説明

コンクリート用膨張材の配合割合の決定方法

【課題】構築するコンクリート構造物に対する要求条件等に応じた適正な膨張材の配合割合を把握し、打設するコンクリートのひび割れを防止できるようにしたコンクリート用膨張材の配合割合の決定方法を提供する。
【解決手段】施工現場で用いるコンクリートの配合のうち、少なくとも膨張材の配合割合を変えて作製した複数の評価用コンクリートSを、ひずみ測定装置1の拘束鋼管2によって長さ方向の変形を拘束した状態にして、施工現場と同じ温度条件下で固化させ、その固化過程で拘束鋼管2に生じる長さ方向のひずみを評価用コンクリートSのひずみとしてひずみ計4で測定し、この測定データからひずみ計測器6により算出した評価用コンクリートSの発生応力に基づいて膨張材の配合割合を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート用膨張材の配合割合の決定方法に関し、さらに詳しくは、構築するコンクリート構造物に対する要求条件等に応じた過不足のない適正な膨張材の配合割合を把握して、打設するコンクリートのひび割れを防止できるようにしたコンクリート用膨張材の配合割合の決定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膨張材を配合することにより、コンクリートのひび割れの発生を抑制する方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。従来、コンクリート用膨張材の配合割合は、標準割合が規定されていて、例えば、低添加型膨張材では20kg/mが標準割合となっている。
【0003】
しかしながら、打設したコンクリートで構築される構造物に対する要求条件や施工条件によっては、膨張材の添加量が標準割合よりも少ない場合であっても十分なひび割れ抑制効果を得られることもある。一方、膨張材の添加量が不足すれば、打設したコンクリートのひび割れの発生を抑制することができない。
【0004】
そのため、構築するコンクリート構造物に対する要求条件等に応じて、打設したコンクリートのひび割れを防止できる適正な膨張材の配合割合を把握することが必要であった。
【特許文献1】特開2005−336039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、構築するコンクリート構造物に対する要求条件等に応じた過不足のない適正な膨張材の配合割合を把握して、打設するコンクリートのひび割れを防止できるようにしたコンクリート用膨張材の配合割合の決定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のコンクリート用膨張材の配合割合の決定方法は、施工現場で用いるコンクリートの配合のうち、少なくとも膨張材の配合割合を変えて作製した複数の評価用コンクリートを、長さ方向の変形を拘束した状態で所定の温度条件下で固化させ、その固化過程でそれぞれの評価用コンクリートに生じる長さ方向のひずみを測定し、該測定したひずみから算出したそれぞれの評価用コンクリートに生じる応力に基づいて、その施工現場で用いるコンクリートの膨張材の配合割合を決定するようにしたことを特徴とするものである。
【0007】
ここで、前記所定の温度条件を施工現場と同じ温度条件とすることもできる。また、例えば、前記それぞれの評価用コンクリートに生じる応力が一定になった時の応力に基づいて、その施工現場で用いるコンクリートの膨張材の配合割合を決定するようにする。また、本発明において、膨張材の配合割合は、例えば、コンクリート1mに対して30Kg以下の範囲にする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコンクリート用膨張材の配合割合の決定方法によれば、施工現場で用いるコンクリートの配合のうち、膨張材の配合割合を変えて作製した複数の評価用コンクリートを用いて、長さ方向の変形を拘束した状態で所定の温度条件下で固化させることにより、施工現場に近似した状況を再現することができる。そして、コンクリートの固化過程でそれぞれの評価用コンクリートに生じる長さ方向のひずみを測定し、該測定したひずみから算出したそれぞれの評価用コンクリートに生じる応力に基づいて、その施工現場で用いるコンクリートの膨張材の配合割合を決定することによって、膨張材の配合割合と固化するコンクリートに生じる応力との相関関係を把握することができる。これにより、コンクリート構造物に対する要求条件や施工条件に応じた過不足のない適正な膨張材の配合割合が把握でき、この適正な配合割合で膨張材を配合することにより、打設するコンクリートのひび割れを防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のコンクリート用膨張材の配合割合の決定方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0010】
コンクリートのひび割れを防止しようとする場合、一般にセメント、膨張材、細骨材、粗骨材、混和剤、水をそれぞれ所定の配合割合で混練りしたコンクリートを用いるが、本発明では施工現場で用いるコンクリートの配合のうち、主に膨張材の配合割合を変えた複数種類の評価用コンクリートSを作製し、図1、2に例示するひずみ測定装置1によって、それぞれの評価用コンクリートSに生じるひずみを測定する。単純に膨張材の配合割合だけを変えた評価用コンクリートSを作製することもできるが、膨張材の配合割合に連動してセメントの配合割合を必然的に変える必要がある場合は、膨張材およびセメントの配合割合を変えた複数種類の評価用コンクリートSを作製する。
【0011】
ひずみ測定装置1は、4本の拘束鋼管2の長さ方向両端部に反力鋼板5を固設して、4本の拘束鋼管2の内側に評価用コンクリートSを設置する構造になっている。ダンベル状の評価用コンクリートSは、外周に拘束治具3が取付けられ、拘束治具3が反力鋼板5に固定されている。それぞれの拘束鋼管2は、ひずみゲージ4が取付けられた状態で断熱材7が被覆され、ひずみゲージ4はひずみ計測器6に接続されている。
【0012】
これら拘束鋼管2には流体循環路9が接続され、流体循環路9を介して内部が連通している。流体循環路9にはヒーター10、電動ポンプ12、温度制御装置11が備わっている。4本の拘束鋼管2および流体循環路9には、ヒーター10で温度調節された水等の温調流体が電動ポンプ12によって循環する。この温調流体の温度は、温度センサ7による検知温度が温度制御装置11に入力され、この検知温度に基づいてヒーター10の加温温度が制御されるようになっている。
【0013】
このひずみ測定装置1では、拘束鋼管2による拘束力が、反力鋼板5および拘束治具3を介して評価用コンクリートSに伝達されて、評価用コンクリートSの長さ方向の変形が拘束される。そして、評価用コンクリートSの長さ方向のひずみと同じひずみ量となる拘束鋼管2の長さ方向のひずみが、ひずみゲージ4により測定される。この測定されたひずみデータが、ひずみ測定計測器6に入力され、測定ひずみに基づいて評価用コンクリートSに生じる長さ方向の応力が算出される。
【0014】
次いで、このひずみ測定装置1によって、評価用コンクリートSが固化する過程で評価用コンクリートSに生じる応力を算出する手順を説明する。
【0015】
図1に例示するように、それぞれの評価用コンクリートSをひずみ測定装置1にセットして、ひずみ測定装置1を設置した実験室(温度可変室)の温度を、施工現場と同じ温度条件に設定する。施工現場と同じ温度条件は、例えば、施工現場におけるコンクリートの打設温度、外気温等を入力して、図3に例示するような、打設したコンクリートの内部の温度履歴を、予めFEM解析等により求めておく。拘束鋼管2には、ひずみ測定中に評価用コンクリートSに付与した温度条件の影響が及ばないように、一定温度(例えば20℃)の温調流体を循環させる。
【0016】
これにより、施工現場と同様の温度条件を再現することができ、より施工現場に近い精度のよいひずみデータを取得することができる。
【0017】
次いで、評価用コンクリートSの打設してから固化するまでの固化過程における拘束鋼管2の長さ方向のひずみをひずみケージ4により検知し、この検知データをひずみ計測器6に入力する。ひずみ計測器6では、ひずみケージ4の検知データに基づいて評価用コンクリートSに生じている応力が算出される。
【0018】
このようにして、施工現場と同じ温度条件下において、長さ方向を拘束された状態のそれぞれの評価用コンクリートSに生じる応力を算出して、膨張材の配合割合と評価用コンクリートSの発生応力との相関関係を把握する。この相関関係を用いて、例えば、それぞれの評価用コンクリートSに生じる応力が経時的に一定になった時の応力に基づいて、構築しようとするコンクリート構造物に対する要求条件を満足する膨張材の配合割合を決定する。即ち、コンクリート構造物に対して設定された許容応力を超えない発生応力となる評価用コンクリートSを選択し、その選択した評価用コンクリートSの膨張材の配合割合を、その施工現場で用いるコンクリートに適用する。
【0019】
上記のような評価用コンクリートSのひずみ測定を行なうことにより、コンクリート構造物ごとに異なる要求条件や施工条件に応じた過不足のない適正な膨張材の配合割合が把握できるようになる。したがって、このように決定した配合割合の膨張材を含有したコンクリートを用いることにより、構築したコンクリート構造物のコンクリートのひび割れを防止することが可能になる。
【0020】
ところで、コンクリートの拘束条件(全体の断面積に対する鉄筋の断面積の割合)やコンクリートを固化させる際の温度条件、セメントの種類、配合量等が、ある範囲内であれば、これらの条件の違いによってコンクリートの膨張量(発生応力)は、大きく影響を受けることがない。そのため、評価用コンクリートSを固化させる際の温度条件を、施工現場とは異なる温度条件にした場合であっても、施工現場と同じ条件下の場合に比して精度は低下するものの、許容できる精度を有する膨張材の配合割合と評価用コンクリートSとの相関関係を把握することができる。そこで、所定の温度条件下(例えば、20℃一定、施工現場におけるコンクリートの打設温度または施工現場における外気温など)において評価用コンクリートSのひずみ測定を行なうようにしてもよい。
【0021】
また、評価用コンクリートSのひずみ測定は、上記に例示したひずみ測定装置1を用いた測定に限らず、評価用コンクリートSの長さ方向の変形を拘束した状態で所定の温度条件下で、評価用コンクリートSの長さ方向のひずみを測定できるものであればよい。
例えば、その他にJIS A 6202で規定されているA法やB法に基づいて行なうことができる。評価用コンクリートSの長さ方向のひずみは、評価用コンクリートSの長さ方向に鉄筋を埋設し、この鉄筋の長さ方向のひずみを測定することにより取得するようにすることもできる。
【0022】
本発明によって決定される膨張材の配合割合は、例えば、一般に標準として規定されているコンクリート1mに対して20kg以下或いは30kg以下の範囲であるが、この配合割合以上の範囲について適用することも可能である。
【実施例】
【0023】
ある施工現場を想定し、セメント(高炉セメントB種(比重3.05))、膨張材(エトリンガイト石灰複合系(比重2.86))、細骨材(川砂(比重2.62))、粗骨材(川砂利(比重2.65))、混和剤(高性能AE減水剤)、水(上水道水)をそれぞれ同一種類として配合したことを共通条件として、表1に示すように主に膨張材の添加量(配合割合)を変化させて評価用コンクリート(サンプル1〜3)を作製した。この膨張材の標準添加量は、コンクリート1mに対して20kgである。セメントの添加量は、膨張材の添加量の変化に連動して、セメントと膨張材の合計量がそれぞれのサンプルで同一になるようにした。これらサンプル1〜3が固化する際に生じる長さ方向のひずみを、図1、2に例示したひずみ測定装置を用いて、(財)建材試験センター(JSTM)に規定されているJSTM C 8204:1999「コンクリートの水和熱による温度ひび割れ試験方法」に準拠して測定した。温度条件は、想定した施工現場と同じになるように設定した図3に示す温度データを用いるとともに、温調流体を一定温度(20℃)に設定した。
【0024】
尚、いずれのサンプルにおいても材齢7日以降から引張応力が一定となり、ひび割れが確認されなかったため、材齢12日目以降、温調流体の温度を上昇(3℃/日)させて強制的に引張応力を与えて、各サンプルにひび割れが生じるまで測定を行なった。このひずみ測定に基づいて算出した各サンプルでの発生応力を図4、5に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
図4のグラフの縦軸は、各サンプルに生じた長さ方向の応力を示し、マイナスの値は圧縮応力、プラス値は引張応力を示す。図4の結果から、初期の最大圧縮応力は、サンプル3が最も大きかったが、サンプル1と2とはほぼ同じであった。一方、材齢12日後における引張応力で比較すると、サンプル1では1.26N/mm、サンプル2では1.06N/mm、サンプル3では0.75N/mmとなり、膨張材の添加量を増加させることにより、拘束されて固化するコンクリートに発生する引張応力が低減することが確認できた。
【0027】
図5は、図4のデータに基づいて、サンプルに生じる引張応力が安定した材齢12日目におけるサンプル2、3での発生応力を、サンプル1での発生応力に対する比として整理したものである。図5の結果から、サンプル2では約0.84、サンプル3では約0.60であり、標準添加量であるサンプル3よりも添加量が小さいサンプル2であっても温度応力の低減を図れることが確認できた。また、サンプル2の発生応力の低減量は、サンプル3に対して40%程度であり、発生応力の低減量と膨張材の添加量とは、単純な比例関係ではないことが確認でき、本発明を適用することでコンクリート構造物に対する要求条件等に適合した最適な膨張材の添加量が把握できることが判る。
【0028】
また、サンプル1〜3の線膨張係数を把握するために、それぞれのサンプルと同じ配合で、ひずみ計および熱電対を埋設した縦10cm×横10cm×長さ40cmの無拘束サンプルを作製し、自由膨張ひずみ(μ)の測定を行なった。その結果を図6に示す。
【0029】
図6の結果から、温度上昇時の線膨張係数(α1)は、膨張材の添加量の増加に伴い大きくなる傾向がみられた。一方、温度下降時(α2)については、サンプル1とサンプル2とはほとんど違いが見られなかったのに対し、サンプル3はサンプル1に対して約0.87倍となり、やや小さい値であった。これにより、膨張材の添加量が20kg/mよりも少ない場合、線膨張係数を変えた温度応力解析手法では、膨張材の添加量の違いによるひび割れ抑制効果を評価することが難しいことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に用いるひずみ測定装置を正面方向で例示する説明図である。
【図2】図1のひずみ測定装置を側面方向で例示する説明図である。
【図3】ひずみ測定を行なう際に、評価用コンクリートに付与する温度条件を例示するグラフ図である。
【図4】評価用コンクリートの固化過程においてに発生する応力を例示するグラフ図である。
【図5】膨張材の添加量と、評価用コンクリートに生じる応力との関係を例示するグラフ図である。
【図6】無拘束の評価用コンクリートに生じるひずみと温度との関係を例示するグラフ図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ひずみ測定装置
2 拘束鋼管
3 拘束治具
4 ひずみゲージ
5 反力鋼板
6 ひずみ計測器
7 温度センサ
8 断熱材
9 流体循環路
10 ヒーター
11 温度制御装置
12 電動ポンプ
S 評価用コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工現場で用いるコンクリートの配合のうち、少なくとも膨張材の配合割合を変えて作製した複数の評価用コンクリートを、長さ方向の変形を拘束した状態で所定の温度条件下で固化させ、その固化過程でそれぞれの評価用コンクリートに生じる長さ方向のひずみを測定し、該測定したひずみから算出したそれぞれの評価用コンクリートに生じる応力に基づいて、その施工現場で用いるコンクリートの膨張材の配合割合を決定するようにしたコンクリート用膨張材の配合割合の決定方法。
【請求項2】
前記所定の温度条件を施工現場と同じ温度条件とする請求項1に記載のコンクリート用膨張材の配合割合の決定方法。
【請求項3】
前記それぞれの評価用コンクリートに生じる応力が一定になった時の応力に基づいて、その施工現場で用いるコンクリートの膨張材の配合割合を決定するようにした請求項1または2に記載のコンクリート用膨張材の配合割合の決定方法。
【請求項4】
前記膨張材の配合割合が、コンクリート1mに対して30Kg以下である請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート用膨張材の配合割合の決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−290902(P2008−290902A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137149(P2007−137149)
【出願日】平成19年5月23日(2007.5.23)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】