説明

コンタクトレンズ用抗菌剤

【課題】解決しようとする課題点は、細菌や真菌に対し十分な抗菌活性を有し、人体に対し安全で、かつ安価で提供することを可能とするコンタクトレンズ用抗菌剤を新規に見いだすことである。
【解決手段】(A)炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩を15〜45重量%、(B)炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルを20〜50重量%、(C)スルホコハク酸エステルを10〜30重量%、(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールを0〜10重量%、(E)水が0〜55重量%、を少なくとも含む溶液1重量部に対し、水性基剤を1〜500重量部の比率で混合してなるコンタクトレンズ用抗菌剤を創成するに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ用抗菌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズは眼粘膜に直接接触させて使用するものであるため、コンタクトレンズに付着した真菌や細菌による感染症の発症を常に防止する必要がある。また、涙液中やコンタクトレンズの取り外しの際に接触する指からタンパク質、脂質、無機質等の汚れがコンタクトレンズの表面に付着することで、それらの成分が角膜の炎症を引き起こす要因又は微生物の増殖を促進させる要因となることから、これらの汚れを除去する必要がある。そのため、従来からコンタクトレンズの消毒・保存のために、コンタクトレンズ用の抗菌剤又は洗浄剤が使用されてきており、例えば、タンパク質分解酵素、多価アルコール、アルカリ金属塩、及び界面活性剤を含むコンタクトレンズ用洗浄液(特許文献1)や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩と水を含むコンタクトレンズ用抗菌洗浄剤(特許文献2)や、高分子抗菌剤及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを含有するコンタクトレンズケア用組成物(特許文献3)等の優れた製品が開発され、消費者に提供されてきている。
【0003】
しかしながら、コンタクトレンズの品質並びに機能性が向上し、コンタクトレンズ装着人口も増加傾向にあることに従い、コンタクトレンズの消毒や洗浄不足、更には抗菌剤あるいは洗浄剤に使用されている成分等による眼のトラブルの発生件数も増加してきている。従来からあるコンタクトレンズ用抗菌剤又は洗浄剤も、正確な使用方法を遵守する限り、十分な抗菌活性や洗浄性を有するものではあるが、装着人口が増加傾向にある背景から、正確な使用方法から少々逸脱する場合や煩雑な使用方法をしたとしても、十分な抗菌活性や洗浄性が発揮でき、かつ人体に対して安全性が確保されている、より優れたコンタクトレンズ用抗菌剤あるいは洗浄剤の開発や、従来からある製品の改善が望まれている。また、コンタクトレンズ用抗菌剤又は洗浄剤は日常的に使用する製剤であることから、安価に入手可能であることが、消費者にとって重要な点である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、解決しようとする課題点は、細菌や真菌に対し十分な抗菌活性を有し、人体に対し安全で、かつ安価で提供することを可能とするコンタクトレンズ用抗菌剤を新規に見いだすことである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、(A)炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩を15〜45重量%、(B)炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルを20〜50重量%、(C)スルホコハク酸エステルを10〜30重量%、(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールを0〜10重量%、(E)水が0〜55重量%、を少なくとも含む溶液1重量部に対し、水性基剤を1〜500重量部の比率で混合してなる組成物が細菌や真菌、アメーバーに対して優れた抗菌活性を有することを見いだし、本発明であるコンタクトレンズ用抗菌剤を創成するに至った。
【0006】
本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤の構成成分に関しては、多価アルコール系抗菌物質としてグリセリン脂肪酸エステルが記載され、緑膿菌に対し殺菌効果を有することが示されているが(特許文献4)、真菌及びアメーバーに対する抗菌活性については開示されていない。また、炭素数6〜10の中鎖脂肪酸がペニシリウム属、アスペルギルス属、フザリウム属、セファロスポリウム属、サッカロミケス属、カンジダ属並びに他の不完全菌類及び半子嚢菌類(酵母)、大腸菌、サルモネラ種、シゲラ種のようなグラム陰性菌、並びに他のグラム陰性菌(バシルス属、スタフィロコッカス属、エンテロコッカス属、シュードモナス属、ラクトバシルス属)に対して抗菌活性を有することが示されているが(特許文献5)、アメーバーに対する抗菌活性については開示されていない。また、スルホコハク酸類の主たる用途として界面活性剤としての使用が示されている他(特許文献6)、動物用抗菌液剤に溶解補助剤としてジオクチルスルホコハク酸塩を使用することが示される他(特許文献7)、有機酸とスルホコハク酸アルキル類を含む抗菌組成物が開示されているが(特許文献8)、本発明の成分構成に関連する記載はない。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤は、細菌、真菌及びアカントアメーバーに対して優れた抗菌活性を有する。また、本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤は、全て医薬品や化粧品、食品並びに日常雑貨品等で従来から汎用されてきた成分で構成されるものであって、人体への安全性に関しては殊更優れるものである。更に、これらの成分は、非常に安価でかつ大量に入手が可能な化合物ばかりであり、日常的に使用するにあたって消費者の経済的負担が軽減されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−51015号公報
【特許文献2】特開2007−272082号公報
【特許文献3】特開2006−176616号公報
【特許文献4】特開2009−161518号公報
【特許文献5】特表2003−535894号公報
【特許文献6】特開平5−9496号公報
【特許文献7】特開平6−263642号公報
【特許文献8】特表2005−530857号公報
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤は、第一に、少なくとも(A)炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩を15〜45重量%、(B)炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルを20〜50重量%、(C)スルホコハク酸エステルを10〜30重量%、(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールを0〜10重量%、及び(E)水が0〜55重量%を含む溶液を必須とする。
【0010】
(A)の炭素数8〜22の脂肪酸は、置換基を有していてもよい炭素数8〜22の直鎖状又は分岐状の飽和あるいは不飽和脂肪酸であれば特に限定はされないが、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、エルカ酸、ベヘニン酸から選択される。脂肪酸の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩から選択される。特に、融点が低い脂肪酸が性状の安定性や製造の簡便性から好ましく、カプリル酸、カプリン酸、パルミトレイン酸及びオレイン酸とそれらの塩から選択される。
当該溶液中における脂肪酸の含有量は、15〜45重量%の範囲であれば任意に設定することができる。
【0011】
(B)の炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルは、特に限定はされないが、具体的にはモノカプリル酸グリセリル、トリカプリル酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル、モノカプリン酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、ジラウリン酸グリセリル、モノミリスチン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、パルミチン酸グリセリル、ジパルミチン酸グリセリル、トリパルミチン酸グリセリル、モノイソパルミチン酸グリセリル、トリイソパルミチン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸グリセリル、トリステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、モノオキシステアリン酸グリセリル、トリオキシステアリン酸グリセリル、モノヒドロキシステアリン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、トリオレイン酸グリセリル、モノリノール酸グリセリル、トリリノール酸グリセリル、トリリノレン酸グリセリルから選択される。特に、水に対する溶解性並びに固有の限界ミセル濃度の点から、モノカプリル酸グリセリル、ジカプリル酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル及びモノオレイン酸グリセリルから選択される。
当該溶液中におけるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルの含有量は、20〜50重量%の範囲であれば任意に設定することができる。
【0012】
(C)のスルホコハク酸エステルは、特に限定はされないが、具体的にはスルホコハク酸ジエチルヘキシル、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ウンデシレノイルアミドエチルスルホコハク酸二ナトリウム、オレイン酸アミドエトキシエタノールスルホコハク酸エステル二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸β−シトステリル二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレングリコールジメチコンスルホコハク酸二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸イソプロパノールアミドスルホコハク酸二ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、スルホコハク酸ポリオキシエチレンラウロイルエタノールアミド二ナトリウム、スルホコハク酸ヤシ油アルキルグルコシド、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムから選択される。特に、水に対する溶解性並びに製造におけるコストの面から、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム及びスルホコハク酸ジエチルヘキシル又はその塩から選択される。
当該溶液中におけるスルホコハク酸エステルの含有量は、10〜30重量%の範囲であれば任意に設定することができる。
【0013】
本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤で用いられる少なくとも(A)〜(E)を含む溶液には、脂肪酸の酸化を防止するために、更に酸化防止剤を添加することができる。酸化防止剤は医薬品、医薬部外品、化粧品及び食品に通常添加されている成分であれば特に限定はされないが、具体的には、アスコルビン酸類、トコフェロール類、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。溶液への配合量としては、0.001〜5重量%の範囲であれば十分である。
【0014】
本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤で用いられる(A)〜(E)を含む溶液の製造方法としては、公知な処方製剤の製造方法より得られる。例えば、(A)〜(C)を必要ならば(A)の融点以上に加温しながら溶解及び混合した後、これにあらかじめ混合した(D)及び(E)の混合物を、例えば攪拌機を備えた乳化装置やホモミキサー、ディスパーミキサー、高剪断力の高圧ホモジナイザーや高圧及び/又は真空ホモミキサー、超音波乳化機、SPG膜乳化機、スタティック型ラインミキサー、コロイドミル等といった混合装置を用いて、徐々に添加しながら撹拌混合することで当該溶液が製造される。
【0015】
本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤は、第二に前記(A)〜(E)を含む溶液を水性基剤に混合して分散させてなることを必須とする。混合する比率は、溶液1重量部に対し、水性基剤が1〜500重量部の範囲で設定される。混合するにあたって、特に混合装置等は必須ではないが、本発明の抗菌剤を大量に製造する場合には撹拌装置を備えた設備であることが好ましい。
本発明で用いられる水性基剤は、水又はエタノールを0〜10重量%含む水溶液である。また、当該水性基剤には、コンタクトレンズ用抗菌剤のハンドリング性を向上させることを目的に、更に増粘剤を添加することができる。増粘剤は医薬品、医薬部外品、化粧品及び食品に通常添加されている成分であれば特に限定はされないが、具体的には、アクリル酸重合体、アクリル酸アルキル重合体、メタクリル酸アミド重合体、アクリル酸アミド・スチレン共重合体、アクリル酸・メタクリル酸共重合体、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、アクリル酸アルキルエステル・メタクリル酸アルキル共重合体、アクリル酸アルキル共重合体、アクリル酸アルキル共重合体メチルポリシロキサンエステル、アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸アルキル・スチレン共重合体、アルギン酸又はその塩、加水分解コラーゲン又はその誘導体、塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体、加水分解コムギタンパク質又はその誘導体、加水分解シルク又はその塩又はその誘導体、スチレン・ジビニルベンゼン共重合体、スチレン・ビニルピロリドン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、加水分解エラスチン又はその塩、加水分解カゼイン又はその塩、アラビアゴム、カラギーナン、カラヤガム、ゼラチン、キチン又はその誘導体又はそれらの塩、キトサン又はその誘導体又はそれらの塩、セルロース又はその誘導体又はそれらの塩、カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、グアーガム、ジェランガム、ローカストビーンガム、流動パラフィン、ヒアルロン酸又はその塩、ソルビトール、トレハロース、デキストラン、プルラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアスパラギン酸又はその塩、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグルタミン酸又はその塩、ユーグレナ多糖体、イソブチレン・マレイン酸塩共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・スチレン共重合体、β−グルカン又はその塩等が挙げられる。水性基剤への配合量としては、0.0001〜20重量%の範囲で設定することができる。
【0016】
本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤は、コンタクトレンズの除菌、殺菌、消毒の目的で使用される。使用方法は、本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤に一定時間浸漬した後、流水ですすぐという簡便な操作で、その目的を達成することができる。その際、適用されるコンタクトレンズについては、コンタクトレンズであればソフトコンタクトレンズ、ハードコンタクトレンズ等、種類並びに材質は問わない。また、コンタクトレンズ用抗菌剤の剤型としては、基本的に液状であるが、ゲル状あるいは気泡剤やガス噴射によるフォーム状であってもよい。しかしながら、本発明はこれらの使用方法及び剤型のみに限定されるものではない。
【0017】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
表1〜2に本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤の製造に用いる溶液の製造例と比較例を示した。表中の各成分の数値は重量%を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
(実施例1)製造例1〜8及び比較例1〜3の抗菌性試験
製造例1〜8並びに比較例1〜3を用いて製造したコンタクトレンズ用抗菌剤に対し、抗菌性試験を実施した。製造例1〜8及び比較例1〜3を水に1:1の比率で混合したものを供試した。対象とする微生物は、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)、Candida albicans(カンジダ菌)の3種を設定した。これらの菌種は、ISO14729(コンタクト用品の消毒性能試験)において抗菌対象とされている細菌及び真菌である。試験方法は日本薬局方の保存効力試験に準拠した。結果を表3〜6に示した。
【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
【表5】

【0025】
【表6】

【0026】
(実施例1の結果)
製造例1〜8及び比較例1〜3の抗菌性を試験した結果、表3〜6で示されたとおり、供試した3種の供試菌種全てに対して、本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤を構成しない比較例と比べて、優れた抗菌活性を示した。特に製造例1の組成物は、培養7日間で全ての供試菌種が死滅していることが確認され、本発明の中でも特に優れたコンタクトレンズ用抗菌剤であることが判明した。
【0027】
(実施例2)製造例1〜8のアカントアメーバーに対する抗菌性試験
製造例1〜8を用いて製造したコンタクトレンズ用抗菌剤に対し、アカントアメーバーに対する抗菌性試験を実施した。製造例1〜8を水に1:1の比率で混合したものを供試した。
アカントアメーバー(Acanthamoeba castellanii ATCC30868)をATCC指定の標準培養法で4週間培養し、121℃,20分でオートクレーブ滅菌済み生理食塩水(塩化ナトリウム0.12g/L,塩化カリウム3.5mg/L,硫酸マグネシウム7水和物4.0mg/L,トリスヒドロキシメチルアミノメタン0.06g/L,pH6.8)を用いて回収し、更に同生理食塩水を用いて遠心分離による洗浄と回収を行い、血球計算盤を用いて1×105〜106cells/mLとなるよう調整して接種原とした。次に、供試するコンタクトレンズ用抗菌剤8mLに接種原0.08mLを添加し、撹拌後2時間静置した後、混合液から0.1mL分取し、中和液(塩化ナトリウム0.12g/L,塩化カリウム3.5mg/L,硫酸マグネシウム7水和物4.0mg/L,トリスヒドロキシメチルアミノメタン0.06g/L,レシチン7.0g/L,ポリソルベート80 5g/L,pH6.8)0.9mLと混合し、10分間静置した。なお、陰性対照として本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤の代わりに同生理食塩水を用いて同様に処理した。次いで、この混合液0.1mL分取し、前記生理食塩水を用いて10倍希釈を順次繰り返して希釈液を調整した。各希釈液0.1mLをEscherichia coli添加MY培地(Escherichia coli ATCC8739をソイビーンカゼインダイジェスト培地で1日培養後、培養液0.1mLを滅菌済みMY培地(麦芽エキス0.1g/L,酵母エキス0.1g/L)500mLに添加し、撹拌後、混合液を12ウェルのプレートに1.5mLずつ分注。)に添加した。次いで、このプレートを25℃,14日間培養し、倒立顕微鏡を用いてアカントアメーバーの生存及び増殖の計測を行い、Reed-Muench計算法に従って生存アカントアメーバー数を評価し、結果を表7に示した。
【0028】
【表7】

【0029】
(実施例2の結果)
製造例1〜8のアカントアメーバーに対する抗菌性を試験した結果、表7で示されたとおり、一様に十分な抗菌性を示した。特に製造例1〜4の組成物は、生存アカントアメーバー数を1/100〜1/1000まで低下させるものであり、本発明の中でも特に優れたコンタクトレンズ用抗菌剤であることが判明した。
【0030】
(実施例3)コンタクトレンズ用抗菌剤の製造における(A)〜(E)を含む溶液と水性基剤の混合比の検討
本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤を製造するにあたり、(A)〜(E)を含む溶液と水性基剤の混合比率について、以下に記載の混合比率で製造した組成物の抗菌活性を調べた。供試する溶液として、実施例1並びに実施例2において最も抗菌活性に優れる製造例1を採択した。試験方法は実施例1の方法に準拠し、更にコンタクトレンズ用抗菌剤自体の防腐性を確認する目的で、Escherichia coli ATCC8739、Bacillus subtilis NBRC3134、Aspergillus niger NBRC6341の3種の細菌及び真菌を追加した。培養14日目おける各微生物の生菌数を測定した。結果を表8に示した。
製造例9:製造例1の溶液1重量部に対し、水100重量部の比率で混合して得られたコンタクトレンズ用抗菌剤。
製造例10:製造例1の溶液1重量部に対し、水200重量部の比率で混合して得られたコンタクトレンズ用抗菌剤。
製造例11:製造例1の溶液1重量部に対し、水500重量部の比率で混合して得られたコンタクトレンズ用抗菌剤。
製造例12:製造例1の溶液1重量部に対し、水1000重量部の比率で混合して得られたコンタクトレンズ用抗菌剤。
製造例13:製造例1の溶液1重量部に対し、5%エタノール水溶液200重量部の比率で混合して得られたコンタクトレンズ用抗菌剤。
製造例14:製造例1の溶液1重量部に対し、10%エタノール水溶液200重量部の比率で混合して得られたコンタクトレンズ用抗菌剤。
【0031】
【表8】

【0032】
(実施例3の結果)
前記の製造例9〜14のコンタクトレンズ用抗菌剤について抗菌活性を測定した結果、溶液1重量部に対し、水性基剤1000重量部の混合比率まで、実施例1で得られた抗菌活性が維持されるものであった。しかしながら、水性基剤が1000重量部となると防腐性の確認を目的として試験された菌種において抗菌活性の低下が認められた。また製造例9〜11及び13〜14の結果から、水性基剤として水のみでもエタノールを含む水溶液でも同様に抗菌活性を示すことが判明し、更には、製造例9〜14は全ての組成物において、本発明のコンタクトレンズ用抗菌剤中に含まれる成分の乖離や沈殿、層分離等の発生もなく、安定な製剤であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記の(A)〜(E)を含む溶液の1重量部に対し、水性基剤を1〜500重量部の比率で混合してなることを特徴とするコンタクトレンズ用抗菌剤。
(A)炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩が15〜45重量%、
(B)炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルが20〜50重量%、
(C)スルホコハク酸エステルが10〜30重量%、
(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールが0〜10重量%、
(E)水が0〜55重量%
【請求項2】
炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩が、カプリル酸、カプリン酸、パルミトレイン酸及びオレイン酸又はそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ用抗菌剤。
【請求項3】
炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルが、モノカプリル酸グリセリル、ジカプリル酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル及びモノオレイン酸グリセリルから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜2記載のコンタクトレンズ用抗菌剤。
【請求項4】
スルホコハク酸エステルが、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム及びスルホコハク酸ジエチルヘキシル又はその塩から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3記載のコンタクトレンズ用抗菌剤。

【公開番号】特開2011−197359(P2011−197359A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63614(P2010−63614)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(509306203)テクノマイニング株式会社 (10)
【Fターム(参考)】