説明

コンセントリコリド及びその誘導体、それらを調製する工程、それを含む薬学的組成物並びにその使用

本発明は、コンセントリコリド及びそれの誘導体、それらの調製用の工程、それを含有する薬学的組成物、並びに、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)に感染することの処置及び予防におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンセントリコリド及びその誘導体、その化合物及びそれの誘導体を調製する工程、コンセントリコリドを含む薬学的組成物及びその誘導体、並びにヒト免疫不全症ウイルス(HIV)によって引き起こされる感染の処置及び予防のためのその化合物及びそれの誘導体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
子嚢菌属の菌類、ダルジニア(Daldinia)及び他のクロサイワイタケ科(Xylariaceae)は、独特の二次代謝産物に豊富なものである。欧州型及び米国型ダルジニア種(European and American Daldinia sp.)は、それぞれ、Allport and Bu’Lock(非特許文献1)及びAnke et al.(非特許文献2)によって研究されてきており、それによって、それらの支質及び培養物における特徴的な代謝産物の識別に帰着した。最近では、二つの日本型のダルジニア種(Japanese Daldinia sp.)が、Hashimoto及びAsakawa(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)によって、徹底的に調査されてきた。20個より多くの新しい代謝産物が、発見されてきており、且つ、これらの化合物のいくつかは、抗菌性の活性及び殺線虫の活性を含む広い範囲の生物学的な活性を提示する。
【非特許文献1】D.C.Allport,J.D.Bulock,J.Chem.Soc.1958,4090、D.C.Allport,J.D.Bulock,J.Chem.Soc.,1960,654
【非特許文献2】H.Anke,M.Stadler,A.Mayer,O.Sterner,Can.J.Bot.,1995,73,802
【非特許文献3】M.Stadler,H.wollweber,A.Muhlbauer,T.Henkel,Y.Asakawa,T.Hashimoto,Y.M.Ju,J.D.Rogers,H.G.Wetzstein,H.W.Tichy,Mycotaxon 2001,77,379
【非特許文献4】M.S.Buchanan,T.Hashimoto,S.Takaoka,et al.,Phytochemistry 1996,42,173、D.N.Quang,T.Hashimoto,M.Tanaka,M.Baumgartner,M.Stadler,Y.Asakawa.Phytochemistry 2002,61,345
【非特許文献5】M.Buchanan,T.Hashimoto, and Y.Asakawa,Phytochemistry 1995,40,135
【非特許文献6】M.S.Buchanan,T.Hashimoto,and Y.Asakawa,Phytochemistry 1996,41,821.5−9
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
発明者は、Lijiang of Yunnanで収集された中国型のダルジニアコンセントリカ(Chinese Daldinia concentria)からの骨格としてのベンゾフランラクトンを有する新規な化合物を発見してきており、その化合物は、コンセントリコリドA(concentricolide A)と名付けられる。
【0004】
そのコンセントリコリドは、良好な抗融合の生物学的な活性を提示する。それは、HIVが正常な細胞に入ることを予防し、HIVの増殖を阻害し、且つ、人の免疫系の破壊を遅延させる。それに応じて、そのコンセントコリドを、HIV感染の予防及び処置のために使用することができる。
【0005】
本発明は、第一の態様において、一般式(I)
【0006】
【化7】

の化合物又はそれの誘導体に関する。
【0007】
ここで、
R1は、C−Cのアルキルを表し、
R2は、H、ハロゲン、−OH、NRR’、又は−NOを表し、
ここでR及びR’は、H又はC−Cのアルキルを表し、
R3は、H、ハロゲン、−OH、NRR’、又は−NOを表し、
ここでR及びR’は、H又はC−Cのアルキルを表し、
R4は、H、ハロゲン、又は−NOを表す。
【0008】
本発明は、別の態様において、活性な処方成分として、一般式(I)の化合物又はそれの誘導体並びに薬学的に許容可能な担体又は賦形剤を含む薬学的組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、
a)雲南(Yunnan)からのダルジニアコンセントリカ(Daldinia concentrica)の子実体又は有機溶剤を備えたそれの発酵した液体を抽出すること、
b)式(II)
【0010】
【化8】

の化合物を与えるために、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーによってその抽出物を分離すること、
c)式(I)の化合物を与えるために、式(II)の化合物に臭素化、ニトロ化、又はアルキル化を受けさせること
を含む、一般式(I)の化合物又はそれの誘導体を調製するための工程に関する。
【0011】
本発明は、また、HIV感染と関連した健康状態又は疾患の処置/予防用の医薬の製造に式(I)の化合物の使用に関する。
【0012】
本発明は、さらに、HIVに感染した患者へ式(I)の化合物又はそれの誘導体を投与することを含む、HIV感染と関連した健康状態又は疾患の予防/処置のための方法に関する。
【0013】
本発明は、さらに、その抽出物が、式(II)
【0014】
【化9】

の化合物を含有するという点で特徴付けられる、雲南からのダルジニアコンセントリカの抽出物に関する。
【0015】
本発明は、さらに、活性な処方成分として、ダルジニアコンセントリカの抽出物及び薬学的に許容可能な担体又は賦形剤を含む、薬学的組成物に関するが、ここで、ダルジニアコンセントリカの抽出物は、式(II)のコンセントリコリドを含有する。
【0016】
本発明は、さらに、HIV感染と関連した健康状態又は疾患の予防/処置用の生産物の調製用のダルジニアコンセントリカの抽出物の使用に関する。
【0017】
本発明に従って、式(I)の化合物又はそれの誘導体は、好ましくは、以下の式
【0018】
【化10】

によって表された化合物から、より好ましくは、式(II)の化合物から、選択される。
【0019】
本発明に従って、式(I)の化合物又はそれの誘導体は、それの光学的な立体異性体、好ましくは、式(III)によって表される立体異性体を含む。
【0020】
本発明に従って、用語“式(I)の化合物の誘導体”は、薬学的に許容可能な塩、立体異性体、式(I)の化合物の水和物又は溶媒和物を意味する。
【0021】
本発明に従って、この発明に関係した化合物は、薬化学で通常使用される生理学的に許容可能な塩を含む、様々な有機酸及び無機酸と塩を形成する。また、このような塩は、この発明に含まれる。このような塩を形成するために使用される典型的な無機酸の例は、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などを含む。典型的な有機酸の例は、一脂肪酸(mono-aliphatic acids)及び二脂肪酸(bi-aliphatic acids)、フェニルで置換されたアルカン酸(alkanoic acids)、ヒドロキシアルカン酸、並びに、ヒドロキシアルカン二酸(hydroxyalkandioic acids)、芳香族酸、脂肪族スルホン酸及び芳香族スルホン酸などを含む。薬学的に許容可能な塩は、酢酸塩、フェニル酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、アクリル酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩(benoates)、クロロ安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩(dinitrobenoates)、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、メチル安息香酸塩(methylbenzoates)、o−アセトキシ安息香酸、ナフタレン−2−安息香酸塩(naphthalense-2-banzoates)、臭化物塩、イソ酪酸塩(isobytyrates)、フェニル酪酸塩、β−ヒドロキシ酪酸塩、ブチン−1,4−二酸塩、カプロン酸塩、カプリル酸塩、塩化物、桂皮酸塩、クエン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グリコール酸塩(glycollates)、ヘプタン酸、馬尿酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、ヒドロキシマレイン酸、マロン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、ニコチン酸塩、イソニコチン酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、フタル酸塩、テレフタル酸塩(teraphthalates)、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、メタリン酸、ピロリン酸塩、プロピオール酸塩、プロピオン酸塩、フェニルプロピオン酸塩、サリチル酸塩、セバシン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ピロ硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、スルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−ブロモフェニルスルホン酸塩、クロロベンゼンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、ナフタレン−1−スルホン酸塩、ナフタレン−2−スルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、酒石酸塩などを含む。好適な塩は、塩酸塩である。
【0022】
本発明に従って、式(II)の化合物は、ダルジニア種(Daldinia sp.)の菌類の材料から調製される。ダルジニア種の細分した菌類の材料は、有機溶剤(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ジエチルエーテル、t−ブチル=メチル=エーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル)で抽出され、その抽出物は、固体の担体に濃縮されると共に吸着される。その固体の担体は、土壌の天然の鉱石(例えば、カオリン、粘土、滑石、石粉、水晶、モンモリロナイト)及び土壌の合成鉱物(例えば、シリカ、アルミナ、ケイ酸塩)又は吸着剤の樹脂(例えば、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂若しくはポリアミド樹脂)を含む。吸着された抽出物は、極性を増加させるための混合した溶剤を使用する、勾配溶離にかけられるが、その溶離は、濃縮されると共にシリカゲルカラムでさらに精製される。
【0023】
あるいは、式(II)の化合物は、有機溶剤(例えば、酢酸エチル、ジエチルエーテル、クロロホルム、塩化メチレン、ブタノール)でダルジニアコンセントリカの発酵した液体の培養物を抽出すること、土壌の天然の鉱物(例えば、カオリン、粘土、滑石、石粉、水晶、モンモリロナイト)及び土壌の合成鉱物(例えば、シリカ、アルミナ、ケイ酸塩)又は吸収体の樹脂(例えば、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂若しくはポリアミド樹脂)を含む固体の担体でその抽出物を濃縮すると共に吸収すること、並びに、その吸収された抽出物を勾配溶離にかけること、その溶離剤を濃縮すると共にシリカゲルカラムで精製することによって、調製される。
【0024】
本発明に従って、式(I)又は(II)の化合物は、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)の感染によって引き起こされる後天性免疫不全症候群(AIDS)の処置に適切なものである。それら化合物を、菌類から直接的に単離する又は全合成若しくは半合成によって得ることができる。本発明に従って全ての化合物は、それらがヒト免疫不全症ウイルス(HIV)によって引き起こされる感染を処置することに使用されるとき、別々に又は薬学的組成物の形態で使用される。また、本発明は、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)によって引き起こされる感染の処置のためのダルジニア種の抽出物の使用に関連する。それら抽出物は、式(II)の化合物を含むと共に、HIVによって引き起こされる感染の処置に適切なものである他の化合物又は調合物との組み合わせで使用されることができる。
【0025】
さらに、ダルジニア種の抽出物を、上の有機溶媒を使用する従来の抽出ステップによって、得ることができる。様々な純度の等級の抽出物を、使用することができる。その抽出物における式(II)の化合物の含有率は、0.01重量%から2重量%の範囲に、好ましくは、0.1重量%から1重量%の範囲にある。
【0026】
また、本発明は、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)によって引き起こされる感染の処置のためのダルジニア種の菌類の使用に関する。それら菌類は、好ましくは、細分した子実体又は支質及び培養物の形態にある。細分した菌類を、HIVによって引き起こされた感染の処置のために他の化合物又は調合物と一緒に使用することができる。
【0027】
式(I)又は(II)の一つ以上の化合物は、錠剤(tables)又は他の経口的な投薬の形態へ、賦形剤、希釈剤、又は担体と一緒に圧縮されるか、又は、筋肉内の又は静脈内の注射用の薬学的な投薬の形態として若しくは徐放性の投薬の形態などとして処方される。
【0028】
薬学的な調合物は、当技術において知られた手順によって、調製される。特に、本発明に従って化合物を、通常の賦形剤、希釈剤、又は担体で調合すると共に錠剤、カプセル、懸濁液、粉末などに形成することができる。賦形剤、希釈剤、及び担体の例は、(デンプン、糖類、マンニトール、及び、ケイ素の誘導体のような)充填剤及び増量剤、(カルボキシメチルセルロール、他のセルロース誘導体、アルギン酸塩又はエステル、ゼラチン、及びポリビニルピロリドンのような)結合剤、(グリセロールのような)加湿剤、(パラフィンのような)緩開放剤、(第四級アンモニウム塩のような)再吸収促進剤、(セチルアルコール、モノステアリン酸グリセロールのような)界面活性剤、(カオリン及びベントナイトのような)吸着性担体、及び、(滑石、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、及び、固体のポリエチルグリコールのような)潤滑剤を含む。
【0029】
本発明に従った化合物を、筋肉内の、皮下の、又は、静脈内の注射用の投薬の形態のような非経口的な投薬の形態として、又は、徐放性の投薬の形態などとして、処方することができる。調合物を、それらが、ある時間の期間にわたって腸管の特定の部分で活性な処方成分を解放するように、構成することができる。被覆剤、外被、及び保護の基剤を、重合体の材料又はワックスから作ってもよい。
【0030】
ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)によって引き起こされる感染の処置用の式(I)又は(II)の化合物の特定の服用量は、疾患の重症度、体重、年齢、性別、投与の経路、及び、臨床家の具体的な診断のような、多くの因子に依存性するものである。一般に、許容された且つ有効な日々の薬用量は、0.1mg/人/日から1000mg/人/日、好ましくは、50mg/人/日から200mg/人/日までである。このような服用量は、毎日一回から三回まで、投与される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下の例は、本発明をさらに記載するために、使用されるが、しかし、どんな点においても本発明を限定しない。
【0032】
例1 コンセントコリドAの調製
ダルジニアコンセントリカの乾燥した且つ細分された子実体(750g)を、それぞれ室温においてCHCl−MeOH(1:1,体積/体積)及びMeOHで三回抽出した。その有機相を、組み合わせ、且つ、深い褐色の且つクリームの粗抽出物(60g)を与えるために、真空中で蒸発させた。
【0033】
その抽出物を、80個〜100個の網目のシリカゲルと混合し、且つ、15個のフラクションを与えるために、引き続いてCHCl/MeOH(100:0,95:5,90:10,体積/体積)で溶離するシリカゲルクロマトグラフィーにかけた。(CHCl/MeOH,95:5,9g)で溶離させた)フラクション8を、引き続いて石油エーテル/アセトン(99:1,95:5,90:10,80:20,体積/体積)で溶離するシリカゲルクロマトグラフィーにかけた。99:1の石油エーテル/アセトンで溶離したフラクションから直接的に得られたのは、120mgのコンセントリコリドAであった。
【0034】
あるいは、ダルジニアコンセントリカの液体の培養物(80L)を、室温においてEtOAcで五回抽出した。組み合わせた有機相を、深い茶色の且つクリームの粗抽出物(24g)を与えるために、真空中で蒸発させた。その粗抽出物を、80個〜100個の網目のシリカゲルと混合し、且つ、15個のフラクションを与えるために、CHCl/MeOH(100:0,95:5,90:10,体積/体積)で溶離するシリカゲルクロマトグラフィーにかけた。(CHCl3/MeOH,95:5,1.7gで溶離することによって得られた)フラクション8を、石油エーテル/アセトン(99:1,95:5,90:10,80:20,体積/体積)で溶離するシリカゲルクロマトグラフィーにかけた。99:1の石油エーテル/アセトンで溶離したフラクションから直接的に得られたのは、173mgのコンセントリコリドAであった。
【0035】
コンセントコリドAは、以下の物理化学的な且つ波のスペクトルのデータ(date):淡黄色の針状結晶体、融点89〜90℃(石油エーテル/アセトン);[α]21.9=−59.23°(c0.48,MeOH);EI−MS m/z (相対強度):202[M](20),173(100),145(48);HR−TOF−MS m/z:225.0526([M+Na],225.0527 C1210Naについての計算値);UV(MeOH)λmax nm:226(log ε 4.08),256.5(3.88),297(3.63);IRνKBrmaxcm−1:1757,1641,1534,1437を有する。
【0036】
コンセントコリドの1H−及び13C−NMRのデータ(500MHz,CDCl3,ppm単位のδ,Hz単位のJ)
【0037】
【表1】

【0038】
(X線回折分析の結果)
C12H10O3,M 202,三斜晶系,空間群P1:a=7.728(1),b=8.289(1),c=9.043(1)Å;α=106.450(5)°,β=96.321(6)°,γ=108.946(6)°;V=512.36(3)Å,Z=2。最終的な信頼できる因子Rf=0.073及びRw=0.066(w=1/σ|F|)合計で1369回の反射を、黒鉛で単色化された(monochromated)MoKα走査放射を備えたMAC−DIP−2030K回折計で、ω走査モードにおいて記録した。その構造を、直接的方法のSHELXS86によって解釈した。それの格子回折パターンを図7に示した。
【0039】
例2
コンセントコリドAからの2,3−ジブロモ−2,3−ジヒドロコンセントコリド(B)の調製
60mgのコンセントコリド(A,0.30mmol)を、2mlのCHClに溶解させ、65mgの臭素(0.41mmol)を、1mlのCHClに溶解させた。その臭素の溶液を、Aの溶液へ滴状に添加し、且つ、120時間の間、室温で攪拌した。その生成物を、淡黄色の針状結晶体を与えるために、濃縮したが、それを、47.2%の収率で50.8mgのBを得るために、再結晶させた。その生成物は、HPLCで二本のピークを示したが、それらは、一対の光学異性体(B及びB)であることが識別される。
【0040】
淡黄色の針状結晶体の化合物Bを、コンセントコリドA及び臭素の付加反応によって、生成させた。EI−MSスペクトルは、その分子(molecular)が二つの原子を含有することを暗示する、1:2:1の相対強度で364、362、及び360における三本の同位体のピークを示した。コンセントコリドAとの比較によって、ちょうど、二つの臭素原子の分子量の差があるが、二つの臭素原子の存在をさらに証明する。H−NMRスペクトルにおいて、互いに結合した二つのオレフィンの水素[δ7.79(1H,d,J=7.7),7.19(1H,d,J=7.7)]が、観察された。結合定数J=7.7に基づいて、2位及び3位で起こった臭素の付加反応を示唆する、フェニル環における水素であることが、推測される。HMBCにおいて、δ7.79を、C−3、5A、及び8Aに関係づけ、且つ、δ7.19を、C−3A、4、5A、及び8Aに関係付けたが、その付加反応がフラン環で起こったことをさらに証明した。従って、Bの構造を、2,3−ジブロモ(dibromine omo)−2,3−ヒドロコンセントリコリドであることを決定した。BのHPLCは、臭素の付加反応が、臭素オニウムイオン機構であったので、二つの臭素原子が、オレフィンの炭素を攻撃するために反対の方向をとったことで、二本のピークがあることを示した。その付加反応の生成物は、一対の光学異性体であるはずである、すなわち、Bは、実際には、混合物であったが、ここで、それら二つの化合物の構造は、それぞれ、(2S,3S)−2,3−ジブロモ−2,3−ヒドロコンセントコリド(B)及び(2R,3R)−2,3−ジブロモ−2,3−ヒドロコンセントコリド(B)であった。
【0041】
2,3−ジブロモ−2,3−ジヒドロコンセントコリド(B及びB
淡黄色の針状結晶体(石油エーテル/アセトン)
EI−MS m/z(相対強度):364[M(0.5),362[M(1.0),360[M(0.5),284 (7),282(13),280(31),278(7),202(20),173(100),145(50),117(7),89(12);H−NMR(500 MHz,CDCl):87.79(1H,d,J=7.7),7.19(1H,d,J=7.7),7.02(1H,d,J=3.8),5.79(1H,d,J=4.2),5.46(1H,m),2.14(1H,m),1.86(1H,m),1.06(3H,t,J=7.4);13C−NMR(100MHz,CDCl):δ166.6,166.6,153.9,153.9,153.8,153.8,131.6,131.5,128.1,128.0,117.1,117.1,112.2,112.0,90.1,90.0,82.8,82.8,50.9,50.8,27.8,27.7,9.1,9.0。
【0042】
例3
2,3−ジブロモ−2,3−ジヒドロコンセントコリド(B)からの3−ブロモコンセントコリド(C)の調製
32mgのB(0.09mmol)を、2mlのメタノールに溶解させ、その溶液に、水酸化カリウムの1mlの飽和メタノール溶液を添加した。その混合物を、8時間の間、室温で攪拌した。その反応溶液を、メタノール中の1%の塩酸でpH7.0まで中和し、且つ、少量の水で希釈し、且つ、クロロホルムで抽出した。その抽出物を、粗生成物を得るために、乾燥させた。その粗生成物を、47.5%の収率で11.8mgの淡黄色の針状結晶体Cを与えるために、再結晶させた。
【0043】
淡黄色の針状結晶体の化合物Cを、Bの脱離反応の生成物として得た。EI−MSスペクトルは、一つの臭素原子の存在を暗示する、1:1の相対強度で282及び280に二本の分子イオンピークを示した。三個のオレフィンの水素の信号[δ7.84(1H,d,J=8.0),7.80(1H,s),7.34(1H,d,J=8.0)]が、H−NMRで観察された。それら信号をAのもの[δ7.74(1H,d,J=2.2,H−2),6.86(1H,d,J=2.2,H−3),7.86(1H,dd,J=8.3,3.6,H−4),7.24(1H,d,J=8.3,H−5)]と比較すると、脱離したものは、H−3であった。HMBCは、δ 7.80(1H,s)及びC−3、3A、8Bの関連性のあるピークがあったことを示したが、その化合物の構造が3−ブロモコンセントコリドであったことをさらに証明する。
【0044】
3−ブロモコンセントコリド(C)
淡黄色の針状結晶体(石油エーテル/アセトン);融点88〜89℃;E1−MS m/z (相対強度):282[M(20),280[M(21),253[M−C(80),251[M−C(100),225(52),223(68);H−NMR(400MHz,CDCl):δ7.84(1H,d,J=8.0),7.80(1H,s),7.34(1H,d,J=8.0),5.56(1H,m),2.18(1H,m),1.84(1H,m),0.99(3H,t,J=7.4);13C−NMR(100MHz,CDCl):δ167.2,149.5,149.2,144.1,128.8,126.5,116.8,111.6,98.3,82.9,27.8,8.7;2D−NMR。
【0045】
例4
コンセントコリドAからの2,5−ジニトロコンセントコリド(D)の調製
50mgのA(0.25mmol)を、1mlのCHClに溶解させ、その溶液に添加したのは、冷却状態での1.5mlの濃硫酸であったと共に、攪拌と共に添加したのは、滴状の1mlの硝酸であった。その混合物を、30分間の間、室温で攪拌し、且つ、次に、粉砕した氷に注入した。残存した酸を、炭酸ナトリウムを使用することによって、取り除いた。その混合物を、少量の水で希釈し、且つ、クロロホルムで抽出した。その抽出物を、粗生成物を得るために、乾燥させ、それを、44%の収率で31.8mgの淡黄色の針状結晶体Dを与えるために、再結晶させた。
【0046】
2,5−ジニトロコンセントコリド(D)
淡黄色の針状結晶体(石油エーテル/アセトン);融点203〜205℃;EI−MS m/z(相対強度):292[M](25),263[M−C(100);HR−TOF−MS m/z:C12([M+Na]315.0220,C12Naについての計算値315.0229);H−NMR(400MHz,CDCl):δ8.98(1H,s),7.96(1H,s),6.13(1H,m),2.29(1H, m),1.77(1H,m),0.91(3H,t,J=7.4);13C−NMR(100MHz,CDCl):δ163.9,155.3,149.7,147.1,140.9,128.2,126.8,114.6,106.9,84.1,26.3,9.1。
【0047】
処方において、“活性な処方成分”は、式(I)又は(II)の化合物を意味する。
【0048】
例5:ゼラチンカプセル
硬質のゼラチンカプセルを、以下の方法を使用して調製した。
【0049】
【表2】

それら処方成分を、ブレンドし、ふるいを通じて通過させ、且つ、硬質のゼラチンカプセルに充填した。
【0050】
例6:コンセントコリドカプセル
【0051】
【表3】

例7:錠剤
【0052】
【表4】

上記の組成物を、ブレンドし、且つ、錠剤へ圧縮した。
【0053】
各々が0.1−1000mgの活性な処方成分を含有する錠剤を、以下のように組成した。
【0054】
例8:錠剤
【0055】
【表5】

その活性な処方成分、デンプン、及びセルロースを、ふるいを通じて通過させ、且つ、混合した。その混合物に添加したのは、溶液を形成するためのポリビニルピロリドンであった。その溶液を、薬学的な顆粒を生成させるために、ふるいを通じて通過させた。それら顆粒を、50−60℃で乾燥させ、且つ、ふるいを通じて通過させた。ふるいを通じて通過させたカルボキシメチルセルロースナトリウム及び酢酸マグネシウムを、混合し、且つ、錠剤に圧縮した。
【0056】
各々が5mlの薬用量当たり0.1−1000mgの有効な処方成分を含有する懸濁液を、以下のように作った。
【0057】
例9:懸濁液
【0058】
【表6】

【0059】
その有効な処方成分を、ふるいを通じて通過させ、且つ、均一なペーストを形成するためにカルボキシメチルセルロースナトリウム及びシロップと混合した。安息香酸溶液、香料添加剤、及び着色剤を、攪拌と共に水を使用して、希釈し、且つ、次に、その薬学的なペーストを添加し、且つ、その要求された容積まで水で均衡させた。
【0060】
生物学的な活性の分析
材料及び方法
試薬及び化学薬品
MTT(3,(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム=ブロミド)を、Amrescoから購入した。SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を、Servaから購入した。AZT(3P−アジド−3P−デオキシチミジン)を、Sigmaから購入した。DMF(N,N’−ジメチルホルムアミン(N,N’-Dimethyl formamine))を、Shanghai Chemical Reagents Company(中国)から購入した。
【0061】
培養物の媒体
10%のウシ胎児血清(ギブコ)、2mMのL−グルタミン、10MのmHEPES、50μMの2−メルカプトエタノール、100,000IUのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイセス硫酸塩が供給された完成したRPMI−1640媒体
【0062】
化合物
試験する化合物は、コンセントコリドAであった。陽性対照:AZT、逆転写酵素阻害剤の一つ、及び、T20、融合阻害剤の一つ、を使用した。
【0063】
細胞及びウィルス
C8166及びHIV−1IIIBに慢性的に感染したH9細胞が、Medical Research Council(MRC)、AIDS Reagent Project,UKによって供与された。全ての細胞及びウィルスは、通常の方法によって、貯蔵され、且つ、蘇生させられた。
【0064】
例1
C8166細胞におけるコンセントコリドAの細胞毒性
C8166は、HIV−1についての宿主細胞の一つであった。100μlの4×10個/mlの細胞を、マイクロタイタープレート上に接種し、100μlの様々な濃度のコンセントコリドを、添加し、且つ、72時間の間、5%COの加湿した雰囲気において37℃で温置した。細胞の毒性を、MTT比色分析によって分析した。そのプレートを、595/630nm(OD595/630nm)で、Bio−Tek ELx800ELISA読取装置において読み取った。50%の細胞毒性の濃度(CC50)を、以下のように計算した。
【0065】
細胞生存度%=(ODexp−ODblank)/(ODcontrol−ODblank)×100。
【0066】
それら結果を図1及び2に示した。
【0067】
例2
正常な細胞とHIV−1に感染した細胞との間の融合におけるコンセントコリドAの妨害
HIVに感染した細胞を、正常なTリンパ球の細胞と共同で培養したとき、感染した細胞に発現した外部の外被の糖タンパク質gp120が、細胞の融合及び融合細胞の形成の後に続き、感染してないCD4細胞における細胞のCD4受容体に束縛された。このサイトへの標的の化合物は、融合細胞の形成を阻害するであろう。このように、この方法を、それら化合物が、ウィルスと宿主細胞との間の結合及び融合に効果を有するか否かを検出するために、使用することができるであろう。例1におけるコンセントコリドAを、96個のウェルのマイクロタイタープレート、各々の勾配における3個の繰り返されたウェル、ウェル当たり100μlにおいて、五倍に希釈した。化合物が無い陰性対照のウェル及びT−20陽性対照のウェルを、セットした。そして、対数的な成長期間における50μlのC8166細胞(6×10個/ml)及び50μlのHIV−1に慢性的に感染したH9細胞(2×10個/ml)を、各々のウェルにおいて添加した。そのプレートを、24時間の間、37℃及び5%COでの加湿した培養器において培養し、且つ、融合細胞の形成を、コンセントコリドAがウィルス及び細胞の融合の過程を妨害するか否かを推理するために、顕微鏡下で観察した。それら結果は、図3及び4に示すようなものであった。
【0068】
例3
HIV−1に架線したC8166細胞におけるコンセントコリドAの細胞変成効果(CPE)の阻害の分析
対応する濃度の例1からのコンセントコリドAを含有する100μlの培養物の媒体へ添加したのは、C8166細胞(4×10個/ml)及び0.06の感染多重度(multiplicity of infection)(M.O.I)におけるHIV−1IIIBであった。最終的な体積は、200μlであった。AZTを、陽性の薬物の対照として使用した。それらプレートを、37℃及び5%COで加湿した培養器において温置した。3日の培養の後に、細胞変成効果を、倒立顕微鏡の下で各々のウェルにおける融合細胞の数を計数することによって、測定した。EC50(50%の有効濃度)は、50%の融合細胞の形成を阻害する化合物の濃度であった。細胞変成効果(CPE)阻害%=(1−融合細胞の数exp/融合細胞の数control)×100。それら結果は、図5及び6に示すようなものであった。
【0069】
結論
データは、コンセントコリドが、低い細胞毒性及び生体外でHIV−1に対する良好な活性を提示することを、実証した。選択された指標(selected index)(S.I.)は、222である。コンセントコリドの標的のサイトは、おそらく、HIVと細胞との間の結合及び融合である。そのため、HIVと細胞との間の結合及び融合を妨害する小さい分子化合物として、コンセントコリドAは、顕著な有意性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】C8166細胞におけるコンセントリコリドA又はIIの細胞毒性(CC50は、76.66μg/mlである。)
【図2】C8166細胞におけるAZTの細胞毒性(CC50は、258.88μg/mlである。)
【図3】HIV−1と細胞との間における結合及び融着におけるコンセントリコリドA又はIIの妨害(EC50は、0.83μg/mlである。)
【図4】HIV−1に感染した細胞の融着におけるT20の妨害(EC50は、6.02μg/mlである。)
【図5】HIV−1の細胞変成効果(CPE)におけるコンセントリコリドA又はIIの阻害(EC50は、0.31μg/mlである。)
【図6】HIV−1の細胞変成効果(CPE)におけるAZTの阻害(EC50は、0.092μg/mlである。)
【図7】本発明に従ったコンセントリコリドAの格子回折パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

の化合物及びそれの誘導体であって、
R1は、C−Cのアルキルを表し、
R2は、H、ハロゲン、−OH、NRR’、又は−NOを表し、
R及びR’は、H又はC−Cのアルキルを表し、
R3は、H、ハロゲン、−OH、NRR’、又は−NOを表し、
R及びR’は、H又はC−Cのアルキルを表し、
R4は、H、ハロゲン、又は−NOを表す、化合物。
【請求項2】
以下の式
【化2】

によって表された化合物から選択された、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(II)
【化3】

の化合物から選択された、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
式(II)
【化4】

の化合物を含む抽出物。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の化合物若しくはそれの誘導体、又は請求項4に記載の抽出物、及び、薬学的に許容可能な担体又は賦形剤を含む薬学的組成物。
【請求項6】
式(I)の化合物を調製する工程であって、
a)雲南(Yunnan)のダルジニアコンセントリカ(Daldinia concentrica)の子実体又は有機溶剤を備えたそれらの発酵した液体を抽出すること、
b)式(II)
【化5】

の化合物を与えるために、シリカゲルのカラムクロマトグラフィーによってa)からの抽出物を単離すること、
c)式(I)の化合物を与えるために、式(II)の化合物に臭素化、ニトロ化、又はアルキル化を受けさせること
を含む、工程。
【請求項7】
HIV感染と関連した健康状態又は疾患の予防/処置用の薬剤の調製用の請求項1乃至3のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項8】
HIV感染と関連した健康状態又は疾患の予防/処置用の薬剤の調製用の請求項4に記載の抽出物の使用。
【請求項9】
前記化合物は、
【化6】

から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
HIV感染と関連した健康状態又は疾患の予防/処置用の方法であって、
HIVに感染した患者へ請求項1乃至3のいずれか一項に記載の化合物及び請求項4に記載の抽出物を投与することを含む、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2007−509080(P2007−509080A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−535929(P2006−535929)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【国際出願番号】PCT/CN2004/001188
【国際公開番号】WO2005/037841
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(506138384)中国科学院昆明植物研究所 (1)
【出願人】(506138926)中国科学院▲どん▼物研究所 (1)
【Fターム(参考)】