説明

コンタクトレンズの組み合わせシリーズ

【課題】良好な装用感を満足せしめつつ、実際に装用した状態下における視覚の鮮明性や安定性といった見え方の質を向上せしめ得る、新規な構造のコンタクトレンズを効率的に市場に提供すること。
【解決手段】光学部18の内面をコーニック係数が−0.04〜−0.49の円錐面とすると共に、該光学部18の外面をコーニック係数が−0.02〜−0.50である円錐面としたコンタクトレンズを、眼の光軸に対する光学部の光軸のずれ角度を複数異ならせて各ずれ角度毎に互いに異なる屈折力を有する複数のコンタクトレンズを取り揃えることにより、コンタクトレンズの組み合わせシリーズとし、且つ、各コンタクトレンズにおいてそれぞれのずれ角度だけ光学部の幾何中間から外れた位置における光学特性の評価が最良となるように設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズに係り、特に装用時に角膜上で眼の光軸に対してコンタクトレンズ光学部の光軸がずれた状態での見え方の大きな変化を抑えて、見え方の安定性を向上せしめることの出来る、新規な構造のコンタクトレンズとその関連技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ソフトタイプのコンタクトレンズやハードタイプのコンタクトレンズ(以下、「コンタクトレンズ」と総称する)は、特許文献1(特許第2859092号公報)や特許文献2(特許第2913191号公報)に記載されているように、カメラ等の光学機器用レンズ等と同様にレンズ単体だけを考慮して設計されており、空間上で目的とする屈折力が発揮されるように、光線追跡法を利用してレンズ面形状を設計するのが一般的であった。ところが、近年では、コンタクトレンズは眼球の角膜上に重ね合わせて装用されるものであり、眼球自体の光学系や、装用状態下でコンタクトレンズと角膜の間に形成される涙液層によるレンズ作用(涙液レンズ作用)等も無視することができないことから、コンタクトレンズ単体での光学的設計には限界が指摘されるようになってきており、この点に関する一つの対処法として、特許文献3(特許第3022640号公報)には、人体の眼と予備的なレンズからなるシステムの数学的モデルを製作し、かかる数学モデルを利用することによって眼球光学系を考慮した上で、収差を最小限に抑えることで光学特性を向上せしめたレンズ面形状の設計方法が提案されている。
【0003】
しかしながら、眼球光学系を考慮すると否とに拘わらず、前述の特許文献1や特許文献2,特許文献3に記載された従来のコンタクトレンズの設計方法にあっては、何れも、コンタクトレンズの光軸上での光学特性を最良とすることを目的とする設計方法に過ぎないのであり、本発明者による研究や多数の臨床的実験とそれらに基づく検討の結果、コンタクトレンズの光軸上での光学特性を重視するというレンズ設計の前提条件自体に大きな問題が存在し、そのような従来のコンタクトレンズの設計方法で最良と判断されるコンタクトレンズであっても、現実的には装用者の視覚を最適とするものではないことが、本発明者によって明らかとなった。
【0004】
すなわち、コンタクトレンズの光軸(コンタクトレンズの光学部の光学中心軸であって、以下「レンズ光軸」という。)での光学特性を最良とすることが、必ずしもコンタクトレンズの装用状態下での視覚を最適にするものでないと考えられる主な理由は、以下の(1)〜(3)に述べる通りである。
(1)第一に、コンタクトレンズは、その装用状態下において、平均的に、重力や涙液との引圧,角膜表面曲率の不均一さなどが影響して、角膜の耳側下方に安定する場合が多く、コンタクトレンズの幾何学的中心軸に設定されたレンズ光軸が瞳孔を通る光軸(瞳孔中心線)からずれた状態で使用されるものであること。
(2)第二に、コンタクトレンズは、涙液交換等の目的で、瞬目などに際して角膜上で適度に動くようにされており、そのような頻繁な動きに際して、レンズ光軸が瞳孔中心線に一致した状態で保持されることがないこと。
(3)第三に、人間の視覚は、瞳孔中心線上のポイント的な固視位置での視力だけでなく、瞳孔中心線から外れた周辺位置での視力(周辺視力)も大きく影響しており、例えば瞳孔中心線上での無収差結像を目指す角膜矯正手術を施した場合に、瞳孔中心線上での無収差を果たすために逆に大きくなった瞳孔中心線外での収差によって視覚不良や頭痛等の弊害発生のおそれが指摘されていること。
【0005】
また一方、近年では、コンタクトレンズの内面形状を角膜の形状に対応させると共に、適度な涙液交換性を与えることによってコンタクトレンズの装用感を一層向上させるために、コンタクトレンズの内面を非球面形状とすることが検討されている。ところが、このような内面を非球面形状としたコンタクトレンズについて本発明者が検討したところ、前述の如くレンズ光軸での光学特性を最良とする従来のレンズ設計方法に従ってレンズ外面を設計すると、レンズ光軸を外れた視野での収差がより一層大きくなり易いという問題があり、そのために、前述の如く、一般に瞳孔中心線がレンズ光軸からずれた状態で安定するコンタクトレンズにおいては、従来のレンズ設計方法に従って最適設計とされたものが、実際の装用に際してより大きな視覚不良等の問題を発生し易いことが明らかとなったのである。
【0006】
【特許文献1】特許第2859092号公報
【特許文献2】特許第2913191号公報
【特許文献3】特許第3022640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、レンズ内面形状を角膜形状を考慮した非球面形状とすることにより優れた装用感が発揮されると共に、瞳孔中心線がレンズ光軸から外れた状態下でも優れた光学特性が発揮されて良好な視覚が安定して確保され得る新規な構造のコンタクトレンズを、それを必要とする需要者に対して適切に供給することが出来る得るように組み合わせてシリーズ化したコンタクトレンズの組み合わせシリーズを提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載され、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0009】
すなわち、本発明は、互いに異なる屈折力を有する複数のコンタクトレンズを取り揃えたコンタクトレンズの組み合わせシリーズであって、光学部の内面を何れもコーニック係数が−0.04〜−0.49である円錐面とすると共に、装用状態下での安定位置における眼の光軸に対する該光学部の光軸のずれ角度を複数異ならせて設定して、それら各ずれ角度毎に互いに異なる屈折力を有する複数のコンタクトレンズを取り揃えることにより、各ずれ角度毎に複数種類の屈折力が設定されたコンタクトレンズとしてシリーズ化せしめ、それら各コンタクトレンズにおける該光学部の外面を、コーニック係数が−0.02〜−0.50の円錐面とすると共に、該ずれ角度だけ光学部の幾何中心から外れた位置において波面収差,PSF,MTF,解像力の何れかによる眼球光学系を考慮した光学特性の評価が最良となるように、設定された該ずれ角度に応じて互いに異なる外面の形状を与えて目的とする各屈折力を付与せしめて取り揃えたコンタクトレンズを、シリーズとして組み合わせたコンタクトレンズの組み合わせシリーズを、特徴とする。
【0010】
このような本発明に係る組み合わせシリーズを構成する各コンタクトレンズにおいては、光学部の内面を特定の非球面としたことにより、角膜への局部的な圧迫等が軽減乃至は回避され得ると共に、角膜上での適度な動きが許容されて涙液交換による角膜への酸素供給等も有利に実現可能となって優れた装用感が実現され得るのであり、しかも、光学部の外面を特定の非球面としたことにより、瞳孔中心線がレンズ光軸からずれた位置にある場合や、瞳孔中心線がレンズ光軸に対して相対変化した場合でも、良好で且つ安定した視覚が容易に実現され得るのである。
【0011】
すなわち、本発明に係る組み合わせシリーズを構成する各コンタクトレンズにあっては、光学部においてコーニック係数が−0.04〜−0.49の円錐面とされたレンズ内面とコーニック係数が−0.02〜−0.50の円錐面とされたレンズ外面を組み合わせて採用したことにより、良好なレンズ装用感と優れた視覚を両立して高度に達成することが可能となったのであり、特に、装用状態下で予測されるレンズ光軸と瞳孔中心線のずれ量と眼球光学系も考慮した上で、要求される光学特性が高度に達成されるようなレンズ形状が実現可能とされ得るのである。
【0012】
なお、本発明においては、光学部の屈折力を−15.0〜+15.0ディオプタの範囲とすることが、好適に採用され得る。その理由は、かかる屈折力範囲が現実的に要求される実用範囲であることに加えて、この範囲を外れると、特にレンズ度数が−15.0ディオプタよりもマイナス側に大きくなると、レンズ内面の曲率半径の影響が大きくなり過ぎて最良の光学特性が実現され難くなる場合があるからである。また、本発明において、光学部の内面を形成する円錐面のコーニック係数を−0.04〜−0.49の範囲としたのは、この範囲を外れると、一般的な人間の眼の角膜形状への対応性が低下し、中央部分や外周縁部での角膜への局部的な圧迫が発生したり、涙液交換が十分でなくなったりするおそれがあるからであり、より好適には、かかるレンズ内面を形成する円錐面のコーニック係数が−0.09〜−0.36の範囲とされる。更にまた、光学部の外面を形成する円錐面のコーニック係数を−0.02〜−0.50の範囲としたのは、この範囲を外れると、装用状態下で、且つ上述の如き特定の内面形状との組み合わせにおいて、見え方の安定性や鮮明性等に関する最良の光学特性を得ることが困難となるからである。
【0013】
また、本発明に係る組み合わせシリーズを構成する各コンタクトレンズにおいて、好適には、光学部の内面を形成する円錐面のコーニック係数が−0.09〜−0.36とされることとなり、それによって、一般的な人間の眼の角膜表面に対してより高度に対応せしめられて、角膜に対する局部的な圧迫の回避と適度な涙液交換性の両立が一層有利に達成可能となる。
【0014】
更にまた、本発明に係る組み合わせシリーズを構成する各コンタクトレンズにおいて、好適には、光学部の外面を形成する円錐面のコーニック係数が、光学部の内面を形成する円錐面のコーニック係数の0.4〜1.6倍となるように設定されることとなり、それによって、一般的な人間の眼において発生が予測されるコンタクトレンズの装用状態下でのずれ量の範囲内で、良好な装用感と併せて、要求される光学特性が高度に実現可能となる。なお、一般的な人間の眼の基準としては、例えば従来から公知のグルストランド(Gullstrand)等の模型眼が採用され得ることとなり、そこにおいて選択されるコンタクトレンズの適当な内面は、頂点の曲率半径が6.0〜9.0mmの円錐面とされると共に、装用状態下においてコンタクトレンズの光軸と瞳孔中心線が5〜10度の交差角度だけずれた状態でコンタクトレンズの安定位置が予測されることとなる。
【0015】
なお、本発明に係る組み合わせシリーズを構成する各コンタクトレンズにおいて達成される要求される光学特性は、測定乃至は算出した範囲内で最適の光学特性とされる。そこにおいて、光学特性の評価のためには、コンタクトレンズの形状や屈折率の他,装用者の眼光学系の形状や構造,屈折率等も考慮して、波面収差やPSF,MTF,解像力などとして算出された値を用いて数値的な解析によって判断される。また、本発明における「眼の光軸」は、視軸や光軸,瞳孔中心線,注視線,照準線など、眼球光学系で基準となり得る各種の所謂「眼の軸」を含む。即ち、視線とも呼ばれる視軸が、固視点を特定するが、視軸の他覚的な測定は一般に不可能であること等から、その他の軸、例えば他覚的測定が容易な瞳孔中心線等を本発明における「眼の光軸」として採用することも出来る。
【0016】
また、本発明に係る組み合わせシリーズを構成する各コンタクトレンズにあっては、光学部における屈折力が−15.0〜+15.0ディオプタであるコンタクトレンズにおいて、前記光学部の内面をコーニック係数が−0.04〜−0.49である円錐面とすると共に、眼の光軸に対して該光学部の光軸が5〜10度ずれた装用状態下での安定位置において眼球光学系を考慮した上で要求される光学特性を与えるように、該光学部の外面をコーニック係数が−0.04〜−0.20である円錐面とされることが有効である。
【0017】
このようなコンタクトレンズにおいては、一般的な人間の眼において発生が予測されるコンタクトレンズの装用状態下でのずれ量の範囲内で、適度に絞られたコーニック係数の調節範囲が特定されることとなり、それによって、良好な装用感と併せて、最良の光学特性を備えたコンタクトレンズが、一層容易且つ有利に実現可能となる。
【0018】
また、本発明に係る組み合わせシリーズを構成する各コンタクトレンズは、光学部における屈折力が−15.0〜+15.0ディオプタであるコンタクトレンズであって、前記光学部の内面および外面が、何れも、レンズの曲率半径の逆数をCとし、レンズの原点からの光軸方向の距離をYとし、レンズの原点から半径方向の距離をXとし、コーニック係数をKとして、円錐面を表す下式:
Y=(C・X2 )/(1+√(1−(1+K)・C2 ・X2 ))
で少なくとも近似的に表すことの出来る曲面とされると共に、該光学部の外面を少なくとも近似的に表す上式中のコーニック係数:Kの値が、該光学部の内面を少なくとも近似的に表す上式中のコーニック係数:Kの値の0.4〜1.6倍とされることが、望ましい。
【0019】
このようなコンタクトレンズにおいては、良好な装用感と併せて要求される光学特性が容易且つ有利に実現され得るのである。なお、かかるコンタクトレンズにおいては、特に、光学部の内面を少なくとも近似的に表す上式中のコーニック係数:Kの値が−0.04〜−0.49の範囲内で設定されることとなり、それにより、一般的な人間の眼の角膜形状に対応して良好な装用感が有利に実現可能となる。
【0020】
さらに、本発明に係る組み合わせシリーズを構成する各コンタクトレンズにおいては、一般的な人間である特定の装用者の眼に装用された状態下で、良好な装用感を与え得るのであり、しかも、装用状態における角膜上でずれた安定状態での光学特性が最良とされることから、レンズ光軸と瞳孔中心線がずれた安定位置や、瞬目等によるレンズ光軸と瞳孔中心線のずれ量の変化時にも良好で且つ安定した視覚が提供されると共に、レンズ光軸を外れた視野での収差が抑えられて瞳孔中心線を含む広い視覚の範囲全体として、本来的な人間の視覚に近い自然で良好な視覚が実現され得るのである。
【0021】
特に、このような本発明に従って構成されたコンタクトレンズの組み合わせシリーズにおいては、需要が予測される適当な度数区分(例えば、0.25ディオプタ毎や、0.5ディオプタ毎)の数だけのコンタクトレンズを組み合わせて提供するに際して、装用状態下で予測されるレンズ光軸と瞳孔中心線のずれ量(ずれ角度)を複数の異なる値に設定し、それら各ずれ量毎に、最適な光学特性を与えるようにコンタクトレンズの外面の形状を異ならせることによって、複数組みのシリーズとして提供されることとなる。従って、このようなコンタクトレンズの組み合わせシリーズにおいては、例えば、具体的な特定の装用者にコンタクトレンズを個別に適用するに際して、かかる装用者における装用状態下でのレンズの安定位置(レンズ光軸と瞳孔中心線のずれ角度)を求め、かかる値に基づいて採用されるコンタクトレンズのシリーズを決定すると共に、決定したシリーズの中から装用者に必要なレンズ度数のものを選択することによって、当該装用者に対して最適な視覚を与え得るコンタクトレンズを選定して提供することが出来るのである。
【0022】
また、このような本発明に係るコンタクトレンズの組み合わせシリーズにおいて、より好適には、前記複数の設定したずれ角度に応じて互いに異なる外面の形状を与えることにより目的とする屈折力を付与せしめて取り揃えたコンタクトレンズを、更に前記光学部の内面形状を複数異ならせて設定し、それら複数の設定した各内面形状毎に取り揃えるようにされる。
【0023】
すなわち、最適な視覚を提供し得るコンタクトレンズの外面の形状は、コンタクトレンズの安定位置におけるレンズ光軸と瞳孔中心線のずれ量だけでなく、装用者の角膜の形状に基づいて決定されるレンズ内面の形状(光学部のレンズ頂点の曲率半径)によっても異なることから、レンズ内面の形状を予測される範囲で複数段階に設定して、それら各段階毎に、前述の如きコンタクトレンズの組み合わせシリーズを取り揃えることによって、装用者毎に異なるより他種類の条件に対してより高度に且つ容易に対応して最適な視覚を与え得るコンタクトレンズを提供することが可能となるのである。
【発明の効果】
【0024】
上述の説明から明らかなように、本発明に係るコンタクトレンズの組み合わせシリーズにおいては、それを構成する各コンタクトレンズが、特定のレンズ度数の設定範囲内で、それぞれ特定の円錐面形状を有する光学部のレンズ内面およびレンズ外面を採用したのであり、それによって、装用状態下での重量の作用や瞬目等の外力の作用に伴ってコンタクトレンズが角膜上で瞳孔中心線に対してずれて位置したり変位した場合でも、十分に鮮明な視覚を安定して提供することが可能となるのである。
【0025】
そして、本発明に従ってコンタクトレンズの組み合わせシリーズとして提供されることにより、上述の如き優れた視覚等を実現せしめ得るコンタクトレンズを、多くの患者に対して個別に且つ速やかに対応して、容易に効率的に提供することが可能となるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0027】
図1〜2には、本発明にかかる組み合わせシリーズを構成するコンタクトレンズの一例が、概略的に示されている。このコンタクトレンズ10は、全体として略球状の凹面形状を有するレンズ内面12と、全体として略球状の凸面形状を有するレンズ外面14をもって形成されており、全体として略球殻形状とされている。また、コンタクトレンズ10の中央部分は、正面視で円形の光学部18とされており、この光学部18により装用者に対して所定の視力矯正効果が発揮されるようになっている。更にまた、光学部18の周囲に位置するコンタクトレンズ10の外周部分は、正面視で円環帯形状の周辺部20とされており、この周辺部20により装用者の角膜上の所定位置にコンタクトレンズ10が安定保持されるようになっている。なお、周辺部20の外周縁部はレンズ内外面をつなぐエッジ部21とされている。また、特に本実施形態では、レンズ10の光学部18と周辺部20を含む全体が、光学的および幾何学的に、レンズ10の幾何中心軸としてのレンズ中心軸16を回転中心軸とする回転体形状とされている。
【0028】
そして、かかるコンタクトレンズ10においては、光学部18のレンズ内面(以下、「レンズ内面光学部」という)12aとレンズ外面(以下、「レンズ外面光学部」という)14aが、何れも、レンズ中心軸16を中心軸とする円錐面によって形成されている。そして、レンズ内面光学部12aは、その円錐面を特定するコーニック係数:Kaの値が、良好な装用感を実現し得るように設定されているのであり、また、レンズ外面光学部14aは、その円錐面を特定するコーニック係数:Kbの値が、装用条件下で最良の光学特性によって良好な視覚を提供し得るように設定されている。なお、「コーニック係数」は、非球面である円錐面を表現する公知の数式中の係数であって、かかるコーニック係数を特定すれば、基準球面となる頂点(レンズ光軸のレンズ面の交点)における曲率半径を決定することによって円錐面形状が、レンズの幾何中心軸であるレンズ光軸を対象軸とする回転曲面として一義的に特定され得ることとなる。以下に、これらレンズ内外面12a,14aの形状を特定するコーニック係数:Ka,Kbの設定に関する本発明の構成について、より具体的に説明する。
【0029】
先ず、レンズ内面光学部12aにおける円錐面形状は、基本的に装用者の角膜の表面形状に対応して設定されることとなる。即ち、装用者の角膜の表面形状が特定されれば、例えばWO94/10599号国際公開公報に記載の方法等に従って、良好な装用感を提供し得る円錐面のコーニック係数:Kaの値と頂点曲率半径:raの値を求めることが出来るのである。なお、良好な装用感とは、コンタクトレンズ10の装用状態下で角膜の中心や周縁部等に局部的な圧迫力を及ぼすことが回避されると共に、角膜上での適度の移動性が提供されて瞬目等に際して角膜上で適度に変位することにより適当な涙液交換等が実現され得るような形状をいい、
【0030】
具体的には、本発明において、コンタクトレンズ10のレンズ内面光学部12aに採用される円錐面のコーニック係数:Kaは、一般的な人間の眼を対象として考えると、−0.04≧Ka≧−0.49となるように設定することが望ましい。また、同様に一般的な人間の眼を対象として考えた場合には、かかるレンズ内面光学部12aの頂点の曲率半径raの値は、5.0mm≦ra≦10.0mmとなるように設定することが望ましい。ここにおいて、装用者の角膜の表面形状の特定は、例えば装用者の角膜の曲率半径を、従来から公知の手法を利用して測定した結果に基づいて行なうことが可能である。また、現実的には、上述の数値範囲内において適当な数値間隔で幾つかの数値を選択して、数種類のレンズ内面光学部12aを有するコンタクトレンズを作成しておき、その中から個別の装用者に最も適したものを選択することによって処方されることとなるが、そこにおいて、出来るだけ少ない種類で多くの人に適合可能なコンタクトレンズ10を提供するために、より好適には、レンズ内面光学部12aのコーニック係数:Kaが、−0.09≧Ka≧−0.36の範囲に設定されると共に、その頂点の曲率半径:raが、6.0mm≦ra≦9.0mmの範囲に設定される。特に、本発明者が多くのデータに基づいて検討した結果によれば、人間の眼においてより一層好適には、レンズ内面光学部12aのコーニック係数:Kaが、−0.10≧Ka≧−0.15の範囲に設定されることとなる。
【0031】
一方、レンズ外面光学部14aの形状は、レンズ内面光学部12aの形状も相対的に考慮して、装用者に対して最良の光学特性を与えるように設定される。ここにおいて、光学特性の評価方法は、装用者に応じて個別に要求されるレンズ度数だけでなく、装用者の眼球光学系も考慮して評価されることとなる。
【0032】
すなわち、かかる評価乃至は本実施形態のコンタクトレンズの設計に関する基本的な考え方が、従来の考え方と比較した態様で、図3に概略的に示されている。かかる図において、(a−1)には、特許第2859092号明細書や特許第2913191号明細書に記載されているように、レンズ単体で、しかも眼球光学系を考慮しないで空気中で評価した光学特性に基づいて設計する、従来の設計手法に従って得られたコンタクトレンズ32が示されている。このようなコンタクトレンズ32においては、図示されているように、空気中において光軸上で収差の無い光学特性が付与されることとなるが、(a−2)に示されているように、かかるコンタクトレンズ32を人間の眼22に装用せしめた状態では、眼22の角膜24や房水26,水晶体28,硝子体30等の光学特性の他、コンタクトレンズ32と角膜24の間に形成される涙液レンズの影響などによって、眼球光学系を考慮すると、眼球光軸乃至は瞳孔中心線上で収差が発生してしまい、現実的には最良の光学特性を与えるものでないことが、本発明者の研究や実験によっても明らかとされている。
【0033】
また、(b−1)には、特許第3022640号明細書に記載の方法に従い、眼球光学系を考慮して評価した光学特性に基づいて設計する、従来の設計手法に従って得られたコンタクトレンズ34が示されている。なお、具体的な設計方法については、上記特許明細書等に詳述されていることから、ここでは説明を省略する。即ち、かかるコンタクトレンズ34においては、図示されているように、装用状態下で瞳孔中心線上で収差の無い光学特性が付与されることとなるが、(b−2)に示されているように、現実的な装用状態下で及ぼされる重力の影響や瞬目による外力の影響などによってコンタクトレンズ34が角膜24上で変位して、瞳孔中心線がコンタクトレンズ34のレンズ光軸から外れた場合には、レンズ光軸上での収差を無くす設計がされていることが逆に災いして、瞳孔中心線上での収差が一層大きくなってしまい、そのために視覚不良の原因となってしまうことが、本発明者の研究や実験によって明らかとされている。
【0034】
これらの従来設計に従うコンタクトレンズ32,34に対して、本発明に従う構造の組み合わせシリーズを構成する本実施形態のコンタクトレンズ10においては、レンズ外面光学部14aにおいて特定の形状を採用したことによって、(c−1),(c−2)に示されているように、人間の眼22に装用せしめた状態下において、コンタクトレンズ32が角膜24上で変位した場合でも、光学特性が大きく変化してしまうことがなく、良好な視覚が安定して提供され得るのである。
【0035】
ここにおいて、そのような良好な視覚を安定して供給し得るレンズ外面光学部14aの形状は、かかるレンズ外面光学部14aを円錐面とし、且つそのコーニック係数Kbを、−0.02≧Kb≧−0.50の範囲内で設定して、コンタクトレンズ10が角膜上で瞳孔中心線に対して所定のずれ量をもって安定する位置で最良の光学特性を提供し得る形状を求めることによって、決定され得る。
【0036】
ところで、最良の光学特性を提供し得る形状か否かの判断は、光学特性の評価指標として、相互に関係を有する波面収差や、PSF(point Spread Function),MTF(Modulation Transfer Function) のうちの何れかの数値、或いは解像力の数値が採用される。なお、「波面収差」は、光学系を通過した波面の理想波面からのずれとして認識されるものであり、「PSF」は、物体空間にある点物体の光学系による像の像面における強度分布を表す関数であり、「MTF」は、正弦波パターンの像のコントラストの変化を空間周波数の関数として表したものであり、「解像力」は、レンズの性能を表す量の一つとして認識され、図票の像のうちで見分けられる黒白一対の最小幅(mm) の逆数にて示されるものであるが、これら各光学特性の評価指標は、何れも当業者に周知であり、その具体的な算出は、商業的に入手可能なソフトウェアを用いて容易に行なうことが出来ることから、ここでは利用可能なソフトウェアパッケージを例示することによって詳細な説明を省略する。即ち、かかる光学特性の評価指標としての各値は、例えば、シンクレア・オプティクス社(Sinclair Optics,Inc.) のオシロ・シックス(OSLO SIX) や、フォーカス・ソフトウェア社(Focus Software,Inc.)のゼマックス(ZEMAX)等を用いて計算することが可能である。
【0037】
また、光学特性を算出するに際しての前提となるコンタクトレンズ10の角膜24上でのずれ量は、目的とするコンタクトレンズのレンズ規格を決定するに際しては、例えば、前述のグルストランド眼球モデル等の公知の又は修正し或いは新規に求めた模型眼を用いて対応するコンタクトレンズの安定位置を求めることによって特定することが可能であり、また、個別的な患者に適用されるコンタクトレンズを設定するに際しては、例えば、かかる患者個人の角膜形状や眼瞼の状態、瞳孔位置等を測定した結果に基づいてコンタクトレンズの装用状態下での安定位置を予測したり、実際に適当なコンタクトレンズを患者個人に装用させて具体的な安定位置を測定したりすることによって特定することが可能である。なお、本発明者が多数の対象を測定したところによると、現実的には、コンタクトレンズ10の装用状態下でのずれ量は、瞳孔中心線に対するレンズ中心軸のずれ角度に関して5〜10度の範囲でレンズ規格を設定することが有効であり、それによって、少ない規格レンズ数で、多くの患者に適合するコンタクトレンズを取り揃えることが可能となる。
【0038】
そして、上述の如く、レンズ外面光学部14aにおいてコーニック係数Kbが−0.02≧Kb≧−0.50とされた円錐面を採用し、且つレンズ安定位置で最良の光学特性が発揮されるように光学特性を設定することによって得られたコンタクトレンズ10においては、コンタクトレンズ10の装用状態下における角膜24上でずれた安定位置や、角膜24上での変位に際して、光学部18のレンズ光軸に対して瞳孔中心線がずれたり変化した場合でも、十分に鮮明で且つ略一定の視覚が装用者に安定して提供され得るのであり、それによって、全体として収差が実用上で十分に抑えられた良好な視覚が実現可能となるのである。
【0039】
なお、このことから明らかなように、本発明における最良の光学特性とは、設定されたレンズ内面光学部12aの円錐面形状と、選択的に採用されるレンズ外面光学部14aの円錐面形状についての選択可能な組み合わせの範囲内で提供され得る範囲内で、最も良好な光学特性をいい、必ずしも実現可能な最高の光学特性を言うものでない。また、現実的には、上述の数値範囲内において適当な数値間隔で幾つかの数値を選択して、数種類のレンズ外面光学部14aを有するコンタクトレンズを作成しておき、その中から個別の装用者に最も適したものを選択することによって処方されることとなるが、そこにおいて、出来るだけ少ない種類で多くの人に適合可能なコンタクトレンズ10を提供するために、より好適には、装用状態下での安定位置におけるレンズ光軸と瞳孔中心線の交角(ずれ角度)を5度〜10度の範囲内で適当な間隔の複数段階に予め設定して、それら各段階において、最良の光学特性を与えるレンズ外面光学部14aのコーニック係数:Kbを、採用されるレンズ度数(屈折力)に応じて予め設定された複数段階の中から選択して、それらの値を満足するコンタクトレンズを提供することが望ましい。
【0040】
また、上述の如くして決定された本実施形態のコンタクトレンズ10の光学部18のレンズ内外面12,14は、一般に、レンズ外面光学部14aのコーニック係数:Kbが、レンズ内面光学部12aのコーニック係数:Kaの0.4〜1.6倍の値となるように設定される。
【0041】
更にまた、上述の如くして光学部18のレンズ内外面12,14の形状が決定されたコンタクトレンズ10は、最終的に、従来手法に従って、全体の外径寸法(DIA)やレンズ中心軸上の厚さ寸法(CT),光学部18のレンズ全体に対する領域比率などを、装用者の眼や眼瞼の形状や寸法、要求されるレンズ度数の他、採用されるコンタクトレンズの材質等を考慮して決定することによって、具体的なものとして装用者に提供されることとなる。そこにおいて、コンタクトレンズ10は、従来から公知のモールド法や削出法,スピンキャスト法などの製造方法によって、ソフトタイプ或いはハードタイプの各種材料からなるコンタクトレンズとして現実のものとされるが、そのようにして製造された製品であるコンタクトレンズ10は、必ずしも正確に設計値を満足しているとは限らず、ある程度近似した形状を有しているものであれば、目的とする光学特性を発揮し得るかぎり、良好な視覚を装用者に提供し得るものであることが理解されるべきである。
【0042】
具体的には、現実に提供されるコンタクトレンズ10の光学部18のレンズ内外面12,14は、円錐面を表す以下の(式1)によって少なくとも近似的に表すことの出来る、レンズ中心軸回りの回転面形状とされることとなる。
Y=(C・X2 )/(1+√(1−(1+K)・C2 ・X2 ))
・・・(式1)
但し、上記(式1)中、Cはレンズ内面光学部12a又はレンズ外面光学部14aの曲率半径の逆数であり、Yはレンズ光軸上の原点からの光軸方向の距離であり、Xはレンズ光軸上の原点から半径方向の距離であり、Kはレンズ内面光学部12aのコーニック係数(Ka)またはレンズ外面光学部14aのコーニック係数(Kb)である。
【0043】
さらに、上述の如き構造のコンタクトレンズ10は、予想される装用者に対して速やかに対応して適当なものを提供することが出来るように、予め組み合わせシリーズとして提供される。
【0044】
そこにおいて、レンズ内面光学部12aの形状が一定と仮定すると、レンズ外面光学部14aの形状は、装用状態下での安定位置における瞳孔中心線とレンズ光軸のずれ角度の値に応じて最良な光学特性を与えるコーニック係数:Kbの値が異なることから、予め需要が予想される複数段階に設定したずれ角度毎に最良の光学特性を与えるレンズ外面光学部14aの形状を設定したものを、予め需要が予想される複数段階に設定したレンズ度数(屈折力)の数だけ取り揃えてシリーズとして組み合わせたコンタクトレンズの組み合わせシリーズとして提供されることとなる。
【0045】
また、レンズ外面光学部14aの形状は、レンズ内面光学部12aの形状によっても、最良の光学特性を与えるコーニック係数:Kbの値が異なることから、予め需要が予想される複数段階に設定したレンズ内面光学部12aのコーニック係数:Ka毎に、上述の如きコンタクトレンズの組み合わせシリーズを、更にそれぞれ取り揃えて提供することが望ましい。
【0046】
次に、本発明者が実際に製作して検討した本発明に従う構造の組み合わせシリーズを構成するコンタクトレンズの実施例のデータを示すが、上述の実施形態の記載と以下の実施例の記載は、何れも、あくまで例示であって、本発明は上述の実施形態や以下の実施例の欄における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて、種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施可能であり、また、そのような実施形態が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【実施例】
【0047】
先ず、ガス透過性のポリメチルメタクリレート(PMMA)からなるハードタイプのコンタクトレンズについて、レンズ内面光学部12aを、コーニック係数:Kaの値が−0.1225の円錐面からなる球状凹面として、所定のレンズずれ量を生じた装用状態下で最良の光学特性を発揮するレンズ外面光学部14aのコーニック係数を、光学シミュレーションで求めた。なお、本実施例のシミュレーションは、レンズ内面光学部12aにおける頂点上での曲率半径:raの値を、ra=6.0mmおよびra=9.0mmとしたそれぞれの場合について実施した。また、装用状態下でのレンズずれ量としてのレンズ光軸と角膜中心線の交差角度:φの値についても、φ=0度,5度,10度の場合を想定して、それぞれについて最良の光学系を与えるレンズ外面光学部14aのコーニック係数:Kbの値を光学シミュレーションによって求めた。
【0048】
なお、かかる光学シミュレーションに際しては、眼光学系としてグルストランドの模型眼を用い、休調状態を想定して、その標準パラメータを採用した。また、計算処理は、Focus Software Inc, 製のZEMAX Ver.9.0を用いてマイクロコンピュータで実施した。
【0049】
また、比較のために、本実施例と同様なレンズ内面光学部12aを与えた条件下で、且つ本実施例と同様な模型眼への装用状態を想定した条件下において、装用状態下でのレンズ光軸と瞳孔中心線のずれを考慮せずに、レンズ光軸上で最良の光学特性を付与せしめるようにレンズ外面光学部14aのレンズ形状を設計した場合の該レンズ外面光学部14aのコーニック係数:Kbの値を、図4のグラフに、比較例1,2として併せ示す。更に、比較のために、大気中でレンズ単体を想定して、且つレンズ光軸上で最良の収差のない光学特性を付与せしめるように、同様なレンズ内面光学部12aを与えた条件下でレンズ外面光学部14aのレンズ形状を設計した場合の該レンズ外面光学部14aのコーニック係数:Kbの値を、図4のグラフに、比較例3,4として併せ示す。
【0050】
図4に示された実施例の結果からも、装用状態下で最適な光学特性を発揮し得るコンタクトレンズが、本発明の設計条件を満足する領域:Aと、より好ましい領域:Bにおいて、有利に提供され得ることから明らかである。また、特に比較例3,4との相違から、レンズ単体を想定したレンズ設計によっては、少なくとも装用状態下において矯正力(パワー)が必要とされるコンタクトレンズでは決して有効な光学特性が現実的に発揮され得ないことも、明らかである。
【0051】
さらに、上述の如くして得られたレンズ形状値に基づいて、実際に人間が装用した状態下での見え方の鮮明性とレンズ位置が角膜上で変化した場合の見え方の安定性を評価するために、屈折力を−10ディオプタとしたものについて、安定位置でのレンズ光軸に対する瞳孔中心線のずれ角度が10度の条件下で最良の光学特性を設定したコンタクトレンズについて、かかるコンタクトレンズが角膜上で変位することにより、レンズ光軸に対する瞳孔中心線のずれ角度が0度となった場合と10度となった場合のそれぞれについてPSFを求め、それらの結果を、図5(a),(b)に示す。これらの図示された結果からも、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズにおいては、レンズ光軸に対する瞳孔中心線のずれ角度が0度となった場合と10度となった場合の何れの状況下でも、見え方の質(鮮明性)を表すPSFの値が略同じで且つ十分に良好であることが認められる。
【0052】
一方、眼球光学系を考慮しないレンズ単体において、光軸上で良好な光学特性が得られるように設計された前記比較例3のコンタクトレンズであって、屈折力を上記実施例と同じ−10ディオプタとしたものについて、上記実施例と同じ条件で装用状態下での光学シミュレーションを行い、レンズ光軸に対する瞳孔中心線のずれ角度が0度となった場合と10度となった場合のそれぞれについてPSFを求め、それらの結果を、図6(a),(b)に示す。これらの図示された結果からも、レンズ光軸が瞳孔中心線から偏倚するとPSFの値が極端に低下することが明らかであり、このことからレンズの角膜上での偏倚によって見え方が極めて不安定に変化するであろうことが推定される。
【0053】
また、ここでは詳細説明を省略するが、このような本発明に従う構造の組み合わせシリーズを構成する、瞳孔中心線がレンズ光軸からずれた安定状態下で要求される光学特性を発揮し得るように設計したコンタクトレンズを実際に製造し、それを数十人の被検者に装用させた臨床実験結果においても、上述の実施例および比較例のシミュレーション結果を裏付ける結果データが得られている。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態としてのコンタクトレンズの組み合わせシリーズを構成するコンタクトレンズの全体概略構造を示す正面図である。
【図2】図1に示されたコンタクトレンズの縦断面図である。
【図3】本発明に従って組み合わせシリーズとして提供されるコンタクトレンズの設計に関する基本的な考え方を、従来の考え方と比較して説明するための説明図である。
【図4】本発明に従って組み合わせシリーズとして提供されるコンタクトレンズの実施例におけるレンズ外面の設計結果を、比較例と併せて示すグラフである。
【図5】本発明の具体的な一実施例として、本発明に係る組み合わせシリーズを構成するコンタクトレンズについての光学特性の評価値であるPSFの算出結果を示す説明図である。
【図6】比較例としてのコンタクトレンズについての光学特性の評価値であるPSFの算出結果を示す、図5に対応する説明図である。
【符号の説明】
【0055】
10 コンタクトレンズ
12a レンズ内面光学部
14a レンズ外面光学部
16 レンズ中心軸
18 光学部
22 眼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる屈折力を有する複数のコンタクトレンズを取り揃えたコンタクトレンズの組み合わせシリーズであって、
光学部の内面を何れもコーニック係数が−0.04〜−0.49である円錐面とすると共に、装用状態下での安定位置における眼の光軸に対する該光学部の光軸のずれ角度を複数異ならせて設定して、それら各ずれ角度毎に互いに異なる屈折力を有する複数のコンタクトレンズを取り揃えることにより、各ずれ角度毎に複数種類の屈折力が設定されたコンタクトレンズとしてシリーズ化せしめ、それら各コンタクトレンズにおける該光学部の外面を、コーニック係数が−0.02〜−0.50の円錐面とすると共に、該ずれ角度だけ光学部の幾何中心から外れた位置において波面収差,PSF,MTF,解像力の何れかによる眼球光学系を考慮した光学特性の評価が最良となるように、設定された該ずれ角度に応じて互いに異なる外面の形状を与えて目的とする各屈折力を付与せしめて取り揃えたコンタクトレンズを、シリーズとして組み合わせたことを特徴とするコンタクトレンズの組み合わせシリーズ。
【請求項2】
前記複数の設定した各ずれ角度に応じて互いに異なる外面の形状を与えることにより目的とする屈折力を付与せしめて取り揃えたコンタクトレンズを、更に前記光学部の内面形状を複数異ならせて設定し、それら複数の設定した各内面形状毎に取り揃えた請求項1に記載のコンタクトレンズの組み合わせシリーズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−301671(P2006−301671A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219231(P2006−219231)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【分割の表示】特願2002−13747(P2002−13747)の分割
【原出願日】平成14年1月23日(2002.1.23)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】