説明

コンクリート誘導剤

【課題】コンクリート打設時に、配管内面へのモルタルの付着を防ぎ、予め配管を通すが建設に使わずに廃棄する廃棄物の量を削減する。
【解決手段】メラミンスルホン酸塩を35質量%以上40質量%以下、硫酸ナトリウムを30質量%以上35質量%以下、炭酸カルシウムを20質量%以上30質量%以下含む組成物を10〜20g/lの水分散液として、流動コンクリートの圧送前に配管に投下し、この水分散材に配管内面を覆わせながら流動コンクリートを配管に通す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート打設用ポンプや配管にコンクリートのモルタル分が付着することを防ぐ方法及びそのための添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの打設に用いるポンプ及び配管に、何も処理せずに硬化前のコンクリートを導入すると、コンクリートを構成する成分のうち、モルタル分だけがポンプや配管内部の表面に付着し、それとともにモルタル分を失ったコンクリートの先端部が次第に硬化して配管を閉塞させてしまうことがある。これを防ぐために、コンクリートを吸い上げる前にモルタルを配管に導入し、配管内部表面をモルタルで覆っておくことが行われている(例えば特許文献1等)。また、モルタルのみであれば、モルタルの水分を管内壁に奪われるため、モルタルに先行水を添加して行うことになる。配管中の導入している先端部が硬化して配管が閉塞することはほとんどないため、順調に送り出して配管の先端まで到達させることができる。ただし、先行水の存在はその後に送り込むコンクリートに悪影響を及ぼすことになる。
【0003】
しかし、この先行モルタルは粗骨材を含まないためにコンクリートに比べて強度が不足するので、建築物に用いることはできず、配管全体を通過させた後は廃棄されている。また、打設完了後には、配管に付着して硬化したモルタルを除去しなければならず、このモルタルも廃棄物として処理しなければならない。
【0004】
これらの廃棄物を削減する方法として、特許文献2に記載のコンクリート誘導剤が提案されている。これは炭酸ナトリウムを主成分とし、他にメラミン、クエン酸、ポリアクリルアミド、メチルセルロースからなる組成物を水分散液としたものであり、モルタルの倍以上の粘性を有するものである。コンクリートをポンプ及び配管に導入する前に、配管の長さに応じた量の水分散液を添加しておくと、硬化前のコンクリートが配管内を進行することに伴い、そのコンクリートの先端部によって水分散液は徐々に押し進められるが、高い粘性のために、配管内部の下方表面だけでなく配管内部の表面全体を覆いながら押されることになる。これにより、先行モルタルで配管内部の表面を覆わなくても、誘導剤に続くコンクリートからモルタル分が配管内部表面に付着することを防止することができる。
【0005】
水分散液は硬化前のコンクリートと混合され得るため、先端部に近い部分のコンクリートのみは誘導剤と混合されて強度が低下してしまう。このため、この先端部に近いコンクリートは廃棄する必要がある。しかしその廃棄物発生量は、従来の先行モルタルを用いた場合の廃棄量に比べると大幅に削減されたものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−1643号公報
【特許文献2】特開2008−74086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、それでも廃棄しなければならないコンクリートは発生するため、さらに高性能なコンクリート誘導剤が求められている。そこでこの発明は、より効果の高いコンクリート誘導剤を提供し、コンクリート打設の際に生じる廃棄物をさらに削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、メラミンスルホン酸塩を35質量%以上40質量%以下、硫酸ナトリウムを30質量%以上35質量%以下、炭酸カルシウムを20質量%以上30質量%以下含む組成物をコンクリート誘導剤とすることにより上記の課題を解決したのである。この組成物の水分散液は、特許文献2に記載のコンクリート誘導剤と比較すると、より高い粘度のために少量で配管壁面を覆うことができる一方で、壁面に粘り着きにくくなめらかであるため、壁面で消費される量が少なく、少量の添加で済む。また、従来のコンクリート誘導剤と比べて、その水分散液を押し進める流動状態のコンクリートとも比較的混合しにくくなる。これにより、使い物にならない強度となって廃棄しなければならないコンクリートの量を従来よりもさらに減らすことができる。また、水分散液に用いる水の量も削減することができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明にかかるコンクリート誘導剤を用いることにより、廃棄するモルタルやコンクリートの総量を、従来のコンクリート誘導剤を用いる場合に比べて、半分程度からそれ以下にまで減らすことができる。
【0010】
水分散液とする前の組成物は劣化しにくく、長期保存が可能であり、コンクリート打設を行う業者が取り扱い易い。使用時には、バケツなどに水を入れて徐々に組成物を添加し、分散させていくことで利用できる。一般的なコンクリートポンプ車の配管に用いる場合、打設一回あたりの水の使用量はバケツ一杯分程度で足りる。
【0011】
ただし、このコンクリート誘導剤を使用するコンクリートポンプの構造や外形は特に限定されず、輸送管を取り付けたブームを有するコンクリートポンプ車でも、配管を別途接続するポンプ車でも、定置式のポンプでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】配管への水分散液の導入時の形態を示す図
【図2】配管内における準備段階での水分散液の状態図
【図3】流動するコンクリートに押される水分散液の状態図
【図4】粘度が不足した水分散液がコンクリートに押される際の状態図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、コンクリートポンプにコンクリートを通す前に、ポンプ、配管、又はその両方に予め導入する水分散液として用いるコンクリート誘導剤である。このコンクリート誘導剤となる組成物自体は固体の組成物の混合体である。
【0014】
上記の組成物は、メラミンスルホン酸塩を35質量%以上40質量%以下、硫酸ナトリウムを30質量%以上35質量%以下、炭酸カルシウムを20質量%以上30質量%以下含み、残余成分としてそれ以外の成分を5質量%以下含んでいてもよい。ただし、残余成分は前記の化合物が有するこの発明に必要な特性を消失しないものである必要がある。
【0015】
メラミンスルホン酸塩は、この発明にかかるコンクリート誘導剤として水分散液に必要な粘性を発揮させるための主な成分である。これが35重量%未満では、必要な濃度で水分散液を調製しても粘性が不足して、流動コンクリートの進行に伴ってポンプや配管全体をカバーする機能が不十分になり、カバー漏れを残す恐れがあるため、35%以上であることが必要である。一方で、40重量%以下であると好ましい。40重量%を超えると粘度が高くなりすぎて流動させにくくなるだけでなく、水分散液中のメラミンスルホン酸塩濃度が高くなりすぎることによって、そのメラミンスルホン酸塩により、水分散液が接触する先端部分の流動コンクリートの骨材とモルタルとを分離させてしまうおそれがある。このメラミンスルホン酸塩としては、例えば、メラミンスルホン酸ナトリウム、メラミンスルホン酸カリウムが挙げられ、特にメラミンスルホン酸ナトリウムが手に入れやすく扱いやすい。
【0016】
硫酸ナトリウム及び炭酸カルシウムはいずれも、水分散液に流動性を発揮させる。メラミンスルホン酸塩の質量に対して硫酸ナトリウム及び炭酸カルシウムが少なすぎると、メラミンスルホン酸塩による粘性が強く発揮されるのみで、水分散液が滑らかではなくべたついてしまい、ポンプや配管の内部壁面に上記水分散液が付着残存して失われていく量が無視できないものとなり、配管を通過しきるまでに水分散液が尽きてしまうおそれが生じる。上記水分散液のpHは中性に近い方が望ましいので、単独で塩基性を示す炭酸カルシウムよりも、より中性に近い硫酸ナトリウムの方が、pHの調整の点からは望ましい。しかし、硫酸ナトリウムよりも炭酸カルシウムの方が流動性を発揮させる効果が高く、硫酸ナトリウムだけでは流動性がどうしても不足してしまう。このようなpHと流動性とのバランスが最も好ましいのが、上記の混合比の範囲であり、それよりも硫酸ナトリウムが過多であると流動性が不十分となり、炭酸カルシウムが過多であるとpHが高くなりすぎてしまう。
【0017】
上記組成物は、上記の通り水分散液として使用する。そのpHは11以下であるとよく、9以下がより好ましく、中性に近いほど好ましい。pHが高すぎるとコンクリートに対して作用したりするため、扱いにくい。ただし、上記の通り、流動性を確保するために炭酸カルシウムをある程度含める必要があり、有効な粘度を示す濃度の範囲でpH7に近づけることは難しい。
【0018】
この水分散液中の上記組成物の濃度は、10g/l以上20g/l以下が好ましく、13g/l以上17g/l以下だとより好ましい。上記の組成比の範囲でも、濃度が高すぎるとメラミンスルホン酸塩が過剰になり、接触したコンクリートの粗骨材とモルタルとを分離させてしまう可能性が高くなる。逆に濃度が低すぎると粘度が十分に確保できず、十分に配管内壁の全周を覆うことができなくなってしまう。
【0019】
この状況を図1乃至図3により説明する。上記組成物をバケツに入れた水中に分散させて水分散液12を調製した後、T字管や図1に示すような曲がり管10から、流動状態のコンクリートを通過させる予定の配管11にこの水分散液12を投下する。この投下量は、配管11内の全てを満たすほどの量は必要ではなく、後から導入する流動状態のコンクリート13に押されることで配管内壁全周に行き渡る程度の量であればよい。例えば、投下した水分散液12が配管中の下側のみに溜まる図2のような状態であってよい。上記水分散液12が十分な粘性を有しているのであれば、流動するコンクリート13が配管11内に導入される際に、コンクリート13により押されつつも、その高い粘性によりその場に留まろうとするため、図3のように水分散液12がコンクリート13の先端表面を登り、配管11の上側まで到達する。もし水分散液12’の粘性が不足していたら、図4のように速やかにその場から流れて配管の上側は水分散液12’によって濡れることができず、その後に通過するコンクリート13からはモルタル分が奪われて凝固するおそれが高くなってしまう。
【0020】
具体的には、上記の濃度の水分散液12により、図3のように作用して配管11の上側面までを十分に覆うためには、上記水分散液を、配管の断面積1cmあたり、0.3リットル以上0.7リットル以下添加するとよい。なお、多すぎても配管の壁面を覆うには支障はないが、廃棄すべき水分散液とコンクリートとの混合物が増えてしまうため、配管の断面積1cmに対して、0.7リットル以下であると好ましい。
【0021】
なお、上記水分散液を調製するにあたっては、単純に水と上記組成物とを混合させるのではなく、必要量の水に、上記組成物を段階的に投下し、一旦投下した組成物が十分に分散したことを確認してから次の投下を行うとよく、少なくとも5段階以上に分けて投下すると好ましい。ただし、最初の投下から最後の投下までの時間は180分以下であると好ましい。あまりに長時間かけると、最初に投下した上記組成物が変性を起こしてしまうおそれがあるからである。
【0022】
また、この上記水分散液を使用するには、上記組成物の最後の投下分を投下し、分散を完了させてから、30分以上静置しておくことが好ましい。分散された上記組成物が十分な粘性を発揮するようにするためである。一方で、使用不可能な変性を起こしてしまう前に使用する必要があるため、上記組成物の最初の投下分を投下してから3時間以内にポンプ又は配管に導入して使用すると好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げてこの発明を具体的に示す。本願の実施例1として、メラミンスルホン酸ナトリウム94.5g(35質量%)、硫酸ナトリウム94.5g(35質量%)、炭酸カルシウム6.5g(25質量%)を含み、合計270gの混合物からなる組成物を複数調製した。
【0024】
<水温度による粘度の検討>
実施例1にかかるコンクリート誘導剤を、温度10℃、15℃、20℃、25℃、30℃である水(20℃、pH6.7)18リットルに投下して混合して分散させ、15g/lの水分散液を調製した。全量投下後、時間経過に伴う粘度の変化をビスコテスタ(RION社、VT−03F)により測定し、pHをpH試験機(HANNA (ITALY)製 製品名 : HI 8424N)により測定した。その結果を表1に示す。水温が25℃以上では若干の粘度の低下が見られ、水分散液の温度は10〜20℃が適温であることが確認された。また、30分〜60分で粘度が安定し、実用上十分な粘度に到達することが確認された。
【0025】
【表1】

【0026】
<コンクリートとの混合試験>
20℃において混合後、30分経過した18リットルの水分散液を、コンクリートポンプ車の配管に導入した。それから流動コンクリートを当該配管に導入し、筒先から吐き出されるコンクリートを、開始から20リットルまで(試料1)、20リットル後50リットルまで(試料2)、50リットル後100リットルまで(試料3)の3つの段階に分けて、それぞれから試料を採取した。さらに、100リットル後、1m後についても試料を採取し、誘導剤と無縁な比較コンクリートとした(試料4)。
【0027】
それぞれの試料について、材齢28日経過した試料をJIS A 1108に記載の「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて圧縮強度試験を行った。それぞれの試料は3つ採取し、それぞれについて圧縮強度試験を行い、その平均値を求めた。その結果を表2に示す。20リットルまでの試料1は比較コンクリートと比べて少々の強度低下が確認されたが、20〜50リットルの試料2は比較コンクリートと比べた強度の低下は1%程度であり、使用上問題がないことが確認された。このため、廃棄すべきコンクリートは最初の20リットル分だけで済むことが確認された。
【0028】
【表2】

【0029】
<誘導剤による強度低下試験>
コンクリートポンプ中の圧送先端箇所において一部コンクリートがコンクリート誘導剤と混合される状態を想定し、水セメント比55%のコンクリート中に実施例1のコンクリート誘導剤を2質量%混合したものを試料5とし、コンクリート誘導剤を混合しなかったものを比較のための試料6として試料採取した。それぞれについて材齢7日、28日、56日、91日で、上記のJIS A 1108と同様の手法により圧縮強度試験を行った。その結果を表3に示す。コンクリート誘導剤を2質量%含有するコンクリートでも、含有しないコンクリートに比べてその強度低下率は10%未満であることが確認された。
【0030】
【表3】

【0031】
<配合量の変更と従来のクエン酸含有誘導剤との対比>
(実施例2)
実施例1と同様の条件下で、実施例1と同じ成分を、表4のように配合比を変更し、温度20℃で同様に調製した。そのpHと粘度を表4に示す。30分経過後移行、実施例1に比べてやや粘度が低下したものの、十分な粘度を発揮した。
【0032】
【表4】

【0033】
(比較例1)
実施例2に比べて、炭酸カルシウムの含有量を増加させて表4に記載の配合比で同様に調製したところ、粘度が大きく低下してしまい、コンクリート誘導剤として不適当になってしまった。
【0034】
(比較例2〜4)
実施例1と同様の条件(20℃)下で、硫酸ナトリウムを用いず、炭酸カルシウムにより高くなるpHをクエン酸の添加により低下させようと試みた例を比較例1〜3として示す。いずれもpHは問題無かったが、30分経過後の粘度は実施例にくらべて大きく低下してしまい、コンクリート誘導剤としては不適当なものとなってしまった。
【0035】
(比較例5)
実施例1と同様の条件(20℃)下で、クエン酸も硫酸ナトリウムも用いずに、メラミンスルホン酸ナトリウムと炭酸カルシウムで配合したところ、pHが比較的高くなってしまった。また、粘度はコンクリート誘導剤として用いるには不適当なほどに高くなってしまった。
【0036】
<メラミンスルホン酸塩配合量の検討>
(実施例3)
実施例1において、メラミンスルホン酸ナトリウムの配合量を40.0質量%まで引き上げ、その分CaCOの配合量を20.0質量%に減少させたところ、pH9.0以下に収まった。30分経過後の粘度は200CPsとなり、実施例1とほぼ同等の粘度を維持することができた。
【0037】
(比較例6)
実施例1において、メラミンスルホン酸ナトリウムの配合量を34.0質量%まで低下させ、その分、CaCOの配合量を26.0質量%に上昇させた。pHは8.0に抑えることができたが、5分経過時点での粘度は実施例1よりも減少する一方で、60分経過時点で粘度が300CPsを超えてしまい、コンクリート誘導剤としては取り扱い困難になってしまった。
【0038】
(比較例7)
実施例3において、メラミンスルホン酸ナトリウムの配合量を41.0質量%まで引き上げ、その分、NaSOの配合量を30.0質量%に減少させ、CaCOの量を24.0質量%に減少させた。粘性はほとんど上がらなかったものの、pHは9.5まで上昇してしまった。また、コンクリートポンプに実際に導入したところ、水溶液とコンクリートが接触する部分で骨材分離による配管の詰まりを引き起こしてしまった。
【符号の説明】
【0039】
10 曲がり管
11 配管
12 水分散液
12’ (粘度が不足した)水分散液
13 (流動状態の)コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メラミンスルホン酸塩を35質量%以上40質量%以下、硫酸ナトリウムを30質量%以上35質量%以下、炭酸カルシウムを20質量%以上30質量%以下含む組成物であって、
その水分散液をコンクリートポンプの配管へのコンクリート圧送前に前記配管内に導入することで、コンクリート中のモルタルが配管に付着することを防止できるコンクリート誘導剤。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート誘導剤を、水分散液としてコンクリートポンプの配管へ前記配管内に導入した後に、コンクリート圧送を開始し、前記配管表面に付着した前記コンクリート誘導剤によりコンクリート中のモルタルが配管に付着することを防止する、コンクリートの打設方法。
【請求項3】
上記水分散液中の上記組成物の濃度が10g/l以上20g/l以下である請求項2に記載のコンクリートの打設方法。
【請求項4】
上記水分散液の導入量が上記配管の断面積1cmに対して0.3リットル/cm以上、0.7リットル/cm以下である請求項2または3に記載のコンクリートの打設方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−96530(P2012−96530A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220825(P2011−220825)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(510266251)株式会社ケミウスジャパン (2)
【Fターム(参考)】