説明

コンクリート製床

【課題】UHF帯の電波吸収性能が高く、かつ、強度や耐磨耗性を確保できるコンクリート製床を提供する。
【解決手段】床部材1は、コンクリート製である。この床部材1は、所定深さに金属メッシュ3が埋設され、床表面から金属メッシュ3までの部分は、コンクリートに導電材料が添加された電波吸収層4であり、この電波吸収層4の952〜955MHzでの複素比誘電率の実部は、10乃至12である。コンクリートに導電性材料を添加して、電波吸収層を形成したので、コンクリートの強度や耐磨耗性を確保しつつ、電波を吸収できる。また、電波吸収層の複素比誘電率の実部を、10乃至12としたので、ICタグで利用する952〜955MHzのUHF帯で、電波の入射角度が0°〜60°の範囲で変化しても、優れた電波吸収性能を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製床に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、通信距離や通信範囲に優れた非接触型のRFID(Radio Frequency Identification)タグ(以下、ICタグと呼ぶ)が知られている。このICタグは、平成17年4月の総務省の省令改定により、952〜955MHzの周波数帯つまりUHF帯で利用可能となり、実際に、物流倉庫、スーパーなどの物流現場で用いられるようになっている。
【0003】
しかしながら、このUHF帯の周波数の特性上、電波が壁や床のコンクリートに反射して、ICタグに記憶された情報を読み取りできない場合がある。特に、床コンクリートによる電波の反射により、読み取りが困難になる場合が多い。
そこで、コンクリートによる電波の反射を抑制するため、電波を吸収する電波吸収体が提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0004】
例えば、特許文献1には、合成ゴムにフェライト粉末を混入してなり、800〜1000MHzの周波数帯の電波吸収性能が高い電波吸収体が提案されている。
また、特許文献2には、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン)樹脂、フェライト、カーボンブラックなどからなり、900〜1000MHzの周波数帯の電波吸収性能が高い電波吸収体が提案されている。
また、特許文献3には、フェライト、鉄粒子、カーボンブラック、グラファイト、金属繊維などを有機重合体に配合してなり、400〜1000MHzの周波数帯の電波吸収性能が高い電波吸収体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−299872号公報
【特許文献2】特開2006−128664号公報
【特許文献3】特開2009−59972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の電波吸収体は、合成ゴム、SBS樹脂、他の有機重合体などがベースであるので、建物の床のように大きな荷重が作用する部分に用いることはできない。特に、物流倉庫やスーパーなどの物流現場の床は、重量物を積載したフォークリフトや台車が走行したり、作業者が歩行したりするので、従来の電波吸収体を物流現場の床に適用すると、強度や耐磨耗性が不足する、という問題がある。
【0007】
本発明は、UHF帯の電波吸収性能が高く、かつ、強度や耐磨耗性を確保できるコンクリート製床を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の床表面から所定深さに反射用金属メッシュが埋設され、前記床表面から前記反射用金属メッシュまでのコンクリートに、炭素繊維および金属繊維(例:鋼繊維、銅繊維もニッケル繊維、金属めっき繊維)の中から選択された1つ以上の繊維が添加されて電波吸収層とされたコンクリート製床。
【0009】
請求項2に記載の前記電波吸収層は、その厚みと952〜955MHzでの複素比誘電率の実部の値を制御することにより、高い電波エネルギー吸収能が付与されたものであることを特徴とする請求項1に記載されたコンクリート製床。
【0010】
請求項3に記載の前記電波吸収層の厚みが24乃至28mmの範囲内に、952〜955MHzでの複素比誘電率の実部の値が10乃至12の範囲内に、それぞれ制御されていることを特徴とする請求項2に記載されたコンクリート製床。
【0011】
請求項4に記載の前記反射用金属メッシュの開口寸法は、好ましくは40mm以下、より好ましくは30mm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載されたコンクリート製床。
【0012】
この発明によれば、コンクリートに導電性材料を添加して、電波吸収層を形成した。よって、コンクリートの強度や耐磨耗性を確保しつつ、電波を吸収できる。
また、952〜955MHzの周波数の範囲において電波吸収層の複素比誘電率の実部を10乃至12の範囲としたので、ICタグで利用する952〜955MHzのUHF帯で、電波の入射角度が0°〜60°の範囲で変化しても、優れた電波吸収性能を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コンクリートの強度や耐磨耗性を確保しつつ、電波を吸収できる。また、ICタグで利用する952〜955MHzのUHF帯で、電波の入射角度が0°〜60°の範囲で変化しても、優れた電波吸収性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る床部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る建物のコンクリート製床としての床部材1を示す断面図である。
【0016】
床部材1は、鉄筋コンクリート構造であり、構造用鉄筋2が配筋されている。
この床部材1の表面から所定深さここでは24mm以上28mm以下の深さに電波を反射するための金属メッシュ3が設置されている。
【0017】
床部材1の表面から金属メッシュ3までの部分は、952〜955MHzでの複素比誘電率の実部ε′が10以上12以下の範囲に調整されたコンクリートで形成された電波吸収層4である。
一方、床部材1の金属メッシュ3から底面までの部分は、普通コンクリートで形成されている。普通コンクリートは、952〜955MHzでの複素比誘電率の実部ε′が6〜8程度である。
なお、床スラブ1の表面から金属メッシュ3までの部分に限らず、床スラブ1の全体を、複素比誘電率の実部ε′が952〜955MHzで10以上12以下の範囲に調整されたコンクリートで形成してもよい。
【0018】
コンクリートの複素比誘電率の実部ε′の調整は、普通コンクリートに適量の炭素繊維、金属繊維(鋼繊維、ステンレス繊維、銅繊維、ニッケル繊維など)、金属めっき繊維などの導電材料を添加することで実現できる。これらの繊維の添加量は、既存の文献などを参考に予め実験を行い、硬化したコンクリートから試験体を採取し、複素比誘電率を測定することで、決定すればよい。
【0019】
金属メッシュ3としては、塗装、亜鉛めっきなどの防食処理を施した鋼製のメッシュや、耐食性に優れたステンレス製メッシュを使用する。金属メッシュ3の開口部の寸法は、好ましくは40mm以下、より好ましくは30mm以下である。
【0020】
[実施例および比較例]
以下、実施例および比較例について説明する。
実施例として、床表面から反射用金属メッシュまでのコンクリート部分の952〜955MHzでの複素比誘電率の実部ε′が10〜12であり、床表面から反射用金属メッシュまでの深さが24mmから28mmであるコンクリート試験体を打設した。
具体的には、ピッチ系カール状の炭素繊維をセメント重量比で0.5〜3%添加して、コンクリート試験体を打設した。そして、材齢4週経過後に、硬化したコンクリート試験体から採取した供試体を用い、複素比誘電率を同軸管測定法により求めた。その結果、炭素繊維添加量が1.3%〜2%の範囲であれば、硬化したコンクリート試験体の952〜955MHzでの複素比誘電率の実部ε′が10〜12の範囲に入ることが分かったまた、この場合の複素比誘電率の虚部ε″は3〜5の範囲であった。
またこのコンクリート試験体の圧縮強度は、材齢4週で27〜31N/mmであった。
【0021】
比較例1、2として、床表面から反射用金属メッシュまでのコンクリート部分の複素比誘電率の実部ε′が実施例と異なるコンクリート試験体を打設した。
比較例3、4として、床表面から反射用金属メッシュまでの深さが実施例と異なる鉄筋コンクリート試験体を打設した。
以上の実施例および比較例について、電波の入射角度が0°から60°の範囲の電波エネルギー吸収率の最低値を比較したところ、表1のようになった。ここで、電波の入射角度とは、図1に示すように、床面に垂直な直線と電波の進行方向との成す角度αである。
【0022】
【表1】

【0023】
表1より、実施例では、電波の入射角度が0°〜60°という広い範囲であっても、電波エネルギーを80%以上吸収でき、良好な電波吸収性能を確保できることが判る。一方、比較例1〜4では、電波エネルギーの吸収性能が60%台まで低下してしまうことが判る。
【0024】
以上の実験結果に基づいて、ピッチ系カール状の炭素繊維をセメント重量比で1.75%添加したコンクリートを用意し、床を模擬した大型試験体と、複素比誘電率測定のための小型試験体を打設した。大型試験体に関しては、打設の際に表面から25mmの深さでステンレス製のメッシュ(開口部の大きさ30×30mm)を設置した。材齢4週経過後、小型試験体から採取した供試体の誘電率を測定した結果、952〜955MHzでの複素比誘電率の実部ε′は11.2で、虚部ε″は3.4であった。さらに、大型試験体を用いて周波数900〜1000MHz間の電波吸収性能を直接測定したところ、表2のようになった。
【0025】
【表2】

【0026】
表2に示すように、ICタグを利用する無線通信システムに用いられる952〜955MHz周波数帯では、入射角度が0°〜60°という広い範囲での電波の吸収率は86%以上となり、極めて優れていることが判る。
【0027】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)コンクリートに導電性材料を添加して、電波吸収層を形成した。よって、コンクリートの強度や耐磨耗性を確保しつつ、電波を吸収できる。
また、952〜955MHzでの電波吸収層の複素比誘電率の実部ε′を、10以上12以下としたので、ICタグで利用する952〜955MHz周波数帯で、電波の入射角度が0°〜60°の範囲で変化しても、優れた電波吸収性能を得ることができる。
従って、本発明を物流倉庫、スーパーなどの床部材に適用することにより、物流現場で使用される無線ICタグ通信システムの読み取り障害を解決できる。
【0028】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0029】
1 床部材(コンクリート製床)
3 金属メッシュ
4 電波吸収層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床表面から所定深さに反射用金属メッシュが埋設され、前記床表面から前記反射用金属メッシュまでのコンクリートに、炭素繊維および金属繊維の中から選択された1つ以上の繊維が添加されて電波吸収層とされたコンクリート製床。
【請求項2】
前記電波吸収層は、その厚みと952〜955MHzでの複素比誘電率の実部の値を制御することにより、高い電波エネルギー吸収能が付与されたものであることを特徴とする請求項1に記載されたコンクリート製床。
【請求項3】
前記電波吸収層の厚みが24乃至28mmの範囲内に、952〜955MHzでの複素比誘電率の実部の値が10乃至12の範囲内に、それぞれ制御されていることを特徴とする請求項2に記載されたコンクリート製床。
【請求項4】
前記反射用金属メッシュの開口寸法は、好ましくは40mm以下、より好ましくは30mm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載されたコンクリート製床。

【図1】
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【公開番号】特開2010−278163(P2010−278163A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128248(P2009−128248)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】