説明

コンデンサ放電型スタッド溶接ガン、これを備えたポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機、及びコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを用いたスタッド等の溶接方法

【課題】平坦でない板金表面等で放電時における溶接箇所に十分な押圧力を与え、強度の高いスタッド溶接を実現する。
【解決手段】溶接ガン本体内に、電極スライドロッドとそれを前方へ付勢するばねを備え、電極スライドロッド先端に被溶植部材を保持するチャック部と、電極スライドロッドガイドを備え、ばねは、電極スライドロッドガイドの前方に配置される前ばねと、電極スライドロッドの後端より後方に間隔をあけ、後ばねストッパを介して配置される後ばねとし、電極スライドロッドの後方への移動で溶接スイッチをオンとするスイッチ押圧部を備え、前ばねが前方へ電極スライドロッドを押圧し、電極スライドロッドが後ばねストッパに加速衝突し溶接スイッチをオンとして放電電流を出力し、溶融池が凝固するまでのタイミングで電極スライドロッドの一部が溶接ガン本体の当接部に加速衝突するコンデンサ放電型スタッド溶接ガン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両部品等の溶接を手動で行うための携帯用の溶接ガンのうち、特に、コンデンサ放電型スタッド溶接を行う溶接ガン(以下、コンデンサ放電型スタッド溶接ガン)と、該コンデンサ放電型溶接ガンを備えた持ち運び容易なポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機、更に、これらを用いたスタッドその他金属製の被溶植部材(例えば波形ワイヤ、ワッシャ等)の母材に対する溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の板金修理等の作業において、母材に対してスタッドボルトや波形ワイヤ、ワッシャ等の被溶植部材を溶植することがよく行われる。このような作業の際に、スタッド溶接ガンを備えたポータブル溶接機を使用することができる。当該ポータブル溶接機におけるスタッド溶接ガンは、その本体内にばねを内蔵し、スタッド溶接ガンの先端チャックに上記したスタッドボルト等の被溶植部材を保持し、前記母材(例えば金属板等)に対して瞬間的な放電を行い溶接するものである。
【0003】
このようなコンデンサ放電型溶接ガンとしては、一般的に、コンタクト方式とギャップ方式(リフトアップ方式)とがある。前記コンタクト方式は、溶接ガンの先端のチャック部に取付けられたスタッドボルト等を溶接部材表面に予め所定のばね圧力で接触(コンタクト)しておく。そして、出力スイッチをオンとしてコンデンサから放電電流を流し、溶接を行うものである。当該コンタクト方式は、使用者が溶接ガンを母材に対して押付ける力が一定しないために、スタッドボルト等の母材に対する溶着力が不安定となりやすい欠点がある。それを避けるために、母材とスライドロッドとを一定間隔で離間させるための手段として、三本程度の棒材を当該ポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接ガンに取付けることがある。
【0004】
尚、コンタクト方式を示すコンデンサ放電型スタッド溶接ガンとしては、例えば、大容量コンデンサ並びに前記コンデンサに対する充電回路を備えた溶接機本体と、前記溶接機本体における充電回路に対して電気的に接続されていて、スタッド部材をチャッキング支持して前記溶接機本体から離れた部所において溶接作業を行い得るようになしたスタッド溶接ガンとの組み合わせでなるコンデンサアーク式スタッド溶接機において、前記スタッド溶接ガンが、スタッド部材チャッキング手段を備えたガン本体部と、前記ガン本体部に対して一体的に組み合わせたガン握り手部とを有するものからなり、前記スタッド溶接ガンにおける前記ガン握り手部に、該ガン握り手部を握り込んだ際に電気的接点を閉じて、前記溶接機本体に対して溶接電圧選択信号を出力する溶接電圧選択操作スイッチと、前記溶接電圧選択操作スイッチに近傍に設けてあって、押し込み操作によって電気的接点を閉じて、前記溶接機本体に対して溶接開始信号を出力する溶接開始操作スイッチとを設けてなることを特徴とするコンデンサ放電型スタッド溶接ガン(例えば、特許文献1参照。)等が公知である。
【0005】
一方、ギャップ方式のコンデンサ放電型スタッド溶接ガンは、溶接ガンの先端のチャック部に取付けられたスタッドボルトを母材の表面に接触させず、ソレノイドコイル等の手段を用いて、母材とスタッドボルト等との距離を一定となるように持ち上げる構成を有する。そして、リフトアップされたスタッドボルト等は、溶接ガンの出力スイッチがオンとなることで、電極ロッドとともに加速しながら母材表面に打ち付けられ、このときにコンデンサから大電流が放電することで、スタッドボルト等と母材とが溶接されるものである。
【特許文献1】特開平5−154660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記したもののうち特許文献1に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンにおける前記棒材は、起伏のない平坦な母材に対して溶着するのであれば有効に使用することができるが、平坦でない板金表面では有効に機能しないばかりか、作業の邪魔となる欠点がある。このため、前記棒材を取り外して使用することとなり、スタッドボルト等の母材に対する溶着力が不安定となりやすい欠点を解消できないものとなっていた。
【0007】
一方、ギャップ方式のコンデンサ放電型スタッド溶接ガンは、溶接ガンの先端のチャック部に取付けられたスタッドボルトを母材の表面に接触させず、ソレノイドコイル等の手段を用いて、母材とスタッドボルト等との距離を一定となるように持ち上げる構成を有する。そして、ギャップ方式ではリフトアップされたスタッドボルト等は、溶接ガンの出力スイッチがオンとなることで、電極ロッドとともに加速しながら母材表面に打ち付けられ、このときにコンデンサから大電流が放電することで、スタッドボルト等と母材とが溶接されるものである。このため、前記スタッドボルト等を電極ロッドとともに加速するために、母材からスタッドボルト等まで一定の距離を保つ必要があり、そのためにポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接ガンに複数の棒材を備える必要がある。従って、前記コンタクト方式のうち母材とスライドロッドを一定間隔で離間させるものと同様に、平坦でない板金表面では有効に機能せず、また作業の邪魔となる欠点があった。
【0008】
更に、ギャップ方式ではソレノイドコイル等を使用することによって、構成が複雑となり、重量の増加や大型化を伴いやすく、ポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接ガンとしての扱いやすさが損なわれる欠点があった。
【0009】
ところで、コンデンサ放電型スタッド溶接機は、母材である金属板の表面に塗装膜、油膜などがあると、接触不良となり、このまま放電電流を出力すると、母材の溶接箇所から激しいスパッタ(火花)を発生し、母材表面を著しく破損する。このため、このような接触不良による破損を未然に阻止できれば、扱い易さや溶接の質の安定性は更に向上し、非常に都合が良い。
【0010】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、複数の棒材を用いることなく平坦ではない板金表面等においても、放電時における溶接箇所に十分な押圧力を与え、強度の高いスタッド溶接を実現でき、更には、溶接時の接触不良による母材表面の破損を防止して、扱い易さや溶接の品質安定性を向上させる、優れたコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、溶接ガン本体内に、前後方向にスライド可能な電極スライドロッドと、該電極スライドロッドを前方へ付勢するばねを備え、スライドロッド先端に被溶植部材を保持するチャック部を備えたコンデンサ放電型スタッド溶接ガンにおいて、前記電極スライドロッドをガイドする電極スライドロッドガイドを備え、前記ばねは、スライドロッドガイドの前方に配置される前ばねと、電極スライドロッドの後端より後方に間隔をあけ、後ばねストッパを介して配置される後ばねとし、電極スライドロッドの後方への移動に伴い、電極スライドロッドに従動して溶接スイッチをオンとするスイッチ押圧部を備えた構成とし、前ばねがばね弾性力によって前方へ電極スライドロッドを押圧した状態で、電極スライドロッドが後ばねのばね弾性力に抗して後ばねストッパに加速衝突し、電極スライドロッドに従動するスイッチ押圧部が溶接スイッチをオンとすることで放電電流を出力し、溶融池が凝固するまでのタイミングで電極スライドロッドの一部若しくはこれに従動する一部が溶接ガン本体の当接部に加速衝突することを特徴とするコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを基本とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前記ばねは、スライドロッドガイドの前方に配置される前ばねと、電極スライドロッドの後端より後方に間隔をあけ、後ばねストッパを介して配置される後ばねとし、溶接スイッチのオン直前、即ち放電の直前に、前ばねが母材に被溶植部材を押圧し、後ばねのばね弾性に抗して電極スライドロッドが後ばねストッパに加速衝突して、初めて大きな加重が被溶植部材に作用するため、被溶植部材の先端部が変形しにくい。このため、放電時に単位面積当たりの電流密度が低下することなく、効率の良い溶接を可能とすることができる。
【0013】
そして、電極スライドロッドは接触によって溶接スイッチをオンとするスイッチ押圧部を備え、電極スライドロッドのスイッチ押圧部が溶接スイッチをオンすることで放電電流が出力され、溶融池が凝固するまでのタイミングで電極スライドロッドの一部が溶接ガン本体の当接部に加速衝突することで、前ばねの押圧力、後ばねの衝撃加重、スライドロッドの一部の衝撃加重が溶接部に対してかかり、強固に被溶植部材を母材に固着することができる。
【0014】
更に、同構成によって、スライドロッド先端にスタッドボルト、鉄ワッシャ用ビット、波形ワイヤ用ビット等の被溶植部材を保持し、前ばねが母材に被溶植部材を押圧し、後ばねのばね弾性によって電極ロッドが後ばねストッパに加速衝突し、電極スライドロッドのスイッチ押圧部が溶接スイッチをオンすることで放電電流を出力し、溶融池が凝固するまでのタイミングで電極スライドロッドの一部が溶接ガン本体の当接部に加速衝突して、母材に対して被溶植部材を溶接する。即ち、通常のコンタクト方式の溶接ガンのように、被溶植部材を母材に押付けて1回のみ溶接を行う方式でありながら、通常のギャップ方式の溶接ガンのように、出力スイッチがオンとなることで、電極ロッドとともに加速しながら母材表面に打ち付けられ、このときにコンデンサから大電流が放電することで、被溶植部材と母材とを溶接する。このためギャップ方式のコンデンサ放電型溶接ガンのように軟らかい材質の被溶植部材であるアルミ製のスタッドボルト等の溶接に適する一方で、電極スライドロッドと同一軸として前ばねを配したため、前ばねが電極スライドロッドを常に前へ押付ける構成によって、ギャップ方式に必要とされる母材から被溶植部材まで一定の距離を保つための溶接ガン先端の複数の棒材を備える必要がない。
【0015】
また請求項2に係る発明によれば、溶接ガン本体の当接部は、電極スライドロッドガイドとしたことによって、ガイド機能と当接部としての機能を兼備し、且つ単純化した構成とすることができ、より動作安定性が高く、扱いやすく、製造コストが低廉なコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを提供することができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、溶接ガン本体内にばね圧力切換手段を備え、該ばね圧力切換手段は、回動板と該回動板の後面に配置されるブロックを備え、回動板のスライドロッド中心軸を基準とする回動によって、ブロック又は回動板の後面を選択的にスイッチ押圧部として機能する構成としたことから、前ばねの前端がブロックに当接する状態を選択すると相対的にばねは圧縮されて強くなり、また、前ばねの前端が回動板の後面に当接する状態を選択すると相対的にばねは伸長されて弱くなり、電極スライドロッドの先端に保持される被溶植部材の材質に応じた母材への押圧力を確保することができる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、上記請求項に係る発明の構成によって効率の良い強固なスタッド溶接を実現できることに加えて、溶接ガン本体は、後ばねの反発弾性力を調節するためのばね圧力調節ねじを多条ねじとして備えたことから、該ばね圧力調節ねじを回転させてばね押圧力を調節するに際して、僅かな回転回数でばね押圧力を大きく変更することができ、ばね押圧力を調節する手間を大幅に軽減することができる。
【0018】
請求項5に係る発明によれば、上記請求項に係る発明の構成に加えて前ばねのばね弾性力を段階的に切り換える前ばね圧力切換レバーを備えたことによって、被溶植部材が比較的柔軟な材質であればばね弾性力を低く設定でき、前記被溶植部材が頑強な材質であればばね弾性力を高く設定できるため、使用する被溶植部材の材質に応じた最適なスタッド溶接を容易に行うことができる。
【0019】
以上に示した本発明は、スタッド溶接ガンの有する軽量且つ優れた操作性を発揮するため、請求項6に係る発明として示すように、ポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機に適用することによって、当該ポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機に必要とされる携帯性、利便性に資することができ、溶接作業の利便性を著しく向上することができる。
【0020】
そして、請求項7に係る発明によれば、上記ポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機において、放電回路と充電回路とを備え、前記放電回路は、溶接スイッチの手動操作を放電要件とせず、且つ、電極スライドロッドの押し込み操作を放電要件とする回路(即ち、自動回路)を備えたことによって、スタッド溶接ガンの先端に装着した被溶植部材を母材に押し当てるだけでスタッド溶接を行えるため、作業性を非常に向上させることができる。
【0021】
そして、当該作用効果を発揮する具体的な手段として、請求項8に係る発明として示すように、放電回路は放電制御装置と導電検知装置を有し、導電検知装置は導通検知信号を放電制御装置に出力し、放電制御装置は前記導電検知信号を放電条件に含む構成を備えるものとすることができる。
【0022】
また、請求項9に係る発明によれば、前ばねがばね弾性力に抗する前方からの電極スライドロッドの押し込みによって、前方へ電極スライドロッドを押圧し、電極スライドロッドが後ばねのばね弾性力に抗して後ばねストッパに加速衝突し、電極スライドロッドに従動するスイッチ押圧部が溶接スイッチをオンとすることで放電電流を出力し、溶融池が凝固するまでのタイミングで電極スライドロッドの一部若しくはこれに従動する一部が溶接ガン本体の当接部に加速衝突する独自の方法によって、極めて強固な溶接を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
溶接ガン本体内に、前後方向にスライド可能な電極スライドロッドと、該電極スライドロッドを前方へ付勢するばねを備え、電極スライドロッド先端に被溶植部材を保持するチャック部を備えたコンデンサ放電型スタッド溶接ガンにおいて、前記電極スライドロッドをガイドする電極スライドロッドガイドを備え、前記ばねは、電極スライドロッドガイドの前方に配置され、電極スライドロッドを前方へ付勢する前ばねと、電極スライドロッドの後端より後方に間隔をあけ、後ばねストッパを介して配置される後ばねとし、電極スライドロッドの後方への移動に伴い、電極スライドロッドに従動して溶接スイッチをオンとするスイッチ押圧部を備えた構成とし、前ばねがばね弾性力に抗する前方からの電極スライドロッドの押し込みによって、前方へ電極スライドロッドを押圧し、電極スライドロッドが後ばねのばね弾性力に抗して後ばねストッパに加速衝突し、電極スライドロッドに従動するスイッチ押圧部が溶接スイッチをオンとすることで放電電流を出力し、溶融池が凝固するまでのタイミングで電極スライドロッドの一部若しくはこれに従動する一部が溶接ガン本体の当接部に加速衝突する構成とし、溶接ガン本体は、後ばねの反発弾性力を調節するためのばね圧力調節ねじを備え、該ばね圧力調節ねじは多条ねじとしたコンデンサ放電型スタッド溶接ガンによって、前ばねによるコンタクト方式の押圧と後ばねによるギャップ方式の押圧とを備え、前ばねが電極スライドロッドを前方へ付勢することと、電極スライドロッドと後ばねストッパの間に間隔をおくことによって、電極スライドロッド先端から後ばねストッパまで一定の間隔を保持して、ギャップ方式に必要な先端の棒材を要しないものとして、起伏のある歪んだ面に対するスタッド溶接を、溶着力が安定した状態で実現した。また、同構成によって、1回の放電の前後に溶接部に対する衝撃力を与えることで、より強固な溶接を実現した。
【実施例】
【0024】
図1は本発明の実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを示す正面図、図2は同実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを示す右側面図、図3は同実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを示す一部断面図及びその一部拡大図、図4は同実施例に係るスタッド溶接ガンを用いた溶接工程の第一段階を示す説明図、図5は同実施例に係るスタッド溶接ガンを用いた溶接工程の第二段階を示す説明図、図6は同実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを用いた溶接工程の第三段階を示す説明図、図7は同実施例に係るスタッド溶接ガンを用いた溶接工程の第四段階を示す説明図、図8は同実施例に係るスタッド溶接ガンのアルミ材溶接工程中、第一段階における電極スライドロッドと電極スライドロッドガイドとの関係を示す斜視説明図、図9は同実施例に係るスタッド溶接ガンのアルミ材溶接工程中、第四段階における電極スライドロッドと電極スライドロッドガイドとの関係を示す斜視説明図、図10は同実施例に係るスタッド溶接ガンの鉄材溶接工程中、第一段階における電極スライドロッドと電極スライドガイドとの関係を示す斜視説明図、図11は同実施例に係るスタッド溶接ガンの鉄材溶接工程中、第四段階における電極スライドロッドと電極スライドロッドガイドとの関係を示す斜視説明図、図12は同実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンの回路図、図13は同実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを備えたコンデンサ放電型スタッド溶接機を示す説明図、図14は同実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンの先端部を示す平面図である。
【0025】
本発明の実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1は、図1乃至図3に示すように、基本構成として、シリンダ10と該シリンダ10の下面に一体に形成した把持部11とからなる合成樹脂製の溶接ガン本体1aと、溶接ガン本体1aのシリンダ10内に設けられる電極スライドロッド100と、該電極スライドロッド100をガイドする電極スライドロッドガイド102と、電極スライドロッド100を前方へ常時付勢する前ばね18と、電極スライドロッド100の中心軸を基準として一定範囲で回動する前ばね圧力切換レバー14と、電極スライドロッド100の後方同軸上に配置され且つ電極スライドロッド100を加速させるための後ばね19及び後ばねストッパ124と、前記後ばね19の弾性力を調節するための後ばね圧力調節用摘み12を有する。以下に、本実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1の構成の詳細について説明する。
【0026】
本実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1の溶接ガン本体1aは、合成樹脂製の溶接ガン本体右部材及び溶接ガン本体左部材を突き合わせてなる。溶接ガン本体右部材及び溶接ガン本体左部材は概ね左右対称となる形状であり、相互を突き合わせることによって、電極スライドロッド100、電極スライドロッドガイド102等を収納する収納空間を形成する。
【0027】
図3に示すように、シリンダ10内の収納空間には軸中央長手方向に電極スライドロッド100を配置している。電極スライドロッド100は、前後方向へスライドでき、且つ前記電極スライドロッド100の保持手段となる前記電極スライドロッドガイド102に案内されている。電極スライドロッド100の先端にはスタッドボルト3a等の被溶植部材3を保持するためのチャック部13を備えている。チャック部13の構成は一般的なチャッキングの構成を有するものであり、差込口の外周にスリット130と螺刻部131を設け、該螺刻部131を雌螺部材132で締め込む構成のものである。一方、電極スライドロッド100の後端側には、放電を行うためのシャントワイヤ6が連結されている。
【0028】
電極スライドロッド100は、長手中央よりもやや前方位置に段差101を設け、段差101より後方の径を小さくしている。該段差101によって、前ばね圧力切換レバー当接部101aが形成される。前ばね圧力切換レバー当接部101aが前ばね圧力切換レバー14の前面に当接し、電極スライドロッド100の押し込み操作によって、前ばね圧力切換レバー14が電極スライドロッド100に従動することとなる。
【0029】
また、電極スライドロッド100の長手中央よりやや後方位置には、抜止用突起107を取付けている。電極スライドロッド100が前方へ移動した際に、必要量以上の移動をさせようとすると、当該抜止用突起107が電極スライドロッドガイド102の後記抜止用突起当接部102aと当接して、移動を阻止する。
【0030】
シリンダ10内の収納空間の略中央位置には、電極スライドロッド100を保持し、且つ電極スライドロッドの前後方向への移動を案内するための電極スライドロッドガイド102を設けている。電極スライドロッドガイド102は、中央には電極スライドロッド100をガイドするためのガイド穴を備えている。
【0031】
また、電極スライドロッドガイド102の後端面の右下隅及び左上隅には、後ばねストッパ124をガイドする後ばねストッパ用ガイドシャフト106を立設している。ストッパ用ガイドシャフト106は、中ほどに段を形成して後ばねストッパ124の一定以上の前方への移動を阻止する後ばね当接面106aを形成している。
【0032】
電極スライドロッドガイド102の下面には、第一溶接スイッチ15であるリーフスイッチ15aと、スイッチプッシュロッド103を設けている。リーフスイッチ15aは前方側にスイッチレバー150を備えている。スイッチプッシュロッド103は前後に移動できるようにスイッチプッシュロッド保持体104に保持されている。スイッチプッシュロッド103を後方側へ移動させることによってリーフスイッチ15aの前記スイッチレバー150が押し込まれて、リーフスイッチ15aの押釦151をオンとする。
【0033】
また、電極スライドロッドガイド102の最前端面108bに段部108を形成している。段部108によってブロック当接面108aが形成される。
【0034】
更に、電極スライドロッドガイド102の上面側には、スリット状の抜止用突起当接部102aを形成している。抜止用突起当接部102aのスリット幅は、前記抜止用突起107よりも大きく形成している。
【0035】
本実施例においては、前ばね18の圧力を切り替える前ばね圧力切換レバー14を備えている。前ばね圧力切換レバー14は、図3に示すように、円盤状の回動板141の背面143の一部にブロック144を備え、周面155からレバー部140を立設した形状である。
【0036】
シリンダ10の上部のうちレバー部140に対応する位置には、レバー部規制開口部146を形成している。レバー部140はレバー部規制開口部146から突出している。レバー部140は直立状態から左右へ夫々約37°程度回動することができる。前記ブロック144を回動板141の一部に設けたことと前ばね圧力切換レバー14の回動とによって、前ばね圧力切換レバー14と連結した電極スライドロッド100の押し込み可能な量が異なる。
【0037】
図14に示すように、前記レバー部規制開口部146は、左右方向に長穴状として開口した第一開口部147を形成し、第一開口部147の左右両端からシリンダ10後方向けに長穴状の第二開口部148を連続して形成している。また、第一開口部147の中央部及び左右両端からシリンダ10の前方向けに僅かに開口を延長してレバー係止部149を設けている。
【0038】
回動板の中央に形成された穴部142を前記電極スライドロッド100が貫通し、電極スライドロッド100の周面に形成される取付溝に回動板141を嵌め込んでいる。回動板141は電極スライドロッド100に対して軸中心として回動するが、電極スライドロッド100の前後方向に対しては、電極スライドロッド100とともに動くこととなる。
【0039】
そして、電極スライドロッドガイド102と前ばね圧力切換レバー14の回動板141との間には、前ばね18を配置している。
【0040】
本実施例では、右方向へレバー部140を倒した状態で鉄材のスタッドボルト3aやワッシャ等の使用に適した押圧力を発揮する設定としている。また、左方向へレバー部140を倒した状態でアルミ製材料からなるスタッドボルト3a等に適した押圧力を発揮する設定としている。
【0041】
右方向へレバー部140を倒した状態では、図10に示す初期状態から図11に示す押し込み状態のように、前ばね圧力切換レバー14のブロック144aが、電極スライドロッドガイド102の段部108のブロック当接面108aと接触するまで電極スライドロッド100を押し込むことができ、前ばね18の押し込み量が大きくなり、強い反発弾性力を得ることができる。
【0042】
また、左方向へレバー部140を倒した状態では、図8に示す初期状態から図9に示す押し込み状態のように、前ばね圧力切換レバー14のブロック144aが、電極スライドロッドガイド102の最前端面108bに当接し、右方向へ倒した状態と比較して、前ばね18の押し込み量が小さくなる。
【0043】
更に、レバー部140が中央位置でロックした状態(即ち、電極スライドロッド100を母材2に対して押圧しても、電極スライドロッド100が後方向へスライドしない状態)となる。これは中央位置には第二開口部148は形成されていないからレバー部140は後方向へスライドできず、レバー部140と連結された電極スライドロッド100も後方向へスライドできないからである。
【0044】
尚、本実施例においてはレバー部140の位置と電極スライドロッド100との関係を容易とするために、アルミ材用の位置A(左端位置)に「弱」、鉄材用の位置B(右端位置)に「強」、中央に「固定」との表記を付している。
【0045】
シリンダ10内の前バネ圧力切換レバー14の後方には、プッシュロッド103を設けている。プッシュロッド103は、プッシュロッド保持体104によって保持している。また、プッシュロッド保持体104はシリンダ10に一体として設けている。前記プッシュロッド103は、更に当該プッシュロッド103の後方に位置する後記第一溶接スイッチ15を押すために利用する。
【0046】
そして、プッシュロッド103の後方には第一溶接スイッチ15(リーフスイッチ15a)を配置している。第一溶接スイッチ15は、本発明における「自動設定」として、使用するものであり、突出した第一スイッチレバー150を押圧した状態で通電する。
【0047】
把持部11内の前側付け根近傍には、第二溶接スイッチ16(リーフスイッチ)を設けている。第二溶接スイッチ16を通電状態とするための第二スイッチレバー160は把持部11から外部へ突出しており、作業者が把持部11を片手で握り、引き金を引く要領で、人差し指で第二スイッチレバー160を押すことができるように配置している。尚、本実施例における第二溶接スイッチ16は、本発明における必須の構成ではなく、作業上の便宜を図るために設けた手段である。
【0048】
本実施例では、同様に、本発明における必須の構成ではないが、以上の第一溶接スイッチ15及び第二溶接スイッチ16を溶接時に選択的に切り換えることができるものとしている。この選択(切換)を行う手段として、図2に示すように、シリンダ10の上部に切換スイッチ17を設けている。切換スイッチ17のスイッチレバー170を左右へ切り換えることで、第一溶接スイッチ15と第二溶接スイッチ16とを切り換える。これらスイッチの切換えは、図12のポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機の回路図の放電回路中に、コンデンサ放電型スタッド溶接ガン1の回路として示している。
【0049】
シリンダ10内における電極スライドロッド100の後方に一定の間隔126(ギャップ)を介して後ばね19を設けている。後ばね19の前端には後ばねストッパ124を取付け、後ばね19の後端にはばね受け125を設けている。
【0050】
シリンダ10の後端下部はシャントワイヤ6が結合されている。また、後ばねストッパ124は金属製板材からなり、電極スライドロッドガイド100の後端面の右下隅及び左上隅から突出した後ばねストッパ用ガイドシャフト106に対応する二つのストッパガイド穴124aを備えている。該ストッパガイド穴124aにばねストッパ用ガイドシャフト106がストッパガイド穴124aを貫通し、電極スライドロッド100が後ばね19の付勢力に抗して後ばねストッパ124を押圧すると、後ばねストッパ124はばねストッパ用ガイドシャフト106に沿って後方へ移動する。
【0051】
ばね受け125は、後ばね19がはまり込む凹部125aを有する。またばね受け125の後端は、後ばね圧力調整用摘み12の前端と連結している。
【0052】
後ばね圧力調整用摘み12は、後ばね圧力調整ねじ120の後端部にノブ123を取付けてなる。前記後ばね圧力調整ねじは三条ねじを使用している。シリンダ10の後端に設けた固定プレート121の雌ねじ穴122と前記後ばね圧力調整ねじとを螺合した構成としている。当該構成によってノブ123を僅かに回すだけでばね受け125の位置を大きく前後へ移動させることができる。
【0053】
尚、本実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1の先端におけるチャック部13には、例えば図3に示すような被溶植部材3を覆うスパッタハイダを設けることができる。
また、図3においては、第一溶接スイッチ、第二溶接スイッチ、切換スイッチの夫々に対する接続手段の記載を省略しているが、本実施例ではこれらはいずれも、前記図12の回路図に示すように、配線がなされている。
【0054】
該図12の回路図に示すように、コンデンサと該コンデンサに対する充電回路7と放電回路8とを備えている。前記充電回路7は充電制御装置70を備えている。また放電回路8は放電制御装置80と導通検知装置81を備えている。
【0055】
充電回路7における充電制御装置70は、電圧調整摘み44で設定された電圧値に応じて、充電電圧を調整制御する。
【0056】
放電回路8における導電検知装置81は、図示されない電圧計測手段から被溶植部材3と母材2の接触状態での計測電圧値を読み取り、予め設定された基準電圧値とを比較し、導通状態を判定、検知する。検知すると、放電制御装置に対して導通検知信号を出力する。尚、導通がないと判定すると、導通検知信号を出力しない。
【0057】
放電回路における放電制御装置80は、前記導電検知装置81から導通検知信号を受けることで、放電要件の一つを充足する。前記放電制御装置80は、切換スイッチ17の設定が、「自動」(自動回路)であれば、第一溶接スイッチ15のオンを放電要件とし、「手動」(手動回路)であれば、第二溶接スイッチ16のオンを放電要件とする。
【0058】
上記構成によって、まえもってスタッドボルト3a等の被溶植部材3を母材2の表面に接触させることができるため、放電電流出力の際には、接触不良が原因で発生する激しいスパッタの発生や母材2の表面の損傷を未然に防止することができる。
【0059】
以上の構成とした本実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを用いた溶接方法を以下に示す。尚、母材2はアルミニウム製板材とし、被溶植部材3はアルミニウム製スタッドボルト3aとする。該アルミニウム製スタッドボルト3aは、先端中央に突起30を備えた一般的なものである。
【0060】
先ず、第一段階を示す。図4に示すように、コンデンサ放電型スタッド溶接ガン1のチャック部13にスタッドボルト3aを装着する。そして、母材2の表面に被溶植部材3の先端部である前記突起30を接触させる。この段階では、先の構成説明で示したように、後ばねストッパ124と電極スライドロッド100の後部との間に間隙126(ギャップ)が形成されている。
【0061】
次に、第二段階は、図5に示すように、コンデンサ放電型スタッド溶接ガン1を母材2に対して押し込むことにより、スタッドボルト3aと電極スライドロッド100がシリンダ10内へ押し込まれ、前ばね18が圧縮される。
【0062】
そして、後ばね19に押されたばねストッパ124に電極スライドロッド100の後部が当たり、(後ばねストッパ124と電極スライドロッド100の後部との間に間隙126(ギャップ)がなくなり、)衝撃加重が発生する。この時点では第一溶接スイッチ15がオンになっておらず、その直前での前ばね18のばね弾性力と後ばね19の衝撃加重の作用であるため、スタッドボルト3aの突起30が変形しにくい。
【0063】
第三段階では、図6に示すように、前記第二段階からの連続動作として行われるものであり、第二段階でのばねストッパ124に電極スライドロッド100の後端部100aが当たった後、更に電極スライドロッド100がばねストッパ124に対して押圧され、後ばね19が圧縮される。
【0064】
また、電極スライドロッド100とともに移動する前ばね圧力切換レバー14のブロック144aが第一溶接スイッチ15と連動するプッシュロッド103を押圧し、第一溶接スイッチ15がオンとなり、放電電流が出力される。この第三段階でのスタッドボルト3aの母材2に対する押圧力は第二段階のスタッドボルト3aの母材2に対する押圧力より更に大きくなる。
【0065】
第四段階では、図7に示すように、前記第三段階の放電電流の出力によって、スタッドボルト3aと母材2表面の間に溶融池20が形成される。溶融池20が冷却凝固するまでの間に、電極スライドロッド100のスイッチ押圧部144であるブロック144aが前ばね圧力切換レバー14の端部と衝突し、同時に電極スライドロッド100によって、更に衝撃加重がスタッドボルト3a及び母材2に対して伝達される。当該加重を受けながら溶融池20は冷却凝固し、溶接が終了する。
【0066】
上記実施例について、更に具体的に溶接作業として示すと、先ず、前ばね圧力切換レバー14を操作し、「強」(鉄)、「弱」(アルミ材)のいずれかのレバー位置で自動設定とする。次に、先端のチャック部13に差し込まれたスタッドボルト3aを母材2の表面に接触させておきながら、電極スライドロッド100を押し込むと、後ばねに押された後ばねストッパ124に加速がかかった状態で衝突し、スタッドボルト3aの先端部に衝撃加重が加わり、ばね押圧力がさらに追加される。後ばねストッパ124と電極スライドロッド100の後端との間には予め適当な距離(ギャップ)が設けられているので、電極スライドロッド100が後ばねストッパ124に当たった瞬間から大きな加重がかかる。そして前ばね圧力切換レバー14のブロック144aがスイッチプッシュロッド103に当たり、第一溶接スイッチ15をオンとし、コンデンサから大電流が放電され、ブロック144aが電極スライドロッドガイドの端部に当たることで、更に加重されながら被溶植部材3であるスタッドボルト3aと母材2とがより確実に溶接される。
【0067】
前記したように、最終的にブロック144aが突き当たる電極スライドガイド100の端部位置は、「強」(鉄)、「弱」(アルミ材)のいずれかのレバー位置によって相違する。レバーを「強」(鉄)の位置に設定した状態では、ブロック144aは、図11に示すように、段部によって形成されたブロック当接面108aに突き当たる。また、レバーを「弱」(アルミ材)の位置に設定した状態では、ブロック144aは、図9に示すように、最前端位置108bに突き当たることとなる。
【0068】
このように本実施例に係る発明によれば、電極スライドロッド100を常時前方へ付勢する前ばね18と、電極スライドロッド100の後端より後方に間隔126(ギャップ)をあけて配置される後ばね19とを備え、溶接スイッチがオンとなる直前、即ち放電の直前に、前ばね18が母材2に被溶植部材3を押圧し、後ばねストッパ124が後ばね19のばね弾性によって電極スライドロッド100に加速されて衝突し、初めて大きな加重がスタッドボルト3a等に作用することで、該スタッドボルト3aの突起30の変形を抑え、放電時に単位面積当たりの電流密度が低下することなく、効率の良い溶接を可能とすることができる。
【0069】
そして、電極スライドロッド100は接触によって第一溶接スイッチ15をオンとするスイッチ押圧部144としてブロック144aを備え、電極スライドロッド100のブロック144aが第一溶接スイッチ15をオンすることで放電電流が出力され、溶融池20が凝固するまでのタイミングで電極スライドロッド100の一部である前記ブロック144aが溶接ガン本体1aの当接部に加速衝突することで、前ばね18の押圧力、後ばね19の衝撃加重、電極スライドロッド100の一部の衝撃加重が溶接部に対してかかり、強固に被溶植部材3を母材2に固着することができる。
【0070】
尚、本実施例において、溶接ガン本体1aは、後ばね19の反発弾性力を調節するための後ばね圧力調整用摘み12におけるばね圧力調節ねじである雄ねじシャフト120を、三条ねじとして備えているが、本発明におけるばね圧力調節ねじは上記実施例のような三条ねじに限らず、二条ねじ等、他の多条ねじとすることもできる。
【0071】
本実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1は、図13に一例として示すポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機4を構成している。コンデンサ放電型スタッド溶接ガン1と溶接機本体40は、充放電及びスイッチ類の電力供給を行うためのケーブル6で接続されている。尚、実施例におけるコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1におけるケーブル6は把持部11の下部に形成したケーブル用開口部110から外部へ導出し、溶接機本体40の正面側へ連結した構成である。
【0072】
本実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1を用いたポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機4のうち特に溶接機本体40について説明する。尚、ポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機4はあくまでの一例を示したものであり、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0073】
実施例に係るポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機4における溶接機本体40は、図13に示すように、下部にキャスタ49、背部にハンドル47、電力供給ケーブル48を備え、正面には電源スイッチ43、導通確認ランプ41、充電確認ランプ42、素材別(アルミ、鉄)に対応した電圧調整摘み44を設けている。電圧調整摘み44の回転に伴って電圧値が段階的に変化するものである。電圧調整摘み44の周囲には、アルミ材と鉄材との適切な電圧値の調整範囲を段階的に示すアルミ材調整範囲表示部45、鉄材調整範囲表示部46を有している。
【0074】
本実施例に係るポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機4は、上記溶接機本体40と、上記実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1とを備えたことによって、溶接機本体40が有する携帯性と利便性を備えた上で、上記コンデンサ放電型スタッド溶接ガン1の優れた作用効果、即ち、前ばね18の押圧力、後ばね19の衝撃加重、電極スライドロッド100の一部の衝撃加重を利用した溶接部分に対する強固な被溶植部材3と母材2との溶接を実現することができる。
【0075】
尚、本実施例における溶接機本体40は、コンデンサ放電型スタッド溶接ガン1が非常に軽量であることから、当該コンデンサ放電型スタッド溶接ガン1を吊り下げるための手段等(アーム等)や支持する手段(溶接ガンホルダ等)を有しないものである。しかしながら、通常ポータブルのスタッド溶接機において溶接ガンを吊下げ若しくは支持する手段は、必要に応じて設けることができる。また、例えばアームに対して必要なフック等をコンデンサ放電型スタッド溶接ガン1に設けることもできる。
【0076】
また、本発明の機構は、上記実施例においては、自動設定の状態では常に成立するものである。これに対して、第二溶接スイッチ16を操作する手動操作によって溶接を行う場合には、手動操作のタイミングを計り、第二スイッチレバー160を指で押すことによって、作用効果を生ずるものである。この手動操作の機構は、本発明において必須のものではなく、従って、例えば、本発明の他の実施例として、上記実施例の手動設定に使用する第二溶接スイッチ16を取り除いた構成とすることもできる。
【0077】
更に、本発明によれば、被溶植部材3は上記実施例に示したスタッドボルト3aに限るものではなく、図15乃至図16に示すように、鉄ワッシャ3c、波形ワイヤ3b等を被溶植部材3として使用することができる。
【0078】
また、上記実施例によれば、電極スライドロッドガイド102に段部108を形成することで、ブロック当接面108a若しくは最前端面108bを溶接ガン本体10aの当接部としているが、本発明はこれに限らず、別個独立する溶接ガン本体10aの当接部を備えた部材を設けることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを示す正面図である。
【図2】本発明の実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを示す右側面図である。
【図3】本発明の実施例に係るコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを示す一部断面図及びその一部拡大図である。
【図4】本発明の実施例に係るスタッド溶接ガンを用いた溶接工程の第一段階を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例に係るスタッド溶接ガンを用いた溶接工程の第二段階を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例に係るスタッド溶接ガンを用いた溶接工程の第三段階を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例に係るスタッド溶接ガンを用いた溶接工程の第四段階を示す説明図である。
【図8】本発明の実施例に係るスタッド溶接ガンのアルミ材溶接工程中、第一段階における電極スライドロッドと電極スライドロッドガイドとの関係を示す斜視説明図である。
【図9】本発明の実施例に係るスタッド溶接ガンのアルミ材溶接工程中、第四段階における電極スライドロッドと電極スライドロッドガイドとの関係を示す斜視説明図である。
【図10】本発明の実施例に係るスタッド溶接ガンの鉄材溶接工程中、第一段階における電極スライドロッドと電極スライドガイドとの関係を示す斜視説明図である。
【図11】本発明の実施例に係るスタッド溶接ガンの鉄材溶接工程中、第四段階における電極スライドロッドと電極スライドロッドガイドとの関係を示す斜視説明図である。
【図12】本発明の実施例に係るスタッド溶接ガンの回路図である。
【図13】本発明の実施例に係るスタッド溶接ガンを備えたコンデンサ放電型スタッド溶接機を示す説明図である。
【図14】本発明の実施例に係るスタッド溶接ガンの先端部を示す平面図である。
【図15】本発明の実施例で使用する(イ)鉄ワッシャを鉄ワッシャビットに装着した状態を示す斜視図、及び(ロ)波形ワイヤ用ビットを示す斜視図である。
【図16】本発明の実施例に係るスタッド溶接ガンを用いた波形ワイヤの溶接操作を示す説明図である。
【符号の説明】
【0080】
1 コンデンサ放電型スタッド溶接ガン
1a 溶接ガン本体
10 シリンダ
100 電極スライドロッド
100a 後端部
101 段差
102 電極スライドロッドガイド
102a 抜止用突起当接部
103 スイッチプッシュロッド
104 プッシュロッド保持体
105 スパッタハイダ
106 ストッパ用ガイドシャフト
107 抜止用突起
108 段部
108a ブロック当接面
108b 最前端面
11 把持部
110 ケーブル用開口部
12 後ばね圧力調整用摘み
120 雄ねじシャフト
121 固定プレート
122 雌ねじ穴
123 ノブ
124 後ばねストッパ
124a ストッパガイド穴
125 ばね受け
125a 凹部
126 間隔(ギャップ)
13 チャック部
14 前ばね圧力切換レバー
140 レバー部
141 回動板
142 穴部
143 背面
144 スイッチ押圧部
144a ブロック
145 周面
146 レバー部規制開口部
147 第一開口部
148 第二開口部
149 レバー係止部
15 第一溶接スイッチ(リーフスイッチ)
150 スイッチレバー
151 押釦
155 周面
16 第二溶接スイッチ
160 第二スイッチレバー
17 切換スイッチ
170 スイッチレバー
18 前ばね
19 後ばね
2 母材
20 溶融池
3 被溶植部材
3a スタッドボルト
3b 波形ワイヤ
3c ワッシャ
30 突起
4 ポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機
40 溶接機本体
41 充電確認ランプ
42 放電確認ランプ
43 電源スイッチ
44 電圧調整摘み
45 アルミ材調整範囲表示部
46 鉄材調整範囲表示部
47 ハンドル
48 電力供給ケーブル
49 キャスタ
50 鉄ワッシャ用ビット
51 波形ワイヤ用ビット
6 シャントワイヤ
7 充電回路
70 充電制御装置
8 放電回路
80 放電制御装置
81 導通検知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ガン本体内に、前後方向にスライド可能な電極スライドロッドと、該電極スライドロッドを前方へ付勢するばねを備え、電極スライドロッド先端に被溶植部材を保持するチャック部を備えたコンデンサ放電型スタッド溶接ガンにおいて、
前記電極スライドロッドをガイドする電極スライドロッドガイドを備え、
前記ばねは、電極スライドロッドガイドの前方に配置される前ばねと、電極スライドロッドの後端より後方に間隔をあけ、後ばねストッパを介して配置される後ばねとし、
電極スライドロッドの後方への移動に伴い、電極スライドロッドに従動して溶接スイッチをオンとするスイッチ押圧部を備えた構成とし、
前ばねがばね弾性力によって前方へ電極スライドロッドを押圧した状態で、電極スライドロッドが後ばねのばね弾性力に抗して後ばねストッパに加速衝突し、電極スライドロッドに従動するスイッチ押圧部が溶接スイッチをオンとすることで放電電流を出力し、溶融池が凝固するまでのタイミングで電極スライドロッドの一部若しくはこれに従動する一部が溶接ガン本体の当接部に加速衝突することを特徴とするコンデンサ放電型スタッド溶接ガン。
【請求項2】
溶接ガン本体の当接部は、電極スライドロッドガイドとしたことを特徴とする請求項1記載のコンデンサ放電型スタッド溶接ガン。
【請求項3】
溶接ガン本体内にばね圧力切換手段を備え、該ばね圧力切換手段は、回動板と該回動板の後面に配置されるブロックを備え、回動板のスライドロッド中心軸を基準とする回動によって、ブロック又は回動板の後面を選択的にスイッチ押圧部として機能する構成としたことを特徴とする請求項1又は2記載のコンデンサ放電型スタッド溶接ガン。
【請求項4】
溶接ガン本体は、後ばねの反発弾性力を調節するためのばね圧力調節ねじを備え、該ばね圧力調節ねじは多条ねじとしたことを特徴とした請求項1、2又は3記載のコンデンサ放電型スタッド溶接ガン。
【請求項5】
前ばねのばね弾性力を段階的に切り換える前ばね圧力切換レバーを備えたことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のコンデンサ放電型スタッド溶接ガン。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを備えたことを特徴とするポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機。
【請求項7】
放電回路と充電回路とを備え、前記放電回路は、溶接スイッチの手動操作を放電要件とせず、且つ、電極スライドロッドの押し込み操作を放電要件とする回路を備えたことを特徴とする請求項6記載のポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機。
【請求項8】
放電回路は放電制御装置と導電検知装置を有し、導電検知装置は導通検知信号を放電制御装置に出力し、放電制御装置は前記導電検知信号を放電条件に含むことを特徴とする請求項6又は7記載のポータブルコンデンサ放電型スタッド溶接機。
【請求項9】
溶接ガン本体内に、前後方向にスライド可能な電極スライドロッドと、該電極スライドロッドを前方へ付勢するばねを備え、電極スライドロッド先端に被溶植部材を保持するチャック部を備え、溶接ガン本体内に、電極スライドロッドをガイドする電極スライドロッドガイドを備え、前記ばねは、電極スライドロッドガイドの前方に配置される前ばねと、電極スライドロッドの後端より後方に間隔をあけ、後ばねストッパを介して配置される後ばねとし、電極スライドロッドの後方への移動に伴い、電極スライドロッドに従動して溶接スイッチをオンとするスイッチ押圧部を備えたコンデンサ放電型スタッド溶接ガンを用い、
前ばねがばね弾性力によって前方へ電極スライドロッドを押圧した状態で、電極スライドロッドが後ばねのばね弾性力に抗して後ばねストッパに加速衝突し、電極スライドロッドに従動するスイッチ押圧部が溶接スイッチをオンとすることで放電電流を出力し、溶融池が凝固するまでのタイミングで電極スライドロッドの一部若しくはこれに従動する一部が溶接ガン本体の当接部に加速衝突して、母材に対して被溶植部材を溶接することを特徴とするコンデンサ放電型スタッド溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−167921(P2007−167921A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−371242(P2005−371242)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000109772)デンゲン株式会社 (6)