説明

コンタクト方式アークスタッド溶接用の大径スタッド

【課題】アーク電圧が30〜50V程度の従来から一般的に使用されている既存の溶接機によっても良好な溶接状態を確保することができる、使い勝手のきわめてよいコンタクト方式アークスタッド溶接用の大径スタッドを提供する。
【解決手段】軸径が22mm以上の大径スタッド1においては、溶接側の外周縁部にテーパ部2を形成するとともに、そのテーパ部2の長さLが3.5mm≦L≦6mmとの条件(1)を満し、かつ前記テーパ部2の先端部側の小径部3の断面積Aaと基端部側の大径部4の断面積Abとの面積比Aa/Abが0.25≦(Aa/Ab)≦0.55との条件(2)を満たすように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクト方式を採用したアークスタッド溶接に対応した大径のスタッドに関する。
【背景技術】
【0002】
アークスタッド溶接に関しては、大別するとコンタクト方式とギャップ方式が従来から知られている。コンタクト方式は、溶接対象であるスタッドを溶接ガンのチャックに差込み、そのスタッドの溶接側端部を耐熱磁器製のアークシールド(フェルール)で囲んだ状態で母材側に当接させ、パイロット電流を流すと同時に母材から引離してパイロットアークを発生させた後、大電流を流してメインアークを形成して溶接を行うというものである。本発明は、このコンタクト方式を採用したアークスタッド溶接に使用されるスタッドに関する。なお、コンタクト方式を採用したコンタクト方式アークスタッド溶接用のスタッドとして、溶接側端部の中央部に突起を設けるとともに、その外周縁部にテーパ部を形成したものは知られている(特許文献1)が、テーパの角度が小さく大径スタッドには有効ではなかった。
【特許文献1】実用新案登録第2569005号公報
【0003】
ところで、コンタクト方式アークスタッド溶接用のスタッドとしては、従来から外径が19mm程度までの軸径からなるスタッドが使用されることが多く、これに対応して溶接機も1次側の電圧が200Vで2次側の無負荷時の電圧が65V程度の容量のものを使用し、30〜50V程度のアーク電圧によってスタッド溶接を行っているのが実状である。しかしながら、この従来から一般的に使用されている既存の溶接機を用いた場合に、スタッドの軸径が22mm程度に増大されると、非常に大きなアーク電流が必要とされることから、それに伴う強力な電磁界によって、スタッドの断面全体で均一なアークエネルギを保持することが難しくなり、アークの偏りにより溶融金属の厚みが不均一になったり溶接余盛が欠けるといった不具合が生じ、溶接の品質を低下させる原因にもなった。因みに、この場合に、アーク電圧を上げて溶接断面内のエネルギ密度を一定に近づける方法もあり得るが、溶接機内の変圧器も一層大がかりなものとなり、また1次側の電源設備としても大きな容量が必要とされるため、設備費用も嵩み実用的ではない。しかも、アーク電圧を高めると、作業者が感電する危険が高くなり、安全上の観点からも問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑みて研究開発したもので、アーク電圧が30〜50V程度の従来から一般的に使用されている既存の溶接機によっても良好な溶接状態を確保することができる、使い勝手のきわめてよいコンタクト方式アークスタッド溶接用の大径スタッドを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、前記課題を解決するため、種々の実験を通じて得た後述の実験結果に基づいて、コンタクト方式アークスタッド溶接用の大径スタッドとして、溶接側端部がその外周縁部に形成されたテーパ部により先細状態に形成され、前記テーパ部の長さLが3.5mm≦L≦6mmとの条件(1)を満たすとともに、前記テーパ部の先端部側の小径部の断面積Aaと基端部側の大径部の断面積Abとの面積比Aa/Abが0.25≦(Aa/Ab)≦0.55との条件(2)を満たす、軸径が22mm以上の大径スタッドを採用した。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、軸径が22mm以上の大径スタッドであるにも拘らず、従来から一般的に使用されている、1次側の電圧が200Vで2次側のアーク電圧が30〜50V程度の既存の溶接機を用いても、良好な溶接状態を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明においては、コンタクト方式アークスタッド溶接においてスタッドの溶接側の外周縁部にテーパ部を形成した場合の溶接状態すなわち溶接結果に対する影響に関して実験を進めたところ、そのテーパ部の傾斜角度や大きさが溶接状態に大きく影響することを突止めることができた。とりわけ、テーパ部の形態によっては、30〜50V程度のアーク電圧によってスタッド溶接を行う、従来から一般的に使用されている既存の溶接機では溶接状態に不具合が生じやすい軸径が22mm以上の大径スタッドに対して有効であることが判明した。そこで、試験体として、一般構造用圧延鋼材に属するSS490や冷間圧造用炭素鋼線材に属するSWRCH16で外径が22mm及び25mmの軸径からなる丸鋼と、鉄筋コンクリート棒鋼に属するSD345で呼び径が22mm及び25mmの軸径からなる異形棒鋼を用いて、従来からの既存の溶接機を使用して前記テーパ部の具体的形態を変化させながら溶接実験を行い、その溶接状態に対する影響を調べたところ、図1に示したような実験結果を得ることができた。すなわち、前記各種の素材を用い、図2に示したように大径スタッド1の溶接側の外周縁部に形成したテーパ部2の長さLと、そのテーパ部2の先端部側の外径がDaからなる小径部3の断面積Aaと基端部側の外径がDbからなる大径部4の断面積Abとの面積比Aa/Abを変化させながら実際に溶接を行い、それらの個々の溶接結果について、引張試験や溶融金属の厚みの状況などから使用に適合し得るか否か、その合否を評価するという実験を行った。因みに、溶接後の引張試験において軸部から破断し、かつマクロ試験により溶融金属の厚みが均一で溶接状態に特段の不具合がない場合は適合と評価し、前記引張試験において溶接部から破断した場合や、溶接部からではなく軸部から破断した場合であっても溶融金属の厚みが不均一であったり、溶け込み不良、融合不良などの周縁部の不具合や、溶接部の内部に収縮孔や割れなどが認められる場合には不適合と評価した。図1は、その実験結果を横軸に前記面積比Aa/Abをとり、縦軸に前記テーパ部2の長さLをとって表したもので、図中○印は溶接状態が良好で適合と評価された場合を示し、×印は不適合と評価された場合を示したものである。
【0008】
上記溶接実験の結果、前記テーパ部2の具体的形態すなわちテーパ部2の傾斜角度や大きさと、溶接状態すなわち溶接結果の良否との間には重要な関連があり、とりわけ軸径が22mm以上の大径スタッドを、アーク電圧が30〜50V程度の従来から一般的に使用されている既存の溶接機を用いてコンタクト方式アークスタッド溶接を行った場合に、使用に十分適合し得る良好な溶接状態を確保し得るか、あるいは溶接状態に不具合が生じやすいか、その条件を見出すことができた。すなわち、図1に示した実験結果に基づいて説明すると、○印で表したテーパ部2の長さLが3.5mm≦L≦6mmとの条件(1)と、テーパ部2の先端部側の小径部3の断面積Aaと基端部側の大径部4の断面積Abとの面積比Aa/Abが0.25≦(Aa/Ab)≦0.55との条件(2)を満たす範囲では、溶接後の引張試験において溶接部から破断せずに軸部から破断し、かつ溶融金属の厚みが均一で溶接状態に特段の不具合がない、使用に充分適合し得る良好な溶接状態が得られることが判明した。
【0009】
以上のように、前記テーパ部2の長さLが3.5mm≦L≦6mmの範囲で、かつ前記面積比Aa/Abが0.25≦(Aa/Ab)≦0.55の範囲であれば、良好な溶接状態が得られるのは、この範囲内であれば、前記テーパ部2の形成により、テーパ部2の先端の小径部3から初期のアークが発生し、アーク柱の中心が常にスタッド断面の中心と一致したままスタッド1の溶融が進行するとともにエネルギ密度の偏りが抑制され、テーパ部2の先端の小径部3を最大限とする同心円状に一様に分布する安定したアークを維持しながらスタッド1の溶融が進むとともに、溶融時においてスタッド1の先端に形成した適度の凸状がほぼ維持されることに基づくものと推測される。その結果、溶接部のマクロ断面では溶融金属層の厚さが薄く均一化され、溶融金属の凝固時に内部応力の発生が緩和されるとともに、収縮孔や高温割れ等の不具合が大幅に軽減される。また、アークの安定化により磁気吹きによるアークの偏りが軽減され、余盛が全周にわたって的確に形成できるようになったものと考えられる。
【0010】
因みに、前記面積比Aa/Abは、0.5程度が最適であるが、0.25〜0.55の範囲であれば、前述のアークの安定化と溶融時におけるスタッドの先端形状に基づく作用効果を得ることができ、良好な溶接状態が得られる。これに対して、面積比Aa/Abが0.25より小さい場合には、初期のアーク発生時におけるガスシールド効果が弱く溶融金属の内部に大気を巻込んで溶融金属内にブローホールができやすくなるといった不具合があった。また、初期のアークが不安定になり、スパッタが多量に発生して溶接性を低下させるという欠点もあった。逆に面積比Aa/Abが0.55より大きい場合には、前述のテーパ部2に基づく作用効果が弱く、溶接部の内部に収縮割れ等の欠陥が生じやすくなるといった不具合があった。
【0011】
また、テーパ部2の長さLが3.5mmより小さい場合には、前述のテーパ部2に基づく作用効果が低減して、従来のスタッドとの差異が見られなくなり、良好な溶接状態の確保が困難となった。逆にテーパ部2の長さLが6mmを超えて大きくなると、テーパ部2の全体が溶融せずに、溶接完了後に断面欠損として残り、溶接部からの破断の原因になるといった不具合が生じた。
【0012】
なお、テーパ部2に基づく上述の作用効果に関しては、図3に示した頭付の大径スタッド5の場合だけに限らず、図4に示した異形棒鋼からなる大径スタッド6の形態の場合にも同様の作用効果が確認された。因みに、図4に示した異形棒鋼からなる大径スタッド6の場合には、呼び径が22mm以上のものに適用が可能であり、図示のように溶接側端部に前記大径スタッド6の外周部に形成された節7を潰したり、あるいは節7を切削するなどして短い円柱部8を形成し、その円柱部8の溶接側の外周縁部に前記条件(1)及び(2)を満たすテーパ部9を形成することにより同様の作用効果を得ることができる。この場合の面積比Aa/Abは、前記テーパ部9の先端の小径部と前記円柱部8の外径から求めることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実験結果を示した図表である。
【図2】大径スタッドの要部を示した拡大説明図である。
【図3】本発明の一実施例を示した正面図である。
【図4】本発明の他の実施例を示した正面図である。
【符号の説明】
【0014】
1…大径スタッド、2…テーパ部、3…小径部、4…大径部、5,6…大径スタッド、7…節、8…円柱部、9…テーパ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸径が22mm以上の大径スタッドであって、溶接側端部がその外周縁部に形成されたテーパ部により先細状態に形成され、前記テーパ部の長さLが次の条件(1)を満たすとともに、前記テーパ部の先端部側の小径部の断面積Aaと基端部側の大径部の断面積Abとの面積比Aa/Abが次の条件(2)を満たすことを特徴とするコンタクト方式アークスタッド溶接用の大径スタッド。
(1)3.5mm≦L≦6mm
(2)0.25≦(Aa/Ab)≦0.55

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−173669(P2008−173669A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9651(P2007−9651)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)