説明

コンドロイチン硫酸の新規な治療的使用

本発明は、哺乳類における皮膚疾患を伴う乾癬の治療または予防のための医薬品を調製するための、動物の軟骨の酵素加水分解由来のコンドロイチン硫酸アルカリ金属塩またはコンドロイチン硫酸アルカリ土類金属塩の使用に関する。そのコンドロイチン硫酸ナトリウムは、10,000〜20,000ダルトンの間の平均分子量を有していて、経口投与されるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚疾患を伴う乾癬の治療または予防のための、動物の軟骨の酵素加水分解に由来するコンドロイチン硫酸アルカリ金属塩またはコンドロイチン硫酸アルカリ土類金属塩の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚疾患を伴う乾癬には多くの臨床的多形がある(E.クリストファーズ(E.Christophers)、クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・ダーマトロジー(Clin.Exp.Dermatol.)、26(4)、314〜320(2001))。臨床的には、皮膚病変は、明瞭な縁を有する紅斑性斑の形態で現れ、厚く白みがかった鱗屑で覆われ、ロウ状の外観を有していて、広い面積にわたっていることが多い。その特徴は、表皮ケラチノサイトが増殖して、正常なケラチンの形成におけるそれらの細胞の成熟に欠けることである。白人がその生涯のいずれかの時期に罹患する割合が2%で、人種の違いによる差が大きい。ヨーロッパにおいては、その罹患率が、クロアチアでは1.5%、ノルウェーでは4.8%といった違いがある。この疾患の進行は予測困難で、患者のクオリティ・オブ・ライフへの影響が大きいことが報告されている(S.R.ラップ(S.R.Rapp)ら、ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ダーマトロジー(Br.J.Dermatol.)、145、610〜616(2001))。
【0003】
皮膚疾患を伴う乾癬の正確な原因は不明である。ある種の遺伝子的素因の上に、外在性要因がはたらいて、それがその疾患の出現または再出現をもたらすと考えられる。それらの例を挙げれば:外傷性障害;連鎖菌感染症;内分泌障害たとえば、思春期、閉経期、分娩後、エストロゲン性の治療;代謝性要因、たとえば低カルシウム血症または透析;心因性要因、たとえばストレス、アルコール依存症および薬物(全身性コルチコステロイド、アスピリン、ペニシリン、ニスタチン、非ステロイド性抗炎症薬すなわちNSAIDなど)がある。さらに、コルチコステロイドの中断が新しい乾癬の発症の原因となることもあり得る。
【0004】
皮膚疾患を伴う乾癬は、決定的な治療法の無い慢性疾患である。最近の医学的治療は、病変のタイプ、位置、および患者の年齢に応じて行っている(R.グニアデッキ(R.Gniadecki)ら、アクタ・ダーマト−ベネレオロジカ(Acta Derm.Venereol.)、82、401〜410(2002))。本発明者らは、以下のような治療的な可能性に焦点をあてていく。
【0005】
局所用のコルチコイドは、抗炎症性、抗増殖性、免疫抑制性および血管収縮性作用を有する。皮膚への二次的影響(secondary effect)としては、伸展裂創、皮膚萎縮症、斑状出血、口囲皮膚炎、酒さ、ざ瘡、アレルギー性接触皮膚炎、治癒の遅い創傷、多毛症、緑内障、毛包炎、汗疹および低色素症などが挙げられる。重篤な乾癬の場合には、全身性コルチコイドが許可されている。
【0006】
ジスラノール(アントラリン)は、乾癬の治療に有効であるが、それには2種類の欠点があるので、その使用には注意が必要である。その第一は、衣服および乾癬性病変の周囲の皮膚を紫色に着色してしまうことである。第二は、過剰に使用した場合に、健康な皮膚を刺激し、痛み、紅斑および小水疱の形成の原因となることである。
【0007】
コールタール製剤は、最近ではあまり用いられなくなった。その主な問題点は、それらには強い臭気があり、また極めて汚いことにある。
【0008】
カルシポトリオールはビタミンD同族体であるが(C.M.ポペスク(C.M.Popescu)ら、アーカイブス・オブ・ダーマトロジー(Arch.Dermatol.)、136(12)、1547〜1549(2000))、その他の外用製剤に比較して、使用が容易であり、また皮膚コラーゲンに影響しないといった利点を有している。それにも関わらず、カルシポトリオールは抗乾癬性を有してはいるのだが、病変部分を完全に白くすることはなく、患者によっては効果が無い。
【0009】
光線療法は、中程度の波長の紫外線(UVB)を用いて皮膚を照射することにより実施される。この治療法の欠点は、時間がかかることと、患者が特定のセンターに行く必要があることである。
【0010】
(局所性または全身性の)光化学療法(PUVA)は、光増感剤(8−MOP)を局所または全身に使用することからなり、それに続けて、皮膚にUVAを照射する。この治療法は効果があるが、著しく拡大した斑における乾癬や、局所治療の後直ぐに再発した乾癬には、控えるべきである。
【0011】
アシトレチンは、乾癬に特に効果を示すレチノイドである。二次的影響としては、口唇炎や乾皮症が挙げられ、またその長期にわたっての使用は、小児においては骨化過剰症および骨幹端閉塞、成人においては間膜カルシウム沈着の原因となりうる。高トリグリセリド血症も頻発する。
【0012】
メトトレキセートは、乾癬の治療には有効な医薬品である(B.クマール(B.Kumar)ら、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ダーマトロジー(Int.J.Dermatol.)、41(7)、444〜448(2002))。それにも関わらず、一部の患者では、投与後48時間の間に、嘔気や嗜眠感覚が現れる。主な二次的影響は、消化管潰瘍形成および骨髄抑制などである。さらに、この化合物は肝毒性があり、特に長期間の治療の後に、肝線維症を起こす可能性がある。
【0013】
シクロスポリンは、経験知識よりは、疾患の病因論の知識をベースとして乾癬に使用された最初の薬剤である(W.P.ガリバー(W.P.Gulliver)、キューティス(Cutis)、66(5)、365〜369(2000))。それは乾癬の治療には有効であるが、最も深刻な二次的影響としては、高血圧症および腎毒性などが挙げられ、この理由から、腎機能は特に注意深く観察しなければならない。
【0014】
グリコサミノグリカンは、高い分子量を有するポリマー性生体分子であり、元々は生物中で発見されたもので、それらは生体内では各種の生理的機能を果たしている。
【0015】
コンドロイチン硫酸はポリマー構造を有する硫酸化グリコサミノグリカンであって、N−アセチルガラクトサミンとグルクロン酸とから形成される、二糖類単位の繰り返しを有していることを特徴としている。N−アセチルガラクトサミン残基のほとんどが硫酸化されている。
【0016】
軟骨組織から得られるコンドロイチン硫酸は、2種の異性体の形で主として見出されて、それらは、N−アセチルガラクトサミン残基の中に存在する硫酸基の位置が異なっている。コンドロイチン4−硫酸(コンドロイチン硫酸A)は主として、二糖類単位の[−>4)−O−(β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1−>3)−O−(2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−ガラクトピラノシル−4−スルフェート)−(1−>]を含み、コンドロイチン6−硫酸(コンドロイチン硫酸C)は、二糖類単位の[−>4)−O−(β−D−グルコピラノシルウロン酸)−(1−>3)−O−(2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−ガラクトピラノシル−6−スルフェート)−(1−>]を含む。
【0017】
本発明の明細書においてコンドロイチン硫酸と言う場合、それは、コンドロイチン4−硫酸、コンドロイチン6−硫酸、繰り返し二糖類単位の一部が硫酸化されていないコンドロイチン硫酸、繰り返し二糖類単位の一部がポリ硫酸化されているコンドロイチン硫酸、繰り返し二糖類単位がポリ硫酸化されているコンドロイチン硫酸、およびそれらの混合物のことを指す。
【0018】
様々な疾病の治療、たとえば、心血管疾患の治療(M.モリソン(M.Morrison)ら、米国特許第3895106号明細書)のためにコンドロイチン硫酸を使用することは開示されているが、コンドロイチン硫酸が最も広く使用されているのは、軟骨の減少または損失を伴う関節機能不全を特徴とする骨関節炎(関節症)の治療である(M.G.ルケーン(M.G.Lequesne)、レフ・リューマティスム・イングリッシュ・エディション(Rev.Rhum.Eng.Ed.)61、69〜73(1994);P.モリアール(P.Morreale)ら、ジャーナル・オブ・リューマトロジー(J.Rheumatology)、23、1385〜1391(1996);およびG.フェルブリュッヘン(G.Verbruggen)ら、オステオアースライティス・カート(Osteoarthritis Cart)、6(サプリメントA)、37〜38(1998))。
【0019】
一般に治療に使用されているコンドロイチン硫酸は、ナトリウム塩の形態のものである。
【0020】
O.オルセン(O.Olsen)らの国際公開第01/83707号パンフレットには、in vitroで培養された軟骨細胞からの、抗血管形成薬、抗炎症薬、リキソジミック薬(lixozymic又はLysozomic)および/または抗コラーゲン分解薬および/またはコラーゲンおよび/またはコンドロイチン硫酸のフラクションを製造するための方法が開示されている。その特許出願では、in vitroで培養された軟骨細胞から得られるコンドロイチン硫酸を使用して乾癬を治療または予防するための方法が特許請求されているが、前記特許出願には、前記コンドロイチン硫酸の抽出法が開示されてなく、そのために、その特性や活性については何の記述もない。
【0021】
コンドロイチン硫酸の構造は、その動物の種、それが由来する組織、それを得るための方法によって、変化するということが知られている。
【0022】
異なったコンドロイチン硫酸の活性における差は、その調製方法および異なった出発物質の使用の両方が原因であろうということも知られている(M.モリソン(M.Morrison)ら、米国特許第3895106号明細書)。
【0023】
事実、O.オルセン(O.Olsen)らの国際公開第01/83707号パンフレットでは、その特許請求項が「プロダクト・バイ・プロセス」タイプ(その調製プロセスに従って定義され、特許請求されることが可能な新規なプロダクト)であることから、培養された軟骨細胞から得られたそのコンドロイチン硫酸が、新規なプロダクトだと考えている。
【0024】
現在にいたるまで、動物の軟骨の酵素加水分解由来のコンドロイチン硫酸の使用に関して、皮膚疾患を伴う乾癬の治療についての開示は無い。
【0025】
【非特許文献1】E.クリストファーズ(E.Christophers)、クリニカル・アンド・エクスペリメンタル・ダーマトロジー(Clin.Exp.Dermatol.)、26(4)、314〜320(2001)
【非特許文献2】S.R.ラップ(S.R.Rapp)ら、ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ダーマトロジー(Br.J.Dermatol.)、145、610〜616(2001)
【非特許文献3】R.グニアデッキ(R.Gniadecki)ら、アクタ・ダーマト−ベネレオロジカ(Acta Derm.Venereol.)、82、401〜410(2002)
【非特許文献4】C.M.ポペスク(C.M.Popescu)ら、アーカイブス・オブ・ダーマトロジー(Arch.Dermatol.)、136(12)、1547〜1549(2000)
【非特許文献5】B.クマール(B.Kumar)ら、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ダーマトロジー(Int.J.Dermatol.)、41(7)、444〜448(2002)
【非特許文献6】W.P.ガリバー(W.P.Gulliver)、キューティス(Cutis)、66(5)、365〜369(2000)
【非特許文献7】M.G.ルケーン(M.G.Lequesne)、レフ・リューマティスム・イングリッシュ・エディション(Rev.Rhum.Eng.Ed.)61、69〜73(1994)
【非特許文献8】;P.モリアール(P.Morreale)ら、ジャーナル・オブ・リューマトロジー(J.Rheumatology)、23、1385〜1391(1996)
【非特許文献9】G.フェルブリュッヘン(G.Verbruggen)ら、オステオアースライティス・カート(Osteoarthritis Cart)、6(サプリメントA)、37〜38(1998)
【特許文献1】米国特許第3895106号明細書
【特許文献2】国際公開第01/83707号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
このことから、本発明者らは、皮膚疾患を伴う乾癬の治療に有用で、現在の治療法における欠点や二次的影響の無い医薬品を提供することが、その療法における重要な問題点であると認識するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0027】
予想もしなかったことであるが、動物の軟骨の酵素加水分解由来のコンドロイチン硫酸が、皮膚疾患を伴う乾癬の治療に有用であることが観察された。したがって本発明は、哺乳類における皮膚疾患を伴う乾癬の治療または予防のための医薬品を調製するための、動物の軟骨の酵素加水分解由来のコンドロイチン硫酸アルカリ金属塩またはコンドロイチン硫酸アルカリ土類金属塩の使用に関する。
【0028】
好ましい実施態様においては、その動物の軟骨が、ウシ、ブタまたは軟骨魚類の軟骨である。
【0029】
より好ましい実施態様においては、そのコンドロイチン硫酸アルカリ金属塩が、コンドロイチン硫酸ナトリウムである。
【0030】
そのコンドロイチン硫酸ナトリウムが、10,000〜40,000ダルトンの間の平均分子量を有しているのがより好ましい。
【0031】
同様に、そのコンドロイチン硫酸ナトリウムが、10,000〜20,000ダルトンの間の平均分子量を有しているのがより好ましい。
【0032】
さらにより好ましい実施態様においては、10,000〜20,000ダルトンの間の平均分子量を有するそのコンドロイチン硫酸ナトリウムが、無水物を基準にして5%〜7%(重量/重量)の間の硫黄含量を有している。
【0033】
特に好ましい実施態様においては、200〜3,000mgのコンドロイチン硫酸ナトリウムを含む医薬品を、毎日経口投与として適用する。
【0034】
同様にして、特に好ましい実施態様においては、その医薬品を局所投与として適用する。
【0035】
コンドロイチン硫酸は、ウシやブタの家畜の気管や、サメの軟骨骨格のような、動物の軟骨組織から得ることができる。
【0036】
コンドロイチン硫酸ナトリウムは、文献において開示されている方法に従って調製することができる(A.D.ヌシモビッチ(A.D.Nusimovich)およびF.J.ヴィラ(F.J.Vila)、スペイン国特許第547769号明細書)。
【0037】
その他のアルカリ塩およびアルカリ土類塩は、コンドロイチン硫酸ナトリウムから、対応するカチオンのナトリウム交換プロセス、それに続けての通常の化学反応プロセスによって得ることができる。
【0038】
皮膚疾患を伴う乾癬の治療または予防に使用する場合、本発明のコンドロイチン硫酸アルカリ金属またはコンドロイチン硫酸アルカリ土類金属は、通常のテクニックおよび医薬品添加物を使用して、適切な医薬品組成物に配合するが、それについては、たとえばレミントンズ・ファーマシューティカル・サイエンス・ハンドブック(Remington’s Pharmaceutical Science Handbook)(マック・パブリッシング・カンパニー(Mack Pub.Co.)、米国ニューヨーク(N.Y.,USA))に記述がある。
【0039】
本発明の医薬品組成物は、必要な量を患者に投与することができる。その組成物は、異なった剤形で投与することが可能で、たとえば、経口、静脈内、腹腔内、関節内、皮下、筋肉内、外用、皮内または鼻孔内投与などの形態とすることができる。本発明の医薬品組成物には、動物の軟骨の酵素加水分解由来のコンドロイチン硫酸アルカリ金属塩またはコンドロイチン硫酸アルカリ土類金属塩の治療有効量が含まれるが、前記の量は、患者の身体的状況、年齢、性別、特定の化合物、投与形態、その他当業者周知の要因など、多くの要因に依存する。さらに、有効化合物の前記用量は、所望の治療効果が得られるよう、単回投与単位で、または多数回投与単位で投与してもよい。所望により、本発明により得られる薬剤と共に、他の治療剤を使用することもできる。
【0040】
本発明のコンドロイチン硫酸は、薬学的に許容されるキャリアの手段を用いて患者に投与するのが好ましい。前記キャリアは当業者には周知であって、一般には固形製剤または液体製剤の形態とする。本発明に従って調製することが可能な、固形の医薬品製剤としては、散剤、ミニ顆粒剤(ペレット)、錠剤、分散顆粒剤、カプセル剤、オブラートの薬包
(cachet:カシェ剤)、坐剤およびその他の固形ガレヌス剤の形態などが挙げられる。液体製剤としては、水剤、懸濁剤、乳剤、ミクロスフェアおよびナノ粒子などが挙げられる。さらに、使用直前に、経口、非経口または関節内投与のための液状の形態に転化させる固形製剤なども含まれる。前記液状の形態としては、水剤、懸濁剤および乳剤などが挙げられる。
【0041】
皮膚疾患を伴う乾癬の治療における他の治療剤の使用と比較して、本発明により得られる利点は、コンドロイチン硫酸は、消化器、肝臓および腎臓に有害な影響を与えず、二次的影響なしに数年間使用継続することが可能であるところにある。
【0042】
動物の軟骨の酵素加水分解由来のコンドロイチン硫酸を使用するまた別な利点は、動物の軟骨のような入手容易な原料を使用し、文献で充分に実証済みの方法に従うために、前記コンドロイチン硫酸の製剤が容易であるところにある。軟骨細胞のin vitro培養による、また別なコンドロイチン硫酸の調製は、少量のコンドロイチン硫酸を単離するためにも大量の軟骨細胞コロニーを使用する必要があるので、実施することが経済的に困難であろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下の実施例は、単に本発明を説明するためだけのものであって、本発明の範囲の限定を示しているものではない。
【0044】
実施例1:錠剤
錠剤は、以下のような通常の方法に従って調製した。
錠剤1錠あたりの配合量
コンドロイチン硫酸ナトリウム(13,000〜18,000ダルトン):
400.0mg
アビセル(Avicel)PH200: 292.0mg
エアロジル(Aerosil)200: 1.0mg
硫酸マグネシウム粉末: 7.0mg
【0045】
実施例2:コンドロイチン硫酸を用いて治療した乾癬性患者における試験
試験方法、試験の内容
この試験は、11名の乾癬患者に、800mg/日のコンドロイチン硫酸(実施例1の錠剤を2錠/日)を、2ヶ月間経口投与することにより実施した。治療の開始時および終了時に測定したパラメーターは下記のものである:
1−皮膚病変の臨床評価
2−皮膚生検の組織病理学的解析
【0046】
1−皮膚病変の臨床評価
乾癬患者の皮膚において生じている過程、およびコンドロイチン硫酸投与後に観察される効果は、基本的には下記のようになる:
A)乾癬患者においては、表皮細胞の数が増大するために、病変部の皮膚が厚くなる。外側の皮膚細胞(表皮)の更新が、通常では25〜30日であるのに対して、4日で起きる(7倍の速さ)ために、死んだ皮膚の層が蓄積し、それが鱗屑の形で剥がれる。
コンドロイチン硫酸の投与後では、生検を実施すると、過角化の抑制が認められた、すなわち、乾癬に特有の斑の原因となっているケラチノサイトまたは皮膚細胞の数が抑制されていた。病変部の角質剥離における一般的な改善が観察された。
B)乾癬を患っているそれらの患者においては、その皮膚細胞が成熟せず、適切に機能しないので、その病変のために湿分が失われる。
コンドロイチン硫酸の投与後では、病変部分の水分補給において劇的な改善が観察された。
C)乾癬を患っているそれらの患者の皮膚には、通常の皮膚に比較して、太く長い毛細血管が存在し、互いに絡まり合っていて、大量に血液が流れている。これが原因で、斑が赤く見える。その皮膚は炎症を起こし、免疫系細胞の数が増えている。
【0047】
コンドロイチン硫酸の投与後では、患者の内の数名で、病変部に起きていた発赤と灼熱感が抑制されたとの記録がある。
【0048】
2−組織学的、解剖病理学的検討
11名の乾癬患者の、コンドロイチン硫酸の治療前後における、22種の皮膚生検の、組織病理学的解析を実施した。
【0049】
評価したパラメーター:
定量的変数
表皮の全厚み、基底層から角質層の始まりまでの最大厚み、および角質層の最大厚みを測定した。増殖サイクルにある細胞の数もまた測定した。
【0050】
それぞれの患者の治療前後のデータを比較し、それぞれの変数に関して、治療実施後における厚みの増減のパーセントの値を求めた。
【0051】
半定量的変数
乾癬の活動の程度(degree of activity)は、その診断基準(表皮過形成または表皮肥厚、角化不全、好中性開口分泌および乳頭真皮の毛細血管の蛇行)に基づいて、判定した。4段階の等級(0,1、2および3)を決めて、治療前度における差を評価した。
【0052】
定性的変数
皮膚生検において、正常角化(orthokeratosis)(皮膚の正常な角化)または角化不全(parakeratosis)(皮膚の異常な角化)の存在を調べた。
【0053】
統計的解析
分散分析(ANOVA)により、得られたデータの統計的解析を行ったが、p値が0.05未満を示す差は有意であるとみなした。
【0054】
結果:
表皮の厚み
3種の変数(表皮の全厚み、基底層から角質層の始まりまでの最大厚み、および角質層の最大厚み)の検討において、患者の大半において、厚みの明らかな減少が観察され、その最大減少率は、それぞれ61、69および62%であった(表1、表2および表3参照)。平均の減少率は、角質層の厚みの場合(15%)よりも、表皮の全厚みの場合および基底層から角質層の始まりまでの最大厚みの場合(30%)の方が、大きかった。したがって、ケラチノサイトまたは表皮細胞の数が多いために起きていた、乾癬患者に見られる表皮の厚みの増大が、コンドロイチン硫酸を用いた治療により顕著に減少した(図1および図2参照)。
【表1】

【表2】

【表3】

【0055】
全表皮厚みの測定値の変動は、治療前(前)では300μm〜496μmの間であり、治療後(後)では156μm〜400μmの間であった(表1参照)。最大の基底層〜角質層の厚みの変動は、196μm〜400μmの間(前)と、104μm〜344μmの間(後)であった(表2参照)。角質層の最大厚みの変動は、32μm〜160μmの間(前)と、28μm〜160μmの間(後)であった(表3参照)。
【0056】
細胞増殖指数(cellular proliferation index)
表4に見られるように、この試験結果からは、コンドロイチン硫酸を用いた治療により、増殖サイクルにある細胞(ケラチノサイト)の数が減少し、平均値として28%の減少であることが判った。したがって、乾癬斑の特徴である、分裂しているケラチノサイトの大きな数が、コンドロイチン硫酸の投与によって減少した。
【表4】

【0057】
乾癬の活動の程度
表5に、乾癬の活動の程度において見出された差を具体的に記載しているが、これもまた非常に特徴的であった。
【表5】

【0058】
正常角化または角化不全の存在
治療の開始時点では、9名の患者が、広汎な角化不全(PK、皮膚の異常角化)を示し、2名の患者が、主として正常角化(OK、皮膚の正常角化)でPKの病巣領域を有していた。コンドロイチン硫酸を用いた治療の終了時には、最初にPKと判定されたそれら9名の患者中の6名が、病巣PKを有するが主としてOKであると認められた(表6参照)。
【表6】

【0059】
結論
コンドロイチン硫酸(800mg/日)を用いて2ヶ月の治療を行った11名の乾癬患者において、患者の100%において、皮膚病変の顕著な臨床的改善が認められた。生検の組織病理学的検討の結果では、患者の70%において、測定した各種パラメーターの改善が認められた。具体的には、表皮の厚みにおける減少が観察され、また、ケラチノサイトまたは皮膚細胞の細胞増殖指数も減少した。乾癬の活性の程度もまた低下したが、組織学的には、患者の内の残りの30%においても、コンドロイチン硫酸を用いた治療による悪化が無い、ということは強調に値する重要なことである。
【0060】
乾癬患者において観察されたコンドロイチン硫酸の前記効果は、患者自身の評価でも裏付けられていて、その評価は極めて肯定的で満足のいくものであった。
【0061】
したがって、乾癬の症状を有する患者において、コンドロイチン硫酸を800mg/日で経口投与することによって、前記疾患が原因の皮膚病変が顕著に改善され、しかも安全性の面では極めて優れていると、結論づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】コンドロイチン硫酸を用いた治療の前の乾癬患者における、皮膚生検の縦方向切り出し部分の代表的な画像である(治療前)。
【図2】コンドロイチン硫酸を用いて治療した後の、図1と同じ患者における、皮膚生検の縦方向切り出し部分に対応する図である(治療後)。ヘマトキシリン−エオシン染色から、コンドロイチン硫酸を用いた治療によって、表皮過形成および血管蛇行が抑制されていることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類における皮膚疾患を伴う乾癬の治療または予防のための医薬品を調製するための、動物の軟骨の酵素加水分解由来のコンドロイチン硫酸アルカリ金属塩またはコンドロイチン硫酸アルカリ土類金属塩の使用。
【請求項2】
前記動物の軟骨が、ウシ、ブタまたは軟骨魚類の軟骨である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記コンドロイチン硫酸アルカリ金属塩が、コンドロイチン硫酸ナトリウムである、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記コンドロイチン硫酸ナトリウムが、10,000〜40,000ダルトンの間の平均分子量を有している、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記コンドロイチン硫酸ナトリウムが、10,000〜20,000ダルトンの間の平均分子量を有している、請求項3に記載の使用。
【請求項6】
前記コンドロイチン硫酸ナトリウムが、無水物を基準にして、5%〜7%(重量/重量)の間の硫黄含量を有している、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記医薬品が、経口投与に適用される、請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
前記医薬品が、局所投与に適用される、請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項9】
前記経口投与が、コンドロイチン硫酸ナトリウムを1日あたり200〜3,000mgの間で含む、請求項7に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−501192(P2007−501192A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522261(P2006−522261)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007902
【国際公開番号】WO2005/014012
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(506041707)バイオイベリカ ソシエダッド アノニマ (6)
【Fターム(参考)】