説明

コンクリート組成物及びその製造方法

【課題】 打設までの時間が2時間を超える場合にも適用できる流動保持性を得ることができ、しかも、温度の変化に合わせてフレッシュ性状の調整を行うことが容易なコンクリート組成物を提供すること。
【解決手段】 セメント、骨材、水、及び少なくとも2種類の分散剤を含有しており、分散剤のうちの少なくとも一種が、減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、初期のスランプフローの値Xと50cm到達時間の値Yとが、下記の条件A及びBのいずかを満たすコンクリート組成物。
条件A:550≦X≦600であり、且つ、−0.5X+320≦Y≦−2X+1280である。
条件B:600≦X≦700であり、且つ、−0.1X+80≦Y≦−0.4X+320である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木、建築においてコンクリートを使用する際には、コンクリートの製造現場とそのコンクリートを使用する現場とが離れている場合等、コンクリートを製造してから打設するまで長時間を要することがある。その場合、打設までの間にコンクリートの流動性が大きく低下してしまうと、作業性が著しく悪くなったり、さらには型枠内に十分に流し込むことができなくなったりして、適切な打設を行うことが困難となる。
【0003】
そこで、長時間コンクリートのフレッシュ性状を保持するためには、一般的な高流動コンクリートにおいて、打ち込みまでの時間が2時間程度であれば遅延形の分散剤を、また2時間を超えるような場合は超遅延形の分散剤を添加することが知られている(引用文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−23901号公報
【特許文献2】特開2011−20869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリートは、温度によって初期の流動性やその流動性を保持する特性(流動保持性)といったフレッシュ性状が少なからず変化するので、使用される現場や季節による気温変化に対応して、好適なフレッシュ性状が得られるように組成を変えることが求められる。打ち込みまでの時間が2時間以内程度となる場合であれば、遅延形の分散剤の添加量を変化させるだけで、温度に対応する所望のフレッシュ性状を得ることができることが多い。
【0006】
しかしながら、打ち込みまでの時間が2時間を超えるような場合、上述した超遅延形の分散剤の添加量を変えるだけでは、適度なフレッシュ性状を得ることは困難である。すなわち、例えば、冬季において好適であったコンクリートの配合は、夏季に適用する場合、流動性が低く、その保持時間も短くなる傾向にある。そこで、流動保持性を冬季なみに得ようとして、超遅延形の分散剤の添加量を増やしてしまうと、初期の流動性が高くなりすぎてしまい、所望のフレッシュ性状が得られなくなることがある。そのため、十分な流動保持性を得るとともに、適度な流動性をも得ようとした場合、超遅延形の分散剤の添加量を増加させるだけでなく、水セメント比や単位水量といったコンクリートの基本組成までをも変えることが必要であった。
【0007】
このように、コンクリートの打設までの時間が2時間を超えるような場合は、これまで、季節ごとに水セメント比や単位水量といった基本組成や、分散剤の種類や添加量などを調整して、所望のフレッシュ性状を得る必要があった。ところが、この方法では、配合の切換えの時期を見極めることが非常に困難であるほか、基本組成の変更に起因して硬化後の強度等の特性のばらつきが生じることも少なくなかった。
【0008】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、打設までの時間が2時間を超える場合にも適用できる流動保持性を得ることができ、しかも、温度の変化に合わせてフレッシュ性状の調整を行うことが容易なコンクリート組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のコンクリート組成物は、セメント、骨材、水、及び少なくとも2種類の分散剤を含有しており、分散剤のうちの少なくとも一種が、減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形の少なくとも一種であり、初期のスランプフローの値Xと、50cm到達時間の値Yとが、下記の条件A及びBのいずかを満たすことを特徴とする。
条件A:550≦X≦600であり、且つ、−0.5X+320≦Y≦−2X+1280である。
条件B:600≦X≦700であり、且つ、−0.1X+80≦Y≦−0.4X+320である。
【0010】
かかるコンクリート組成物は、セメント、骨材及び水に加えて、少なくとも減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形のいずれかを含む2種類の分散剤を含有し、しかも、スランプフローの値Xと50cm到達時間の値Yとが特定の条件A及びBのいずれかを満たす組成を有することによって、高流動コンクリートとして好適な流動性を有しながら、優れた流動保持性をも有するものとなる。そのため、打設までの時間が2時間を超える場合にも適用することができる。また、特にスランプフローの値Xと50cm到達時間の値Yとが特定の条件A及びBを満たしていることによって、分散剤の配合量を変化させることで、目的とする初期流動性及び流動保持性に容易に調整することが可能である。したがって、温度等に対応して、所望とするフレッシュ性状を得ることが容易となる。
【0011】
また、本発明の他のコンクリート組成物は、セメント、骨材、水、増粘剤、及び少なくとも2種類の分散剤を含有しており、分散剤のうちの少なくとも一種が、減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形の少なくとも一種であり、初期のスランプフローの値Xと、50cm到達時間の値Yとが、下記の条件a、b及びcのいずれかを満たすことを特徴とする。
条件a:550≦X≦600であり、且つ、−0.6X+390≦Y≦−2X+1280である。
条件b:600≦X≦650であり、且つ、−0.2X+150≦Y≦−0.4X+320である。
条件c:650≦X≦700であり、且つ、−0.1X+85≦Y≦−0.4X+320である。
【0012】
かかるコンクリート組成物は、セメント、骨材、水及び増粘剤に加えて、少なくとも減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形のいずれかを含む2種類の分散剤を含有し、しかも、スランプフローの値Xと50cm到達時間の値Yとが特定の条件a、b及びcのいずれかを満たす組成を有することによって、高流動コンクリートとして好適な流動性を有しながら、優れた流動保持性を有するので、打設までの時間が2時間を超える場合にも適用することができる。また、上記コンクリート組成物は、増粘剤を含有することから、増粘剤を含まない場合に比して高い流動性を維持しながら粘性が高められたものである。そのため、スランプフローの値Xと50cm到達時間の値Yとによる条件a、b及びcを満たし易いものである。そして、このような特定の条件a、b及びcのいずれかを満たしていることで、分散剤の配合量を変化させることで初期流動性及び流動保持性に容易に調整することができ、温度に対応して所望とするフレッシュ性状を得ることが容易となる。
【0013】
本発明はまた、セメント、骨材、水、及び少なくとも2種類の分散剤を混合してコンクリート組成物を得る工程を有しており、分散剤のうちの少なくとも一種が、減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形の少なくとも一種であり、初期のスランプフローの値Xと、50cm到達時間の値Yとが、下記の条件A及びBのいずかを満たすようにするコンクリート組成物の製造方法を提供する。
条件A:550≦X≦600であり、且つ、−0.5X+320≦Y≦−2X+1280である。
条件B:600≦X≦700であり、且つ、−0.1X+80≦Y≦−0.4X+320である。
【0014】
本発明はさらに、セメント、骨材、水、増粘剤、少なくとも2種類の分散剤を混合してコンクリート組成物を得る工程を有しており、分散剤のうちの少なくとも一種が、減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形の少なくとも一種であり、初期のスランプフローの値Xと、50cm到達時間の値Yとが、下記の条件a、b及びcのいずれかを満たすようにするコンクリート組成物の製造方法を提供する。
条件a:550≦X≦600であり、且つ、−0.6X+390≦Y≦−2X+1280である。
条件b:600≦X≦650であり、且つ、−0.2X+150≦Y≦−0.4X+320である。
条件c:650≦X≦700であり、且つ、−0.1X+85≦Y≦−0.4X+320である。
【0015】
これらのコンクリート組成物の製造方法によれば、上記本発明のコンクリート組成物を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、打設までの時間が2時間を超える場合にも適用できるフレッシュ性状を有しており、しかも、温度の変化に合わせたフレッシュ性状の調整が容易なコンクリート組成物及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実験例1〜33のコンクリート組成物で得られたスランプフローの値に対する50cm到達時間をプロットした図である。
【図2】実施例34〜38のコンクリート組成物で得られた経過時間に対するスランプフローの値をプロットしたグラフである。
【図3】実施例39〜43のコンクリート組成物で得られた経過時間に対するスランプフローの値をプロットしたグラフである。
【図4】実施例44〜48のコンクリート組成物で得られた経過時間に対するスランプフローの値をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0019】
(第1実施形態)
第1実施形態に係るコンクリート組成物は、セメント、骨材、水、及び少なくとも2種類の分散剤を含有しており、分散剤のうちの少なくとも一種が、減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形のうちの少なくとも一種である。
【0020】
コンクリート組成物に含まれるセメントとしては、普通、早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩性、白色などの各種ポルトランドセメント、エコセメント、超早強セメントや急硬セメント等が挙げられる。また、これらのセメントの複数を任意量混合したセメントも使用することができる。なかでも、条件A又はBを満たし易くする観点から、セメントとしては、早強セメント又は超早強セメントが好ましい。
【0021】
骨材としては、コンクリートに適用される細骨材や粗骨材を特に制限なく適用することができる。なお、本明細書におけるコンクリート組成物には、骨材として細骨材のみを含むいわゆるモルタルと、細骨材及び粗骨材の両方を含むコンクリートとの両方が含まれる。細骨材としては、例えば、川砂、山砂、海砂等の天然骨材や、砕石、砕砂、高炉スラグ細骨材等の人工骨材、コンクリート廃材から取り出した再生骨材等が挙げられる。また、粗骨材としては、川砂利、海砂利、山砂利、砕石、スラグ砕石等が挙げられる。
【0022】
分散剤は、コンクリートに添加される混和剤のうち、セメントの分散性を向上させる性質を有する成分である。分散剤としては、例えば、JIS A 6204に規定される減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤等が挙げられる。本実施形態のコンクリート組成物は、分散剤として、2種類又はそれ以上の種類の分散剤を含む。なお、本明細書において、「2種類又はそれ以上の種類の分散剤を含む」とは、コンクリート組成物に含まれている分散剤を一般的な混和剤の分類にしたがって分類した場合に、複数の種類に該当する成分を組み合わせて含有していることを意味する。この混和剤の分類としては、例えば上述したJIS A 6204の分類が挙げられる。
【0023】
本実施形態のコンクリート組成物に含まれる分散剤のうちの少なくとも一種は、減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形(以下、これらをまとめて「遅延形の分散剤」という。)のうちの少なくとも一種である。なかでも、このような遅延形の分散剤としては、遅延剤及び超遅延剤として一般に分類される分散剤が好適である。
【0024】
分散剤のうちの少なくとも一種としてこれらを含むことによって、例えばコンクリートの製造から打設までに2時間を超えるような場合であっても流動性を良好に維持することが可能となり、優れた流動保持性が得られるようになる。
【0025】
コンクリート組成物に含まれる分散剤は、全ての種類が遅延形の分散剤であってもよいが、遅延形の分散剤と遅延形ではない分散剤との組み合わせであるとより好ましい。遅延形ではない分散剤としては、JIS A 6204に規定される高性能減水剤、高性能AE減水剤標準形、流動化剤標準形が挙げられる。コンクリート組成物がこのような組み合わせで分散剤を含有しており、後述する条件A及びBを満たしていると、各分散剤の添加量を適切に設定することによって初期の流動性及び流動保持性をそれぞれ調整することが可能となる。その結果、好適なフレッシュ性状が得られる傾向にある。
【0026】
遅延形の分散剤と遅延形ではない分散剤との組み合わせとしては、より具体的には、AE減水剤遅延形と高性能AE減水剤標準形との組み合わせ、高性能AE減水剤遅延形と高性能AE減水剤標準形との組み合わせ、遅延剤と高性能減水剤との組み合わせ等が好適である。コンクリート組成物が条件A及びBを満たしている場合、このような組み合わせで遅延形及び遅延形ではない分散剤を含むことにより、これらの分散剤の含有量を調整することにより、一層良好なフレッシュ性状が得られ易くなる傾向にある。
【0027】
本実施形態のコンクリート組成物は、セメント、骨材、水、少なくとも2種類の分散剤のほかに、通常コンクリートに含まれ得るその他の混和剤等を更に含有していてもよい。混和剤としては、AE剤や硬化促進剤等が挙げられる。また、コンクリート組成物は、セメント以外の粉体成分を更に含んでいてもよい。そのような粉体成分としては、石灰石微粉末、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ等が挙げられる。なお、コンクリート組成物における粉体成分には、骨材は含まないこととする。
【0028】
本実施形態のコンクリート組成物は、初期のスランプフローの値Xと50cm到達時間の値Yとが、下記の条件A及びBのいずかを満たすものである。
条件A:550≦X≦600であり、且つ、−0.5X+320≦Y≦−2X+1280である。
条件B:600≦X≦700であり、且つ、−0.1X+80≦Y≦−0.4X+320である。
【0029】
ここで、初期のスランプフローの値Xとは、コンクリート組成物の各成分を混合し、均一に混ざり合った時点で混合をやめ、その5分後に、JIS A 1101に規定されるスランプ試験を行い、スランプコーンを引き上げてから5分経過した時点で得られるスランプフローの値(単位:cm)である。また、50cm到達時間の値Yとは、このスランプ試験を行った場合における、試験の開始からスランプフローが50cmとなるまでの時間(単位:秒)である。
【0030】
初期のスランプフローの値X及び50cm到達時間の値Yについて条件A及びBのいずれかを満たすことで、コンクリート組成物は、所定の初期の流動性を有するとともに、ある程度の粘度も有するものとなる。そのため、分散剤の少なくとも一種として遅延形の分散剤を含むことにより流動保持性を向上させても、本実施形態のコンクリート組成物においては、これらの添加に伴う流動性の変化が小さくなる。
【0031】
本実施形態のコンクリート組成物において、50cm到達時間の値Yが上記条件の数値範囲未満であると、所望の流動保持性を得るための遅延形の分散剤の添加に伴って、初期の流動性が過度に増大する傾向にある。一方、50cm到達時間の値Yが上記条件の数値範囲を超える場合、分散剤の調整だけでは好適な流動性を得ることが困難となる傾向にある。
【0032】
本実施形態のコンクリート組成物によれば、例えば、遅延形の分散剤の添加量を変化させることにより、流動性の過度な変化を抑制しながら流動保持性を調整することが可能となる。一方、分散剤として、遅延形ではない分散剤も組み合わせて含む場合には、この遅延形ではない分散剤の添加量を変化させることで、流動保持性の変化を一定の程度に維持したまま、流動性(特に初期の流動性)を調整することが可能となる。その結果、本実施形態のコンクリート組成物によれば、分散剤の添加量を調整するだけで季節の変化等による温度変化に対応する所望のフレッシュ性状を得ることが可能となり、フレッシュ性状の調整が極めて容易となる。
【0033】
本実施形態のコンクリート組成物において、各成分は以下のような条件を満たすように配合されていることが好ましい。
【0034】
まず、コンクリート組成物において、セメントの含有量(質量)に対する水の含有量(質量)の割合(%)は、一般に「水セメント比」(W/C(%))として表される値であるが、30〜60%であると好ましく、35〜55%であるとより好ましい。このような水セメント比を有することで、条件A及びBを満たし易くなるほか、好適なフレッシュ性状を得るために分散剤の添加量を変化させる等しても、硬化後の強度等の特性を良好に維持することができる。
【0035】
コンクリート組成物において、分散剤のうちの少なくとも一種として含まれる遅延形の分散剤の配合量は、コンクリート組成物に含まれるセメントや石灰石微粉末等の粉体成分の質量を100%としたとき、当該粉体成分に対する質量で0.1〜3.0%であると好ましく、0.2〜2.0%であるとより好ましい。なお、コンクリート組成物に遅延形の分散剤が複数種類含まれる場合は、それらの合計で上記の含有量となることが好ましい。
【0036】
また、分散剤として、遅延形の分散剤と遅延形ではない分散剤とを組み合わせて含む場合は、遅延形の分散剤が上記の含有量の条件を満たしているとともに、「遅延形の分散剤」/「遅延形ではない分散剤」が、質量比で、0.03〜2.0であると好ましく、0.06〜1.5であるとより好ましい。このような割合で遅延形の分散剤と遅延形ではない分散剤とを含むことで、条件A及びBが満たされ易くなり、好適な流動性と流動保持性を両立させ易くなる。
【0037】
さらに、コンクリート組成物において、コンクリート組成物に含まれるセメントや石灰石微粉末等の粉体成分の合計体積(p)に対する水の体積(w)の比(w/p)は、55〜80%であると好ましく、60〜75%であるとより好ましい。好適な条件を満たすほど、条件A及びBが満たされ易くなり、好適な流動性と流動保持性を両立させ易くなる。
【0038】
本実施形態のコンクリート組成物は、上述した各成分、すなわち、セメント、骨材、水、及び少なくとも2種類の分散剤を混合することによって得ることができる。また、これら以外の成分を含む場合は、それらの成分を更に加えて混合すればよい。コンクリート組成物に配合する各成分は、一度にまとめて添加して混合するのではなく、例えば、攪拌しながら各成分を適宜添加するなど、別々に添加して混合してもよい。
【0039】
そして、本実施形態のコンクリート組成物の製造においては、条件A及びBを満たすことができるように、各成分の配合量等の条件を設定する。好適な条件としては、例えば、上述したような水セメント比、分散剤の配合量や分散剤の質量比等の条件が挙げられる。
【0040】
(第2実施形態)
第2実施形態に係るコンクリート組成物は、セメント、骨材、水、増粘剤、及び少なくとも2種類の分散剤を含有しており、分散剤のうちの少なくとも一種が、減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
【0041】
本実施形態のコンクリート組成物は、第1実施形態のコンクリート組成物に含まれる各成分に加えて、更に増粘剤を必須成分として含むものである。第1実施形態の場合と同じ成分については、第1実施形態において例示したものを同様に適用することができ、好適な成分やそれらの組み合わせも同様である。
【0042】
増粘剤としては、コンクリートに一般的に添加される増粘剤を特に制限なく適用することができる。なかでも、セルロース系増粘剤、バイオポリマー系増粘剤、アクリル系増粘剤、アルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニウム塩の二つの界面活性剤を主剤とした特殊増粘剤又はフッ化カルシウム系増粘剤が好ましく、バイオポリマー系増粘剤、アクリル系増粘剤、又はアルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニウム塩の二つの界面活性剤を主剤とした特殊増粘剤が特に好ましい。
【0043】
これらの増粘剤を含むことで、コンクリート組成物の流動性を確保しながら粘性を高くすることが可能となる。その結果、後述する条件a、b及びcを満たすことが容易となり、優れたフレッシュ性状が得られ易くなる。
【0044】
本実施形態のコンクリート組成物は、初期のスランプフローの値Xと、50cm到達時間の値Yとが、下記の条件a、b及びcのいずれかを満たすものである。
条件a:550≦X≦600であり、且つ、−0.6X+390≦Y≦−2X+1280である。
条件b:600≦X≦650であり、且つ、−0.2X+150≦Y≦−0.4X+320である。
条件c:650≦X≦700であり、且つ、−0.1X+85≦Y≦−0.4X+320である。
【0045】
初期のスランプフローの値X及び50cm到達時間の値Yは、第1実施形態の場合と同義である。これらが、条件a、b及びcのいずれかを満たすことによって、コンクリート組成物は、所定の初期の流動性を有するとともに、ある程度の粘度も有するものとなる。そのため、分散剤の少なくとも一種として遅延形の分散剤を含むことにより流動保持性を向上させても、本実施形態のコンクリート組成物においては、これらの添加に伴う流動性の変化が小さくなる。
【0046】
ここで、本実施形態のコンクリート組成物において、50cm到達時間の値Yが上記各条件の数値範囲未満であると、所望の流動保持性を得るための遅延形の分散剤の添加に伴って、初期の流動性が過度に増大してしまう傾向にある。一方、50cm到達時間の値Yが上記各条件の数値範囲を超える場合、分散剤の調整だけでは好適な流動性を得ることが困難となる傾向にある。
【0047】
本実施形態のコンクリート組成物において、増粘剤の配合量以外は、第1実施形態の場合と同様の条件を満たすように各成分が配合されていることが好ましい。増粘剤の配合量は、コンクリート組成物に含まれる水の質量を100%としたとき、水に対する質量で、セルロース系増粘剤の場合、0.2〜1.5%であると好ましく、0.5〜1.3%であるとより好ましい。アクリル系増粘剤の場合、0.5〜1.5%であると好ましく、0.7〜1.3%であるとより好ましい。バイオポリマー系増粘剤の場合、0.1〜1.2%であると好ましく、0.4〜1.0%であるとより好ましい。フッ化カルシウム系増粘剤の場合、0.03〜0.25%であると好ましく、0.05〜0.18%であるとより好ましい。アルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニウム塩の二つの界面活性剤を主剤とした特殊増粘剤の場合、2.5〜6.5%であると好ましく、3.5〜5.5%であるとより好ましい。また、本実施形態のコンクリート組成物において、w/pは、75〜120%であると好ましく、85〜110%であるとより好ましい。本実施形態のコンクリート組成物において、各成分がこのような条件を満たすように配合されていることで、条件a、b及びcが満たされ易くなり、好適な流動性と流動保持性を両立させ易くなる。
【0048】
本実施形態のコンクリート組成物は、上述した各成分、すなわち、セメント、骨材、水、増粘剤及び少なくとも2種類の分散剤を混合することによって得ることができる。また、これら以外の成分を含む場合は、それらの成分を更に加えて混合すればよい。コンクリート組成物に配合する各成分は、一度にまとめて添加して混合するのではなく、例えば、攪拌しながら各成分を適宜添加するなど、別々に添加して混合してもよい。
【0049】
そして、本実施形態のコンクリート組成物の製造においては、条件a,b及びcを満たすことができるように、各成分の配合量等の条件を設定する。好適な条件としては、例えば、上述したような水セメント比、分散剤の配合量や分散剤の質量比、増粘剤の配合量等の条件が挙げられる。
【0050】
以上、本発明のコンクリート組成物及びその製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
[実験例1〜33]
水、セメント、石灰石微粉末、細骨材、粗骨材、分散剤、増粘剤及び分散剤を混合して、各種のコンクリート組成物を調製し、それらの初期のスランプフロー(mm)及び50cm到達時間を測定した。それぞれの実験例は、分散剤以外の配合を同じとし、分剤剤(SP1及びSP2のいずれか)の添加量のみを3通り(L、C及びHの配合)に変化させたものである。各実験例のコンクリート組成物の組成、並びに初期のスランプフロー及び50cm到達時間の結果を表2、3及び4に示す。表2、3及び4中、増粘剤の欄に斜線が記載されているものは、増粘剤を添加しなかったことを意味する。
【0053】
なお、各コンクリート組成物に添加した成分及びそれらの表2、3及び4中の記号は、以下の表1に示す通りである。表1中、各成分の商品名や特性を、それぞれ備考欄に記載した。また、表1中のSP1は、非遅延形の分散剤であって、主に初期の流動性を向上するための分散剤であり、SP2は、遅延形の分散剤であって、主に流動保持性を向上するための分散剤である。
【0054】
【表1】

【0055】
下記表2、3及び4中、「配合」の欄のW、C、LP、S及びGに対応する各欄の数値は、それぞれ重量(単位:g)を示している。また、「W/C」は水セメント比(=W/C×100(%))、「w/p」はC及びLPの合計体積に対するWの体積の比、「s/m」は、W、C、LP及びSの合計体積に対するSの体積の比、「Gvol」はGの体積(単位:L)、airは空気量(単位:%)を示している。
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】

【0059】
表2、3及び4に示した各実験例の結果のうち、スランプフローの目標値が550mmである実験例1、2、3及び7の比較、スランプフローの目標値が600mmである実験例12、13、14及び16の比較、スランプフローの目標値が650mmである実験例20、21、22及び25の比較、並びに、スランプフローの目標値が700mmである実験例28、29及び31の比較から、それぞれ同程度のスランプフローを得ることを目的とする場合、50cm到達時間が一定以上大きくなるものは、SP1の添加量を変化させてもスランプフローがほとんど変化しなくなることが確認された。
【0060】
また、表2、3及び4に示した各実験例の結果のうち、スランプフローの目標値が550mmである実験例4、5、6、8、9、10及び11の比較、スランプフローの目標値が600mmである実験例15、17、18及び19の比較、スランプフローの目標値が650mmである実験例23、25、26及び27の比較、並びに、スランプフローの目標値が700mmである実験例30、32及び33の比較から、それぞれ同程度のスランプフローを得ることを目的とする場合は、50cm到達時間が一定以上大きくなるものは、SP2の添加量を変化させてもスランプフローがほとんど変化しなくなることが確認された。
【0061】
以上のように、スランプフローの目標値に対して、それぞれ一定以上の50cm到達時間となる場合は、分散剤の添加量を変化させてもスランプフローがほとんど変化しなくなり、初期の流動性を調整することが困難となることが判明した。
【0062】
表2、3及び4に示した各実験例の結果に基づいて、分散剤の添加量を変化させることでスランプフローの範囲を好適に調整することができる50cm到達時間の範囲を求めたところ、図1に示す結果を得た。図1は、各実験例におけるスランプフローの値に対する50cm到達時間をプロットした図である。図1に示すように、スランプフローと50cm到達時間との関係が図1に示す直線L1と直線L3との間の領域内であると好ましく、また増粘剤を含む場合は破線L2と直線L3との間の領域内であると好ましいことが確認された。なお、直線L1と直線L3との間の領域が、上述した条件A及びBを満たす領域であり、破線L2と直線L3との間の領域が、上述した条件a、b及びcを満たす領域である。なお、図1中に示したプロットは、表2に示した各実験例の結果に対応する。
【0063】
[実験例34〜38]
下記表5に示す配合のコンクリート組成物(実験例34〜38)をそれぞれ準備し、それらについて、初期(0時間)から一定時間(7〜10時間)が経過するまで1時間おきにスランプフローの測定を行い、その結果に基づいて各実験例のコンクリート組成物による流動保持性を評価した。得られた結果を図2に示す。なお、実験例34〜38は、図1に示した直線L1とL3との間の領域に含まれるものであり、実験例34、36及び37は、表3中の実験例20に該当する。
【0064】
【表5】

【0065】
図2に示されるように、実験例34〜38のコンクリート組成物では、SP1の添加量を変化させることで、初期のスランプフローを変化させることができる一方、SP1の添加量が変化してもスランプフローの経時的な減少率はほぼ一定となることが確認された。また、SP2の添加率を変化させると、初期のスランプフローをほとんど変化させずに、スランプフローの経時的な減少率を変化させることができることが確認された。
【0066】
このことから、初期のスランプフロー及び50cm到達時間が図1に示した直線L1とL3との間の領域に含まれる条件を満たすコンクリート組成物は、分散剤であるSP1とSP2の添加量を変化させることで、目的とする初期流動性及び流動保持性が得られるように調整し易いことが判明した。
【0067】
[実験例39〜43]
下記表6に示す配合のコンクリート組成物(実験例39〜43)をそれぞれ準備し、それらについて、初期(0時間)から一定時間(7〜10時間)が経過するまで1時間おきにスランプフローの測定を行い、その結果に基づいて各実験例のコンクリート組成物による流動保持性を評価した。得られた結果を図3に示す。なお、実験例39〜43は、図1に示した直線L3よりも上の領域に含まれるものであり、実験例40、41及び42は、表3中の実験例27に該当する。
【0068】
【表6】

【0069】
図3に示されるように、実験例39〜43のコンクリート組成物は、SP1の添加量を変化させても、SP2の添加量を変化させても、初期のスランプフローが変化してしまうため、目的とする初期流動性及び流動保持性が得るための調整が困難であることが判明した。
【0070】
[実験例44〜48]
下記表7に示す配合のコンクリート組成物(実験例44〜48)をそれぞれ準備し、それらについて、初期(0時間)から一定時間(7〜10時間)が経過するまで1時間おきにスランプフローの測定を行い、その結果に基づいて各実験例のコンクリート組成物による流動保持性を評価した。得られた結果を図4に示す。なお、実験例44〜48は、図1に示した直線L1よりも下側の領域に含まれるものであり、実験例44、46及び48は、表3中の実験例22に該当する。
【0071】
【表7】

【0072】
図4に示されるように、実験例44〜48のコンクリート組成物は、SP1の添加量を変化させても、SP2の添加量を変化させても、初期のスランプフローがほとんど変化しないため、目的とする初期流動性及び流動保持性が得るための調整が困難であることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、骨材、水、及び少なくとも2種類の分散剤を含有しており、
前記分散剤のうちの少なくとも一種が、減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
初期のスランプフローの値Xと、50cm到達時間の値Yとが、下記の条件A及びBのいずかを満たす、コンクリート組成物。
条件A:550≦X≦600であり、且つ、−0.5X+320≦Y≦−2X+1280である。
条件B:600≦X≦700であり、且つ、−0.1X+80≦Y≦−0.4X+320である。
【請求項2】
セメント、骨材、水、増粘剤、及び少なくとも2種類の分散剤を含有しており、
前記分散剤のうちの少なくとも一種が、減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
初期のスランプフローの値Xと、50cm到達時間の値Yとが、下記の条件a、b及びcのいずれかを満たす、コンクリート組成物。
条件a:550≦X≦600であり、且つ、−0.6X+390≦Y≦−2X+1280である。
条件b:600≦X≦650であり、且つ、−0.2X+150≦Y≦−0.4X+320である。
条件c:650≦X≦700であり、且つ、−0.1X+85≦Y≦−0.4X+320である。
【請求項3】
セメント、骨材、水、及び少なくとも2種類の分散剤を混合してコンクリート組成物を得る工程を有しており、
前記分散剤のうちの少なくとも一種が、減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
初期のスランプフローの値Xと、50cm到達時間の値Yとが、下記の条件A及びBのいずかを満たすようにする、コンクリート組成物の製造方法。
条件A:550≦X≦600であり、且つ、−0.5X+320≦Y≦−2X+1280である。
条件B:600≦X≦700であり、且つ、−0.1X+80≦Y≦−0.4X+320である。
【請求項4】
セメント、骨材、水、増粘剤、及び少なくとも2種類の分散剤を混合してコンクリート組成物を得る工程を有しており、
前記分散剤のうちの少なくとも一種が、減水剤遅延形、AE減水剤遅延形、高性能AE減水剤遅延形及び流動化剤遅延形からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、
初期のスランプフローの値Xと、50cm到達時間の値Yとが、下記の条件a、b及びcのいずれかを満たすようにする、コンクリート組成物の製造方法。
条件a:550≦X≦600であり、且つ、−0.6X+390≦Y≦−2X+1280である。
条件b:600≦X≦650であり、且つ、−0.2X+150≦Y≦−0.4X+320である。
条件c:650≦X≦700であり、且つ、−0.1X+85≦Y≦−0.4X+320である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−23418(P2013−23418A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161160(P2011−161160)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】