説明

コンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム、その金属蒸着フィルム及びキャスト原反シート

【課題】高温下で高い耐電圧性を有する極薄のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルムと、キャスト原反シート、コンデンサー用金属蒸着フィルムを提供する。
【解決手段】メソペンタッド分率([mmmm])が95%以上98%以下である分子特性を有する主要アイソタクチックポリプロピレン樹脂(A)に、[mmmm]が当該樹脂(A)より1%以上5%以下の範囲で低いアイソタクチックポリプロピレン樹脂(B)を、樹脂混合体の総質量に対して1質量%以上20質量%以下の範囲で添加された、固体動的粘弾性測定によって昇温速度2℃/min、周波数0.5Hzのときに得られる温度−損失正接(tanδ)曲線において、tanδの分散(結晶分散)ピークの温度が80℃以上であることを特徴とするコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐電圧性にきわめて優れているコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム及び金属化ポリプロピレンフィルム及びそれを得るためのキャスト原反シートに関し、さらに詳しくは、高温下での耐電圧性に優れ、小型で大容量の電子・電気機器用コンデンサーに好適であり、かつ非常に薄いフィルム厚であるコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム、それを用いた金属蒸着フィルム、及びそれを得るためのキャスト原反シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、包装用をはじめ工業用材料フィルムとして広く用いられているが、特に、その耐電圧特性、低い誘電損失特性などの優れた電気特性、及びそれに加え、高い耐湿性を活かしてコンデンサー用の誘電体フィルムとしても、広く利用されている。また、その原料樹脂の価格が、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイドなどの他のコンデンサー用樹脂に比較して安価であるため、その市場における伸びが大きい。
【0003】
コンデンサー用ポリプロピレンフィルムは、高電圧コンデンサーをはじめとし、各種スイッチング電源や、コンバーター、インバーター等のフィルター用や平滑用として使用されるコンデンサー類に好ましく用いられている。この市場では、近年は、特にコンデンサーの小型化、高容量化の要求が非常に強くなっている。そこで、コンデンサーにおいて、一層の高容量化を実現するため、所定の大きさ(低体積=小型)内で巻回数を増やして誘電体の面積を広げることで対処することを目的に、フィルムではこれまで以上に薄いことが求められるようになってきている。
【0004】
しかしながら、このような非常に薄いコンデンサー用フィルムでは、加工の際のハンドリング性が極めて悪く、コンデンサー素子を作製する巻回の際、シワや巻きずれを発生し易いと言う難点がある。そこで、加工する際の滑り性を向上させ、コンデンサーを作製する際の素子巻きを容易にする目的で、表面を適度に微細粗面化することが、一般的に行われている。
【0005】
表面の微細粗面化の方法としては、従来、エンボス法やサンドラミ法などの機械的方法、溶剤を用いたケミカルエッチングなどの化学的方法、ポリエチレンなどの異種ポリマーをブレンドないしは共重合体化したシートを延伸する方法、そして、ポリプロピレンの結晶形の一つであるβ晶を生成させたシートを延伸する方法等が提案されている(非特許文献1)。中でも、β晶を用いた表面粗化方法は、樹脂に添加剤などの不純物を混入させる必要がないため、電気的特性を落とすことがなく、非常にミクロな凹凸を付与させることができるという特徴を持つ。
【0006】
β晶を用いた微細粗面化方法では、キャスト原反シート作製の際、β晶をいかに制御しながら生成させるかが技術上重要な要点となる。β晶生成技術に関して、特許文献1、2及び3などに、特定の触媒によって重合した一定の範囲のメルトフローレート、分子量及び分子量分布を有するポリプロピレン樹脂をシート化すると、高いβ晶比率を持ったシートが得られることを開示している。
【0007】
一般的に、コンデンサー用フィルムの加工適性を向上させるためには、粗面化は必須であるが、粗面化は耐電圧特性の低下を招くというマイナス面も併せ持つ。一方、産業用コンデンサーの需要が増える中、市場ではより高耐電圧のコンデンサーへの要求が非常に強く、併せて電気容量のより一層の向上も求められている。
【0008】
耐電圧特性の向上に関しては、表面の平滑性を増す方法の他、例えば、特許文献4及び5などによると、ポリプロピレン樹脂の高立体規則性化・高結晶性化によっても実現できる。しかしながら、高立体規則性化・高結晶性化は延伸性の低下を招き、延伸過程におけるフィルムの破断を発生しやすくなり、製造上、好ましくない。
【0009】
他方、前述の如く、低体積(小型)のコンデンサーにおいて、電気容量を向上させるためには、誘電体フィルムを薄くする必要がある。そのように極薄のフィルムを得るためには、樹脂及びキャスト原反シートの延伸性向上が必須となるが、この特性は、前述したように、耐電圧性向上のための手法、つまり結晶性向上とは一般的に相容れない物性である。
さらに、市場においては、コンデンサーが高温下で用いられることを想定し、高い温度での耐電圧性も加えて要求するようになってきている。
【0010】
上記したような、市場が要求する、1)コンデンサーへの加工適性(粗面化)、2)高温高耐電圧性(面平滑化、高結晶性化、高融点化)、3)高電気容量化(フィルム極薄化のための延伸性向上)、の特性を同時に満たし得るコンデンサー用ポリプロピレンフィルムを得る方法を開示している文献は非常に稀な状況にあり、効果的な解決策は見当たらない。
【0011】
特許文献6及び7には、特定の範囲の分子量分布と立体規則性度をバランスさせた樹脂を用い、β晶量の比較的低いキャスト原反から延伸した微細粗面化フィルムが開示されている。この延伸した微細粗面化フィルムは、耐電圧特性を有する薄いフィルムであり、適度な表面粗化性を有していることから前記3つの特性に関して満足できるレベルに達した微細粗面化フィルムであるが、機械的耐熱性(熱安定性)、高温化での耐電圧性に関する厳しい要求規格を満たすためには改善の余地がある。
【0012】
さらに、市場の要求する課題を、原料樹脂の混合により解決しようとする試みがある。
特許文献8及び9には、高温での熱収縮性を小さくし、耐電圧性を向上させる技術として、ポリプロピレン樹脂にポリブテン−1樹脂を含有させる技術が開示されており、また、特許文献10、11及び12には、長鎖分岐構造や架橋構造を有する高溶融張力ポリプロピレン樹脂を含有させる技術が開示されている。さらに、特許文献13には、イオン含有ポリマーを含有させて耐電圧性向上を図る技術が開示されている。これらのように樹脂を添加する技術を応用することによって、薄膜化と機械的耐熱性の向上、耐電圧性とのバランスが図られるようになった。しかしながら、これら技術をもってしても、進展著しいコンデンサー産業における、高温下の耐電圧性と極薄膜化、素子巻き加工適性に関する厳しい要求規格を同時には依然充分に満足できるに至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−2655号公報(3−7頁)
【特許文献2】特開2004−175932号公報(4−8頁)
【特許文献3】特開2004−175933号公報(3−6頁)
【特許文献4】特開平8−294962号公報(2−3頁)
【特許文献5】特開平9−139323号公報(2−3頁)
【特許文献6】特開2007−137988号公報(4−7頁)
【特許文献7】特開2007−204646号公報(3−6頁)
【特許文献8】特開2007−169595号公報(3−4頁)
【特許文献9】特開2008−111055号公報(3−6頁)
【特許文献10】特開2006−63186号公報(3−4頁)
【特許文献11】特開2007−84813号公報(4−6頁)
【特許文献12】特開2007−246898号公報(4−9頁)
【特許文献13】特開2008−127460号公報(4−8頁)
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】藤山光美、「高分子加工」、38巻3号、139頁 (1989年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、高温下で高い耐電圧性を有し、素子巻き加工適性に優れた、極薄のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルムと、それを用いたコンデンサー用金属蒸着フィルム、及び、それを得るためのキャスト原反シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以下に記載の態様を含む。
【0017】
(1)高温型核磁気共鳴(高温NMR)測定によって求められる立体規則性度であるメソペンタッド分率([mmmm])が95%以上98%以下である分子特性を有する主要アイソタクチックポリプロピレン樹脂(A)に、[mmmm]が当該樹脂(A)より1%以上5%以下の範囲で低いアイソタクチックポリプロピレン樹脂(B)を、樹脂混合体の総質量に対して1質量%以上20質量%以下の範囲で添加された、少なくとも2種類以上の異なる立体規則性を有するアイソタクチックポリプロピレン樹脂混合体からなる二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、固体動的粘弾性測定によって昇温速度2℃/min、周波数0.5Hzのときに得られる温度−損失正接(tanδ)曲線において、tanδの力学的分散(結晶分散)ピークの温度が80℃以上であることを特徴とする、コンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0018】
(2)前記主要アイソタクチックポリプロピレン樹脂(A)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量(Mw)が25万以上45万以下で、分子量分布(Mw/Mn)が4以上7以下である分子特性を有することを特徴とする、(1)項記載のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0019】
(3)前記アイソタクチックポリプロピレン樹脂混合体が、示差走査熱量計(DSC)法にて、昇温速度20℃/minにて測定した際、少なくとも2つ以上の融解ピークを有し、170〜175℃に頂点を有するピーク(最高温側ピーク)以外の低温側ピークがなす融解熱量全体に対する部分融解熱量分率が55%以上70%未満であることを特徴とする、(1)項又は(2)項に記載のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0020】
(4)二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片方の一面において、その表面粗さが、中心線平均粗さ(Ra)で0.08μm以上0.18μm以下であり、かつ、最大高さ(Rmax)で0.8μm以上1.7μm以下に微細粗面化されていることを特徴とする、(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0021】
(5)厚さが1μm以上10μm未満であることを特徴とする、(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【0022】
(6)少なくとも2種類以上の異なる立体規則性を有したアイソタクチックポリプロピレン樹脂混合体からなり、高温NMR測定によって求められる立体規則性度である [mmmm]が、95%以上98%以下である分子特性を有することを特徴とする主要アイソタクチックポリプロピレン樹脂(A)に、[mmmm]が、当該樹脂(A)より1%以上5%以下の範囲で低いアイソタクチックポリプロピレン樹脂(B)を、樹脂混合体の総質量に対して1質量%以上20質量%以下の範囲で添加された樹脂混合体からなる、(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得るためのキャスト原反シート。
【0023】
(7)前記(1)項〜(5)項のいずれか1項に記載のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面もしくは両面に金属蒸着層を有することを特徴とする、コンデンサー用金属化ポリプロピレンフィルム。
【発明の効果】
【0024】
本発明のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム及びその金属化フィルムは、その主要構成成分のアイソタクチックポリプロピレン樹脂(A)が比較的高結晶性であるので高い耐熱性を有しており、その主要構成成分の樹脂(A)に特定範囲の低立体規則性度のアイソタクチックポリプロピレン樹脂(B)を特定量混合させることで、樹脂(B)の為す小さな微結晶成分が、主要樹脂(A)が構成する微結晶の運動を束縛するため、結晶分散(微結晶の運動の転移点)を高温化させ、よって、薄いフィルムであっても高い絶縁破壊強度を示し、コンデンサー素子として用いた際には、特に高温下での耐電圧性が極めて高くなるので、高定格電圧、高電気容量のコンデンサー用フィルムとして極めて優れているという効果を有する。
【0025】
さらに、本発明のキャスト原反シートにおいては、適度に低立体規則性樹脂が混在しているため、延伸性が高く、かつ、適度なβ晶発生によって、二軸延伸フィルム表面を適度な微細粗面とし得るため、厚みが1〜10μm程度の非常に薄いフィルム厚であり、かつ、高い素子加工適性を持ったコンデンサー用耐電圧化フィルムが容易に得られるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】温度−tanδ曲線において、結晶分散がショルダーピークとなる場合の一例を示す図。
【図2】結晶分散(ショルダーピーク)のカーブフィットの一例を示す図。
【図3】DSC融解ピークの一例を示す図。
【図4】DSC曲線における部分融解熱量分率の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンキャスト原反シート、それを延伸してなる二軸延伸フィルム及びその金属化フィルムを構成する原料樹脂は、アイソタクチックポリプロピレン樹脂であって、少なくとも2種類以上の異なる立体規則性を有するアイソタクチックポリプロピレン樹脂混合体からなる。
【0028】
本発明を構成する主要原料樹脂(A)として用いられるポリプロピレン樹脂は、結晶性のアイソタクチックポリプロピレン樹脂であり、プロピレンの単独重合体である。
主要原料ポリプロピレン樹脂(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量(Mw)は、25万以上45万以下であり、好ましくは、25万以上40万以下である。さらに好ましくは、28万以上37万未満である。
【0029】
重量平均分子量が45万を超えると、樹脂流動性が著しく低下し、キャスト原反シートの厚さの制御が困難となり、本発明の目的である非常に薄い延伸フィルムを幅方向に精度よく作製することができなくなるため実用上好ましくない。また、重量平均分子量が25万に満たない場合、押し出し成形性には富むが、できたシートの力学特性や熱−機械的特性の低下とともに延伸性が著しく低下し、二軸延伸成形ができなくなるという製造上や製品性能上に難点を生じるため好ましくない。
【0030】
また、GPC法により得られる重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の比から計算される分子量分布は4以上7以下であり、4.5以上6.5以下がより好ましい。
【0031】
主要原料ポリプロピレン樹脂(A)の分子量・分子量分布測定値を得るためのゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)装置には特に制限はなく、ポリオレフィン類の分子量分析が可能な一般に市販されている高温型GPC装置を利用することが可能である。本発明においては、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵型高温GPC測定機、HLC−8121GPC−HTを用いた。GPCカラムには、東ソー株式会社製、TSKgelGMHHR−H(20)HTを3本連結させて用い、カラム温度は140℃、溶離液にはトリクロロベンゼンを用い、流速は1ml/minにて測定した。検量線の作製には、東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用い、測定結果はポリプロピレン値に換算した。
【0032】
本発明で使用される主要原料ポリプロピレン樹脂(A)は、前述の如き分子量・分子量分布を持つと同時に、高温核磁気共鳴(高温NMR)測定によって求められる立体規則性度であるメソペンタッド分率([mmmm])が、95%以上98%以下であり、好ましくは、95.5%以上98%以下であり、さらに好ましくは、96%以上97.5%以下であることを特徴とするアイソタクチックポリプロピレン樹脂である。
【0033】
高い立体規則性成分を持つことで、樹脂の結晶性が向上し、高い機械的耐熱性や高い耐電圧特性が期待されるので、メソペンダット分率[mmmm]は95%以上がよい。それより低いと、所望の耐電圧性や、機械的耐熱性を得ることができないので好ましくない。
しかしながら、あまり高すぎると、キャスト原反シート成形の際の固化(結晶化)の速さが早くなりすぎて、シート成形用の金属ドラムからの剥離が発生し易くなったり、延伸性が低下するなどの製造上の難点を有するので98%以下にすることが好ましい。
【0034】
メソペンタッド分率([mmmm])を測定するための高温NMR装置には、特に制限はなく、ポリオレフィン類の立体規則性度が測定可能な一般に市販されている高温型核磁気共鳴(NMR)装置が利用可能である。本発明においては、日本電子株式会社製、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT−NMR)、JNM−ECP500を用いた。観測核は、13C(125MHz)であり、測定温度は、135℃、溶媒には、オルト−ジクロロベンゼン〔ODCB:ODCBと重水素化ODCBの混合溶媒(混合比=4/1)〕を用いた。高温NMRによる方法は、公知の方法によって行うことができるが、本発明では、例えば、「日本分析化学・高分子分析研究懇談会編、新版 高分子分析ハンドブック、紀伊国屋書店、1995年、610頁」に記載の方法を参考にしながら行った。
【0035】
測定モードは、シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング、パルス幅は、9.1μsec(45°パルス)、パルス間隔5.5sec、積算回数4500回、シフト基準は、CH(mmmm)=21.7ppmである。
【0036】
ペンタッド分率の算出方法は、同方向並びの連子「メソ(m)」と異方向の並びの連子「ラセモ(r)」の5連子(ペンタッド)の組み合わせ(mmmmやmrrmなど)に由来する各シグナルの強度積分値より百分率で算出した。
【0037】
本発明のコンデンサー用キャスト原反シート、及び二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、このような主要原料ポリプロピレン樹脂(A)が、比較的高い範囲の立体規則性度と、前出の分子量・分子量分布を持つことにより、耐熱性とある程度の耐電圧性、そして延伸性を持つことができる。
【0038】
本発明では、さらに、この耐熱性を有する主要原料ポリプロピレン樹脂(A)に、この樹脂(A)よりも低い立体規則性度を有するポリプロピレン樹脂(B)を添加・混合することにより、微結晶が形成するモルホロジーを調整し、さらに高い耐電圧性と高い延伸性とを高度に両立させた。
【0039】
即ち、主要樹脂の立体規則性度(つまり、結晶性)の値を高くすることによって、高い耐電圧特性を発現できるが、それだけでは、高耐電圧性かつ非常に薄い延伸フィルムを得ることができない。本発明のように、特定の低立体規則性樹脂を本発明に係る範囲で添加することにより、微結晶の形成及び結晶モルホロジーが変わり、フィルム内の分子鎖の運動を束縛するようになるので、高温下でのより高い耐電圧性を付与することができるものと考えられる。
【0040】
主要原料樹脂(A)に添加する低立体規則性度のポリプロピレン樹脂(B)は、結晶性のアイソタクチックポリプロピレン樹脂であり、プロピレンの単独重合体である。
添加する低立体規則性ポリプロピレン樹脂(B)の立体規則性度は、前記高温NMR法によるメソペンタッド分率([mmmm](%))で、主要ポリプロピレン原料樹脂(A)のそれよりも、1%以上低くなければならず、主要樹脂(A)より1%以上5%以下の範囲で低く、好ましくは2%以上5%以下低いのが良い。
【0041】
主原料樹脂(A)と添加される低立体規則性樹脂(B)との[mmmm]の差が、1%より小さいと、延伸性の改良においても、耐電圧性向上においてもなんら効果は得られない。一方、その差が、5%より高くなると、添加量によっては混合の際の相溶性に難点を生じ、成形性に影響を及ぼしたりフィルム表面の粗化性に影響を与えるばかりではなく、平均化された混合物全体の立体規則性度が低下し、全体の結晶化度が下がり過ぎるため、耐熱性、耐電圧性が低下してしまい好ましくない。
【0042】
本発明において添加する低立体規則性ポリプロピレン原料樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)には、特に制限はないが、樹脂(A)、(B)の混合性の観点から、主要原料樹脂(A)と同程度とするのが実用的で好ましく、20万以上45万以下の範囲であるのが好ましい。さらに好ましくは、20万以上40万以下である。
【0043】
また、添加ポリプロピレン樹脂(B)の分子量分布 (Mw/Mn)にも、特に制限はないが、主要樹脂(A)との混合性の観点から、Mw/Mnは4以上7以下の範囲で、主要樹脂(A)と同程度にするのが好ましい。
【0044】
主要原料樹脂(A)に添加する低立体規則性ポリプロピレン樹脂(B)の添加率は、樹脂混合体の総質量に対して1質量%以上20質量%以下である。好ましくは、5質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは、5質量%以上15質量%以下である。
1質量%より低いと、tanδの結晶分散ピーク温度を80℃以上にすることができず、したがって、耐電圧性向上効果も得られず、好ましくない。20質量%より多いと、添加する樹脂の[mmmm]にもよるが、一般的に、相溶性に難点が生じ、キャスト原反シートの押出成形時に、いわゆるフィッシュアイを生じやすくなるなど、成型加工性に問題を生じやすくなるため好ましくなく、さらに、混合樹脂全体の立体規則性が低くなり過ぎる可能性もあり、耐熱性、耐電圧性向上効果の観点からも好ましくない。
【0045】
本発明の低立体規則性樹脂を混合してなる二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、固体動的粘弾性測定によって昇温速度2℃/min、周波数0.5Hzのときに得られる温度−損失正接(tanδ)曲線において、tanδの力学的分散(結晶分散)ピークの温度を、80℃以上に有する。好ましくは80℃以上100℃以下、より好ましくは、80℃以上90℃以下である。本発明における二軸延伸フィルムの結晶分散のピーク温度が80℃より低いと、高温における耐電圧性が、充分に向上せず、本発明に係る効果が発揮されず好ましくない。
【0046】
本発明の温度−tanδ曲線におけるtanδの結晶分散ピーク温度を得るための固体動的粘弾性測定方法には、特に制限はなく、一般によく知られている固体動的粘弾性測定装置が制限無く利用可能である。装置のメーカー、型式などに特に制限はないが、本発明における検討では、エスアイアイナノテクノロジー社製の動的粘弾性測定装置DMS6100型を用いた。試料である二軸延伸ポリプロピレンフィルムを動的振幅させる速さ、つまり、駆動周波数は0.5Hz、昇温速度は2℃/minの測定条件にて、試料フィルムの動的粘弾特性の温度依存性(温度分散)が測定される。測定の際の二軸延伸フィルムの試料幅は10mmとし、チャック間距離は20mm、静荷重は1MPa、振幅歪は0.05%とした。この測定結果から、温度−tanδ曲線を求め、結晶分散ピーク温度を得る。
【0047】
延伸フィルムの温度−tanδ曲線における結晶分散ピークは、明確な極大点を示さずに、図1のようなショルダーピークとなる場合がある。図1のような曲線を得た場合、このショルダーから頂点温度(結晶分散温度)を求めるためのピーク分離が必要となるが、その方法には特に制限はなく、一般に公知のピーク分離の解析方法やソフトフェアを広く用いることができる。本発明においては、以下の方法で行った。
【0048】
まず、エスアイアイナノテクノロジー社製の動的粘弾性測定装置付属の解析ソフトウェアMuse Ver.5.8 を用い、測定によって得られた温度−tanδ曲線を、他ソフトフェアで解析できるように外部保管する。そのファイルを、ヒューリンクス社製、KaleidaGraph3.5Jを用いて開き、温度−tanδグラフを描画した。その曲線のショルダー部分(温度域)について、ガウス関数を用いた回帰曲線によってフィッティングを行うことでピーク分離を実施した。図2に図1のショルダーのガウス関数を用いたピーク分離の例を示す。曲線のフィッティングにおいては、初期パラメーターの与え方によって結果が異なる場合がある。本発明においては、ピーク温度の初期値は、60℃として、カーブフィットを行った。
【0049】
「日本物理学会編、高分子の物理・初版、朝倉書店、162頁、1963年」によると、一般的に、アイソタクチックポリプロピレンなどの結晶性ポリマーの場合、動的粘弾性測定によって、温度―tanδ曲線、あるいは、温度―損失弾性率(E”)曲線において、融点よりやや低い温度域(アイソタクチックポリプロピレンの場合には、50℃〜100℃程度)で、ピークあるいはショルダーを与えることが知られており、これをα分散と一般に呼んでいる。このα分散と呼ばれる力学的転移点は、結晶化度など微結晶の高次構造に依存して、その温度位置や緩和強度が変化することから、結晶状態に起因した転移温度と考えられるため、「結晶分散」とも呼ばれており、特に、ポリエチレンやポリプロピレンにおいては、結晶内部あるいは結晶近接域の分子鎖の運動性に強く関連した物理量として広く認められている。
【0050】
本発明に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、この結晶転移温度(結晶分散)を、できるだけ高温側に、詳しくは、80℃以上に調整することにより、高温下耐電圧性に影響を与える分子鎖の運動性を可能な限り束縛し、もって、高温下での耐電圧性向上が実現している点に大きな特徴を有する。
【0051】
この結晶分散のピーク温度を高温化させる方法としては、一般的には、結晶化度の向上や配向性の向上などが知られている。しかし、樹脂の立体規則性を上げ、もって結晶化度を向上させる方法をとると、前述の如く、延伸性の低下を招くなどから限界があり、適切な手段とは言えない。また、配向性の制御を延伸で行うにも、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの延伸倍率は実用上40〜60倍程度とほぼ固定されており、その制御にも限界があると言わざる得ない。そこで、本発明においては、高立体規則性の主要樹脂(A)にそれより特定の範囲内で低立体規則性である樹脂(B)を本発明に係る適切な条件で混合するという手段によって実現したものである。
【0052】
一般的に、低立体規則性樹脂の添加は、樹脂及びそれからなるフィルム全体の立体規則性及び結晶化度を低下させ、耐熱性、耐電圧性に悪影響を及ぼし実用上好ましくないとされてきた。
しかしながら、本発明で規定する適切な範囲の低立体規則性樹脂を、本発明で規定する数値範囲内で少量を混合すると、低立体規則性樹脂(B)成分が構成する比較的小さなサイズの微結晶が、大部分を占める主要樹脂(A)が為す大きな微結晶の運動性を拘束し、よって、結晶分散ピークの高温化が達成でき、高温下での耐電圧性が向上する。低立体規則性樹脂(B)成分が構成する比較的小さなサイズの微結晶が、大部分を占める主要樹脂(A)が為す大きな微結晶の運動性を拘束する結果と考えられる。
【0053】
本発明のもう一つの態様は、示差走査熱量計(DSC)法にて、昇温速度20℃/minにて測定した際、少なくとも2つ以上の融解ピークを有し、170〜175℃に頂点を有するピーク(最高温側ピーク)以外の低温側ピークがなす融解熱量全体に対する部分融解熱量分率が55%以上70%未満であることを特徴とするコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルムである。
【0054】
部分融解熱量分率が55%より低いと、フィルムの微結晶の形成が従来と変わりなく、耐電圧性や延伸性の改善に効果がない。一方、70%より高いと、フィルム内に形成されている小さな(不安定な)微結晶量が多くなりすぎていることを意味し、耐熱、耐電圧性が損なわれており、実用上好ましくない。
【0055】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの融解熱量全体に対する部分融解熱量分率及び融解ピークを評価する方法としては、本発明では、示差走査熱量計(DSC)法を採用した。DSCには、熱流束型DSC、入力補償型DSCなど、いくつかの熱量検出方式があり、いずれも特に制限なく利用可能である。DSCのメーカー、型式などには、特に制限されないが、本発明の検討には、パーキン・エルマー社製、Diamond DSCを用いた。
【0056】
上記装置による融点(融解ピーク)及び融解熱量測定の条件は、以下の通りである。まず、ポリプロピレンフィルムを約2mg秤りとり、アルミニウム製のサンプルホルダーに詰め、DSC装置にセットし、窒素流下、0℃から200℃まで20℃/minの速度で昇温し、その融解曲線を測定した。
【0057】
本発明に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムのDSC測定においては、100℃から190℃の間には、図3に示す通り、少なくとも2つ以上の融解ピークを得ることができ、その最も高温側の融解ピーク曲線のピークトップ(頂点)は、170℃以上175℃以下の範囲に出現する。この最高温側融解ピークの他に、引き続き低温側、大凡155℃〜170℃の温度範囲に、少なくとも1つ以上の融解ピークが出現する。
【0058】
最高温側ピークの温度は、170℃以上であればよいが、本発明の場合には、大凡170℃〜175℃の範囲である。また、低温側ピークの温度範囲には特に制限はなく、そのピークの数も少なくとも1つ以上あればよい。
【0059】
フィルム全体の微結晶の量(結晶化度)を表す総融解熱量は、図3のように、ベースラインと融解曲線が為す全面積(温度に対する吸熱の積分値)から計算される。また、本発明に係る低温側ピークの部分融解熱量は、図4のように、最高温側ピークとの間に温度による境界線を設け、その境界線から低温側のピーク曲線とベースラインが為す面積(境界線までの吸熱の積分値)から求めた。総融解熱量に対する低温側融解ピークの部分融解熱量の分率(百分率:%)が本発明に係る部分融解熱量分率(%)である。
【0060】
「B. Wunderlich著、Thermal Analysis、Academic Press、193頁、1990年」には、融点と微結晶厚(微結晶の大きさ)の関係が述べられている。それによると、微結晶厚が大きくなるほど、融点が高くなることが示唆される。したがって、高温側の融解ピークは、フィルム中において比較的微結晶の大きさが大きなサイズ、つまり熱的に安定な結晶の存在及び存在量を表す。一方、低温側のピークは、大きさがやや小さく熱的に不安定(準安定)な微結晶の存在とその存在量を示すことになる。本発明に係る低立体規則性樹脂を本発明の条件で含有し得たフィルムは、大きな微結晶の形成によって、170℃以上と言う比較的高い融点を示す傾向にあり、よって、熱的安定性(耐熱性)が向上するという効果を生む。その一方で、小さな微結晶が、本発明に係る部分融解分率に応じ、従来よりも多く形成されることによって、前述の如く、主たる(大きな)微結晶の運動性を束縛することで、耐電圧性が向上するものと考えられる。
【0061】
従来技術では、高耐熱化、高耐電圧化を図るために、より高い立体規則性樹脂を用いるほど、高い延伸性を付与する必要が生じるため、分子量分布Mw/Mnを7以上と広げるか、高溶融張力をもった分岐型ポリマーや異種ポリマーを添加するなどの何らかの対策が必要であった。しかしながら、広い分子量分布や、分岐、異種ポリマーとの混合は、多くの場合、耐電圧性、表面粗化性(素子加工適性)の両方、あるいはいずれかを損なう傾向にあり、そのバランスをとることに苦慮していた。
【0062】
本発明では、高立体規則性を有した主要樹脂(A)にそれよりも本発明に係る範囲でわずかに低い立体規則性度を有する添加樹脂(B)を本発明の範囲内の量を添加・混合することによって、フィルムに成形した際に内部に形成される微結晶構造を制御することによって、高温下での安定した高い耐電圧性と、フィルム成形の際の高い延伸性を両立させた。
【0063】
これは、低立体規則性樹脂を混合すると、結晶化度が下がり、耐熱性、耐電圧性が低下するという従来の常識を覆すもので、添加する樹脂の適切な立体規則性度の選択と、添加量を適切にコントロールすることで、小さな微結晶を適切な量で発生せしめ、この小さな微結晶の存在が分子鎖運動を束縛し、結晶分散温度の高温化を促し、よって、耐電圧性が良化する結果となっているものと理解できる新たな知見に基づいたものである。
【0064】
このように、適度な低立体規則性樹脂の含有によって、従来技術のようにメソペンタッド分率で98%を超えるような非常に高い立体規則性度でなくても、高い耐電圧性を維持し、さらに、この含まれる低立体規則性成分からなる小さな微結晶が、一種の可塑剤的な役割を演じ、高立体規則性成分の配向・移動を容易化して適度な延伸性を付与させる。この延伸性付与と耐熱・耐電圧性の両立は、異なる立体規則性樹脂の混合による微結晶の形態学(モルホロジー)的な効果の発現によって始めて得られる効果である。
【0065】
本発明のポリプロピレン延伸フィルムを製造するための高立体規則性度、低立体規則性度のポリプロピレン樹脂を製造する重合方法としては、一般的に公知の重合方法をなんら制限なく用いることができる。一般的に公知の重合方法としては、例えば、気相重合法、塊状重合法、スラリー重合法が例として挙げられる。
【0066】
また、分子量分布を調整するために、少なくとも2つ以上の重合反応器を用いた多段重合反応を用いてもよく、また、反応器中に水素あるいはコモノマーを分子量調整剤として添加して行う重合方法であってもよい。
【0067】
使用される触媒は、特に限定されるものではなく、一般的に公知のチーグラー・ナッタ触媒が広く適用される。また、助触媒成分やドナーを含んでも構わない。主要固体触媒や助触媒、あるいはドナーなどの種類の選択やそれらの組み合わせ、重合条件などを適宜調整することによって、立体規則性度([mmmm])をコントロールすることが可能となる。
【0068】
樹脂中には、必要に応じて酸化防止剤、塩素吸収剤や紫外線吸収剤等の必要な安定剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤などの添加剤を本発明の効果を損なわない範囲であれば添加してもよい。
【0069】
ここで、酸化防止剤としては、Irganox1010、Irganox1330、BHT等のフェノール系酸化防止剤が、一般的であり、添加量としては、10〜8000ppm程度である。本発明のフィルムよりなるコンデンサー素子を高電圧で使用する場合には、特に、酸化防止剤の総量を、例えば1000ppm〜8000ppmと高配合にしておくことが好ましい。塩素吸収剤としては、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸が好ましく用いられる。
【0070】
立体規則性の異なる2種類のポリプロピレン原料樹脂(A)及び(B)を混合する方法としては、特に制限はないが、重合粉あるいはペレットを、ブレンドタンブラー、ミキサー等を用いてドライブレンドする方法や、主要樹脂(A)と添加樹脂(B)の重合粉あるいはペレットを、混練機に供給し、溶融混練してブレンド樹脂を得る方法などがあるが、いずれでも構わない。
【0071】
ミキサーや混練機にも特に制限はなく、また、混練機も、1軸スクリュータイプ、2軸スクリュータイプあるいは、それ以上の多軸スクリュータイプの何れでもよい。さらに、2軸以上のスクリュータイプの場合、同方向回転、異方向回転のどちらの混練タイプでも構わない。
【0072】
溶融混練によるブレンドの場合は、良好な混練さえ得られれば、混練温度にも特に制限はないが、一般的には、200℃から300℃の範囲であり、230℃から270℃が好ましい。あまり高い混練温度は、樹脂の劣化を招くので好ましくない。樹脂の混練混合の際の劣化を抑制するため、混練機に窒素などの不活性ガスをパージしても構わない。
【0073】
溶融混練された樹脂は、一般的に公知の造粒機を用いて、適当な大きさにペレタイズすることによって、混合ポリプロピレン原料樹脂ペレットを得ることができる。
【0074】
本発明の混合ポリプロピレン原料樹脂中に含まれる重合触媒残渣等に起因する総灰分は、電気特性を良化するために可能な限り少ないことが好ましく、50ppm以下、好ましくは40ppm以下である。
【0075】
本発明のキャスト原反シートを成形する方法としては、公知の各種方法を採用することができる。例えば、ドライ混合されたポリプロピレン樹脂ペレット(及び/あるいは重合粉)あるいは、予め溶融混練して作製した混合ポリプロピレン樹脂ペレットからなる原料ペレット類を押出機に供給し、加熱溶融し、ろ過フィルターを通した後、170℃〜320℃、好ましくは、200℃〜300℃で加熱溶融してTダイから溶融押し出し、70℃〜140℃に保持された少なくとも1個以上の金属ドラムで、冷却、固化させ、未延伸のキャスト原反シートを成形する方法を採用できる。
【0076】
このシート成形の際に、金属ドラム群のうち、少なくとも1つ目のドラムの温度を70℃〜140℃、好ましくは80℃〜120℃に保持することにより、得られるキャスト原反シートのβ晶分率は、X線法で1%以上50%以下、好ましくは、5%以上30%未満程度となる。なお、この値は、β晶核剤を含まない時の値である。
【0077】
前述したように、低すぎるβ晶分率はフィルム表面を平滑化するため、素子巻き等の加工適性には不利となるが、耐電圧特性などコンデンサーの特性が向上する。しかしながら、前述のβ晶分率の範囲になると、コンデンサー特性と素子巻き加工性の両物性を十分に満足させる。
【0078】
前記β晶分率は、X線回折強度測定によって得られ、「A.Turner−Jones et al.,Makromol.Chem.,75巻,134頁 、1964年」に記載されている方法によって算出される値であり、K値と呼ばれている値である。即ち、α晶由来の3本の回折ピークの高さの和とβ晶由来の1本の回折ピークの比によってβ晶の比率を表現したものである。
【0079】
上記キャスト原反シートの厚さには特に制限はないが、通常、0.05mm〜2mm、好ましくは、0.1mm〜1mmであるのが望ましい。
【0080】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムは、前記ポリプロピレンキャスト原反シートに延伸処理を行って作製することができる。延伸は、縦及び横に2軸に配向せしめる二軸延伸がよく、延伸方法としては、同時二軸延伸、あるいは逐次二軸延伸のどちらでも構わないが、逐次二軸延伸方法が実用的であり好ましい。逐次二軸延伸方法としては、まずキャスト原反シートを100〜160℃の温度に保ち、速度差を設けたロール間に通して流れ方向に3〜7倍に延伸し、直ちに室温に冷却する。この縦延伸工程の温度を適切に調整することにより、β晶は融解しα晶に転移し、凹凸が顕在化する。引き続き、当該延伸フィルムをテンターに導いて160℃以上の温度で幅方向に5〜11倍に延伸した後、緩和、熱固定を施し巻き取る。
【0081】
巻き取られたフィルムは、20〜50℃程度の雰囲気中でエージング処理を施された後、所望の製品幅に断裁することができる。
このような延伸工程によって、機械的強度、剛性に優れたフィルムとなり、また、表面の凹凸もより明確化され、微細に粗面化された延伸フィルムとなる。
【0082】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、金属蒸着加工工程などの後工程において、接着特性を高める目的で、延伸・熱固定工程終了後に、オンラインもしくはオフラインにてコロナ放電処理を行っても構わない。コロナ放電処理としては公知の方法を用いることができるが、雰囲気ガスとして空気、炭酸ガス、窒素ガス、及びこれらの混合ガス中で処理することが望ましい。
【0083】
本発明のフィルムの表面には、素子巻き適性を向上させつつ、コンデンサー特性を良好とする適度な表面粗さを付与することが好ましい。
本発明のさらにもう一つの態様は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片方の一面において、その表面粗さが、中心線平均粗さ(Ra)で0.08μm以上0.18μm以下であり、かつ、最大高さ(Rmax)で0.8μm以上1.7μm以下に微細粗面化されていることを特徴とすることである。
【0084】
RaやRmaxがある程度大きい値であると、コンデンサーへ加工する素子巻きの際に、フィルム間に適度な空隙が生じるためフィルムが適度にすべり、巻取りにシワが入りにくく、かつ横ズレも起こしにくくなる。しかし、それらの値が大きすぎると、フィルム間の層間空隙が大きくなることによる重量厚み低下が起こり、耐電圧性の低下を招くため、好ましくない。逆に、突起体積が低く平滑であると、耐電圧性の面では有利になるが、低い値になりすぎると、フィルムが滑りにくくなり、素子巻きの際にシワが発生しやすくなり、生産性が低下するため、好ましくない。
【0085】
Ra及びRmaxの測定は、例えばJIS−B0601等に定められている方法によって、一般的に広く使用されている触針式あるいは非接触式表面粗さ計などを用いて測定される。装置のメーカーや型式には何ら制限はない。本発明における検討では、小坂研究所社製、万能表面形状測定器SE−30型を用い、粗さ解析装置AY−41型によって、JIS−B0601に定められている方法に準拠してRa及びRmaxを求めた。接触法(ダイヤモンド針等による触針式)、非接触法(レーザー光等による非接触検出)のどちらでも測定可能であるが、本発明における検討では、接触法により測定し、その値の信頼性を、必要に応じて非接触法値により補足参照して行った。
【0086】
フィルム表面に微細な凹凸を与える方法としては、エンボス法、エッチング法など、公知の各種粗面化方法を採用することができるが、その中でも、不純物の混入などの必要がない、β晶を用いた粗面化法が好ましい。β晶の生成割合は、一般的には、キャスト温度やキャストスピードによってもβ晶の割合はコントロールされ得る。また、縦延伸工程のロール温度ではβ晶の融解/転移割合を制御することができ、これらβ晶生成とその融解/転移の二つのパラメーターについて最適な製造条件を選択することで、微細な粗表面性を得ることができる。
【0087】
本発明においては、本発明で規定する範囲に調整された低立体規則性樹脂と高立体規則性樹脂との混合体を用いると、特徴的な微結晶の形成状態を発現するため、微細な表面の凹凸を得るためのβ晶生成にも有用な効果を得ることができる。つまり、β晶生成の割合を調整するための製造条件を従来条件から大きく変更しなくても、小さな結晶サイズかつ、あまり多すぎない生成割合を達成でき、よって、本発明に係る前記表面粗さを実現することができ、耐電圧性と素子巻き適性との両立に寄与することが可能となる。
【0088】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムの厚さは、1μm以上10μm未満、好ましくは1μm以上7μm以下であり、より好ましくは1μm以上5μm以下である。この延伸フィルムは、表面が微細に粗面化されているため、素子巻き適性に優れており、耐電圧特性も高く、非常に薄いフィルムであるため高い電気容量も発現し易く、コンデンサー用延伸フィルムとして極めて好適である。
【0089】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムをコンデンサーとして加工する際の電極は、特に限定されるものではなく、例えば、金属箔や、少なくとも片面を金属化した紙やプラスチックフィルムであるのがよいが、小型・軽量化が一層要求されるコンデンサー用途においては、本発明のフィルムの片面もしくは両面を直接金属化した電極が好ましい。金属化するのに用いられる金属は、亜鉛、鉛、銀、クロム、アルミニウム、銅、ニッケルなどの単体、複数種の混合物、合金などが制限無く用いられるが、環境や、経済性、コンデンサー性能などを考慮すると亜鉛やアルミニウムが好ましい。
【0090】
本発明の延伸ポリプロピレンフィルムを直接金属化する方法としては、真空蒸着法やスパッタリング法を挙げることができ、これらに限定されるものではないが、生産性や経済性などの観点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法としては、一般的にるつぼ法式やワイヤー方式などを挙げることができるが、特に限定されるものではなく、適宜最適なものを選択すればよい。
【0091】
蒸着により金属化する際のマージンパターンも特に限定されるものではないが、コンデンサーの保安性等の特性を向上させる点からフィッシュネットパターンないしはTマージンパターン等といった、いわゆる特殊マージンを含むパターンを本発明のフィルムの片方の面上に施した場合は、保安性が高まり、コンデンサーの破壊、ショートの防止、などの点からも効果的であり好ましい。
マージンを形成する方法はテープ法、オイル法など、一般に公知の方法が、何ら制限なく使用することができる。
【0092】
前記金属化フィルムを巻回して作製されるコンデンサーの構造は、乾式であっても液体に含浸する方式であってもよい。また、コンデンサーを作製する方法にも、何ら制限がなく、一般に入手可能な自動巻取り装置が使用可能である。巻き上げられたコンデンサー素子は、丸型であっても扁平型であっても構わない。また、巻き上げられた素子は、素子に熱安定性を付与する目的で、熱処理を施すのがよい。
【0093】
本発明のフィルムは、小型かつ高容量のコンデンサーに好適である。前記コンデンサーの電気容量は、5μF以上、好ましくは10μF以上、さらに好ましくは20μF以上の素子で構成されるコンデンサーに好ましく用いることができる。
【実施例】
【0094】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、もちろん、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。また、特に断らない限り、例中の部及び%はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0095】
〔特性値の測定方法ならびに効果の評価方法〕
実施例における特性値の測定方法及び効果の評価方法はつぎの通りである。
【0096】
(1)メソペンタッド分率([mmmm])測定
原料ポリプロピレン樹脂を溶媒に溶解し、高温型フーリエ変換核磁気共鳴装置(高温FT−NMR)を用いて、以下の条件で、立体規則性度であるメソペンタッド分率([mmmm])を求めた。
測定機:日本電子株式会社製、高温FT−NMR JNM−ECP500
観測核:13C(125MHz)
測定温度:135℃
溶媒:オルト−ジクロロベンゼン〔ODCB:ODCBと重水素化ODCBの混合溶媒(
4/1)〕
測定モード:シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅:9.1μsec(45°パルス)
パルス間隔:5.5sec
積算回数:4500回
シフト基準:CH(mmmm)=21.7ppm
5連子(ペンタッド)の組み合わせ(mmmmやmrrmなど)に由来する各シグナルの強度積分値より、百分率(%)で算出した。各シグナルの帰属は、「T.Hayashi et al.,Polymer,29巻,138頁、1988年」を参照して行った。
【0097】
(2)重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)の測定
原料樹脂の分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、以下の条件で測定した。
測定機:東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵高温GPC、
HLC−8121GPC−HT型
カラム:東ソー株式会社製、TSKgel GMHHR−H(20)HTを3本連結
カラム温度:140℃、
溶離液:トリクロロベンゼン
流速:1.0ml/min
検量線の作製には、東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用い、測定結果はポリプロピレン値に換算した。
【0098】
(3)温度‐tanδ曲線の測定(固体動的粘弾性測定)
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの温度‐tanδ曲線における結晶分散のピーク温度は、固体動的粘弾性測定装置を用いて、以下の条件で測定した。
測定機:エスアイアイナノテクノロジー社製、動的粘弾性測定装置DMS6100型、周波数:0.5Hz
昇温速度:2℃/min
振幅歪:0.05%
チャック間距離:20mm
試料幅:10mm
静荷重:1MPa
フィルムの測定方向:マシン流れ(MD)方向
測定結果から、温度−tanδ曲線を求め、50℃〜100℃に出現する結晶分散ピークのピーク温度を評価した。
結晶分散ピークが、明確な極大点を示さない場合には、以下のピーク分離を行った。
エスアイアイナノテクノロジー社製の動的粘弾性測定装置付属の解析ソフトウェアMuse Ver.5.8 を用い、測定によって得られた温度−tanδ曲線を、他ソフトフェアで解析できるように外部保管する。そのファイルを、ヒューリンクス社製、KaleidaGraph3.5Jを用いて開き、温度−tanδグラフを描画した。その曲線のショルダー部分(温度域)について、ガウス関数を用いた回帰曲線によってフィッティングを行うことでピーク分離を実施した。なお、曲線のフィッティングにおけるピーク温度の初期値は、60℃とした。
【0099】
(4)キャストシート及び延伸フィルムの厚さの評価
キャストシート及び二軸延伸フィルムの厚さは、マイクロメーター(JIS−B7502)を用いて、JIS−C2330に準拠して測定した。
【0100】
(5)示差走査熱量(DSC)測定
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの融解ピーク、及び、融解熱量全体に対する部分融解熱量分率の評価は、パーキン・エルマー社製、入力補償型DSC Diamond DSCを用い、以下の手順により算出した。
まず、ポリプロピレンフィルムを約2mg秤りとり、アルミニウム製のサンプルホルダーに詰め、DSC装置にセットし、窒素流下、0℃から200℃まで20℃/minの速度で昇温し、その融解曲線を測定した。
DSC測定の結果、100℃から190℃の間には、少なくとも2つ以上の融解ピークを得ることができ、その最も高温側の融解ピーク曲線のピークトップ(頂点)温度を評価した。
全体の総融解熱量は、ベースラインと融解曲線が為す全面積(温度に対する吸熱の積分値)から計算した。さらに、低温側ピークの部分融解熱量は、図4のように、最高温側ピークとの間に温度による境界線を設け、その境界線から低温側のピーク曲線とベースラインが為す面積(境界線までの吸熱の積分値)から求めた。総融解熱量に対する低温側融解ピークの部分融解熱量の分率を、部分融解熱量分率とし、百分率(%)にて評価した。
【0101】
(6)表面粗さの測定
中心線平均粗さ(Ra)、及び、最大高さ(Rmax)の測定は、小坂研究所社製、万能表面形状測定器SE−30型を用い、粗さ解析装置AY−41型によって、JIS−B0601に定められている方法に準拠して求めた。測定回数は3回行い、その平均値を評価に用いた。本評価では、接触法により測定し、その値の信頼性を、必要に応じて非接触法値により補足、確認した。
【0102】
(7)フィルムの高温耐電圧性(高温絶縁破壊強度)の評価
二軸延伸フィルムの耐電圧性は、JIS−C2330 7.4.11.2(絶縁破壊電圧・平板電極法:B法)に準じて絶縁破壊電圧を測定することによって評価した。昇圧速度は100V/sec、破壊の際の遮断電流は10mAとし、測定回数は18回とした。ここでは、測定された平均電圧値を、フィルムの厚みで割ったものを、絶縁破壊強度として評価に用いた。送風循環式高温槽内にフィルム及び電極冶具をセットして、評価温度100℃にて、測定を行った。
高温絶縁破壊強度450V/μm以上が実用上望ましい。
【0103】
(8)コンデンサー素子の作製
フィルムに、フィッシュネット蒸着パターン(1mmマージン)と全蒸着(ベタ)パターン(1mmマージン)を蒸着抵抗6Ω/□にてアルミニウム蒸着を施した。小幅にスリットした後、両蒸着パターンを相合わせて、株式会社皆藤製作所製、自動巻取機 3KAW−4L(B)を用い、巻き取り張力400gにて、956ターン巻回を行った。素子巻きした素子は、120℃にて2時間熱処理を施した後、素子端面に亜鉛金属を溶射し、コンデンサーとした。でき上がったコンデンサーの電気容量は、20μF(±1μF)であった。
【0104】
(9)コンデンサー素子の高温耐電圧性試験
得られたコンデンサー素子の高温耐電圧試験を以下の手順で行った。
まず、予め素子を試験温度(105℃)にて1時間予熱した後、試験前の初期の電気容量を安藤電気株式会社製LCRテスターAG4311にて、評価した。次に、105℃の高温槽中にて、高圧電源を用い、コンデンサー素子に直流1.3KVの電圧を1分間負荷した。電圧負荷を終えた後の素子の容量をLCRテスターで測定し、電圧負荷前後の容量変化率を算出した。ついで、素子を再度高温槽内に戻し、2回目の電圧負荷を行い、2回目の容量変化(累積)を求め、これを3回繰り返した。3回目の容量変化率を評価に用いた。
3回目の電気容量変化率が、−20%以下が実用上好ましいといえる。
【0105】
(10)コンデンサー用フィルムとしての総合評価
電気容量向上に必要な10μ未満のフィルムの成否、素子巻き加工に必要な表面の微細粗化が可能か否か、かつ、高温での耐電圧特性等、コンデンサー用フィルムとしての好適性を総合的に評価した。従来技術に基づくフィルムより向上したものを「○」、コンデンサーフィルムとして適さないものを「×」とした。
【0106】
〔ポリプロピレン樹脂〕
プライムポリマー社、及びボレアリス社より、表1に示す樹脂No.1〜No.4の4種の樹脂を入手した。
表1に、これら樹脂のメソペンタッド分率([mmmm]:%)、重量平均分子量(Mw)、及び、分子量分布(Mw/Mn)を記した。また、混合樹脂について、その内容を表1にまとめた。
【0107】
〔実施例1〕
主要樹脂(A)である、プライムポリマー社製、[mmmm]が97%の樹脂No.1ペレットに、添加樹脂(B)であるプライムポリマー社製の[mmmm]が94%の樹脂No.2を、添加率10質量%にてドライブレンド混合して得た樹脂混合体ペレット〔混合(1)〕を、押出機に供給して、樹脂温度250℃の温度で溶融し、Tダイを用いて押出し、表面温度を90℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させ、厚さ約250μmのキャスト原反シートを作製した。引き続き、この未延伸キャスト原反シートを140℃の温度で、流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温まで冷却した後、ついでテンターにて165℃の温度で横方向に10倍に延伸して、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
樹脂の分子特性並びに添加率を表1に、また、フィルムの評価結果を表2にまとめる。
【0108】
〔実施例2〕
押出機に供給する混合樹脂ペレットを、添加樹脂(B)である樹脂No.2の添加率を15質量%にて混合して得た樹脂混合体ペレット〔混合(2)〕に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
樹脂の分子特性並びに添加率を表1に、また、フィルムの評価結果を表2にまとめる。
【0109】
〔実施例3〕
押出機に供給する混合樹脂ペレットを、添加樹脂(B)であるプライムポリマー社製の[mmmm]が92.5%の樹脂No.3を、添加率10質量%にて混合して得た樹脂混合体ペレット〔(混合(3)〕に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
樹脂の分子特性並びに添加率を表1に、また、フィルムの評価結果を表2にまとめる。
【0110】
〔比較例1〕
押出機に供給する原料樹脂ペレットを、混合樹脂ペレットに代えて、主要樹脂(A)であるプライムポリマー社製、[mmmm]が97%の樹脂No.1ペレットのみとした以外は、実施例1と同様にして、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
樹脂の分子特性を表1に、また、フィルムの評価結果を表2にまとめる。
【0111】
〔比較例2〕
押出機に供給する原料樹脂ペレットを、混合樹脂ペレットに代えて、主要樹脂(B)であるプライムポリマー社製の[mmmm]が94%である樹脂No.2ペレットのみとした以外は、実施例1と同様にして、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
樹脂の分子特性を表1に、また、フィルムの評価結果を表2にまとめる。
【0112】
〔比較例3〕
押出機に供給する混合樹脂ペレットを、主要樹脂(A)である、プライムポリマー社製、[mmmm]が94%の樹脂No.2ペレットに、添加樹脂(B)であるプライムポリマー社製の[mmmm]の92.5%の樹脂No.3を、添加率10質量%にてドライブレンド混合して得た樹脂混合体ペレット〔混合(4)〕に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
樹脂の分子特性並びに添加率を表1に、また、フィルムの評価結果を表2にまとめる。
【0113】
〔比較例4〕
押出機に供給する混合樹脂ペレットを、添加樹脂(B)である樹脂No.2の添加率を30質量%にて混合して得た樹脂混合体ペレット〔混合(5)〕に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製膜を試みた。しかしながら、安定的に延伸することができず、フィルムを得られなかった。
樹脂の分子特性並びに添加率を表1に、また、フィルム製膜の結果を表2にまとめる。
【0114】
〔比較例5〕
押出機に供給する混合樹脂ペレットを、主要樹脂(A)である、プライムポリマー社製、[mmmm]が97%の樹脂No.1ペレットに、添加樹脂(B)であるボレアリス社製の[mmmm]が90%の樹脂No.4を、添加率15質量%にてドライブレンド混合して得た樹脂混合体ペレット〔混合(6)〕に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚さ5μmの薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
樹脂の分子特性並びに添加率を表1に、また、フィルムの評価結果を表2にまとめる。
【0115】
〔実施例4〕
前記載の実施例2の樹脂混合体ペレット〔混合(2)〕を押出機に供給して、樹脂温度250℃の温度で溶融し、Tダイを用いて押出し、表面温度を90℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させ、厚さ約150μmのキャスト原反シートを作製した。引き続き、この未延伸キャスト原反シートを140℃の温度で流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温まで冷却した後、ついでテンターにて165℃の温度で横方向に10倍に延伸して、厚さ3μmの非常に薄い二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
樹脂の分子特性並びに添加率を表1に、また、フィルムの評価結果を表2にまとめる。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【0118】
実施例1〜3で明らかな通り、本発明に係る範囲の主要ポリプロピレン樹脂(A)に、それよりもメソペンタッド分率が特定の範囲で低い添加ポリプロピレン樹脂(B)を本発明の添加率の範囲内で添加して得た混合樹脂から作製された高い結晶分散温度を有したポリプロピレンフィルムは、樹脂を混合せず、高い結晶分散温度になっていない場合(比較例1及び2)に比して、高温下での耐電圧性が明らかに向上していた。
【0119】
主要樹脂(A)が、本発明の係る範囲外であると、高温下で高い耐電圧性を得ることができなかった(比較例3)
添加樹脂(B)を、本発明の係る範囲を超えて添加すると、フィルムの成形状態が不安定となり、延伸中の破断が多発し、薄い延伸フィルムを安定的に作製することができなかった(比較例4)。また、添加樹脂(B)が、本発明の係る範囲を超えた低立体規則性樹脂であると、耐電圧性向上効果が得られない上、フィルム表面が平滑化しすぎ、素子巻き加工において実用上好ましいものではなかった。(比較例5)
【0120】
さらに、本発明の樹脂混合体から作製されたキャスト原反シートは、実施例4に明らかな通り、延伸性に富み、非常に薄い二軸延伸フィルムを得ることが容易であった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
高延伸性を有するポリプロピレンフィルム用キャスト原反シートを得ることができ、そこから作製した薄いコンデンサー用二軸延伸フィルムは、高温での耐電圧性に特に優れ、かつ微細粗面を有するので、このフィルム及びその金属蒸着フィルムは、小型かつ大容量型のコンデンサーに好ましく利用可能である。
【符号の説明】
【0122】
1.カーブフィットにより分離した結晶分散曲線
2.結晶分散温度
3.最高温側の融解ピーク温度
4.ベースライン
5.総融解熱量
6.低温側と最高温側の融解ピークの境界の一例
7.部分融解熱量



【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温型核磁気共鳴(高温NMR)測定によって求められる立体規則性度であるメソペンタッド分率([mmmm])が95%以上98%以下である分子特性を有する主要アイソタクチックポリプロピレン樹脂(A)に、[mmmm]が当該樹脂(A)より1%以上5%以下の範囲で低いアイソタクチックポリプロピレン樹脂(B)を、樹脂混合体の総質量に対して1質量%以上20質量%以下の範囲で添加された、少なくとも2種類以上の異なる立体規則性を有するアイソタクチックポリプロピレン樹脂混合体からなる二軸延伸ポリプロピレンフィルムであって、固体動的粘弾性測定によって昇温速度2℃/min、周波数0.5Hzのときに得られる温度−損失正接(tanδ)曲線において、tanδの力学的分散(結晶分散)ピークの温度が80℃以上であることを特徴とする、コンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
前記主要アイソタクチックポリプロピレン樹脂(A)が、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量(Mw)が25万以上45万以下で、分子量分布(Mw/Mn)が4以上7以下である分子特性を有することを特徴とする、請求項1記載のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム
【請求項3】
前記アイソタクチックポリプロピレン樹脂混合体が、示差走査熱量計(DSC)法にて、昇温速度20℃/minにて測定した際、少なくとも2つ以上の融解ピークを有し、170〜175℃に頂点を有するピーク(最高温側ピーク)以外の低温側ピークがなす融解熱量全体に対する部分融解熱量分率が55%以上70%未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの少なくとも片方の一面において、その表面粗さが、中心線平均粗さ(Ra)で0.08μm以上0.18μm以下であり、かつ、最大高さ(Rmax)で0.8μm以上1.7μm以下に微細粗面化されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
厚さが1μm以上10μm未満であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
少なくとも2種類以上の異なる立体規則性を有したアイソタクチックポリプロピレン樹脂混合体からなり、高温NMR測定によって求められる立体規則性度である[mmmm]が、95%以上98%以下である分子特性を有することを特徴とする主要アイソタクチックポリプロピレン樹脂(A)に、[mmmm]が、当該樹脂(A)より1%以上5%以下の範囲で低いアイソタクチックポリプロピレン樹脂(B)を、樹脂混合体の総質量に対して1質量%以上20質量%以下の範囲で添加された樹脂混合体からなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得るためのキャスト原反シート。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のコンデンサー用二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面もしくは両面に金属蒸着層を有することを特徴とする、コンデンサー用金属化ポリプロピレンフィルム。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−280795(P2010−280795A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134613(P2009−134613)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(000191320)王子特殊紙株式会社 (79)
【Fターム(参考)】