説明

コントロールケーブル用グリース組成物およびコントロールケーブル

【課題】シリコーン油を含まず、低温環境下におけるコントロールケーブルの摺動性の向上を可能とし、かつ高温環境下におけるコントロールケーブルの耐久性を良好とするコントロールケーブル用グリース組成物を提供すること。
【解決手段】グリース組成物は、60質量%以上80質量%以下の合成炭化水素油と、4質量%以上30質量%以下の増ちょう剤と、30質量%以下のポリテトラフルオロエチレン粉末とを含む。合成炭化水素油の流動点が−65℃以下であり、増ちょう剤の配合量とポリテトラフルオロエチレン粉末の配合量との合計が20質量%以上40質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コントロールケーブル用グリース組成物(以下では単に「グリース組成物」と記すことがある)およびコントロールケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
コントロールケーブルは、ユーザの手元での操作による力または動きをユーザの手元から遠く離れた場所へ伝達させるものであり、たとえば自動車部品の遠隔操作用部品として用いられている。このようなコントロールケーブルはインナーケーブルがアウターケーシングに摺動可能に挿通されて構成されており、インナーケーブルとアウターケーシングとの間に生じる摩擦がコントロールケーブルの耐久性、使用時の騒音、または荷重効率などの様々な特性に影響を与える。インナーケーブルとアウターケーシングとの間に生じる摩擦を低減するために、インナーケーブルまたはアウターケーシングの表面にグリースが塗布されている。グリースについては様々な研究が行なわれている。
【0003】
たとえば特許文献1には、シリコーン油を基油としたグリース組成物が記載されている。このグリース組成物は、固体潤滑剤として層状構造を持つ化合物粉末を2〜40質量%含有しており、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末を含有しないか、またはポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末を2.4質量%以下含有している。しかしながら、近年、シリコーン油に含まれる低分子シロキサンガス環境下でスイッチまたはリレーを使用すると接触障害が発生することが懸念されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−149771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コントロールケーブルには、低温環境下での摺動性の向上および高温環境下での耐久性の向上が要求されている。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、シリコーン油を含まず、低温環境下においてコントロールケーブルの摺動性の向上を可能とし、また高温環境下においてコントロールケーブルの耐久性の向上を可能とするコントロールケーブル用グリース組成物に関する。また、本発明は、低温環境下における摺動性に優れ、かつ高温環境下において良好な耐久性を有するコントロールケーブルに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るコントロールケーブル用グリース組成物は、インナーケーブルとインナーケーブルを内部に挿通可能で且つ内周面が樹脂製のライナーを有するアウターケーシングとを備えたコントロールケーブルにおいて、インナーケーブルの外周面およびライナーの内周面に塗布される。このようなグリース組成物は、流動点が−65℃以下であり、60質量%以上80質量%以下の合成炭化水素油と、4質量%以上30質量%以下の増ちょう剤と、30質量%以下のポリテトラフルオロエチレン粉末とを含む。増ちょう剤の配合量とポリテトラフルオロエチレン粉末の配合量との合計が20質量%以上40質量%以下である。
【0008】
本発明に係るコントロールケーブル用グリース組成物は、ちょう度が0号または1号であることが好ましい。本明細書において、「ちょう度が0号である」はJIS K 2220におけるNLGIちょう度番号で0号であることを意味し、「ちょう度が1号である」はJIS K 2220におけるNLGIちょう度番号で1号であることを意味する。
【0009】
本発明に係るコントロールケーブルは、本発明に係るコントロールケーブル用グリース組成物がインナーケーブルの外周面とライナーの内周面との間に塗布されてなる。
【0010】
ライナーの内周面がポリブチレンテレフタレート(PBT)からなるときには、コントロールケーブル用グリース組成物は3質量%以上30質量%以下のポリテトラフルオロエチレン粉末を含むことが好ましい。
【0011】
ライナーの内周面がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなるときには、コントロールケーブル用グリース組成物は0質量%以上23質量%以下のポリテトラフルオロエチレン粉末を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るコントロールケーブル用グリース組成物では、低温環境下においてコントロールケーブルの摺動性を向上させることができ、また高温環境下においてコントロールケーブルの耐久性をも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るコントロールケーブルの横断面図である。
【図2】本発明の別の一実施形態に係るコントロールケーブルの横断面図である。
【図3】摺動性および耐久性の評価に使用する装置の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るグリース組成物およびコントロールケーブルについて説明する。なお、本発明は、以下に示す事項に限定されない。
【0015】
<コントロールケーブルの構成>
図1は本発明に係るコントロールケーブルの一例を示す横断面図である。本発明に係るコントロールケーブル10は、図1に示すように、インナーケーブル20とインナーケーブル20を内部に挿通可能なアウターケーシング30とを備え、グリース組成物41がインナーケーブル20とアウターケーシング30との間に塗布されて構成されている。
【0016】
<インナーケーブル>
インナーケーブル20は、シャフト21と複数本(図1では9本)のストランド23とを有し、ストランド23がシャフト21の外周面上に配置されて所定の方向(たとえばS方向)に撚られて構成されている。各ストランド23は、ストランド芯線25と複数本(図1では6本)のストランド側線27とを有し、ストランド側線27がストランド芯線25の外周面上に配置されて所定の方向(たとえばZ方向)に撚られて構成されている。
【0017】
シャフト21は、その材料に限定されないが、適度な剛性を有しつつ靭性を有する材料からなることが好ましく、炭素鋼線材または炭素繊維であれば良い。また、シャフト21の外径の大きさは特に限定されず、シャフト21の外周面に対してストランド23を所定の方向に間隔を設けずに撚ることが可能となるようにシャフト21の外径の大きさを設定すれば良い。
【0018】
ストランド芯線25は、その材料に限定されないが、シャフト21と同じく適度な剛性を有しつつ靭性を有する材料からなれば良い。また、ストランド芯線25の外径の大きさは特に限定されず、ストランド芯線25の本数は図1に示す本数に限定されない。ストランド芯線25の外周面に対してストランド側線27を所定の方向に間隔を設けずに撚ることが可能となるように、また、ストランド芯線25とストランド側線27とからなるストランド23をシャフト21の外周面に対して所定の方向に間隔を設けずに撚ることが可能となるように、ストランド芯線25の外径の大きさおよびその本数を設定すれば良い。
【0019】
ストランド側線27は、その材料に限定されないが、シャフト21などと同じく適度な剛性を有しつつ靭性を有する材料からなれば良い。また、ストランド側線27の外径の大きさは特に限定されず、ストランド側線27の本数は図1に示す本数に限定されない。ストランド芯線25の外周面に対してストランド側線27を所定の方向に間隔を設けずに撚ることが可能となるように、ストランド側線27の外径の大きさおよびその本数を設定すれば良い。さらに、ストランド側線27の撚り方向は上記方向に限定されない。しかし、ストランド23の撚り方向とストランド側線27の撚り方向とが互いに逆向きであれば、ストランド23の撚り戻りおよびストランド側線27の撚り戻りを防止できる。
【0020】
なお、インナーケーブルの構成は図1に示す構成に限定されず、たとえば図2に示す構成であっても良い。図2は、本発明に係るコントロールケーブルの別の一例を示す横断面図である。
【0021】
図2に示すコントロールケーブル50が有するインナーケーブル60は、シャフト61およびストランド63だけでなくコート層69も有する。シャフト61の構成(材料、外径の大きさなど)については図1に示すシャフト21と略同一のことが言える。
【0022】
ストランド63では、複数本(図2では6本)のストランド芯線65がシャフト61の外周面上に配置されて所定の方向(たとえばZ方向)に撚られており、複数本(図2では6本)の第1のストランド側線67Aと複数本(図2では6本)の第2のストランド側線67Bとが周方向において交互となるようにストランド芯線65の外側に配置されて所定の方向(たとえばS方向)に撚られている。ストランド芯線65の構成(材料、外径の大きさなど)についてはストランド芯線25の構成と略同一のことが言え、第1のストランド側線67Aおよび第2のストランド側線67Bの構成(材料、外径の大きさなど)についてはストランド側線27の構成と略同一のことが言える。
【0023】
コート層69は、ストランド63を被覆している。コート層69は、その材料に限定されないが、シャフト61などと同じく適度な剛性を有する材料からなっても良いし、PA66などの樹脂からなっても良い。
【0024】
<アウターケーシング>
アウターケーシング30は、インナーケーブル20が挿通されるライナー31と、複数本(図1では20本)のシールド33と、コート層35とを有する。シールド33は、ライナー31の外周面上に配置されて所定の方向(たとえばZ方向)に撚られており、コート層35で覆われている。
【0025】
ライナー31はその材料に限定されないが、ライナー31の少なくとも内周面が樹脂からなることが好ましい。ライナー31の材料はコントロールケーブルの用途に応じて適宜選択されるが、ライナー31の耐久性にはPTFE樹脂またはPBT樹脂であることが好ましく、コントロールケーブルの荷重効率の向上をも図るためにはPTEF樹脂であることが好ましい。ライナー31により形成された中空部にはインナーケーブル20またはインナーケーブル60が挿通されるため、その中空部の直径の大きさはインナーケーブル20の外径またはインナーケーブル60の外径と略同一であっても良いし、インナーケーブル20の外径またはインナーケーブル60の外径よりも若干大きくても良い。ここで、インナーケーブル20の外径は、インナーケーブル20の径方向において最も外側に位置するストランド23の部位に接する仮想的な周面の直径を意味する。また、インナーケーブル60の外径は、コート層69の最外径を意味する。
【0026】
シールド33は、その材料に限定されないが、インナーケーブル20のシャフト21などと同じく適度な剛性を有しつつ靭性を有する材料からなれば良い。また、シールド33の外径の大きさは特に限定されず、シールド33の本数は図1に示す本数に限定されない。ライナー31の外周面に対してシールド33を所定の方向に間隔を設けずに撚ることが可能となるように、シールド33の外径の大きさおよびその本数を設定すれば良い。
【0027】
コート層35は、その材料に限定されないが、樹脂からなることが好ましく、PP樹脂またはポリエステルエラストマーなどからなれば良い。コート層35の厚みは特に限定されず、外部衝撃からシールド33などを保護可能な厚みであれば良い。
【0028】
以下グリース組成物41について示すが、コントロールケーブル10とコントロールケーブル50とを区別する必要がない場合には「コントロールケーブル10」と記し、インナーケーブル20とインナーケーブル60とを区別する必要がない場合には「インナーケーブル20」と記す。
【0029】
<グリース組成物>
本発明に係るグリース組成物41は、コントロールケーブル10ではインナーケーブル20の外周面およびアウターケーシング30のライナー31の内周面の少なくとも一方の面に塗布され、コントロールケーブル50ではインナーケーブル60の外周面およびアウターケーシング30のライナー31の内周面の少なくとも一方の面に塗布される。ここで、インナーケーブル20の外周面は、インナーケーブル20の径方向において最も外側に位置するストランド23の部位に接する仮想的な周面を意味する。また、インナーケーブル60の外周面は、コート層69の外周面を意味する。
【0030】
本発明に係るグリース組成物41は、60質量%以上80質量%以下の合成炭化水素油と、4質量%以上30質量%以下の増ちょう剤と、30質量%以下のPTFE粉末とを含む。合成炭化水素油の流動点が−65℃以下である。増ちょう剤の配合量とPTFE粉末の配合量との合計が20質量%以上40質量%以下である。このように本発明に係るグリース組成物41は基油としてシリコーン油を含んでいないため、上記の接触障害の発生を防止できる。それだけでなく、低温環境下におけるコントロールケーブル10の摺動性が向上し、さらには高温環境下におけるコントロールケーブル10の耐久性が向上する。
【0031】
また、本発明に係るグリース組成物41のちょう度は0号または1号であることが好ましい。これにより、インナーケーブル20の外周面またはアウターケーシング30のライナー31の内周面へのグリース組成物41の塗布作業性の向上を図ることができる。
【0032】
コントロールケーブル10の荷重効率を測定すれば、コントロールケーブル10の摺動性およびその耐久性が分かる。荷重効率とは、コントロールケーブル10を所定の形状に配索させたのち、コントロールケーブル10のインナーケーブル20の一端に試験荷重Wを与え、インナーケーブル20の他端を所定の速度且つ所定のストローク長で往復させて操作荷重F(引張力)を測定し、(荷重効率(%))=(試験荷重W)÷(操作荷重F)×100により算出される。コントロールケーブル10の荷重効率の初期値(インナーケーブル20の他端の往復回数が1回のときの荷重効率の値)が大きいほど、コントロールケーブル10は摺動性に優れていると言える。また、インナーケーブル20の他端を所定回数往復させた後の荷重効率が大きいほど、コントロールケーブル10は耐久性に優れていると言える。
【0033】
−合成炭化水素油−
合成炭化水素油は、グリース組成物41の基油として機能する。
【0034】
本発明における合成炭化水素油は、流動点が−65℃以下であり、流動点が−75℃以上−65℃以下であることが好ましく、流動点が−70℃以上−65℃以下であることがより好ましい。流動点が−65℃よりも高くなると、低温環境下で使用するときにグリース組成物の基油粘性が高くなるので、コントロールケーブル10の摺動性の低下を招く。なお、流動点は、たとえば、流動点試験器を用いてJIS K 2269(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準拠して測定される。
【0035】
流動点が−65℃以下である合成炭化水素油のうちグリース組成物用基油として用いることができるものとしては、たとえば、ポリαオレフィン、エチレンとαオレフィンとの重合体、またはポリブデンなどを挙げることができる。本発明では、これらを単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。
【0036】
合成炭化水素油の配合量は、60質量%以上80質量%以下である。合成炭化水素油の配合量が60質量%を下回ると、固体潤滑剤の固形分が多くなり、グリース組成物が固化し易くなる。一方、合成炭化水素油の配合量が80質量%を上回ると、固体潤滑剤の固形分が減り、グリース組成物の耐久性および潤滑性が低下し易くなる。
【0037】
なお、本発明に係るグリース組成物41は合成炭化水素油以外の基油を含有していても良いが、合成炭化水素油以外の基油の添加量を合成炭化水素油に対して5質量%以下に抑えることが好ましい。
【0038】
−増ちょう剤−
本発明における増ちょう剤の材料は、特に限定されず、現在グリース組成物に使用されている全ての増ちょう剤が挙げられる。本発明における増ちょう剤は、リチウム石けんまたはカルシウム石けんに代表される金属石けんであっても良いし、カルシウムコンプレックス石けん、リチウムコンプレックス石けん、またはアルミニウムコンプレックス石けんに代表されるコンプレックス石けんであっても良い。また、本発明における増ちょう剤は、ナトリウムテレフタレート、ウレア化合物、有機化ベントナイト、またはシリカであっても良い。これらを単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いても良いが、欠点が少ないことから汎用的に使用される増ちょう剤はリチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、またはウレア化合物である。なお、増ちょう剤は上記材料に限定されず、液状物質に粘ちょう効果を付与するものであれば使用できる。
【0039】
リチウム石けんとしては、たとえば、リチウム−12−ヒドロキシステアレートなどの水酸基を有する脂肪族カルボン酸リチウム塩、リチウム−ステアレートなどの脂肪族カルボン酸リチウム塩、またはそれらの混合物などが挙げられる。この中でも、グリース組成物の耐久性の観点から、リチウム−ステアレートを用いることが好ましい。
【0040】
増ちょう剤の配合量は、4質量%以上30質量%以下であり、好ましくは8質量%以上23質量%以下である。増ちょう剤の配合量が4質量%未満であれば、高温環境下におけるコントロールケーブル10の耐久性の低下を招く。一方、増ちょう剤の配合量が30質量%を超えると、グリース組成物の寿命が短くなる傾向にある。
【0041】
−PTFE粉末−
PTFE粉末は、グリース組成物、ゴム、塗料、インク、または潤滑剤などに一般的に使用されているものであり、本発明では、分子量が数千〜数10万であるものを用いることが好ましい。PTFEの凝集エネルギーは他の高分子化合物の凝集エネルギーよりも小さく、またPTFEの臨界界面張力は非常に小さい。そのため、PTFE粒子は、インナーケーブル20の摺動により発生するせん断応力によって微小薄片となるので、インナーケーブル20の外周面またはアウターケーシング30のライナー31の内周面に展着し易い。よって、PTFE粒子は、グリース組成物に対して優れた潤滑性を与えると考えられる。
【0042】
PTFE粉末の平均粒径については特に限定されないが、レーザー回折散乱法により測定されたPTFE粉末の体積平均粒径が0.1〜25μmであれば良く、0.5〜15μmであれば好ましく、1.0〜10μmであればさらに好ましい。PTFE粉末の体積平均粒径が0.1μm未満であっても、またPTFE粉末の体積平均粒径が25μmを超えても、インナーケーブル20の外周面またはアウターケーシング30のライナー31の内周面の耐摩耗性の低下を招くおそれがある。なお、PTFE粉末の平均粒径は、レーザー回折散乱法の他に動的光散乱法またはコールター法等の方法にしたがって測定することもできる。
【0043】
PTFE粉末の配合量は、30質量%以下である。PTFE粉末の配合量が30質量%を超えても、インナーケーブル20の外周面またはアウターケーシング30のライナー31の内周面の耐摩耗性の更なる向上を図ることは難しい。また、PTFE粉末の配合量は、アウターケーシング30のライナー31の内周面の材料に応じて決定することが好ましい。
【0044】
具体的には、アウターケーシング30のライナー31の少なくとも内周面がPTFE樹脂からなる場合、PTFE粉末の配合量が30質量%程度であれば、ライナー31の摩耗量の増加を招くおそれがある。そのため、この場合には、PTFE粉末の配合量は、0質量%以上23質量%以下であることが好ましく、7質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
一方、アウターケーシング30のライナー31の少なくとも内周面がPBT樹脂などのPTFE樹脂以外の材料からなる場合、PTFE粉末の配合量が3質量%未満であれば、グリース組成物の潤滑性の低下を招き、よって、コントロールケーブル10の摺動性の低下を招く。そのため、この場合には、PTFE粉末の配合量は、3質量%以上30質量%以下であることが好ましく、7質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
−増ちょう剤の配合量とPTFE粉末の配合量との合計−
増ちょう剤の配合量とPTFE粉末の配合量との合計は、20質量%以上40質量%以下である。好ましくは、PTFE粉末の配合量が10質量%以上15質量%以下であり、且つ増ちょう剤の配合量とPTFE粉末の配合量との合計が20質量%以上35質量%以下である。増ちょう剤の配合量とPTFE粉末の配合量との合計が20質量%未満となると、合成炭化水素油の配合量が多くなり過ぎるおそれがある。そのため、固体潤滑剤の固形分が減り、グリース組成物の耐久性および潤滑性が低下し易くなる。一方、増ちょう剤の配合量とPTFE粉末の配合量との合計が40質量%を超えると、合成炭化水素油の配合量が少なくなり過ぎるおそれがある。そのため、固体潤滑剤の固形分が多くなり、グリース組成物が固化し易くなる。
【0047】
増ちょう剤の配合量とPTFE粉末の配合量との比率は特に限定されないが、グリース組成物41のちょう度が0号または1号となるように設定されることが好ましい。さらに好ましくは増ちょう剤の配合量がPTFE粉末の配合量に対して0.5倍以上2倍以下であることであり、これにより、アウターケーシング30のライナー31の材料に限定されることなく低温環境下でのコントロールケーブル10の摺動性の向上および高温環境下でのコントロールケーブル10の耐久性の向上を図ることができる。なお、グリース組成物のちょう度が0号よりも低い場合には、グリース組成物を塗布した際にタレを生じやすい。一方、グリース組成物のちょう度が2号以上である場合には、グリース組成物が硬いので低温環境下で使用するときにコントロールケーブル10の摺動性の低下を招くことがある。
【0048】
−その他の添加剤−
本発明に係るグリース組成物41は、増粘剤、酸化防止剤、錆止め剤、金属腐食防止剤、油性剤、耐摩耗剤、極圧剤、粘度指数向上剤、金属系清浄剤、分散剤、または固体潤滑剤などの公知の添加剤をさらに含んでいても良い。
【0049】
増粘剤は、材料に限定されないが、スチレン系ブロック共重合体であることが好ましい。本発明に係るグリース組成物41が増粘剤を含んでいれば、インナーケーブル20の外周面上またはアウターケーシング30のライナー31の内周面上に展着されたPTFE粒子の剥離を防止できるので、グリース組成物41の潤滑性が向上する。
【0050】
酸化防止剤は、各種酸化防止剤であれば良く、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールなどのアルキルフェノール類であっても良いし、4,4’−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)などのビスフェノール類であっても良いし、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェノール)プロピオネートなどのフェノール系化合物であっても良いし、ナフチルアミン類またはジアルキルジフェニルアミン類などの芳香族アミン化合物であっても良い。
【0051】
錆止め剤は、各種錆止め剤であれば良く、ステアリン酸などのカルボン酸、ジカルボン酸、金属石鹸、カルボン酸アミン塩、重質スルホン酸の金属塩、または多価アルコールのカルボン酸部分エステルなどであれば良い。
【0052】
金属腐食防止剤は、ベンゾトリアゾールまたはベンゾイミダゾールなどの各種腐食防止剤であれば良い。
【0053】
油性剤は、各種油性剤であれば良く、ラウリルアミンなどのアミン類、ミリスチルアルコールなどの高級アルコール類、パルミチン酸などの高級脂肪酸類、ステアリン酸メチルなどの脂肪酸エステル類、またはオレイルアミドなどのアミド類であれば良い。
【0054】
耐摩耗剤は、亜鉛系、硫黄系、リン系、アミン系、またはエステル系などの各種耐摩耗剤であれば良い。
【0055】
極圧剤は、各種極圧剤であれば良く、硫化オレフィン、硫化油脂、メチルトリクロロステアレート、塩素化ナフタレン、ヨウ素化ベンジル、フルオロアルキルポリシロキサン、またはナフテン酸鉛などであれば良い。
【0056】
固体潤滑剤は、たとえば、黒鉛、フッ化黒鉛、メラミンシアヌレート、二硫化モリブデン、Mo−ジチオカーバメート、硫化アンチモン、またはアルカリ(土類)金属ほう酸塩などであればよい。
【0057】
−グリース組成物の塗布量−
インナーケーブル20の外周面の単位面積当たりのグリース組成物41の塗布量は、インナーケーブル20の径またはその構成に応じて適宜調整され、好ましくは30g/m2以上250g/m2以下であり、より好ましくは45g/m2以上175g/m2以下である。グリース組成物41の塗布量が30g/m2未満であれば、インナーケーブル20の外周面上またはアウターケーシング30のライナー31の内周面上における油膜形成が十分でなく、そのため、インナーケーブル20の外周面またはアウターケーシング30のライナー31の内周面の耐摩耗性が低下することがある。また、グリース切れを起こし潤滑性能を得られないおそれがある。一方、グリース組成物41の塗布量が250g/m2を超えると、インナーケーブル20とアウターケーシング30との摺動の妨げとなり、正常な潤滑性能が得られないおそれがある。
【0058】
−グリース組成物の製造方法−
本発明に係るグリース組成物41は、上記合成炭化水素油と上記増ちょう剤と上記PTFE粉末とをそれぞれ所定量混合し、必要に応じて上記その他の添加剤の少なくとも一種を添加することにより、製造される。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例を示す。なお、本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
<グリース組成物の作製>
以下に示す方法にしたがって実施例1〜9および比較例1〜5のグリース組成物を作製した。合成炭化水素油(基油)とステアリン酸(増ちょう剤の原料)とを反応釜に張り込み、ステアリン酸と水酸化リチウムとを反応させ、攪拌しながら200℃付近まで加熱した。得られた中間組成物を冷却してから、その組成物に各種の添加剤を混合し、3段ロールミルを使用してミーリング処理を行った。これにより、グリース組成物を得た。このときの配合量は表1または表2に示すとおりであった。
【0060】
<ちょう度の測定>
JIS K 2220に準拠して、得られたグリース組成物のちょう度を測定した。表1〜表2には、NLGIちょう度番号を記している。
【0061】
<コントロールケーブルの作製>
得られたグリース組成物を用いて、ライナー31がPBT樹脂からなるコントロールケーブル10を作製した。
【0062】
具体的には、コントロールケーブル10を構成するインナーケーブル20およびアウターケーシング30を用意した。インナーケーブル20は、シャフト21と9本のストランド23とからなり、ストランド23がシャフト21の外周面上に配置されてS方向に撚られて構成されていた。各ストランド23は、ストランド芯線25と6本のストランド側線27とからなり、ストランド側線27がストランド芯線25の外周面上に配置されてZ方向に撚られて構成されていた。なお、コントロールケーブル10の構成については、ストランド23のぞれぞれの代わりに、所定の方向に撚られた(単撚り)単一の線材を用いてもよい。
【0063】
シャフト21は、JIS G 3506のSWRH72Aで規定される炭素鋼線材にオイルテンパー処理が施された線材からなっていた。ストランド芯線25およびストランド側線27は、それぞれ、JIS G 3506のSWRH62Aで規定される炭素鋼線材に亜鉛メッキを施した後に伸線加工が施された線材からなっていた。
【0064】
インナーケーブル20の外径は2.92mmであり、シャフト21の外径は1.6mmであり、ストランド芯線25の外径は0.265mmであり、ストランド側線27の外径は0.24mmであった。
【0065】
また、アウターケーシング30は、インナーケーブル20が挿通されるライナー31と、20本のシールド33と、コート層35とで構成されていた。シールド33は、ライナー31の外周面上に配置されてZ方向に撚られており、コート層35で覆われていた。
【0066】
ライナー31は、PBT樹脂(東レ株式会社の製品名「トレコン」)からなり、シールド33は、JIS G 3506のSWRH62Aで規定される炭素鋼線材に亜鉛メッキが施された線材からなり、コート層35は、PP樹脂(三菱化学株式会社製の製品名「ゼラス」)からなっていた。
【0067】
アウターケーシング30の外径は8.2mmであり、ライナー31の内径は3.2mmであり、ライナー31の外径は4.5mmであり、シールド33の外径は0.8mmであった。
【0068】
そして、グリース組成物の塗布量が表1または表2に記載の値となるようにライナー31とインナーケーブル20の外周面との間に塗布し、インナーケーブル20をアウターケーシング30のライナー31に挿通した。このようにして、コントロールケーブル10が得られた。
【0069】
また、上記方法にしたがって、ライナー31がPTFE樹脂(日星電気株式会社の製品名「ハイフロン」)からなるコントロールケーブル10も作製した。
【0070】
<摺動性の評価>
得られたコントロールケーブル10の摺動性を評価した。図3は、摺動性の評価に使用する装置の概略平面図である。
【0071】
具体的には、曲げ半径R(図3参照)が150mmで総曲がり角度180度となるようにコントロールケーブル10を配索してから恒温槽91内に入れた。そののち、インナーケーブル20の一端にバネ95を接続して試験荷重Wを与え、インナーケーブル20の他端を押引力測定器93によって速度30cpm(cycle/min)、ストローク長30mmで往復させ、操作荷重F(引張力)を測定した。そして、(荷重効率(%))=(試験荷重W)÷(操作荷重F)×100により、荷重効率の初期値を算出した。この試験を、恒温槽91の温度を−40℃、20℃および120℃に設定して行なった。
【0072】
算出された荷重効率の初期値が基準となるコントロールケーブル(以下では「基準用コントロールケーブル」と記す)の荷重効率の初期値に対して±5%以下であった場合には表3〜表6の各表の「摺動性」に「A1」と記し、算出された荷重効率の初期値が基準用コントロールケーブルの荷重効率の初期値よりも5%〜10%程度小さかった場合には各表の「摺動性」に「B1」と記し、算出された荷重効率の初期値が基準用コントロールケーブルの荷重効率の初期値よりも10%以上小さかった場合には各表の「摺動性」に「C1」と記している。ここで、基準用コントロールケーブルはシリコーン油を基油とする公知のグリース組成物(株式会社ハイレックスコーポレーション製の「TSG−3256」)を用いて作製され、上記方法にしたがって基準用コントロールケーブルの荷重効率の初期値を算出した。
【0073】
<耐久性の評価>
得られたコントロールケーブル10の摺動性を評価した。具体的には、上記<摺動性の評価>に記載の方法にしたがってインナーケーブル20の他端を押引力測定器93によって100万回往復させた後、操作荷重Fを測定した。そして、(荷重効率(%))=(試験荷重W)÷(操作荷重F)×100により、100万回後の荷重効率値を算出した。
【0074】
算出された荷重効率値が基準用コントロールケーブルの100万回後の荷重効率値に対して±5%以下であった場合には表3〜表6の各表の「耐久性」に「A2」と記し、算出された荷重効率値が基準用コントロールケーブルの100万回後の荷重効率値よりも5%〜10%程度小さかった場合には各表の「耐久性」に「B2」と記し、算出された荷重効率値が基準用コントロールケーブルの100万回後の荷重効率値よりも10%以上小さかった場合には各表の「耐久性」に「C2」と記している。ここで、基準用コントロールケーブルは上記<摺動性の評価>で用いたものである。
【0075】
結果を表3〜表6に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
【表6】

【0082】
表1〜表2における注釈は以下の通りである
(1) 合成炭化水素油:40℃動粘度が18.0mm2/s
(2) 増ちょう剤:ステアリン酸(ケン化価が204.6mgKOH/g)と水酸化リチウム(純度が58.2%)と用いたもの
(3) PTFE粉末:平均粒径が3μm
(4) 流動点:流動点は、流動点試験器を用いてJIS K 2269(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準拠して測定した。
【0083】
<評価結果>
結果1〜8では、結果9〜12および結果14よりも、−40℃でのコントロールケーブルの摺動性に優れ、120℃でのコントロールケーブルの耐久性に優れた。このことから、合成炭化水素油の流動点が−65℃以下であることが好ましく、また増ちょう剤の配合量とPTFE粉末の配合量との合計が20質量%以上40質量%以下であることが好ましいと言える。このことは、結果15〜22と結果23〜27とからも言える。
【0084】
結果1〜8では、結果13よりも、−40℃でのコントロールケーブルの摺動性に優れ、120℃でのコントロールケーブルの耐久性に優れた。このことから、ライナー31がPBT樹脂からなる場合にはPTFE粉末の配合量が3質量%以上30質量%以下であることが好ましいと言える。
【0085】
結果15〜22では、結果28よりも、−40℃でのコントロールケーブルの摺動性に優れ、120℃でのコントロールケーブルの耐久性に優れた。このことから、ライナー31がPTFE樹脂からなる場合にはPTFE粉末の配合量が0質量%以上23質量%以下であることが好ましいと言える。
【0086】
比較例5のグリース組成物を用いてコントロールケーブル10を作製すると、−40℃でのコントロールケーブルの摺動性が低下した。このことから、グリース組成物のちょう度は0号または1号であることが好ましいと言える。
【0087】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0088】
10 コントロールケーブル、20 インナーケーブル、21 シャフト、23 ストランド、25 ストランド芯線、27 ストランド側線、30 アウターケーシング、31 ライナー、33 シールド、35 コート層、41 グリース組成物、50 コントロールケーブル、60 インナーケーブル、61 シャフト、63 ストランド、65 ストランド芯線、67A 第1のストランド側線、67B 第2のストランド側線、69 コート層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーケーブルと前記インナーケーブルを内部に挿通可能で且つ内周面が樹脂製のライナーを有するアウターケーシングとを備えたコントロールケーブルにおいて、前記インナーケーブルの外周面および前記ライナーの前記内周面に塗布されるコントロールケーブル用グリース組成物であって、
流動点が−65℃以下であり、60質量%以上80質量%以下の合成炭化水素油と、
4質量%以上30質量%以下の増ちょう剤と、
30質量%以下のポリテトラフルオロエチレン粉末とを含み、
前記増ちょう剤の配合量と前記ポリテトラフルオロエチレン粉末の配合量との合計が20質量%以上40質量%以下であるコントロールケーブル用グリース組成物。
【請求項2】
ちょう度が0号または1号である請求項1に記載のコントロールケーブル用グリース組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコントロールケーブル用グリース組成物が前記インナーケーブルの前記外周面と前記ライナーの前記内周面との間に塗布されてなるコントロールケーブル。
【請求項4】
前記ライナーの前記内周面は、ポリブチレンテレフタレートからなり、
前記コントロールケーブル用グリース組成物は、3質量%以上30質量%以下のポリテトラフルオロエチレン粉末を含む請求項3に記載のコントロールケーブル。
【請求項5】
前記ライナーの前記内周面は、ポリテトラフルオロエチレンからなり、
前記コントロールケーブル用グリース組成物は、0質量%以上23質量%以下のポリテトラフルオロエチレン粉末を含む請求項3に記載のコントロールケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−95825(P2013−95825A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238911(P2011−238911)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(390000996)株式会社ハイレックスコーポレーション (362)
【出願人】(390022275)株式会社ニッペコ (25)
【Fターム(参考)】