説明

コンクリート躯体のコア孔の補修方法、コア孔の補修装置および充填材充填用冶具

【課題】コアサンプルの採取目的で形成されたコア孔の充填材の充填による補修を、高い信頼性をもって行なえるようにしたコンクリート躯体のコア孔の補修方法、コア孔の補修装置および当該補修に用いられる充填用冶具を提供する。
【解決手段】柱や梁などのコンクリート躯体に設けられたコア孔1を充填材2の充填によって補修する。コア孔1内に取り付けられるロッド4と、コア孔1の入り口部に設置され、コア孔1内に充填された充填材2を加圧する加圧板3と、ロッド4に螺合され、加圧板3をコア孔1内に押し込むための加圧用ナット6とからなるコア孔の補修装置を用いる。ロッド4に螺合された加圧用ナット6を締め付けてコア孔1内に充填された充填材2を加圧板3で後から加圧することにより充填材2の充填性を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート躯体のコア孔の補修方法、当該コア孔の補修に用いられるコア孔の補修装置および充填材充填用冶具に関し、主として耐震診断の際にサンプリングの採取目的で形成されたコア孔を充填材の充填によって補修するために用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
建物の改修や耐震補強工事などに際しては、建物の耐震診断が求められ、特に近年、建物の耐震診断の実施案件が増加している。なかでも、RC構造物の場合においては、柱や梁などの構造体コンクリートの強度確認が必要となる場合がある。
【0003】
構造体コンクリートの強度確認は、一般に構造体に影響の少ない壁、やむを得ない場合には主要構造部材である柱や梁からコアボーリングによってコアサンプルを採取して行い、その際、コアボーリングによって形成されたコア孔は、コンクリートやモルタル等の充填材を充填することにより補修している。
【0004】
【特許文献1】特開平11−326162号公報
【特許文献2】特開2005−320689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、柱や梁などの主要構造部材にコア孔をあけることは、部材の断面欠損による強度低下のおそれがあり、後から充填補修するとはいえ、その確実性が疑問視され、近年施主サイドから主要構造部材の断面欠損回避、補修方法の構造的な確認を求められるケースが急増している。
【0006】
なお、コア孔内に充填したモルタルやコンクリートを後から押込み用の棒で叩く等の措置も行なわれているが、充填性に確実性を欠くことが多い。また、グラウト材を充填する方法もあるが、通常のモルタルやコンクリートを用いるよりかなり工費が嵩むため実用的ではない。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、コアボーリグによって形成されたコア孔の補修を確実にかつ低コストで行なえるようにしたコンクリート躯体のコア孔の補修方法、コア孔の補修装置およびコア孔の補修方法に用いられる充填材充填用冶具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載のコンクリート躯体のコア孔の補修方法は、コンクリート躯体に設けられたコア孔を充填材の充填によって補修するコンクリート躯体のコア孔の補修方法であって、前記コア孔内にロッドを取り付ける工程と、前記コア孔内に充填材を充填する工程と、前記ロッドに反力を取り加圧板を前記コア孔内に押し込んで前記コア孔内の充填材を加圧する工程とからなることを特徴とするものである。
【0009】
本発明は、主として耐震診断の際にコアボーリングによって形成されたコア孔を単にモルタルやコンクリートを充填して補修するのではなく、コア孔内に充填材を充填し、その後から加圧することにより、空隙を排除して充填材を密実に充填して補修後の構造上の信頼性を向上させるようにしたものである。
【0010】
この場合、充填材には例えばモルタル等を用い、特にダレ(押し込んだ充填材がその形をとどめられず崩れること)の少ない固練りのものを用いるのが好ましい。
【0011】
請求書2記載のコンクリート躯体のコア孔の補修装置は、コンクリート躯体に設けられたコア孔を充填材の充填によって補修する際に用いられるコア孔の補修装置であって、前記コア孔内に取り付けられるロッドと、前記コア孔の入り口部に設置され、前記コア孔内の充填材を加圧する加圧板と、前記ロッドに螺合され、前記加圧板を前記コア孔内に押し込む加圧用ナットを備えて構成されてなることを特徴とするものである。
【0012】
本発明は、コア孔内に充填された充填材を加圧して、余分な空隙や未充填箇所を排除し、充填材の充填性を高めることで、補修後の構造上の信頼性を向上させるようにしたものであり、特に加圧板を介してコア孔内の充填材を加圧する部品として加圧用ナットが用いられていることで、充填材の突き固め不足箇所を補って、密実に充填することが可能となる。
【0013】
なお、加圧板と加圧用ナットとの間にスプリングを介在することで、加圧板を介して充填材をより均等に加圧することができる。
【0014】
請求書3記載の充填材充填用冶具は、コンクリート躯体に設けられたコア孔を充填材の充填によって補修する際に用いられる充填材充填用冶具であって、充填材を入れて前記コア孔内に挿入し、かつ前記コア孔より引き抜けるように形成された筒状体と、前記筒状体に内接され、前記筒状体を前記コア孔から引き抜く際に前記コア孔内の充填材をコア孔内に保持するように形成された蓋体とから構成されてなることを特徴とするものである。
【0015】
本発明は、充填材をコア孔内に一回の作業で充填できるようにしてコア孔の補修を効率的に行なえるようにしたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、コアボーリングによって形成されたコア孔内にコンクリートやモルタル等の充填材を単に充填して補修するのではなく、充填後コア孔内の充填材を一定の圧力で十分に加圧することで、充填材中の余分な空隙や未充填箇所を排除し、充填材の充填性を高めることにより、補修後の構造上の信頼性を高めることができる等の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1〜3は、本発明の一例を示し、図において、符号1は柱や梁などのコンクリート躯体にコアサンプルの採取を目的にコアボーリングによって形成されたコア孔である。符号2はコア孔1内に補修目的で充填された充填材である。
【0018】
符号3はコア孔1内に充填された充填材2を加圧するための加圧板であり、加圧板3は木製、金属製または硬質合成樹脂製等であって、コア孔1の内径よりやや小径の円板状に形成されている。
【0019】
また、加圧板3の中央に後述するロッド4が貫通する貫通孔3aが形成されている。加圧板3は使用に際し、貫通孔3aにロッド4を貫通させてコア孔1の入り口部に取り付けられる。なお、加圧板の周縁部に一個ないし複数の空気抜き用の小孔(図省略)が形成される場合もある。
【0020】
符号4は加圧板3をコア孔1内に押し込む際の反力受け用のロッドであり、ロッド4には雄ねじが形成され、かつコア孔1の深さよりやや長めに形成されたねじ棒が用いられている。
【0021】
そして、ロッド4は使用に際し、コア孔1のほぼ中央に設置され、その先端部4aはコア孔1の底部に埋め込まれたアンカー5を介してコア孔1の底部に固定される。また、アンカー5は使用に際し、コア孔1の底部に打ち込まれる。
【0022】
符号6は、ロッド4に反力を取って加圧板3をコア孔1内に押し込むための加圧用ナットであり、加圧用ナット6は使用に際し、反力受けロッド4に螺合され、かつ当該加圧用ナット6を締め付けることによりスプリング7を介して加圧板3はコア孔1内に押し込まれる。
【0023】
なお、スプリング7は加圧用ナット6による圧力をコア孔1内の充填材2に加圧板3を介して均等に作用させるために用いられている。
【0024】
図2(a),(b)は、コア孔1内に充填材2を充填するための冶具を示し、筒状体8と蓋体9とから構成されている。筒状体8はコア孔1内に挿入可能な円筒形に形成され、その一側部または両側部に軸方向に連続するスリット8aが形成されている。また、図2(b)に図示するように必要に応じて後端部に把持部8cが突設されている。
【0025】
蓋体9は筒状体8の内径よりやや小径に形成され、中央にロッド4が貫通する貫通孔9aが形成され、側部にスライド突片9bが突設されている。
【0026】
そして、筒状体8は使用に際し、充填材2を入れてコア孔1内に挿入され、充填材2をコア孔1内に残して引き抜かれる。また、蓋体9は使用に際し、貫通孔9aにロッド4を貫通させ、かつスライド突片9bを筒状体8のスリット8aに係合させて筒状体8に内接される。
【0027】
また、蓋体9はコア孔1から筒状体8aを引き抜く際にコア孔1の入り口部に押し付けられて、コア孔1内の充填材2が筒状体8と共に外に出ないように充填材2をコア孔1内に留め置く働きをする。
【0028】
このような構成において、次に、コアボーリングによって形成されたコア孔の補修方法について説明する。
【0029】
最初に、反力受け用のロッド4をコア孔1内に挿入し、その先端部4aをコア孔1の底部に後埋めされたアンカー5に結合する。
【0030】
次に、コア孔1内に充填材2を充填する。充填材2の充填には、図2(a),(b)に図示する充填用冶具を用いる。
【0031】
充填方法を説明すると、筒状体8内に蓋体9を内接する。そして、この蓋体9を底にして筒状体8内に充填材2を詰め込む。次に、充填材2を詰め込んだ筒状体8をコア孔1内に挿入する。その際、蓋体9の中央に形成された貫通孔9aにロッド4を貫通させる。
【0032】
次に、蓋体9をコア孔1の入り口部に押し付けてコア孔1内の充填材2を外に出ないようにして筒状体8をコア孔1から引き抜く。これで、充填材2の充填は完了したことになる。
【0033】
次に、ロッド4に加圧板3、スプリング7、加圧用のナット6をそれぞれ取り付ける。そして、加圧ナット6を締め付けて加圧板3をコア孔1内に徐々に押し込むことによりコア孔1内の充填材2を加圧する。
【0034】
なおその際、加圧板3として周縁部に小孔を有するものを用いると、充填材2内の空気や余分な水は加圧板3の周囲から速やかに排出することができる。
【0035】
コア孔1内の充填材2が硬化し、所要強度を発現したら加圧用ナット6、スプリング7および加圧板3を取り外す。ロッド4のコア孔1から突出した部分はカットし、表面仕上げをする。
【0036】
これで、コア孔の補修は完了したことになる。なお、加圧板3、加圧用ナット6およびスプリング7は繰り返し利用することができる。
【0037】
図4(a)〜(f)は、図2(a),(b)に図示する冶具を用いないで行なうコア孔の補修方法を示し、以下その施工手順について説明する。この補修方法では、コア孔1内に充填材2を充填するための冶具として、図5と図6に図示するような押込み用冶具10を用いる。
【0038】
押込み冶具10はコア孔1内に内接し得る押込み板10aと当該押込み板10aの一側面側の中心部分に突設された筒状の取っ手10bとから構成されている。
【0039】
押込み板10aは木製、鋼板または硬質樹脂板などから形成され、中心部にロッド4が貫通し得る貫通孔10cが形成されている。また、取っ手10bはロッド4が貫通し得る鋼管または塩ビ管などの硬質樹脂管から形成され、かつ円柱状または裁頭円錐形状に形成されている。
【0040】
最初に、反力受け用のロッド4をコア孔1内に挿入し、その先端部4aをコア孔1の底部に後埋めされたアンカー5に結合する。
【0041】
次に、コア孔1内に充填材2を充填する。その際、充填材2は複数回に分けて充填する。また、充填材2は各回ごとに押込み用冶具10によって入念に転圧する。一回当りの充填材2の充填量は、深さ40〜50mm程度とし、4〜5回程度で充填を完了するようにする。
【0042】
さらに、回ごとに押込み用冶具10を引抜くときは、押込み板10aに充填材2が付着しないように押込み用冶具10をコア孔1内で回転させながら引抜く等の処置を講ずる。
【0043】
こうして充填材2の充填が完了したら、次に、ロッド4に加圧板3、スプリング7、加圧用のナット6をそれぞれ取り付ける。そして、加圧ナット6を締め付けて加圧板3を孔1内に徐々に押し込むことによりコア孔1内の充填材2を加圧する。
【0044】
その際、加圧板として周縁部に小孔を有するものを用いると、充填材2内の空気や余分な水は加圧板3の周囲から速やかに排出することができると共に、コア孔1内の充填材2の締め込み具合を目視により確認することができる。
【0045】
そして、コア孔1内の充填材2が硬化して所要強度に達したら、加圧用ナット6、スプリング7および加圧板3を取り外す。ロッド4の突出した部分はカットし、表面仕上げをする。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、柱や梁などのコンクリート躯体に形成されたコア孔を確実かつ効率的に補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】コア孔の補修に用いられる補修装置の分解斜視図である。
【図2】(a),(b)はコア孔内に充填材を充填するための充填用冶具の一例を示す斜視図である。
【図3】補修方法の施工手順を示す工程図である。
【図4】他の補修方法の施工手順を示す工程図である。
【図5】コア孔内に充填した充填材を押込むための押込み用冶具の一例を示し、(a)は一部破断正面図、(b)は側面図である。
【図6】コア孔内に充填した充填材を押込むための押込み用冶具の一例を示し、(a)は一部破断正面図、(b)は側面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 コア孔
2 充填材
3 加圧板
3a 貫通孔
4 ロッド
5 アンカー
6 加圧用ナット
7 スプリング
8 筒状体
8a スリット
8b 把持部
9 蓋体
9a 貫通孔
9b スライド突片
10 押込み用冶具
10a 押込み板
10b 取っ手
10c 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート躯体に設けられたコア孔を充填材の充填によって補修するコンクリート躯体のコア孔の補修方法であって、前記コア孔内にロッドを取り付ける工程と、前記コア孔内に充填材を充填する工程と、前記ロッドに反力を取り加圧板を前記コア孔内に押し込んで前記コア孔内の充填材を加圧する工程とからなることを特徴とするコンクリート躯体のコア孔の補修方法。
【請求項2】
コンクリート躯体に設けられたコア孔を充填材の充填によって補修するコンクリート躯体のコア孔の補修に用いられるコンクリート躯体のコア孔の補修装置であって、前記コア孔内に取り付けられるロッドと、前記コア孔の入り口部に設置され、前記コア孔内の充填材を加圧する加圧板と、前記ロッドに螺合され、前記加圧板を前記コア孔内に押し込む加圧用ナットを備えて構成されてなることを特徴とするコンクリート躯体のコア孔の補修装置。
【請求項3】
コンクリート躯体に設けられたコア孔を充填材の充填によって補修する際に用いられる充填材充填用冶具であって、充填材を入れて前記コア孔内に挿入し、かつ前記コア孔より引き抜けるように形成された筒状体と、前記筒状体に内接され、前記筒状体を前記コア孔から引き抜く際に前記コア孔内に入れられた充填材をコア孔内に保持するように形成された蓋体とから構成されてなることを特徴とする充填材充填用冶具。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−287327(P2009−287327A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142856(P2008−142856)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(390036515)株式会社鴻池組 (41)
【Fターム(参考)】