説明

コンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃

【課題】 スタッドに対する加圧力の調整が簡単であり、かつ、容易に加圧調整の記録を残すことができるコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃を提供すること。
【解決手段】 本発明に係るコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃は、ハウジング内に設けられた筒状本体と、前記筒状本体をその先端方向に向けて付勢するばねと、溶接すべきスタッドと母材との間に溶接電流を流すための溶接電源装置の溶接コンデンサからの溶接ケーブルを接続する接続通電部材とを有し、トリガスイッチの作動により前記チャックを介して母材とスタッドとの間に溶接電流を流し、スタッドを母材に押圧して溶接するように構成されたコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃において、前記ばねによる筒状本体のスタッドに対するばね力を調整可能な調整手段と、前記ばね力を予め設定した目標加圧力に合わせるように前記調整手段を制御作動させる制御手段とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサの放電エネルギを利用して千分の数秒程度でスタッドを母材に溶接するコンデンサ放電型スタッド溶接に用いられる溶接銃の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃において、母材に対するスタッドの加圧力を手動で調整することは行われている。
図11は、従来の溶接銃の部分断面図である。
図中、符号100は円筒状ハウジングを示しており、このハウジング100の後端にはキャップ101が取外し可能に装着されている。また、ハウジング100にはハンドル102が設けられており、ハンドル102にはトリガボタン103が設けられている。ハウジング100の内部には導電体材料の筒状本体104が不図示の軸受けによって軸線方向に摺動可能に支持されている。筒状本体104の先端にはスタッドを取り付けるためのチャック105が挿入されており、このチャック105は、締付ナット106によって筒状本体104に固定される。
また、図中、符号107は、不図示の溶接電源装置からの溶接ケーブルの端子108を筒状本体104に接続するための接続端子部材である。
さらに、図11に示すように、筒状本体104には、二つのばね座109及び110が設けられており、これらの二つのばね座109及び110の間には、筒状本体104を先端方向に向かって押圧するばね111が設けられている。前記二つのばね座のうちの一方109は、ハウジング100の後端にねじ込まれるばね調整ねじ112によって筒状本体104に沿って軸線方向に摺動可能であり、これにより、ばね111の反発力、即ち、スタッドに対する加圧力を調整できるように構成されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭61−82776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の溶接銃では、ばね調整ねじ112を手動で調整した後に、加圧測定器等を用いてスタッドに対する加圧力を測定することを繰り返して最適な加圧力を得なければならないため加圧力の調整に手間がかかるという問題がある。
また、ばね調整ねじ112を手動で回さなければならず、しかも、ばね調整ねじ112を回すためにはキャップ101を外さなければならないので、調整作業が面倒で煩雑であるという問題もある。
そしてなにより、従来の溶接銃は、上記したように、加圧力の調整が面倒で煩雑であり、手間がかかるため、スタッドの材質・サイズ・形状、母材材質、母材表面処理、スパッターの出具合の許容範囲、スパッター付着防止液使用の有無、溶接焼けの程度、溶接ひずみの程度、又は品質管理水準の程度等の溶接条件に応じて、加圧力を臨機応変に調整することができないという重大な問題がある。
本発明は、上記した従来の問題点を解決し、スタッドに対する加圧力の調整が簡単であり、かつ、容易に加圧調整の記録を残すことができるコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記した目的を達成するために、本発明に係るコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃は、ハウジング内に軸線方向に沿って摺動可能にのび、先端に溶接すべきスタッドを受けるチャックを備えた筒状本体と、前記筒状本体をその先端方向に向けて付勢するばねと、溶接すべきスタッドと母材との間に溶接電流を流すための溶接電源装置の溶接コンデンサからの溶接ケーブルを接続する接続通電部材とを有し、トリガスイッチの作動により前記チャックを介して母材とスタッドとの間に溶接電流を流し、スタッドを母材に押圧して溶接するように構成されたコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃において、前記ばねによる筒状本体のスタッドに対するばね力を調整可能な調整手段と、前記ばね力を予め設定した目標加圧力に合わせるように前記調整手段を制御作動させる制御手段とを備えていることを特徴とする。
第一の態様では、前記ばね力の調整は、前記ばねによる筒状本体のスタッドに対する加圧力を検出する検出手段と、該検出手段により得られた実際の加圧力と、予め設定した目標加圧力とを比較して、比較結果に基づいて前記実際の加圧力を前記目標加圧力に合わせるように前記調整手段を作動させる制御手段、により行い得る。
第二の態様では、前記ばね力の調整は、予め設定した目標加圧力から前記ばねのばね定数により目標たわみ量を算定し、前記調整手段が前記ばねの実際のたわみ量を前記目標たわみ量に合わせるように前記調整手段を作動させる制御手段、により行い得る。
好ましくは、前記ばねは、筒状本体の後端に設けられた第一ばね座と、前記第一ばね座から軸線方向に離間して設けられた第二ばね座との間に設けられ、この場合、前記第二ばね座はハウジングの内部で軸線方向に摺動可能であり、前記調整手段は、前記第二ばね座の位置を調整可能に構成され得る。
前記調整手段は、例えば、サーボモータ、ステップモータ又はこれらのモータを内蔵したアクチュエータであり得る。
前記検出手段で加圧力の計測は、例えば、前記ばねと前記筒状本体との間に配置された圧力センサ、又は、別体の荷重計測器であり得る。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃は、ばね力を調整可能な調整手段と、前記ばね力を予め設定した目標加圧力に合わせるように前記調整手段を制御作動させる制御手段とを備えているので、溶接銃のスタッドに対する加圧力を自動的に目標加圧力に調整することが可能になり、スタッドの材質・サイズ・形状、母材材質、母材表面処理、スパッターの出具合の許容範囲、スパッター付着防止液使用の有無、溶接焼けの程度、溶接ひずみの程度、又は品質管理水準の程度等の溶接条件に応じて、加圧力を臨機応変に調整することができるようになるという効果を奏する。また、制御手段による制御ログを記録することにより、容易に加圧力の調整記録を残すことができるため、スタッド溶接を行った後に、どのスタッドをどのような加圧力で溶接したかを容易に管理することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る溶接銃の第一実施例の部分断面図である。
【図2】第一実施例の溶接銃の構成部材と制御装置17との関係を示す概略ブロック図である。
【図3】第一実施例のスタッドを溶接する毎に加圧力の調整を行う制御方法の例を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る溶接銃の第二実施例を示す図2に相当する概略ブロック図である。
【図5】第二実施例のスタッドを溶接する前に予め加圧力の調整を行う制御方法の例を示すフローチャートである。
【図6】本発明に係る溶接銃の第三実施例を示す図2に相当する概略ブロック図である。
【図7】第三実施例のスタッドを溶接する前に予め加圧力の調整を行う制御方法の例を示すフローチャートである。
【図8】(a)及び(b)は、溶接銃とは別体の荷重計測器25の具体例を示す図である。
【図9】本発明に係る溶接銃の第四実施例を示す図1に対応する部分断面図である。
【図10】本発明に係る溶接銃の第五実施例を示す図1に対応する部分断面図である。
【図11】従来の溶接銃の部分断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面に示した一実施例を参照しながら本発明に係るコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃(以下、単に溶接銃と称する。)の幾つかの実施例を説明していく。
【0009】
図1は、本発明に係る溶接銃の部分断面図である。
この溶接銃は鋼製スタッドや黄銅スタッド等の溶接をする場合に、スタッド先端を母材に圧接した状態で放電させるコンタクト方式の溶接銃である。
符号1は円筒状ハウジングを示しており、このハウジング1の後端にはキャップ2が取外し可能に装着されている。また、ハウジング1にはハンドル3が設けられており、ハンドル3にはトリガボタン4が設けられている。ハウジング1の内部には導電体材料の筒状本体5が不図示の軸受けによって軸線方向に摺動可能に支持されている。筒状本体5の先端にはスタッドSを取り付けるためのチャック6が挿入されており、このチャック6は、締付ナット7によって筒状本体5に固定される。図中、符号8は円筒状ハウジング1の先端に設けられた脚部を示している。
また、図1中、符号9は、不図示の溶接電源装置からの溶接ケーブルの端子10を筒状本体5に接続するための接続端子部材である。この接続端子部材は、図のように円筒ハウジング1内に必ず配置される必要はない。溶接電源装置からの溶接ケーブルの端子を前記チャック6の後方に嵌合するようにしてもよい。この様な構成の溶接銃は、本出願人の製品であるFG12型溶接ガンとして公知である。
さらに、図1に示すように、ハウジング1の内部には二つのばね座11及び12が設けられており、これらの二つのばね座11及び12の間に、筒状本体5を先端方向に向かって押圧するばね13が設けられている。前記二つのばね座のうちの一方のばね座(第一ばね座)11は筒状本体5の上端に固定されており、他方のばね座(第二ばね座)12は、ハウジング1に軸線方向に摺動可能に設けられている。ハウジング1における前記第二ばね座12の上方にはモータ14が設けられている。モータ14の出力軸14aには、ねじ山が形成されており、この出力軸14aにはハウジング1にスプライン係合されたナット15が噛合されている。前記第二ばね座12は前記ナット15の底面に固定されている。この構成により、モータ14を駆動すると、出力軸14aに噛合されたナット15が出力軸14aの回転方向に応じてハウジング1内を軸線方向に移動し、これに伴い、第二ばね座12が軸線方向に移動してばね13の筒状本体5に対する加圧力を変える。尚、符号14bは、ハンドル3を通して後述する制御装置17に接続される制御線である。モータ14の動作は、制御装置17により後述するステップで制御される。
さらに、前記第一ばね座11とばね13との間には圧力センサ16が設けられている。圧力センサ16の出力線16aはハンドル3を通して制御装置17に接続される。
上記したように構成された溶接銃は、さらに別体の制御装置17を備えている。
図2は、溶接銃の構成部材と制御装置17との関係を示す概略ブロック図である。
この制御装置17は、図2に示すように、モータ駆動部17a、加圧力比較部17b及び溶接条件設定部17cを備え、加圧力比較部17bは、圧力センサ16で検出される実測加圧力データと、溶接条件設定部17cで設定された設定加圧力データとを入力して、これらのデータを比較し、実測加圧力を設定加圧力に合わせるようにモータ駆動部17aを介してモータ14を駆動させる。
【0010】
図3は、上記したように構成された溶接銃を用いて、スタッドを溶接する毎に加圧力の調整を行う制御方法の例を示すフローチャートである。
図面に示すように、始めに溶接条件設定部17cにおいて加圧力設定プログラムを呼び出し(S1−1)、
次いで、加圧力設定プログラムを用いて溶接条件を呼び出し(S1−2)、呼び出した溶接条件に基づいて設定加圧力を呼び出す(S1−3)。
尚、溶接条件設定部17cには、予め様々な溶接条件に応じた最適な設定加圧力が記憶されている。
設定加圧力の呼び出しが完了した後、スタッドSを溶接銃のチャック6にセットし、溶接銃を母材に押し付ける(S1−4)。図1に示すように、スタッドは脚部より前方に飛び出ているため、溶接銃を母材に押し付けると、ばね13の付勢力に抗して筒状本体5が上方に押し上げられる。
この状態で使用者がハンドル3のトリガボタン4を押すと、溶接トリガがONになり(S1−5)、加圧力の設定及び溶接処理が開始される。
加圧力の設定及び溶接処理が開始されると、加圧力比較部17bは、圧力センサ16で検出した加圧力を入力し(S1−6)、S1−3において呼び出された設定加圧力とを比較し(S1−7)、検出した実測加圧力が設定加圧力と異なる場合には、モータ駆動部17aを介して実測加圧力が設定加圧力と等しくなるようにモータ14を駆動する。具体的には、実測加圧力が設定加圧力より低い場合には、第二ばね座12が下がるようにモータ14を駆動し、逆に実測加圧力が設定加圧力より高い場合には、第二ばね座12が上がるようにモータ14を駆動する(S1−8)。
上記したS1−6〜S1−8の処理は、実測加圧力が設定加圧力と等しくなるまで繰り返され、実測加圧力が設定加圧力と等しくなったらモータ14を停止し(S1−9)、最終的な実測加圧力を、溶接条件(好ましくは、溶接するスタッドの識別情報、例えば、「何本目のスタッド」等の情報を含む)と共に任意の記録手段に記録させる(S1−10)。
次いで、溶接信号をONにして(S1−11)、溶接電源装置18から筒状本体5に電流を流して溶接を行う(S1−12)。
溶接後、続けて次のスタッドの溶接を行う場合には、S1−4の処理に戻って、次のスタッドを溶接銃のチャック6にセットし、溶接銃を母材に押し付ける(S1−13)。
本実施例では、スタッドSの溶接毎に加圧力の調整を行うことができるので、同一径サイズのスタッドで長さが異なる場合、すなわち図1の脚部8からのスタッドSの出代が違う場合にも自動的に同一加圧力に調整できる。また、異なるスタッド径サイズの場合には、各スタッド径サイズに応じた加圧力が自動的に得られる。
なお、以上はスタッドSを溶接する毎に加圧力の調整を行う制御方法について説明したが、同一サイズのスタッドを連続して溶接するときは、加圧力の調整を最初の1回のみ行うようにプログラムしてもよい。また、モータ14の駆動スイッチは、例えば、図1に符号14cで示すように、溶接トリガボタン4とは別に設けることも可能である。
【0011】
次に本発明に係る溶接銃の第二実施例を説明する。
図4は本発明に係る溶接銃の第二実施例を示す図2に相当する概略ブロック図である。
溶接銃の構成は、圧力センサ16が設けられていない点を除いて、図1に示す実施例と同じであるので、同一又は対応する構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
制御装置20は、モータ14の動作を制御するモータ駆動部20a、スタッドSを母材に押し付けた状態でのばねの上端位置(通常、後述する溶接銃を母材に押し付けた状態でのばね13の自由端位置を基準位置すなわち原点とする)を記憶する基準位置記憶部20b、モータ駆動部20aによるモータ14の出力軸14aの移動量を算出する出力軸移動量算出部20c、所定の加圧力に対応するばね13の設定たわみ量を算出する溶接条件設定部20d、及びたわみ量比較部20eを備えている。
上記したように構成された制御装置20は、たわみ量比較部20eにおいて、出力軸移動量算出部20cで算出されたモータ14の出力軸14aの移動量に基づいてばね13のたわみ量の実測値を算出すると共に、算出した実測たわみ量を、溶接条件設定部20dで算出された設定たわみ量と比較し、実測たわみ量を設定たわみ量に合わせるようにモータ駆動部20aを介してモータ14を駆動させることで、所定の加圧力を得る。
【0012】
図5は、上記したように構成された溶接銃を用いて、スタッドを溶接する前に予め加圧力の調整を行う制御方法の例を示すフローチャートである。
図面に示すように、始めに溶接条件設定部20dにおいて加圧力設定プログラムを呼び出す(S2−1)。
次いで、予めばね試験機で測定した溶接銃で使用しているばね13のばね定数kの入力を行う。なお、一度入力設定すれば、ばね13を取り替えない限りその後の入力は不要である(S2−2)。
その後、加圧力設定プログラムを用いて溶接条件を呼び出し(S2−3)、呼び出した溶接条件に基づいて設定加圧力データPを呼び出す(S2−4)。
次いで、S2−4で呼び出した設定加圧力データPと、S2−2で入力したばね定数kとに基づいて、次式を用いて所定の加圧力Pを得るための設定たわみ量を算出する(S2−5)。
設定たわみ量=設定加圧力P/ばね定数k
設定たわみ量算出後、スタッドSを溶接銃のチャック6にセットし、溶接銃を母材に押し付ける(S2−6)。図1に示した溶接銃と同様に、スタッドは脚部より前方に飛び出ているため、溶接銃を母材に押し付けると、ばね13の付勢力に抗して筒状本体5が上方に押し上げられる。
この状態で使用者がハンドル3のトリガボタン4を押すと、モータ14のトリガがONになり(S2−7)、加圧力の設定処理が開始される。
加圧力の設定処理が開始されると、出力軸移動量算出部20cにおいて、基準位置記憶部20bに記憶されたばね13の基準位置からのモータ駆動部20aによるモータ14の出力軸14aの移動量を計測し(S2−8)、たわみ量比較部20eにおいて、出力軸移動量算出部20cで算出されたモータ14の出力軸14aの移動量に基づいてばね13のたわみ量の実測値を算出すると共に、算出した実測たわみ量を、溶接条件設定部20dで算出された設定たわみ量と比較し(S2−9)、計測した実測たわみ量が設定たわみ量と異なる場合には、モータ駆動部17aを介して実測たわみ量が設定たわみ量と等しくなるようにモータ14を駆動する。具体的には、実測たわみ量が設定たわみ量より低い場合には、第二ばね座12が下がるようにモータ14を駆動し、逆に実測たわみ量が設定たわみ量より高い場合には、第二ばね座12が上がるようにモータ14を駆動する(S2−10)。
上記したS2−8〜S2−10の処理は、実測たわみ量が設定たわみ量と等しくなるまで繰り返され、実測たわみ量が設定たわみ量と等しくなったらモータ14を停止し(S2−11)、最終的な実測たわみ量を、溶接条件と共に任意の記録手段に記録させる(S2−12)、加圧力設定プログラムを終了する(S2−13)。
本実施例では、加圧力の測定装置を全く必要としないので溶接銃が簡便な構造となる。特に、加圧力をスタッドSの溶接毎に測定記録が必要のない品質管理水準の場合や溶接するスタッドサイズが数種類に限られている場合の作業現場では有用な溶接銃となる。
前記調整手段は、サーボモータ、ステップモータを内蔵したアクチュエータとすれば軸方向の移動量制御が簡便に行え有利である。
本実施例では、脚部8からのスタッドSの出代をスタッドの長さに関係なく一定にすることが有利である。そのためにはチャック6のスタッドS装着部を段付きや有底とし、この段付き(有底)部分にスタッドSの後端部分を当接させてストッパとする。この段付き(有底)部分までの深さをスタッドSの長さに対応させてスタッドの出代を一定にする。また、他の方法としては、チャック6はそのままとし、スタッドSの長さに応じて脚部8の長さを替えてもよい。
前記基準位置の位置出しは、上記したスタッドSの出代を一定とした場合、以下の手順で行うことができる。
(1) 第一ばね座11の初期位置(スタッド側の最前端位置)から第ニばね座12をモータ14でスタッドSと反対側方向へ最も後退させた位置(最後端位置)の距離は溶接銃の設計で決まっている。
(2) 第一ばね座11の初期位置からスタッドSを母材に押圧したときの位置に、ばね長を加える。この位置を前記基準位置とする。
(3) これにより第ニばね座12の最後端位置から基準位置までの距離が決まる。
(4) この距離にたわみ量を加えた値が第ニばね座12の移動量(移動位置)となる。
第ニばね座12の最後端位置から基準位置までの距離を制御装置20に入出力するようにしてもよいし、(1)及び(2)における各位置及びばね長等の固定値は前もって入力しておき、その他の値を制御装置20で演算処理するように構成することもできる。
前記ばね13の前記基準位置は、溶接銃の出荷時に調整記憶しておくことで、作業現場ですぐに使用することができる。
本実施例と第一実施例の両者を組み込むことも可能であり、この場合は溶接の品質管理水準が高い場合、低い場合のいずれにも柔軟に対応できる利点がある。
なお、本実施例のみでスタッドSの長さに関係なく、また使用するチャックに関係なく自由に加圧力を設定可能とすることも可能である。この場合は、ハウジング1の先端側からポテンショメータや変位計等の位置測定装置を第一ばね座11の前面に接触させて取付け、データを制御装置20へ送るようにする。すなわち、上記の場合のスタッドSを母材に押圧したときの位置(上記(2)においてばね長を加える前の位置)を位置測定装置で測定し、これを制御装置20に送出し演算するようにすればよいことは上記からも理解されるであろう。
【0013】
次に本発明に係る溶接銃の第三実施例を説明する。
図6は本発明に係る溶接銃の第三実施例を示す図2に相当する概略ブロック図である。
溶接銃の構成は、圧力センサ16が設けられていない点を除いて、図1に示す実施例と同じであるので、同一又は対応する構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
この第三実施例では、溶接銃は、外部に別体の荷重計測器25を備えている。
制御装置26は、図6に示すように、モータ駆動部26a、加圧力比較部26b及び溶接条件設定部26cを備え、加圧力比較部26bは、荷重計測器25で検出される実測加圧力データと、溶接条件設定部26cで設定された設定加圧力データとを入力して、これらのデータを比較し、実測加圧力を設定加圧力に合わせるようにモータ駆動部26aを介してモータ14を駆動させる。
【0014】
図7は、上記したように構成された溶接銃を用いて、スタッドを溶接する前に予め加圧力の調整を行う制御方法の例を示すフローチャートである。
図面に示すように、始めに溶接条件設定部20cにおいて加圧力設定プログラムを呼び出し(S3−1)、
次いで、加圧力設定プログラムを用いて溶接条件を呼び出し(S3−2)、呼び出した溶接条件に基づいて設定加圧力を呼び出す(S3−3)。
尚、溶接条件設定部26cには、予め様々な溶接条件に応じた最適な設定加圧力が記憶されている。
設定加圧力の呼び出しが完了した後、スタッドSを溶接銃のチャック6にセットし、溶接銃を荷重計測器25の測定面に押し付ける(S3−4)。図1に示した実施例と同様に、スタッドは脚部より前方に飛び出ているため、溶接銃を荷重計測器25の測定面に押し付けると、ばね13の付勢力に抗して筒状本体5が上方に押し上げられる。
この状態で使用者がハンドル3のトリガボタン4を押すと、溶接トリガがONになり(S3−5)、加圧力の設定が開始される。
加圧力の設定処理が開始されると、加圧力比較部26bは、荷重計測器25で検出した加圧力を入力し(S3−6)、S3−3において呼び出された設定加圧力とを比較し(S3−7)、検出した実測加圧力が設定加圧力と異なる場合には、モータ駆動部26aを介して実測加圧力が設定加圧力と等しくなるようにモータ14を駆動する。具体的には、実測加圧力が設定加圧力より低い場合には、第二ばね座12が下がるようにモータ14を駆動し、逆に実測加圧力が設定加圧力より高い場合には、第二ばね座12が上がるようにモータ14を駆動する(S3−8)。
上記したS3−6〜S3−8の処理は、実測加圧力が設定加圧力と等しくなるまで繰り返され、実測加圧力が設定加圧力と等しくなったらモータ14を停止し(S3−9)、最終的な実測加圧力を、溶接条件と共に任意の記録手段に記録させて(S3−10)、加圧力設定処理を終了する(S3−11)。
【0015】
図8(a)及び(b)は、溶接銃とは別体の荷重計測器25の具体例を示す図である。荷重計測器25は、図8(a)に示すように、完全に独立したものであってもよく、図8(b)に示すように、溶接電源装置及び/又は制御装置に組み込まれていてもよい。
このように本実施例では、溶接銃本体に加圧力の計測センサを組み込む必要が無いので簡便な溶接銃構造となる。また、第二実施例と同様に加圧力をスタッドSの溶接毎に測定記録が必要のない品質管理水準の場合や溶接するスタッドサイズが数種類に限られている場合の作業現場では有用な溶接銃となる。
【0016】
図9は、本発明に係る溶接銃の第四実施例を示す図1に対応する部分断面図である。この第四実施例に係る溶接銃は、アルミニュウム製スタッドやチタン製スタッド等を溶接する場合に、スタッド先端から母材を離した状態で圧接放電を行うギャップ方式の溶接銃であり、このため円筒状ハウジング1の内部に筒状本体5を引き上げて保持するためのソレノイドコイル30が設けられている。
この第四実施例に係る溶接銃は、ギャップ方式のための構成以外は、全て図1に示した第一実施例の係る溶接銃と同じ構成であるので、同一又は対応する構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。また、この第四実施例に係る溶接銃は、その制御装置についても、図2に示した制御装置と同じ構成であるので、ここでは詳細な説明は省略し、必要に応じて図2に示した制御装置17と同じ符号を用いて説明を行う。
図9(a)は、筒状本体5を引き上げる前の状態を示しており、図9(b)は、ソレノイドコイル30を励磁して筒状本体5を引き上げ保持した状態を示している。なお、図9(a)のスタッドSの引き上げ前は、第一実施例と同様にチャック6にスタッドSを装着したとき、脚部8よりスタッドSが突出した状態となっている。
制御装置17は、図9(b)に示す状態まで筒状本体5を引き上げた状態で、圧力センサ16から得られる実測加圧力を設定加圧力に合わせるようにモータ駆動部17aを介してモータ14を駆動させる。
本実施例は、筒状本体5を引き上げて保持した状態でばね13の加圧力を調整する点が第一実施例と異なるのであり、ここで説明及び図示した第一実施例の応用の他、第二実施例のたわみ量を制御する方式にも適応可能であることは明らかである。
なお、溶接の際は、トリガボタン4を作動させるとソレノイドコイル30の励磁が解かれてばね13が開放され母材へスタッドSを加圧すると共にコンデンサからエネルギを放電する。
【0017】
図10は、本発明に係る溶接銃の第五実施例を示す図1に対応する部分断面図である。この第五実施例に係る溶接銃は、第二ばね座12の駆動機構の構成以外は図1に示した溶接銃と同じ構成であるので、同一又は対応する構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
この第五実施例では、モータ35は、ハウジング1に固定されたケース36の内部に設けられている。モータ35の出力軸35aには、ギヤ35bが設けられている。
また、ハウジング1の内部には駆動軸37が回動可能に設けられており、この駆動軸37には、ハウジング1にスプライン係合されたナット38が噛合されている。また、駆動軸37にはギヤ37aが一体に形成されており、このギヤ37aは、モータ35の出力軸35aに設けられたギヤ35bと噛合する。
第二ばね座12は前記ナット38の底面に固定されている。この構成により、モータ35を駆動すると、ギヤ35b及びギヤ37aを介して駆動軸37が回動し、ナット38が駆動軸37の回転方向に応じてハウジング1内を軸線方向に移動し、これに伴い、第二ばね座12が軸線方向に移動してばね13の筒状本体5に対する加圧力を変える。
本実施例では、ケース36内のモータ35がハウジング内のばね13と平行に設置されているので、溶接銃の長さ方向に制限のある溶接個所などでは有用な溶接銃として提供でき得る。
また、本実施例は、ここで説明及び図示した第一実施例の応用の他、第二実施例、第三実施例及び第四実施例の各方式にも適応可能であることは明らかである。
【符号の説明】
【0018】
S スタッド

1 円筒状ハウジング
2 キャップ
3 ハンドル
4 トリガボタン
5 筒状本体
6 チャック
7 締付ナット
8 脚部
9 接続端子部材
10 溶接ケーブルの端子
11 第一ばね座
12 第二ばね座
13 ばね
14 モータ
14a 出力軸
14b 制御線
14c 駆動スイッチ(溶接トリガボタン4とは別に設けた例)
15 ナット
16 圧力センサ
16a 出力線
17 制御装置
17a モータ駆動部
17b 加圧力比較部
17c 溶接条件設定部
18 溶接電源装置

20 制御装置
20a モータ駆動部
20b 基準位置記憶部
20c 出力軸移動量算出部
20d 溶接条件設定部
20e たわみ量比較部

25 荷重計測器
26 制御装置
26a モータ駆動部
26b 加圧力比較部
26c 溶接条件設定部

30 ソレノイドコイル

35 モータ
35a 出力軸
35b ギヤ
36 ケース
37 駆動軸
37a ギヤ
38 ナット

100 円筒状ハウジング
101 キャップ
102 ハンドル
103 トリガボタン
104 筒状本体
105 チャック
106 締付ナット
107 接続端子部材
108 溶接ケーブルの端子
109 ばね座
110 ばね座
111 ばね
112 ばね調整ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に軸線方向に沿って摺動可能にのび、先端に溶接すべきスタッドを受けるチャックを備えた筒状本体と、
前記筒状本体をその先端方向に向けて付勢するばねと、
溶接すべきスタッドと母材との間に溶接電流を流すための溶接電源装置の溶接コンデンサからの溶接ケーブルを接続する接続通電部材とを有し、
トリガスイッチの作動により前記チャックを介して母材とスタッドとの間に溶接電流を流し、スタッドを母材に押圧して溶接するように構成された
コンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃において、
前記ばねによる筒状本体のスタッドに対するばね力を調整可能な調整手段と、
前記ばね力を予め設定した目標加圧力に合わせるように前記調整手段を制御作動させる制御手段と
を備えていることを特徴とするコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃。
【請求項2】
前記ばねによる筒状本体のスタッドに対する加圧力を検出する検出手段をさらに備え、
前記制御手段が、該検出手段により得られた実際の加圧力と、予め設定した前記目標加圧力とを比較して、比較結果に基づいて前記実際の加圧力を前記目標加圧力に合わせるように前記調整手段を作動させることにより、前記ばね力の調整を行うようにした
ことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃。
【請求項3】
前記加圧力の検出手段が、前記ばねと前記筒状本体との間に配置された圧力センサである
ことを特徴とする請求項2に記載のコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃。
【請求項4】
前記加圧力の検出手段が、別体の荷重計測器から成る
ことを特徴とする請求項2に記載のコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃。
【請求項5】
前記制御手段が、
予め設定した目標加圧力から前記ばねのばね定数により目標たわみ量を算定すると共に、
前記調整手段による調整量に基づいて前記ばねの実際のたわみ量を算定し、
前記ばねの実際のたわみ量と前記目標たわみ量とを比較して、比較結果に基づいて、前記ばねの実際のたわみ量を目標たわみ量に合わせるように前記調整手段を作動させることにより、前記ばね力の調整を行うようにした
ことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃。
【請求項6】
前記溶接銃が、スタッド先端を母材に圧接した状態で放電させるコンタクト方式である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃。
【請求項7】
前記溶接銃が、スタッド先端から母材を離した状態で圧接放電を行うギャップ方式である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃。
【請求項8】
前記ばねが、筒状本体の後端に設けられた第一ばね座と、前記第一ばね座から軸線方向に離間して設けられた第二ばね座との間に設けられ、
前記第二ばね座がハウジングの内部で軸線方向に摺動可能であり、
前記調整手段が、前記第二ばね座の位置を調整可能に構成されている
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃。
【請求項9】
前記調整手段がサーボモータ、ステップモータ又はこれらのモータを内蔵したアクチュエータである
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃。
【請求項10】
前記調整手段が、前記ばねの軸線と同一線上に設けられている
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃。
【請求項11】
前記調整手段が、前記ばねの軸線と平行に設けられている
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のコンデンサ放電型スタッド溶接用の溶接銃。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−110580(P2011−110580A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268937(P2009−268937)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(391002052)日本ドライブイット株式会社 (15)