説明

コンドロイチン硫酸カルシウム及びその製造方法

【課題】動物の軟骨を原料として得られるコンドロイチン硫酸ナトリウムを体内に吸収性のコンドロイチン硫酸カルシウムの形で得る簡便な方法を提供する。
【解決手段】動物軟骨を粉砕し、酸で処理したのち、酵素で処理し、得られた消化液を乾燥し粉末化することを特徴とする対イオンがカルシウムであるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体の製造方法、動物軟骨から得られる対イオンがナトリウムであるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体を酸性溶液下でカルシウム化合物と反応させイオン交換樹脂、イオン交換膜、透析膜および限外ろ過膜から選択される分離方法によって、遊離したナトリウムと余剰のカルシウムを除去し、得られた溶液を乾燥し粉末化することを特徴とする対イオンがカルシウムである精製されたコンドロイチン硫酸タンパク質複合体の製造方法、及び前記方法により得られた対イオンがカルシウムであるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物の軟骨を原料として得られるコンドロイチン硫酸カルシウムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンドロイチン硫酸およびムコ多糖タンパク質複合体は、主に鮫、鯨、鮭、エイ、牛、豚、鶏などの動物軟骨を酵素またはアルカリ処理によって消化し、その消化液を乾燥することによって製造されている。
しかしながら、これら従来の方法で得られるムコ多糖タンパク質複合体は、コンドロイチン硫酸の対イオンがナトリウムであるコンドロイチン硫酸ナトリウムが主成分である。そのためこれらのムコ多糖タンパク質複合体を利用した食品などを摂取した場合、本来意図しない過剰のナトリウムを摂取することとなっていた。
ナトリウムの過剰摂取は様々な疾病の原因となることが指摘されており、健康維持のためにも必要量以上のナトリウムの摂取は好ましくないので、食品として利用されるコンドロイチン硫酸はナトリウム塩でなく、疾病の原因とならないカルシウム塩が求められていた。
【0003】
しかしながら、コンドロイチン硫酸ナトリウムをコンドロイチン硫酸カルシウムに変える簡便な方法はこれまで開発されておらず、したがってこれまで産業上利用されていない。
【0004】
一般にカルシウムの摂取は骨を丈夫にして健康維持に役立つと考えられており大変重要であるが、厚生労働省による統計調査などで日本人の必要栄養素としては常にその不足が指摘されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、動物の軟骨を原料として得られるコンドロイチン硫酸ナトリウムをコンドロイチン硫酸カルシウムの形で得る簡便な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、動物軟骨のカルシウムを利用する方法、すなわち動物軟骨を粉砕し、酸で処理することによって軟骨中に一部存在する硬骨を溶解させ、生成したカルシウムイオンと軟骨中のコンドロイチン硫酸に結合していたナトリウムイオンを、交換させ遊離したナトリウムイオンと余分な酸を透析または洗浄によって除去し、得られた軟骨を酵素などで消化し、これをフィルタープレスなどでろ過し清澄化処理後、乾燥固化または乾燥粉末化させることによって目的とするコンドロイチン硫酸タンパク質複合体を得る方法を開発した。また、カルシウム源としてカルシウム化合物を利用する方法をも開発した。
本発明の方法によれば、特別な装置を必要とせず、さらにカルシウム源としての食品添加物なども必要とせずに、非常に簡便な方法で目的とする主成分がコンドロイチン硫酸カルシウムであるムコ多糖タンパク質複合体を製造することができる。
【0007】
すなわち、本発明は下記の1〜6の、対イオンがカルシウムであるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体の製造方法およびその方法で得られるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体に関する。
1.動物軟骨を粉砕し、酸処理したのち、酵素で処理し、得られた消化液を乾燥し粉末化することを特徴とする対イオンがカルシウムであるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体の製造方法。
2.動物軟骨から得られる対イオンがナトリウムであるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体を酸性溶液下でカルシウム化合物と反応させイオン交換樹脂、イオン交換膜、透析膜または限外ろ過膜等の物理的または化学的分離方法によって、遊離したナトリウムと余剰のカルシウムを除去し、得られた消化液を乾燥し粉末化することを特徴とする対イオンがカルシウムである精製されたコンドロイチン硫酸タンパク質複合体の製造方法。
3.動物軟骨が、鮫、鯨、鮭、エイ、牛、豚及び鶏軟骨から選択されるものである前記1または2に記載のコンドロイチン硫酸タンパク質複合体の製造方法。
4.前記1に記載の方法で得られる対イオンがカルシウムであるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体。
5.前記2に記載の方法で得られる対イオンがカルシウムである精製されたコンドロイチン硫酸タンパク質複合体。
6.前記4または5に記載のコンドロイチン硫酸タンパク質複合体を含んでなる食品、医薬品、医薬部外品または化粧品。
【発明の効果】
【0008】
本発明は原料の動物軟骨中に存在するコンドロイチン硫酸ナトリウムを固体のままでそのナトリウムを動物軟骨由来のカルシウムに交換する方法、または従来の方法で得られたコンドロイチン硫酸ナトリウムを水溶液中においてカルシウム化合物由来のカルシウムに交換する方法を提供したものであり、本発明によれば動物軟骨からきわめて簡便な方法で、主成分がコンドロイチン硫酸カルシウムであるムコ多糖タンパク質複合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第一方法において原料として使用される動物軟骨は、特に限定されないが鮫、鯨、鮭、エイ、牛、豚、鶏などの動物軟骨が挙げられる。これらの中でも好ましいのは、鮫、鮭、エイの軟骨である。
【0010】
原料となる動物軟骨を分離回収する方法は、特に限定されないが、軟骨が含まれる肉部分からあらかじめ内臓や硬骨を取り除き、加熱して肉を熱変成させた後、肉を排除して軟骨を分離回収する方法等が挙げられる。例えば特開2002-315499号公報に記載のように、加熱処理後の軟骨が含まれる肉部分を、貫通細孔を有する容器壁と容器壁に向かって水を噴射するノズルを備えた回転軸を有する回転ドラムを用いて、回転ドラムの回転力、肉同士あるいは肉と回転容器との摩擦力、及びノズルから噴射される水圧力により、肉を細片にして貫通細孔を通して容器外に排除し軟骨を容器内に残留させて回収することができる。
【0011】
動物軟骨は、有効に利用するためには細かく粉砕して使用する。
細かく粉砕した動物軟骨は酸性溶液に浸漬して放置し、その後洗浄または透析によって酸を除去する。使用する酸としては、酢酸(0.2〜5質量%、好ましくは約1質量%水溶液、希硫酸(0.05〜3質量%、好ましくは約0.2質量%),希塩酸(0.1〜5質量%、好ましくは約0.5質量%)、クエン酸(0.2〜5質量%、好ましくは約1質量%水溶液)が挙げられるが、中でも酢酸が好ましい。この酸処理は、例えば、軟骨の等倍量〜2倍量の酸性溶液中で5〜15℃の温度で撹拌下で18〜24時間浸漬して行うことが好ましい。
【0012】
酸の除去は洗浄または透析によって、軟骨のpHが6〜7になるまで行う。軟骨のpHは、軟骨をすり潰したものにpH試験紙当てること等によって測定する。洗浄及び透析の方法は特に制限されないが、例えば洗浄は、軟骨容量の2倍程度の容器中、5〜15℃の新鮮な水道水を常に下部から加えて上部からオーバーフローさせながら行う。透析は、例えば透析用セルロースチューブ(分画分子量約12,000〜14,000)に酸処理した軟骨を入れ、両端を結束して5〜10倍量の5〜15℃の水中に浸漬して適宜水を換えながら行う。多量の軟骨を処理する工業生産スケールの場合には作業が簡便である洗浄処理が好ましい。洗浄及び透析処理後の軟骨は、遠心分離機等を用いて脱水する。
【0013】
次に、酸処理を施した軟骨を酵素等を用いて消化させる。
本発明に使用する酵素は、食品添加物用酵素製剤として市販されているタンパク質分解酵素であればいずれも使用可能であるが、分解速度や処理条件の簡便性から中性プロテアーゼが好ましい。例えば、プロテアーゼ(天野エンザイム(株)製;プロテアーゼN「アマノ」G)が挙げられる。酵素による処理条件(酵素の使用量、時間、温度)は、使用する酵素の力価に適した条件を選択することができる。例えば、本発明において酵素としてプロテアーゼ(天野エンザイム(株)製;プロテアーゼN「アマノ」G)を使用した場合、酵素処理は、酸処理後の軟骨に0.1〜0.5質量%の酵素を添加し、50〜60℃で2〜4時間撹拌し、目視で軟骨が完全に消化するまで行う。
【0014】
酵素処理によって得られた軟骨消化液は、珪藻土等のろ過助剤を加えてフィルタープレス等によりろ過し、清澄化処理をしたろ液を得る。
得られたろ液を加熱蒸発、減圧乾燥、噴霧乾燥等の方法により、乾燥固化あるいは粉末化させることにより本発明目的物の対イオンがカルシウムであるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体を得ることができる。
【0015】
得られた対イオンがカルシウムであるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体は、例えば、特開2000-273102号公報記載の方法により、分画分子量30,000〜50,000程度の膜で限外ろ過を行うことによって、雑多な低分子やペプチドを除去でき、精製することができる。
【0016】
本発明によって得られる、対イオンがカルシウムであるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体のカルシウム源は、軟骨中に一部存在する硬骨由来のカルシウムであり、動物軟骨を粉砕し、酸処理を施すことによって硬骨が酸性溶液中に溶解したものである。粉砕した軟骨は、酸処理中のカルシウムイオンが存在する酸性溶液中において、イオン交換樹脂やイオン交換膜のような挙動を示し、軟骨中のコンドロイチン硫酸に結合しているナトリウムイオンを溶液中のカルシウムイオンと交換する。
【0017】
本発明の第二の方法によれば、従来の方法により得られるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体の対イオンの交換を簡便に行うことができる。
従来の方法により得られる対イオンがナトリウムである動物軟骨由来のコンドロイチン硫酸タンパク質複合体を、酸性溶液中でカルシウム化合物と反応させてイオン交換樹脂、イオン交換膜、透析膜または限外ろ過膜等の物理的または化学的分離方法によって、遊離したナトリウムと余剰のカルシウムを除去した後、乾燥粉末化することによって対イオンがカルシウムである精製されたコンドロイチン硫酸タンパク質複合体が得られる。
【0018】
本発明で従来の方法により得られるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体を原料として使用する場合においても、酸性溶液としては、軟骨を原料とする方法と同様のものが使用され、乾燥粉末化についても軟骨を原料とする方法と同様に行う。
本発明において使用されるカルシウム化合物としては、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム等が挙げられ、中でも酢酸カルシウムが好ましい。
【0019】
このようにして調製したコンドロイチン硫酸タンパク質複合体は、主成分であるコンドロイチン硫酸の対イオンが常法によって得られるナトリウムではなくカルシウムであることに特徴がある。
【0020】
本発明により得られる対イオンがカルシウムであるコンドロイチン硫酸およびこれを含むムコ多糖タンパク複合体は、例えば高齢者や病弱者、体力が衰えた者などに対してムコ多糖、タンパク質およびカルシウムの栄養補助剤としての機能を有し、また従来のコンドロイチン硫酸と同様に、抗炎症剤、保湿剤、関節潤滑剤、眼精疲労緩和剤、皮膚の代謝改善剤などきわめて多様な用途に活用可能である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0022】
実施例1:エイ軟骨由来コンドロイチン硫酸の製造
反応槽に軟骨粉砕物200kgと水200kgを入れ、これに90%酢酸8kgを入れ、撹拌した。このときの水温は8℃であった。24時間後、遠心分離によって液を除き、さらに水200kgを入れて2時間撹拌したのち遠心分離によって液を除いた。この操作を3回繰り返した。次に水を毎分1リットル程度の割合で注入しながら1晩放置した。翌朝、遠心分離によって水分を除き、さらに水200kgを入れて2時間撹拌したのち遠心分離によって水分を除いた。この操作を3回繰り返した。次に水を毎分1リットル程度の割合で注入しながら1晩放置した。この間、随時水分のpHを測定し、6〜7以下であれば次操作に移ってもよい。翌朝、遠心分離によって液を除き、斜軸ニーダー(200L容量)に酸処理した軟骨とプロテアーゼ(天野エンザイム(株)製;プロテアーゼN「アマノ」G)200g入れて、58℃で2時間撹拌した後、92℃に加熱し15分間撹拌して酵素失活処理を行った。これにろ過助剤として珪藻土#100(昭和化学工業(株)製)5kgを加えて、均質化後、フィルタープレスで加圧ろ過を行った。なお、使用した加圧ろ過装置は、薮田機械(株)製,FR66-4型,ろ過面積:2.8m2,ろ過容積:36Lである。次に、得られた抽出液を90℃に加熱し10分間加熱殺菌後、ディスク型スプレードライヤー((株)坂本技研製,DA220-10S)にて噴霧乾燥させコンドロイチン硫酸タンパク質複合体の白色粉末14.5kgを得た。噴霧乾燥条件は、微粒化方式:φ90mm回転ピン型ディスク、12,000rpm、入口熱風温度:185℃、出口排風温度:90℃、乾燥室内圧:0.1kpaで行った。
【0023】
製造したコンドロイチン硫酸タンパク質複合体のミネラル成分を(財)日本冷凍食品検査協会に依頼して実施して、表1の結果を得た。なお、表1中Lot.1は常法によって、Lot.2は本法によって製造したものである。
【表1】

【0024】
表1の結果より、本発明の方法によって得られたコンドロイチン硫酸タンパク質複合体は、コンドロイチン硫酸カルシウムを主成分とするものであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明のコンドロイチン硫酸およびこれを含むムコ多糖タンパク複合体は、例えば高齢者や病弱者、体力が衰えた者などに対してムコ多糖、タンパク質およびカルシウムの栄養補助剤としての機能を有し、また従来のコンドロイチン硫酸と同様に、抗炎症剤、保湿剤、関節潤滑剤、眼精疲労緩和剤、皮膚の代謝改善剤などきわめて多様な用途に活用可能なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物軟骨を粉砕し、酸で処理したのち、酵素で処理し、得られた消化液を乾燥し粉末化することを特徴とする対イオンがカルシウムであるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体の製造方法。
【請求項2】
動物軟骨から得られる対イオンがナトリウムであるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体を酸性溶液下でカルシウム化合物と反応させイオン交換樹脂、イオン交換膜、透析膜および限外ろ過膜から選択される分離方法によって、遊離したナトリウムと余剰のカルシウムを除去し、得られた消化液を乾燥し粉末化することを特徴とする対イオンがカルシウムである精製されたコンドロイチン硫酸タンパク質複合体の製造方法。
【請求項3】
動物軟骨が、鮫、鯨、鮭、エイ、牛、豚及び鶏軟骨から選択されるものである請求項1または2に記載のコンドロイチン硫酸タンパク質複合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法で得られる対イオンがカルシウムであるコンドロイチン硫酸タンパク質複合体。
【請求項5】
請求項2に記載の方法で得られる対イオンがカルシウムである精製されたコンドロイチン硫酸タンパク質複合体。
【請求項6】
請求項4または5に記載のコンドロイチン硫酸タンパク質複合体を含んでなる食品、医薬品、医薬部外品または化粧品。

【公開番号】特開2007−8854(P2007−8854A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−190959(P2005−190959)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(305032508)丸共バイオフーズ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】