説明

コンクリート構造用塗装めっき鋼材

【課題】コンクリートとの接触面における耐食性に優れたコンクリート構造用塗装めっき鋼材を提供する。
【解決手段】少なくともコンクリートと接する面の最上層に、フッ素樹脂系塗装を有し、下地のめっきとしてMg:2〜10質量%、Al:4〜20質量%、Si:0.01〜2質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn−Al−Mg−Si合金めっき層を有し、該Zn−Al−Mg−Si合金めっき層が〔Al/Zn/MgZnの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕と〔Al相〕が混在した金属組織を有し、かつ、〔Al相〕の中にZn−Mg系金間化合物としてMgZnを含有することを特徴とするコンクリート構造用塗装めっき鋼材。Zn−Al−Mg−Si合金めっき相の下層にNiめっき層を設けることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐コンクリート腐食性に優れた塗装めっき鋼材に関する。さらに詳しくは、コンクリート中にガードレールや防音壁の本体或いは支柱として埋め込まれたり、スチールハウスの最下階で、コンクリートと接触する状態に置かれたりする際に、長期耐久性に優れたコンクリート構造体を形成するのに適したコンクリート構造用塗装めっき鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは優れた構造体であり、古くから様々な構造物に使用されている。また、コンクリートに鉄製のガードレールや防音壁を埋め込んだり、スチールハウスの最下階においてはコンクリートと接触する形で鉄が使用されたりする場合がある。
【0003】
鉄がコンクリートに埋設され、コンクリートと接触した状態におかれた場合、通常はコンクリートのpHが12.5程度の強アルカリに保持されているため、接触面で鉄は不動態化し、鉄の腐食は抑制されている。しかし、コンクリートが中性化した場合やコンクリート中に塩化物イオンが進入した場合には鉄に腐食が起こり、鉄とコンクリートからなる構造体の破壊が起きやすくなる。
【0004】
以上述べたような、コンクリートとの接触部での鉄の腐食の問題を解決するために、各種めっきを鉄に施す方法が提案されている。古くから検討されているのは、亜鉛めっきによる防食である。確かに亜鉛めっきにより中性化したコンクリート中での耐食性はある程度保持されるが、亜鉛めっきはコンクリートの強アルカリ性条件で溶解すること、塩化物イオンの存在化で耐食性が低下すること、といった問題点がある。
【0005】
これらを解決する方法として、例えば、以下に示した特許文献1では、Niを主原料とした各種Ni合金めっき鋼材が、耐塩性鉄筋コンクリート用鋼材として提案されている。このNi合金めっき鋼材は、幅広いpH領域で鉄筋よりコンクリート中での耐食性に優れている。しかし、Niは鉄より貴な金属であるため、鉄に対する犠牲防食能力を持っていない。従って、何らかの原因でNi合金めっきに疵が入り、下地の鉄が露出した場合には、鉄の腐食が促進されるという問題がある。
【0006】
これらを解決する技術として、本発明者らは、以下に示した特許文献2において、Zn−Al−Mg−Si合金めっき層を有する鋼材を提案した。確かにこのめっきを施すことで、コンクリートに接触する鋼材の耐食性は向上した。しかし、Zn−Al−Mg−Si合金めっきも長期間使用すると徐々に腐食により減耗していくものであり、コンクリートとの接触面においてより長期の耐久性に優れる鋼材が望まれていた。また、人間の目に見える部分においては、めっきの金属外観ではなく、より意匠性に優れた外観も望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−153287号公報
【特許文献2】特開2008−75100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、現在までに様々な防食方法が検討されてきているものの、コンクリート中またはコンクリートと接触する環境で、十分な長期耐食性を有し、さらには意匠性を有する鋼材は、未だ提案されていない。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、幅広いpH範囲にわたって安定で、鉄に対する犠牲防食能力を有し、塩化物イオンに対しても優れた耐食性を有し、さらには意匠性をも有するコンクリート構造用塗装めっき鋼材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するもので、その趣旨とするところは以下のとおりである。
(1)少なくともコンクリートと接する面に、フッ素系樹脂からなる塗膜を最上層に有し、下地のめっき鋼材として、Mg:2〜10質量%、Al:4〜20質量%、Si:0.01〜2質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn−Al−Mg−Si合金めっき層を有し、該Zn−Al−Mg−Si合金めっき層が〔Al/Zn/MgZnの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕と〔Al相〕が混在した金属組織を有し、かつ、〔Al相〕の中にZn−Mg系金間化合物を含有することを特徴とするコンクリート構造用塗装めっき鋼材。
(2)前記Zn−Mg系金属間化合物がMgZnである(1)記載のコンクリート構造用塗装めっき鋼材。
(3)前記Zn−Al−Mg−Si合金めっき層の下層に、付着量が0.2〜2.0g/mであるNiめっき層を有する(1)又は(2)に記載のコンクリート構造用塗装めっき鋼材。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明のコンクリート構造用塗装めっき鋼材は、コンクリート中またはコンクリートと接触する環境で十分な長期耐久性を有すると同時にコンクリートと接触せずに人目に触れる部分では意匠性をも有するものであり、部分的にコンクリートに埋め込まれるガードレールや防音壁の鋼材、スチールハウスの最下階でコンクリートと接する鋼材等の用途に好適なものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決し、優れた耐食性と意匠性とを有するコンクリート構造用塗装めっき鋼材を開発するために、様々な塗装めっき鋼材とコンクリートとの接触腐食試験を行った。
【0014】
特に、種々のpHの塩化物イオンを含む水溶液に対する塗装めっき鋼材の塗膜の劣化挙動と腐食挙動とを、詳細に検討した。
【0015】
その結果、コンクリートと接触する最上層の塗膜としてフッ素系樹脂を有するものが、コンクリートが生み出す強アルカリ性条件下においても長期間にわたって塗膜が劣化せず、健全な状態を保持することを明らかにした。また、コンクリートと接触する最上層の塗膜としてフッ素系樹脂を有するものが、太陽光に長時間さらされても劣化せず、美麗な意匠を保持し続けることを明らかにした。
【0016】
さらに、下地めっきとして、亜鉛を主成分とする亜鉛系合金めっきを使用して下地の鉄に対する犠牲防食能力を担保し、添加剤としてMgとAlとSiを加えたものが、塗膜に疵が入ってめっきが露出した場合でも、幅広いpH領域で、塩化物イオンの存在環境下であっても、優れた耐食性を有する事を明らかにした。
【0017】
以上のフッ素系樹脂塗装と下地めっきを組み合わせることにより、意匠性と耐食性に優れるコンクリート構造用塗装めっき鋼材を開発し、本発明を完成させた。
【0018】
本発明のフッ素樹脂塗装としては特に限定するものではなく、例えば、フルオロエチレン/ビニルエーテル共重合体樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂等を使用することができる。これらフッ素原子を有する分子結合は、結合エネルギーが高く、また、疎水性も高いため、コンクリートとの接触面で生ずる高アルカリ性水溶液の雰囲気でも分解することなく、長期間にわたって安定に存在する。
【0019】
また、屋外のガードレールのような太陽光が当たる環境においても、同様の理由で光劣化せず安定に存在する。そのため、耐食性と同時に意匠性を長期にわたって保持できるものである。
【0020】
特に好適なフッ素樹脂は、フルオロエチレン/ビニルエーテル共重合体樹脂である。この樹脂は、溶剤に溶けやすく塗料化が容易であるため、工業的に使用しやすい。
【0021】
本発明のフッ素系樹脂の膜厚は特に限定するものではないが、例えば、1μm〜100μmである。1μm未満では完全にめっき表面を覆い尽くすことができず、わずかに生じた欠陥から腐食が進行する。一方、100μm超では塗膜による保護効果が飽和するため、経済的ではない。フッ素系樹脂の膜厚は、特に好ましくは5μm〜50μmである。
【0022】
本実施形態に係る塗装めっき鋼材のフッ素系樹脂塗装には、通常、塗料に添加されている添加剤であれば、問題なく添加することができる。例えば、顔料としては、無機系、有機系、両者の複合系に関わらず、公知のものを使用することができ、チタン白、亜鉛黄、アルミナ白、シアニンブルー等のシアニン系顔料、ピラゾロンオレンジ、アゾ系顔料、紺青、縮合多環系顔料等が例示できる。この他に、金属片、金属酸化物、パール顔料、マイカ顔料等の光輝性顔料、インジゴイド染料、硫化染料、フタロシアニン染料、ジフェニルメタン染料、ニトロ染料、アクリジン染料等の染料等が挙げられる。顔料濃度は特に限定されず、必要な色や隠蔽力により決定すればよい。
【0023】
さらに、着色顔料以外にも、塗料に通常添加されているものであれば、問題なく添加できる。このような添加剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、石膏、クレー等の体質顔料、有機架橋微粒子、無機微粒子等がある。また、必要に応じて、表面平滑剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、粘度調整剤、硬化触媒、顔料分散剤、顔料沈降防止剤、色別れ防止剤等を用いることができる。
【0024】
本実施形態に係るフッ素系樹脂塗装の形成は、塗料の形態により、はけ、ロールコーター、カーテンフローコーター、ローラーカーテンコーター、ブレードコーター、ダイコーター、ラミネーター等を用いて塗布し、焼き付け硬化乾燥、又は、加熱加圧接着させる。塗料を焼き付けるには、熱風炉、誘導加熱炉、近赤外炉、遠赤外炉、エネルギー線硬化炉を用いて加熱すればよく、これらを併用してもよい。
【0025】
本発明では、下地のめっき鋼材として、Zn−Al−Mg−Si合金めっき鋼材を使用する。下地めっき鋼材は、何らかの原因により塗膜が損傷した場合に、コンクリートに特有の腐食環境(強アルカリ性+飛来海塩等)にさらされることになり、優れた耐食性が必要とされる。
【0026】
本発明のZn−Al−Mg−Si合金めっき鋼材のコンクリート中及びコンクリートと接触する界面での優れた耐食性のメカニズムは明確ではないが、以下のように考えられる。本Zn−Al−Mg−Si合金めっき層には、〔Al/Zn/MgZnの三元共晶組織〕が存在する。その三元共晶組織中の〔MgSi相〕と、〔Al相〕中のZn−Mg系金属間化合物とが、耐食性の向上に寄与していることを見いだした。
【0027】
コンクリートの腐食環境、すなわち、pHが高く塩化物イオンが存在する腐食環境において、コンクリートとめっきの界面に、めっきの腐食生成物として、塩基性塩化亜鉛、塩基性塩化亜鉛アルミニウム、塩基性炭酸亜鉛アルミニウム等が形成される。これらの腐食生成物は、保護性の高い腐食生成物であり、めっき層のさらなる腐食を抑制する効果を有するものとして働き、耐食性の向上に寄与するものである。
【0028】
塩基性塩化亜鉛、塩基性塩化亜鉛アルミニウム、塩基性炭酸亜鉛アルミニウム等の腐食生成物は、めっきがZn−Al合金めっきの条件でも形成されるが、コンクリートの高アルカリ条件ではZn−Al合金めっきが安定に存在することができず、容易に溶解してしまう欠点があるため、Zn−Al合金めっきは、コンクリート鋼材としては不適当である。
【0029】
これに対して、本発明のZn−Al−Mg−Si合金めっき層中に〔MgSi相〕とZn−Mg系金属間化合物が存在する条件では、塩基性塩化亜鉛、塩基性塩化亜鉛アルミニウム、塩基性炭酸亜鉛アルミニウムが、長期間にわたり安定に保持される。これらの腐食生成物が安定に保持される理由は明らかではないが、MgとSiが腐食生成物の安定化に寄与しているものと考えられる。
【0030】
本発明のめっきを施す鋼材としては、Alキルド鋼、TiやNb等を添加した極低炭素鋼、及びこれらにP,Si,Mnなどの強化元素を添加した高強度鋼、従来からコンクリート中に鉄筋として埋設されてきた裸鋼材等が適用できる。
【0031】
Zn−Al−Mg−Si合金めっきは、めっき付着量の全量に対して、Mg:2〜10質量%、Al:4〜20質量%、Si:0.01〜2質量%を満たすものであり、残部はZn及び不可避的不純物である。
【0032】
Mgの含有量を限定した理由は、Mgが2質量%未満ではAl相中にZn−Mg系金属間化合物を析出させることができず、耐食性を向上させる効果が不十分であるからである。また、Mgの含有量が10質量%超では、めっき層が脆くなって密着性が低下して加工部耐食性が低下するためであり、簡便な溶融めっき法で作製する場合にドロスの発生量が多くなり、操業性の面で問題があるためである。Zn−Al−Mg−Si合金めっき中のMgの含有量は、より好ましくは2〜5質量%である。
【0033】
Alの含有量を限定した理由は、Alが4質量%未満では初晶としてAl相が析出しないため、Zn−Mg系金属間化合物を析出することができず、耐食性を向上させる効果が不十分であるからであり、20質量%超ではアルカリ条件で耐食性を向上させる効果が認められなくなるばかりか、耐食性に劣るようになるからである。
【0034】
Siの含有量を限定した理由は、Siが0.01質量%未満ではめっき中のAlと鋼材中のFeが反応しめっき層が脆くなって密着性が低下し、厳しい加工時にめっき剥離を起こすからであり、2質量%超では密着性を向上させる効果が飽和すると同時に、2質量%を超えてめっき浴中に溶解させるためには浴温をかなり高くする必要があり、工業的に成り立たないからである。
【0035】
Zn−Al−Mg−Si合金めっきの付着量については、一般的には、使用される部分の要求寿命に基づいて適宜設定される。従って、付着量の制約は特に設けないが、耐食性の観点から10g/m以上が好ましく、経済性の観点から1000g/m以下が好ましい。Zn−Al−Mg−Si合金めっきは、一般的な溶融亜鉛めっき法や蒸着めっき法により作製することが可能である。
【0036】
また、めっき層中のZn量、Al量、Mg量及びSi量は、各種の方法を用いて定量可能であるが、例えば、以下のようにして定量することが可能である。すなわち、所定のインヒビターと塩酸等の酸とを利用して、インヒビター入りの溶液を作製する。この溶液に切り出しためっき鋼板を常温で所定時間浸漬し、めっき層を溶解する。めっき層の溶解した溶解液をICP発光分光法で分析して、Zn,Al,Mg,Siを定量することが可能である。
【0037】
本発明の塗装めっき鋼材の下地のZn−Al−Mg−Si合金めっき層は、〔Al/Zn/MgZnの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕と〔Al相〕が混在した金属組織を有し、かつ、〔Al相〕の中にZn−Mg系金間化合物を含有することを特徴とする。
【0038】
本Zn−Al−Mg−Si合金めっき層には、〔Al/Zn/MgZnの三元共晶組織〕の素地中に〔Zn相〕、〔Al相〕、〔MgZn相〕、〔MgSi相〕の1つ以上を含む金属組織ができる。〔Al/Zn/MgZnの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕が混在すると、塗膜の欠陥部等でのコンクリートとの接触面で耐食性が向上する。これは先に述べたように、MgSiがアルカリ性の腐食環境において保護性の高い腐食生成物、塩基性塩化亜鉛、塩基性塩化亜鉛アルミニウム、塩基性炭酸亜鉛アルミニウム等を安定に保持し、これら保護性の高い腐食生成物が腐食の進行を抑制するためと考えられる。
【0039】
同様に、〔Al相〕の中にZn−Mg系金間化合物を含有させると、コンクリートとの接触面での耐食性が向上する。これもまた、Al相中のZn−Mg系金属間化合物がアルカリ性の高い腐食環境において保護性の高い腐食生成物、塩基性塩化亜鉛、塩基性塩化亜鉛アルミニウム、塩基性炭酸亜鉛アルミニウム等を安定に保持し、これらの保護性の高い腐食生成物が腐食の進行を抑制するためと考えられる。
【0040】
〔Al相〕の中に形成されるZn−Mg系金属間化合物としては、MgZnが形成される。この金属間化合物ができると、保護性の高い腐食生成物がより安定に形成され、腐食の進行を抑制する。
【0041】
上記MgSi及びZn−Mg系金属間化合物の有無は、作製しためっきサンプルを研磨後、SEM(Scanning Electron Microscope,走査型電子顕微鏡)、EDX(Energy Dispersive X−ray spectroscopy,エネルギー分散型X線分光法)、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy,X線光電子分光法)を使用して解析し、元素と組成を求め定性分析することにより、確認することができる。
【0042】
Zn−Al−Mg−Si合金めっき層の下層にNiめっき層を設けることは、下地鋼材との密着性を向上させ、さらに加工部耐食性を向上させるため好ましい。このNiプレめっき層は、当該Niプレめっきの付着量が0.2〜2.0g/m以下であること好ましい。付着量が0.2g/m未満ではNiめっきの効果が現れず、付着量が2.0g/mを超えるとZn−Al−Mg−Si合金めっき層の密着性の向上効果がみられないばかりか、厳しい加工時にめっき剥離を生じる可能性が高くなる。Niめっき層を施すことにより密着性が向上する理由は、めっき層と地鉄界面に生成したNi−Al−Fe−Zn化合物層がバインダー効果を示すためと推定される。
【0043】
本発明のフッ素系樹脂塗装とZn−Al−Mg−Si合金めっきとの間に、必要に応じて、化成処理層を設けてもよい。化成処理は、塗装と下地Zn−Al−Mg−Si合金めっきの密着性をより強固なものとすること、および、耐食性の向上を目的として行われる。化成処理としては、公知の技術が適用でき、例えば、リン酸亜鉛処理、クロメート処理、クロメートフリー処理、シランカップリング系処理、複合酸化皮膜系処理、タンニン酸系処理、チタニア系処理、ジルコニア系処理、これらの複合処理等が挙げられる。
【0044】
耐食性を向上させる目的で、化成処理層と本実施形態に係るフッ素系樹脂塗装の間に、防錆顔料を有する下塗り塗装を設けてもよい。防錆顔料としては、公知の防錆顔料を適用でき、例えば、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、亜リン酸亜鉛等のリン酸系防錆顔料、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウム等のモリブデン酸系防錆顔料、酸化バナジウム等のバナジウム系防錆顔料、カルシウムイオン交換シリカ等のイオン交換シリカ系防錆顔料、ストロンチウムクロメート、ジンククロメート、カルシウムクロメート、カリウムクロメート、バリウムクロメート等のクロメート系防錆顔料、水分散シリカ、ヒュームドシリカ等の微粒シリカ、フェロシリコン等のフェロアロイ等を用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0046】
めっき鋼材としては、Mg量とAl量とSi量を変化させたZn−Al−Mg−Si合金めっき鋼材を作製した。板厚0.8mmの冷延鋼板を用意し、この冷延鋼板を浴温が400〜650℃で、浴中の添加元素量を変化させためっき浴で3秒間めっきを行い、Nワイピングでめっき付着量を片面60g/mを基準として種々調整し、冷却速度10℃/s以下で冷却した。下層に0.5g/mのNiプレめっきを施した試料も用意した。また、MgSi相やAl相中のZn−Mg系金属間化合物は、作製しためっきサンプルを研磨後、SEM、EDX、XPSを使用して解析し、元素と組成を求め定性分析することにより、存在の有無を確認した。
【0047】
また、めっき層中のZn量、Al量、Mg量及びSi量は、以下の方法により定量した。すなわち、インヒビター(朝日化学工業(株)製:酸洗腐食抑制剤イビット):1mlとHCl:140mlを純水に溶解して、インヒビター入りの5%HCl溶液を作製した。この溶液に切り出しためっき鋼板を常温で10分間浸漬し、めっき層を溶解した。この溶解液を、ICP発光分光法で分析して、Zn,Al,Mg,Siを定量した。
【0048】
なお、比較例として、一般的な亜鉛めっき鋼板も作製した。亜鉛めっき鋼板の付着量は、片面60g/m、120g/m、180g/mとした。めっき鋼材の詳細を、以下の表1に示す。
【0049】
これらのめっき鋼材に対して脱脂処理(日本パーカライジング(株)製、FC4670)を行った。その後、水洗、乾燥を行い、引き続いてクロメートフリー化成処理(日本パーカライジング(株)製、CT−E300)を300mg/mの付着量で処理した。
【0050】
下塗り有機被覆層としては、防錆顔料としてトリポリリン酸アルミニウム(テイカ(株)製、K−WHITE G105)とCaイオン交換シリカ(GRACE製、SHILDEX C303)を1:1の質量比で30質量%添加した変性エポキシ樹脂系の下塗り有機被覆層を、3μmの厚さで形成させた。その上に、最上層の塗膜として、フッ素樹脂系塗料(日本ファインコーティングス(株)製ユニフロンC)、ポリエステル樹脂系塗料(日本ファインコーティングス(株)製、NSC200HQ)、アクリル樹脂系塗料(H2001、川上塗料(株)製)をバーコーターで塗装し、熱風乾燥炉で焼きつけた。なお、ポリエステル樹脂系塗料とアクリル樹脂系塗料は、比較として用いた。化成処理及び塗装は、両面に施した。さらに、比較例として、塗装を施さないめっきのままの試験片も実験に供した。
【0051】
最上層にフッ素樹脂系塗料を用いる系では、クロメートフリー系化成処理と下塗り塗装を施さない水準も実験した。フッ素樹脂塗料は、チタン白で白に着色した水準と着色しないクリアーなままの2水準とした。
【0052】
コンクリートは、ポルトランドセメント(プレユーロックス 小野田セメント(株)製)を用いた。腐食試験用のコンクリートとしては、ポルトランドセメントにCaClを10kg/mの割合で添加して、塩化物イオンを含有させて調整した。このようにして作製した腐食試験用コンクリートに塗装めっき鋼材を埋め込み、腐食試験を行った。
【0053】
腐食試験用の塗装めっき鋼材としては、幅50mm×長さ100mm×厚さ0.8mmの平板と、該めっき鋼材を90°折り曲げ加工した曲げ加工板の2種類を用い、これらを直径70mm×高さ80mmのコンクリートの円柱に突き刺した状態で硬化させたものを腐食試験体とした。腐食試験体の端面は、塗装でシールした。平板試験片では、長辺を50mmの深さでコンクリートに埋め込んだ。一方、曲げ加工した試験片では、試験片全体をコンクリートに埋め込んだ。
【0054】
試験としては、屋外暴露試験を実施した。すなわち、千葉県富津市において屋外暴露試験を5年間実施した後、腐食評価では試験体を破壊し、コンクリート中の塗装めっき鋼材の腐食状況を平板では平面部に着目し、曲げ加工板では加工部に着目し、目視で評価した。
【0055】
目視の評価は、以下の通りである。以下の評価において、3点以上を合格とした。
腐食無し :5点
白錆10%以下で赤錆無し:4点
白錆10%超で赤錆無し :3点
赤錆1〜3%以下 :2点
赤錆3%超 :1点
【0056】
一方、意匠性の評価としては、平板試験片のコンクリートに接触していない部分の、暴露試験前の色値と暴露試験後の光沢値から光沢保持率を算出し、70%以上を合格とした。
【0057】
【表1】

【0058】
耐食性の評価結果を、表1にあわせて示す。
最上層の塗装としてフッ素樹脂系塗装を用い、Zn−Al−Mg−Si合金めっき鋼材のめっき組成が本発明の範囲にあり、Zn−Al−Mg−Si合金めっき層が〔Al/Zn/MgZnの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕と〔Al相〕が混在した金属組織を有し、かつ、〔Al相〕の中にZn−Mg系金間化合物を含有し、Zn−Mg系金属間化合物がMgZnであるものが、平板と加工板のいずれにおいても優れた耐食性を示した。また、適正量のNiプレめっきは、加工部の耐食性を向上させる効果があった。ポリステル樹脂系塗料とアクリル樹脂系塗料は、耐食性に劣った。
【0059】
意匠性の面では、フッ素樹脂系塗装は、何れの光沢保持率も70%以上で優れた外観を保持していた。一方、アクリル樹脂系塗装とポリエステル樹脂系塗装は、光沢保持率が60%以下で外観の面でも劣っていた。
【0060】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともコンクリートと接する面に、フッ素系樹脂からなる塗膜を最上層に有し、下地のめっき鋼材として、Mg:2〜10質量%、Al:4〜20質量%、Si:0.01〜2質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物よりなるZn−Al−Mg−Si合金めっき層を有し、
該Zn−Al−Mg−Si合金めっき層が、〔Al/Zn/MgZnの三元共晶組織〕の素地中に〔MgSi相〕と〔Al相〕が混在した金属組織を有し、かつ、〔Al相〕の中にZn−Mg系金間化合物を含有することを特徴とする、コンクリート構造用塗装めっき鋼材。
【請求項2】
前記Zn−Mg系金属間化合物が、MgZnであることを特徴とする、請求項1に記載のコンクリート構造用塗装めっき鋼材。
【請求項3】
前記Zn−Al−Mg−Si合金めっき層の下層に、付着量が0.2〜2.0g/mであるNiめっき層を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のコンクリート構造用塗装めっき鋼材。


【公開番号】特開2011−219791(P2011−219791A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87846(P2010−87846)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】