説明

コンクリート硬化体

【課題】コンクリートの圧縮強度や曲げ強度など本来の力学特性を損なうことなく、熱環境改善性と止水性に優れたコンクリート硬化体を提供する。
【解決手段】水、セメント、混和材料、骨材、及び、水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子を含有するコンクリート組成物を硬化させて得られることを特徴とするコンクリート硬化体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート硬化体に関し、詳細には、熱環境改善性及び止水性に優れた高強度のコンクリート硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
土木建築構造物に使用されるセメントコンクリートからなる成形体は、熱容量が大きいため、昼間暖められた躯体が夜になってもさめにくく、都市のヒートアイランド現象を助長するという問題がある。コンクリート硬化体は、その構造中に微細な空隙を有するため、これを利用して適度な保水性を付与し、吸水、放水効果による熱環境改善性を付与する試みがなされている。
例えば、軽量気泡コンクリートいわゆるALCコンクリートのように大量の空気をコンクリート中に連行する方法、空隙形成材料をコンクリート組成物に混入し、硬化後に空隙材料を収縮或いは分解させ空隙を形成する方法(例えば、特許文献1参照。)などにより、コンクリートに適度の空隙をもたせる技術が提案されている。このような空隙に水分を保持することで、適度な吸熱効果を維持することが可能である。しかしながら、この方法で得られたコンクリート硬化体は、形成される空隙の体積が大きいため、圧縮強度や曲げ強度など力学特性が大きく損なわれる欠点があり、また、空隙面積が大きいために止水性が低下する懸念もあった。
また、コンクリート硬化体中における経時的なクラックの発生などにより成形体の止水性が低下するという問題もあり、この抑制が重要となっている。コンクリート硬化体の止水には、表面に樹脂シートなどにより防水層を形成することも行われているが、樹脂シートにより通気性が損なわれ、コンクリート組成物の本来有する熱環境改善効果を損なう懸念があり、本質的な解決には至っていないという問題がある。
【特許文献1】特開2003−277164公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記問題点を考慮してなされた本発明の目的は、コンクリートの圧縮強度や曲げ強度など本来の力学特性を実用上問題のないレベルに維持しながら、熱環境改善性と止水性に優れたコンクリート硬化体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、セメントコンクリート組成物中に、特定の保水性に優れた粒子を含有させ、それを硬化させて得られた硬化体により前記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の構成は以下に示すとおりである。
<1> 水、セメント、混和材料、骨材、及び、水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子を含有するコンクリート組成物を硬化させて得られることを特徴とするコンクリート硬化体。
<2> 前記水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子が、初期断面積が0.237cm2の条件下、三次元網目構造中に水を600〜1000重量%保持した状態において測定した引っ張り破断荷重が0.1N以上の強度であり、且つ、引っ張り破断伸びが100%以上であることを特徴とする<1>記載のコンクリート硬化体。
<3> 前記水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子が粒径0.05〜50mmの粒子であることを特徴とする<1>又は<2>記載のコンクリート硬化体。
【0005】
<4> 前記水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子の乾燥状態におけるアスペクト比が1〜100の範囲にあることを特徴とする<1>〜<3>のいずれか1項に記載のコンクリート硬化体。
<5> 前記水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子が、コンクリート組成物中に乾燥状態での体積比率で0.1%から50%の範囲で含有され、該粒子がコンクリート硬化体中に均一に分散していることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1項に記載のコンクリート硬化体。
<6> 前記水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子が、コンクリート硬化体中に傾斜濃度を持たせて存在していることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1項に記載のコンクリート硬化体。
【0006】
本発明の作用は明確ではないが、以下のように推定される。本発明のコンクリート硬化体に含まれる、水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子は、その構造内に液状成分を大量且つ安定に保持し得るとともに、環境に応じて吸湿、放湿しうるため、熱環境改善性に優れるとともに、クラック中に浸透する水分を効果的に吸収して膨張し、クラック中の「水みち」を塞ぐため、コンクリート硬化体における水分透過を抑制しうるため止水性にも優れる。また、この粒子はその構造内に水分を保持している場合でも高強度の粒子であって、その存在によりコンクリート硬化体強度が実用上問題のあるレベルまで低下する懸念がなく、また、粒子表面とコンクリート組成物との密着性に優れるため、コンクリート硬化体の崩落などを効果的に抑制しうるという利点をも有するものと考えられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コンクリートの圧縮強度や曲げ強度など本来の力学特性を実用上好ましい値に維持しつつ、熱環境改善性と止水性に優れたコンクリート硬化体を提供ことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のコンクリート硬化体を構成するコンクリート組成物は、水、セメント、混和材料、骨材、及び、水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子を含有する。
【0009】
本発明のコンクリート組成物に用いられるセメントには特に制限はなく、形成されるセメント系成型体の用途に応じて、各種セメント類の中から、適宜選択することができる。セメントとして、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、などが使用できる。
前記混和材料としては特に制限はなく形成されるセメント系成型体の用途に応じて、各種セメント、コンクリート用混和材料から適宜種類、使用量を選択できる。混和材料としては、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフュームなどが一般的に使用できる。
また、骨材の種類や量は特に制限はなく、形成される成型体の用途に応じて、骨材の種類及び配合割合を適宜選択することができる。
【0010】
本発明に用いられるコンクリート組成物には、以下に詳述するような物性を得るために、水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子を含有する。なお、本明細書においては、この有機無機複合体からなる粒子を、「ゲル粒子」と称し、また、粒子内に水などの液状成分を十分に吸収保持した粒子を「ヒドロゲル粒子」と称することがある。
【0011】
ゲル粒子の粒子形状には特に制限はなく、真球状であっても、円柱状粒子、平板状粒子などの異形粒子であってもよく、さらには、不定形粒子であってもよい。
粒子形状としては、乾燥状態におけるアスペクト比が、1〜100の範囲にあるものが好ましく、さらに好ましくは、2〜50の範囲である。
アスペクト比は、粒子の長軸/短軸の比を示し、本発明においては、ゲル粒子を目視或いは顕微鏡観察し、当該粒子の持つ最大長さ(長軸)と最小長さ(短軸)を常法により測定して得た値から算出した長軸/短軸比を採用している。
【0012】
また、ゲル粒子の粒径についていえば、真球状或いはそれに近い球形の粒子の場合、粒径は0.05〜50mmの粒子であることが好ましく、コンクリート組成物中における分散性、コンクリート打設時の作業性の観点からは、0.5〜20mm程度であることがより好ましい。
ここで、粒径とは、各粒子を「体積同等の真球に置換した時の直径」を指す。また、特に断らない限り、粒径はゲル粒子が水分を吸収する前の、乾燥状態の粒子の粒径を指すものとする。粒径は、例えば、顕微鏡写真を撮影し、その画像を計測することなどで測定することができる。
円柱状などの細長い粒子の場合、直径0.5〜5mm、長さ3〜30mm程度の粒子が好ましく使用できる。
【0013】
コンクリート組成物に添加されるゲル粒子の形状は目的に応じて適宜選択することができる。一般的には、入手容易性、作業性の観点から球状または円柱状粒子が用いられるが、例えば、平板状粒子(面積に比較し、厚みが薄いもの)は、平面状に重なり合って配置されやすいため、外部から入ってきた水を効率よく吸水するのに有用であり、また、円柱状、棒状などの断面積に比較し、長さが大きい粒子は混合や打設時に方向性を持って配置されやすく、コンクリート同士を連結し、コンクリートが割れたときの落下防止などのタフネス性を向上する目的に特に有用である。
【0014】
本発明に係る有機・無機複合体粒子は三次元網目構造中に液状成分を保持した状態において所定の強度を有することが、得られるコンクリート硬化体の強度維持の観点から好ましいが、その目安として、液状成分として水を包含させた場合、「(水含有量)/〔水溶性有機高分子含有量+水膨潤性粘土鉱物含有量〕×100」で定義される水含有率が600〜1000重量%であり、初期断面積が0.237cmの条件下で、ヒドロゲル粒子により測定した引っ張り破断荷重が0.1N以上であることが好ましく、より好ましくは0.5N以上、さらに好ましくは1N以上、特に好ましくは2N以上である。
この測定方法については、特開2002−53629公報、段落番号〔0042〕乃至〔0044〕及び同〔0073〕にその詳細、具体的な測定条件が記載され、これらの記載を参照して測定することができる。
【0015】
また、水含有率と初期断面積が上記と同様のヒドロゲル粒子を用いて測定した、引っ張り破断伸びが100%以上、より好ましくは200%以上、更に好ましくは300%以上、特に好ましくは500%以上であることが好ましく、さらには、引っ張り伸び100%での荷重が0.01N以上、より好ましくは0.05N以上であること、特に好ましくは0.1N以上である特徴を有するものが好ましい。
【0016】
ゲル粒子は、用いる粒子形状、添加量、添加方法などを制御することにより、添加するゲル粒子の配列に方向性を持たせることや、ゲル粒子の分布に傾斜濃度をもって配置すること、具体的には、コンクリート硬化体中の任意の位置に局在化して配置すること、なども可能となる。
【0017】
コンクリート組成物中におけるゲル粒子の含有量は、コンクリート硬化体の使用目的により適宜選択することができるが、一般的には、乾燥状態で0.1容積%から50容積%の範囲であることが好ましい。コンクリート硬化体の強度を維持するといった観点からは、0.1〜10容積%が好ましく、特に0.1〜1.0容積%が好ましい。また、熱環境改善性向上の観点からは添加量が多いことが好ましく、コンクリート硬化体の使用目的に応じて0.1〜50容量%の範囲で添加することが可能である。ゲル粒子の添加量が多くなる態様をとる場合には、熱環境改善性を必要とする使用状況に応じて、適宜、コンクリート硬化体を他の強度保持手段と組み合わせて使用することも可能である。
強度保持手段としては、硬化体を形成するコンクリート組成物に高強度セメントを用いる手段、或いは、コンクリート硬化体中に鋼繊維を添加する手段、或いは、コンクリート硬化体を高強度枠体で保持する手段などが挙げられ、これらを目的や使用態様に応じて併用することができる。
【0018】
ゲル粒子は、通常は、コンクリート組成物調整時に他の材料とともに配合される。この方法では、十分に攪拌されたコンクリート組成物を、所定の型枠に打設、硬化することでコンクリート硬化体が得られ、このコンクリート硬化体中にゲル粒子は均一に分散されて存在する。
このようにゲル粒子が均一に分散されたコンクリート硬化体は、クラックからコンクリート中に浸入した水を吸収して膨張し、クラック中の「水みち」を塞ぐために、硬化体全体に優れた止水性を付与することができる。
【0019】
本発明のコンクリート硬化体を構造材料として使用する場合には、強度の観点から、ゲル粒子の添加量は前述の如く10容量%以下であることが好ましいが、優れた止水性や熱環境改善性を得ようとする場合、他の構造材、補強材とともに用いれば、ゲル粒子を50容量%程度まで含有させることが可能であり、この場合、公知の骨材に換えてゲル粒子を用いることも可能である。
【0020】
また、ゲル粒子は目的に応じて、傾斜をもたせて配置することができる。ゲル粒子を局在化させて配置する方法としては、ゲル粒子の添加量が互いに異なる2種以上のコンクリート組成物を用い、これらを順次打設して硬化体を形成する方法が挙げられる。この方法によれば、任意の位置に所定のゲル粒子含有量を有する領域を形成することができる。
例えば、この方法により、硬化体の表面近傍、即ち、外的環境と接触する領域におけるゲル粒子の含有割合を深部よりも大きくした場合、表面における止水性、熱環境改善効果が向上し、且つ、深部におけるゲル粒子含有量の少ない領域が比較的高強度の硬化体となる。また、表面近傍よりも少し深部に近い方におけるゲル粒子含有量を大きくすることで、深部における止水性に優れ、外観的にも優れた建築材料を得ることができる。
【0021】
また、粒径や粒子形状の互いに異なるゲル粒子を含有させることで、局所的な粒子配向を得ることや、粒子形状に応じた、優れた効果を複合的に発現させることも可能である。
本発明においては、ゲル粒子を、1種単独で用いてもよく、組成や形状の異なる2種以上組み合わせて用いてもよい。
なお、前記したゲル粒子含有量は、乾燥状態のゲル粒子を基準としているが、ゲル粒子をコンクリート組成物中に添加する際には、乾燥状態で添加してもよく、予め、水など所望の液状成分を含浸させ膨潤状態としたのち添加することもできる。
【0022】
次に、本発明に好適に用いうるゲル粒子について詳細に述べる。
本発明に係るゲル粒子は、水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子であり、液状成分を保持した状態、及び、液状成分の保持前、又は、乾燥により液状成分を除去され、乾燥状態となった状態、いずれの粒子も本発明におけるゲル粒子に包含されるものとする。
【0023】
このような粒子は、水膨潤性粘土鉱物と、保持させようとする液状成分との共存下、水溶性有機高分子を構成する原料モノマーを重合させる方法などにより容易に製造することができる。
このようなゲル粒子としては、例えば、特開2002−53629公報に記載の有機・無機複合ヒドロゲル及びその乾燥体(本発明でいうゲル粒子)などが挙げられ、ここに記載の有機・無機複合ヒドロゲルやその乾燥体は本発明のゲル粒子として好適に使用することが可能である。
【0024】
ゲル粒子を構成する水溶性有機高分子は、水に溶解或いは膨潤する性質の有機高分子であって、原料モノマー1種のみからなる単独重合体であっても、2種以上のモノマーからなる共重合体であってもよい。なお、かかる水溶性や水膨潤性は特定の高分子濃度、温度、圧力条件や他の添加成分共存下などで達成されるものであってもよい。
【0025】
水溶性有機高分子は後述する水膨潤性粘土鉱物と相互作用を有するものが好ましく、例えば、水膨潤性粘土鉱物と水素結合、イオン結合、配位結合、共有結合等を形成できる官能基を有するものが好ましい。
このような官能基としては、具体的には、アミド基、アミノ基、水酸基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、エポキシ基などが挙げられ、これらの官能基を1種以上有する有機高分子が好ましく挙げられる。また、機能性を有する有機高分子が特に好ましく、例えば、水溶液中でのポリマー物性、例えば、親水性と疎水性などが、LCST(下限臨界共溶温度、Lower Critical Solution Temperature)前後のわずかな温度変化により大きく変化する特性をもつ機能性有機高分子などが好ましく挙げられる。
【0026】
ゲル粒子形成に用いうる水溶性有機高分子の具体例として、アクリルアミド、N−置換アクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換アクリルアミド誘導体、N−置換メタクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換メタクリルアミド誘導体の中から選択される一つ又は複数を重合して得られる水溶性有機高分子が挙げられる。また上記モノマーとその他の有機モノマーとをあわせて用いることも均一な有機・無機複合ヒドロゲルを形成する限りにおいて可能である。
かかる水溶性有機高分子としては、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(N−メチルアクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(N−メチルメタクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルピロリディン)、ポリ(N−アクリロイルピペリディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルホモピペラディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルピペラディン)等が例示される。
【0027】
このような水溶性有機高分子は、水のみならず、水及び水と混和する有機溶媒の混合溶媒にも、溶解あるいは膨潤するものであってもよい。
ここで、水と混和する有機溶媒としては、水と混和する、即ち、水と混合することで均一相を形成する溶媒が挙げられ、これらの水と混和する有機溶媒としては、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなどの極性溶媒が例示され、これらの1種又は2種以上と水との混合溶媒を用いることができる。このような混合溶媒における水と有機溶媒との混合溶媒は、ヒドロゲル粒子の調整に、水に換えて使用することができるが、両者の混合割合は、後述する水膨潤性粘土が均一分散出来る範囲で任意に選択できる。
【0028】
ゲル粒子の調製に用いられる水膨潤性粘土鉱物とは、粘土鉱物のうち水に膨潤し均一分散可能なものであり、特に好ましくは水中で分子状(単一層)又はそれに近いレベルで均一分散可能な層状粘土鉱物が挙げられる。
本発明に用いうる水膨潤性粘土鉱物としては、例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などが用いられ、具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。
水膨潤性粘土鉱物は、ゲル粒子の製造適性の観点からは、前記水溶性有機高分子の原料モノマーが溶解している溶液中において、微細、且つ、均一に分散していることが必要であり、特に上記溶液中において、粘土鉱物の沈殿が生じたり、或いは、目視で確認できる程度の、即ち、溶液が濁った状態となるような、粘土鉱物の凝集体が生じることなく、微細な粒子、即ち、1〜10層程度のナノメーターレベルの厚みの状態で均一に分散している状態であることが好ましく、特に好ましくは1又は2層程度の厚みで分散しているものである。
【0029】
ゲル粒子の構成成分である液状成分としては、水、水と混和する有機溶媒と水との混合溶媒などが好ましく挙げられ、製造適性上は、水膨潤性粘土鉱物及び有機高分子化合物の原料モノマーを均一に溶解或いは分散しうるものが用いられる。
水と混和する有機溶剤としては、メタノール、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジメチアルアセトアミドなどが挙げられ、これを用いる場合、水との混合率は水1重量部に対して0.01〜0.5重量部の範囲であることが好ましい。また、ゲル粒子内に保持される液状成分として、揮発性が低く、且つ、水溶性高分子と比較的親和性のある化合物も好ましく用いられる。かかる低揮発性液状成分としては、グリセリン、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられ、これを用いる場合、水との混合率は水1重量部に対して0.1〜100重量部の範囲であることが好ましい。
混合溶媒、低揮発性液状成分などを用いた場合は、ゲル中に水のみならず有機化合物を含む液状成分が包含されることになるが、このような複合粒子もまた、本発明ではヒドロゲル粒子と称する。
ゲル粒子製造時における水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物との比率は、目的や使用する原料により適宜調整され、必ずしも限定されないが、ゲル粒子合成の容易さや均一性の点からは、好ましくは粘土鉱物/水溶性有機高分子の重量比が0.01〜10であり、より好ましくは0.03〜2.0、特に好ましくは0.1〜1.0である。
【0030】
本発明に係るゲル粒子は、水溶性有機高分子と、水膨潤性粘土鉱物とが複合化して形成された三次元網目の中に、液状成分が包含され、安定に保持されている有機・無機複合粒子である。このような粒子は、水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが、包含されるべき液状成分中において分子レベルで複合化することで、両者が架橋構造を形成して得られる三次元架橋構造中に液状成分を含んで形成される。ここで得られた粒子は液状成分を保持してなるヒドロゲル粒子状態であり、それを乾燥することで液状成分を保持可能なゲル粒子を得ることができる。
【0031】
このようにして得られた液状成分を保持した有機・無機複合体(ヒドロゲル粒子)はそのままでも、その乾燥体としても、本発明において好ましく使用しうる。ゲル粒子の乾燥体は、三次元架橋構造中における液状成分が失われた状態であるが、この三次元架橋構造を維持している粒子であり、水など種々の液状成分に含浸し、膨潤させることで、その架橋構造内にこれらの液状成分吸収し、安定に包含する機能を有する。
【0032】
ゲル粒子に含まれる水の最大量、即ち、平衡膨潤時の最大吸水量(Cmax)は、水溶性有機高分子や水膨潤性粘土鉱物の成分の種類及び比率、また温度やpHなどの環境条件などにより異なるが、ゲル粒子を20℃の温度の過剰な水の中に保持した場合の水含有率としては、100重量%以下の低い値から100000重量%以上の高い値まで変化させることが可能である。
本発明におけるヒドロゲル粒子は、例えば、20℃で平衡膨潤させた場合、「(水含有量)/〔水溶性有機高分子含有量+水膨潤性粘土鉱物含有量〕×100」で定義される水含有率が、通常、2000重量%以上であり、より好ましくは3000重量%以上、特に好ましくは4000重量%以上である。
【0033】
ゲル粒子は、粒子内に存在する三次元架橋構造が吸水特性(液体吸収能)を阻害せず、且つ、均一に形成されており、膨潤速度(液状成分吸収速度)或いは液状成分を放出して収縮する速度が大きいため、コンクリート硬化体内部のクラックや空隙に浸透する水分を迅速に吸収して膨張することでクラック中の「水みち」を塞ぐことができ、止水性に優れ、且つ、液状成分の放出速度も高いことから、温度に応じた、優れた熱環境改善性を発現しうるものと考えられる。
【0034】
ゲル粒子は、製造時における種々の条件を調整することで、任意の形状とすることができ、例えば、繊維状、棒状、平板状、円柱状、らせん状、球状など任意の形状を有するヒドロゲル粒子が調製可能である。
コンクリート組成物に配合されるゲル粒子(液状成分を包含するもの、及び、乾燥体を含む)には、必要に応じて種々の成分を添加することもできる。添加剤としては、例えば、陰イオン界面活性剤などの界面活性剤;有機染料、有機顔料などの有機成分;水溶性ポリマー、非水溶性の繊維状物質のような有機高分子化合物、炭素、シリカ、チタニア等の無機化合物からなる無機微粒子などが挙げられ、これらは製造の任意の段階で含ませることが可能である。更に目的に応じて他素材と複合化した粒子、表面処理を施した粒子を用いることも可能である。
【0035】
本発明に係るコンクリート組成物には、上記必須成分の他、通常セメント系組成物に配合されている各種添加剤、例えば減水剤、空気連行剤、消泡剤などを、適宜配合することができる。
コンクリート組成物中の水とセメントの重量比は、形成されるコンクリート組成物からなる成型体の用途に応じて適宜選択することができるが、大気中の二酸化炭素との炭酸化反応を促進するためには、水と結合材の重量比は30%以上70%以下が好ましく、より好ましくは40%以上65%以下である。
前記硬化体を形成するためのコンクリート組成物においては、水、セメント、混和材料、骨材、化学混和剤などの各種材料の重量比を適宜調整することで強度や物性を調整することもできる。
【0036】
本発明にかかるコンクリート組成物を硬化させて得られる本発明のコンクリート硬化体は、その内部にゲル粒子を含むことから、水分の吸収、放出特性とゲル粒子によるタフネス性の向上など種々の特性を有するようになる。
【0037】
本発明のコンクリート硬化体は、前記各必須成分或いはさらに目的に応じて添加される種々の添加剤を含有するコンクリート組成物を混練し、成型、硬化することにより製造することができる。
複数種のコンクリート組成物を用いてゲル粒子の配置に傾斜をもたせようとする場合には、まず、深部或いは表層部のコンクリート組成物を混練し、成型、硬化し、その後、その表面にゲル粒子含有率の異なるコンクリート組成物を混練したものを打設し、硬化すればよい。2層以上の積層構造により種々のヒドロゲル粒子含有量の層を形成する場合も、同様の手順を繰り返せばよい。また、既に成形されたコンクリート構造体表面に、前記した本発明に係るコンクリート組成物を吹き付け、その後、硬化させることで、表面に熱環境改善性向上効果を有するコンクリート硬化体を得ることも可能である。
【0038】
本発明のコンクリート硬化体は、水分の吸収、放出性能を有し、且つ、水に膨潤した状態でも高強度のヒドロゲル粒子を含有することから、外部環境の水分調整機能、熱環境改善機能、止水機能などの種々の特性を有し、且つ、粒子のタフネスに起因して硬化体の強度が著しく低下する懸念がないため、機能性の構造材料、コンクリート構造体の表面材料など、その応用範囲は広い。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に制限されるものではない。
〔実施例1〕
(コンクリート組成物の配合)
普通ポルトランドセメントと水、砂(骨材)を含有するセメント組成物100質量部中に、ゲル粒子(D−NC5:乾燥物)を、94.5g(0.2容量%)配合して、水/セメント組成物比(W/C 比)が55%のコンクリート組成物を調製した。
【0040】
[使用材料]
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)比重3.15
水:水道水
砂:君津産山砂、表乾密度2.61g/cm、吸水率1.67%、粗粒率2.65
粗骨材:八王子砕石、表乾密度2.66g/cm、実積率60.1%、粗粒率6.33
AE減水剤:チューポールEX20、AE300(竹本油脂社製)
消泡剤:AFK−2(竹本油脂社製)
ゲル粒子:(D−NC5:乾燥物)、直径1mm、長さ1mmの円筒形粒子。
ここで用いたゲル粒子の成分は、水溶性有機高分子としてポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、水膨潤性粘土鉱物として合成ヘクトライト(ラポナイトXLG)を用いて作製した。乾燥体における粘土鉱物/水溶性有機高分子=0.38(重量比)であった。主たる物性値は、含水率(={水/(水溶性有機高分子+水膨潤性粘土鉱物)}×100)が724重量%。0.237cm断面積のD−NC5ゲルの引っ張り破断荷重は2.3N、引っ張り破断伸びは1600%、引っ張り伸び100%での荷重が0.25N。また、20℃での平衡膨潤での水含有率は7500重量%である。
〔比較例1〕
前記ゲル粒子を添加しなかった他は、実施例1と同様にして比較例1のコンクリート硬化体を得た。
【0041】
〔実施例2〕
前記ゲル粒子に代えて、直径5mm、長さ5mmの円筒形粒子を用い、その添加量を177.0g(0.5容量%)とし、W/C比を60%とした他は、実施例1と同様にしてコンクリート硬化体を得た。
〔比較例2〕
前記ゲル粒子を添加しなかった他は、実施例2と同様にして比較例2のコンクリート硬化体を得た。
【0042】
[コンクリート組成物の配合]
表1にコンクリート組成物の配合を示す。表中で使用した各材料の詳細は上記の通りである。なお、下記表1中、W/Cは、水/結合材比を表す。
【0043】
【表1】

【0044】
[コンクリート硬化体の製造方法]
前記表1に記載のコンクリート組成物について、水、セメント、砂およびヒドロゲル粒子を所定量ミキサ(ホバート社製 SK−30Sミキサ、容量30L)に投入し、2分間練り混ぜた。この際、AE減水剤および消泡剤を表1に記載の量添加し調整した。練りあがったモルタルの空気量は表1に記載の通りであった。練り混ぜ後、型枠内に成型し、硬化し、本発明及び比較例のコンクリート硬化体を得た。
これらの硬化体について、以下に示す各試験行った。
【0045】
[コンクリート硬化体の評価]
1.圧縮強度
実施例1、2及び比較例1、2におけるコンクリート組成物を用い、直径100mm、高さ200mmの硬化体(4週養生品)を成形し、JIS R 5201に準じて圧縮強度を測定した。結果を下記表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2より、本発明の実施例2のコンクリート硬化体はゲル粒子を含有していても、未添加の比較例2の硬化体に対して大きく強度を減じることなく、構造体として十分な強度を維持しており、また、ゲル粒子含有量の少ない実施例1の構造体は比較例1に対し、強度が向上していることがわかる。この原因は次のように推測される。骨材と比較して強度が低いゲル粒子を混入することにより、コンクリート硬化体の圧縮強度は低くなることが考えられる。一方、ゲル粒子が、セメントと反応する水を吸収し、見かけの水セメント比が小さくなることで、コンクリート硬化体の圧縮強度は高くなることが考えられる。実施例1では、後者の効果が卓越されたものと考えられ、実施例2では、前者の効果が卓越したものと考えられる。
【0048】
2.熱環境改善性
実施例2及び比較例2で用いたコンクリート組成物を用いて、長さ270mm,幅270mm,厚み50mmのコンクリート硬化体を成形し、その中央部、表面及び深さ25mmの位置に温度測定用の熱伝対を配置して試験体を作製した。乾燥炉で48時間乾燥した後、3週間水中放置して十分吸水させた後、吸水が平衡に達したことを確認し、吸水した試験体を室内に5日間放置して、試験体表面温度を測定した。1・3・5日目の日最高温度の測定結果を表3に示す。
【0049】
3.止水性
長さ180mm、幅180mm、厚さ100mmのコンクリート硬化体を作成し、内寸法297×297mmのアクリル性水槽に水を満たし、コンクリート硬化体表面が5mm水面より高くなる位置で水中にこの硬化体を配置し、15日間放置した。水面の変位を測定してコンクリート硬化体を透過して蒸発する水量の目安とした。コンクリート硬化体は実施例2と同一の配合である。
5日目、10日目、15日目の水位を表3に示す。この水位変化が少ないほど止水性に優れると評価する。
【0050】
【表3】

【0051】
表3の結果より、ゲル粒子を含有しない比較例2に対して、実施例2の硬化体は、測定全期間にわたって表面温度が低く、熱環境改善性に優れていることがわかる。これは、ゲル粒子中の液状成分による蒸発潜熱に起因するものと思われる。さらに、水位低下は1/2以下であり、比較例に対して、極めて止水性に優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、セメント、混和材料、骨材、及び、水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子を含有するコンクリート組成物を硬化させて得られることを特徴とするコンクリート硬化体。
【請求項2】
前記水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子が、初期断面積が0.237cm2の条件下、三次元網目構造中に水を600〜1000重量%保持した状態において測定した引っ張り破断荷重が0.1N以上であり、且つ、引っ張り破断伸びが100%以上であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート硬化体。
【請求項3】
前記水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子が粒径0.05〜50mmの粒子であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のコンクリート硬化体。
【請求項4】
前記水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子の乾燥状態におけるアスペクト比が1〜100の範囲にあることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のコンクリート硬化体。
【請求項5】
前記水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子が、コンクリート組成物中に乾燥状態での体積比率で0.1%から50%の範囲で含有され、該粒子がコンクリート硬化体中に均一に分散していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のコンクリート硬化体。
【請求項6】
前記水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物とが複合して形成された三次元網目構造を有し、該三次元網目構造中に液状成分を保持しうる有機無機複合体からなる粒子が、コンクリート硬化体中に傾斜濃度を持たせて存在していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のコンクリート硬化体。

【公開番号】特開2008−74676(P2008−74676A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257426(P2006−257426)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】