説明

コンクリート表層品質の評価指標の算出方法、算出装置及び算出プログラム、並びに、コンクリート表層品質の評価方法、評価装置及び評価プログラム

【課題】表層透気試験結果の含水依存性を考慮した上でコンクリート表層品質を正確に評価することを可能にする。
【解決手段】コンクリートに対して電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定し(S1,S2)、前記コンクリートに対して表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定し(S3,S4)、電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して表層透気性指数を算出し(S5)、表層透気性指数の値を用いてコンクリート表層品質を評価する(S6)ようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート表層品質の評価指標の算出方法、算出装置及び算出プログラム、並びに、コンクリート表層品質の評価方法、評価装置及び評価プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、表層透気試験によって得られた測定値を用いて行うコンクリート表層品質の非破壊での評価に用いて好適なコンクリート表層品質の評価指標の算出方法、算出装置及び算出プログラム、並びに、コンクリート表層品質の評価方法、評価装置及び評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の品質検査・評価において有用な非破壊試験として種々の方法が提案されており、そのうち耐久性評価に有効且つ簡便な手法として表層透気試験がある。そして、表層透気試験のうち特にTorrent法による測定値は中性化抵抗性や塩分浸透抵抗性と強い相関性を有することが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】R.J. Torrent and L. Fernandez Luco:RILEM Report 40 Non-Destructive Evaluation of the Penetrability and Thickness of the Concrete Cover,State of the Art Report of RILEM Technical Committee TC 189-NEC: 'Non-destructive Evaluation of the Concrete Cover',2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1のTorrent法などの表層透気試験では、コンクリート中の水分が表層透気試験の測定値に影響を及ぼしてしまうという問題がある(蔵重勲・廣永道彦:脱型材齢や曝露環境がコンクリートの強度特性や表層透気性ならびに中性化抵抗性に及ぼす影響の実験的評価,コンクリート工学年次論文集,Vol.32,No.1,pp.623-628,2010年)。このため、Torrent法などの表層透気試験によって得られた測定値をそのまま用いてコンクリート構造物の品質検査・評価を行うと正しい検査・評価結果が得られない虞があり、したがって表層透気試験によって得られた測定値をそのまま用いた品質検査・評価では信頼性が高いとは言い難い。このようなことから、検査・評価結果の普遍性並びに判定基準や検査時期の設定における問題として、コンクリート中の水分が表層透気試験の測定値に及ぼす影響の定量的解明に基づく解決策が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、コンクリート中の水分が表層透気試験の測定値に及ぼす影響を定量評価して表層透気試験結果の含水依存性を考慮した上でコンクリート表層品質を正確に評価することができるコンクリート表層品質の評価指標の算出方法、算出装置及び算出プログラム、並びに、コンクリート表層品質の評価方法、評価装置及び評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、表層透気試験に基づくコンクリート表層品質のより一層適切な評価方法の検討を行う中で、以下のことを知見した。
【0007】
まず、複数のコンクリート供試体を用いてTorrent法による表層透気試験を行い、1年間に亘る表層透気係数の材齢推移の分析の結果、材齢とともに表層透気係数が漸増することが確認された。これは、コンクリート中水分の乾燥による透気経路の拡大によるものであると考えられた。
【0008】
そして、材齢の進行に伴う表層透気係数の増大傾向は、透気性の大小に関係なく原点を通る直線式で近似できることが確認された。ここで、ゼロ切片になることは、脱型までの高含水状態(飽水時)におけるコンクリート供試体の透気性がほぼゼロであることに対応している。そして、原点を通る直線式で近似できることから、最少1回のみの表層透気試験を行うことによって表層透気係数と材齢との間の関係式を導出することができることが知見された。また、材齢が6ヶ月程度までが特に良好に近似できることが知見された。
【0009】
また、前記複数のコンクリート供試体に対してWenner法による電気抵抗率測定を行い、電気抵抗率の材齢推移の分析の結果、材齢とともに電気抵抗率が漸増することが確認された。これも、コンクリート中水分の乾燥によるものであると考えられた。
【0010】
そして、材齢の進行に伴う電気抵抗率の増大傾向は、透気性の大小に関係なく切片を有する直線式で近似できることが確認された。ここで、近似直線式の切片が通常はゼロより大きくなることは、高含水状態(飽水時)におけるコンクリート供試体の電気抵抗率が通常はゼロより大きくなることに対応している。
【0011】
上述の分析・検討結果も踏まえ、表層透気試験の測定値に及ぼすコンクリート中水分の影響に対する積極的な評価観点に立脚し、コンクリートの表層透気性を評価する方法を模索する種々の検討の中で、表層透気係数と電気抵抗率との間の関係は切片を有する直線式で十分に近似できることを知見した。そして、両者の間の関係を表す近似直線式の切片は曝露乾燥直前の含水率がほぼ100%の状態における電気抵抗率に対応するものとみなすことができると共に、近似直線式の傾きは表層透気係数を単位量増大させるための電気抵抗率の変化割合を表す指標と捉えることができると考えられた。
【0012】
本発明では、上述の近似直線式の傾きを表層透気性指数と定義する。この表層透気性指数は、水分逸散による透気経路の拡大と電気抵抗率の増大とを対比させて評価することでコンクリート中の空隙の総量や連続性といった物質移動抵抗性の因子要素の評価までも可能とする概念であると捉えられる。
【0013】
さらに、表層透気試験及び電気抵抗率測定を行った複数のコンクリート供試体の表層透気性指数を比較し、水セメント比が高く早期の材齢で脱型したものほど値(即ち、近似直線式の傾きの値)が小さくなっており、電気抵抗率の単位上昇に対する表層透気係数の増大割合が大きいことを知見した。このような傾向は、コンクリート空隙中水分の逸散が透気経路の拡大に及ぼす影響が相対的に大きく、定性的には空隙の連続性が高く総量も多い粗い組織であることに対応すると考えられる。
【0014】
また、前記複数のコンクリート供試体に対して促進中性化試験を行い、当該試験によって得られた結果に基づいて促進中性化速度係数を算出して表層透気性指数と対比した。その結果、促進中性化速度係数は表層透気性指数が大きくなるほど小さくなる傾向が認められ、水セメント比による中性化抵抗性の差異を表層透気性指数によって表現できることを知見した。さらに、同一配合の複数のコンクリート供試体に関する促進中性化速度係数と表層透気性指数との対比から、養生の良否に左右される中性化抵抗性(即ち、養生の良否による中性化抵抗性の変化)に対する説明性も有することが知見された。
【0015】
以上の検討の結果から、表層透気試験結果の含水依存性を考慮したコンクリートの表層透気性の評価指標として表層透気性指数は有用であると考えられた。
【0016】
そして、この表層透気性指数は上述の表層透気係数の材齢推移に関する直線式の傾きと電気抵抗率の材齢推移に関する直線式の傾きとの比と同義であり、この二つの傾きの比と促進中性化速度係数との間にも相関があることが確認された。したがって、上記二つの直線式(実際には近似直線式)を求めてこれら二つの近似直線式の傾きの比を指標として用いることにより、表層透気試験を行って得られる表層透気係数の含水依存性を考慮した上での促進中性化速度係数の評価を行うことができ、コンクリート表層品質を正確に評価し得ることが知見された。
【0017】
本発明は発明者の上記分析・検討によって得られた知見に基づくものであり、請求項1記載のコンクリート表層品質の評価指標の算出方法は、コンクリートに対して電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定すると共に前記コンクリートに対して表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定し、電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除してコンクリートの表層品質に関する指標値(即ち表層透気性指数)を算出するようにしている。
【0018】
また、請求項2記載のコンクリート表層品質の評価指標の算出装置は、コンクリートに対して電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段と、前記コンクリートに対して表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段と、電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除してコンクリートの表層品質に関する指標値(即ち表層透気性指数)を算出する手段とを有するようにしている。
【0019】
また、請求項3記載のコンクリート表層品質の評価指標の算出プログラムは、コンクリートに対して電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段、前記コンクリートに対して表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段、電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除してコンクリートの表層品質に関する指標値(即ち表層透気性指数)を算出する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0020】
したがって、これらのコンクリート表層品質の評価指標の算出方法、算出装置及び算出プログラムによると、電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して算出される指標値(即ち表層透気性指数)は水分逸散による透気経路の拡大と電気抵抗率の増大とを対比させて評価するものであるので、表層透気試験によって得られた測定値を用いてコンクリート中の空隙の総量や連続性といった物質移動抵抗性の因子要素の評価を可能とする指標が提供される。すなわち、コンクリートの表層品質に関する有用な指標が提供される。
【0021】
発明者の上記分析・検討によって得られた知見に基づくものとして、さらに、請求項4記載のコンクリート表層品質の評価方法は、コンクリート構造物表面の評価地点毎に電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定すると共に表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定し、評価地点毎に電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して指標値(即ち表層透気性指数)を算出し、評価地点毎の指標値の分散若しくは標準偏差を算出して当該分散若しくは標準偏差の値に基づいてコンクリート構造物のコンクリート表層品質を評価するようにしている。
【0022】
また、請求項5記載のコンクリート表層品質の評価装置は、コンクリート構造物表面の評価地点毎に電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段と、前記コンクリート構造物表面の評価地点毎に表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段と、評価地点毎に電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して指標値(即ち表層透気性指数)を算出する手段と、評価地点毎の指標値の分散若しくは標準偏差を算出して当該分散若しくは標準偏差の値に基づいてコンクリート構造物のコンクリート表層品質を評価する手段とを有するようにしている。
【0023】
また、請求項6記載のコンクリート表層品質の評価プログラムは、コンクリート構造物表面の評価地点毎に電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段、前記コンクリート構造物表面の評価地点毎に表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段、評価地点毎に電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して指標値(即ち表層透気性指数)を算出する手段、評価地点毎の指標値の分散若しくは標準偏差を算出して当該分散若しくは標準偏差の値に基づいてコンクリート構造物のコンクリート表層品質を評価する手段としてコンピュータを機能させるようにしている。
【0024】
したがって、これらのコンクリート表層品質の評価方法、評価装置及び評価プログラムによると、電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して算出される指標値(即ち表層透気性指数)は水分逸散による透気経路の拡大と電気抵抗率の増大とを対比させて評価するものであるので、表層透気試験によって得られた測定値に基づくコンクリート中の空隙の総量や連続性といった物質移動抵抗性の因子要素の評価を可能とする指標によってコンクリート構造物のコンクリート表層品質が評価される。
【発明の効果】
【0025】
本発明のコンクリート表層品質の評価指標の算出方法、算出装置及び算出プログラムによれば、表層透気試験によって得られた測定値を用いてコンクリート中の空隙の総量や連続性といった物質移動抵抗性の因子要素の評価を可能とする指標を提供することができるので、例えば竣工時の耐久性確認に特に有用な指標を簡易に取得することが可能になり、表層透気試験によって得られた測定値を用いたコンクリートの表層品質に関する品質検査・評価の信頼性の向上を図ることが可能になる。
【0026】
また、本発明のコンクリート表層品質の評価方法、評価装置及び評価プログラムによれば、表層透気試験によって得られた測定値に基づくコンクリート中の空隙の総量や連続性といった物質移動抵抗性の因子要素の評価を可能とする指標によってコンクリート構造物の施工の適切さの程度を含むコンクリート表層品質を評価することができるので、表層透気試験によって得られた測定値を用いた品質検査・評価の信頼性の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のコンクリート表層品質の評価方法(その一部としてのコンクリート表層品質の評価指標の算出方法)の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
【図2】実施形態のコンクリート表層品質の評価方法(その一部としてのコンクリート表層品質の評価指標の算出方法)をコンクリート表層品質の評価プログラム(その一部としてのコンクリート表層品質の評価指標の算出プログラム)を用いて実施する場合の当該プログラムによって実現されるコンクリート表層品質の評価装置(その一部としてのコンクリート表層品質の評価指標の算出装置)の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0029】
図1及び図2に、本発明のコンクリート表層品質の評価方法、評価装置及び評価プログラムの実施形態の一例を示す。本実施形態のコンクリート表層品質の評価方法は、コンクリートに対して電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する(S1,S2)と共に、前記コンクリートに対して表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定し(S3,S4)、電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除してコンクリートの表層品質に関する指標値としての表層透気性指数を算出し(S5)、当該表層透気性指数の値を用いてコンクリート表層品質を評価する(S6)ようにしている。
【0030】
本発明では、評価対象のコンクリート構造物に対して表層透気試験及び電気抵抗率測定を行い、表層透気試験によって得られた表層透気係数kT〔m2〕の測定値及び電気抵抗率測定によって得られた電気抵抗率ρ〔kΩcm〕の測定値を用いる。
【0031】
ここで、本発明では、表層透気係数kTの測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を切片の値をゼロとして算定するので、少なくとも1時点(材齢)における表層透気係数kTの測定値があれば良い。なお、表層透気試験を行う時点即ち材齢は特定の時期に限定されるものではなく、いずれの材齢でも良いが、表層透気係数kTと材齢との間の直線関係(言い換えると比例関係)が特に良好に表れる脱型後比較的初期の材齢で試験を行うことが好ましい。具体的には例えば材齢大凡1〜3ヶ月以内に少なくとも1時点で表層透気試験を行うことが考えられる。
【0032】
なお、本発明では、コンクリートの表層透気係数kTが得られるものであれば表層透気試験の具体的な方法は特定のものには限定されない。具体的には例えばTorrent法を用いることが考えられる。なお、Torrent法自体は周知の技術であるのでここでは詳細については省略する(例えば、前掲の非特許文献1)。
【0033】
また、本発明では、電気抵抗率ρの測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を切片の値を特定しないで算定するので、少なくとも2時点(材齢)における電気抵抗率ρの測定値があれば良い。なお、電気抵抗率測定を行う時点即ち材齢は特定の時期に限定されるものではなく、いずれの材齢でも良いが、電気抵抗率ρと材齢との間の直線関係(言い換えると比例関係)が特に良好に表れる脱型後比較的初期の材齢で試験を行うことが好ましい。具体的には例えば材齢大凡1〜3ヶ月以内に少なくとも2時点で電気抵抗率測定を行うことが考えられる。また、表層透気試験を行う時期と合わせることが望ましい。また、2時点のみなど試験を少数回しか行わない場合には、より一層尤もらしい近似直線式を算定するために2〜3週間以上の間隔を空けて電気抵抗率測定を行うことが好ましい。
【0034】
なお、本発明では、コンクリート表層の電気抵抗率ρが得られるものであれば電気抵抗率測定の具体的な方法は特定のものには限定されない。具体的には例えばWenner法を用いることが考えられる。なお、Wenner法自体は周知の技術であるのでここでは詳細については省略する(例えば、物理探査ハンドブック手法編第5章「電気探査」、物理探査学会、1999年)。
【0035】
ところで、上述のコンクリート表層品質の評価方法は、本発明のコンクリート表層品質の評価装置として実現される。本実施形態のコンクリート表層品質の評価装置は、コンクリートに対して電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値データを読み込む手段と、電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段と、前記コンクリートに対して表層透気試験を行って得られた表層透気係数データを読み込む手段と、表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段と、電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除してコンクリートの表層品質に関する指標値としての表層透気性指数を算出する手段と、表層透気性指数の値を用いてコンクリート表層品質を評価する手段とを有するようにしている。
【0036】
また、上述のコンクリート表層品質の評価方法及びコンクリート表層品質の評価装置は、本発明のコンクリート表層品質の評価プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現される。本実施形態では、コンクリート表層品質の評価プログラムをコンピュータ上で実行することによってコンクリート表層品質の評価装置が実現されると共にコンクリート表層品質の評価方法が実施される場合を例に挙げて説明する。
【0037】
コンクリート表層品質の評価プログラム17を実行するためのコンピュータ10(本実施形態では、コンクリート表層品質の評価装置10でもある)の全体構成を図2に示す。このコンクリート表層品質の評価装置10は、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14及びメモリ15を備え相互にバス等の信号回線によって接続されている。また、コンクリート表層品質の評価装置10にはデータサーバ16がバス等の信号回線によって接続されており、その信号回線を介してデータや制御指令等の信号の送受信(即ち出入力)が相互に行われる。
【0038】
制御部11は記憶部12に記憶されているコンクリート表層品質の評価プログラム17によってコンクリート表層品質の評価装置10全体の制御並びにコンクリート表層品質の評価処理に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
【0039】
記憶部12は少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
【0040】
メモリ15は制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0041】
入力部13は少なくとも作業者の命令を制御部11に与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。
【0042】
表示部14は制御部11の制御によって文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0043】
そして、本実施形態では、評価対象のコンクリート構造物に対して行われた表層透気試験によって得られた表層透気係数kT〔m2〕の測定値が表層透気係数データベース18として、さらに、電気抵抗率測定によって得られた電気抵抗率ρ〔kΩcm〕の測定値が電気抵抗率データベース19として、それぞれデータサーバ16に記録される。なお、表層透気係数kTの測定値データも電気抵抗率ρの測定値データも各々の試験・測定時の材齢と対応づけられて各データベースに蓄積される。
【0044】
なお、本発明において表層透気係数kTや電気抵抗率ρの測定値データが蓄積されるデータベースやデータファイルが保存されるのは、データサーバ16に限られるものではなく、記憶部12に保存されるようにしても良いし、光記憶媒体等の各種記憶媒体や外部記憶装置に保存されるようにしても良い。
【0045】
そして、記憶装置としてのデータサーバ16にアクセス可能なコンピュータであるコンクリート表層品質の評価装置10の制御部11には、コンクリート表層品質の評価プログラム17を実行することにより、コンクリートに対して電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値データ及び前記コンクリートに対して表層透気試験を行って得られた表層透気係数データを読み込む手段としてのデータ読込部11a、電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段としての電気抵抗率近似式算定部11b、表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段としての表層透気係数近似式算定部11c、電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除してコンクリートの表層品質に関する指標値としての表層透気性指数を算出する手段としての表層透気性指数算出部11d、表層透気性指数の値を用いてコンクリート表層品質を評価する手段としての品質評価部11eが構成される。
【0046】
ここで、上述のコンクリート表層品質の評価方法のうちS1からS5までの処理がコンクリート表層品質の評価指標の算出方法に該当する。そして、S1からS5までの処理を実行するための装置構成がコンクリート表層品質の評価指標の算出装置に該当し、S1からS5までの処理を実行するためのプログラム内容がコンクリート表層品質の評価指標の算出プログラムに該当する。
【0047】
本実施形態のコンクリート表層品質の評価方法の実行にあたっては、まず、制御部11のデータ読込部11aは、評価対象のコンクリート構造物の電気抵抗率測定値データの読み込みを行う(S1)。
【0048】
具体的には、制御部11のデータ読込部11aは、電気抵抗率測定時の材齢と対応づけられた電気抵抗率測定値データを電気抵抗率データベース19から読み込み、当該電気抵抗率測定値データを材齢毎にメモリ15に記憶させる。
【0049】
次に、制御部11の電気抵抗率近似式算定部11bは、S1の処理によって読み込まれた電気抵抗率測定値データを用いて電気抵抗率と材齢との間の関係を表す近似直線式の算定を行う(S2)。
【0050】
具体的には、制御部11の電気抵抗率近似式算定部11bは、S1の処理においてメモリ15に記憶された材齢毎の電気抵抗率測定値データをメモリ15から読み込み、電気抵抗率と材齢との間の関係を表す近似直線式(数式1)を算定する。なお、近似直線式の算定(即ち、近似直線の傾き及び切片の算定)には例えば最小二乗法を用いる。
(数1) ρ=Iρ・t+ρ0
ただし、ρ:電気抵抗率(測定値データ)〔kΩcm〕,
ρ:傾き,
t:材齢〔日〕,
ρ0:切片 をそれぞれ表す。
【0051】
なお、材齢と電気抵抗率との組み合わせデータが少なくとも2時点分あれば、数式1の傾きIρ及び切片ρ0を算定することができる。
【0052】
そして、電気抵抗率近似式算定部11bは、算定した近似直線式の傾きIρの値をメモリ15に記憶させる。
【0053】
次に、制御部11のデータ読込部11aは、評価対象のコンクリート構造物の表層透気係数測定値データの読み込みを行う(S3)。
【0054】
具体的には、制御部11のデータ読込部11aは、表層透気試験時の材齢と対応づけられた表層透気係数測定値データを表層透気係数データベース18から読み込み、当該表層透気係数測定値データを材齢毎にメモリ15に記憶させる。
【0055】
次に、制御部11の表層透気係数近似式算定部11cは、S3の処理によって読み込まれた表層透気係数測定値データを用いて表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式の算定を行う(S4)。
【0056】
具体的には、制御部11の表層透気係数近似式算定部11cは、S3の処理においてメモリ15に記憶された材齢毎の表層透気係数測定値データをメモリ15から読み込み、表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式(数式2)を算定する。なお、近似直線式の算定(即ち、近似直線の傾きの算定)には例えば最小二乗法を用いる。
(数2) kT=IkT・t
ただし、kT:表層透気係数(測定値データ)〔m2〕,
kT:傾き,
t:材齢〔日〕 をそれぞれ表す。
【0057】
なお、本発明では表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式は切片がゼロであると仮定する。このため、材齢と表層透気係数との組み合わせデータが少なくとも1時点分あれば、数式2の傾きIkTを算定することができる。
【0058】
そして、表層透気係数近似式算定部11cは、算定した近似直線式の傾きIkTの値をメモリ15に記憶させる。
【0059】
次に、制御部11の表層透気性指数算出部11dは、S2の処理によって算定された電気抵抗率近似式の傾きIρとS4の処理によって算定された表層透気係数近似式の傾きIkTとを用いて表層透気性指数の算出を行う(S5)。
【0060】
具体的には、制御部11の表層透気性指数算出部11dは、S2の処理においてメモリ15に記憶された電気抵抗率近似式の傾きIρの値をメモリ15から読み込むと共に、S4の処理においてメモリ15に記憶された表層透気係数近似式の傾きIkTの値をメモリ15から読み込み、数式3によって表層透気性指数Iρ/kTを算出する。
(数3) Iρ/kT=Iρ/IkT
【0061】
そして、表層透気性指数算出部11dは、算出した表層透気性指数Iρ/kTの値をメモリ15に記憶させる。
【0062】
ここで、前述の通り、上述のS1からS5までの処理がコンクリート表層品質の評価指標の算出方法に該当する。そして、S1からS5までの処理を実行するための装置構成がコンクリート表層品質の評価指標の算出装置に該当し、S1からS5までの処理を実行するためのプログラム内容がコンクリート表層品質の評価指標の算出プログラムに該当する。
【0063】
そして、コンクリート表層品質の評価方法、評価装置及び評価プログラムに該当する内容として、制御部11の品質評価部11eは、S5の処理によって算出された表層透気性指数Iρ/kTを用いてコンクリート表層品質の評価を行う(S6)。
【0064】
S5までの処理によって算出された表層透気性指数Iρ/kTは、上述の発明者による分析・検討によって得られた知見の通り、表層透気試験によって得られる測定値の含水依存性を考慮している点でコンクリート表層の品質評価においてその値自体が有用な指標であり、コンクリート構造物のコンクリート表層品質の検査・評価内容に合わせて様々な活用方法が考えられる。
【0065】
例えば、コンクリート構造物の竣工検査における活用が考えられる。具体的には、コンクリート構造物表面上に例えば格子状に評価地点を設定し、当該評価地点毎に電気抵抗率測定及び表層透気試験を行うと共に上述のS1からS5までの処理を行って表層透気性指数を算出し、これら評価地点毎の表層透気性指数のばらつきの程度によってコンクリート養生を含む施工の適切さを評価したり、表層透気性指数が他の評価地点と比べて極端に小さい地点(箇所)の有無によって部分的補修等の必要の有無を判断したりすることなどが考えられる。
【0066】
この場合には、評価対象のコンクリート構造物に対して行われた評価地点毎の表層透気試験によって得られた表層透気係数kT〔m2〕の測定値が表層透気係数データベース18に蓄積されると共に、評価地点毎の電気抵抗率測定によって得られた電気抵抗率ρ〔kΩcm〕の測定値が電気抵抗率データベース19に蓄積される。そして、評価地点毎にS1からS5までの処理が行われ、評価地点毎の表層透気性指数Iρ/kTの値がメモリ15に記憶される。
【0067】
そして、S6の処理として、制御部11の品質評価部11eは、S5の処理によってメモリ15に記憶された評価地点毎の表層透気性指数Iρ/kTの値をメモリ15から読み込む。
【0068】
品質評価部11eは、評価地点毎の表層透気性指数Iρ/kTの値を用い、これらの値のばらつきの程度の指標として分散若しくは標準偏差を算出すると共にこの分散,標準偏差の値を予め定められた基準(閾値)と比較してコンクリート表層品質の評価結果を表示部14に表示させたり、評価地点毎の表層透気性指数Iρ/kTの値を予め定められた基準(閾値)と比較して基準を下回る評価地点を表示部14に表示させたりする。
【0069】
また、上述のように表層透気性指数Iρ/kTの値をそのまま用いての活用だけでなく、前述のように発明者の知見によれば表層透気性指数と促進中性化速度係数との間には相関があるので、この性質を利用してコンクリート構造物の促進中性化速度係数の評価における活用が考えられる。この場合には、評価対象のコンクリート構造物の施工に用いたコンクリートと同一配合のコンクリートサンプル試験体を用いて表層透気性指数と促進中性化速度係数との間の相関(具体的には近似曲線)を予め求めておく。
【0070】
その上で、上述と同様の要領で評価地点毎の表層透気性指数Iρ/kTを算出してメモリ15に記憶させる。
【0071】
そして、S6の処理として、制御部11の品質評価部11eは、S5の処理によってメモリ15に記憶された評価地点毎の表層透気性指数Iρ/kTの値をメモリ15から読み込む。
【0072】
品質評価部11eは、評価地点毎の表層透気性指数Iρ/kTの値を用い、予め求めておいた表層透気性指数と促進中性化速度係数との間の関係を表す近似曲線によって評価地点毎の促進中性化速度係数の値を算出する。なお、前記近似曲線はコンクリート表層品質の評価プログラム17内に予め規定しておく。
【0073】
そして、品質評価部11eは、評価地点毎の促進中性化速度係数と予め定められた基準(閾値)とを比較し、コンクリート表層の中性化抵抗性の評価結果を表示部14に表示させたりする。
【0074】
そして、制御部11は、コンクリート表層品質の評価に係る処理を終了する(END)。
【0075】
以上のように構成された本発明のコンクリート表層品質の評価指標の算出方法、算出装置及び算出プログラムによれば、電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して算出される表層透気性指数は水分逸散による透気経路の拡大と電気抵抗率の増大とを対比させて評価するものであるので、表層透気試験によって得られた測定値を用いてコンクリート中の空隙の総量や連続性といった物質移動抵抗性の因子要素の評価を可能とする指標を提供することができる。
【0076】
また、以上のように構成された本発明のコンクリート表層品質の評価方法、評価装置及び評価プログラムによれば、電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して算出される表層透気性指数は水分逸散による透気経路の拡大と電気抵抗率の増大とを対比させて評価するものであるので、表層透気試験によって得られた測定値に基づくコンクリート中の空隙の総量や連続性といった物質移動抵抗性の因子要素の評価を可能とする指標によってコンクリート構造物の施工の適切さの程度を含むコンクリート表層品質を評価することができる。
【0077】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態におけるコンクリート表層品質の評価(S6)の処理内容は本発明特有の指標である表層透気性指数Iρ/kTの活用方法の一例であり、表層透気性指数Iρ/kTの活用方法は上述の実施形態におけるものには限られない。
【符号の説明】
【0078】
10 コンクリート表層品質の評価装置
11 制御部
12 記憶部
13 入力部
14 表示部
15 メモリ
16 データサーバ
17 コンクリート表層品質の評価プログラム
18 表層透気係数データベース
19 電気抵抗率データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートに対して電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定すると共に前記コンクリートに対して表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定し、前記電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を前記表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して前記コンクリートの表層品質に関する指標値を算出することを特徴とするコンクリート表層品質の評価指標の算出方法。
【請求項2】
コンクリートに対して電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段と、前記コンクリートに対して表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段と、前記電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を前記表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して前記コンクリートの表層品質に関する指標値を算出する手段とを有することを特徴とするコンクリート表層品質の評価指標の算出装置。
【請求項3】
コンクリートに対して電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段、前記コンクリートに対して表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段、前記電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を前記表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して前記コンクリートの表層品質に関する指標値を算出する手段としてコンピュータを機能させるためのコンクリート表層品質の評価指標の算出プログラム。
【請求項4】
コンクリート構造物表面の評価地点毎に電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定すると共に表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定し、前記評価地点毎に前記電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を前記表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して指標値を算出し、前記評価地点毎の前記指標値の分散若しくは標準偏差を算出して当該分散若しくは標準偏差の値に基づいて前記コンクリート構造物のコンクリート表層品質を評価することを特徴とするコンクリート表層品質の評価方法。
【請求項5】
コンクリート構造物表面の評価地点毎に電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段と、前記コンクリート構造物表面の評価地点毎に表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段と、前記評価地点毎に前記電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を前記表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して指標値を算出する手段と、前記評価地点毎の前記指標値の分散若しくは標準偏差を算出して当該分散若しくは標準偏差の値に基づいて前記コンクリート構造物のコンクリート表層品質を評価する手段とを有することを特徴とするコンクリート表層品質の評価装置。
【請求項6】
コンクリート構造物表面の評価地点毎に電気抵抗率測定を行って得られた電気抵抗率測定値と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段、前記コンクリート構造物表面の評価地点毎に表層透気試験を行って得られた表層透気係数と材齢との間の関係を表す近似直線式を算定する手段、前記評価地点毎に前記電気抵抗率の近似直線式の傾きの値を前記表層透気係数の近似直線式の傾きの値で除して指標値を算出する手段、前記評価地点毎の前記指標値の分散若しくは標準偏差を算出して当該分散若しくは標準偏差の値に基づいて前記コンクリート構造物のコンクリート表層品質を評価する手段としてコンピュータを機能させるためのコンクリート表層品質の評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−92471(P2013−92471A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235303(P2011−235303)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年4月30日 社団法人セメント協会発行の「第65回 セメント技術大会 講演要旨 2011」に発表
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】