説明

コンクリート試験装置およびそれを用いたコンクリート試験方法

【課題】より精度の高い温度ひび割れ指数を算出するために、各種熱特性値を簡易で安価に求めることができる小型のコンクリート試験装置およびコンクリート試験方法の提供。
【解決手段】断熱性能の高い真空断熱容器からなる容器1と、容器1内部を加熱するヒータ6と、容器1内部を冷却するペルチェ素子を用いた冷却装置16と、容器1内部の温度分布を均一にするためのファン7,8と、容器1内部に収納されるコンクリート供試体3内部に埋設された測温手段10と、測温手段10、ヒータ7,8および冷却装置16に接続され、温度制御を行うためのプログラミング可能な温度調節器12,13とを備えたコンクリート試験装置。このコンクリート試験装置Aにより断熱温度上昇試験を行い、断熱温度上昇試験を行った後の供試体3を用いて熱拡散係数試験および熱容量試験を行い、各試験により高温履歴を受けた供試体3の力学的特性値を求める試験を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの各種特性値を測定する試験装置およびそれを用いたコンクリート試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダムに代表されるような寸法の非常に大きな構造物(マスコンクリート)では、セメントの水和熱によって温度応力と呼ばれる応力が発生し、ひび割れ(温度ひび割れ)を生じる原因となる。そのため、マスコンクリートでは、水和熱による温度上昇を考慮して設計、施工することが要求される。同様な温度ひび割れの現象は、近年における鉄筋コンクリート構造物の大量急速施工、高強度化などによって、例えば、橋台、橋脚、擁壁、カルバート等についても生じるため、特に大型の構造物でなくても、マスコンクリートとして扱わなければならない構造物が増加している。
【0003】
従来においては、鉄筋コンクリート構造物の温度ひび割れに対しては、ひび割れ抑制のための統一的な指針や基準がなく、施工現場毎に計画、施工されている。ひび割れが発生した場合も、個々に検討されているのが現状で、特に、耐久性に対する影響が考えられる大きなひび割れに対しては、学識経験者等にその判断が委ねられていた。
【0004】
しかし、近年においては、性能照査型の示方書に移行し、設計段階のみならず施工計画段階においても温度ひび割れの照査を行うケースが増えてきた。温度ひび割れ指数の計算においては、打設時の外気温や日照条件などの不確定なパラメータが多く用いられるが、入力するコンクリートの各種熱特性値も推定値を用いる場合が多い。推定した熱特性値と実際の熱特性値との間に大きな差異があると、温度ひび割れ指数の算出結果に多大な誤差を生ずる。示方書によると各種熱特性値は試験により求めることを原則としているが、大規模もしくは特殊な構造物の検討の場合を除いては、終局断熱温度上昇量および温度上昇速度に関する定数は、既往のデータや推定式から求める場合がほとんどのようである。さらに熱伝導率および力学的特性値に至っては、精度の良い推定式(特に、高温履歴を受けたコンクリートの強度推定式)がなく、また既往のデータも少ないため、決定根拠が希薄な推定値を用いているケースが多いように思われる。さらに、特殊なセメント、混和材料および配合を用いる場合(例えば、特許文献1,2参照)には、既往のデータから推定値を定めることが難しく、示方書に示されているように試験によって求める必要性がある。
【0005】
コンクリート構造物の熱特性試験としては、断熱温度上昇試験、熱拡散係数試験および熱容量試験があり、すべての試験が終わった供試体は、高温履歴を受けたコンクリートとしての強度特性値の試験を行う。断熱温度上昇試験装置としては、例えば、特許文献3〜6に開示されたものがある。
【0006】
特許文献3には、供試体を格納する熱媒ジャケットを内設した試験槽を備えた断熱温度上昇試験装置であって、試験槽を断熱状態に維持する断熱壁面により囲繞した断熱室と、断熱壁の内部を一定温度に保持する温度調節手段とを備えたコンクリート等の断熱温度上昇試験装置が開示されている。
【0007】
特許文献4には、試料内部の温度上昇に試料容器表面温度を追随させた試験環境により、試料の自己発熱量およびその発熱速度を測定する自己発熱を伴う試料の断熱温度上昇試験装置において、加圧装置を接続させた端圧試料容器に熱媒ジャケットを一体に形成させた断熱温度上昇試験容器を備えた断熱温度上昇試験装置が開示されている。
【0008】
特許文献5には、着脱自在な蓋を有し、コンクリート試料を出入自在に収容する空間を設け、蓋を含む容器外面を加熱するヒータを一体に設けた試料容器と、この試料容器を収容するとともにこの試料容器を収容した空間を真空状態に減圧保持する真空容器と、この真空容器を所定真空度まで減圧する減圧装置と、試料容器内のコンクリート試料の中心温度および周辺温度を測定するとともにその測定温度に基づきヒータへの供給電力を調節する温度制御装置とを備えたコンクリートの断熱温度上昇試験装置が開示されている。
【0009】
特許文献6には、試験体形状に合わせた外形を有し、内部を中空にし、この中空部を真空にできる排気口を設けた本体部と、この本体部の外面に沿って埋設されて本体部表面温度をコンクリートの水和反応による発熱状態を模して昇温させるヒータとからなる断熱温度上昇試験装置の断熱保持能力検定装置が開示されている。
【0010】
大掛かりな機械を使用することなく、簡単に、また実際の構造体とほぼ同じ温度履歴を受けた供試体を得る手法としては、特許文献7に開示されたものがある。この特許文献7には、コンクリート構造体と同じ断面寸法の空間部を確保し、この空間部の底に断熱材の底板を配設し、その上に、上面開放の合成樹脂製周壁の外容器をスタンドにより支承して立設し、この外容器内に容易に破断可能な簡易型枠容器をなるべく隙間なく配置し、前記空間部内でこの簡易型枠容器内および外容器外の両方へ構造体と同じコンクリートを打設し、簡易型枠容器にキャップをして封かん状態とし、さらに、前記空間部の上を断熱材で覆い、養生期間経過後、簡易型枠容器を取り出して内部から供試体を得る構造体コンクリートの供試体の作成方法が開示されている。
【0011】
また、高強度コンクリートおよび高流動コンクリートの強度管理試験装置としては、例えば、特許文献8〜10に開示されたものがある。
特許文献8には、発泡スチロール等の断熱材壁で密閉した内部空間中に混練後のコンクリート供試体を置き、コンクリート供試体内部で生ずる水和熱の経時的変化、コンクリート供試体の熱特性、断熱材壁の伝熱特性、および断熱材壁外の気温により温度を変化させるコンクリート供試体の断熱養生法が開示されている。
【0012】
特許文献9には、強度を推定しようとするコンクリート構造物と同じコンクリートを円筒容器状の型枠内に打設するとともに、その上部開口を蓋で閉塞して供試体を成型し、コンクリートの打設直後の型枠と蓋の外表面全面を、周方向で複数個に分割するとともに全体を均一な厚みとした断熱性の被覆材で被覆し、被覆材どうしの合わせ箇所をシール材でシールし、所定期間養生後に型枠内から供試体を取り出して、その強度を測定するコンクリート構造体の強度管理法が開示されている。
【0013】
特許文献10には、高強度コンクリートの供試体を温度制御可能な養生槽内に入れ、部材温度追従養生温度、つまり、実大の構造体内部の温度履歴と同じ条件の温度で供試体を養生する際に、供試体の部材温度追従養生期間を部材が最高温度に達する時間の少なくとも約1.4倍の期間とし、それ以降は現場封緘養生したところに高強度コンクリート供試体でもって判定することとした高強度コンクリートの構造体強度管理方法が開示されている。
【0014】
【特許文献1】特開2000−143311号公報
【特許文献2】特開2003−184034号公報
【特許文献3】特開平6−18457号公報
【特許文献4】特開平8−247978号公報
【特許文献5】特開2000−329719号公報
【特許文献6】特開2002−181750号公報
【特許文献7】特開平8−152386号公報
【特許文献8】特開平6−201548号公報
【特許文献9】特開平5−87716号公報
【特許文献10】特開平5−294754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、各種熱特性値を測定する試験にはそれぞれの試験装置が必要となり、高額な費用が必要となるため、設計段階や施工計画段階で熱特性値を試験によって求めることは、特殊な工事を除いて現状ではほとんど行われていない。
【0016】
そこで、本発明は、より精度の高い温度ひび割れ指数を算出するために、各種熱特性値を簡易で安価に求めることができる小型のコンクリート試験装置およびそれを用いたコンクリート試験方法を提供することを第1の目的とする。
また、本発明は、事前に取得したコンクリート構造物の温度履歴、または、施工中のコンクリート構造物に挿入した測温体により計測した温度に基づき、再現性高く強度管理試験または強度試験を行うことを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するため、本発明の第1の構成は、断熱性能の高い真空断熱容器からなる容器と、前記容器内部を加熱するヒータと、前記容器内部を冷却するペルチェ素子を用いた冷却装置と、前記容器内部の温度分布を均一にするためのファンと、前記容器内部に収納されるコンクリート供試体内部に埋設された測温手段と、前記測温手段、前記ヒータおよび冷却装置に接続され、温度制御を行うためのプログラミング可能な温度調節器とを備えたことを特徴とするコンクリート試験装置である。
【0018】
本発明の第2の構成は、第1の構成の容器は、内部に、コンクリート供試体を複数本収納可能であることを特徴とするコンクリート試験装置である。
【0019】
本発明の第3の構成は、第1の構成の容器と、ヒータと、冷却装置と、ファンと、測温手段とからなる試験装置ユニットを複数、前記温度調節器に並列に接続したことを特徴とするコンクリート試験装置である。
【0020】
本発明の第4の構成は、第1〜第3のいずれかの構成のコンクリート試験装置により断熱温度上昇試験を行い、前記断熱温度上昇試験を行った後のコンクリート供試体を用いて熱拡散係数試験および熱容量試験を行い、前記各試験により高温履歴を受けた供試体の力学的特性値を求める試験を行うことを特徴とするコンクリート試験方法である。
【0021】
本発明の第5の構成は、第1〜第3のいずれかの構成のコンクリート試験装置を用いたコンクリート試験方法であって、事前に取得したコンクリート構造物の温度履歴もしくは構造体モデル試験体の温度履歴を前記温度調節器にプログラミングし、これを再現するように前記温度調節器により前記真空断熱容器内でコンクリート供試体の温度制御を行うことにより、高強度コンクリートもしくは高流動コンクリートの強度管理試験を行うことを特徴とするコンクリート試験方法である。
【0022】
本発明の第6の構成は、第1〜第3のいずれかの構成のコンクリート試験装置を用いたコンクリート試験方法であって、施工中のコンクリート構造物に温度調節器と接続した測温体を挿入し、計測した温度を目標値として、前記温度調節器により前記真空断熱容器内で供試体の温度制御を行うことにより、高強度・高流動コンクリートの強度管理試験を行うことを特徴とするコンクリート試験方法である。
【0023】
本発明は、1台で複数の熱特性値の測定および各種強度管理試験ができる安価で小型なコンクリート試験装置を提供するものである。
マスコンクリートの温度ひび割れ抑制用試験は、断熱温度上昇試験、熱拡散係数試験および熱容量試験、高温履歴を受けたコンクリートの力学的特性値を求める試験を、共通の供試体を用いて一連の試験として行うことができる。
断熱温度上昇試験で求めた終局断熱温度上昇量、温度上昇速度に関する定数、熱拡散係数試験および熱容量試験で求めた熱伝導率、高温履歴を受けたコンクリートの力学的特性値を求める試験で求めた圧縮強度、ヤング係数は、全て温度ひび割れ制御プログラムに用いられるパラメータである。
【0024】
試験方法としては、まず断熱温度上昇試験を行った後、同じ供試体を用いて熱拡散係数試験を行う。熱拡散係数試験は、20℃一定とした供試体を50℃の温水に入れ昇温過程をGlover法により解析し求める。50℃となったコンクリート供試体は、その直後、20℃の水中に浸漬し、降温過程より熱容量の測定を行う。さらに、全ての試験が終わったコンクリート供試体は、高温履歴を受けたコンクリートとしての強度特性値の試験ができる。
【0025】
高強度コンクリートもしくは高流動コンクリートの強度管理試験は、事前に取得したコンクリート構造物の温度履歴を温度調節器にプログラミングし、これを再現するように温度制御を行うか、もしくは施工中の構造物に温度調節器と接続した測温体を挿入し、計測した温度を目標値として温度制御を行うことにより行うことができる。
【0026】
また、高強度コンクリートもしくは高流動コンクリートの強度試験は、事前に取得した構造体モデル試験体の温度履歴を温度調節器にプログラミングし、これを再現するように温度制御を行うか、もしくは装置内で打設後数日間のみ断熱状態とすることにより行うことができる。
【0027】
本発明のコンクリート構造物の各種特性値を試験する装置は、容器に断熱性能の高い真空断熱容器を用いることを特徴とし、これにより外気温(外乱)の変動を受けず高い制御精度を実現でき、また、温度変動が小さいため加熱・冷却装置を小型化できる。
【0028】
また、冷却装置にペルチェ素子を用いることを特徴とし、これにより装置全体の大幅な小型化、低廉化が図れる。
【0029】
また、従来の断熱温度上昇試験機と異なり、コンクリート試験を複数の強度試験用型枠に入れ養生することを特徴とし、断熱試験後に強度試験が可能となる。
【0030】
強度管理用試験としては、最大8本のコンクリート供試体を同時に養生できる装置であるが、加熱・冷却装置を内蔵した真空断熱容器を温度調節器に接続することにより装置の増設が容易にでき、8本以上の供試体の養生が可能となる。
【0031】
本発明装置は、加熱装置、冷却装置、容器内の温度を均一にするためのファンを真空断熱容器内に内蔵することを特徴とし、これにより小型化が図れる。
【0032】
さらに、温度履歴を温度調節器にプログラミングし、温度制御を行うためのプログラミング可能な温度調節器を用いることにより、高精度の温度制御が可能となる。
【発明の効果】
【0033】
本発明においては、次の効果を奏する。
(1)容器に断熱性能の高い真空断熱容器を用いることにより、外気温(外乱)の変動を受けず高い制御精度を実現でき、また、温度変動が小さいため加熱・冷却装置を小型化できる。
(2)冷却装置にペルチェ素子を用いることにより、装置全体の大幅な小型化、低廉化が図れる。
(3)従来の断熱温度上昇試験機と異なり、コンクリート試料を複数の強度試験用型枠に入れ養生することにより、断熱温度上昇試験後に強度試験が可能となる。
(4)強度管理用試験としては、例えば最大8本のコンクリート供試体を同時に養生できる装置であるが、加熱・冷却装置を内蔵した真空断熱容器(試験装置ユニット)を複数、温度調節器に接続することにより装置の増設が容易にでき、8本以上のコンクリート供試体の養生が可能となり、効率的、経済的な試験ができる。
(5)加熱装置、冷却装置、容器内の温度を均一にするためのファンを真空断熱容器内に内蔵することにより、小型化が図れる。
(6)温度履歴を温度調節器にプログラミングし、温度制御を行うためのプログラミング可能な温度調節器を用いることにより、再現性の高い試験を行うことができる。
(7)施工業者が独自に、構造物に使用するコンクリートの熱特性値の確認試験を行い、温度ひび割れの照査を行うことが可能となる。
(8)コンクリートを供給する生コンクリート業者が装置を使用し、発注者から指示されたスランプ、強度確認等の試験練りの際に、各種熱特性値の測定試験も一連の試験として実施することにより、出荷コンクリートの品質管理・品質保証を行うことができる。
(9)本発明の装置を用いて多くの試験が実施され、各種熱特性値のデータの集積が行われ、種々のコンクリートについての関係式が求まれば、これを温度ひび割れ解析プログラムに反映させ、ひび割れ指数計算精度の向上に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を、図1〜図12を用いて説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る断熱温度上昇試験装置の構成を示す断面図、図2は同装置内における供試体の配置例を示す平面図である。図1および図2において、本実施の形態に係る断熱温度上昇試験装置Aは、2個の断熱性能の高い大型真空断熱容器(φ33×36cm)1−1と1−2を、2段組積みした容器1を有しており、真空断熱容器1−1,1−2の間には、ゴムパッキンを取り付けた樹脂製のリング2を配置し、空気の流入出を防いでいる。容器1の内部には、φ10×20cmの供試体(簡易型枠にフレッシュコンクリートを入れ、締め固めて蓋をしたもの)3が、アルミニウム製の台4の上に、4個×2段の8個まで収納できるようになっている。容器1の内部の底部には、台5を介してヒータ6とその上に耐熱ファン7が設置されており、上部には、容器1内の温度分布を均一にするために耐熱ファン8が設けられている。また、容器1には、容器1内を冷却するためのペルチェ素子内蔵ファン16が設置されている。
【0035】
各供試体3のうち、少なくとも1個には、測温体として、熱電対(例えばPt100)10が埋設されており、供試体2の中心温度を用いて高精度な温度測定を行っている。また、ヒータ6の高精度温度制御のためにも熱電対11が用いられている。容器1の外部には、容器1内の温度を制御するための2台の温度調節器12,13と、ペルチェ素子内蔵ファン16の制御用SSR(ソリッドステートリレー)14と、ヒータ6の制御用SSR15とが設置されている。温度調節器12と13のいずれか1つはプログラミング可能としている。
【0036】
この実施の形態においては、容器1として、断熱性能の高い真空断熱容器(例えば、シャトルドラム(JIK−W18、内容量は18L))を用いたことにより、外乱(外気温)の影響を受けにくく、安定した温度制御が可能となる。また、加熱・冷却装置が小型化できる。
【0037】
また、容器1には、供試体3が最大8本セットでき、試験終了後に、熱拡散係数、熱容量および強度特性値の試験(後述)が可能となる。さらに、温度調節器12,13を2台用い、互いにリンクさせることにより、コストを削減することができる。なお、この2台の温度調節器12,13は、熱拡散係数、熱容量試験にも用いられる。
【0038】
図3は、本発明の実施の形態に係る熱拡散係数試験装置Bの構成を示す図であり、断熱温度上昇試験装置Aで用いた容器1の一方の真空断熱容器1−1を用いて、その内部に、熱電対10を埋設した供試体3を入れ、熱媒としての水を一定(50℃)に保って、熱電対10により供試体3の熱拡散係数を測定するものである。真空断熱容器1−1内の水温を制御するために、温度調節器12を用いる。水温の加熱は、真空断熱容器1−1の開口部に載せる架台21と、供試体3を所定の位置に支持する供試体台22と、モータ23,ギアヘッド24,回転軸25,シースヒータ26,撹拌羽根27,28を一体構造としたものを用いる。攪拌羽根28は、回転軸25に固定されており、攪拌羽根27と同じように回転駆動される。
【0039】
本熱拡散係数試験装置Bの特徴としては、以下の通りである。
攪拌用モータ23、シースヒータ26等を一体構造とし、取り付け可能とすることにより、断熱温度上昇試験で用いた真空断熱容器1−1を利用できる。
【0040】
温度制御装置内の温度調節器12と1個の真空断熱容器1−1を用い、熱拡散係数試験を行うことができるため、温度調節器13ともう一つの真空断熱容器1−2を用いて熱容量試験(後述)が同時にできる。
【0041】
図4は、本発明の実施の形態に係る熱容量試験装置Cの構成を示す図であり、断熱温度上昇試験装置Aで用いた容器1の一方の真空断熱容器1−2を用いて、その内部に発泡スチロール容器を入れ、その中に所定の水量の20℃の水を入れる。そして、水中に熱電対10を埋設した供試体3を入れ、熱容量試験を行うものである。
【0042】
真空断熱容器1−2の内部には、発泡スチロール等の断熱材で構成した断熱容器31を取り付けることにより、高い断熱性を確保する。断熱容器31の底部にはペルチェ素子32を内蔵したファン33を取り付け、断熱容器31内部の熱媒としての水の温度制御(800ccの水を20℃に一定に保つ)を行う。水温の制御には、断熱温度上昇試験で用いた温度調節器12と13のうち、一方の温度調節器13を用いることができる。
【0043】
この熱容量試験装置Cにおいては、断熱温度上昇試験で用いた真空断熱容器1−2を容器とし、内部に発泡スチロール等の断熱容器31を取り付けることによって、高い断熱性を確保できる。また、断熱温度上昇試験で用いたペルチェ素子内蔵ファン16を冷却装置として転用することができる。
【0044】
次に、以上の構成の断熱温度上昇試験装置A、熱拡散係数試験装置B、および熱容量試験装置Cを用いたコンクリート試験方法について説明する。図5はそのコンクリート試験方法の流れを示すものである。熱容量試験の後に、各種力学的特性試験ができる。
【0045】
1.断熱温度上昇試験
まず、サミットモールド(商品名)の缶の中に同一バッチのコンクリートを流し込んでφ10×20cmの供試体3を所用本数作成した。このとき、3本の供試体3のうち2本の中心部に熱電対10の先端が位置するように配置する(図5(a)参照)。コンクリートの配合は、最大骨材寸法20mm、練上り温度20℃、混和剤種類は高性能AE減水剤、スラグ混入率40%、スラグ比表面積4000cm2/gを用いた配合である。
この供試体3を用いて、市販の断熱温度上昇試験機(株式会社マルイ製、TBC−1000)と本発明の実施の形態に係る小型断熱温度上昇試験装置Aにより断熱温度上昇試験を行った。前記の市販の断熱温度上昇試験機の大きさは、146×61×83.5cmと大型で設置スペースを広く占有するのに対し、本実施の形態の断熱温度上昇試験装置は、容器1がφ33×76cm、温度制御装置(温度調節器12,13)が31×28×18cmで、小さな設置スペースで済む。
【0046】
この断熱温度上昇試験装置Aの容器1内に、供試体3を収納し、熱電対10により断熱温度上昇量を94時間(約4日間)測定した(図5(b)参照)。
表1は、断熱温度上昇試験の結果を示したものである。
【0047】
【表1】

【0048】
ここで、Qは、最小二乗法により求めた終局断熱温度上昇量、γは、温度上昇速度に関する定数である。表1の結果より、市販の断熱温度上昇試験機と本発明の断熱温度上昇試験装置の温度履歴はほぼ一致していることが分かる。4日目の時点での温度上昇量は、本発明試験装置の場合、40.5℃および40.3℃であり、断熱温度上昇試験機では41.5℃となっている。その差は1℃程度であった。また、各装置による実測値およびQ=Q(1−e-γt)による近似式を図6に示す。
【0049】
2.熱伝導率の算出方法
断熱温度上昇試験を行った後、同じ供試体を用いて熱拡散係数試験を行う。熱拡散係数試験は、図3に示した熱拡散係数試験装置Bを用いて行う。まず、図4に示した熱容量試験装置Cを用いて20℃一定とした供試体(図5(c)参照)を、熱拡散係数試験装置Bにおいて温度制御された50℃の温水に入れ、昇温過程をGlover法により解析し求めた(図5(d)参照)。その解析により求められた熱拡散係数h2の試験結果を図7に示す。
【0050】
図7において、温度変化Θ’=(Θ1−Θt)/(Θ1−Θ0)である。ここで、Θ1は水温、Θ0は供試体の初期材齢、Θtは時刻tにおける供試体の温度である。
図7の温度降下行程結果から、Glover法により熱拡散係数を求める。
供試体1 h21=0.00317(m2/h)
供試体2 h22=0.00313(m2/h)
【0051】
次に、50℃となった供試体は、その直後、熱容量試験装置Cの20℃の水中に浸漬し、降温過程より熱容量の測定を行う(図5(e)参照)。その試験結果を図8に示す。
Glover法で求めた熱拡散係数h2と、図8の温度降下行程の温度変化より、熱容量ρcを求める。
【0052】
供試体1 ρc1=486.2(kcal/m3/℃)[2035(kJ/m/h/℃)]
供試体2 ρc2=490.0(kcal/m3/℃)[2051(kJ/m/h/℃)]
熱伝導率(λ)は、λ=ρc×h2より、
供試体1 λ1=1.54(kcal/m/h/℃)[6446(J/m/h/℃)]
供試体2 λ2=1.53(kcal/m/h/℃)[6404(J/m/h/℃)]
【0053】
全ての試験が終わった供試体3は、高温履歴を受けたコンクリートとしての強度特性値の試験が可能となる(図5(f)参照)。
【0054】
強度管理用の試験としては、高強度コンクリートもしくは高流動コンクリートの強度試験として使用できる。図9は、強度管理用試験で断熱養生を行う方法を示す説明図であり、図1と同じ構成となっている。
【0055】
強度管理用の試験は、図10に示すように、事前に取得したコンクリート構造物の温度履歴を温度調節器12にプログラミングし、これを再現するように温度制御を行うか、もしくは図11に示すように、施工中のコンクリート構造物に温度調節器12と接続した測温体を挿入し、計測した温度を目標値として温度制御を行うことにより、高強度コンクリートもしくは高流動コンクリートの強度管理試験を行うことができる。
【0056】
例えば、高強度コンクリートの強度試験は、図12に示すように、事前に取得したマス試験体の温度履歴を温度調節器12にプログラミングし、これを再現するように温度制御を行うか、もしくは装置内でコンクリート打設後、数日間のみ断熱状態とすることにより行う。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、1台で複数の熱特性値の測定および各種強度管理試験ができる安価で小型なコンクリート試験装置およびそれを用いたコンクリート試験方法として、コンクリート構造物の温度ひび割れ抑制対策およびコンクリートの品質管理に、好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態に係る断熱温度上昇試験装置の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る断熱温度上昇試験装置内における供試体の配置例を示す平面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る熱拡散係数試験装置の構成を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る熱容量試験装置の構成を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るコンクリート試験方法の流れを示す説明図である。
【図6】終局断熱温度上昇量および温度上昇速度に関する定数を示すグラフである。
【図7】解析により求められた熱拡散係数の試験結果を示すグラフである。
【図8】熱容量試験結果を示すグラフである。
【図9】強度管理用試験で断熱養生を行う方法を示す説明図である。
【図10】構造物の温度履歴を温度調節器にプログラミングして高強度もしくは高流動コンクリートの品質管理試験を行う方法を示す説明図である。
【図11】施工中の構造物の温度履歴を再現して高強度もしくは高流動コンクリートの品質管理試験を行う方法を示す説明図である。
【図12】コンクリートの強度試験を行う機器の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0059】
A 断熱温度上昇試験装置
B 熱拡散係数試験装置
C 熱容量試験装置
1 容器
1−1,1−2 真空断熱容器
2 リング
3 供試体
4,5 台
6 ヒータ
7 耐熱ファン
8 耐熱ファン
10,11 熱電対(測温体)
12,13 温度調節器
14,15 SSR
16 ペルチェ素子内蔵ファン
21 架台
22 供試体台
23 モータ
24 ギアヘッド
25 回転軸
26 シースヒータ
27,28 撹拌羽根
31 断熱容器
32 ペルチェ素子
33 ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱性能の高い真空断熱容器からなる容器と、
前記容器内部を加熱するヒータと、
前記容器内部を冷却するペルチェ素子を用いた冷却装置と、
前記容器内部の温度分布を均一にするためのファンと、
前記容器内部に収納されるコンクリート供試体内部に埋設された測温手段と、
前記測温手段、前記ヒータおよび冷却装置に接続され、温度制御を行うためのプログラミング可能な温度調節器と
を備えたことを特徴とするコンクリート試験装置。
【請求項2】
前記容器は、内部に、前記コンクリート供試体を複数本収納可能であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート試験装置。
【請求項3】
前記容器と、前記ヒータと、前記冷却装置と、前記ファンと、前記測温手段とからなる試験装置ユニットを複数、前記温度調節器に並列に接続したことを特徴とする請求項1または2に記載のコンクリート試験装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載のコンクリート試験装置により断熱温度上昇試験を行い、
前記断熱温度上昇試験を行った後のコンクリート供試体を用いて熱拡散係数試験および熱容量試験を行い、
前記各試験により高温履歴を受けたコンクリート供試体の力学的特性値を求める試験を行うことを特徴とするコンクリート試験方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかの項に記載のコンクリート試験装置を用いたコンクリート試験方法であって、事前に取得したコンクリート構造物の温度履歴もしくは構造体モデル試験体の温度履歴を前記温度調節器にプログラミングし、これを再現するように前記温度調節器により前記真空断熱容器内でコンクリート供試体の温度制御を行うことにより、高強度コンクリートもしくは高流動コンクリートの強度管理試験を行うことを特徴とするコンクリート試験方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかの項に記載のコンクリート試験装置を用いたコンクリート試験方法であって、施工中のコンクリート構造物に前記温度調節器と接続した測温体を挿入し、計測した温度を目標値として、前記温度調節器により前記真空断熱容器内でコンクリート供試体の温度制御を行うことにより、高強度コンクリートもしくは高流動コンクリートの強度管理試験を行うことを特徴とするコンクリート試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−118996(P2006−118996A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307386(P2004−307386)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(393000722)マルタニ試工株式会社 (1)
【出願人】(504094626)株式会社ゼロテクノ (2)
【Fターム(参考)】