説明

コンタクトレンズ用組成物

【課題】人体に対する安全性の高い物質を用いて、脂質洗浄作用と、脂質付着抑制作用と、摩擦低減作用とを発揮し、コンタクトレンズの装用感を良好に改善し得る新規なコンタクトレンズ用組成物を提供すること。
【解決手段】コンタクトレンズ用組成物を、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下のヒプロメロースが0.5〜1.5w/v%の濃度で含まれていると共に、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・sであるポリビニルアルコールが0.8〜2w/v%の濃度で含まれており、且つ20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sとなるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコンタクトレンズ装着液等として用いられるコンタクトレンズ用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンタクトレンズに対して用いられるコンタクトレンズ用組成物として、例えばコンタクトレンズ洗浄液、コンタクトレンズ保存液、コンタクトレンズ装着液、点眼液や洗眼液等、様々なものが考案されている。
【0003】
ところで、このようなコンタクトレンズ用組成物は、コンタクトレンズの装用時に発生しがちな異物感や不快感を抑制することが求められる。例えば、特開2001−125052号公報(特許文献1)には、コンタクトレンズの濡れ性を向上させることにより、コンタクトレンズの装用感の改善を図ったコンタクトレンズ装着液が記載されている。この特許文献1に記載のコンタクトレンズ用組成物においては、増粘剤としてポリビニルアルコールやヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)を配合することにより、コンタクトレンズ表面の濡れ性が向上されている。
【0004】
ところが、このようなコンタクトレンズ用組成物を用いても、異物感や不快感が充分に解消されない場合がある。その理由としては、コンタクトレンズの濡れ性が向上されることにより、コンタクトレンズに汚れが付着しやすくなることが一因として考えられる。即ち、コンタクトレンズ装着時の異物感や不快感は、コンタクトレンズそのものにより引き起こされるだけでなく、コンタクトレンズに付着した汚れが原因となっている場合がある。このようなコンタクトレンズに付着する汚れに対する解決策としては、例えば、特開2002−322048号公報(特許文献2)に記載のコンタクトレンズ用組成物が考案されている。このコンタクトレンズ用組成物は、重量平均分子量5万〜40万のヒプロメロースを配合することにより、コンタクトレンズに対するタンパク質汚れの付着を抑制するようにしたものである。
【0005】
しかしながら、このようなコンタクトレンズ用組成物を用いても、未だ、装用感の改善効果が充分に得られない場合があった。即ち、コンタクトレンズに付着する汚れとしては、タンパク質汚れだけでなく、脂質汚れの存在が知られている。特に、近年、より酸素透過性に優れたレンズとしてシリコーンハイドロゲル製のソフトコンタクトレンズの普及が進んでいるが、このシリコーンハイドロゲル製のソフトコンタクトレンズは、従来のレンズよりも脂質汚れが付着しやすいという傾向がある。それ故、市場では、脂質汚れに起因する異物感や不快感を解消できるコンタクトレンズ用組成物に対する要望が高まってきているのである。一方、コンタクトレンズ用組成物は、直接に目に触れる状況で用いられることが多いことから、高度な安全性が求められる。脂質に対する洗浄力や付着抑制力の高い界面活性剤は一般に眼刺激を惹起するため、こうしたコンタクトレンズ用組成物には採用し難いという問題があり、このような市場の要望に応え得るコンタクトレンズ用組成物は未だ完成されていなかった。特に上述の様なシリコーンハイドロゲル製ソフトコンタクトレンズに適するコンタクトレンズ用組成物としては、安全性はもちろんであるが、(1)脂質に対する洗浄力と(2)レンズ表面に対する脂質付着抑制力、さらには(3)コンタクトレンズの装用感の向上、すなわち前眼部とコンタクトレンズとの接触による摩擦の低減が求められ、上記(1)〜(3)の要素をバランス良く両立することがきわめて重要である。しかしながらこれら要素を同時に達成することは従来技術では困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−125052号公報
【特許文献2】特開2002−322048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、人体に対する安全性の高い物質を用いて、コンタクトレンズに付着した脂質汚れに対する洗浄作用と、新たな脂質汚れの付着の抑制作用とを同時に発揮させつつ、しかも、コンタクトレンズと眼の前眼部との間に生じる摩擦の低減をも実現し得る、新規なコンタクトレンズ用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下のヒプロメロースが0.5〜1.5w/v%の濃度で含まれていると共に、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・sであるポリビニルアルコールが0.8〜2w/v%の濃度で含まれており、且つ20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sであることを、特徴とする。
【0009】
本態様によれば、従来から増粘剤等としてコンタクトレンズ用組成物に用いられているヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)とポリビニルアルコールに関して、特定粘度のものを採用し、それらを互いに組み合わせて配合して全体の動粘度を所定の範囲に調整した。また、ヒプロメロースとポリビニルアルコールの濃度を特定の範囲となるように調整した。これにより、これまで対処が困難であったコンタクトレンズに付着した脂質汚れに対する洗浄効果を発揮させることができると共に、コンタクトレンズ表面への新たな脂質汚れの付着を防止することができる。これにより、脂質汚れに起因するコンタクトレンズの装用感の低下を良好に抑えることができる。
【0010】
さらに、本態様によれば、コンタクトレンズそのものと眼との接触に起因する異物感や不快感をも好適に抑制することができる。即ち、発明者らが検討したところ、コンタクトレンズ装着時におけるコンタクトレンズそのものに起因する不快感の要因としては、コンタクトレンズと眼の前眼部との間に生じる摩擦が問題となっていることが見出された。本態様によれば、特定粘度及び特定濃度のヒプロメロースとポリビニルアルコールとを組み合わせて、全体の20℃における動粘度を3.0〜8.0mm2 /sに調整することによって、コンタクトレンズ表面において発生する摩擦を有利に低減させることができる。従って、本態様によれば、従来から使用されている安全性の高い化合物を使用しつつも、脂質汚れとコンタクトレンズそのものとに起因する異物感等を何れも有効に抑制し、コンタクトレンズの装用感を有利に改善することができるのである。
【0011】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に記載されたコンタクトレンズ用組成物において、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ洗浄液、コンタクトレンズ保存液、コンタクトレンズすすぎ液、点眼薬、洗眼薬、コンタクトレンズパッケージング溶液、点眼装着薬のうちの少なくとも一つとして用いられるものである。
【0012】
本態様によれば、特定粘度及び特定濃度のヒプロメロースおよびポリビニルアルコールを組み合わせて配合することにより、脂質洗浄力や脂質付着抑制力、および、摩擦低減効果に優れたコンタクトレンズ装着液等を提供することができる。また、本態様は、特に前記第二の態様と組み合わせて採用されることが望ましい。前記第二の態様に従い、特定の粘度及び濃度のヒプロメロースおよびポリビニルアルコールと、特定の濃度の塩酸ポリヘキサニドとが配合されることにより、過剰な消毒効果を充分に抑制しつつ、充分な防腐作用を発揮させることが可能となる。これにより、眼等への影響を抑えつつ、且つ、利便性にも優れたコンタクトレンズ装着液等を提供することができる。また、本態様に従うコンタクトレンズ用組成物は、上述の各種の用途に用いられる液剤のうち、例えばコンタクトレンズ洗浄液とコンタクトレンズ保存液の作用を併せ持つコンタクトレンズ用多目的液剤として用いられるものであってもよい。
【0013】
本発明の別の好ましい態様は、前記第一又は第二の態様に記載されたコンタクトレンズ用組成物において、ヒプロメロースに対するポリビニルアルコールの配合比が1:1〜1:3であるものである。
【0014】
本態様によれば、脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果を有効に発揮することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に従うコンタクトレンズ用組成物によれば、特定の粘度及び濃度のヒプロメロースとポリビニルアルコールという、何れも人体に対する安全性の高い物質の組み合わせによって、脂質汚れに対する洗浄作用と付着抑制作用とを同時に発揮させることができる。また、これらの物質を配合することにより、コンタクトレンズと眼の前眼部との間に生じる摩擦を低減させることができる。これにより、脂質汚れと、コンタクトレンズそのものとに起因する異物感等を何れも有効に低減させ、コンタクトレンズの装用感を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、コンタクトレンズ用組成物に関する本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0017】
本発明の一実施形態としてのコンタクトレンズ用組成物は、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下のヒプロメロースが0.5〜1.5w/v%の濃度で含まれていると共に、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・sであるポリビニルアルコールが0.8〜2w/v%の濃度で含まれており、且つ20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sとされている。即ち、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物は、製剤全体の20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sとなる範囲において、特定の粘度のヒプロメロースとポリビニルアルコールとを組み合わせて配合したことにより、コンタクトレンズ装着時における異物感や不快感を低減することが可能である。
【0018】
より具体的には、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物は、コンタクトレンズに直接又は間接的に接して用いられる各種の溶液、例えば、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ洗浄液、コンタクトレンズ保存液、コンタクトレンズすすぎ液、タンパク質処理剤、コンタクトレンズ用多目的液剤(MPS)、コンタクトレンズ消毒液、点眼薬、洗眼薬、コンタクトレンズパッケージング溶液、点眼装着薬等として用いられるものである。中でも、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物は、特にコンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ洗浄液、コンタクトレンズ保存液、コンタクトレンズすすぎ液、点眼薬、洗眼薬、コンタクトレンズパッケージング溶液、点眼装着薬のうちの少なくとも一つとして用いられることが望ましい。
【0019】
本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物は、各種の公知のコンタクトレンズに対して使用することができる。具体的には、例えばハードコンタクトレンズ、酸素透過性ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズ、シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズ、ハイブリッドコンタクトレンズ(酸素透過性ハードコンタクトレンズとソフトコンタクトレンズとを組み合わせたコンタクトレンズなど、2種以上の素材を組み合わせてなるコンタクトレンズ)、オルソケラトロジー用レンズ、おしゃれ用カラーコンタクトレンズ、強角膜コンタクトレンズ等である。また、コンタクトレンズの使用形態も特に限定されない。即ち、1日又は1週間から数ヶ月間等の短期間のみ使用される使い捨て用のコンタクトレンズであってもよいし、より長期間使用される通常のコンタクトレンズであってもよい。
【0020】
コンタクトレンズ用組成物に配合されるヒプロメロース(ヒドロキシメチルプロピルセルロース)としては、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下、好ましくは2.5〜5.1、より好ましくは2.5〜3.5mPa・sのものが用いられる。なお、このヒプロメロースの粘度は、第15改正日本薬局方に記載のヒプロメロースの粘度測定法に従い測定された値である。また、このようなヒプロメロースは市場で容易に入手することができ、さらにはヒプロメロースの種々置換度を選択することができる。例えば、置換度タイプが2208、2906,2910から選ばれるが、その中でも置換度タイプが2910のものが特に好適に選択される。具体的には、例えば信越化学工業株式会社製のTC−5EおよびTC−5M等が採用可能である。
【0021】
また、ポリビニルアルコールとしては、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・s、好ましくは12〜30mPa・s、より好ましくは21〜29mPa・s、さらに好ましくは23〜27mPa・sのものが用いられる。このような特定粘度のポリビニルアルコールも市場で容易に入手可能であり、ポリビニルアルコールのケン化度も種々選択が可能である。例えば、完全ケン化型や中間ケン化型、部分ケン化から選ばれるが、その中でも部分ケン化型および中間ケン化型が特に好適に選択される。具体的には、例えば日本合成化学株式会社製のP−610、ゴーセノールEG−25、ゴーセノールEG−30、および、日本酢ビ・ポバール株式会社製のVP−18等が採用可能である。なお、ポリビニルアルコールの粘度は、工業用途の製品であるP−610の場合はJIS K 6726に記載のポリビニルアルコール試験方法に従い測定された値である。また、医薬品添加物規格に従うゴーセノールEG−25、ゴーセノールEG−30、VP−18等の製品の場合は、医薬品添加物規格ポリビニルアルコール(部分けん化物)に記載の試験方法に従い測定された値である。
【0022】
本実施形態によれば、これら特定の粘度のヒプロメロースとポリビニルアルコールを組み合わせて配合することにより、コンタクトレンズに付着した脂質に対する洗浄効果と、脂質の付着を抑制する脂質付着抑制効果と、コンタクトレンズと眼の前眼部との摩擦を低減する摩擦低減効果とを何れも良好に発揮することができる。その結果、コンタクトレンズに付着する脂質汚れに起因する異物感や不快感と、コンタクトレンズそのものに起因する異物感や不快感を何れも軽減することができ、コンタクトレンズの装用感を有利に向上させることが可能である。
【0023】
特に、これらヒプロメロースおよびポリビニルアルコールは、上述の特定の粘度の範囲内のものであっても、何れか一方のみを配合した場合には充分な効果を発揮することができない。例えば、特定粘度のヒプロメロースのみを配合した場合には、僅かな脂質洗浄効果は発揮できるものの、脂質付着抑制効果や摩擦低減効果は殆ど発揮することができない。同様に、特定粘度のポリビニルアルコールのみを配合した場合には、脂質付着抑制効果および摩擦低減効果は僅かに発揮できるものの、脂質洗浄効果は殆ど発揮されない。一方、詳細な理由は不明であるが、このような特定粘度のヒプロメロースとポリビニルアルコールを組み合わせた場合には、脂質洗浄効果、脂質付着抑制効果、摩擦低減効果の3つの効果が、各物質を単体で加えた場合よりも顕著に向上されるのである。
【0024】
また、ヒプロメロースおよびポリビニルアルコールは、何れか一方でも上述の特定の粘度の範囲を外れると、このような特定の効果を充分に発揮することができない。即ち、本実施形態では、ヒプロメロースとして、粘度および分子量が比較的小さな、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下、好ましくは2.5〜5.1、より好ましくは2.5〜3.5mPa・sとなる特定のヒプロメロースを採用している。また、ポリビニルアルコールとしては、粘度および分子量が中程度の、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・s、好ましくは12〜30mPa・s、より好ましくは21〜29mPa・s、さらに好ましくは23〜27mPa・sの範囲のものを採用している。そして、このような特定の粘度のヒプロメロースおよびポリビニルアルコールを互いに組み合わせて採用したことにより、これまで両立して発揮させることが困難であった脂質洗浄および脂質付着抑制効果と、摩擦低減効果とを、何れも有効に、しかも、単体で加えた場合よりもさらに効果的に発現させることができるのである。なお、上記特定の粘度のヒプロメロースおよびポリビニルアルコールを有効成分とした組み合わせは、本実施形態におけるコンタクトレンズ表面の脂質洗浄剤、コンタクトレンズ表面への脂質付着抑制剤、あるいはコンタクトレンズと前眼部との摩擦低減剤として働くことはいうまでもない。
【0025】
このような相乗効果が発現される詳細な理由は不明であるが、一つの推測としては、比較的分子量の小さなヒプロメロースと、分子量の中程度のポリビニルアルコールとを相互に組み合わせることにより、比較的小さな分子量のヒプロメロース分子が界面活性作用を良好に発揮して充分な洗浄力を発揮し、且つ、分子量がやや大きめのポリビニルアルコールがコンタクトレンズの周りに集まり、レンズをコーティングするようにして脂質の付着を抑制していることが考えられる。また、コンタクトレンズ表面においては、単に分子量の小さな物質のみではコンタクトレンズ表面と上手くなじむことができず、また、分子量の大きな物質のみでも粘りが過剰となって、摩擦を低減することが難しい。しかしながら、特定の範囲の、低粘度のヒプロメロース分子と中程度の粘度のポリビニルアルコール分子とが組み合わされることにより、コンタクトレンズ表面において適切な滑りやぬめりが生じ、その結果、コンタクトレンズ表面において生じる摩擦を有効に低減することができるものと推測される。
【0026】
また、本実施形態におけるコンタクトレンズ用組成物は、コンタクトレンズ用組成物の20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sとされる。なお、コンタクトレンズ用組成物の20℃における動粘度は、より好ましくは3.0〜5.0mm2 /s、さらに好ましくは3.1〜4.4mm2 /sとされる。このように、コンタクトレンズ用組成物の動粘度が3.0〜8.0mm2 /sの特定の範囲とされている場合には、目的とする脂質洗浄効果、脂質付着抑制効果、摩擦低減効果が、何れも有効に発揮される。一方、コンタクトレンズ用組成物の動粘度が3.0〜8.0mm2 /sの範囲から外れると、脂質洗浄効果、脂質付着抑制効果、摩擦低減効果のうち少なくとも何れかが、充分に発揮され得ないおそれがある。なお、コンタクトレンズ用組成物の動粘度は、第15改正日本薬局方に記載の一般試験法2.53 粘度測定法第1法に従い測定された値である。
【0027】
本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物において採用される上述の特定の粘度のヒプロメロースおよびポリビニルアルコールの具体的な濃度は、コンタクトレンズ用組成物の20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sとなり、所望の脂質洗浄効果、脂質付着抑制効果、摩擦低減効果の3つの効果が充分に発揮される範囲であれば、特に限定されることなく任意に変更が可能である。具体的には、例えば、ヒプロメロースの濃度は、好ましくは0.5〜1.5w/v%、より好ましくは0.6〜1.0w/v%とされる。また、ポリビニルアルコールの濃度は好ましくは0.8〜2.0w/v%、より好ましくは0.9〜2.0w/v%の範囲とされる。さらに、ヒプロメロースに対するポリビニルアルコールの配合比は、1:1〜1:3とされていることが望ましい。ヒプロメロースおよびポリビニルアルコールの濃度や、ヒプロメロースに対するポリビニルアルコールの配合量の比率がこのような特定の範囲内である場合には、脂質洗浄効果、脂質付着抑制効果、摩擦低減効果がより有利に発揮される。しかしながら、これらヒプロメロースおよびポリビニルアルコールの具体的な濃度や相対的な比率は、使用するヒプロメロースおよびポリビニルアルコールの粘度等に応じても適宜変更が可能である。
【0028】
なお、ヒプロメロースおよびポリビニルアルコールは、上記特定の粘度の範囲内のヒプロメロースとポリビニルアルコールとが一種類ずつ配合されていてもよいが、例えば、特定粘度の範囲内のヒプロメロースやポリビニルアルコールがそれぞれ二種類以上組み合わせて配合されていてもよい。また、上記特定粘度の範囲内のヒプロメロースおよびポリビニルアルコールが少なくとも一種類配合されていれば、脂質洗浄効果、脂質付着抑制効果、摩擦低減効果を制限しない範囲において、上記特定粘度の範囲外のヒプロメロースやポリビニルアルコールを更に組み合わせて配合してもよい。
【0029】
また、ヒプロメロースとポリビニルアルコール以外の残部には、本コンタクトレンズ用組成物の脂質洗浄効果、脂質付着抑制効果、摩擦低減効果を損なわない限りにおいて、公知のコンタクトレンズ用組成物に用いられる添加剤等が眼科的に許容される範囲で配合されていてもよい。具体的には、例えば公知の緩衝剤、pH調整剤、界面活性剤、増粘剤、等張化剤、キレート剤、湿潤剤、安定剤、香料又は清涼化剤、薬剤、抗菌剤、ビタミン類、防腐剤・殺菌剤等が、一種又は二種以上組み合わされて配合され得る。
【0030】
緩衝剤としては、例えばホウ酸、ホウ砂及びホウ酸塩緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、クエン酸及びクエン酸塩緩衝剤、酢酸等のカルボン酸類、オキシカルボン酸等の酸やその塩、アミノエチルスルホン酸、アスパラギン酸、グリシン、アルギニン、グルタミン酸等のアミノ酸類、ε- アミノカプロン酸、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパン(AMP)緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝液、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis−Tris)、リン酸及びリン酸塩緩衝剤、Good−Buffer等が挙げられる。
【0031】
pH調整剤としては、例えば塩酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のリン酸塩、硫酸等が挙げられる。
【0032】
界面活性剤としては、従来から公知のアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤の何れもが、適宜に採用され得る。このような界面活性剤としては、例えばポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレン水素添加ステロール、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー(ポロクサマー類)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン置換エチレンジアミン(ポロクサミン類)、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリソルベート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキル脂肪酸塩、アルキルリン酸塩、N−アシルタウリン塩、アルキルグルタミン酸塩、アルキルグリシン塩、アルキルアラニン塩、ココイル脂肪酸アルギニン、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、酢酸ベタイン型両面活性剤、アルキルオキシヒドロキシプロピルアルギニン塩、ココイルアルギニンエチルPCA等が挙げられる。
【0033】
増粘剤としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸、Copolymer845(ポリビニルピロリドンとジメチルアミノエチルメタクリレートの共重合ポリマー)等の合成有機高分子化合物等や、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体や、スターチ誘導体、アルギン酸(塩)、ペクチン、キトサン及びそれらの塩等の多糖類、ジェランガム等ヘテロ多糖類や、ヒアルロン酸(塩)、コンドロイチン硫酸
(塩)等のムコ多糖類等が挙げられる。また、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・sよりも大きなヒプロメロースや、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10mPa・sよりも小さい、または、35mPa・sよりも大きいポリビニルアルコールを、増粘剤として配合することも可能である。なお、眼に対して安全であり、しかもコンタクトレンズに対する影響が少ないこと、さらにはコンタクトレンズ用組成物の使用感を向上させるという理由から、特に、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸(塩)、ジェランガム、ヒアルロン酸(塩)、コンドロイチン硫酸(塩)を採用することが好ましい。また、増粘剤は、コンタクトレンズ用組成物の20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sとなる範囲で添加される。
【0034】
等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等の無機塩類、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール若しくはそのエーテル又はエステル等が挙げられる。
【0035】
キレート剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びその塩、エチレンジアミン四酢酸・2ナトリウム(EDTA・2Na)、エチレンジアミン四酢酸・3ナトリウム(EDTA・3Na)、エチレンジアミン四酢酸・4ナトリウム(EDTA・4Na)、フィチン酸、クエン酸等が挙げられる。
【0036】
湿潤剤としては、例えばグリセリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、エリトリトールなどの糖アルコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、カチオン化セルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びメチルセルロース等のセルロース誘導体、エタノール、イソプロパノール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール等の低級あるいは高級アルコール類、アルモンド油、ラノリン、オリーブ油、オレイン酸及び/又はその塩、流動パラフィン、トリグリセリド、スクワラン、ワセリン、シリコン油、ゴマ油、シソ油、ダイズ油、ツバキ油、ホホバ油、トウモロコシ油、ヒマシ油等の油脂類等が挙げられる。なお、眼に対して安全であり、しかもコンタクトレンズに対する影響を少なくすること、さらにはコンタクトレンズ用組成物の使用感を向上させるという理由から、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、エリトリトールなどの糖アルコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、カチオン化セルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びメチルセルロース等のセルロース誘導体が選択されることが好ましい。
【0037】
安定剤としては、アスコルビン酸、エデト酸ナトリウム、シクロデキストリン、縮合リン酸、亜硫酸塩、クエン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0038】
香料又は清涼化剤としては、例えばアネトール、オイゲノール、カンフル、クロロブタノール、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、メントール、リモネン、リュウノウ、ウイキョウ油、クールミント油、ケイヒ油、スペアミント油、ハッカ水、ハッカ油、ペパーミント油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油などが挙げられる。
【0039】
薬剤としては、例えばクロモグリク酸、トラニラスト、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、アンレキサノクス、イブジラスト、ペミロラストカリウム、フマル酸エメダスチン、フマル酸ケトチフェン、塩酸オロパタジン、エバスチン、アシタザノラスト、レボカバスチン、塩酸セチリジン等の抗アレルギー剤や、グリチルリチン酸及びその塩、ε−アミノカプロン酸、アラントイン、アズレンスルホン酸ナトリウム、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、リゾチーム、フルオロメトロン等のステロイド系または非ステロイド系の消炎剤、エピネフィリン、塩酸エピネフィリン、塩酸エフェドリン、塩酸ナファゾリン、硝酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸テトラヒドロゾリン等の血管収縮剤、メチル硫酸ネオスチグミン等のピント調節機能改善剤、ベタキソロール、チモロール、ジピベフリン、カルテオロール、ラタノプラスト、タフルプラスト、トラボプラスト、ニプラジロール、レボブノール等の眼圧降下剤、レバミピド、ジクアホソルナトリウム等のムチン分泌産生促進剤等、アスパラギン酸及びその塩、アミノエチルスルホン酸、アルギニン、アラニン、リジン、グルタミン酸等のアミノ酸類等が挙げられる。
【0040】
抗菌剤としては、例えばスルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、スルフィソキサゾール、スルフィソミジンナトリウム等のサルファ剤、オフロキサシン、ノルフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、モキシフロキサシン、トスフロキサシン、ロメフロキサシン、シプロフロキサシン等のニューキノロン系抗菌剤、トブラマイシン、ゲンタマイシン、ミクロノマイシン、ジベカシン、シソマイシン等のアミノグリコシド系抗菌剤、テトラサイクリン、ミノサイクリン等のテトラサイクリン系抗菌剤、エリスロマイシン等のマクロライド系抗菌剤、クロラムフェニコール等のクロラムフェニコール系抗菌剤、セフメノキシム等のセフェム系抗菌剤等が挙げられる。
【0041】
ビタミン類としては、例えばビタミンA類(パルミチン酸レチノール、β−カロテン等を含む)、ビタミンB2(フラビンアデニンヌクレオチド等)、ビタミンB6(塩酸ピリドキシン等)、ビタミンB12(シアノコバラミン等)、ビタミンC類(アスコルビン酸等)、ビタミンE類(酢酸−d−α−トコフェロール等)、パンテノール等が挙げられる。
【0042】
防腐剤・殺菌剤としては、例えばソルビン酸、ソルビン酸カリウム、安息香酸或いはその塩、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸メチル、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム、塩酸ポリヘキサニド(ポリヘキサメチレンビグアニド;PHMB)、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩化セチルピリジニウム(CPC)、クロルヘキシジン、アレキシジン、クロルフェニラミン又はその塩、アラントイン、二酸化塩素、過ホウ酸ナトリウム、塩化ポリドロニウム等のポリクオタニウム類等が挙げられる。なお、このような防腐剤を使用した場合、製品の開封後における使用期限の目安を例えば2〜3ヶ月とすることも可能であるが、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物は、防腐剤を添加しない、いわゆる防腐剤フリーのコンタクトレンズ用組成物とすることも可能である。防腐剤フリーとする場合には、通常のマルチドーズタイプのほかに、1 回で使い切るシングルドーズタイプとしたり、数回程度使用可能なマルチドーズタイプ、あるいはコンタクトレンズ用組成物内で細菌等の繁殖が起こらない様に無菌性を維持し得る構造のフィルター付き吐出容器を使用したマルチドーズタイプなどの態様を、適宜選択することができる。
【0043】
なお、防腐剤・殺菌剤としては、上記の化合物のうち、塩酸ポリヘキサニドが特に好適に採用される。また、塩酸ポリヘキサニドの濃度は任意に設定が可能であるが、特に、塩酸ポリヘキサニドを防腐剤として用いる場合には、塩酸ポリヘキサニドが0.00005〜0.0001w/v%の濃度で配合される。このような特定の範囲の濃度で塩酸ポリヘキサニドを配合すれば、特定の粘度のヒプロメロースとポリビニルアルコールとが組み合わせて配合されていることにより、塩酸ポリヘキサニドが過剰な消毒作用を発揮することを抑制しつつ、しかも、所望の防腐作用を充分に発揮させることができる。
【0044】
すなわち、塩酸ポリヘキサニドは、高濃度で用いれば、菌の増殖を抑える防腐作用だけでなく、より強力な殺菌・消毒作用を発揮する。このような殺菌作用は、コンタクトレンズ用組成物がコンタクトレンズ用の消毒剤として使用される場合には有用であるが、コンタクトレンズ用組成物が消毒剤以外の用途、例えばコンタクトレンズ装着液や点眼液等として用いられる場合には、眼に存在する無害な常在菌に対してまでも殺菌作用を及ぼしてしまうおそれがある。従って、コンタクトレンズ用組成物が消毒剤以外として使用される場合には、塩酸ポリヘキサニドの消毒作用が抑制されている一方、充分な防腐作用が発揮されていることが望ましい。ここにおいて、従来のコンタクトレンズ用組成物においては、塩酸ポリヘキサニドの消毒作用を抑制しつつ、所望の防腐作用のみを発揮させることは困難であった。しかしながら、本実施形態に従えば、特定の粘度のヒプロメロースとポリビニルアルコールと組み合わせて、0.00005〜0.0001w/v%の範囲で塩酸ポリヘキサニドを配合することにより、殺菌・消毒作用の発現を抑えつつ、所望の防腐作用を発揮させることができる。従って、眼に対する影響を抑制しつつも、保存期間中における菌の増殖を有効に防止し得る、安全性の高いコンタクトレンズ用組成物を提供することができる。特に、コンタクトレンズ用組成物は、使用者による開封後に数回に分けて使用されるような場合が多いことから、このような防腐作用は特に有用である。なお、塩酸ポリヘキサニドの濃度が0.00005w/v%以下であると、充分な防腐作用が発揮できなくなる場合がある。一方、0.0001w/v%以上とされている場合には、特定の粘度のヒプロメロースとポリビニルアルコールとが配合されていても、消毒作用を充分に抑制できないおそれが生じる。また、塩酸ポリヘキサニドの濃度が0.00005〜0.0001w/v%の範囲内であっても、ヒプロメロースまたはポリビニルアルコールの粘度が本実施形態に従う範囲を外れている場合には、特に、消毒抑制効果が好適に発揮されなくなる。本発明のさらなる態様としては、上記特定粘度のヒプロメロースとポリビニルアルコールとを有効成分とした殺菌・消毒作用抑制剤として配合することにより、上記所定濃度における塩酸ポリヘキサニドが発現する所望の防腐作用を発揮、維持しつつ、殺菌・消毒作用を抑制する方法も含まれる。即ち、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下のヒプロメロースと、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・sであるポリビニルアルコールとを含み、且つ20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sであるコンタクトレンズ用組成物に対して、塩酸ポリヘキサニドを0.00005〜0.0001w/v%の濃度で配合することにより、該コンタクトレンズ用組成物の防腐作用を発揮、維持しつつ、殺菌・消毒作用を抑制する方法を提供するものである。
【0045】
なお、このような塩酸ポリヘキサニドを0.00005〜0.0001w/v%の範囲の濃度で含む構成は、上述したように、コンタクトレンズ用組成物が、コンタクトレンズ用の消毒剤以外の用途に用いられる場合に特に好適に採用される。具体的には、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ洗浄液、コンタクトレンズ保存液、コンタクトレンズすすぎ液、点眼薬、洗眼薬、コンタクトレンズパッケージング溶液、点眼装着薬のうちの少なくとも一つとして用いられる場合である。また、これらの用途のうち、例えばコンタクトレンズ洗浄液とコンタクトレンズ保存液の作用を併せ持つコンタクトレンズ用多目的液剤であってもよい。このような用途で用いられるコンタクトレンズ用組成物は、特に、眼に対して直接に接する可能性が大きく、しかも、コンタクトレンズ用組成物が使用者に用いられる際に開封後に複数回に分けて使用される場合が多い。従って、過剰な殺菌性が抑制されている一方、充分な防腐性を備えていることが望ましいのである。なお、コンタクトレンズ用組成物を消毒剤として用いる場合や、消毒剤の効果を備えたコンタクトレンズ用多目的液剤として用いる場合には、塩酸ポリヘキサニドの濃度は0.0001w/v%よりも多くてもよい。
【0046】
また、塩酸ポリヘキサニドは、コンタクトレンズ用組成物の製造時に行われるろ過滅菌等の過程において、ろ過滅菌用のフィルターに吸着されてしまいやすいことが知られている。例えば、ヒプロメロースおよびポリビニルアルコールを含まない従来のコンタクトレンズ用組成物をろ過フィルターを用いてろ過した場合には、塩酸ポリヘキサニドの全体量に対して20%程度の塩酸ポリヘキサニドが吸着されてしまう。このような従来のコンタクトレンズ用組成物においては、このろ過フィルターへの吸着により、ろ過後の組成物において塩酸ポリヘキサニドの濃度が低下し、その結果、所期の防腐作用や殺菌作用が充分に発揮されないおそれがあるという問題が生じていた。しかしながら、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物においては、所定の粘度のヒプロメロースとポリビニルアルコールとが組み合わせて配合されていることにより、ろ過フィルターを用いた滅菌処理が行われても、塩酸ポリヘキサニドのろ過フィルターへの吸着が有利に低減される。即ち、特定の粘度のヒプロメロースとポリビニルアルコールとを含む本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物によれば、塩酸ポリヘキサニドのろ過フィルターへの吸着量を、塩酸ポリヘキサニドの全体量に対して10%程度以下に抑えることができる。本発明のさらなる態様としては、上記特定粘度のヒプロメロースとポリビニルアルコールとを有効成分としたろ過フィルターへの吸着抑制剤として配合することにより、ろ過フィルターを用いた滅菌処理の際、塩酸ポリヘキサニドのろ過フィルターへの吸着を抑制する方法も含まれる。即ち、塩酸ポリヘキサニドが配合されたコンタクトレンズ用組成物に、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下のヒプロメロースと、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・sであるポリビニルアルコールとを配合し、且つ該コンタクトレンズ用組成物の20℃における動粘度を3.0〜8.0mm2 /sとすることにより、ろ過フィルターを用いた滅菌処理の際、塩酸ポリヘキサニドのろ過フィルターへの吸着を抑制する方法を提供するものである。
【0047】
このように、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物によれば、ろ過滅菌時における濃度の低下が抑止されることにより、ろ過後の無菌化されたコンタクトレンズ用組成物において、所期の防腐作用や消毒作用を充分に発揮させることができる。即ち、従来、ろ過滅菌を行う場合においては、ろ過フィルターへの吸着量が大きいことにより、吸着分を見越して塩酸ポリヘキサニドを配合し、ろ過後の組成物の塩酸ポリヘキサニドの濃度を適切な範囲にすることが困難であったが、本実施形態によれば、ろ過フィルターを用いた滅菌処理を実施しても、ろ過フィルターへの塩酸ポリヘキサニドの吸着量が小さいことから、ろ過滅菌後のコンタクトレンズ用組成物における塩酸ポリヘキサニドの濃度をより簡単に、しかも、より精密に調整することが可能となる。
【0048】
ろ過フィルターとしては、無菌溶液を調整できるものであればその種類は問わないが、例えば、孔径が0.1〜5.0μmのメンブレンフィルターやディスポーザブルシリンジフィルター等が採用される。本実施形態によれば、塩酸ポリヘキサニドを含むコンタクトレンズ用組成物に対してこのようなろ過フィルターを用いても、塩酸ポリヘキサニドのろ過フィルターへの吸着を抑えられることから、コンタクトレンズ用組成物に含まれる各化合物の変性やpHの変動等の影響を及ぼす可能性が大きい高圧蒸気滅菌処理を行うことなく、ろ過フィルターを用いた滅菌処理によりコンタクトレンズ用組成物を無菌状態とすることができる。従って、高圧蒸気滅菌により滅菌されたコンタクトレンズ用組成物に比して、滅菌後におけるコンタクトレンズ用組成物の物性等をより安定した状態とすることができる。
【0049】
また、上記のとおり、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物においては、コンタクトレンズ用組成物の20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sとなる範囲内に調節される限り、上述のヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム等の任意の増粘剤を含有することができる。これらの増粘剤の具体的な配合量は、コンタクトレンズ用組成物の20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sとなる範囲内に調節される限りの範囲で、採用する増粘剤の種類等に応じて適宜変更され得るが、例えば、0.001〜1.0w/v%等とされる。なお、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物においては、コンタクトレンズ用組成物の20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sとなる範囲内に調節される限り、例えば増粘剤の配合量が0.001w/v%よりも低濃度とされている場合や、1.0w/v%を越える濃度で配合されている場合にも、目的とする脂質洗浄効果、脂質付着抑制効果、摩擦低減効果が有効に発揮される。
【0050】
さらに、本実施形態によれば、特定粘度のヒプロメロースとポリビニルアルコールを配合することにより、特に脂質に対する洗浄作用を充分に発揮させることができることから、先に例示したような公知の界面活性剤の配合量を削減したり、何等添加しないようにすることもできる。即ち、本実施形態に従えば、人体やコンタクトレンズに対する安全性や安定性に優れたヒプロメロースおよびポリビニルアルコールを組み合わせて配合することで、ヒプロメロースおよびポリビニルアルコール以外に界面活性剤を何等加えることなく、コンタクトレンズ用組成物を構成することも可能である。これにより、装用感の改善効果が高く、しかも安全性にも優れたコンタクトレンズ用組成物を提供することができる。
【0051】
コンタクトレンズ用組成物のpHや浸透圧は、目的とする脂質洗浄効果、脂質付着抑制効果、摩擦低減効果や、ユーザーの眼およびコンタクトレンズの物性等に影響を及ぼさない範囲に適宜調整されていることが望ましい。例えば、pHは、3.0〜9.0、好ましくは5.0〜9.0、より好ましくは5.5〜8.0の範囲に調整されていることが望ましい。また、浸透圧は、100〜1000mOsm/kg、好ましくは170〜450mOsm/kg、より好ましくは250〜450mOsm/kgとされていることが望ましい。なお、ヒプロメロースおよびポリビニルアルコールやその他の添加剤の溶媒としては水が望ましいが、具体的には、例えば日本薬局方にて規定されている常水、精製水、滅菌精製水、注射用水の他、純水、蒸留水、濾過水等が任意に採用される。
【0052】
コンタクトレンズ用組成物の使用の形態は、特に限定されない。例えば、従来のコンタクトレンズ保存液やコンタクトレンズ用多目的液剤のように、装用前や装用後のコンタクトレンズ単体に対して用いてもよいし、従来の点眼液や洗眼液のように、装用中のコンタクトレンズに対して使用してもよい。本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物によれば、何れの場合においても、脂質に対する洗浄作用や脂質付着作用、摩擦低減作用を発揮することができ、コンタクトレンズ用組成物の装用感を向上させることが可能である。特に、脂質に対する洗浄効果を発揮させるに際しては、例えば、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物を点眼液や装着液として用いる場合には、コンタクトレンズ用組成物をレンズを装着した眼に点眼した後、使用者が瞬きをすることによっても、コンタクトレンズの表面に付着した脂質汚れを洗浄することができる。一方、従来のコンタクトレンズ用洗浄液や多目的液剤と同様に、コンタクトレンズ用組成物をレンズに接触させた状態で、指等によるコンタクトレンズのこすり洗いを行うことにより、脂質汚れを取り除いてもよい。なお、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物を、公知のコンタクトレンズ用保存液や多目的液剤等の他の組成物と組み合わせて使用することも、勿論可能である。
【0053】
以上のように、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物によれば、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下のヒプロメロースと、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・sの範囲であるポリビニルアルコールとを組み合わせて採用すると共に、20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sに調整されていることにより、これまで同時に達成することが困難であった脂質に対する洗浄効果と、脂質付着抑制効果と、摩擦低減効果とを、何れも充分に発揮させることができる。従って、コンタクトレンズに付着した脂質汚れを除去し、且つ、新たな脂質汚れの付着やレンズから取り除いた脂質汚れの再付着を有効に防止できることにより、脂質汚れに起因する異物感等を有利に低減することができる。さらに、コンタクトレンズ表面と眼の前眼部との間における摩擦の発生を抑制できることにより、樹脂製のコンタクトレンズそのものに起因する異物感や刺激等を低減することができる。その結果、コンタクトレンズそのものやレンズに付着した汚れによる刺激を何れも抑制乃至は解消し、コンタクトレンズの装用感を有効に改善することができる。
【0054】
また、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物によれば、ヒプロメロースの濃度が0.5〜1.5w/v%とされると共に、ポリビニルアルコールの濃度が0.8〜2.0w/v%とされていることにより、脂質の洗浄効果と、脂質付着抑制効果と、摩擦低減効果とが、特に有効に発揮される。さらに、ヒプロメロースに対するポリビニルアルコールの配合比が1:1〜1:3の範囲とされていることによっても、これら脂質洗浄および脂質付着抑制効果、摩擦低減効果が、特に有効に発揮される。
【0055】
更にまた、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物によれば、特定の粘度及び濃度のヒプロメロースとポリビニルアルコールとが組み合わせて配合されると共に、塩酸ポリヘキサニドが0.00005〜0.0001w/v%の範囲で配合されることにより、殺菌・消毒効果を眼に存在する無害な常在菌への影響を及ぼさない程度に抑制しつつ、充分な防腐作用を発揮させることができる。また、本実施形態によれば、特定の粘度及び濃度のヒプロメロースとポリビニルアルコールとが配合されていることにより、ろ過滅菌時における塩酸ポリヘキサニドの吸着が抑制されている。従って、ろ過滅菌により無菌化を行った場合であっても、コンタクトレンズ用組成物における塩酸ポリヘキサニドの濃度の低下の問題の発生が抑制され、充分な防腐作用を安定的に発揮可能とされている。
【0056】
また、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物によれば、ろ過フィルターを用いて滅菌処理されていることにより、高圧蒸気滅菌により滅菌されてなるコンタクトレンズ用組成物に比して、滅菌後の物性等がより安定した状態とされている。特に、本実施形態によれば、コンタクトレンズ用組成物が塩酸ポリヘキサニドを含んで構成されていても、コンタクトレンズ用組成物内に特定の粘度のヒプロメロースとポリビニルアルコールとが含まれていることにより、ろ過フィルターへの吸着が有利に抑えられることから、ろ過フィルターを用いたろ過滅菌を行っても、滅菌後の塩酸ポリヘキサニドの濃度を充分に適切に管理することができる。
【0057】
また、本実施形態に従えば、脂質洗浄効果と、脂質付着抑制効果と、摩擦低減効果とが、何れも有効に発揮されることから、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ洗浄液、コンタクトレンズ保存液、コンタクトレンズすすぎ液、点眼薬、洗眼薬、コンタクトレンズパッケージング溶液、点眼装着薬のうちの少なくとも一つとして用いられるコンタクトレンズ用組成物を有利に提供できる。特に、塩酸ポリヘキサニドが0.00005〜0.0001w/v%の範囲で配合されている場合には、殺菌・消毒作用を抑制しつつ充分な防腐作用を発揮できることから、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ洗浄液、コンタクトレンズ保存液、コンタクトレンズすすぎ液、点眼薬、洗眼薬、コンタクトレンズパッケージング溶液、点眼装着薬のうちの少なくとも一つとして、特に有利に用いることができる。
【0058】
以上、コンタクトレンズ用組成物に関する本発明について、好適な実施態様を具体的に例示しつつ詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、上述の具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。例えば、本実施形態に従うコンタクトレンズ用組成物は、滅菌処理が施されて無菌状態とされていることが望ましいが、具体的な滅菌方法は、ろ過フィルターを用いたろ過滅菌処理に限定されず、高圧蒸気滅菌処理が採用されていてもよい。また、高圧蒸気滅菌処理とろ過滅菌処理とが組み合わせて採用されていてもよい。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明の技術的意義を一層明確にするため行った実験結果を示す。
【0060】
先ず、以下の表1に、各実験で用いたヒプロメロース、ポリビニルアルコール、塩酸ポリヘキサニドの詳細を示す。また、表2に、各実験で用いた増粘剤の詳細を示す。表1に記載のとおり、本実施形態に従う20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下のヒプロメロースとしては、TC−5EおよびTC−5Mの2種類を用いる一方、比較例としては、TC−5R、TC−5S、60SH−50、60SH−4000の4種類を用いた。また、本実施形態に従う20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・sの範囲であるポリビニルアルコールとしては、P−610、VP−18、EG−25、EG−30の4種類を用いた。一方、ポリビニルアルコールの比較例としては、EG−05、EG−40の2種類を用いた。ヒプロメロースの粘度の測定方法は第15改正日本薬局方に従うものである。また、ポリビニルアルコールの粘度の測定方法は、工業用途の製品であるP−610の場合はJIS K 6726に記載のポリビニルアルコール試験方法に従うものであり、医薬品添加物規格に従う製品であるVP−18、EG−25、EG−30、EG−05、EG−40の場合は、医薬品添加物規格ポリビニルアルコール(部分けん化物)に記載の試験方法に従うものである。なお、表1においては、ヒプロメロース、ポリビニルアルコールの粘度として、製造元が示している各製品の粘度の基準値を示すと共に、()内に、製造元の発表または公定規格により算出した各製品に含まれ得る粘度の値の範囲を示した。以下の説明においては、理解を容易とする為、使用したヒプロメロースおよびポリビニルアルコールの粘度は製造元の基準値に基づき説明する。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
これらのヒプロメロース、ポリビニルアルコールを用いて、コンタクトレンズ用組成物の実施例および比較例として、以下の表3〜表8に示す配合成分の試験溶液を作成し、以下の実験例1〜6に使用した。なお、表3〜表8に示すとおり、各試験溶液には緩衝剤等の添加剤が適宜配合されている。表3〜表8の各配合成分の濃度の単位は何れもw/v%であり、各試験溶液は、各配合成分を所定濃度(w/v%)となるように精製水で溶解させることにより調整されている。なお、溶解時にはマグネチックスターラーによる攪拌を行い、適宜加熱を行った。調整後の各試験溶液は、それぞれ第15改正日本薬局方に記載の一般試験法2.53 粘度測定法第1法に従い動粘度を測定した。測定した動粘度を、表3〜表8に併せて示している。
【0064】
また、以下の実験例1〜4においては、コンタクトレンズ用組成物の実施例および比較例としての各試験溶液を用いて、脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果の3つをそれぞれ試験した。各試験の試験方法および効果の判定基準は以下のとおりである。
【0065】
脂質洗浄力の試験の詳細を以下に示す。先ず、トリグリセリドとSudanI
(ナカライテスク株式会社製)を99:1にて混合し、ガラスバイアルの底にプレート状に固めることにより、着色油脂プレートを作成した。この着色油脂プレートが敷かれたガラスバイアル内に試験溶液10mLを入れ、25℃で6時間振とうする。その後、各試験溶液を採取し、485nmの吸光度を測定した。各試験溶液の脂質洗浄効果の判定は、ヒプロメロースおよびポリビニルアルコールを何れも含まない試験溶液14または試験溶液33を用いた際の吸光度との比較により行った。即ち、実験例1,2においては試験溶液14の吸光度に対する各試験溶液の吸光度の百分率(%)を求め、以下の基準に基づいて、◎、○、△、×の4段階で評価した。また、実験例3,4においては試験溶液33の吸光度に対する各試験溶液の吸光度の百分率(%)を求め、同様に以下の◎、○、△、×の4段階で評価した。
◎:200%以上
○:150%以上200%未満
△:100%以上150%未満
×:100%未満
【0066】
脂質付着抑制力の試験の詳細を以下に示す。先ず、試験レンズ(メニコン2ウィークプレミオ、株式会社メニコン製)を生理食塩水2mLに1晩以上浸漬した後、各試験溶液2mLに1晩以上浸漬した。次に、スダンブラック(和光純薬工業株式会社製)を70%エタノール10mLに溶解後、蒸留水90mLに加えて作成したスダンブラック溶液2mL内に、各試験レンズを移し、2時間浸漬した。その後、試験レンズを100%エタノール2mL内に移し、スダンブラックを抽出した。このスダンブラックを抽出した溶液の600nmの吸光度を測定することにより、試験レンズに吸着したスダンブラックの量を測定した。各試験溶液の脂質付着抑制力は、ヒプロメロースおよびポリビニルアルコールを何れも含まない試験溶液14または試験溶液33を用いた際の吸光度との比較により評価した。即ち、実験例1,2においては試験溶液14の吸光度に対する各試験溶液の吸光度の百分率(%)を求め、以下の基準に基づいて、◎、○、△、×の4段階にて評価した。また、実験例3,4においては試験溶液33の吸光度に対する各試験溶液の吸光度の百分率(%)を求め、同様に以下の◎、○、△、×の4段階で評価した。
◎:30%未満
○:30%以上50%未満
△:50%以上100%未満
×:100%以上
【0067】
摩擦低減効果の試験の詳細を以下に示す。本試験においては、試験レンズ(メニコン2ウィークプレミオ、株式会社メニコン製)と、PMMAプレート(アクリルプレート)との間の静摩擦力を測定することにより、摩擦低減効果を確認した。先ず、生理食塩水2mLに1晩以上浸漬した試験レンズの水分を軽く拭き取り、冶具に固定する。次に、試験レンズの表面をPMMAプレートに接触させる。そして、試験レンズとPMMAプレートの間に試験溶液を1滴滴下し、PMMAプレートを万能引張試験機で動かした際の静摩擦力を測定した。各試験溶液の摩擦低減効果は、ヒプロメロースおよびポリビニルアルコールを何れも含まない試験溶液14または試験溶液33を用いた際の摩擦力(N)との比較により評価した。即ち、実験例1,2においては試験溶液14の摩擦力(N)に対する各試験溶液の摩擦力(N)の百分率(%)を求め、以下の基準に基づいて、◎、○、△、×の4段階にて評価した。また、実験例3,4においては試験溶液33の摩擦力(N)に対する各試験溶液の摩擦力(N)の百分率(%)を求め、同様に以下の基準に基づいて、◎、○、△、×の4段階にて評価した。
◎:60%未満
○:60%以上80%未満
△:80%以上100%未満
×:100%以上
【0068】
(実験例1)
以下の表3に示すとおり、20℃における2w/w%水溶液の粘度が3mPa・sのヒプロメロースと、20℃における4w/w%水溶液の粘度が5〜40mPa・sの様々なポリビニルアルコールとを用いて、コンタクトレンズ用組成物の実施例および比較例としての試験溶液を作成し、各脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果をそれぞれ確認した。各試験溶液の組成および動粘度と、各脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果の試験結果を表3に併せて示す。
【0069】
【表3】

【0070】
表3に記載のとおり、ヒプロメロースまたはポリビニルアルコールの一方のみを配合した比較例としての試験溶液1〜7では、脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果の少なくとも何れかの項目において、評価が×または△となっている。一方、試験溶液8〜13には、ヒプロメロースとポリビニルアルコールの両方が配合されているが、これらの試験溶液においては、使用したポリビニルアルコールの粘度によって結果が大きく異なっている。即ち、ポリビニルアルコールとして、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・sの範囲内のものを採用した本発明の実施例としての試験溶液9〜12では、全ての評価が◎または○となっており、特に、試験溶液10、11では、全ての評価が◎となっている。一方、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・sの範囲を外れたものを採用した比較例としての試験溶液8、13では、評価項目の全てまたは一部が、×あるいは△となっている。
【0071】
この結果から、粘度の異なるポリビニルアルコールのうち、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・sの範囲内のものをヒプロメロースと組み合わせて採用した場合のみ、脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果が何れも高度に発揮されることがわかる。特に、これら特定のポリビニルアルコールおよびヒプロメロースは、単独で配合した場合には主に×、△程度の低い効果しか得られていないにも関わらず、これら特定の粘度のポリビニルアルコールおよびヒプロメロースを組み合わせて配合した場合には、各効果が何れも相乗的に向上され、優れた効果を発揮していることがわかる。
【0072】
(実験例2)
以下の表4に示すとおり、20℃における2w/w%水溶液の粘度が3〜4000mPa・sの様々な粘度のヒプロメロースと、20℃における4w/w%水溶液の粘度が24mPa・sのポリビニルアルコールとを用いて、コンタクトレンズ用組成物の実施例および比較例としての試験溶液を作成し、各脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果をそれぞれ確認した。各試験溶液の組成および動粘度と、各脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果の試験結果を表4に併せて示す。なお、一部の試験溶液は、上記実験例1で使用したものと同一である。
【0073】
【表4】

【0074】
表4に記載のとおり、ヒプロメロースまたはポリビニルアルコールの一方のみを配合した比較例としての試験溶液4、1および15〜19では、脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果の少なくとも何れかの項目において、評価が×または△となっている。一方、試験溶液10、20〜24には、ヒプロメロースとポリビニルアルコールの両方が配合されているが、使用したヒプロメロースの粘度により、結果が大きく異なっている。即ち、ヒプロメロースとして、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下のものを採用した本発明の実施例としての試験溶液10および20では、全ての評価が◎となっている。一方、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・sよりも大きいものを採用した比較例としての試験溶液21〜24では、評価項目の少なくとも何れかに×または△が存在する。
【0075】
この結果から、粘度の異なるヒプロメロースのうち、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下のものを特定粘度のポリビニルアルコールと組み合わせて採用した場合のみ、脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果が何れも高度に発揮されることがわかる。本実験においても、これら特定のポリビニルアルコールおよびヒプロメロースを単独で配合した場合には主に×、△程度の低い効果しか得られない一方、特定の粘度のヒプロメロースとポリビニルアルコールを組み合わせた場合には、各効果が何れも相乗的に向上されている。
【0076】
(実験例3)
以下の表5に示すとおり、20℃における4w/w%水溶液の粘度が24mPa・sのポリビニルアルコールと、20℃における2w/w%水溶液の粘度が3mPa・sのヒプロメロースとを用いて、これらポリビニルアルコールおよびヒプロメロースの濃度が様々に異なる試験溶液を作成し、各脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果をそれぞれ確認した。各試験溶液の組成および動粘度と、各脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果の試験結果を表5に併せて示す。
【0077】
【表5】

【0078】
表5に記載のとおり、試験溶液25〜32においては、何れも同一種類のヒプロメロースおよびポリビニルアルコールが配合されているが、ヒプロメロースおよびポリビニルアルコールの配合量の変化に伴って、試験溶液の20℃における動粘度及び濃度がそれぞれ異なっている。そして、本実験においては、動粘度が3.0〜8.0mm2 /sの範囲であり、ヒプロメロースの濃度が0.5〜1.5w/v%であり、ポリビニルアルコールの濃度が1〜2w/v%である試験溶液27〜29、31、32においては、脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果が何れも良好に発揮されている。一方、これらの試験溶液の作成に用いたものと同一のヒプロメロースおよびポリビニルアルコールが配合されていても、動粘度が3.0〜8.0mm2 /sの範囲を外れている試験溶液25、26、30においては、脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果の少なくとも何れかの項目において、評価が×または△となっており、所望の効果が得られていないことがわかる。
【0079】
(実験例4)
以下の表6に示すとおり、20℃における2w/w%水溶液の粘度が3または4.5mPa・s及び濃度が0.5〜1.5w/v%であるヒプロメロースと、20℃における4w/w%水溶液の粘度が24または25mPa・s及び濃度が1〜2w/v%であるポリビニルアルコールとを用いると共に、試験溶液の20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sとなる範囲で各種の増粘剤を配合して、コンタクトレンズ用組成物の実施例としての試験溶液を作成し、脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果をそれぞれ確認した。増粘剤としては、表2に示す各種の物質の他、20℃における2w/w%水溶液の粘度が4000mPa・sであるヒプロメロースや、20℃における4w/w%水溶液の粘度が5または40mPa・sであるポリビニルアルコールを使用した。各試験溶液の組成および動粘度と、各脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果の試験結果を表6に併せて示す。
【0080】
【表6】

【0081】
この結果から、20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /s及びヒプロメロースの濃度が0.5〜1.5w/v%、ポリビニルアルコールの濃度が0.8〜1.5w/v%となる範囲であれば、各種の増粘剤を添加しても、脂質洗浄力、脂質付着抑制力、摩擦低減効果が何れも問題なく発揮されることがわかる。
【0082】
次に、以下の実験例5においては、コンタクトレンズ用組成物の実施例および比較例としての各試験溶液を用いて、防腐効果および殺菌効果の2つを試験した。各試験の試験方法および効果の判定基準は以下のとおりである。
【0083】
防腐効果の試験の詳細を以下に示す。防腐効果試験は、第15改正日本薬局方
参考情報 28.保存効力試験法に基づき試験を行った。具体的には、緑濃菌(Psudomonas aeruginosa )を、試験溶液中に、1mLあたり105 〜106 個となるように接種して、22℃で14日間の培養を行った。そして、培養後の生菌数を測定し、接種菌数に対する培養後の生菌数から菌の生存率を算出した。また、供試菌として、大腸菌(Escherichia coli)および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus )を用いて、それぞれ同様に培養試験を行い、菌の生存率を算出した。これらの3種の菌の生存率に基づいて、以下の基準により◎、○、△、×の4段階で防腐効果を評価した。
◎:何れの菌種においても、菌が検出されなかった
○:菌の生存率が0.1%未満である菌種が存在した。
△:菌の生存率が0.1%以上100%未満である菌種が存在した。
×:菌が増殖していた菌種が存在した。
【0084】
殺菌作用抑制効果の試験の詳細を以下に示す。殺菌作用抑制効果の試験は、ISO 14729(Ophthalmic optics - Contact lens care products - Microbiological requirements and test methods for products and regimens for hygienic management of contact lenses, 2001)のstand-alone testを参考に試験を行った。具体的には、緑濃菌(Psudomonas aeruginosa )を、試験溶液中に、1mLあたり105 〜106 個となるように接種して、22℃で4時間の培養を行った。そして、培養後の生菌数を測定し、接種菌数に対する培養後の生菌数から菌の生存率を算出した。かかる生存率に基づいて、以下の基準により殺菌作用抑制効果を◎、○、△、×の4段階で評価した。
◎:菌の生存率が5%以上
○:菌の生存率が0.5%以上5%未満
△:菌の生存率が0.1%以上0.5%未満
×:菌の生存率が0.1%未満
【0085】
(実験例5)
以下の表7に示すとおり、20℃における2w/w%水溶液の粘度が3mPa・sまたは4000mPa・sのヒプロメロースと、20℃における4w/w%水溶液の粘度が24mPa・sのポリビニルアルコールとを用いて試験溶液を作成し、塩酸ポリヘキサニドの濃度を様々に変化させたときの防腐効果および殺菌・消毒作用抑制効果をそれぞれ確認した。各試験溶液の組成および動粘度と、防腐効果、殺菌作用抑制効果の試験結果を表7に併せて示す。なお、本実験においては、試験溶液の動粘度が一定となるように、ヒプロメロースの粘度に応じてヒプロメロースの配合量を調整している。
【0086】
【表7】

【0087】
表7に記載のとおり、先ず、防腐効果に関しては、試験溶液43〜49、51から明らかなように、塩酸ポリヘキサニドの濃度が0.001〜0.00005w/v%の範囲のものであれば、何れも充分な防腐効果が得られている。一方、過剰な消毒作用を発揮しない殺菌作用抑制効果に関しては、試験溶液43、48と同量の塩酸ポリヘキサニドしか含んでいなくとも、20℃における2w/w%水溶液の粘度が4000mPa・s及び濃度が0.06w/v%のヒプロメロースを配合した比較例としての試験溶液44、49においては、評価が×となっている。即ち、同量の塩酸ポリヘキサニドを含有する試験溶液であっても、20℃における2w/w%水溶液の粘度が3mPa・s及び濃度が0.8w/v%,1.0w/v%のヒプロメロースを配合した実施例としての試験溶液43、48では、殺菌作用抑制効果が発揮される一方、2w/w%水溶液の粘度が4000mPa・s及び濃度が0.06w/v%のヒプロメロースを配合した比較例としての試験溶液44、49においては、殺菌作用抑制効果が発揮されないことが分かる。
【0088】
なお、試験溶液51の結果から明らかなように、粘度が3mPa・s及び濃度が0.8w/v%のヒプロメロースを用いた場合にも、塩酸ポリヘキサニドの濃度が0.001w/v%と高すぎる場合には、殺菌作用抑制効果が発揮することができない。また、試験溶液50の結果から明らかなように、塩酸ポリヘキサニドの濃度が0.00001w/v%と低すぎると、過剰な殺菌作用は及ぼさないものの、防腐効果が充分に得られなくなる。この結果から、特にコンタクトレンズ用組成物を消毒剤以外の用途で用いる場合には、塩酸ポリヘキサニドの濃度は0.00005〜0.0001w/v%の範囲とされることが望ましいことがわかる。また、上述のとおり、塩酸ポリヘキサニドの濃度は、0.00005〜0.0001w/v%の範囲であっても、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下のヒプロメロースと、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・sの範囲であるポリビニルアルコールとが所定の濃度で含まれていない場合には、所望の防腐効果と殺菌作用抑制効果を発揮することはできない。また、試験溶液46〜48の結果から明らかなように、試験溶液の20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sとなる範囲であれば、0.01w/w%のヒアルロン酸ナトリウム等の各種の増粘剤を添加しても、防腐効果や殺菌作用抑制効果が充分に発揮されることがわかる。
【0089】
次に、以下の実験例6においては、コンタクトレンズ用組成物の実施例および比較例としての各試験溶液を用いて、フィルター吸着抑制効果を試験した。試験方法および効果の判定基準は以下のとおりである。
【0090】
フィルター吸着抑制効果の試験の詳細を以下に示す。各試験溶液5mLを、孔径0.2μmのミニザルトハイフロー(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製)を用いてろ過し、ろ過前後の試験溶液の吸光度(273nm)を測定した。そして、各試験溶液について、ろ過を行う前に測定した各試験溶液の吸光度(237nm)と、ろ過後の吸光度(237nm)を比較し、ろ過後の塩酸ポリヘキサニドの残存量を確認した。フィルター吸着抑制効果の判定は、ろ過前に測定した各試験溶液の吸光度(237nm)に対するろ過後の吸光度(237nm)の百分率(%)を求め、以下のとおり◎、○、△、×の4段階にて評価した。
◎:95%以上
○:90%以上95%未満
△:85%以上90%未満
×:85%未満
【0091】
(実験例6)
以下の表8に示すとおり、20℃における2w/w%水溶液の粘度が3mPa・sまたは4000mPa・sのヒプロメロースと、20℃における4w/w%水溶液の粘度が24mPa・sのポリビニルアルコールとを用いて試験溶液を作成し、塩酸ポリヘキサニドについてのフィルター吸着抑制効果を確認した。各試験溶液の組成および動粘度と、フィルター吸着抑制効果の試験結果を表8に併せて示す。
【0092】
【表8】

【0093】
表8に記載のとおり、ヒプロメロースとポリビニルアルコールを何れも含まない比較例としての試験溶液53や、ヒプロメロースまたはポリビニルアルコールの一方のみを含む比較例としての試験溶液54〜60では、フィルター吸着抑制効果は×または△となっており、塩酸ポリヘキサニドが多量に吸着されてしまうことがわかる。一方、試験溶液61〜70には、ヒプロメロースとポリビニルアルコールの両方が配合されているが、これらの試験溶液においては、使用したヒプロメロースおよびポリビニルアルコールの粘度によって結果が大きく異なっている。即ち、20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下のヒプロメロースと、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・sの範囲であるポリビニルアルコールとを組み合わせて配合した本発明の実施例としての試験溶液62〜66では、効果が◎または○となっている。一方、ヒプロメロースとポリビニルアルコールとが含まれているものの、その粘度が上記特定の粘度範囲から外れたものを使用した比較例としての試験溶液61、67〜70では、結果が×あるいは△に止まっている。これらの結果から、特定の粘度の範囲のポリビニルアルコールとヒプロメロースとを互いに組み合わせて配合した場合のみ、優れたフィルター吸着抑制効果が発揮されていることがわかる。また、試験溶液64、65の結果から明らかなように、0.01w/v%のヒアルロン酸ナトリウムや、0.25w/v%程度のコンドロイチン硫酸ナトリウム等、適当量の増粘剤を配合しても、フィルター吸着抑制効果は充分有効に発揮されることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における2w/w%水溶液の粘度が5.1mPa・s以下のヒプロメロースが0.5〜1.5w/v%の濃度で含まれていると共に、20℃における4w/w%水溶液の粘度が10〜35mPa・sであるポリビニルアルコールが0.8〜2w/v%の濃度で含まれており、且つ20℃における動粘度が3.0〜8.0mm2 /sであるコンタクトレンズ用組成物。

【公開番号】特開2012−198538(P2012−198538A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−54527(P2012−54527)
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【分割の表示】特願2011−63104(P2011−63104)の分割
【原出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】