説明

コンタクトレンズの保存方法

【構成】 コンタクトレンズをコンタクトレンズ保存液と共にコンタクトレンズ保存容器に入れ保存するにあたり、コンタクトレンズ保存液として2.5 〜10.0 ppmの濃度のオゾン水を用い、かつ、コンタクトレンズを前記コンタクトレンズ保存液と共にコンタクトレンズ保存容器に入れ密封することを特徴とするコンタクトレンズの保存方法。
【効果】 本発明の方法によれば、流通過程において、コンタクトレンズ自体やその容器を変質させたり、変形させたりするおそれなく、しかも雑菌等による汚染なく、清浄な状態で保存することができる。また、本発明の方法によれば、簡潔,確実に、しかも目や人体に対する危険性なく、安全にコンタクトレンズを保存することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はコンタクトレンズの保存方法に関し、詳しくはコンタクトレンズメーカーから小売店で販売されるまでの間において、雑菌等による汚染がなく、かつ、安全に、しかも変形や変色なくコンタクトレンズを保存する方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来より、コンタクトレンズの製造過程においては、製造されるコンタクトレンズが清潔に保たれるような種々の対策を施している。さらに、コンタクトレンズの製造後、小売店で販売されるまでの間(流通過程)において、コンタクトレンズを清潔に保つために、コンタクトレンズをコンタクトレンズ保存液と共に保存容器に入れて保存している。このようにコンタクトレンズの保存には種々の対策を施しているにもかかわらず、ときとして雑菌(微生物)が混入し、繁殖する。このように雑菌が繁殖すると、保存液が濁ってレンズが汚染され、不潔となるばかりか、透明度が低下してしまうという問題がある。
【0003】そこでコンタクトレンズの製造過程は勿論のこと、製造後においても小売店で販売されるまでの間において、コンタクトレンズを清潔に保つために、保存液として、蒸留水やイオン交換水を用いる方法が提案されている。しかしながら、保存液として蒸留水やイオン交換水を用いた場合には、一旦繁殖した雑菌の増殖を抑えることはできない。また、コンタクトレンズ自体について、熱による殺菌を行なったり、或いは薬剤を用いて殺菌する方法が採用されている。しかしながら、例えば、熱による殺菌は、レンズ素材であるプラスチックを変形させる上に、殺菌力が充分に保持できず、雑菌がしばしば繁殖するという問題がある。次に、薬剤を用いて殺菌する方法は、殺菌力には優れているものものの、目に対する安全性に疑問がある上に、コンタクトレンズ自体やその容器を変質させたり、変形させたりする等の問題が生じている。さらに、これらの方法では、コンタクトレンズ,コンタクトレンズ保存容器及び保存液を一度に洗浄し、清潔な状態で保存することはできないため、これら全てについて雑菌が繁殖した場合には、処理に手間がかかるという問題がある。
【0004】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者らはこのような問題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、コンタクトレンズ保存液として特定の濃度のオゾン水を用い、これをコンタクトレンズ保存容器に注入し、コンタクトレンズと接触させ、密封し、静置することにより、簡潔,確実に、しかも目に安全なばかりか、コンタクトレンズ自体やその容器を変質させたり、変形させたりするおそれなく、清浄な状態で保存することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに到った。
【0005】すなわち本発明は、コンタクトレンズをコンタクトレンズ保存液と共にコンタクトレンズ保存容器に入れ保存するにあたり、コンタクトレンズ保存液として2.5 〜10.0 ppmの濃度のオゾン水を用い、かつ、コンタクトレンズを前記コンタクトレンズ保存液と共にコンタクトレンズ保存容器に入れ密封することを特徴とするコンタクトレンズの保存方法を提供するものである。
【0006】コンタクトレンズは、高い透明性や機械的強度の他に、耐薬品性, 可撓性, 保水性, 酸素透過性等種々の性質が要求される高機能商品である。コンタクトレンズの素材としては、通常、シロキサニルメタアクリレート,メチルメタアクリレート等の材質のものが用いられるが、上記のような高度の性質を要求されるために、次々と新しい素材が開発されている。本発明の方法は、このような多様な材質からなり、しかも高価な高機能商品であるコンタクトレンズを、レンズメーカーから出荷された後、小売店での販売迄の間に、簡潔,確実に、しかも目に対する危険性がなく、かつ、コンタクトレンズ自体やその容器を変質させたり、変形させたりするおそれなく、清浄な状態で保存するのに有効な方法である。
【0007】通常、コンタクトレンズは、製造後、販売されるまでの間、コンタクトレンズ保存液と共に、コンタクトレンズ保存容器に入れられて保存されている。本発明は上記したように、このコンタクトレンズ保存液として、特定の濃度のオゾン水を用いることを特徴とするものである。このコンタクトレンズ保存容器は、通常、プラスチックで作られており、本体部は例えばポリメチルペンテン,ポリカーボネート等で作られており、またレンズホルダー部分は、例えばポリエステルエラストマー,ポリエチレン等の材料で作られており、さらにキャップ部分はポリメチルペンテン,ポリプロピレン等の材料で作られている。本発明の方法は、これらコンタクトレンズ及びコンタクトレンズ保存容器を形成する、いずれの材料にも適したものであって、これらに大きな変形や変色を及ぼすことはない。
【0008】コンタクトレンズの保存液としては、通常、水道水,イオン交換水,蒸留水等が用いられているが、雑菌等が混入して繁殖するために、前記したような種々の問題が生ずる。本発明の方法では、これら保存液として特定の濃度のオゾン水を用いることを特徴とするものであり、具体的には例えば、保存液自体として特定の濃度のオゾン水を用いるだけでなく、予め作製してある保存液(上記の如く水道水,イオン交換水,蒸留水等からなるもの)に、オゾンガスを直接吹き込むか、或いは濃度の高いオゾン水を添加するなどの方法により、保存液のオゾン濃度を調整してもよい。通常は、水道水,イオン交換水,蒸留水等からなる用水に、オゾンガスを吹き込み、所定濃度のオゾン水を調製する。
【0009】本発明の方法では、オゾン濃度が2.5 〜10.0 ppm、好ましくは4〜8 ppmであるオゾン水を用いる。殺菌に最適なオゾン濃度は、後記するように雑菌の種類や、保存期間或いはコンタクトレンズ自体の材質や保存容器の材質等により異なるが、一般的には保存液のオゾン濃度が2.5 ppm 未満であると、殺菌力が充分でない。一方、10.0 ppmを超えても殺菌力は変わらない。なお、オゾンガスは、酸化作用,殺菌作用を有しており、作用した後は自己分解して、長期には残存しないことが知られており、安全性は高い。
【0010】オゾンを発生させるには、薬品の反応, 分解等の方法もあるが、電気放電,電気分解等の方法を用いるのが好ましい。コンタクトレンズ保存液を納めた容器に、オゾンガスを注入して使用目的濃度のオゾン水を作り、このオゾン水を保存液に注入して密封すればよい。
【0011】本発明の方法では、上記のような特定の濃度のオゾン水からなるコンタクトレンズ液を、コンタクトレンズ保存容器に注入し、コンタクトレンズを入れた後、密封すればよい。密封後は、通常、20〜90分間静置しておけば、完全に殺菌ができる。さらに、この保存液の温度は特に限定はなく、常温でよい。温度を高くするとオゾンの分解が早くなり、コンタクトレンズや容器に変形や着色が生じることがあるので、むしろ好ましくない。
【0012】
【実施例】次に、本発明を実施例により詳しく説明する。
実施例(1)オゾン耐性試験オゾンがコンタクトレンズ及びその保存容器に与える影響について、下記の如くして調査した。高酸素透過性コンタクトレンズとして、シロキサニルメタアクリレートからなるものを用いた。また、コンタクトレンズ保存容器として、本体部がポリプロピレン、キャップ部がポリメチルペンテン、レンズホルダーがハイトレル製からなるものを用いた。試験に先立ち、コンタクトレンズの内面R及び直径を測定した。次に、コンタクトレンズをコンタクトレンズ保存容器に保存し、オゾンを含まない水道水だけの保存液を用いた場合をコントロールとし、オゾン濃度2.5 ppmと8.0 ppm の保存液を用いて、種々の期間について形状の変化と色の変化を調査した。すなわち、所定期間経過後、コンタクトレンズの内面R及び直径,レンズの色の変化,オゾン臭をコントロールと比較した。コントロールとの差を第1表に示す。なお、レンズの内面曲率半径は、光学式曲率測定装置により、レンズの直径は、20倍の投影機により、レンズ度数は、レンズメーターにより、レンズ中心厚みは、接触式厚み計により、それぞれ測定した。
【0013】
【表1】


【0014】なお、充填後3ケ月経過後であっても、特別な臭い(異臭)もなく、保存容器についても3ケ月後も変化は特になかった。また、上記第1表の結果からは、レンズの形状や色に変化がないことが判る。これらのことから、オゾン水がコンタクトレンズの保存液として適したものであることが判る。
【0015】(2)殺菌試験I以下の如くして、オゾンによる殺菌力を調査した。芽胞菌の中からクラドスポリウム(Cladosporium)と、細菌類の中からノカルジア(Nocardia)とをそれぞれ選び、クラドスポリウム(Cladosporium)はサブロー寒天培地で、ノカルジア(Nocardia)はトリプトソイ寒天培地で各々培養増殖させた。次に、この種菌を用い、各々について所定の菌濃度に調整し、3.8ml容のコンタクトレンズを付けた保存容器に所定量接種した。次いで、所定のオゾン濃度となるようにオゾン水を調製し、容器に注入した後、密封した。その後、室温で約1時間混合処理した後、容器全量を試験液として、28℃の温度で4日間培養を行なった。結果を第2表及び第3表に示す。なお、対照はオゾン水を含まない水道水のみの場合である。
【0016】
【表2】


【0017】
【表3】


【0018】第2表及び第3表によれば、ノカルジア(Nocardia)は、オゾン濃度2.8 ppmで完全な殺菌が可能であることが判る。
【0019】(3)殺菌試験IIまた、クラドスポリウム( Cladosporium )菌について、オゾン濃度を変えて殺菌効果を試験した。結果を第4表に示す。
【0020】
【表4】


【0021】第4表によれば、オゾン濃度4.0 〜8.0 ppm の範囲で極めて殺菌効果が高いことが判る。
【0022】
【発明の効果】本発明の方法によれば、流通過程において、コンタクトレンズ自体やその容器を変質させたり、変形させたりするおそれなく、しかも雑菌等による汚染なく、清浄な状態で保存することができる。また、本発明の方法によれば、簡潔,確実に、しかも目や人体に対する危険性なく、安全にコンタクトレンズを保存することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 コンタクトレンズをコンタクトレンズ保存液と共にコンタクトレンズ保存容器に入れ保存するにあたり、コンタクトレンズ保存液として2.5〜10.0 ppmの濃度のオゾン水を用い、かつ、コンタクトレンズを前記コンタクトレンズ保存液と共にコンタクトレンズ保存容器に入れ密封することを特徴とするコンタクトレンズの保存方法。