説明

コンタクトレンズ用消毒保存溶液

【課題】 優れた消毒効果を有し、また眼に対する安全性にも優れ、しかも特に含水性コンタクトレンズへの使用に適したコンタクトレンズ用消毒保存溶液を得る。
【解決手段】 水性媒体中にε-ポリリジン、有機カチオン化合物及び乳酸を含有することを特徴とするコンタクトレンズ用消毒保存溶液である。また、水性媒体中にε-ポリリジン、有機カチオン化合物及び乳酸と、更にイノシトール又はグリセリンを含有することを特徴とするコンタクトレンズ用消毒保存溶液である。
このようなコンタクトレンズ消毒保存溶液は、抗菌(殺菌)成分であるε-ポリリジンの抗菌性を最大限に発揮できる環境を整えることにより、その添加量を著しく低く抑えることができ、安全性が更に高められた消毒保存液である。従って、コンタクトレンズを長時間浸漬を行っていても、コンタクトレンズへの影響は無く、安心して消毒後のコンタクトレンズを装用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ用消毒保存溶液であり、特に優れた消毒効果を有し、また眼に対する安全性にも優れ、しかも特に含水性コンタクトレンズへの使用に適したコンタクトレンズ用消毒保存溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンタクトレンズを装用することで、特に涙液に含まれるタンパク質や眼脂由来の脂質などの汚れがコンタクトレンズに付着することが知られている。これらの汚れは、毎日の洗浄で充分取り除く必要があり、この操作を怠ることによる汚れの蓄積は、レンズの光学的性能に悪影響を及ぼすのみならず、コンタクトレンズ表面に付着した細菌類が増殖する温床となり、これら細菌類が増殖することにより、眼に対して感染症などの悪影響がもたらされることがあるため、コンタクトレンズ特に含水性コンタクトレンズは日々の洗浄のみならず、消毒を行う必要がある。
【0003】
従来、一般に用いられている含水性コンタクトレンズの消毒方法は、煮沸によるものである。この方法は専用の含水性コンタクトレンズ用煮沸消毒装置及び容器を用いて、一般的には生理食塩水の沸点付近の高温で煮沸消毒を行うものである。この煮沸消毒は高い消毒効果があるものの、専用の器具が必要であること、操作が煩雑であるため患者のコンプライアンスが悪いことが挙げられ、また煮沸消毒では熱によるレンズの劣化やレンズに付着したタンパク質の固着を生じ、これに起因した巨大乳頭結膜炎のようなアレルギー反応が起る例も見られた。
【0004】
これらの欠点を解決するために、煮沸以外の消毒法で一般に用いられている方法として、消毒剤を含んだ溶液にコンタクトレンズを室温下浸漬する化学消毒法がある。
かかる化学消毒法に用いられる消毒剤として、これまでクロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、チメロサールなどが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照。)。
【0005】
しかしながら、それらはその消毒効果を充分に発現させるために、ある程度高濃度で用いられることが多く、これらの消毒剤はいずれも低分子量であるため、コンタクトレンズ、特に含水性コンタクトレンズには吸着・蓄積されやすく、消毒後のコンタクトレンズを眼に装用した場合、眼刺激や角膜損傷などの障害が発生するおそれがあることが報告されている。
【0006】
最近、これらの問題点を解決する目的で、ビグアニド化合物のポリマーを用いた水溶液(例えば、特許文献4参照。)や、ポリ塩化アンモニウムのポリマーを用いた水溶液(例えば、特許文献5参照。)が提案されている。
【0007】
ビグアニド化合物の特に分子量の大きいポリマーは、含水性コンタクトレンズへの吸着が極めて少なく、眼障害となるような問題を生じ難いといわれている。このビグアニド化合物のポリマーを用いたコンタクトレンズ用消毒保存溶液は、0.00005〜0.0001質量%濃度の製品が米国で販売されている。
他に、人体に対する毒性が極めて低いという理由で、L−リジンの重合体で天然に見出されたアミノ酸ポリマーであるε-ポリリジンを殺菌剤として用いたコンタクトレンズの消毒保存溶液が提案されている(例えば、特許文献6参照。)。ε-ポリリジンは食品添加物として使用され、微生物の増殖抑止効果の他にウィルスの感染抑止効果やファージの増殖抑止効果を有することが知られている。
しかしながら、これら何れの方法に用いられているコンタクトレンズの消毒保存溶液にあっても、そこに記載されている処方、組成で用いた場合、殺菌効果としては充分なものとは言えず、コンタクトレンズに対する微生物汚染防止効果を有するものではなかった。
【0008】
例えばビグアニド化合物のポリマーを記載通りの処方で用いた水溶液は、消毒効果が弱いという欠点があった。特にC. albicasとA. fumigusに対して有効でないことが指摘されている(例えば、特許文献7参照。)。
この指摘に対し消毒効果を強めるためには、消毒成分であるビグアニド化合物ポリマー含有量を増加させるしかなく、コンタクトレンズに吸収され難いポリマーであっても消毒成分量の増加は、安全性の面で限界がある。更に、ビグアニド化合物の分解性までは考慮されておらず、ビグアニド化合物ポリマーから分解遊離した低分子のビグアニド化合物、極言すればビグアニド基が眼組織に対して安全性が確保されているかの検討はされておらず、その安全性に問題が残されている。
また、ε-ポリリジンも単体での消毒効果は充分とは言えず、通常4時間の殺菌時間設定で使用されるコンタクトレンズ用消毒剤の使用に適しておらず、先に挙げた特許文献6でも、殺菌効力を7日と14日での殺菌効果で確認しているに過ぎない。
【0009】
更に、優れた殺菌効果を有すると共に、眼に対する安全性を備えたコンタクトレンズ用液剤として、ビグアニド系殺菌剤を、グリセリンやプロピレングリコール等の非イオン性等張化剤と共に用いること(例えば、特許文献8参照。)や、ε-ポリリジンを非イオン性等張化剤及び/又はアミノ酸と共に用いること(例えば、特許文献9参照。)が、提案されている。
しかしながら、そこに記載されている処方、組成で用いた場合、その殺菌効力の向上は図られたものの、イオン性高含水タイプの含水性コンタクトレンズ(グループIVレンズ)において消毒保存後にレンズが大きくなり、含水性コンタクトレンズの使用を考慮したものではなかった。
【0010】
また、同様にビグアニド系又は4級アンモニウム塩系殺菌剤を、電気伝導度の低い等張化剤と低濃度の塩化ナトリウム、リン酸及びその塩と共に用いること(例えば、特許文献10参照。)、カチオン性ポリマー防腐剤を、イノシトールをはじめとする非イオン性等張化剤、低濃度の塩化物と共に用いること(例えば、特許文献11参照。)が提案されている。しかし、ある特定の微生物における評価しか行っておらず、含水性コンタクトレンズの使用においても充分評価されていなかった。
【0011】
また、ポリリジンおよび/またはプロタミンと、グリシン、アラニン、アルギニンおよびヒスチジンの中の1種のアミノ酸からなる消毒保存液が知られている(例えば、特許文献12参照。)。
しかし、この保存液は十分な抗菌性が得られておらず、また、含水性コンタクトレンズへの適合性についても評価されていない。
【0012】
【特許文献1】特開昭52−109953号公報
【特許文献2】特開昭62−153217号公報
【特許文献3】特開昭63−59960号公報
【特許文献4】特開昭61−85301号公報
【特許文献5】特表昭58−501515号公報
【特許文献6】PCT国際公開WO97/27879号公報
【特許文献7】特開平4−231054号公報
【特許文献8】特開平10−108899号公報
【特許文献9】特開2000−84052号公報
【特許文献10】特開2003−89601号公報
【特許文献11】特表2004−512904号公報
【特許文献12】特開2001−264707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、充分な消毒効果を有しながらも、眼に対する毒性が極めて低く、含水性コンタクトレンズへの使用も考慮され、安全に使用することが可能なコンタクトレンズ用消毒保存溶液を提供することを目的とする。
そこで、この目的を達成するために、抗菌力、殺菌力を有すると考えられる公知の各種天然高分子について鋭意研究を重ねた結果、一定濃度以下での使用では眼に対する毒性も低く、コンタクトレンズ用消毒保存溶液として使用するに充分な安全性を有するε-ポリリジンに、さらに有機カチオン化合物と乳酸を含有させることにより、ε-ポリリジンの抗菌(殺菌)効果が飛躍的に増加することを見出した。
また更に、このような組成の溶液にイノシトール又はグリセリンを含有させることにより、更に抗菌性を高めることが可能であり、更にこれに併せ、含水性コンタクトレンズ洗浄時のレンズの変質や消毒時(溶液浸漬)の経時的な変化も最小限に抑えることが可能となることを見出し、係る知見に基づき本発明を完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち本発明は、水性媒体中にε-ポリリジン、有機カチオン化合物及び乳酸を含有することを特徴とするコンタクトレンズ用消毒保存溶液に関する。
更に本発明は、水性媒体中にε-ポリリジン、有機カチオン化合物、乳酸と、更にイノシトール又はグリセリンを含有することを特徴とするコンタクトレンズ用消毒保存溶液に関する。
【0015】
即ち本発明は、前述の様な課題を解決するために、上記の組み合わせで薬剤を調合することに特徴を有するコンタクトレンズ用消毒保存溶液をその要旨とするものである。
一般的に等張化剤として用いられる塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム等のナトリウム塩の使用は、そのナトリウムイオンの影響によりε-ポリリジンの抗菌性を低下させる。従って、ε-ポリリジンの抗菌性を抑制することなく、更に含水性コンタクトレンズ洗浄時のレンズサイズ変化等の変形を抑制する成分を鋭意探索したところ、本発明で云う有機カチオン化合物の使用が有効であることが判った。しかし、これだけでは抗菌性は未だ不十分であり、更に検討を進めたところ、乳酸の使用が効果的であることが判明し、更には、イノシトール又はグリセリンを併用することによって抗菌性を更に高めることが可能となることを見出したものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のコンタクトレンズ用消毒保存溶液は、抗菌(殺菌)成分であるε-ポリリジンの抗菌性を最大限に発揮できる環境を整えることにより、その添加量を著しく低く抑えることができ、安全性が更に高められた消毒保存液である。
また本発明のコンタクトレンズ用消毒保存溶液は、煮沸消毒器具を用いることなく、簡便にコンタクトレンズの消毒を行うことができる。更に、安全性に対しても、厳選された安全性の高い成分のみからなり、長時間の浸漬を行っていても、コンタクトレンズへの影響は無く、眼に対する障害を心配する必要は取り除かれ、安心して消毒後のコンタクトレンズを装用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のコンタクトレンズ用消毒保存溶液は、溶液中のε-ポリリジン含有量に関しては、含有させる有機カチオン化合物、乳酸の量と溶液のpHによって異なるが、0.00001〜0.005質量%の範囲とすることが必要である。
また、本発明で使用する有機カチオン化合物は、ε-ポリリジンの抗菌、殺菌効果を減殺することなく、溶液の浸透圧調整と使用する種類によってはpH調整用として、また含水性コンタクトレンズの膨潤抑制のために使用される。この様な効果を最も良く発揮する有機カチオン化合物としては、リジン、アルギニン、ヒスチジンなどの塩基性アミノ酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、メチルグルカミン(メグルミン)又はこれらの塩の使用が好適である。また、この使用量に関しては、0.1〜5.0質量%の範囲が好ましい。有機カチオン化合物の使用量がこの範囲を逸脱し、0.1質量%を下廻ると、含水性コンタクトレンズの膨潤を抑制することが困難となり、また反対に、5.0質量%を上廻る使用量となった場合には、ε-ポリリジンの抗菌性に悪影響を及ぼすことになる。
【0018】
また、本発明で使用する乳酸は、ε-ポリリジンの抗菌、殺菌効果を高める増強助剤としての効果を有する。この乳酸は、特に黄色ブドウ球菌に対する抗菌効果を高める作用を有する。
乳酸の種類に関しては、D体、L体又はDL体のいずれも使用が可能である。乳酸の使用量は、消毒保存溶液中0.0005〜3.0質量%の範囲であることが必要である。乳酸添加量がこの範囲を逸脱し、0.0005質量%未満であると乳酸使用による効果を発現しない。また、乳酸添加量が3.0質量%を上廻ると、含水性コンタクトレンズを収縮させるため過剰量の使用は望ましくない。
【0019】
また、本発明に於いて、やむなくナトリウム塩を使用する必要が生じたときは、ナトリウムイオン濃度は極力低くし、Naとして0.2質量%未満とする。即ち、ナトリウムイオンが0.2質量%以上となると、ε-ポリリジンの抗菌・殺菌効果が著しく低下する。
【0020】
次に、本発明で使用するイノシトール又はグリセリンに関しては、構造上水酸基を多く保有していることから保湿作用も期待できる。その使用量は、0.1〜13.0質量%の範囲が好ましい。この範囲を逸脱し、使用量がこれよりも低くなると、イノシトール又はグリセリンの添加による効果が無い。一方、この範囲以上に使用量を多くしても、抗菌性への効果はあまり高くならない。そればかりか、いたずらに溶液の浸透圧を上げる結果となることから多量の使用は好ましくない。
【0021】
更に、本発明のコンタクトレンズ用消毒保存溶液は、その溶液pHを6.0〜8.0とすることにより最大限の効果を発揮することも本発明において重要である。
また、本発明のコンタクトレンズ用消毒保存溶液は、pH緩衝剤としてホウ酸を使用することもできる。その使用量は概ね0.1〜1質量%の範囲とすることが好ましい。
【0022】
更に、本発明のコンタクトレンズ用消毒保存溶液は、コンタクトレンズに付着したタンパク質や脂質成分の除去、洗浄効果を向上させるために、界面活性剤を更に添加することも可能である。
この様な界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレングリコールアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合体、アルキルポリオキシエチレンエーテル、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ポリエチレングリコールの脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤が、眼粘膜に対する低刺激性であること、含水性コンタクトレンズへの取込などの影響がないことなどから好適である。
【0023】
更に、本発明のコンタクトレンズ用消毒保存溶液は、その他の添加成分として、増粘剤、蛋白除去剤(蛋白分解酵素等)を使用することもできる。これらの成分は、生体への安全性が高く、コンタクトレンズへの吸着等の影響がないものであれば、従来より公知の如何なるものをも用いることができ、それらを必要に応じて、本発明の作用・効果を損なわない濃度、種類において組み合わせて添加することもできる。
【0024】
本発明のコンタクトレンズ用消毒保存用溶液は、これを調製するに際して何ら特殊な方法を必要とせず、通常の水溶液を調製する場合と同様に、所定量の精製水中に各成分を溶解させ、均一に溶解した後、無菌濾過工程を経て、無菌下で提供すべき容器へと注入した後、封を施せばよい。
【0025】
以上のようにして製造される本発明のコンタクトレンズ用消毒保存溶液は、これを使用してコンタクトレンズの手入れを行う場合には、その一例としては、装用後のコンタクトレンズを本発明の消毒保存用溶液を満たした保存ケースに、所定時間、好ましくは30分〜4時間程度浸漬することにより、コンタクトレンズの消毒を行うことができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例のみに限定されるものではない。また、実施例に於いて%は、特に断らない限り全て質量%を示す。
【0027】
[実施例1〜12]
表1に示した添加量で、各薬剤を混合、溶解し、コンタクトレンズ用消毒保存溶液を調製した。なお、使用した薬剤は次の通りである。
ε-ポリリジン:チッソ(株)製
L(+)-アルギニン:和光純薬工業(株)製 試薬特級
グリセリン:和光純薬工業(株)製 試薬特級
L-乳酸: 和光純薬工業(株)製 試薬特級
myo-イノシトール:和光純薬工業(株)製 試薬特級
D(-)-N-メチルグルカミン:メルク社製
L(+)-リシン:和光純薬工業(株)製 試薬特級
L-ヒスチジン:和光純薬工業(株)製 試薬特級
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン:シグマ社製試薬
塩化ナトリウム:和光純薬工業(株)製 試薬特級
水酸化ナトリウム:和光純薬工業(株)製 試薬特級
ホウ酸:和光純薬工業(株)製 試薬特級
塩酸:和光純薬工業(株)製 試薬特級
界面活性剤:旭電化工業(株)製,プルロニックSE500
増粘剤:信越化学工業(株)製,メトローズ60SH-50
また、溶液のpH調整は、全て塩酸を用いて行った。更に、溶解、調製した溶液は、0.20ミクロンのセルロースアセテート製フィルター(ミリポア社製,Millex)を使用し、このフィルターに溶液を通すことで除菌を行った。
【0028】
【表1】

【0029】
[比較例1〜4]
比較のために、表2に示した割合で実施例と同様にコンタクトレンズ用消毒保存溶液を調製した。
【0030】
【表2】

【0031】
<殺菌消毒試験>
殺菌消毒試験の供試菌として、細菌はシュートセモナス・アエルギノーサ(Psedomonas aeruginosa : IFO13275)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus : IFO13276)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcecens : JCM1239)、真菌はカンジダ・アルビカンス(Candida albicans : JCM2085)フザリウム・ソラニ(Fusarium solani : ATCC36031)を用い、細菌はソイビーンカゼインダイジェスト培地で35℃、18時間培養したものを、滅菌済みダルベッコリン酸緩衝液(PBS(-))で懸濁し、108cfu/mLの供試菌液を調製した。一方、カンジダ・アルビカンスは、サブローデキストロース寒天培地で35℃、18時間培養したものを、滅菌済みPBS(-)で懸濁し、108cfu/mLの供試菌液を調製し、フザリウム・ソラニは、ポテトデキストロース寒天培地で25℃、1週間培養したものを、0.1%ペプトン食塩液に浮遊させ、108cfu/mLの供試菌液を調製した。
【0032】
次いで、評価を行う殺菌消毒溶液について、この溶液を滅菌済みのメジューム瓶に20mL入れ、更に上記の調製した供試菌液を0.1mL加えた後、25℃の恒温器に4時間保存した。保存後に瓶を取り出し、溶液の所定量を滅菌済みのPBS(-)を用いて希釈した後、混釈平板法により、サンプル1mL中の生菌数を測定した。なお、この混釈平板法における培養条件は、細菌についてはレシチン・ポリソルベート80添加ソイビーンカゼイン寒天培地を用いて35℃、48時間の培養を行い、カンジダ・アルビカンスについては、レシチン・ポリソルベート80添加ポテトデキストロース寒天培地にて35℃、48時間の培養を行い、フザリウム・ソラニについては、レシチン・ポリソルベート80添加ポテトデキストロース寒天培地にて、25℃、5日間の培養を行った。
培養後の菌数の測定によって得られた生菌数から、前記供試菌液の添加されたコンタクトレンズ用消毒保存溶液の指定時間後の生菌数を算出した後、下記の計算式に従い、これを対数に換算した菌減少量を求めた。
【0033】
菌減少量[対数換算]=Log(調製直後の菌懸濁液1mL中の生菌数)−Log(4時間処理後の菌懸濁液1mL中の生菌数)
実施例1〜12、比較例1〜5について、2〜5種の供試菌に対する消毒有効性を調べた。結果を表3に示した。
【0034】
【表3】

【0035】
表3の結果から明らかなように、いずれの実施例も全て高い消毒有効性を示した。また、イノシトール又はグリセリンの添加は、セラチア・マルセッセンスに対する抗菌効果を高めることが判る。
【0036】
<含水性コンタクトレンズのディメンジョン変化>
本発明のコンタクトレンズ用消毒保存溶液の含水性コンタクトレンズのディメンジョン変化について試験を行った。試験に使用した含水性コンタクトレンズは、高含水、イオン性のグループIVに分類されるジョンソン・エンド・ジョンソン(株)社製ワンデーアキュビュー(ベースカーブ9.00mm、直径14.200mm)である。
本発明及び比較例の消毒保存溶液に、含水性コンタクトレンズを浸漬し、5分後、2週間後のレンズ直径を測定した。
結果を表4に示した。
表4の結果より明らかなように、本発明のコンタクトレンズ用消毒保存溶液は、レンズの膨潤収縮が少なく、問題のない範囲であることが判る。これと比較し、比較例3の溶液によれば、浸漬5分後より著しく膨潤し、レンズ適合性の悪いことが判る。
【0037】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体中にε-ポリリジン、有機カチオン化合物及び乳酸を含有することを特徴とするコンタクトレンズ用消毒保存溶液。
【請求項2】
有機カチオン化合物が、リジン、アルギニン、ヒスチジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、メチルグルカミン又はそれらの塩の1種以上の化合物である請求項1記載のコンタクトレンズ用消毒保存溶液。
【請求項3】
水性媒体中にε-ポリリジン、有機カチオン化合物及び乳酸と、更にイノシトール又はグリセリンを含有することを特徴とするコンタクトレンズ用消毒保存溶液。
【請求項4】
有機カチオン化合物が、リジン、アルギニン、ヒスチジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、メチルグルカミン又はそれらの塩の1種以上の化合物である請求項3記載のコンタクトレンズ用消毒保存溶液。
【請求項5】
コンタクトレンズ用消毒保存溶液が含水性コンタクトレンズ用である請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンタクトレンズ用消毒保存溶液。

【公開番号】特開2006−201247(P2006−201247A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10175(P2005−10175)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】