状態あるいは移動できる状態とした後、アンカーボルト24を中心に回転したり、移動して固定部材28の先端部の係止突出部18eが押え部材27の溝内に位置して突き出すようにして押えアーム部28dを押え部材27上に位置させるとともに、基端部の弾性当接部28fをコンクリート構造物21に当接させる。
【0039】
この後、ナット24aをアンカーボルト24に締め付けることで固定部材28を締め付けて押え部材27を介して伸縮継手23の碇着部23cをコンクリート構造物21に圧着する。
【0040】
このようなアンカーボルト24への固定部材28の仮固定、固定部材28の回転または移動、固定部材28の締め付け作業を繰り返すことで伸縮継手23の固定が完了する。
【0041】
この固定構造20での固定部材28による締付け状態では、固定部材28の中間板状部28aに加えられた締付け力が、両側板部28cの押えアーム部28dの2箇所と弾性当接部28fの2箇所の合計4箇所に分散されて加わることになり、これまでのアンカーボルトで直接固定する場合などに比べ、締付け面圧を均一にすることができる。
これにより、アンカーボルト24のボルトピッチを大きくすることもでき、工数削減を図ることができる。
【0042】
また、この固定構造20では、締付け力によって、固定部材28の両側板部28cが、図5に示すように、外側に広がるように弾性変形するとともに、弾性当接部28fが弾性変形することおよび締付け力によって、押え部材27の両側部が倒れるように弾性変形した状態で固定されるので、コンクリート構造物21に変位が生じた場合でもこれらの弾性変形によるばね効果によって締付面圧の低下を低減して固定状態を保持することができる。
【0043】
さらに、この固定構造20では、伸縮継手23の碇着部23cを直接アンカーボルトで固定する場合に比べ、アンカーボルト24での締め付けは固定部材28の中間板状部の厚さだけとなって伸縮継手23の厚さ分だけ締付高さを低くすることができ、コンクリート構造物21の内部空間への影響を抑えることができる。
【0044】
また、固定部材28の押えアーム部28dの係止突出部28eによって、例えコンクリート構造物21に変位が生じても固定部材28の押えアーム部28dが外れ難く、抜け防止効果を増大することができる。
【0045】
このような固定構造20によれば、これまでのアンカーボルトの位置が決まってからボルトピッチを測定し、これに基づいて可撓性の伸縮継手、押え部材、保護カバーなどの穴加工をする必要がなく、アンカーボルト24の設置と並行して可撓性の伸縮継手23、押え部材27、固定部材28の製作を行うことができ、固定構造20の施工を短期間に完了することができる。また、固定部材28の先端を押え部材27から極力突き出さないようにしたり、後退した状態にでき、伸縮継手23の変位時の干渉や損傷を防止することができる。
【0046】
また、この固定構造20によれば、押え部材27をリップ溝型形状に構成したので、板状の場合に比べ、剛性を高めることができるとともに、軽量化を図ることができる。
さらに、固定部材28の両側板部28c,28cの先端部に、押え部材27の溝内に突出して係止する係止突出部28eを形成して構成したので、係止突出部28eを押え部材17の溝内に位置させることで、確実に押えることができ、コンクリート構造物21,21の変位によっても外れることを防止して確実に押さえることができる。
【0047】
また、この固定構造20によれば、コンクリート構造物21,21間の目地部22に対向する段差部21a,21aによる収納部25を形成し,可撓性の伸縮継手23の伸縮部23bを収納可能に構成したので、伸縮代の大きな伸縮継手23を収納部25に収納することで、収納高さを押えることができるとともに、収納幅を小さくすることもでき、コンパクトに固定構造20を構成することができる。
【0048】
さらに、この固定構造20によれば、可撓性の伸縮継手23の両端部の碇着部23c,23cに、押え部材27を可撓性により挟圧し得る一対の突縁部23dを形成したので、碇着部23cの外側に形成する突縁部23dと伸縮部23bの外側を兼用するなどの突縁部23dとで押え部材27を挟むようにすることで、伸縮継手23に加わる力や変位に対する安定性を向上することができ、一層水圧などに強い構造とすることができる。
【0049】
また、この固定構造20によれば、押え部材27に補強部材27a,27bを固定して設けて補強したので、押え部材27が取り付け位置によって垂直や逆さになっても固定した補強部材27a,27bによって補強することができ、大きな固定力を付与して伸縮継手23を固定することができるとともに、均一に固定することができる。
【0050】
さらに、この固定構造20によれば、固定部材28をコンクリート構造物21,21に取り付けるアンカーボルト24を、傾斜穴29に取り付けても角度修正可能な上部突出代を確保したので、コンクリート構造物21の鉄筋などとの干渉を防止して傾斜した傾斜穴29にアンカーボルト24を取り付けても上部に突出した部分にナット24aを取り付けてハンマーなどで叩いて垂直に修正することができ、アンカーボルト24の修正作業を効率的に行うことができるとともに、垂直なアンカーボルト24で必要な締め付け力を確保することができる。
【0051】
また、この固定構造20によれば、伸縮継手23の伸縮部23bを円弧部23aで連続させた略W字状の横断面形状として構成したので、伸縮部23bを水平に折り重ねるようにする場合に比べ、大きな変位が加わる場合にもスムーズに伸張させることができ、伸縮部23bの損傷を防止することもできる。さらに、円弧部の曲率半径をできるだけ大きくしておくことで変位時の損傷を確実に抑えることができ、変位時に円弧部が伸長する場合の曲げ歪が100%を越えないようにすることもできる。
【0052】
なお、上記実施の形態では、可撓性の伸縮継手として中間部に伸縮部として5つの円弧部で連続する略W字状の横断面形状のものを例に説明したが、これに限らず、例えば図6に示すように、伸縮部を3つの円弧部で連続する略W字状の横断面形状のものなど他の形状の可撓性の伸縮継手を用いることもできる。
また、この実施の形態の伸縮継手以外の構成は、収納部が平坦とされている以外は、すでに説明したものと同一であって同一の作用・効果を奏するものであり、同一部材に同一番号を記し、その説明は省略する。
さらに、固定部材の構成も上記実施の形態で説明したものに限らず、同一の機能を備えたものであれば、同様に使用することができる。
【符号の説明】
【0053】
20 コンクリート構造物用伸縮継手の固定構造(固定構造)
21 コンクリート構造物
22 目地部
23 可撓性の伸縮継手
23a 円弧部
23b 伸縮部
23c 碇着部
23d 突縁部
24 アンカーボルト
24a ナット
25 収納部
26 保護カバー
26a 折り畳み部
27 押え部材
27a 補強部材
27b 補強部材
27c ボルトナット
28 固定部材
28a 中間板状部
28b 取り付け穴
28c 両側板部
28d 押えアーム部
28e 係止突出部
28f 弾性当接部
29 傾斜穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物間の目地部に跨って配置される可撓性の伸縮継手と、
この伸縮継手の両端部の碇着部に当てられて前記コンクリート構造物とで挟むように押える押え部材と、
前記コンクリート構造物に取り付けたアンカーボルトで中間板状部が固定されこの中間板状部の両側に形成される両側板部の基端部を当該コンクリート構造物に当てるとともに、両側板部の先端部で前記押え部材を押えて前記碇着部を圧接する固定部材とを備えてなり、
前記押え部材をリップ溝型形状に構成する一方、前記固定部材の両側板部の前記先端部に、前記押え部材の溝内に突出して係止する係止突出部を形成して構成したことを特徴とするコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造。
【請求項2】
コンクリート構造物間の目地部に対向する段差部による収納部を形成し前記可撓性の伸縮継手の伸縮部を収納可能に構成したことを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造。
【請求項3】
前記可撓性の伸縮継手の両端部の碇着部に、前記押え部材を可撓性により挟圧し得る一対の突縁部を形成してなることを特徴とする請求項1または2記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造。
【請求項4】
前記押え部材に補強部材を固定して設けて補強してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造。
【請求項5】
前記固定部材を前記コンクリート構造物に取り付けるアンカーボルトを、傾斜穴に取り付けても角度修正可能な上部突出代を確保して設けてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造。
【請求項6】
前記伸縮継手の伸縮部を円弧部で連続させた略W字状の横断面形状とするとともに、変位時に内側となる前記円弧部の曲率半径を大きくして構成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−225037(P2012−225037A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92796(P2011−92796)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000196624)西武ポリマ化成株式会社 (60)
【Fターム(参考)】