説明

コンタクトレンズ用溶剤

【課題】コンタクトレンズの形状に悪影響を及ぼさず、菌類等への消毒効果があり、さらに眼組織に対する安全性を有するコンタクトレンズ用溶剤を提供する。
【解決手段】有機窒素系消毒剤および分子量が15,000〜150,000であるジアリルジメチルアンモニウムクロリドの重合体およびジアリルジメチルアンモニウムクロリドと二酸化硫黄とマレイン酸との共重合体などのジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズをケアするためのコンタクトレンズ用溶剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズを眼に装用した際、涙液や眼脂に由来するタンパク質や脂質の汚れがレンズ表面に付着する。これらの汚れは、細菌を繁殖させる温床となり、眼疾病につながる危険性や、コンタクトレンズの装用感の低下や視力補正に影響を及ぼすことがある。
【0003】
コンタクトレンズは、ハードコンタクトレンズとソフトコンタクトレンズに大別される。このうちソフトコンタクトレンズは、コンタクトレンズ中の水分に微生物が増殖しやすい傾向があるため、十分なケアを施さない場合、眼組織に対して重篤な問題を及ぼすことがある。
【0004】
したがって、ソフトコンタクトレンズを安全かつ衛生的に使用するためには、レンズの十分な洗浄および消毒、ならびに清潔な維持が重要である。
【0005】
ところで、コンタクトレンズのケアの工程には、表面に付着した汚れ等を除去する「洗浄」、微生物を無害化する「消毒」、洗浄、消毒後の「すすぎ」、性能を維持するための「保存」がある。衛生上は、洗浄と、その後の消毒・すすぎ・保存とを区別し、各々専用溶液を用いて処理することが望まれている。しかし、近年は一液で全ての工程が行えるマルチパーパスソリューションがその簡便性から広く普及している。
【0006】
マルチパーパスソリューションによる処理はコールド消毒法と言われる。コールド消毒法は、液中に配合した消毒成分によりソフトコンタクトレンズを洗浄および消毒する処理方法である。この際の消毒成分としては、有機窒素系消毒剤が主に使用されている。
【0007】
マルチパーパスソリューションにおいて、消毒効果を高めるために、高濃度の消毒成分を配合することが試みられている。しかし、高濃度の消毒成分は眼組織に対し毒性を及ぼし、安全性に問題がある。そこで、消毒成分の配合量は制限され、一般的には1.0×10−4(W/V%)以下である。しかし、このような濃度では、ソフトコンタクトレンズに対する消毒効果が十分とはいえない。
【0008】
そこで、ソフトコンタクトレンズへの消毒効果を増強させるために、有機窒素系消毒剤の一種であるポリヘキサメチレンビグアニドを高濃度の非イオン性等張化剤とともに使用する方法がこれまでに知られている(特許文献1参照)。
【0009】
また、コンタクトレンズ用溶剤と異なる技術分野である工業用水における微生物の繁殖を防ぐものとして、高分子量のポリアミンスルホンとN−(ヒドロキシアルキル)−アミノエタノールを消毒成分とする殺藻・殺菌剤(特許文献2参照)や、低分子量のポリアミンスルホンを消毒成分とする抗微生物剤(特許文献3参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−108899号公報
【特許文献2】特開平01−294602号公報
【特許文献3】特開平11−049610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1のコンタクトレンズ用溶剤は、非イオン性等張化剤であるグリセリンやプロピレングリコール等の多価アルコールを高濃度で配合するものである。多価アルコールを高濃度で配合した溶剤を用いてソフトコンタクトレンズを処理する場合、コンタクトレンズに膨潤、変形が生じるなど、光学特性に多大な悪影響を及ぼす可能性がある。
【0012】
特許文献2および3で使用されるポリアミンスルホンの消毒効果について、特許文献2に記載のポリアミンスルホンは、その消毒効果が非常に小さいので、併用するN−(ヒドロキシアルキル)−アミノエタノールの消毒効果の増強補助剤として使用されるものである。また、特許文献3に記載のポリアミンスルホンは、消毒効果を有するものの、刺激性がある。そこで、特許文献3に記載のポリアミンスルホンをコンタクトレンズ用溶剤の消毒成分として使用した場合、眼組織へ悪影響を及ぼす可能性がある。
【0013】
したがって、特許文献1〜3に記載の消毒剤は、コンタクトレンズ用溶剤として使用した場合に、コンタクトレンズ形状への悪影響、消毒効果および眼組織への安全性についてそれぞれ問題がある。
【0014】
そこで、本発明の目的は、上記課題を鑑みて、コンタクトレンズの形状に悪影響を及ぼさず、菌類等への消毒効果があり、さらに眼組織に対する安全性を有するコンタクトレンズ用溶剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決する手段について鋭意検討したところ、コンタクトレンズ用溶剤の消毒成分として適用される化合物について、消毒効果および眼組織への安全性は、その分子量と配合量に影響を受けるのではないかと考えた。
【0016】
すなわち、特許文献3に記載のポリアミンスルホンは分子量が5,000であり、係る化合物をコンタクトレンズ用溶剤の消毒成分として用いようとした場合、その消毒効果は期待できるものの、刺激性が強いために眼組織へ悪影響を及ぼす可能性が高い。
【0017】
これとは対照的に、分子量が90,000〜1,200,000である特許文献2に記載のポリアミンスルホンは、眼組織への安全性は有するものの消毒効果が低く、所望の消毒効果を有するコンタクトレンズ用溶剤を調製しようとすると、係る化合物を高濃度で配合しなければならず、眼組織への悪影響が懸念される。
【0018】
そこで本発明者らは、消毒効果および眼組織への安全性を考慮しつつ、化合物の分子量と配合量に着眼して、コンタクトレンズ用溶剤に適した消毒成分について研究開発を進めたところ、従来コンタクトレンズ用溶剤の消毒成分として使用されている有機窒素系消毒剤と一定の分子量を有するジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体とを配合してなるものは、コンタクトレンズ用溶剤に適した消毒効果および眼組織への安全性を有するものであることを見出した。
【0019】
ジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体は、染料固着剤、カチオン化剤、インクジェット定着剤、化粧品原料などに用いられ、単独で抗菌性を有することも知られている。
【0020】
しかしながら、ジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体が単独で消毒効果を発現するのは低分子量の場合のみである。ジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体が高分子量である場合は、その立体障害により分子中の消毒部位が消毒対象に作用しにくいと推測できる。そこで、高分子量のジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体を眼組織への安全性を有する範囲内の濃度で使用した場合、コンタクトレンズ用溶剤に適した消毒効果が得られない。
【0021】
ところが、前記の有機窒素系消毒剤と一定の分子量を有するジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体とを配合してなるものは、洗浄効果は無論のこと、眼組織に対する安全性が高く、かつ、細菌類や真菌類を含めた微生物に対する消毒効果を有しており、さらに驚くべきことにコンタクトレンズ形状への悪影響が非常に小さいものである。したがって、このようなものは、コンタクトレンズ用溶剤として非常に適したものである。
本発明は以上の知見に基づいて完成された発明である。
【0022】
したがって、本発明によれば、有機窒素系消毒剤および分子量が15,000〜150,000であるジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体を配合するコンタクトレンズ用溶剤が提供される。
【0023】
好ましくは、本発明のコンタクトレンズ用溶剤は、前記有機窒素系消毒剤1.0×10−4に対し、前記ジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体を0.005〜1.0の割合で配合する。
【0024】
好ましくは、本発明のコンタクトレンズ用溶剤は、前記ジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体が、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドの重合体およびジアリルジメチルアンモニウムクロリドと二酸化硫黄とマレイン酸との共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体である。
【0025】
好ましくは、本発明のコンタクトレンズ用溶剤は、前記有機窒素系消毒剤が、ビグアニド系消毒剤および第四級アンモニウム系消毒剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の消毒剤である。
【発明の効果】
【0026】
本発明のコンタクトレンズ用溶剤は、有機窒素系消毒剤をマルチパーパスソリューションへの適用範囲内の配合量で配合することができ、該有機窒素系消毒剤を一定分子量のジアリルアルキルアンモニウム含有重合体と組み合せて配合することにより、コンタクトレンズ用溶剤として適した消毒効果を有しつつ、眼組織に対する高い安全性を有するものである。
【0027】
したがって、本発明のコンタクトレンズ用溶剤によれば、コンタクトレンズの表面を清潔に保つことができ、加えて、微生物の付着に起因する眼障害の危険性を小さくすること、ならびにコンタクトレンズ表面の油性汚れやコンタクトレンズの形状変化に起因するコンタクトレンズの装用感の低下や視力補正に係る障害などを回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明のコンタクトレンズ用溶剤は有機窒素系消毒剤および分子量が15,000〜150,000であるジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体を組み合せて配合することにより、消毒効果を増強させつつ、眼組織への安全性が高いものである。
【0029】
上記課題との関係において、配合するジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体の分子量が重要となる。ジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体の分子量は15,000〜150,000であり、好ましくは20,000〜100,000である。分子量が15,000より小さいと、消毒効果は向上するものの、眼組織に対する安全性は著しく低下する。また、分子量が150,000を超えると得られる溶剤の粘性が高くなり、取扱い性に不具合が生じる。
【0030】
本発明に使用するジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体としては、ジアリルジアルキルアンモニウム塩の重合体、またはジアリルジアルキルアンモニウム塩とその他の重合性官能基(−C=C−)を有する化合物もしくは重合性化合物などとを共重合させた重合体であれば特に制限されない。ジアリルジアルキルアンモニウム塩としては、たとえば、ジアリルジアルキルアンモニウムの塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、アミド硫酸塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体としては、たとえば、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドおよびジアリルメチルエチルアンモニウムクロリドの重合体、ならびにジアリルジメチルアンモニウムクロリドおよびジアリルメチルエチルアンモニウムクロリドとこれらと共重合可能な化合物、具体的には、二酸化硫黄、アクリルアミド、エピクロロヒドリン、マレイン酸などとの共重合体などが挙げられる。各重合成分は、単独または2種以上を組み合せて用いることができる。
【0031】
本発明において特に好ましく用いられるのは、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドの重合体、ならびにジアリルジメチルアンモニウムクロリド二酸化硫黄共重合体およびジアリルジメチルアンモニウムクロリド二酸化硫黄導入型共重合体である。ジアリルジメチルアンモニウムクロリド二酸化硫黄導入型共重合体の具体例としては、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと二酸化硫黄とマレイン酸との共重合体が挙げられ、たとえば、下記一般式(1)により示される。
【化1】

(式中、n、mおよびlは、重合体の分子量が上記に示す範囲内にある限りにおいて決定されるものである。)
【0032】
分子量が15,000〜150,000であるジアリルジメチルアンモニウムクロリドの重合体は、たとえば、ニットーボーメディカル株式会社によって製品名「PAS−H−8L」として提供されているが、特開2000−063435号公報の段落0080〜0082の記載を参照して適当な分子量になるように重合条件等を改変することにより製造可能である。ジアリルジメチルアンモニウムクロリドと二酸化硫黄とマレイン酸との共重合体は、たとえば、ニットーボーメディカル株式会社によって製品名「PAS−84」として提供されているが、特開2010−248460号公報の段落0038の記載を参照して適当な分子量になるように重合条件等を改変することにより製造可能である。
【0033】
本発明において使用する有機窒素系消毒剤は、コンタクトレンズのケアに用いられている有機窒素系消毒剤であれば特に制限されないが、たとえば、ポリヘキサメチレンビグアニド、ポリアミノプロピルビグアニドなどのビグアニド系消毒剤、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジウムなどの第四級アンモニウム系消毒剤などが挙げられる。本発明においては、ビグアニド系消毒剤が好ましく用いられ、特に好ましくは、ポリヘキサメチレンビグアニドである。有機窒素系消毒剤は市販されているものを用いてもよいし、公知の方法により製造したものを用いてもよい。
【0034】
本発明のコンタクトレンズ用溶剤において、ジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体を、有機窒素系消毒剤の配合量に対し、一定の割合となるように調整し使用することが好ましい。たとえば、有機窒素系消毒剤の配合量1.0×10−4に対し、ジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体の配合量を好ましくは0.005〜1.0、より好ましくは0.0075〜0.5、さらに好ましくは0.01〜0.1とすることにより、従前のコンタクトレンズ用マルチパーパスソリューションと同程度の消毒成分の配合量でありながら、消毒効果を増強させたものを得ることが可能である。より具体的には、有機窒素系消毒剤の配合量が1.0×10−4W/V%である場合、ジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体の配合量は0.005〜1.0W/V%であるのが好ましい。
【0035】
ジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体の配合量が有機窒素系消毒剤1.0×10−4に対し0.005未満では消毒効果の増強が十分でなく、また、1.0を超えると眼細胞に対する刺激性が強く、安全性を保つことができない。
【0036】
有機窒素系消毒剤の配合量は、通常のコンタクトレンズ用マルチパーパスソリューションで使用される範囲内であれば構わないが、消毒性を考慮した場合、5.0×10−5W/V%以上が好ましく、より好ましくは9.0×10−5W/V%以上である。また、眼刺激等の安全性を考慮した場合2.0×10−4W/V%以下が好ましく、より好ましくは1.5×10−4W/V%以下である。
【0037】
本発明のコンタクトレンズ用溶剤は、有機窒素系消毒剤およびジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体に加え、コンタクトレンズに付着した脂質やタンパク質などの汚れに対する洗浄性を向上させるため、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤の中から選択した界面活性剤を添加することができる。本発明においては、洗浄時のコンタクトレンズの変形等の光学特性への影響を考慮し、非イオン性界面活性剤が好ましく用いられる。
【0038】
非イオン性界面活性剤としては、たとえば、ポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられるが、本発明においては、ポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマーが最も好ましい。配合量は、コンタクトレンズ用溶剤として通常用いられる0.01〜5.0W/V%、より好ましくは、0.05〜1.0W/V%である。
【0039】
本発明のコンタクトレンズ用溶剤は、眼に対する刺激性や、コンタクトレンズ材料の安定性を考慮し、たとえば、pH6.4〜8.4、好ましくは6.9〜7.9の範囲となるように緩衝剤を添加する。
【0040】
緩衝剤としては、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、トリスヒドロキシアミノメタン緩衝剤などが挙げられるが、本発明においては、微生物への増殖抑制効果を考慮し、ホウ酸緩衝剤が好ましく用いられる。
【0041】
緩衝剤の濃度が低すぎる場合、目的の緩衝効果が得られず、また、高すぎる場合は目に対する刺激や低温下での析出が懸念されるため、好ましい配合量は、0.01〜5.0W/V%であり、より好ましくは0.05〜2.0W/V%である。
【0042】
本発明のコンタクトレンズ用溶剤には、上記成分の他にも、本発明の目的を損なわない限り、キレート剤、等張化剤、増粘剤の他、蛋白分解酵素、脂質分解酵素をはじめとする酵素剤等、各種の添加剤を更に配合することができる。
【0043】
具体的には、キレート剤として、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸・2ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸・3ナトリウム、クエン酸;等張化剤として、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール;増粘剤として、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。
【0044】
本発明のコンタクトレンズ用溶剤は、当業者により知られるコンタクトレンズ用溶剤の製造方法に従って、特に制限なく製造できる。たとえば、精製水に有機窒素系消毒剤およびジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体を同時に、またはそれらを各々前後して添加することにより製造できる。その他の成分も、同様に、これらと同時に、またはこれらと前後して添加することができる。
【0045】
本発明のコンタクトレンズ用溶剤は、実施例に示す消毒効果および安全性を総合的に評価して製造され得る。たとえば、本発明のコンタクトレンズ用溶剤は、消毒効果がStaphylococcus aureusについて3.0以上、好ましくは3.3以上であり、およびCandida albicansについて1.0以上、好ましくは1.5以上であり、かつ、安全性は10V/V%について90%以上、好ましくは92%以上である。また、本発明のコンタクトレンズ用溶剤は、コンタクトレンズを膨潤させるようなものでなく、コンタクトレンズの形状に影響を与えないものであることが好ましい。
【0046】
本発明のコンタクトレンズは、コンタクトレンズのケア用溶剤として、コンタクトレンズの消毒としてだけでなく、配合物によりコンタクトレンズの洗浄、すすぎ、保存の用途に使用できる。本発明のコンタクトレンズ用溶剤は、ソフトコンタクトレンズのケアに適したコンタクトレンズ用溶剤である。
【0047】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限または限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
表1に示す処方に従って、本発明の実施例1〜2または比較例1〜9のコンタクトレンズケア用溶剤について、表1に記載した各配合成分(ジアリルジアルキル含有重合体は純分換算で秤量)を精製水100mLに量り込み、室温にて各成分が均一になるよう十分に撹拌した。得られた均一溶液を孔径0.2μmのセルロースアセテートにて濾過滅菌し、各コンタクトレンズ用溶剤を調製した。また、次に示すコンタクトレンズケア用溶剤の市販品を比較例10〜12とした:比較例10:レニューフレッシュ(ボシュロム・ジャパン社製)、比較例11:オプティー・フリーPlus(日本アルコン社製)、比較例12:ソフトワンモイスト(ロート製薬社製)。これらの実施例1〜2および比較例1〜12について、以下に示す方法に従い消毒効果を評価した。結果を表2に示す。
【0049】
[1.消毒効果]
試験菌株として、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus:ATCC6538)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa:ATCC9027)および霊菌(Serratia marcescens:ATCC13880)の細菌3種類、ならびに、真菌としてカンジタ(Candida albicans:ATCC10231)を用いた。
【0050】
細菌類、真菌類共に、寒天培地の斜面培地上で35℃、18時間培養した菌原体に、ダルベッコリン酸緩衝液を加え、懸濁後回収した液を菌原体とした。さらに、菌原体をダルベッコリン酸緩衝液で希釈し、濃度を10〜10(cfu/mL)に調整し、これを菌試験液とした。用いた寒天培地は、細菌類がソイビーンカゼイン寒天培地、真菌類がブドウ糖へプトン寒天培地である。
【0051】
実施例1〜2および比較例1〜12の各試料10mLに菌試験液0.1mLを接種した菌接種液を、25℃インキュベーター中に所定の消毒時間(4時間)静置した。
【0052】
静置後、菌接種液1mLを不活性剤含有培地(Neutralizing Broth)9mLに添加(10倍希釈)した後、さらにダルベッコリン酸緩衝液にて10倍希釈系列を連続的に調製した。10〜10(cfu/mL)付近のものである適当な希釈倍率の3濃度点の試験液1mLをディスポディッシュに分注し、寒天培地を注ぎ混釈し生菌数を求めた。
【0053】
試験菌液の菌数である初発菌数は、ダルベッコリン酸緩衝液での10倍希釈系列を連続的に調製し、前述と同様に操作した。
【0054】
本寒天混釈平板法における培養条件は、細菌、真菌共に35℃×48時間とした。
【0055】
得られた初発菌数と試験菌液を接種した各試料の生菌数(対数値)から、各試料における消毒時間経過後の対数差(生菌数の減少量)を次式より求めた:
生菌数の減少量=初発菌数−資料における生菌数
【0056】
上記式により求めた生菌数の減少量(対数)を消毒効果とした。消毒効果の判定は、通常、ISOスタンドアローン試験の一次基準に従えば、4時間後の消毒時間における生菌数の減少量が、細菌類では3.0以上、真菌類では1.0以上あるものについて、各菌種に対し消毒効果を有するとされている。また、各試料間の消毒能を比較する際には、同一菌種における生菌数の減少量の差が、0.5以上あった場合、試料間において消毒効果に有意差があるものとした。
【0057】
[2.安全性]
37℃のCOインキュベーターで前培養したチャイニーズハムスター肺由来細胞V79細胞をトリプシン処理後、牛胎児血清含有イーグル最少必須培地に懸濁して細胞懸濁液を得た。
【0058】
カルチャープレートのウェルに試料濃度(V/V%)が20%、10%、5%、2.5%となるように調製した各培地を分注後、細胞数が100個となるように細胞懸濁液を加え、37℃のインキュベーター中で7日間培養した。比較対照として、細胞を培地で同条件にて培養したものを用意した。
【0059】
各試料の各濃度点における相対コロニー形成率を次式より求めた:
相対コロニー形成率(%)=(各濃度点におけるコロニー数/比較対照のコロニー数)×100
【0060】
相対コロニー形成率(%)をそのまま目組織への安全性とした。同一濃度における、相対コロニー形成率の比較により、各試料間の安全性を評価した。結果を表2に示す。
【0061】
[3.形状安定性]
試験レンズとして、2week ACUVUE、ACUVUE ADVANCE(共にジョンソン・エンド・ジョンソン社製)を用いた。
【0062】
ブリスターパッケージよりコンタクトレンズを取出し、表面の水分を除去した後、レンズケースに分注した実施例1および2、ならびに比較例8および9のコンタクトレンズケア用溶剤中に前記コンタクトレンズを浸漬し、4時間室温下で静置した。
【0063】
その後、各溶剤中において、測定顕微鏡を用いコンタクトレンズの直径を測定した。
【0064】
形状安定性の判定はコンタクトレンズ承認基準に従い、溶剤への浸漬前後の直径の変化量が、製品に表示された数値に対し±0.2mm以内であった場合を合格とした。結果を表3に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
以上の結果が示すとおり、本発明によれば、上市されているマルチパースソリューションとして販売されているコンタクトレンズケア用溶剤に比して、コンタクトレンズ形状への影響が小さく、高い消毒効果を有し、かつ、同等以上の安全性を有するコンタクトレンズ用溶剤が得られる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機窒素系消毒剤および分子量が15,000〜150,000であるジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体を配合するコンタクトレンズ用溶剤。
【請求項2】
前記有機窒素系消毒剤1.0×10−4に対し、前記ジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体を0.005〜1.0の割合で配合する、請求項1に記載のコンタクトレンズ用溶剤。
【請求項3】
前記ジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体が、ジアリルジメチルアンモニウムクロリドの重合体およびジアリルジメチルアンモニウムクロリドと二酸化硫黄とマレイン酸との共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体である、請求項1または2に記載のコンタクトレンズ用溶剤。
【請求項4】
前記有機窒素系消毒剤が、ビグアニド系消毒剤および第四級アンモニウム系消毒剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の消毒剤である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンタクトレンズ用溶剤。

【公開番号】特開2013−97022(P2013−97022A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236908(P2011−236908)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000131245)株式会社シード (30)
【Fターム(参考)】