説明

コンバイン

【課題】刈取穀稈のフィードチェンへの搬送姿勢を容易に補正可能としたコンバインに関する。
【解決手段】刈取刃により刈取った複数条分の穀稈を掻込機構により掻込み、刈取った穀稈を株元搬送チェンと縦搬送チェンとを具備する穀稈搬送機構によりフィードチェンまで搬送して受け渡すように構成した刈取部を有するコンバインにおいて、前記株元搬送チェンから前記縦搬送チェンへ至る株元搬送路の上方に穂先搬送路を形成し、この穂先搬送路を、上手側上部搬送タインと下手側上部搬送タインとの2分割の搬送タインにより構成すると共に、前記下手側上部搬送タインは、前記縦搬送チェンの穀稈株元搬送速度に対する速度比を変更可能に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈取穀稈の搬送姿勢を制御可能な刈取部を備えたコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のコンバインは、フィードチェン付きの脱穀部が搭載された走行機体と、この走行機体の前部に装着された刈取部とを備えた構成が一般的である。刈取部は、刈刃装置と、穀稈引起装置と、掻込機構と、穀稈搬送装置及び分草板を備えている。そして、分草板と穀稈引起装置で未刈穀稈を引起しながら掻込機構により複数条分掻込んで刈刃装置で切断し、この刈取った刈取穀稈のうちの刈取株元を穀稈搬送装置で搬送すると共に、フィードチェンに受け継ぎ、その後、脱穀部にて脱穀処理を行う。
【0003】
例えば4条の刈取りを行うタイプであれば、刈取部の穀稈搬送装置は、右2条分の刈取穀稈を左斜め後方に搬送する右下部搬送チェンと、左2条分の刈取穀稈を右斜め後方に搬送してその株元部を右下部搬送チェンの送り終端部近傍に合流させる左下部搬送チェンと、4条分の刈取穀稈の穂先部を寄せ集めながら左斜め後方に搬送する上部搬送タインと、右下部搬送チェンの送り終端部近傍にて合流した4条分の刈取穀稈の株元部をフィードチェンに向けて後ろ斜め上方に搬送する縦搬送装置としての縦搬送チェンと、縦搬送チェンとフィードチェンとの間で刈取穀稈の株元部の搬送を中継する補助搬送チェンとを備えている(特許文献1参照)。
【0004】
すなわち、2条分の刈取穀稈を合流した後にこれら刈取穀稈を搬送する機構は、刈取穀稈のうちの株元を搬送する縦搬送チェンと、穂先を搬送する上部搬送タインとからなり、それぞれ所定の速度で駆動回転することで所定の搬送姿勢の刈取穀稈をフィードチェンに受け渡すように作動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−17号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、倒伏稈がある場合には、倒伏稈を引起しタインで引起して、刈取部に引き渡して刈取るものであるが、倒伏稈に係合するタインが本来ならば順序よく引起し作用を果たすことになる。しかし、倒伏が大きく本来のタイミングではタインの引起し作動が空振りして、次の後続タインで引起しをすると、すでに刈刃で刈取られた穀稈の株元は、通常の株元搬送のタイミングでフィードチェーン方向に搬送されているため、穀稈の穂先側が株元側より遅れて搬送されていき、搬送姿勢は傾斜した状態となる。かかる株元側に対する穂先側の搬送遅れが生起すると、穂先切れを起し、粉塵発生を生起し、また、作動系に無用の負荷をかけて馬力を喰うなどの弊害を生じることとなる。従って、かかる弊害を解消すべく穂先側の搬送送りを是正する必要が生起することとなった。この発明では、上記課題を解決した刈取穀稈の搬送姿勢を制御可能な刈取部を備えたコンバインを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、刈取刃により刈取った複数条分の穀稈を掻込機構により掻込み、刈取った穀稈を株元搬送チェンと縦搬送チェンとを具備する穀稈搬送機構によりフィードチェンまで搬送して受け渡すように構成した刈取部を有するコンバインにおいて、前記株元搬送チェンから前記縦搬送チェンへ至る株元搬送路の上方に穂先搬送路を形成し、この穂先搬送路を、上手側上部搬送タインと下手側上部搬送タインとの2分割の搬送タインにより構成すると共に、前記下手側上部搬送タインは、前記縦搬送チェンの穀稈株元搬送速度に対する速度比を変更可能に構成した。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のコンバインにおいて、上手側と下手側の前記上部搬送タインは縦搬送チェンの略始端位置で分割したことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のコンバインにおいて、前記下手側上部搬送タインの搬送速度の変更構造は、当該下手側上部搬送タインの懸架スプロケットの軸芯と平行に配設した軸筒と、この軸筒の外周に、当該軸筒に断続自在となるべく軸方向に複数枚配設し、そのうちの一枚を入力ギヤと噛合した複数の中間ギヤと、前記軸筒中に進退自在に挿入した変速ロッドの進退動作により係止ボールを介して前記軸筒と前記複数の中間ギヤとの断続を行う変速機構と、前記懸架スプロケットの軸芯方向に複数枚連設して前記複数の中間ギヤにそれぞれ噛合した出力ギヤとより構成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、刈取穀稈の搬送姿勢をより柔軟に変更することが可能となる。したがって、常に良好な状態の刈取穀稈の搬送姿勢を維持してフィードチェンに受け渡すことが可能となり、フィードチェンを経て脱穀部へ供給する刈取穀稈の搬送姿勢を最適な状態に制御することができ、脱穀動作の負荷低減を図ることができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、複数条分の刈取穀稈(搬送藁)が合流した後の刈取穀稈の搬送姿勢のみを変えることが可能となり、刈取穀稈が一様に姿勢制御されることになるので藁同士が交差するような重合状態で搬送されることがない。
【0012】
請求項3の発明によれば、下手側上部搬送タインによる刈取穀稈の穂先側の搬送速度の変更構造を簡素化でき、刈取部にコンパクトに配設することが可能となると共に、速度変更動作も確実なものとすることができる。また、変速ロッドを、例えば運転部の座席の近傍位置に配置したレバーと連動連結させた場合、オペレータが座席に着座したまま容易に変速操作を行なうことができ、操作性も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係るコンバインの全体側面図である。
【図2】同コンバインの刈取部における穀稈搬送機構の平面視による模式的な説明図である。
【図3】刈取穀稈穂先側の搬送速度の変更構造の一例である変速ケースを示す説明図である。
【図4】同変速ケースの要部拡大図である。
【図5】同変速ケースの変速軸筒と中間ギヤとの連結構造を示す説明図である。
【図6】コンバインの動力伝達図である。
【図7】下手側上部搬送タインへの動力伝達機構構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳述する。
【0015】
[コンバインの全体構造の概略]
コンバインの全体構造について、図1を参照しながら簡単に説明する。なお、以下の説明で「左」・「右」というのは、コンバインの進行方向に対する位置や方向を示している。
【0016】
本実施形態におけるコンバインは4条刈り用としており、コンバインAは、左右一対の走行クローラ2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、圃場に植立した穀稈を刈り取りながら取り込む刈取部3が図示しないアクチュエータを介して昇降量調整自在に取り付けられている。
【0017】
走行機体1には、フィードチェン5を備えた脱穀部4と、脱穀後の穀粒を貯留するための穀粒タンク6とが、進行方向に対して左右横並びの状態で搭載されている。なお、本実施形態では、脱穀部4が走行機体1の進行方向左側に、穀粒タンク6が走行機体1の進行方向右側に配置されている。
【0018】
刈取部3と穀粒タンク6との間には、走行機体1の向き及び速度を変更操作するための操向ハンドル9や運転座席10等を有する運転部8が設けられている。
【0019】
また、運転部8には、図示しないが主変速レバーや副変速レバーや脱穀クラッチレバーや刈取クラッチレバー、さらには、後述する下手側上部搬送タイン55bの搬送速度を変更するための下手側上部搬送変速レバー(図示せず)などを、運転座席10の近傍位置に配設している。
【0020】
運転部8の下方には、動力源としてのエンジン11が配置されており、エンジン11の前方には、当該エンジン11からの動力を適宜変速して走行クローラ2に伝達するためのミッションケース12が配置されている。
【0021】
脱穀部4の扱室には、刈取穀稈を脱穀処理するための扱胴(図示せず)が内蔵されている。扱胴の下方には、いずれも図示しないが、扱網やチャフシーブ等による揺動選別を行う揺動選別機構と、唐箕ファンによる風選別を行う風選別機構とが配置されている。これら両選別機構による選別を経て、走行機体1の下部にある一番受け樋(図示せず)に集められた穀粒は、一番コンベヤ及び揚穀コンベヤ(共に図示せず)を介して穀粒タンク6に集積される。藁屑は、脱穀部4の後部に配置された吸引ファン(図示せず)に吸い込まれたのち、走行機体1の後部に形成された排出口から走行機体1の外部へ排出される。穀粒タンク6内の穀粒は、排出オーガ7を介して走行機体1の外部に搬出される。
【0022】
なお、フィードチェン5の後端から排稈チェン(図示せず)に受け継がれた排稈は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、若しくは排稈カッタ(図示せず)にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方に排出される。
【0023】
[刈取部の構造]
次に、主に図2を参照しながら、刈取部3の構造について説明する。なお、刈取部3は、その内部の各装置やエンジン11及びミッションケース12等のメンテナンスをし易くするために、機体フレーム20の前部左側に立設された鉛直支軸を中心にして水平開閉回動可能に構成されている。
【0024】
かかる刈取部3は、スターホイル51、掻き込みベルト52などからなる掻込機構50と、複数の刈取刃を備えたバリカン式の刈刃機構13と、4条分の穀稈引起機構14と、穀稈搬送機構15と、分草板16とを備えている。刈刃機構13は、刈取部3の骨組を構成する分草フレーム39の下方に配置されている。穀稈引起機構14は分草フレーム39の上方に配置されている。58は穀稈引起機構14の引起しタインである。
【0025】
穀稈搬送機構15は本実施形態の要部をなすものであり、詳しくは後述するが、穀稈引起機構14とフィードチェン5の前端部との間に配置されている。分草板16は穀稈引起機構14の下部前方に突設されている。刈取部3にて刈り取られた刈取穀稈は、フィードチェン5に受け継ぎ搬送され、脱穀部4にて脱穀処理されることになる。
【0026】
穀稈搬送機構15は、穀稈引起機構14とフィードチェン5の始端部との間に配置されており、刈刃機構13にて刈り取られた刈取穀稈をフィードチェン5に向けて挟持搬送することができる。
【0027】
かかる穀稈搬送機構15をはじめ、前記刈刃機構13や穀稈引起機構14には、エンジン11からミッションケース12を経由して動力が伝達される。すなわち、エンジン11に接続されたミッションケース12の動力伝達軸から、プーリ及びベルト伝動系を介して、刈取入力軸21に伝達され、この刈取入力軸21から各機構13〜15に動力伝達されるのである。
【0028】
図示するように、穀稈搬送機構15は株元搬送チェン53と縦搬送チェン56とを具備している。
【0029】
そして、刈刃機構13により刈取った4条分の刈取穀稈をスターホイル51及び掻き込みベルト52を備える掻込機構により掻込み、刈取穀稈の株元部を、株元搬送チェン53と縦搬送チェン56とを介してフィードチェン5まで搬送して受け渡すように構成されている。
【0030】
株元搬送チェン53は、右2条分の刈取穀稈を左斜め後方に搬送する右下部搬送チェン53Rと、左2条分の刈取穀稈を右斜め後方に搬送してその株元部を右下部搬送チェン53Rの送り終端部近傍に合流させる左下部搬送チェン53Lとから構成されている。
【0031】
そして、株元搬送チェン53の下手側に配設される縦搬送チェン56により、株元搬送チェン53の送り終端部近傍にて合流した4条分の刈取穀稈の株元部をフィードチェン5に向けて後ろ斜め上方に搬送することができる。
【0032】
また、株元搬送チェン53を構成する右下部搬送チェン53Rから縦搬送チェン56へ至る株元搬送路R1の上方に穂先搬送路R2を形成しており、かかる穂先搬送路R2に、4条分の刈取穀稈の穂先部を寄せ集めながら左斜め後方に搬送する上部搬送タイン55を配設し、さらに、縦搬送チェン56とフィードチェン5との間で刈取穀稈の株元寄りの中途部の搬送を中継する補助搬送チェン57を配設している。
【0033】
かかる構成により、縦搬送チェン56にて横倒しの姿勢で送られてきた4条分の刈取穀稈の株元部は、補助搬送チェン57及び図示しない挟持ガイド部材にて挟持搬送され、フィードチェン5の始端部に受け継がれる。そして、フィードチェン5に受け継ぎ搬送された刈取穀稈の穂先部が脱穀部4における扱室内の扱胴にて脱穀処理されることになる。
【0034】
本実施形態においては、上述した構成において、上部搬送タイン55を、上手側上部搬送タイン55aと下手側上部搬送タイン55bとの2分割の搬送タインにより構成し、しかも、下手側上部搬送タイン55bを、縦搬送チェン56の穀稈株元搬送速度に対する速度比を変更可能に構成している。
【0035】
かかる構成により、刈取穀稈の搬送姿勢をより柔軟に変更することができる。すなわち、刈取穀稈の搬送姿勢を常に良好な状態に維持しながらフィードチェン5に受け渡すことが可能となるため、フィードチェン5を経て脱穀部4へ供給する刈取穀稈の搬送姿勢を最適な状態に制御することができる。したがって、脱穀部4における脱穀動作の負荷が増大することを防止できる。なお、縦搬送チェン56の穀稈株元搬送速度に対する速度比を変更するための具体的構成は後に詳述する。
【0036】
また、上手側と下手側の上部搬送タイン、すなわち、上手側上部搬送タイン55aと、穀稈株元の搬送速度を可変とした下手側上部搬送タイン55bは、縦搬送チェン56の略始端位置で分割されている。
【0037】
かかる構成としたことにより、株元搬送チェン53により左右2条ずつ搬送される刈取穀稈は、4条分の刈取穀稈が合流した後の搬送姿勢のみを変えることが可能となり、一様に姿勢制御されることになるので藁同士が交差するような重合状態で搬送されるようなことがない。
【0038】
ところで、上部搬送タイン55(上手側上部搬送タイン55a及び下手側上部搬送タイン55b)と縦搬送チェン56と補助搬送チェン57とは、側面視で上から、上部搬送タイン55、補助搬送チェン57、縦搬送チェン56の順に並べて配置されている。更に詳述すると、補助搬送チェン57は、上部搬送タイン55の後端部と縦搬送チェン56の後端部とにより上下から挟まれている。補助搬送チェン57の送り終端部は、フィードチェン5との刈取穀稈の受け渡しをスムーズに行うために、フィードチェン5の始端部に近接させている。
【0039】
上手側上部搬送タイン55aへの動力伝達機構は、次の通りに構成される。すなわち、図6に示すように刈取縦軸22と上手側上部搬送タイン55aの終端スプロケット60との間をベベルギア61,63,65と連動軸62,64,66とを介し連動連結し、刈取縦軸22からの刈取動力を分岐させて終端スプロケット60に伝達し、上手側上部搬送タイン55aの駆動を行うように構成している。
【0040】
下手側上部搬送タイン55bへの動力伝達は、同じく刈取縦軸22から分岐させた動力を、後述する変速ケース100を介して伝達し、変速ケース100における変速機構によって下手側上部搬送タイン55bの速度を可変し上手側上部搬送タイン55aよりも早い速度で穂先部分を搬送できるようにしている。
【0041】
ここで、図3〜図5を参照しながら、縦搬送チェン56の穀稈株元搬送速度に対する速度比を変更するための具体的構成について説明する。図3に示すように、本実施形態では、刈取穀稈の穂先側の搬送速度を穀稈株元搬送速度に対して可変とする変速ケース100を設けている。すなわち、縦搬送チェン56の穀稈株元搬送速度に対する速度比を変更するために、下手側上部搬送タイン55bの懸架スプロケット90を駆動する駆動軸に対して、変速ケース100を介して動力を伝達するようにしている。
【0042】
[変速ケースについて]
変速ケース100は、図3に示すように、懸架スプロケット90やチェン92を収納して穂先搬送路Rに配設されるタインケース93に取付けられている。かかる変速ケース100は、前側ケース形成体101aと後側ケース形成体101bとを図示しない連結ボルトなどを介して接合したケース本体101内に、それぞれギヤ比が異なる変速ギヤ等を介して動力伝達可能としつつ回転力を可変とした変速機構を収納配設している。
【0043】
変速機構は、エンジン11側からの動力が入力される入力軸103と、下手側上部搬送タイン55bの懸架スプロケット90を先端に取り付けた駆動軸としての出力軸104と、懸架スプロケット90の回転速度を変化させるために、これら入力軸103と出力軸104との間に介設された筒状の変速軸である変速軸筒105とをそれぞれ平行に架設している。106は軸受けである。
【0044】
そして、変速ケース100内においては、入力軸103には入力ギヤ301を取付けると共に、出力軸104には第1〜第3出力ギヤ401〜403を取付けて、その間に配設した変速軸筒105に第1〜第3変速ギヤ501〜503を中間ギヤとして取付けている。なお、本実施形態では、第1出力ギヤ401、第2出力ギヤ402、第3出力ギヤ403の順に懸架スプロケット90を高速回転できるようにしている。
【0045】
中間ギヤは、変速軸筒105にキー接合した第1変速ギヤ501を入力ギヤ301に常時噛合させると共に、他の第2、第3変速ギヤ502,503をそれぞれ係脱自在に取り付けている。そして、第1〜第3変速ギヤ501〜503からなる中間ギヤは、出力軸104に設けた第1〜第3出力ギヤ401〜403とそれぞれ対応するように噛合している。
【0046】
入力軸103は軸受筒107とスプライン嵌合しており、この軸受筒107の外周面に入力ギヤ301をキー接合し、変速軸筒105にキー接合した第1変速ギヤ501と常時噛合しているため、入力ギヤ301及び第1変速ギヤ501を介して伝達される入力軸103の回転によって変速軸筒105は回転することになる。
【0047】
また、キー接合した第1変速ギヤ501を除く他の第2変速ギヤ502及び第3変速ギヤ503は、変速軸筒105に回転自在に遊嵌されるとともに、当該変速軸筒105に対し、係止ボール505及び変速ロッド600を介して係脱自在となる構成としている。
【0048】
ここで、図5は、図4におけるA−A断面に係る説明図であり、変速ケース100の変速軸筒105と中間ギヤとの連結構造を示している。図4及び図5に示すように、変速軸筒105には、係止ボール収容孔504を円周方向に等間隔を開けて4個形成し、かかる4個の係止ボール収容孔504,504,504,504を軸線方向にも所定間隔をあけてもう1組形成し、各係止ボール収容孔504中に係止ボール505を進退自在に収容している。そして、2組の係止ボール収容孔504,504が位置する外周面に、第2変速ギヤ502と第3変速ギヤ503とを回転自在に遊嵌している。
【0049】
そして、第2変速ギヤ502と第3変速ギヤ503との各内周面には、前記係止ボール収容孔504と対向する位置に湾曲凹状のキー係合用凹部506を形成している。
【0050】
しかも、変速軸筒105中には、図3〜図5に示すように、中途部にボール押出し部601が膨出形成された変速ロッド600を摺動自在に挿通しており、同ボール押出し部601により各係止ボール505を係止ボール収容孔504から外部へ押出すと共に、第2変速ギヤ502と第3変速ギヤ503とのいずれか一方のキー係合用凹部506に係合させることにより、係合したキー係合用凹部506の中間ギヤを、変速軸筒105と接続させて連動するようにしている。
【0051】
そして、これら第1・第2・第3変速ギヤ501,502,503は、出力軸104に設けた第1〜第3出力ギヤ401〜403とそれぞれ対応するように噛合している。
【0052】
出力軸104に設けた第1〜第3出力ギヤ401〜403のうち、第2、第3出力ギヤ402,403についてはキー接続しているが、第1出力ギヤ401についてはワンウェイクラッチ700を介して取付けられている。701はスペーサである。
【0053】
また、変速ロッド600の一端には、タインケース93に突設したブラケット108に中途が枢支連結された揺動レバー109の一端が連結ピン602を介して連結されている。604は揺動レバー109に形成され、前記連結ピン602が遊嵌される長孔である。
【0054】
揺動レバー109の他端には、運転部8に設けられた下手側上部搬送変速レバーに始端を連結したプッシュプルワイヤ603の終端が連結されている。
【0055】
こうして、運転部8に居るオペレータが刈取穀稈の搬送姿勢を見て、搬送姿勢が乱れていると判断したとき、かかる搬送姿勢の乱れは穂先の搬送速度と株元の搬送速度との速度比が異なることに起因することが多いため、オペレータは下手側上部搬送変速レバーを操作して変速ロッド600を進退させて第1・第2・第3変速ギヤ501,502,503のいずれかを選択することにより、エンジン11側から懸架スプロケット90へ伝達される回転を変速することが可能となっている。
【0056】
例えば、変速ロッド600のボール押出し部601が、図4の二点鎖線(イ)で示す位置にある場合、第2変速ギヤ502に対応する係止ボール505も第3変速ギヤ503に対応する係止ボール505もいずれも押し上げられることはないのでキー係合用凹部506とは係合しない。したがって、入力ギヤ301の回転は第1変速ギヤ501から第1出力ギヤ401へと伝達され、第1出力ギヤ401で規定される回転で懸架スプロケット90が回転し、下手側上部搬送タイン55bによる搬送速度が決定される。すなわち、エンジン11側からの動力は、エンジン11側→入力軸103→入力ギヤ301→第1変速ギヤ501→第1出力ギヤ401→出力軸104→懸架スプロケット90と伝達されるのである。
【0057】
他方、例えば変速ロッド600が図4の実線位置にある場合、ボール押出し部601は第2変速ギヤ502に対応する係止ボール505を押し上げてキー係合用凹部506に係合させている。
【0058】
したがって、エンジン11側→入力軸103→入力ギヤ301→第1変速ギヤ501→変速軸筒105と回転が伝達されると、この変速軸筒105の回転により、第1変速ギヤ501よりも大径でギヤ比の異なる第2変速ギヤ502を回転させることになる。この回転が第2出力ギヤ2に伝わり、第2出力ギヤ402で規定される回転で懸架スプロケット90が回転し、下手側上部搬送タイン55bによる搬送速度が変更されることになる。このとき、第1変速ギヤ501に噛合している第1出力ギヤ401も回転はするものの、この第1出力ギヤ401の回転速度は第2出力ギヤ402よりも遅く、しかもワンウェイクラッチ700を介して出力軸104に取り付けられているため、第1出力ギヤ401の回転は出力軸104に影響を与えない。
【0059】
また、変速ロッド600が図4の一点鎖線(ロ)で示す位置にある場合、ボール押出し部601は第3変速ギヤ503に対応する係止ボール505を押し上げてキー係合用凹部506に係合させる。
【0060】
したがって、この場合のエンジン11側からの動力は、エンジン11側→入力軸103→入力ギヤ301→第1変速ギヤ501→変速軸筒105→第3変速ギヤ503→第3出力ギヤ403→出力軸104→懸架スプロケット90と伝達され、第3出力ギヤ403で規定される回転で懸架スプロケット90が回転し、下手側上部搬送タイン55bによる搬送速度が変更されることになる。この場合も、第1変速ギヤ501に噛合している第1出力ギヤ401も回転はするが、この第1出力ギヤ401の回転速度は第3出力ギヤ403よりも遅く、前述したようにワンウェイクラッチ700を介して出力軸104に取り付けられているため、第1出力ギヤ401の回転が出力軸104に影響を与えることはない。
【0061】
このように、本実施形態によれば、未刈穀稈が倒伏した状態である場合に、倒伏穀稈を引起しタイン58で引起す際に、株元搬送チェン53による株元搬送タイミングに対して、倒伏穀稈の引起しタイミングが遅れてずれて、すなわち、引起しタイミングが遅れて刈取られた刈取穀稈が傾斜した状態でフィードチェン5方向の下手側に搬送されていく状態になった場合には変速ケース100内での変速操作、すなわち、加速操作により穀稈の傾斜の大きさに応じて傾いた搬送姿勢を可及的に正しい姿勢い補正し、乱れた搬送姿勢のままの刈取穀稈をフィードチェンに受け渡さなくても済み、後工程における脱穀部4での脱穀作業において、扱残し粒が増加したりする不具合を未然に防止することができる。しかも、左右から各2条分の刈取穀稈が合流した後の刈取穀稈の搬送姿勢のみを変えることが可能となり、刈取穀稈が一様に姿勢制御されることになるので穀稈同士が交差する重合状態で搬送されるようなことがない。
【0062】
また、本実施形態では、下手側上部搬送タイン内には、下手側上部搬送タイン55bの懸架スプロケット90の軸芯と平行に配設した変速軸筒105と、この変速軸筒105の外周に、当該変速軸筒105に断続自在となるべく軸方向に3枚配設し、そのうちの一枚を入力ギヤ301と噛合した第1・第2・第3変速ギヤ501,502,503(中間ギヤ)と、変速軸筒105中に進退自在に挿入した変速ロッド600の進退動作により係止ボール505を介して変速軸筒105と複数の中間ギヤ(第1・第2・第3変速ギヤ501,502,503)との断続を行う変速機構(変速ロッド600、係止ボール505、係止ボール収容孔504、及びキー係合用凹部506により構成される)と、懸架スプロケット90の軸芯方向に複数枚連設して前記複数の中間ギヤ(第1・第2・第3変速ギヤ501,502,503)にそれぞれ噛合した第1〜第3出力ギヤ401〜403とを収納する構成としている。
【0063】
そのため、下手側上部搬送タイン55bによる刈取穀稈の穂先側の搬送速度の変更構造を簡素化でき、変速ケース100は刈取部3にコンパクトに配設することが可能となると共に、速度変更動作も確実なものとすることができる。
【0064】
また、変速ロッド600は、運転部8の運転座席10の近傍位置に配置した下手側上部搬送変速レバーと連動連結させているため、刈取穀桿の搬送姿勢を視認したオペレータが運転座席10に着座したまま容易に変速操作を行なうことができるので、操作性も良好となる。
【0065】
上記のように、エンジン11側から変速ケース100の入力軸103に伝達された動力は、変速ケース100内のギヤ群を介して変速されて変速ケース100からの出力軸104に出力されて、下手側上部搬送タイン55bの駆動用の懸架スプロケット90に動力を伝達する。
【0066】
ここで、エンジン11から変速ケース100の入力軸103に至る連動機構について説明する。
【0067】
すなわち、図6及び図7に示すように、エンジン11からの出力は、刈取部3における刈取入力軸21に伝達され、刈取入力軸21中途部から斜め下方に傾斜して連結した刈取縦軸22に動力が伝達される。刈取縦軸22の中途からはベベルギヤ23噛合を介して分岐出力軸24が分岐されており、分岐出力軸24は連動ギヤ25を介して変速ケース100の入力軸103に連動連結している。図中、21aは刈取入力軸21に連動連結した刈取入力2軸であり、26は分岐出力軸24と連動ギヤ25とをケーシングした分岐ケースであり、分岐ケース26の一端部は、刈取部3の刈取縦軸22のケースに一体に取り付け、分岐ケース26の他端部は、変速ケース100の入力軸103側に一体的に取り付けられている。換言すれば、分岐ケース26は、刈取部3の刈取縦軸22のケース27と、変速ケース100との間に介設されていることになる。40は刈取縦軸22にベベルギアを介して連動連結した刈取横軸であり、41は刈取横軸40にベベルギアを介して連動連結した引起し軸、59は左上部搬送タインである。
【0068】
なお、本実施形態に係るコンバインは上述した構成としたが、コンバインの構成は図示のものに限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。特に変速ケース100については、下手側上部搬送タイン55bによる搬送速度の縦搬送チェン56の穀稈株元搬送速度に対する速度比を変更可能とするものであれば、如何なる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
A コンバイン
1 走行機体
2 走行クローラ
3 刈取部
4 脱穀部
5 フィードチェン
6 穀粒タンク
7 排出オーガ
8 運転部
9 操向ハンドル
50 掻込機構
51 スターホイル
52 ベルト
53 株元搬送チェン
55 上部搬送タイン
55a 上手側上部搬送タイン
55b 下手側上部搬送タイン
56 縦搬送チェン
57 補助搬送チェン
90 懸架スプロケット
91 駆動軸
92 チェン
93 タインケース
100 変速ケース
101 ケース本体
103 入力軸
104 出力軸
105 変速軸筒
301 入力ギヤ
401 第1出力ギヤ
402 第2出力ギヤ
403 第3出力ギヤ
501 第1変速ギヤ
502 第2変速ギヤ
503 第3変速ギヤ
504 係止ボール収容孔
505 係止ボール
506 キー係合用凹部
600 変速ロッド
601 ボール押出し部
602 連結ピン
603 プッシュプルワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取刃により刈取った複数条分の穀稈を掻込機構により掻込み、刈取った穀稈を株元搬送チェンと縦搬送チェンとを具備する穀稈搬送機構によりフィードチェンまで搬送して受け渡すように構成した刈取部を有するコンバインにおいて、
前記株元搬送チェンから前記縦搬送チェンへ至る株元搬送路の上方に穂先搬送路を形成し、
この穂先搬送路を、上手側上部搬送タインと下手側上部搬送タインとの2分割の搬送タインにより構成すると共に、前記下手側上部搬送タインは、前記縦搬送チェンの穀稈株元搬送速度に対する速度比を変更可能に構成したことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
上手側と下手側の前記上部搬送タインは縦搬送チェンの略始端位置で分割したことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前記下手側上部搬送タインの搬送速度の変更構造は、当該下手側上部搬送タインの懸架スプロケットの軸芯と平行に配設した軸筒と、この軸筒の外周に、当該軸筒に断続自在となるべく軸方向に複数枚配設し、そのうちの一枚を入力ギヤと噛合した複数の中間ギヤと、前記軸筒中に進退自在に挿入した変速ロッドの進退動作により係止ボールを介して前記軸筒と前記複数の中間ギヤとの断続を行う変速機構と、前記懸架スプロケットの軸芯方向に複数枚連設して前記複数の中間ギヤにそれぞれ噛合した出力ギヤとより構成してなることを特徴とする請求項1または2に記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−36167(P2011−36167A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185638(P2009−185638)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】