説明

コンクリート製品の雌ねじ付インサート

【課題】ねじ込み治具の着脱操作を簡単に行えるコンクリート製品の雌ねじ付インサートを提供する。
【解決手段】本発明は、挿入孔11を有し、その挿入孔11の一端開口を外部に臨ませるようにしてコンクリート製品Cに埋め込まれる樹脂製のインサート本体10を備える。挿入孔11の内周面における他端側に、ねじ溝を有する雌ねじ部15が設けられるとともに、挿入孔11の内周面における雌ねじ部15よりも一端側に、ねじ溝のない非ねじ部12が設けられ、雌ねじ部15の軸心方向長さL5が、挿入孔1の全長Lに対し半分よりも短く設定され、非ねじ部12が一端側から他端側にかけて内径が小さくなるとともに、その非ねじ部12における最小の内径が、雌ねじ部15の谷底径D5以上に設定されたことを特徴とするコンクリート製品の雌ねじ付インサート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ねじ込み治具の固定用としてコンクリート製品に埋設されるコンクリート製品の雌ねじ付インサートおよびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
道路用側溝、灌漑用の暗渠等、大型のコンクリート製品の移動や、据付を行う際には、コンクリート製品をクレーン装置によって吊り上げて行うのが一般的である。このためコンクリート製品には、クレーン装置のワイヤーフックを掛け止めするために、筒状の雌ねじ付インサートが埋設されている。
【0003】
例えば下記特許文献1に示すコンクリート製品の吊り上げ装置は、内周面にねじ溝が刻設された有底の挿入孔を有する樹脂製の筒状インサートが、その挿入孔の一端開口を外部に臨ませるようにしてコンクリート製品に埋設されている。そしてコンクリート製品を吊り上げる際には、筒状インサートの挿入孔内に、吊り上げ用治具をねじ込んでおき、その吊り上げ用治具にクレーン装置のワイヤーフックを掛け止めて、コンクリート製品を吊り上げるようにしている。
【0004】
このようなコンクリート製品の吊り上げ装置では、吊り上げ用治具を回転操作して、筒状インサートに対し着脱するものであるため、筒状インサートの雌ねじ部が、軸心方向に長い範囲にわたって形成されていると、吊り上げ用治具を筒状インサートに着脱する際に、吊り上げ用治具のねじ込み量(回転量)が多くなり、作業性の低下を来してしまう。
【0005】
従って作業性を考慮すると、筒状インサートにおける雌ねじ部の軸心方向長さは、短く設定するのが好ましい。
【特許文献1】特開2002−179381号(図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のコンクリート製品の吊り上げ装置では、以下に説明するように筒状インサートにおける雌ねじ部の軸心方向長さを短くすることができず、吊り上げ用治具の着脱操作が困難である、という問題を解消することはできなかった。
【0007】
すなわち筒状インサートは、射出成形等の樹脂成形によって作製するものであるが、仮に図13に示すように、雌ねじ部(102)の軸心方向長さの長い筒状インサート(100)、つまり挿入孔(101)の全長にわたってねじ溝が刻設された筒状インサート(100)を作製するような場合には、例えば図14に示すような射出成形用金型が用いられる。この金型は、筒状インサート(100)の外周面を成形する雌型(110)と、筒状インサート(100)の挿入孔内周面を成形し、かつ外周面全域に雄ねじ部(122)が形成された雄型(120)と、筒状インサート(100)の底面(他端面)を成形する底型(130)とを備えている。そしてこの金型を閉じてキャビティ内に、成形材料を注入して冷却固化した後、成形品(筒状インサート)を金型から取り出すものである。
【0008】
金型から成形品を取り出す場合図15に示すように、底型(130)を取り外した後、雄型(120)を成形品に対し、ねじ緩め方向に回転させて、その回転による推進力によって、成形品を雄型(120)から徐々に抜き取っていき、成形品を雄型(120)から離脱させるようにしている。
【0009】
この筒状インサート(100)では、挿入孔(101)の全長にわたって雌ねじ部(102)を形成しているため、ねじ回転による推進力によって、成形品を雄型(120)から確実に取り出すことが可能であるが、既述したように、雌ねじ部の軸心方向長さが長いため、吊り上げ用治具等の着脱操作が困難となる。
【0010】
一方図16に示すように、挿入孔(101)の内周面における奥部のみの短い範囲内に、雌ねじ部(102)を形成する場合には、樹脂成形後に、成形品を雄型(120)から取り外すことができなくなってしまう。すなわち図17に示すようにこの構成の筒状インサート(100)を熱成形するための雄型(120)は、その先端部分にのみ雄ねじ部(122)が形成され、残りの部分は、ねじ溝が刻設されず外径が一定のストレート部(123)として形成される。このような金型においても、成形後に成形品を金型から取り外す場合には上記と同様に、雄型(120)を回転させて、その推進力で成形品(100)を抜き取ることになるが、この抜き取り操作中に図18に示すように、雄ねじ部(122)が、成形品の雌ねじ部(102)の部分を通り過ぎてねじのかみ合いが無くなると、ねじの推進力が作用せず、雄型(120)の回転操作では成形品を抜き取ることができなくなってしまう。しかもこの離型途中の状態では、成形時の熱収縮によって、成形品(100)および雄型(120)のストレート部(103)(123)同士は強く密着しているため、成形品(100)を外部から強い力で引っ張ったとしても雄型(120)から抜き取ることができなくなってしまう。従って、筒状インサート(100)の挿入孔内周面における短い範囲内にのみに雌ねじ部(103)を形成しようとしても、そのような筒状インサート(100)は製造することはできなかった。
【0011】
なお図19に示すように従来の筒状インサート(100)において、雌ねじ部(102)の軸心方向長さが、挿入孔全長に対し半分以上の長さのものであれば、上記の射出成形等によって製造することができる。すなわち図20に示すように、挿入孔(101)の内周面における軸心方向中間位置から奥側の半分の領域に雌ねじ部(102)が設けられた筒状インサート(100)を成形する場合において、成形品を雄型(120)から抜き取る際に、雄型回転によるねじの推進力によって図21に示すように、雄型(120)の先端が、挿入孔(101)の中間位置に到達するまでは、成形品(100)を雄型(120)に対し抜け出し方向に移動させることができる。この離型途中の状態では、雄型(120)の先端が、挿入孔(101)の中間位置に到達しているため、成形品(100)および雄型(120)のストレート部(103)(123)同士は接触しておらず、雄型(120)の雄ねじ部(122)のみが、成形品(100)のストレート部(103)に接触している。雄ねじ部(122)は、ねじ溝が切り込まれているため、成形品(100)のストレート部(103)に対する摩擦力(密着力)が小さいので、成形品(100)を外部から引っ張れば雄型(120)から抜き取ることができる。従って、挿入孔全長に対し半分以上の長さの雌ねじ部(102)を有する筒状インサート(100)は製作することは可能であるが、それでも、雌ねじ部(102)の軸心方向長さが挿入孔(101)の半分以上あるため、吊り上げ用治具の着脱操作が困難となり、作業性の低下を来すという問題を解消することは困難であった。
【0012】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、吊り上げ治具等のねじ込み治具の着脱操作を簡単に行えて、作業性の向上を図ることができるコンクリート製品の雌ねじ付インサートおよびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の構成を要旨としている。
【0014】
[1] 挿入孔を有し、その挿入孔の一端開口を外部に臨ませるようにしてコンクリート製品に埋め込まれる樹脂製のインサート本体を備え、
挿入孔の内周面における他端側に、ねじ溝を有する雌ねじ部が設けられるとともに、
挿入孔の内周面における雌ねじ部よりも一端側に、ねじ溝のない非ねじ部が設けられ、
雌ねじ部の軸心方向長さが、挿入孔の全長に対し半分よりも短く設定され、
非ねじ部が一端側から他端側にかけて内径が小さくなるとともに、その非ねじ部における最小の内径が、雌ねじ部の谷底径以上に設定されたことを特徴とするコンクリート製品の雌ねじ付インサート。
【0015】
[2] 非ねじ部の一端開口縁部に、内径が一定で軸心に対し平行な開口側ストレート部が設けられ、
開口側ストレート部の軸心方向長さが、雌ねじ部の軸心方向長さ以下に設定される前項1に記載のコンクリート製品の雌ねじ付インサート。
【0016】
[3] 非ねじ部の少なくとも一部に、他端側に向かうに従って連続的に内径が小さくなるテーパー部が設けられる前項1または2に記載のコンクリート製品の雌ねじ付インサート。
【0017】
[4] 非ねじ部の一端開口縁部よりも他端側の少なくとも一部に、内径が一定で軸心に対し平行な中間ストレート部が設けられ、
中間ストレート部の軸心方向長さが、雌ねじ部の軸心方向長さ以下に設定される前項1〜3のいずれかに記載のコンクリート製品の雌ねじ付インサート。
【0018】
[5] 非ねじ部が、他端側に向かうに従って連続的または段階的に内径が小さくなるように形成され、
非ねじ部に、内径が一定で軸心に対し平行なストレート部が設けられる場合、そのストレート部の軸心方向長さが、雌ねじ部の軸心方向長さ以下に設定される前項1に記載のコンクリート製品の雌ねじ付インサート。
【0019】
[6] 前項1〜5のいずれかに記載の雌ねじ付インサートによって構成され、
コンクリート製品吊り上げ用の治具がねじ込まれるように構成されたことを特徴とするコンクリート製品吊り上げ用のインサート。
【0020】
[7] 前項1〜5のいずれかに記載の雌ねじ付インサートによって構成され、
コンクリート製品同士を連結するための連結具がねじ込まれるように構成されたことを特徴とするコンクリート製品連結用のインサート。
【0021】
[8] 前項1〜5のいずれかに記載の雌ねじ付インサートが、その挿入孔の一端開口を外部に臨ませるようにして埋め込まれたことを特徴とするコンクリート製品。
【発明の効果】
【0022】
上記発明[1]のコンクリート製品の雌ねじ付インサートによれば、雌ねじ部の軸心方向長さが短いため、ねじ込み治具の着脱操作を簡単に行うことができて、作業性を向上させることができる。なお本インサートは、挿入孔内周面の非ねじ部が一端側から他端側にかけて内径が小さくなるため、成形後の離型操作も確実に行うことができる。
【0023】
上記発明[2]のコンクリート製品の雌ねじ付インサートによれば、コンクリート成形時に型枠に、安定状態に保持させることができる。
【0024】
上記発明[3]〜[5]のコンクリート製品の雌ねじ付インサートによれば、ねじ込み治具の着脱操作を、より一層簡単に行うことができる。
【0025】
上記発明[6]によれば、上記と同様に同様の作用効果を奏するコンクリート製品吊り上げ用のインサートを提供することができる。
【0026】
上記発明[7]によれば、上記と同様に同様の作用効果を奏するのコンクリート製品連結用のインサートを提供することができる。
【0027】
上記発明[8]によれば、上記と同様に同様の作用効果を奏するコンクリート製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
<第1実施形態>
図1,2はこの発明の第1実施形態である雌ねじ付インサートが適用された筒状インサート(P1)を示す図である。
【0029】
同図に示すように、この筒状インサート(P1)は、樹脂成形品からなる略筒状のインサート本体(10)によって構成されている。
【0030】
インサート本体(10)は、一端が開放された有底筒孔形状の挿入孔(11)が設けられている。挿入孔(11)の他端側は、インサート本体(10)に一体形成された底壁(17)によって閉塞されている。
【0031】
挿入孔(11)の内周面における他端部は、ねじ溝(雌ねじ)が刻設された雌ねじ部(15)として構成されるともに、挿入孔内周面における雌ねじ部(15)を除く領域、つまり雌ねじ部(15)よりも一端側の全ての領域は、ねじ溝(ねじ)のない平坦な非ねじ部(12)として構成されている。
【0032】
雌ねじ部(15)は、挿入孔(11)の軸心方向中間位置よりも他端側の位置から挿入孔(11)の他端縁位置にかけて形成されている。
【0033】
非ねじ部(12)における一端開口縁部には、開口側ストレート部(21)が設けられるとともに、非ねじ部(12)におけるストレート部(21)よりも他端側には、中間縮径部(20)が設けられている。
【0034】
開口側ストレート部(21)は、軸心方向の全域(全長)において、内径(D1)が等しく形成されて、軸心(X)に対し平行に配置されている。
【0035】
中間縮径部(20)は、一端側から他端側(雌ねじ部側)に向かうに従って内径が連続して小さくなるテーパー部(22)として形成されて、軸心(X)に対し一定の傾斜角度を有している。
【0036】
テーパー部(22)の最小内径(D2a)は、雌ねじ部(15)の谷底径(D5)に対し同等もしくは大きく形成されている。さらにストレート部(21)の内径(D1)は、テーパー部(22)の最大内径(D2b)に対し同等もしくは大きく形成されている。
【0037】
さらにストレート部(21)の軸心方向長さ(L1)は、雌ねじ部(15)の軸心方向長さ(L5)に対し、同等もしくは短く設定されている。
【0038】
また雌ねじ部(15)の軸心方向長さ(L5)は、挿入孔(11)の全長(L)の半分よりも小さく設定されている。
【0039】
数式化して説明すると、本実施形態においては、「D1≧D2b>D2a≧D5」、「L5≧L1」および「L/2>L5」の関係が成立するように寸法設定されている。
【0040】
また図1に示すようにインサート本体(10)の外周には、周方向に等間隔おきに複数の離脱防止突部(16)が軸心方向に沿って一体に形成されており、後述するように、コンクリート製品としての道路用コンクリート側溝(C)に埋設された状態においては、離脱防止突部(16)によって、筒状インサート(P1)が回動不能に、かつ抜け出し不能に固定されるようになっている。
【0041】
以上の構成の筒状インサート(P1)は、射出成形等の型成形によって作製されるものである。
【0042】
成形品としての筒状インサート(P1)を成形加工するための金型は図3に示すように、成形品の外周面を成形する雌型(36)と、成形品の挿入孔内周面を成形する棒軸状の雄型(30)と、成形品の底面(他端面)を成形する底型(37)とを基本的な構成要素として備えている。
【0043】
雄型(30)は、その外周面が成形品側の挿入孔内周面に対応する形状に形成されている。すなわち雄型(30)の先端側外周面には、成形品側の雌ねじ部(15)に対応して、ねじ溝(雄ねじ)が刻設された雄ねじ部(35)が形成され、雄型(30)の基端側外周面には、成形品側のストレート部(21)に対応してストレート部(31)が形成されている。さらに雄型(30)の外周面におけるストレート部(31)および雌ねじ部(35)間には、成形品側のテーパー部(22)に対応して、テーパー部(32)が形成されている。
【0044】
なお言うまでもなく、雄型(30)のストレート部(31)、テーパー部(32)および雄ねじ部(35)の各寸法は、成形品側の各寸法(D1)(D2a)(D2b)(D5)(L1)(L2)(L5)に対応して形成されている。
【0045】
本実施形態においては、上記の金型を閉じて、その金型のキャビティに成形材料を注入して冷却固化することにより、成形品(筒状インサートP1)を成形するものである。
【0046】
そして、成形品を金型から取り外す際には、図4に示すように底型(37)を取り外してから、雄型(30)を成形品に対し、ねじ緩め方向に回転させてその推進力によって、成形品を雄型(30)から抜き取っていく。こうして成形品を抜き取っていき、雄ねじ部(35)が雌ねじ部(15)の部分を通り過ぎてねじのかみ合いが無くなった時点では同図に示すように、雄型(30)のストレート部(31)は、成形品の挿入孔(11)から抜け出して、ストレート部(21)(31)同士の接触が解除されるとともに、雄型(30)のテーパー部(32)が成形品側のテーパー部(22)から離脱した状態となり、成形品の内周面と雄型(30)の外周面との密着、特に、ストレート部(21)(31)同士の密着が解消されている。しかも、雌ねじ部(15)の谷底径(最大内径D5)は、テーパー部(22)の最小内径(D2a)およびストレート部(21)の内径(D1)よりも小さく設定されているため、成形品を引っ張れば雄型(30)からスムーズに抜き取ることができ、成形品としての筒状インサート(P1)を確実に製造することができる。
【0047】
また本実施形態では、筒状インサート(P1)における雌ねじ部(15)の形成範囲(軸心方向長さL5)が短いため、上記の離型時において、雄型(30)をねじ緩め方向に回転させて抜き取る際に、雄型(30)の回転量を少なくでき、離型作業をスピーディに行うことができ、生産性を向上させることができる。
【0048】
本実施形態いおいて、筒状インサート(P1)は、コンクリート製品としてのコンクリート側溝(C)に埋設される。すなわち図5に示すように筒状インサート(P1)が、その一端開口を外部に臨ませるようにして、コンクリート側溝(C)における両側壁外面部に埋め込まれる。
【0049】
次に、本実施形態の筒状インサート(P1)を用いたコンクリート側溝(C)の成形方法について説明する
まず図6に示すように、コンクリート成形用の型枠(6)を準備する。この型枠(6)には、インサート支持ピン(61)が枠内に突出するように設けられている。そしてこの支持ピン(61)に、筒状インサート(P1)における挿入孔(11)の一端開口側を嵌め込むことにより、筒状インサート(P1)をそのインサート本体(10)の一端面を型枠(6)の内面に接合させた状態で型枠(6)内に保持する。
【0050】
ここで本実施形態においては、筒状インサート(P1)の挿入孔内周面における一端開口縁部を、軸心(X)に平行な開口側ストレート部(21)として形成しているため、そのストレート部(21)が、型枠(6)の支持ピン(61)に外嵌されることにより、筒状インサート(P1)を、支持ピン(61)に所定の位置に安定状態に保持することができる。
【0051】
筒状インサート(P1)を型枠(6)内に保持した後図7に示すように、型枠(6)内にコンクリート(C1)を投入し、養生硬化させる。
【0052】
ここで本実施形態においては既述したように、筒状インサート(P1)を型枠(6)内に安定状態に保持できるため、コンクリート投入時や養生硬化時に、筒状インサート(P1)が位置ずれしたり、脱落したりするのを有効に防止でき、筒状インサート(P1)を適正な状態で確実に埋設することができる。
【0053】
コンクリート(C1)が硬化した後は、型枠(6)を開くことにより、筒状インサート(P1)が埋設されたコンクリート側溝(C)を製作することができる。
【0054】
なおコンクリート側溝(C)は、外周面側に比べて、溝内(内周面)側をきれいに仕上げる必要があるため、型成形時には、溝側を下向きにした上下逆向きの状態に配置されている。
【0055】
従ってこの上下逆向き状態のコンクリート側溝(C)を移動させたり、据え付けたりするような場合には、上下を反転させる必要があるが、この上下反転操作を行う際に、コンクリート側溝(C)に埋設された筒状インサート(P1)を利用する。
【0056】
すなわち図5,8に示すように、コンクリート側溝(C)の両側壁外面部に埋設された左右両筒状インサート(P1)における挿入孔内周面の雌ねじ部(15)に、吊り上げ用治具(8)の雄ねじ軸(81)をねじ込んで固定する。そしてこの両治具(8)に、クレーン装置におけるワイヤー(9)のフック(91)をそれぞれ掛け止めて、クレーン装置により吊り上げることにより、コンクリート側溝(C)を持ち上げた状態で、コンクリート側溝(C)の両側部を回転自在に支持する。その状態でコンクリート側溝(C)を前後回りに反転させて正規の向きに戻して、移動や据付を行うようにしている。
【0057】
ここで本実施形態においては、筒状インサート(P1)における雌ねじ部(15)の形成範囲(軸心長さL5)を短く形成しているため、吊り上げ治具(8)を筒状インサート(P1)に対し着脱操作する際の回転量を少なくすることができる。従って吊り上げ治具(8)の着脱作業時の作業者への負担を軽減できて、着脱作業を容易にでき、ひいてはコンクリート側溝(C)の移動や据付時の作業性を向上させることができる。
【0058】
なお、コンクリート側溝(C)を吊り上げて反転させる場合には、一方側の筒状インサート(P1)にねじ込まれた吊り上げ用治具(8)は、ねじ締め方向に回転するのに対し、他方側の筒状インサート(P1)にねじ込まれた吊り上げ用治具(8)は、ねじ緩め方向に回転する。従って、吊り上げ用治具(8)の筒状インサート(P1)に対するねじ込み量が少な過ぎる場合には、コンクリート側溝(C)を吊り上げて反転させる際に、他方側の吊り上げ用治具(8)が筒状インサート(P1)から外れるおそれがある。
【0059】
そこで本実施形態においては、吊り上げ用治具(8)の筒状インサート(P1)に対するねじ込み量を所定以上確保できるように、筒状インサート(P1)の挿入孔内周面における雌ねじ部(15)において、ねじ山が少なくとも3つ以上(3ピッチ以上)形成するのが良く、好ましくは5つ以上(5ピッチ以上)形成しておくのが良い。
【0060】
なお吊り上げ治具(8)の着脱操作等の操作性を考慮した場合には、雌ねじ部(15)の軸心方向長さ(L5)を、挿入孔(11)の全長(L)の1/3以下に設定するのが良い。
【0061】
以上のように、本第1実施形態の筒状インサート(P1)によれば、挿入孔(11)における雌ねじ部(15)の形成範囲(軸心方向長さL5)を短くしているため、挿入孔(11)に対する吊り上げ用治具(8)のねじ込み量を少なくすることができ、吊り上げ治具(8)の着脱操作を簡単に行うことができ、作業性を向上させることができる。
【0062】
また本実施形態の筒状インサート(P1)においては、挿入孔内周面の一端開口縁部に、軸心(X)に平行な開口側ストレート部(21)を形成しているため、コンクリート成型時に、型枠内面に突設したインサート支持ピン(61)に、開口側ストレート部(21)を外嵌することにより、筒状インサート(P1)を型枠(6)内に精度良く安定状態に保持することができる。従ってコンクリート投入時や養生硬化時に、筒状インサート(P1)の位置ずれや、脱落を防止でき、筒状インサート(P1)を適正な状態で確実に埋設できて、高い品質のコンクリート側溝(C)を得ることができる。
【0063】
またストレート部(21)は、その軸心方向長さ(L1)が、雌ねじ部(15)の軸心方向長さ(L5)よりも短く設定しているため、筒状インサート(P1)の樹脂成形後の離型時に、ねじ回転の推進力により、成形品を途中まで抜き取って、ねじのかみ合いが無くなった時点では、雄型(30)の外周面が成形品の挿入孔内周面から離脱した状態となり、成形品内周面と雄型外周面との密着が解消される。従って成形品を雄型(30)からスムーズに抜き取ることができ、成形品としての筒状インサート(P1)を確実に製造することができる。
【0064】
また本実施形態においては、成形品(筒状インサート)における雌ねじ部(15)の軸心方向長さ(L5)が短いため、樹脂成形後、雄型(30)をねじ緩め方向に回転させて成形品を抜き取る際の回転量を少なくできて、離型作業をスピーディに行うことができて、生産性も向上させることができる。
【0065】
<第2実施形態>
図9はこの発明の第2実施形態である雌ねじ付インサートとしての筒状インサート(P2)を示す断面図である。同図に示すように、この筒状インサート(P2)は、挿入孔(11)の一端開口縁部に開口側ストレート部(21)が設けられるとともに、奥部に雌ねじ部(15)が設けられている。
【0066】
さらに挿入孔内周面における開口側ストレート部(21)および雌ねじ部(15)間に設けられる中間縮径部(20)は、一端側から他端側に向かうに従って段階的に内径が縮径するように形成されて、各段部がそれぞれ中間ストレート部(23)…として形成されている。
【0067】
各中間ストレート部(23)…は、内径(D3)がそれぞれ異なっており、軸心(X)に対しそれぞれ平行に配置されている。また各中間ストレート部(23)…は、その軸心方向長さ(L3)がそれぞれ同じ長さに形成されている。
【0068】
ここで開口側ストレート部(21)の軸心方向長さを「L1」、内径を「D1」とし、中間縮径部(20)における中間ストレート部(23)の軸心方向長さを「L3」、中間縮径部(20)の最小内径を「D2a」、最大内径を「D2b」とし、雌ねじ部(15)の軸心方向長さを「L5」、谷底径を「D5」としたとき、「D1≧D2b>D2a≧D5」、「L5≧L1」、「L5≧L3」および「L/2>L5」の関係が成立するように寸法設定されている。
【0069】
本第2実施形態の筒状インサート(P2)において、他の構成は、上記第1実施形態の筒状インサート(P1)と実質的に同様であるため、同一または相当部分に、同一符号を付して重複説明は省略する。
【0070】
本第2実施形態の筒状インサート(P2)においても、上記第2実施形態と同様に、雌ねじ部(15)の軸心方向長さ(L5)を短くしているため、挿入孔(11)に対する吊り上げ用治具(8)のねじ込み量を少なくすることができ、吊り上げ治具(8)の着脱操作を簡単に行うことができ、作業性を向上させることができる。
【0071】
また本実施形態の筒状インサート(P2)は、上記と同様、挿入孔内周面の一端開口縁部に、軸心(X)に平行な開口側ストレート部(21)を形成しているため、コンクリート成型時に、型枠(6)内のインサート支持ピン(61)に、筒状インサート(P1)を安定状態に保持できて、筒状インサート(P1)を精度良く確実にコンクリート側溝(C)内に埋設することができる。
【0072】
また各ストレート部(21)(23)は、その軸心方向長さ(L1)(L3)を、雌ねじ部(15)の軸心方向長さ(L5)よりも短く設定しているため、筒状インサート(P2)を樹脂成形するに際して、離型時に、ねじ回転の推進力により、成形品を抜き取って、ねじのかみ合いが無くなった時点では、雄型(30)の外周面が成形品の挿入孔内周面から離脱した状態となり、成形品内周面と雄型外周面との密着が解消される。従って成形品を雄型(30)からスムーズに抜き取ることができ、成形品としての筒状インサート(P2)を確実に製造することができる。
【0073】
なお上記第2実施形態においては、複数の中間ストレート部(23)…の各軸心方向長さ(L3)を等しく設定しているが、それだけに限られず、中間ストレート部(23)は、軸心方向長さ(L3)を異なるようにしても良い。この場合には、軸心方向長さ(L3)が最も長い中間ストレート部(23)の軸心方向長さを、雌ねじ部(15)の軸心方向長さ(L5)以下に設定する必要がある。
【0074】
<変形例>
上記実施形態では、中間縮径部(20)をテーパー状に縮径させる筒状インサート(P1)や、中間縮径部(20)を階段状に縮径させる筒状インサート(P2)を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、例えば図10および図11に示すように中間縮径部(20)に、テーパー部(22)と、ストレート部(23)とを混在させるようにしても良い。
【0075】
すなわち図10に示す筒状インサート(P3)では、挿入孔内周面における開口側ストレート部(21)の他端側に、内径(D3)が一定の中間ストレート部(23)が設けられるとともに、その中間ストレート部(23)および雌ねじ部(15)間に、内径が連続的に小さくなるテーパー部(22)が設けられている。
【0076】
また図11に示す筒状インサート(P4)では、挿入孔内周面における開口側ストレート部(21)の他端側に、内径(D3)(D3)が異なる2つの中間ストレート部(23)(23)が段階的に設けられるとともに、他端側の中間ストレート部(23)および雌ねじ部(15)間に、内径が連続的に小さくなるテーパー部(22)が設けられている。
【0077】
これらの筒状インサート(P3)(P4)において、開口側ストレート部(21)の軸心方向長さを「L1」、内径を「D1」とし、軸心方向長さが最も長い中間ストレート部(23)の軸心方向長さを「L3」、中間縮径部(20)の最小内径を「D2a」、最大内径を「D2b」とし、雌ねじ部(15)の軸心方向長さを「L5」、谷底径を「D5」としたとき、両筒状インサート(P3)(P4)共に、上記実施形態と同様、「D1≧D2b>D2a≧D5」、「L5≧L1」、「L5≧L3」および「L/2>L5」の関係が成立するようにそれぞれ寸法設定されている。
【0078】
また上記実施形態等においては、筒状インサートの挿入孔内周面における一端開口側部に、内径が一定の開口側ストレート部(21)を形成するようにしているが、本発明において、開口側ストレート部を必ずしも設ける必要はない。例えば図12に示すように、雌ねじ付インサート(P5)の挿入孔内周における非ねじ部(12)の全域を、一端側から他端側(雌ねじ部側)に向かうに従って内径が連続して小さくなるテーパー部(22)として形成するようにしても良い。
【0079】
なお本発明において、非ねじ部(12)に、内径が一定のストレート部(21)(23)を形成する場合には、各ストレート部(21)(23)の軸心方向長さ(L1)(L3)を、雌ねじ部(15)の軸心方向長さ(L5)以下に設定する必要がある。換言すれば、本発明においては、非ねじ部(12)に、軸心方向長さが、雌ねじ部(15)の軸心方向長さ(L5)よりも長いストレート部は存在しないものである。
【0080】
また上記実施形態等においては、本発明の雌ねじ付インサートを、吊り上げ用治具がねじ込み固定される吊り上げ用インサートに適用する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明の雌ねじ付インサートは、他のインサート部品にも適用することができる。例えば本発明の雌ねじ付インサートは、コンクリート製品としてのコンクリート側溝同士を連結するための連結治具のボルトをねじ込み固定するための連結用インサートにも適用することができる。
【0081】
さらに上記実施形態等においては、インサートを道路用コンクリート側溝に埋設する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、インサートを他のコンクリート製品に埋設するようにしても良い。
【0082】
また言うまでもなく、インサート本体の外周には設けられる複数の離脱防止突部(16)の形状は、限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
この発明のコンクリート製品の雌ねじ付インサートは、ねじ込み治具固定用にコンクリート製品に埋設されるインサート部品として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】この発明の第1実施形態である筒状インサートを示す斜視図である。
【図2】第1実施形態の筒状インサートを示す側面断面図である。
【図3】第1実施形態の筒状インサートを成形中の状態で示す側面断面図である。
【図4】第1実施形態の筒状インサートを離型中の状態で示す側面断面図である。
【図5】第1実施形態の筒状インサートが埋設されたコンクリート側溝を示す側面断面図である。
【図6】第1実施形態のコンクリート側溝成形用の型枠を示す側面断面図である。
【図7】第1実施形態のコンクリート側溝を型成形中の状態で側面断面図である。
【図8】第1実施形態のコンクリート側溝をクレーン装置により吊り上げた状態で示す斜視図である。
【図9】この発明の第2実施形態である筒状インサートを示す側面断面図である。
【図10】この発明の第1変形例である筒状インサートを示す側面断面図である。
【図11】この発明の第2変形例である筒状インサートを示す側面断面図である。
【図12】この発明の第3変形例である筒状インサートを示す側面断面図である。
【図13】第1従来例としての筒状インサートを示す側面断面図である。
【図14】第1従来例の筒状インサートを成形中の状態で示す側面断面図である。
【図15】第1従来例の筒状インサートを離型中の状態で示す側面断面図である。
【図16】生産不可能な筒状インサートを示す側面断面図である。
【図17】上記生産不可能な筒状インサートを成形中の状態で示す側面断面図である。
【図18】上記生産不可能な筒状インサートを離型中の状態で示す側面断面図である。
【図19】第2従来例としての筒状インサートを示す側面断面図である。
【図20】第2従来例の筒状インサートを成形中の状態で示す側面断面図である。
【図21】第2従来例の筒状インサートを離型中の状態で示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0085】
8 吊り上げ用治具
10 インサート本体
11 挿入孔
12 非ねじ部
15 雌ねじ部
21 開口側ストレート部(ストレート部)
22 テーパー部
23 中間ストレート部(ストレート部)
C コンクリート側溝(コンクリート製品)
D1 開口側ストレート部の内径
D2a テーパー部の最小内径
D3 中間ストレート部の内径
D5 雌ねじ部の谷底径
L 挿入孔の全長
L1 開口側ストレート部の軸心方向長さ
L3 中間ストレート部の軸心方向長さ
L5 雌ねじ部の軸心方向長さ
P1〜P5 筒状インサート(雌ねじ付インサート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿入孔を有し、その挿入孔の一端開口を外部に臨ませるようにしてコンクリート製品に埋め込まれる樹脂製のインサート本体を備え、
挿入孔の内周面における他端側に、ねじ溝を有する雌ねじ部が設けられるとともに、
挿入孔の内周面における雌ねじ部よりも一端側に、ねじ溝のない非ねじ部が設けられ、
雌ねじ部の軸心方向長さが、挿入孔の全長に対し半分よりも短く設定され、
非ねじ部が一端側から他端側にかけて内径が小さくなるとともに、その非ねじ部における最小の内径が、雌ねじ部の谷底径以上に設定されたことを特徴とするコンクリート製品の雌ねじ付インサート。
【請求項2】
非ねじ部の一端開口縁部に、内径が一定で軸心に対し平行な開口側ストレート部が設けられ、
開口側ストレート部の軸心方向長さが、雌ねじ部の軸心方向長さ以下に設定される請求項1に記載のコンクリート製品の雌ねじ付インサート。
【請求項3】
非ねじ部の少なくとも一部に、他端側に向かうに従って連続的に内径が小さくなるテーパー部が設けられる請求項1または2に記載のコンクリート製品の雌ねじ付インサート。
【請求項4】
非ねじ部の一端開口縁部よりも他端側の少なくとも一部に、内径が一定で軸心に対し平行な中間ストレート部が設けられ、
中間ストレート部の軸心方向長さが、雌ねじ部の軸心方向長さ以下に設定される請求項1〜3のいずれかに記載のコンクリート製品の雌ねじ付インサート。
【請求項5】
非ねじ部が、他端側に向かうに従って連続的または段階的に内径が小さくなるように形成され、
非ねじ部に、内径が一定で軸心に対し平行なストレート部が設けられる場合、そのストレート部の軸心方向長さが、雌ねじ部の軸心方向長さ以下に設定される請求項1に記載のコンクリート製品の雌ねじ付インサート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の雌ねじ付インサートによって構成され、
コンクリート製品吊り上げ用の治具がねじ込まれるように構成されたことを特徴とするコンクリート製品吊り上げ用のインサート。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の雌ねじ付インサートによって構成され、
コンクリート製品同士を連結するための連結具がねじ込まれるように構成されたことを特徴とするコンクリート製品連結用のインサート。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の雌ねじ付インサートが、その挿入孔の一端開口を外部に臨ませるようにして埋め込まれたことを特徴とするコンクリート製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2009−125967(P2009−125967A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300176(P2007−300176)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【特許番号】特許第4134263号(P4134263)
【特許公報発行日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(594149756)
【Fターム(参考)】