説明

コンピュータの入力装置および携帯式コンピュータ

【課題】タッチパッドに組み込まれた複数の擬似ボタンの位置を触覚で認識できる入力装置を提供する。
【解決手段】タッチパッド100の平坦部101には、機械式スイッチ125と協働してマウス・ボタンをエミュレートする擬似ボタン領域105〜113が定義されている、擬似ボタン領域105〜109は、ポインティング・スティックと組にして使用され、擬似ボタン領域111、113はタッチパッドと組にして使用される。タッチパッドの最もキーボードに近い領域には傾斜部103が形成されている。傾斜部103には擬似ボタン領域107に対応する位置に触覚で指の位置が認識できる突起151が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポインティング・デバイスの操作性を向上する技術に関し、さらに詳細にはポインティング・スティックとタッチパッドを備えるポインティング・デバイスの操作性を向上する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータには、入力装置としてキーボードの他にGUIを実現するためのポインティング・デバイスが搭載される。典型的なポインティング・デバイスとして左ボタン、ホイール、および右ボタンを備えるマウスが存在する。マウスはコンピュータから独立した本体を机上で移動させることでディスプレイに表示されたマウス・ポインタ(以下、単にポインタという。)を移動させることができる。
【0003】
マウスの左ボタンを1回または連続的に2回クリックすることでポインタが指示したオブジェクトを選択したり、オブジェクトに関連付けられたプログラムを実行したり、またはオブジェクトに関連付けられたファイルやフォルダを開くことができる。また、左ボタンを押してポインタがオブジェクトを選択している状態でポインタを移動させてから移動先で左ボタンを離すことで選択していたファイルを移動させたり文字を選択したりするドラッグ・アンド・ドロップという操作を行うことができる。
【0004】
マウスの右ボタンを1回クリックすることで、ポインタの位置に関連して用意されている操作可能なポップ・アップ・メニューを表示することができる。また、右ボタンを押してポインタが所定のオブジェクトを選択している状態でポインタを移動先まで移動させてから移動先で右ボタンを離すことで、移動先で当該オブジェクトに対して操作が可能なポップ・アップ・メニューを表示させることもできる。ホイールはマウス本体の左ボタンと右ボタンの間に配置され、画面をスクロールしたり拡大したりするために使用される。ポインティング・デバイスの取り付けスペースが制約されるノートブック型携帯式コンピュータ(以下、ノートPCという。)では、マウスの機能を実現するために特有のハードウェアを実装する。
【0005】
ある種のノートPCは、ポインティング・デバイスとしてポインティング・スティックと機械式ボタンの組を実装する。ポインティング・スティックはコンピュータ・メーカによってはトラックポイント(TrackPointは登録商標)、スティックポイント、またはトラックスティックなどと呼ばれている。ポインティング・スティックはキーボードのキーの間に配置され、力が加えられた方向にポインタを移動させる。
【0006】
ポインティング・スティックと組になって使用される機械式ボタンは、それぞれマウスの左ボタン、ホイール、および右ボタンに対応する左ボタン、中央ボタンおよび右ボタンで構成されてスペース・キーのすぐ手前側(ユーザ側)に配置される。中央ボタンは、ポインティング・スティックと同時に操作することで画面のスクロールまたは拡大表示をする。マウスの各ボタンまたはホイールに対応するようにノートPCに設ける機械式ボタンを以後マウス・ボタンという。
【0007】
別の種類のノートPCは、ポインティング・デバイスとしてタッチパッドと2つのマウス・ボタンの組を実装する。タッチパッドは表面をなぞる指の軌跡に応じてポインタを移動させ、2つのマウス・ボタンはタッチパッドの手前側に配置されマウスの左ボタンと右ボタンに対応した動作をする。ポインティング・スティックは、キーボードのホーム・ポジションから指を離さないで操作でき、タッチパッドは手書き入力やジェスチャ入力ができるといったように両者には特有の特徴があるため、最近のノートPCにはポインティング・スティックとタッチパッドの2つのポインティング・デバイスを搭載するものがある。
【0008】
特許文献1は、ポインティング・スティックとタッチパッドの2種類のポインティング・デバイスを搭載したノートPCについて開示している。ノートPCには、ポインティング・スティック、ポインティング・スティック用のマウス・ボタン、タッチパッド、およびタッチパッド用のマウス・ボタンが実装される。したがって、タッチパッドの面積は2種類のマウス・ボタンを配置するために制約を受けることになる。
【0009】
米国のSynaptics社では、特許文献4および非特許文献1に示すようにタッチパッドの中にマウス・ボタンの機能を埋め込んでボタン・レス・デザインを実現したクリック・パッド(登録商標)という商品名のタッチパッドを開発している。クリック・パッド(登録商標)では、1つの機械的なスイッチをタッチパッドの内部に組み込み、タッチパッドの表面にマウス・ボタンに対応する領域を定義する。そしてユーザがいずれかの定義された領域を押下したときにタッチセンサが検出した押下位置の座標と機械的なスイッチの動作信号の組み合わせでマウス・ボタンのクリック操作をエミュレートする。
【0010】
このようにマウス・ボタンのクリック操作をエミュレートするためにタッチパッドの表面に定義した領域を、以後擬似ボタン領域または単に擬似ボタンという。クリック・パッド(登録商標)は従来のマウス・ボタンを除去することでタッチセンサの領域を拡大しタッチパッドの操作性を向上できるという利点がある。特許文献2は、タッチパッドを操作する指の移動方向および移動距離を指の感触として認識し易くするために、タッチパッドの表面に略直角に交差する横方向および縦方向にライン状に所定間隔で複数の凹部または凸部を形成した発明を開示する。特許文献3は、使用者に操作感を与えるためにタッチパッドに設けたスクロール領域に沿って波形の制動部材を設けた発明を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−308166号公報
【特許文献2】特開2000−076005号公報
【特許文献3】特開2003−91361号公報
【特許文献4】国際公開2010−33894号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】米国Synaptics社、[平成23年6月20日検索]、インターネット(URL:http://www.synaptics.com/ja/solutions/products/clickpad)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近年のタッチパッドは、それまでタブレットPCや多機能携帯電話に搭載された静電容量式のタッチスクリーン上で行われていた2本の指を広げたり近づけたりするジェスチャ操作もサポートするようになってきたこともあって、できるだけ広い面積を要求するようになってきた。ポインティング・スティックとタッチパッドを実装するノートPCでは、これまでクリック・パッド(登録商標)を採用し、タッチパッド用のマウス・ボタンを擬似ボタンに置き換えてタッチセンサの面積を拡大することを行ってきた。そしてさらに擬似ボタンの数を増やして、ポインティング・スティック用のマウス・ボタンまで取り除いて一層タッチセンサの面積を拡大することが検討されている。
【0014】
このとき擬似ボタンの位置をユーザが正確に認識して誤操作を防止する工夫が必要となる。タッチパッド用の擬似ボタンは、2個しかないのでユーザが押下位置を誤ることは少ない。しかしポインティング・スティック用の擬似ボタンは3個必要なため、左右方向に並んだ擬似ボタンの位置を正確に判断して所望の擬似ボタンを押下することが難しくなる。タッチパッドの表面は、操作性の観点から平坦にする必要があるため擬似ボタンの位置に触覚で認識できる物理的な特徴を設けることはできない。
【0015】
1つの解決策として、擬似ボタン領域の表面にシボという小さな凹凸の模様を形成する方法がある。しかし、この方法では指を動かさないとシボの違いを認識できないため、認識の過程でポインタが意図しない動きをしたり認識に時間を費やしたりするという問題がある。シボを荒くした場合にはタッチパッドの表面を指がなめらかに滑ることができなくなるため、微細なジェスチャ入力をすることが困難になる。他の解決策として、擬似ボタン領域に着色をして視覚的に認識できるようにする方法もある。しかし、視覚的に認識する方法では、擬似ボタンを押下するたびにユーザの視線がディスプレイから離れてしまい、キーボードおよびポインティング・デバイスの円滑な操作ができなくなってポインティング・スティックの利点が損なわれてしまう。
【0016】
そこで、本発明の目的は、タッチパッドに組み込まれたマウス・ボタンに対応するスイッチの押下位置を触覚で認識できる入力装置を提供することにある。さらに本発明の目的は、タッチパッドに定義された複数の擬似ボタン領域の押下位置を触覚で認識できる入力装置を提供することにある。さらに本発明の目的は、ポインティング・デバイスがポインティング・スティックとタッチパッドを含む場合でもタッチパッドの面積を低下させない入力装置を提供することにある。さらに本発明の目的は、そのような入力装置に使用するポインティング・デバイスおよびそのような入力装置を組み込んだ携帯式コンピュータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明にかかるコンピュータの入力装置は、キーボード・ユニットとタッチパッドと触覚で指の位置の認識を可能にする特徴構造とを有する。タッチパッドは、平坦部と、平坦部における指の平面的な位置を検出するタッチセンサと、平坦部が押下されたときに動作する機械的なスイッチとを有する。タッチパッドは複数の押下位置のいずれかが押下されてスイッチが動作したときに押下位置に応じてマウス・ボタンの操作に対応するマウス信号を生成する。特徴構造はキーボードとタッチパッドの平坦部との間に配置される。
【0018】
このような構成を備えることで、ユーザは触覚で認識した特徴構造を基準にしてマウス・ボタンに対応する平坦部上の複数の押下位置を認識することができる。タッチパッドは、押下位置に対応させて複数の機械的なスイッチを内部に組み込んでもよいが、平坦部に複数の擬似ボタン領域を定義し、機械的なスイッチの動作信号と押下の際にタッチセンサが検出した座標から識別した擬似ボタン領域に基づいてマウス信号を生成することができる。
【0019】
入力装置がポインティング・スティックを有する場合には、入力装置は複数の擬似ボタン領域がポインティング・スティックと組にして使用するマウス・ボタンの左ボタン、中央ボタン、または右ボタンに対応する領域を含むようにすることができる。さらに入力装置は複数の擬似ボタン領域がタッチパッドと組にして使用するマウス・ボタンの左ボタンおよび右ボタンに対応する領域を含むようにすることができる。
【0020】
特徴構造は、中央ボタンに対応する擬似ボタン領域の近辺に配置することができる。中央ボタンに対応する擬似ボタン領域を認識できれば、その左側または右側に配置された擬似ボタン領域の位置も容易に認識できる。タッチパッドには、平坦部のキーボード側の端部に傾斜部を形成することができる。そして、特徴構造は傾斜部の表面または端部に配置することができる。傾斜部をタッチセンサが座標を検出しない非認識領域として構成すれば、特徴構造を触覚で認識するために傾斜部の表面を指でなぞったときにポインタが移動することを防ぐことができる。
【0021】
特徴構造は、キーボードとタッチパッドの間に配置されたパームレストに形成することもできる。タッチパッドは厚さが制限されるため、特徴構造はタッチパッドよりもパームレストに形成する方が容易である。特徴構造は、さらに凹部または凹部と突起の組み合わせ、または左右方向に長い棒状の突起として構成することもできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、タッチパッドに組み込まれたマウス・ボタンに対応するスイッチの押下位置を触覚で認識できる入力装置を提供することができた。さらに本発明により、タッチパッドに定義された複数の擬似ボタン領域の押下位置を触覚で認識できる入力装置を提供することができた。さらに本発明により、ポインティング・デバイスがポインティング・スティックとタッチパッドを含む場合でもタッチパッドの面積を低下させない入力装置を提供することができた。さらに本発明により、そのような入力装置に使用するポインティング・デバイスおよびそのような入力装置を組み込んだ携帯式コンピュータを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】擬似ボタン式タッチパッドを実装したノートPCの外形を示す斜視図である。
【図2】システム筐体13の平面図である。
【図3】タッチパッド100の構造を説明する平面図および断面図である。
【図4】タッチパッド100が実装されたノートPC10の部分的な断面図である。
【図5】傾斜部103の端部に切り欠き部155を設けた例を示す平面図である。
【図6】パームレストに突起を設ける他の方法を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本実施の形態にかかる擬似ボタン式タッチパッド(以下、タッチパッドという。)を実装したノートPCの外形を示す斜視図である。図2は、システム筐体13の平面図である。ノートPC10は、開閉可能なようにヒンジ結合されたディスプレイ筐体11とシステム筐体13を含む。ディスプレイ筐体11はディスプレイ15を収納する。システム筐体13は、内部にプロセッサ、メイン・メモリ、およびハードディスク・ドライブなどのシステム・デバイスを収納し、上面にはキーボード・ユニット19を搭載する。ハードディスク・ドライブは、ポインティング・スティック53およびタッチパッド100が生成したマウス信号を処理するデバイス・ドライバを格納する。
【0025】
キーボート・ユニット19は、スペース・キー51を含む複数のキーと、Gキー、HキーおよびBキーの間に配置されたポインティング・スティック53を含んでいる。ポインティング・スティック53は、X軸方向とY軸方向を検出する歪みセンサに力を加えたときの抵抗値の変化を信号に変換してシステムに送る。システムはポインティング・スティック53から受け取った信号に基づいてディスプレイ15にポインタを表示させたり移動させたりする。システムは、ディスプレイ15に表示されたポインタとオブジェクトの座標を認識し、ポインタが指示する位置で所定のマウス信号が生成されたときに指示されたオブジェクトとマウス信号に応じた処理をする。
【0026】
キーボード・ユニット19のキー配列およびキーの数などは本発明において特に限定しない。キーボード・ユニット19の手前側には、キーボードを操作する際に掌を載せるパームレスト17が設けられている。パームレスト17は全体が平坦に形成されているが、キーボード・ユニット19との間にはキーボード・ユニット側に下降する傾斜部17aを含む。傾斜部17aはキーボード・ユニット19の手前側に配置された最下列のキーを親指で押下する際に親指を立てなくても円滑に操作できるようにキー操作時の親指の運動範囲を確保する役割を果たす。
【0027】
スペース・キー51の手前側にはタッチパッド100が配置されている。タッチパッド100は、ホーム・ポジションに両手を置いてキーボードを操作している間にユーザの手が誤って触れて意図しないポインタの移動が行われないようにするために、キーボードのほぼ中央にあるスペース・キー51の手前に配置される。タッチパッド100の周囲はパームレスト17、17aで囲まれている。タッチパッド100は、ユーザがアクセスできる領域が平坦部101と傾斜部103で構成されている。平坦部101は、タッチセンサが指の接近または接触を検出する認識領域を構成し、傾斜部103は指の接近または接触を検出しない非認識領域を構成する。平坦部101の表面は、パームレスト17の平坦な表面とほぼ同一の平面上に存在する。傾斜部103の表面は、パームレストの傾斜部17aの平坦な表面とほぼ同一の平面上に存在する。
【0028】
図3(A)は、タッチパッド100の平面図で、図3(B)は、図3(A)のA−A矢視の断面図である。タッチパッド100はベース・プレート121に機械的な接点を備える1個の機械式スイッチ125が取り付けられている。ベース・プレート121の上には順番にリーフ・スプリング123、可動プレート127、静電容量式のタッチセンサ129が配置されそれらはプレート・ベゼル135で囲われている。本発明ではタッチセンサ129が指を検出する原理は静電容量式に限定する必要はなく、抵抗膜式または電磁誘導式であってもよい。
【0029】
プレート・ベゼル135の上にはカバー・プレート131が配置されており、カバー・プレート131の表面は平坦部101または傾斜部103を構成する。カバー・プレート131はABS樹脂で形成されている。平坦部101を指で押下するとタッチセンサ129および可動プレート127がリーフ・スプリング123の弾力に抗して沈下して機械式スイッチ125が動作して接点が閉じる。指を離すとリーフ・スプリング123の弾力でそれらは元の状態に復帰する。このとき、リーフ・スプリング123はユーザに従来のマウス・ボタンに類似したクリック感を与えることができる。プレート・ベゼル135は、このようなタッチパッド100に対するクリック操作に伴うタッチセンサ129と可動プレート127の運動を一定の範囲内で許容する。
【0030】
平坦部101の表面には、擬似ボタン領域105〜113が定義されている。擬似ボタン領域105〜113は、カバー・プレート131上でタッチセンサ129が指の接触または接近を認識する領域として座標が定義されており視覚では認識できない。擬似ボタン領域105〜113を含む平坦部101のいずれの場所を押下してもスイッチ125は動作する。擬似ボタン領域105〜113のいずれかの領域を指が押下するとデバイス・ドライバが押下された位置の座標を計算して押下のために指が接触した領域がいずれの擬似ボタン領域かを判断する。
【0031】
ポインタを移動させたりジェスチャ入力をしたりするために、平坦部101の表面を指で軽くなぞったときには、可動プレート127およびタッチセンサ129をリーフ・スプリング123が支持するため、機械式スイッチ125は動作しないが、少し強い力で平坦部101のいずれかの場所を押下するとスイッチ125の接点が閉じてデバイス・ドライバは押下位置とともにスイッチ信号が生成されたことも認識する。したがって、タッチパッド100は機械式スイッチ125の動作信号を検知したときに認識した擬似ボタン領域105〜113を特定することで、マウス・ボタンが押下されたときに出力するマウス信号と同様の信号をシステムに送ることができる。擬似ボタン領域105〜113は、機械式スイッチ125と協働してマウス・ボタンをエミュレートする点で、タッチパネル100に対するタップの回数によってマウス・ボタンの操作をエミュレートする手法とは異なる。
【0032】
擬似ボタン領域105〜109はポインティング・スティック53のポインタ移動機能と併用することを目的としており、それぞれ従来のノートPCに実装されていたマウス・ボタンの左ボタン、中央ボタン、右ボタンに対応する。ただし、ポインティング・スティック53を操作しながら、擬似ボタン領域111、113を押下してマウス・ボタンに相当する入力をできるようにすることは自由である。擬似ボタン領域105〜109は、ポインティング・スティック53を人指し指で操作しながら同じ手の親指で押下できる必要がある。
【0033】
したがって、擬似ボタン領域105〜109は、タッチパッド100の最も奥側(キーボード・ユニット側)に配置して、タッチパッド100をスペース・キー51から手前側の所定の距離に配置する必要がある。タッチパッド100がスペース・キー51に近すぎると、スペース・キー51を押下したときに親指がタッチパッドに当たって通常行うような親指を寝せた状態でのスペース・キー51の操作がし難くなる。また、擬似ボタン領域105〜109の位置がスペース・キー51から遠すぎると、ポインティング・スティック53と擬似ボタン領域105〜109を同時に同じ手の人指し指と親指で操作し難くなる。本実施の形態ではこのような要求を満たすために傾斜部103の斜面の長さを約3ミリ・メートルとし、傾斜部103と平坦部101の境界からスペース・キー51の手前側の端部までの長さを約12ミリ・メートルとしている。
【0034】
擬似ボタン領域111、113は、タッチパッド100のポインタ移動機能と併用することを目的にしており、それぞれ従来のノートPCに実装されていたマウス・ボタンの左ボタンおよび右ボタンに対応する。ただし、タッチパッド100を操作しながら、擬似ボタン領域105〜109を押下してマウス・ボタンに相当する入力をできるようにすることは自由である。擬似ボタン領域111は、擬似ボタン領域105〜109、113を除いた平坦部101としてもよく、また、擬似ボタン領域111と擬似ボタン領域113の面積の割合を変えて誤操作を少なくすることもできる。擬似ボタン領域111、113は、人指し指で平坦部101の表面を指でなぞってポインタを移動させながらクリック操作ができるようにタッチパッド100の最も手前側に配置している。
【0035】
傾斜部103の擬似ボタン領域107に対応する位置または擬似ボタン領域107に近い位置には、5個の半球状の突起151が等間隔で配置されている。突起151は、傾斜部103の平坦な面から指の触覚で識別して3個の擬似ボタン領域105〜109の位置を特定するための物理的な特徴構造の一例である。突起151は、カバー・プレート131と一体成形したり、別部材で製作して接着剤で貼り付けたりして傾斜面103の平坦な表面上に配置することができる。突起151は、スペース・キー51と平坦部101の間に配置されている。したがって、FキーおよびJキーのホーム・ポジションに両手の人指し指を置いた状態、または、人指し指でポインティング・スティック53を操作している状態で親指が突起151に自然に接触するため、ユーザはキーボードの通常の操作状態でその存在を常に認識することができる。
【0036】
よって、ユーザはキーボードの操作をしながらディスプレイ15から目を離さないでも自然に各擬似ボタン領域105〜109の位置を正確に認識して操作することができる。傾斜部103は、通常のキーボード操作の際に親指が触れることが多いので非認識領域であることが望ましいが、本発明は傾斜部103を認識領域にすることを排除するものではない。傾斜部103を非認識領域にする場合は、タッチパッド100の製作が容易になる。
【0037】
突起151の個数は5個に限定する必要はないが、複数設けた方が触覚で認識し易い。また、突起151を中央のマウス・ボタンに対応する擬似ボタン領域107とスペース・キー51の間に設けて親指の位置を認識すればそこを基準にして3つの擬似ボタン領域105〜109のいずれの位置も特定し易いが、突起151の左右方向(手前奥方向に直角な方向)の位置はそれに限定するものではない。たとえば、突起151を擬似ボタン領域105、109のそれぞれの位置の近辺に配置してもよい。
【0038】
突起151は、触覚で指の位置を識別するための特徴構造である。特徴構造の形状は傾斜部103における平坦な表面または特徴構造を配置した位置以外の領域から触覚で区別できる形状であれば突起に限定する必要はない。たとえば、傾斜部103の平坦な表面に窪みを設けたり、その窪みの中に突起を設けたり、さらに5個の突起151の相互間が連続する壁のような突起としてもよい。あるいは、認識領域である平坦部101には荒いシボを形成できなかったが、非認識領域である傾斜部103には荒いシボを形成することもできる。また、特徴構造は、直線的な輪郭を有する傾斜部103の端部に直線的な構造以外の構造として設けてもよい。さらに特徴構造は、スペース・キー51とタッチパッド100の間に配置されるパームレスト17aに形成してもよい。
【0039】
図4は、タッチパッド100が実装されたノートPC10の部分的な断面図である。図4(A)は、図3(A)に対応しており擬似ボタン領域105〜109を認識するための突起151が、カバー・プレート131の傾斜部103に形成されている例を示す。本実施の形態では、突起151の頂部が平坦部101を含む平面の下方に位置するように配置することで、突起151が平坦部101上での円滑な指の移動を妨げないようにしている。また、タッチパッド100の傾斜部103の表面とパームレストの傾斜部17aの表面はほぼ同一の表面上に形成されており、スペース・キー51からタッチパッド100に親指を円滑に移動できるようになっている。
【0040】
図4(B)は突起153がパームレスト17aの平坦な表面に形成されている例を示す。この場合も突起151の頂部は平坦部101を含む平面の下方に位置している。図5は、傾斜部103のキーボート・ユニット19側の端部104に切り欠き部155を設けた例を示す平面図である。この例における特徴構造の形状は、直線的な端部104から切り欠き部155の端部156を触覚で識別して親指の位置が認識できるものであれば、図5に示した例に限定されるものではない。切り欠き部155は、パームレスト17aのタッチパッド100側の端部に設けることもできる。
【0041】
図6は、パームレストに突起を設ける他の方法を示す断面図である。図6の断面図が図4の断面図と異なる点は、タッチパッド200にはタッチパッド100に設けていた傾斜部103がない点と、固定式のパームレスト17aに代えて可動式のパームレスト17bを設けて特徴構造としての突起161をパームレスト17bの傾斜面に形成した点である。パームレスト17bは、コイル・スプリング163で回動運動に対する弾性が付与され、先端部18の表面が平坦部18の表面とほぼ同一平面上に存在する位置で停止している。通常のキーボード操作のときにパームレスト17bの上に軽く親指を置いただけでは、コイル・スプリング163の弾性でパームレスト17bは回動しないためパームレスト17bの上に置いた親指の触覚で突起161を認識することができる。
【0042】
そして通常の操作方法として、親指を寝かせた状態で擬似ボタン領域105〜109を矢印Bの方向に押下したときに、同時にパームレスト17bの先端部18も矢印Cの方向に押下する。そのとき、先端部18がコイル・スプリング163の弾力に抗して下向きに沈むため、擬似ボタン領域105〜109の押下を容易に行うことができる。擬似ボタン領域105〜109から指が離れるとコイル・スプリング163の弾力でパームレスト17bの姿勢はもとに戻る。タッチパッド200は、傾斜部103を形成する必要がないのでタッチパッド100に比べて製作が容易になる。
【0043】
これまで、擬似ボタン式タッチパッド100を例にして本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、タッチパッドの表面ではマウス・ボタンに対応する押下位置を指の触覚で認識できないような他の形態のタッチパッドにも適用することができる。たとえば、5個のマウス・ボタンに対応させて5個のメンブレン・スイッチを内部に組み込んだようなタッチパッドに適用することもできる。そして、ポインティング・スティックと組にして使用するマウス・ボタンに対応するスイッチの押下位置を、押下位置の近辺に配置した特徴構造で特定できるように構成することができる。
【0044】
また、ポインティング・スティック53と組にして使用するマウス・ボタンに対応する擬似ボタン領域105〜109を認識する特徴構造を例にして説明したが、本発明はタッチパッド100と組にして使用するマウス・ボタンに対応する擬似ボタン領域111、113に適用することもできる。この場合は、タッチパッド100の手前側の端部に非認識領域となる傾斜部を設けて特徴構造を形成することができる。
【0045】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0046】
17…パームレスト
17a、17b…パームレストの傾斜部
19…キーボード・ユニット
51…スペース・キー
53…ポインティング・スティック
100…擬似ボタン式タッチパッド
101…平坦部
103…タッチパッドの傾斜部
105〜109…ポインティング・スティックと組にして使用する擬似ボタン領域
111、113…タッチパッドと組にして使用する擬似ボタン領域
125…スイッチ
129…タッチセンサ
151、153、161…突起
155…切り欠き部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータの入力装置であって、
キーボード・ユニットと、
平坦部と、該平坦部における指の平面的な位置を検出するタッチセンサと、前記平坦部が押下されたときに動作する機械的なスイッチとを有し、該スイッチが動作したときに前記平坦部の複数の押下位置に応じてそれぞれマウス・ボタンの操作に対応するマウス信号を生成するタッチパッドと、
前記キーボード・ユニットと前記平坦部との間に配置され触覚で指の位置の認識を可能にする特徴構造と
を有する入力装置。
【請求項2】
前記平坦部に複数の擬似ボタン領域が定義され、前記タッチパッドが前記スイッチの動作信号と前記タッチセンサが検出した座標から識別した前記擬似ボタン領域に基づいて前記マウス信号を生成する請求項1に記載の入力装置。
【請求項3】
前記入力装置がポインティング・スティックを有し、
前記複数の擬似ボタン領域が前記ポインティング・スティックと組にして使用するマウス・ボタンの左ボタン、中央ボタン、および右ボタンに対応する領域を含む請求項2に記載の入力装置。
【請求項4】
前記複数の擬似ボタン領域が前記タッチパッドと組にして使用するマウス・ボタンの左ボタンおよび右ボタンに対応する領域を含む請求項3に記載の入力装置。
【請求項5】
前記特徴構造が、前記中央ボタンに対応する前記擬似ボタン領域の近辺に配置されている請求項3または請求項4に記載の入力装置。
【請求項6】
前記タッチパッドが前記平坦部の前記キーボード・ユニット側の端部に形成された傾斜部を有し、前記特徴構造が前記傾斜部の表面に配置されている請求項1から請求項5のいずれかに記載の入力装置。
【請求項7】
前記タッチパッドが前記平坦部の前記キーボード・ユニット側の端部に形成された傾斜部を有し、前記特徴構造が前記傾斜部の端部に配置されている請求項1から請求項5のいずれかに記載の入力装置。
【請求項8】
前記傾斜部が、前記タッチセンサが指の座標を検出しない非認識領域である請求項6または請求項7に記載の入力装置。
【請求項9】
前記特徴構造が、前記キーボード・ユニットと前記タッチパッドの間に配置されたパームレストに配置されている請求項1から請求項5のいずれかに記載の入力装置。
【請求項10】
複数のキーを含むキーボード・ユニットと、
前記複数のキーの間に配置されたポインティング・スティックと、
前記ポインティング・スティックと組にして使用する複数のマウス・ボタンに対応する複数の擬似ボタン領域が定義された平坦部と、いずれかの前記擬似ボタン領域が押下されたときに動作するスイッチを含むタッチパッドと、
前記タッチパッドの周辺に配置されたパームレストと、
触覚で指の位置を認識するために何れかの前記擬似ボタン領域の近辺に配置された特徴構造と
を有する携帯式コンピュータ。
【請求項11】
前記複数の擬似ボタン領域が、前記マウス・ボタンの左ボタン、中央ボタン、および右ボタンにそれぞれ対応し、前記特徴構造が前記中央ボタンに対応する前記擬似ボタン領域の近辺に配置されている請求項10に記載の携帯式コンピュータ。
【請求項12】
前記タッチパッドにさらに前記タッチパッドと組にして使用する複数のマウス・ボタンに対応する複数の擬似ボタン領域が定義されている請求項11に記載の携帯式コンピュータ。
【請求項13】
前記特徴構造が前記平坦部から前記キーボード・ユニットに向かって下降する傾斜面に形成されている請求項10から請求項12のいずれかに記載の携帯式コンピュータ。
【請求項14】
前記傾斜面が前記タッチパッドの端部に形成されている請求項13に記載の携帯式コンピュータ。
【請求項15】
前記傾斜面が前記パームレストに形成されている請求項13に記載の携帯式コンピュータ。
【請求項16】
携帯式コンピュータのポインティング・デバイスであって、
マウス・ポインタを移動させるために操作するポインティング・スティックと、
前記ポインティング・スティックと組にして使用する複数のマウス・ボタン機能が組み込まれ表面に各マウス・ボタン機能に対応する押下位置が定義されたたタッチパッドと、
触覚で指の位置を認識して所定の前記押下位置を決定するために前記タッチパッドの認識領域の外に配置された特徴構造と
を有するポインティング・デバイス。
【請求項17】
前記マウス・ボタン機能が、前記タッチパッドの認識領域に定義された複数の擬似ボタン領域といずれかの前記擬似ボタン領域が押下されたときに動作する機械式スイッチで構成されている請求項16に記載のポインティング・デバイス。
【請求項18】
前記複数の擬似ボタン領域が前記ポインティング・スティックを操作して前記マウス・ポインタを移動しながら使用する3個のマウス・ボタンに対応する領域を含む請求項17に記載のポインティング・デバイス。
【請求項19】
前記複数の擬似ボタン領域が前記タッチパッドを操作して前記マウス・ポインタを移動しながら使用する2個のマウス・ボタンに対応する領域を含む請求項18に記載のポインティング・デバイス。
【請求項20】
前記特徴構造が、前記ポインティング・スティックと前記タッチパッドの間に配置されている請求項16から請求項19のいずれかに記載のポインティング・デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−25422(P2013−25422A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157255(P2011−157255)
【出願日】平成23年7月16日(2011.7.16)
【出願人】(505205731)レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド (292)
【復代理人】
【識別番号】100106699
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 弘道
【復代理人】
【識別番号】100077584
【弁理士】
【氏名又は名称】守谷 一雄
【Fターム(参考)】