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コンクリート系構造物の品質診断方法
説明

コンクリート系構造物の品質診断方法

【課題】設定値の精度や選択したパラメータに左右されず、診断の確実性が高く、既存の診断方法では適用が困難であった対象に対しても適用可能となるコンクリート系構造物の品質診断方法を提供する。
【解決手段】加振力の時間特性波形のみを観察することによって診断する方法であって、加振力の時間特性波形に、2段階以上の加振履歴が観察された場合に、被測定対象に異常があると診断することを特徴とするコンクリート系構造物の品質診断方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート系構造物の品質診断方法に関し、詳しくは、コンクリート系構造物の健全部と、表層部の剥離、ひび割れ、あるいはコンクリート打設時の型枠への充填不足による空洞などが発生している異常部の判別・診断を、外部から非破壊検査で行うことができるコンクリート系構造物の品質診断方法に関する。
【0002】
コンクリート系構造物の表層部の剥離、ひび割れ、更にはコンクリート打設時の型枠への充填不足による空洞の有無などを、打音によって診断する方法は、従来から多くの提案がされており、本出願人も、例えば、特許文献1〜2に示すように複数の提案をしている。
【0003】
本出願人による先提案技術を含めて、多数提案されている従来技術は、いずれも、ハンマー等による構造物表面への打撃音を、人の聴覚によって感覚的に判断していた旧来の方法に替えて、各種センサー等の測定器を用いて解析することで、感覚に頼らずに且つ熟練を必要とすることなく定量的に判別できるようにすることを目的としたものである。
【0004】
本出願人は、当該技術について更に研究を続けたところ、人の聴覚によって構造物の品質種別を判別する旧来の方法は打撃音の音色を聞き分けることで判別していることが判り、測定器による解析によって構造物の品質種別を判別する従来技術は、打撃音の音の大きさによって判別している方法と、音色に相当する量によって判別している方法とに分類されることが判った。
【0005】
特許文献1に記載の技術は、打撃音の音圧の大きさによって構造物の品質種別を判別する方法であり、コンクリート表面を打撃手段により打撃して振動を生じさせ、この打撃位置から離れた位置に配置したマイクロホンにより、コンクリート中を伝播した打撃音(振動)を空気振動として採取して電気信号に変換し、この信号を解析することによりコンクリートの健全度を判定する方法において、打撃入力値の時間変化が既知となるハンマーを用いて打撃を行い、この打撃入力の既知量とコンクリート中を伝播した打撃音(振動)とを解析することによりコンクリート健全度を判定することを特徴とするコンクリート健全度判定方法である。
【0006】
特許文献2に記載の技術は、打撃音の音色に相当する量によって構造物の品質種別を判別する方法であり、被測定対象の構造物に、衝撃を加えることで得られる応答信号を加えた衝撃力の大きさで除することで得られた規準化応答を用いる方法であり、規準化応答の後期応答乃至は全時間応答を用い、信号集合の各信号に対して1/Nオクターブバンド分析したレベル値から、健全部のデータ集合と異常部のデータ集合を教師信号とする各周波数バンドにおける品質種別毎の平均値μ1、μ2と標準偏差σ1、σ2を求め、各バンドにおける品質種別間の規準化距離δを特定の式(1)で求め、得られた各規準化距離δの値の内、値が大であるものから任意の個数の値を抽出し、抽出した値から構造物の各部位における品質種別を判別できるものである。
【0007】
しかし、これらの診断方法では、あらかじめ健全部と異常部などのカテゴリー別の対応パラメータを定義し、その弁別境界値をセットするプロセスを要する。また、この設定値の精度如何により、あるいは、選択したパラメータが何であるかにより、診断精度が大きく左右され、適用できる問題の範囲が限定されるという問題があった。
【0008】
これらの従来技術は、被測定対象であるコンクリートに対して何らかの打撃手段で打撃
を加え、コンクリート中を伝播した打撃音(振動)を振動や音色として測定し、これらの解析することによりコンクリート健全度を判定するものであるが、打撃手段による加速度を測定し、この加速度によってコンクリート健全度を判定する方法について開示した文献もある。
【0009】
特許文献3に記載の技術は、打撃ハンマーと、この打撃ハンマーに設けられた加速度センサと、この加速度センサと接続された解析処理装置とからなり、前記コンクリート系構造物の表面を前記打撃ハンマーで叩打し、測定された時刻歴加速度a(t)を前記解析処理装置に取込み、前記解析処理装置において、前記時刻歴加速度a(t)を時間積分することにより前記打撃ハンマーの打撃初速度Vを算出し、構造物表面に発生した時刻歴打撃力F(t)(=M(ハンマー質量)×a(t))を前記打撃ハンマーの打撃初速度Vで除した値Z(t)を接触インピーダンスZ(t)とし、この接触インピーダンスZ(t)をもって前記コンクリート系構造物表面の健全度を評価するものである。
即ち、構造物表面の打撃反力の発生能力に相当する意義を持つ「接触インピーダンス」という用語を定義して、加速度センサーをつけた打撃ハンマーでこれを測定し、コンクリートの健全度を測定できる技術である。
【0010】
しかし、この方法では、打撃ハンマーの材質(主として「硬さ」、即ち「機械インピーダンス」。)と形状(打撃・叩打部の曲面の形状・曲率、あるいは平面の大きさ・角度。以下同じ。)に依存して測定することになり、問題がある。即ち、被測定対象をコンクリート等に限定したとしても、一定の材料・形状の打撃ハンマーでしか効果を挙げることができない。
これらのことから、この技術では、打撃ハンマーよりも硬いもの、打撃ハンマーと硬さが近似したもの、打撃ハンマーの形状と近似した不規則な凹凸があるものを被測定対象とすることができず、更に、磨耗等によって打撃ハンマーの形状が変化すると当該技術を使用できないという問題があった。
また、この技術を使用した判定は、あくまで「健全部」との比較であり、健全部における値を基準値として事前に準備・設定しなければならないという問題があった。
【0011】
特許文献4に記載の技術は、打撃ハンマーにてコンクリート構造物の複数の測定点表面を打撃した際の鋼球の時刻暦加速度を加速度センサで測定し、測定した各時刻暦加速度を解析処理装置で周波数解析し、解析結果に基づきそれぞれ算出した鋼球のコンクリート構造物への接触時間を比較することによりコンクリート構造物の品質を評価するものである。この技術によれば、鋼球のコンクリート構造物への接触時間を精度よく算出できるので、コンクリート構造物の品質を容易に、かつ精度よく評価できる。
【0012】
しかし、この方法では、打撃による力を加速度で測定しており、この加速度を、周波数解析する必要があることから、この方法を使用してコンクリートの健全度を判定する者に、専門的な知識や能力が求められるという問題があった。
更に、この方法では、打撃時のハンマーの接触時間を計測値として、劣化などの診断材料としているが、この文献中の段落0050にも記載されているとおり、接触時間は、加振力の大きさにより異なるものであり、一定の加振力で比較しなければ高い精度の測定はできないという問題があった。
【0013】
特許文献3及び4に記載の技術は、共通して、次の問題をも有する。
(1)通常、力を求める場合は、力センサーを用いれば足りるところ、加速度計をハンマーにつけ、加速度を測定して質量をかけるという操作を行っており、測定精度を低下させる原因ともなり、また、測定機器の構成を複雑なものにしてしまうという問題がある。
(2)また、繰り返しになるが、これらの技術によって効果を得るためには、打撃ハンマーの材質と形状を一定にし、尚且つ、その一部においては、加振力を一定にしなければ
いけないという制限が課されるという問題もある。
(3)更にまた、接触インピーダンスについて、時間依存するパラメータと書いており(接触インピーダンスの時間波形が描かれている、例えば、特許文献3の図3参照。)、これでは、材料固有値ということができないので、健全性や損傷といった被試験体材料に関連する特徴を抽出するのには適さないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−311724
【特許文献2】特開2010−060286
【特許文献3】特開2004−144586
【特許文献4】特開2006−349628
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明の課題は、剥離等の異常部に生じる現象として必ず観測される定性的な現象に着目し、前記の設定値の精度や選択したパラメータに左右されず、診断の確実性が高く、既存の診断方法では適用が困難であった対象に対しても適用可能となるコンクリート系構造物の品質診断方法を提供することにある。
また、インパクトハンマーの如き打撃手段・加振力検出器から加振力波形を得て、その波形を目視することによって診断が可能であり、複雑な解析を必要とせず、簡素で、容易なコンクリート系構造物の品質診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記本発明の課題は、下記の手段により達成される。
1.被測定対象であるコンクリート系構造物に、インパクトハンマーの如き任意の打撃手段により打撃を与え、該打撃手段から得られる加振力を計測することによって、コンクリート系構造物の品質を診断する方法において、
前記加振力の時間特性波形のみを観察することによって診断する方法であって、
前記加振力の時間特性波形に、2段階以上の加振履歴が観察された場合に、前記被測定対象に異常があると診断することを特徴とするコンクリート系構造物の品質診断方法。
【0017】
2.加振力の時間特性波形が、加振力の最大値で規準化されていることを特徴とする前記1に記載のコンクリート系構造物の品質診断方法。
【0018】
3.加振力の時間特性波形を1階微分した波形が、被測定対象に加振力が働いている間において、正から負への符号反転を2回以上繰り返す場合に、被測定対象に異常があると診断することを特徴とする前記1又は2に記載のコンクリート系構造物の品質診断方法。
【0019】
4.加振力の時間特性波形を2階微分した波形が、被測定対象に加振力が働いている間において、正から負への符号反転を2回以上繰り返す場合に、被測定対象に異常があると診断することを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載のコンクリート系構造物の品質診断方法。
【0020】
5.加振力の最大値を得た時Tmと、加振開始時Tsと、加振終了時Teとによって算出される値ζが、以下の数式の条件を満たす場合に、被測定対象に異常があると診断することを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載のコンクリート系構造物の品質診断方法。
【数2】

但し、数式中、αは被測定対象であるコンクリート系構造物の健全部に固有の値であって、α=μ+3σで求められ、μはζの平均値、σはζの標準偏差である。
【0021】
6.前記1〜5のいずれかに記載のコンクリート系構造物の品質診断方法により診断された被測定対象の異常が、
コンクリート系構造物の一部が剥離した状態、
コンクリート系構造物の内部に空洞が存在する状態、
コンクリート系構造物の内部あるいは内部から外部につながるひび割れが存在する状態、
コンクリートの打設時の型枠への充填不足による空洞が存在する状態、
コンクリート系構造物の母材に対して他の比較的薄い材料が、(1)規定の接着状態ではなく、剥離的特性を有している状態、及び/又は(2)ひび割れや空洞などを有する状態、
のうち、少なくとも1つの状態であることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載のコンクリート系構造物の品質診断方法。
【発明の効果】
【0022】
前記1に示す発明によれば、加振力のみの測定で診断が可能で、音圧応答の測定が不要となり、非常に簡素で容易なコンクリート系構造物の品質診断方法を提供することができる。
また、従来の診断方法とは異なる独立の情報に基づく方法であり、従来の診断方法と併用して使用することができ、それにより品質診断の精度を高めることができる。更に、独立の情報に基づく方法であることから、従来の診断方法では検出できなかった現象の判別も可能となり得る。
【0023】
前記2に示す発明によれば、2段階以上の加振履歴の存在を確認し易くすることができ、診断の確実性も向上する。
【0024】
前記3に示す発明によれば、前記1に示す波形の観察に加えて、1階微分波形による観察を行うことで、異常の有無の診断を、より明確かつ確実に行うことが可能である。
【0025】
前記4に示す発明によれば、前記1に示す波形の観察に加えて、2階微分波形による観察を行うことで、異常の有無の診断を、より明確かつ確実に行うことが可能である。
【0026】
前記5に示す発明によれば、前記1に示す波形の観察に加えて、数式による解析も併用することで、波形を目視して判断するよりも確実な診断が可能となる。
【0027】
前記6に示す発明によれば、被測定対象の異常部に、いずれかの異常がある、と分かる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかるコンクリート系構造物の品質診断方法に用いられる測定手段構成の一例を示す概略構成図
【図2】正弦半端波形の例
【図3】加振力の最大値の前に異なるピークが存在する例示
【図4】加振力の最大値の後に異なるピークが存在する例示
【図5】各判別方法の説明図
【図6】健全部の特徴を示す波形グラフ(実施例)
【図7】異常部の特徴を示す波形グラフ1(実施例)
【図8】異常部の特徴を示す波形グラフ2(実施例)
【図9】健全部の特徴を示す微分波形グラフ(実施例)
【図10】異常部の特徴と示す微分波形グラフ(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に係るコンクリート系構造物の品質診断方法は、被測定対象をコンクリートを全部又は一部に使用した建築物やトンネル等の構造物とし、インパクトハンマー等の打撃手段により被測定対象であるコンクリート系構造物に与えた力「加振力」のみを測定し、この時間特性波形(いわゆる「時間波形」)を観察することによって、健全部と異常部を判別し、コンクリート系構造物の品質を診断方法である。
【0030】
「加振力」とは、圧電素子などのセンサーを用いて計測される力の単位を持つ物理量で、対象に加えられた力の大きさを出力するように調整された計測器(例えば、インパクトハンマー等。)によって計測することができるものである。
【0031】
本発明において、「コンクリート系構造物」とは、コンクリートに限定されず、建築構造・土木構造あるいはこれらの部品として使われる幅広い材料を含み、例えば、レンガ、アスファルト、金属、石材、木材、その他多様な人造材料などがあり、本発明はこれらを材料とする構造物にも適用できる。
【0032】
先ず、本発明に係るコンクリート系構造物の品質診断方法に用いられる、測定手段の構成の一例を説明する。
本発明にかかるコンクリート系構造物の品質診断方法に用いられる測定手段構成の一例を示す概略構成図を、図1に示す。測定に際して必要な構成は、打撃手段1、加振力検出器・アンプ2、AD変換器3、コンピュータ4である。
【0033】
打撃手段1としては、この種の打音検査技術分野において用いられる公知公用の手段であって、概ね一定の条件での衝撃を付与する手段を特別の制限無く用いることができ、例えば、好ましい打撃手段としては、衝撃波が得られるような概ね一定の加振力で、構造物表面に対して打撃を加えることができるインパクトハンマーによる打撃を挙げることができる。
ここに言うインパクトハンマーとは、打撃入力値の時間変化が既知となるように、加振力を測定する機能を内蔵したハンマーを指す。即ち、図1に示す打撃手段1と加振力検出器・アンプ2の機能を併せ持つハンマーである。また、インパルスハンマーと呼ばれることもある。
【0034】
打撃手段1と加振力検出器・アンプ2から得られた加振力を、AD変換器3を介してデジタル信号に変換し、コンピュータ4において、該加振力の測定データを時間特性波形として表示することができる。
本発明に係るコンクリート系構造物の品質診断方法は、前記のようにして得られた加振力の時間特性波形を観察することによって、被測定対象であるコンクリート系構造物の品質を診断する方法である。
【0035】
加振力の時間特性波形は、打撃手段であるハンマーによって、打撃接触面に圧縮力が働
く方向を正の符号とする。
また、加振力の時間特性波形は、加振力の最大値で規準化することが好ましい。即ち、加振力について、得られた加振力を加振力の最大値で除することにより得られる値を縦軸として表示した時間特性波形とすることが好ましい。
【0036】
次に、前記構成により得られた加振力の時間特性波形を観察し、被測定対象であるコンクリート系構造物の品質を診断する具体的方法について説明する。
【0037】
一般に、コンクリート系構造物の健全部は、インパクトハンマーなどの加振力に対して、母材と一体となった振動応答特性を有する。即ち、入力の力Fと、振動応答の速度Vとの比が、駆動点インピーダンスZに相当する量となる。
Z=F/V
【0038】
これに対し、コンクリート系構造物の異常部の特徴は、剥離やひび割れ等が存在することによって、微小に振動することが可能な部位(以下、「微小部材」ともいう。)が存在し、そのことによって、健全な場合と同様のインパクトハンマーによる加振を与えた場合でも、母材の前記した振動応答特性とは異なった特別な小部材独自の振動応答特性を有する。
【0039】
本発明は、この小部材独自の振動応答特性などに着目することで、異常部の有無を判別し、被測定対象の品質を診断する方法に関するものである。
【0040】
先ずは、加振力の時間特性波形の観察における、健全部の特徴について説明する。
先に説明した測定手段により、加振力を測定し、この測定値から、加振力の時間特性波形を得ることができる。この加振力の時間特性波形が、図2に示すように、正弦半波形状をしている場合は、被測定対象であるコンクリート系構造物は、健全であると診断することができる。
【0041】
これを換言すれば、加振力の時間特性波形に、2段階以上のピークが存在する場合や、加振開始時から加振力の最大値を得た時までの時間と、加振力の最大値を得た時から加振終了時までの時間とに、大きく時間差がある場合は、被測定対象は健全ではないと診断することができる。
【0042】
続いて、加振力の時間特性波形の観察における、異常部の特徴について説明する。
本発明に係るコンクリート系構造物の品質診断方法は、加振力の時間特性波形の観察のみで判別することを特徴とする。従って、従来技術のように、打撃音をマイクロホン等の受音手段で測定し、その測定値を診断に利用する必要がない。
【0043】
尚、本発明における異常部とは、被測定対象であるコンクリート系構造物のおける剥離などが生じた部分を指し、剥離などとは、以下のような現象を示す。
・構造物の一部が剥離した状態(表面付近の材料が中心部付近の部材との間に隙間が生じた状態)。
・コンクリート系構造物の内部に空洞が存在する状態。
・コンクリート系構造物の内部あるいは内部から外部につながるひび割れが存在する状態。
・コンクリートの打設時の型枠への充填不足による空洞が存在する状態。
・コンクリート系構造物の母材に対して他の比較的薄い材料が、(1)規定の接着状態ではなく、剥離的特性を有している状態、及び/又は(2)ひび割れや空洞などを有する状態。
上記のうち、「コンクリート系構造物の母材に対して他の比較的薄い材料が規定の接着
状態ではない」とは、具体的には、鋼製型枠コンクリート系構造物、アスファルト仕上げを有するコンクリートスラブ(道路スラブ)又はタイルやその他の仕上げを有するコンクリート部材などが、コンクリート母材に対して規定の接着状態ではないこと、及び/又はひび割れや空洞がある状態を意味する。
【0044】
先に説明した測定手段により、加振力を測定し、この測定値から、加振力波形を得ることができるが、加振力波形の観察において、次に説明する「2段階以上の加振履歴」がある場合に、被測定対象であるコンクリート系構造物に、剥離などの異常があると判断することができる。
【0045】
2段階以上の加振履歴とは、健全部における加振力波形が、加振力の最大値を唯一のピークとする正弦半波波形であるのに対して(図2参照)、加振力の最大値以外に異なるピークが存在することを指す。例えば、図3(A)〜(B)に示すように、加振力の最大値よりも前の時刻にピークが現れる場合や、図4(A)〜(B)に示すように、加振力の最大値よりも後の時刻にピークが現れる場合が考えられる。
【0046】
また、図3・4の(A)〜(B)ようには、加振力の最大値と異なるピークが明確に現れないとしても、図3・4(C)〜(D)のように、2つ乃至それ以上のピークの重なりによって、加振力の最大値の前後に歪みが生じている場合も、2段階以上の加振履歴があるといえる。
【0047】
尚、図3〜4に示す波形は、あくまで、2段階以上の加振履歴が存在する場合にどのような波形が観察され得るかの例示であり、測定により得られた加振力の時間特性波形が、これらの波形に該当しないとしても、いかなる波形であっても加振力の最大値以外に異なるピークが存在すれば、被測定対象であるコンクリート系構造物に、剥離などの異常があると判断することができる。即ち、例示した波形に、本発明が限定されるものではない。
尚また、本発明の目的は、被測定対象であるコンクリート系構造物に異常があるか否かを診断するものであり、図3〜4に例示するような各波形の形状により、いかなる異常が生じているかを判別するものではない。従って、いかなる異常が生じているかを判別するためには、本発明と併用して、他の発明に係る方法を用いてもよい。
【0048】
被測定対象に異常部がある場合に、前記「2段階以上の加振履歴」が生じる理由としては、次のようなことが考えられる。
例えば、被測定対象を打撃手段にて打撃した位置に剥離があると、その剥離部材を加振した後、打撃手段と剥離部材が一体運動をして母材(被測定対象であるコンクリート系構造物の剥離等異常箇所以外の部分)に衝突し、このため、図3〜4に示す波形グラフのような2以上のピークが存在する加振力波形が観察される。
【0049】
異常が、ひび割れなどの場合でも、空隙などを有して離れていた微小部材が、加振により衝突するという現象が生じるため、このような加振力波形を観察することによって、2段階以上の加振履歴が観察されると考えられる。
図3〜4に様々な波形を例示したが、1回目のピークと、2回目のピークの大小関係は、次のような関係であると考えられる。即ち、1回目の加振で、加振力が反発を受け、相対的に小さな加振力になるため、2回目の加振時に、1回目の加振と同じ加振力を与えられるか否かにより、1回目のピークと2回目のピークの大小関係が決まる。
【0050】
図3・4の(C)〜(D)に示す波形の例は、2つのピークが重なった状況であるが、剥離間隔(空洞)が大きい場合や、相対的に、加振周波数が高い場合などが考えられるが、図3・4(A)〜(B)に示すように、2つのピークが分離されて観測される場合もある。即ち、加振力が2段階以上に分別されて観察されるか否かは、ひび割れや空洞などの
状況により、また、相対的な加振周波数(最高周波数)の大きさなどにより、その都度異なる結果となる。また、2以上の剥離などの部材がある場合は、3以上の段階的な波形あるいは独立なピークを有することになる。
【0051】
本発明は、上記した2段階以上の加振履歴と、それが重なって観測された場合に加振波形が広がって(歪んで)観察される現象を、微細構造部、即ち剥離やひび割れの存在と捉える点で、先行技術とは異なる。
【0052】
前記した方法は、波形を肉眼で観察することによって、2段階以上の加振履歴の有無を判断するものであるが、僅かな歪みの存在がある場合等、この2段階以上の加振履歴の有無が視認し難い場合も考えられる。
このような場合は、前記波形を視認する方法に加えて、以下の方法により判別することが好ましい。
【0053】
先ず、その判別方法として、加振力を1階微分した波形が、被測定対象に加振力が働いている間において、正から負への符号反転(正から負の方向へのゼロクロス。)を2回以上繰り返す場合に、2段階以上の加振履歴があると判断する方法を挙げることができる。換言すれば、1階微分した波形の負の部分が2回以上検出されると、測定位置に異常部があると判別することができる(図5における2段目の波形を参照。)。
【0054】
更に、上記正から負への符号反転が1回であっても、加振の前半(加振力の1階微分において、正の範囲が1回のみの範囲内)において、2階微分の正から負への符号反転(正から負の方向へのゼロクロス。)が2回以上ある場合に、2段階以上の加振履歴がある、即ち、測定位置に異常部があると判断する方法を挙げることができる(図5における3段目の波形を参照。)。
【0055】
尚、微分波形は、観察波形(微分する前の加振力の時間特性波形)の細かな変動に応じて、細かな波を生じることがあるため、観察波形を平滑化することにより、その細かな波を除して、観察し易くなることがある。
尚また、これらの微分による判別は、2段階以上の加振履歴の有無を判別するための一手段であり、他の信号処理手段(より高度な手段又は簡素な手段を含む。)を用いることもできる。
これらの判断方法を併用することにより、加振力波形における2段階以上の加振履歴を確実に把握することができ、これにより、より確実なコンクリート系構造物の品質診断を行うことができる。
【0056】
次に、その判別方法として、例えば、加振力の最大値を得た時Tmと、加振開始時Ts、加振終了時Teより算出されるζが、
【数3】

の関係を満たす場合に、2段階以上の加振履歴があると判断する方法を挙げることができる。
【0057】
ここにζは、健全部での対称性を表す形状パラメータであり、加振最大値となる時刻T
mの加振過程の中央時刻(Te+Ts)/2からのズレを評価する値で、ζ=0が左右対称形、すなわち、加振最大値を得る時刻が、加振の中央時刻と一致することを示す。健全部のζは、ゼロに近い小さな数字を持つので、これが、σなる標準偏差を持つ分布をする場合、
α=μ+3σ
などと設定することにより、上記数式を、非健全部の検出基準として使えることになる。ここにμ、σは、ζの平均値と標準偏差である。αは、健全部に固有の値なので、あらかじめ定めた値を設定することができる。また、μ+3σのみが基準となりえるのではなく、それ以外の値を設定して、検出能を上下することができる。あるいは、健全と判断する許容幅(トレランス)を設定することができる。
【0058】
上記数式で判別する方法を使用するには、先ず、健全部に固有の値であるαを求める。そのため、健全部を前記加振力の時間特性波形による診断等で検出し、その健全部における加振力の時間特性波形から、上記数式でζを算出し、このζの平均値であるμと、ζの標準偏差であるσを求め、α=μ+3σからαを求める。続いて、各打撃箇所の加振力の時間特性波形からζを算出し、このζの値がαの値よりも大きければ、その打撃箇所には異常部が存在すると判別することができる。
【0059】
尚、ζの平均値μは、少なくとも20回測定したときの平均値、ζの標準偏差σは、少なくとも20回測定した上で求めることが好ましい。
【0060】
本発明に係るコンクリート系構造物の品質診断方法は、あくまで加振力の時間特性波形を観察することを基本とする。そして、図5の説明図に示すように、この波形観察では2段階以上の加振履歴の有無を判断できない場合に、上記加振力の微分波形による判別を行うことが好ましい。微分波形による判別を行っても、尚も被測定対象に異常があると認められなくとも、上記数式を用いた診断方法を使用し、異常の有無を診断することがより好ましい。
【0061】
加振力の時間特性波形の観察において、前記「2段階以上の加振履歴」という特徴がある場合に、被測定対象であるコンクリート系構造物に、剥離等の異常があると判断することができる本発明は、既存の品質診断方法とは全く独立な情報に基づく方法であるため、前記特許文献1及び2その他の既存の方法と併用して、診断精度を向上させることができ、更に、既存の方法では診断・判別できなかった判別が可能となるといった有意な効果がある。
【0062】
また、周波数重心や、周波数特性の一部を定量化したパラメータのような、目的を限定して診断パラメータを設定する診断方法ではなく、被測定対象に特定の現象が生じているか否かを観察する方法であり、現象の有無を判断する判断基準を複数セットすることも可能であり、これにより、診断の精度・確実性を向上することができるいう有意な効果もある。
【0063】
更にまた、本発明に係る方法の使用に当たり、加振力の時間特性波形のみを用いることから、従来技術のように、打撃音を採取するマイクロホン等の受音手段や、その解析手段が不要であり、簡素で容易にコンクリート系構造物の品質診断を行うことができる。
【実施例】
【0064】
本発明に係るコンクリート系構造物の品質診断方法を使用して、コンクリート系構造物の品質診断を行った実施例について、以下に記載する。
加振力を得る手段としては、前記のとおり、被測定対象であるコンクリート系構造物に対して、インパクトハンマーにより打撃を与え、その加振力を測定する方法を使用した。
被測定対象は、コンクリート製の建築物である。
【0065】
前記の方法を使用することによって得られた加振力を規準化し、時間特性波形として表示したものを図6〜8に示す。図6〜8における縦軸は、加振力を規準化した値、横軸は、時間(msec.)を示す。尚、図6〜8の各波形グラフには、音圧応答の波形も記載されているが、本発明に係るコンクリート系構造物の品質測定方法には、当該音圧応答の波形や値は使用しない。
【0066】
図6に示す6つの波形グラフは、すべて健全部を測定した波形である。
図6に示す6つの波形グラフは、正弦半波形状をしており、2段階以上のピークや、加振開始時から加振力の最大値を得た時までの時間と、加振力の最大値を得た時から加振終了時までの時間とに、大きく時間差があるようなことはなく、2段階以上の加振履歴は観察されない。
【0067】
図7に示す6つの波形グラフは、すべて異常部を測定した波形である。
図7の波形図中に、左上の図において丸で囲まれた箇所に、加振力の最大値とは異なるピークが現れていることが分かる。この他の図においても、波形に歪みが生じており、これらの波形、正弦半端形状とはいえず、被測定対象に異常があると診断することができる。
この図7は、加振力の最大値よりも前の時刻に異なるピークが現れている点で、図3の各波形に相当する特徴を有している。
【0068】
図8に示す6つの波形グラフも、すべて異常部を測定した波形である。
図8の波形図中に、左上の図において丸で囲まれた箇所に、加振力の最大値とは異なるピークが現れていることが分かる。この他の図においても、波形に歪みが生じており、これらの波形、正弦半端形状とはいえず、被測定対象に異常があると診断することができる。
この図8は、加振力の最大値よりも後の時刻に異なるピークが現れている点で、図4の各波形に相当する特徴を有している。
【0069】
図9及び図10は、左列に加振力の時間特性波形、中列に1階微分波形、右列に2階微分波形を表した、本発明の実施によって得た波形グラフである。
図9に示す各波形グラフは、すべて健全部を測定した波形グラフである。
図9の各波形グラフを観察すると、加振力の時間特性波形は、正弦半波であり、1階微分した波形は、正から負への符号反転が1回であり、2階微分した波形も、正から負への符号反転が1回のみであることから、被測定対象は健全であると診断することができる。
【0070】
図10に示す各波形は、すべて異常部を測定した波形グラフである。
図10の各波形グラフを観察すると、2階微分した波形において、正から負への符号反転が2回あり、2回以上の正から負への符号反転があることから、被測定対象に異常部が存在すると診断することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 打撃手段
2 加振力検出器・アンプ
3 受音手段
31 マイクロホン
32 フード部材
4 音圧検出器・アンプ
5 AD変換器
6 コンピュータ
7 被測定対象
71 コンクリート部分
72 鋼材等のコンクリート以外の部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象であるコンクリート系構造物に、インパクトハンマーの如き任意の打撃手段により打撃を与え、該打撃手段から得られる加振力を計測することによって、コンクリート系構造物の品質を診断する方法において、
前記加振力の時間特性波形のみを観察することによって診断する方法であって、
前記加振力の時間特性波形に、2段階以上の加振履歴が観察された場合に、前記被測定対象に異常があると診断することを特徴とするコンクリート系構造物の品質診断方法。
【請求項2】
加振力の時間特性波形が、加振力の最大値で規準化されていることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート系構造物の品質診断方法。
【請求項3】
加振力の時間特性波形を1階微分した波形が、被測定対象に加振力が働いている間において、正から負への符号反転を2回以上繰り返す場合に、被測定対象に異常があると診断することを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート系構造物の品質診断方法。
【請求項4】
加振力の時間特性波形を2階微分した波形が、被測定対象に加振力が働いている間において、正から負への符号反転を2回以上繰り返す場合に、被測定対象に異常があると診断することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート系構造物の品質診断方法。
【請求項5】
加振力の最大値を得た時Tmと、加振開始時Tsと、加振終了時Teとによって算出される値ζが、以下の数式の条件を満たす場合に、被測定対象に異常があると診断することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコンクリート系構造物の品質診断方法。
【数1】

但し、数式中、αは被測定対象であるコンクリート系構造物の健全部に固有の値であって、α=μ+3σで求められ、μはζの平均値、σはζの標準偏差である。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のコンクリート系構造物の品質診断方法により診断された被測定対象の異常が、
コンクリート系構造物の一部が剥離した状態、
コンクリート系構造物の内部に空洞が存在する状態、
コンクリート系構造物の内部あるいは内部から外部につながるひび割れが存在する状態、
コンクリートの打設時の型枠への充填不足による空洞が存在する状態、
コンクリート系構造物の母材に対して他の比較的薄い材料が、(1)規定の接着状態ではなく、剥離的特性を有している状態、及び/又は(2)ひび割れや空洞などを有する状態、
のうち、少なくとも1つの状態であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコンクリート系構造物の品質診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−168023(P2012−168023A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29378(P2011−29378)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000172813)佐藤工業株式会社 (73)
【Fターム(参考)】